気まぐれCINEMAレビュー BackNumber
2006年
【ア行】
過去の「気まぐれCINEMAレビュー」をまとめました。満足度は★で、がっかり度は×で評価しました。
五十音順にタイトルが並んでいます。
データベースとしてご活用下さい。
【過去の年間BEST3】 BackNumber CINE LATINO (2007年〜2010年) 中南米映画(日本未公開作品含む) 2007年〜 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 1999〜2005年 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 |
リチャード・エアー監督、ジュディ・デンチ、ケイト・ブランシェット、ビル・ナイ リチャード・ハート出演☆☆この映画、若い生徒と教師のスキャンダルを赤裸々に描いたラブ・サスペンス、ではありません。ハイミス女の情念を執拗に描いた心理ドラマです。
ジュディ・デンチが、期待を上回る迫真の演技!ケイトも頑張ってはいますが、役柄的に、ピュアな女性の役なので、あくまで脇。
女と女の映画ではありますが、男性陣にもオススメです。これが女のホントの姿…。
☆イギリスの公立中学に金髪の美術教師シーバが赴任した。退職間近の老教師バーバラは、奔放で危ういシーバを観察し、日記に記していく。
生徒の喧嘩を止められずにいたシーバをバーバラが助けたことから、二人は急接近。シーバはバーバラを家に招待する。
そして、ある日、バーバラは、シーバが生徒と密会している現場を目撃してしまう。
厳格な教育者として長年一人で生きてきた孤独な女と、開放的で人を疑うことを知らず、誰かにいつも助けられて生きてきた美しい女が接近する…。二人の関係には「バーバラがレズだから」と、一言では片付けられない、必然的な出会いを感じた。
鉄の鎧をまとった孤独な女バーバラは、自分とは正反対の女性に、嫌悪感と魅力を感じ、彼女と仲良くなりたい、と思う反面、彼女の人生をめちゃくちゃにしてやりたい、という衝動も抱く。つまり、魅力的だが許せない存在でもあるのだ。
彼女が“自分だけ”に秘密を打ち明けてくれたときには、「私だけのものになった」と、日記につづり、高揚感に浸る。ところが、彼女が、いざというときに自分より家族を選んだことにより、「私だけのもの」ではなかったことを思い知らされる。
そして、彼女を慕う気持ちの裏に隠された嫌悪感が、バーバラの頭を支配するようになるのだ。
友人にも、シーハのような女性が何人かいるが、自分はどちらかというとバーバラに近いタイプなので、ついバーバラに感情移入してしまった。
(あそこまで過激ではありませんが^^;)
開放的な女性には、自分以外にも親しい友人が大勢いる。そう頭では理解していても、感情的には「旅行にも一緒に行った仲だし、きっと私は特別な存在のはず」と、思い込んでしまいがちだ。
だから、大勢集まるパーティーなどで、友人が、壁の花の私を放ってどこかへ消えてしまったりすると、なんだか裏切られた気になり、彼女の奔放さを攻撃したくなってしまう。
おそらく、こういった小さな気持ちの揺れは、誰にでも経験があるだろうし、人間関係において避けては通れない永遠のテーマでもある。
裏切られた、と感情的になった後、冷静になれず、さらには相手に対する執着が度を過ぎると、バーバラのような行動に走ったり、ストーカーになっていくのだろう。
友人や同僚に対して、小さな不満を抱いたとき、今はまだ、「よくあること」「相手にとっては自分だけが特別な存在ではないのだ」と、頭を冷やして考えられるが、これから先はわからない。
激高してバーバラのような行動に走る自分の姿を想像して、少し恐ろしくなった。
人間は孤独感をどう克服すべきなのか。とても難しい問題ではあるが、バーバラのような老人はこれから増えていくのかもしれないなあ。2007.6
ARMIN (2007年・クロアチアほか)
Ognjen Svilicic監督、Emir Hadzihafisbegovic, Armin Omerovic-Muhedin出演☆ザグレブで行われるドイツ映画の子役オーディションを受けに来た父イブロと息子のアルミンは、バスの故障で出遅れたことをきっかけに、ホテルに缶詰めにされてしまう。
オーディションを前に緊張する息子と、親ばかの父。
決して裕福ではない親子が、子供の才能にかけ、なけなしの貯金をはたいて都会に出てくるという設定は「北京バイオリン」に似ているが、違うのはお国の事情。
トラウマを抱えた息子が、オーディションを受けたことで、少しだけ大人になっていくホノボノとしたラストが、とてもいい。ラストの父と息子のツーショットに、なんともいえない哀愁を感じた。東欧らしいとぼけた笑いも顕在。お父ちゃん役の役者、どこかで見たことあるような…。2007.10.20 サンパウロ国際映画祭07にて
愛より強く HEAD-ON
ファティ・アキン監督、ビロル・ユーネル、シベル・ケキリ、カトリン・シュトリーベック出演☆ハンブルクに住むトルコ移民ジャイトは、妻を失って自暴自棄になり、車で壁に激突。一方、リストカットを繰り返していた若い娘シベルは、病院で見かけたジャイトに接近。「トルコ系だったら親が許すから」という理由だけで偽装結婚を持ちかける。
家族の束縛から解放され、自由気ままに人生を楽しむシベル。そんな彼女の明るさにひかれていくジャイト。お互いの気持ちが通じ合いかけた矢先、ある悲劇が起こる。
人の相性の良し悪しは、言葉では説明できないものだ。お似合いの二人に見えてもさっぱりかみ合わないカップルもいれば、誰が見ても不釣合いの二人が絶妙のコンビだったりする。
たとえ添い遂げられなくても、ウソ偽りなく、心の底から愛せる相手を見つけられた人は幸せだ。そういう意味で、ジャイトとシベルの人生も決して不幸とは思えない。
「オアシス」や「うつせみ」を見たときにも感じた、究極の愛の尊さを、この映画でも感じることができた。
シベルを演じた女優はこれがデビュー作ということ。あのピュアな雰囲気は素人っぽくも見えたが、ストーリーが進むにつれてどんどん魅力的になっていくのが、手に取るようにわかった。次回作にも期待したい。2007.2
愛と復讐の挽歌 英雄好漢 TRAGIC HERO
テイラー・ウォン監督、チョウ・ユンファ、アレックス・マン、アンディ・ラウ出演☆香港マフィアの血で血を洗う攻防を、壮絶なドンパチシーンの連続でスタイリッシュに描いた犯罪映画。ユンファがノリにのっていた頃の作品。周りが霞むほどのオーラあり。「男たちの挽歌」シリーズよりも、家族が容赦なく殺されていくので、全体的にトーンが暗い。いい意味で能天気な香港映画らしさが感じられる「男たちの挽歌」のほうが私は好きかも。2007.5
明日へのチケット TICKETS
エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチ監督、カルロ・デッレ・ピアーネ、シルヴァーナ・ドゥ・サンティス、マーティン・コムストン、ウィリアム・ルアン出演☆舞台はローマへと向かう列車。食堂車で一目ぼれした秘書に恋文を書いていた老教授は、狭い通路に座る子供連れの家族を気にかける。
一方、将軍の未亡人に付き添っていた兵役義務の青年は、彼女のワガママに翻弄され…。そして、セルティック・ファンの3人組は、移民の少年にサンドイッチを分けてやるが…。
ローマへと向かう列車の中で出会う人々の悲喜こもごもを軽いタッチでつづったオムニバス・ストーリー。さすが社会派の3監督。軽い中にも、移民家族の苦悩を絡め、最後にはさわやかな人間愛が描かれていた。
セルティック・ファンの単細胞3人組のキャラがいい。お人よしの青年ではあるが、切符がないとわかると、移民家族をすぐに疑うあたりが、現実をよく現している。一番、激しく疑っていた青年役のマーティン・コムストン、いい味出してます。2007.2
参考CINEMA:「スウィート・シックスティーン」「麦の穂をゆらす風」
あるいは裏切りという名の犬 36 QUAI DES ORFEVRES
オリヴィエ・マルシャル監督、ダニエル・オートゥイユ、ジェラール・ドパルデュー、アンドレ・デュソリエ、ヴァレリア・ゴリノ出演☆現金輸送車強奪事件の捜査をまかされたレオは、仮釈放中のタレコミ屋から犯人のアジトの情報を得る代わりに、復讐の片棒を担がされる。犯人のアジトで包囲作戦の指揮をとるレオ。だが、妻のかつての恋人で宿敵のドニが、命令を無視して犯人に発砲したことで、親友を失ってしまう。
フランス2大俳優が共演ということで仰々しい大作なのかと思いきや、意外にこじんまりした小洒落たノワール映画だった。レオとドニの過去をあまり詳しく説明せず、二人には因縁があることだけを匂わせていたのがフレンチ映画らしい。
毎度のことだが、悪役好きの私は当然ドニ贔屓。ドニは、かつての友人を踏み台にして、出世街道をまい進するのだが、どこか人生投げてるところもあり、誰かが終止符を打ってくれるのを待っている感じがしてならなかった。
ただ、二人の人生の結末が「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」とだぶってしまったのは私だけ?アメリカでデニーロがリメークするというウワサもあるけど、デニーロはおそらくレオ役だろうし、そうなるとヌードルスとますますかぶるー、と余計な心配しております。2007.2
愛の神、エロス EROS
ウォン・カーウァイ、スティーヴン・ソダーバーグ、ミケランジェロ・アントニオーニ監督、コン・リー、チャン・チェン、アラン・アーキン、ロバート・ダウニー・Jr出演☆エロスの描き方も人さまざま。見えない見せないエロスをカーウァイ監督が表現すれば、アントニオーニは男女の獣のような戯れでエロスを見せる。どちらもかなり刺激的だったが、やっぱり自分は恥じらいのある東洋的エロスにゾクゾクきた。チャン・チェンの頭の薄さが気になって仕方なかった。禿げてもかっこいいけどね。2006.8
参考CINEMA:「欲望の翼」「花様年華」「2046」「オーシャンズ11,12」「トラフィック」
「エリン・ブロコビッチ」
愛の落日 THE QUIET AMERICAN
フィリップ・ノイス監督、グレアム・グリーン原作、マイケル・ケイン、ブレンダン・フレイザー、ドー・ハイ・イエン出演☆1952年のサイゴン。ベトナム解放戦線がフランスからの独立をかけて戦っている最中、イギリス人の新聞記者トーマスは、サイゴんで若いベトナム人女性フォングを愛人として囲い、優雅に暮らしていた。本社へ戻るよう通知を受けたトーマスは、ベトナムに残るため、北の戦地への取材を敢行する。
戦地では、パーティーで出会ったアメリカ人医師パイルと遭遇。フォングに惹かれていたパイルは、結婚できないなら彼女と別れてほしいと告げる。
泥沼の戦争に突入しようとしている不穏な社会情勢を背景に、魔性の女の色気、初老の男の刹那的生き様が、しっとりと描かれていく。
若い女に溺れ、優柔不断に生きるトーマスをマイケル・ケインが熱演。何をやらせてもホントに上手な俳優である。
男たちにやさしい笑顔を振りまきながら、結婚と欧米での暮らしを望むしたたかさを見せるベトナム人女性を演じたドー・ハイ・イエンも魅力的だった。妻と離婚できない初老の男より、血気盛んな若いアメリカ人になびくのは当然だし、生活に不安を抱えたら誰だってよりよい暮らしを望むものだ。
三角関係の一角がなくなっても、トーマスとフォングに明るい未来は微塵も感じられない。二人の姿は、戦争へと向かうベトナムの悲劇とだぶって見えた。2007.1
参考CINEMA:「裸足の1500マイル」「ボーン・コレクター」
曖昧な週末
アラン・マック監督、マーク・ロイ、ジェイミー・オン、ヨーヨー・モン、テレンス・イン、サム・リー出演☆1999年製作の作品。レイブと呼ばれるダンスパーティに夜な夜な通う若者たちが「ソニア」というナゾの女性を探していく。若者特有の刹那的日々を軽いタッチで描いていて、怪しさが漂ってはいるんだけど、コミカルでもあり、一風変わった作品だった。ラストのオチは、評判どおり、かなりびっくり。いい意味で「オイオイ、そっちかよ」と、つっこみいれたくなりました。2006.3.11
青の稲妻 UNKNOWN PLEASURES
ジャ・ジャンクー脚本・監督、チャオ・タオ、チャオ・ウェイウェイ出演☆中国山西省の町で暮らすシャオジィは、ダンサーに一目ぼれ。しかし、彼女にはヤクザの愛人がいて近づけない。
中国の中都市に生きる若者の等身大の姿を追った苦い青春もの。役者の演技が自然で、ドキュメンタリーっぽいのは、ジャ・ジャンクー監督のスタイルなのだろう。「世界」にも出ていたチャオ・タオが、二人の男の間で揺れ動くダンサー役を好演していた。2006.11 参考CINEMA:「世界」
アバウト・ア・ボーイ ABOUT A BOY
クリス・ワイツ監督、ニック・ホーンビィ原作、ヒュー・グラント、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、トニ・コレット出演☆38歳のお気楽な独身男ウィルは、うつ病のシングルマザーを持つ風変わりな少年マーカスに振り回されるうちに、放っておけなくなり…。子供とダメ男の友情を描いたお決まりのヒューマン・コメディ。
予定調和的つくりではあるんだけど、マーカス少年の不器用な健気さがかっわいくって、感情移入してしまった。学芸会で「やさしく殺して」を歌うシーンではついホロリ。
原作は「ハイ・フィデリティ」と同じ作家なだけに、独身男ウィルが心境を語る独白もリアルで面白い。またまた見た後で気づいたうつ病の母役のトニ・コレット。ほんと七変化の名わき役だ。2006.5
参考CINEMA:「ハイ・フィデリティ」 ,脇役たち(トニ・コレット)
秋へ Traces of Love ★
キム・デスン監督、ユ・ジテ、キム・ジス、オム・ジウォン出演☆1995年、三豊百貨店崩壊事件で、最愛の婚約者を失った検事のヒョンウは、10年後、婚約者ミンジョが死ぬ前につづった旅日記を受け取り、その場所を訪れる。
そこで、同じ行程で旅をする若い女性と知り合ったヒョンウは、彼女の中に、亡くした恋人ミンジョの姿を重ね合わせる。
傷ついた二人が、旅をしながら過去を清算していくまでを、しっとりと情感あふれる映像で描いている。派手な演出やドラマチックな展開はないが、じわじわと心にしみてくるラブストーリーだ。秋の装いの山の風景がロマンチックでかつ物悲しい。物語はオーソドックスではあるけど、定番の安心感もあって、落ち着いて見られた。ユ・ジテは役によって顔が変わるなかなかの芸達者だ。2006.10.13 釜山国際映画祭06にて 参考CINEMA:「バンジージャンプする」
Ad-Lib Night (韓国)
イ・ユンギ監督、平安寿子原作、HAN Hyo-joo, KIM Young-min, CHOI Ill-hwa, KIM Joong-ki 出演☆若い女性は町で男たちから声をかけられる。男は彼女を子供の頃の友達と間違えていたのだ。さらに彼らは「行方知れずになった友人に成りすまし、瀕死の父親に会って欲しい」と頼む。
日本の小説が原作ということ。深夜のドラマで見たような話なのでひょっとしたら原作が同じかも。生きることにちょっと疲れていた女の子が、見ず知らずの人たちと触れ合い、人の死に直面して、少しだけ元気になるお話。瀕死の男の親戚、友人がみんな間抜けではあるが温かく、やりとりもコミカル。舞台にしても面白いかも。イ・ユンギ監督は「チャーミング・ガール」でキムジス扮する孤独な女性を描いて賞とってます。2006.10.14 釜山国際映画祭06にて
アメリカン・ニューシネマ 反逆と再生のハリウッド史
テッド・デミ監督、マーティン・スコセッシ、ロバート・アルトマン、エレン・バースティン、ジュリー・クリスティ、フランシス・フォード・コッポラ、シドニー・ルメットほか出演☆60年代のカウンター・カルチャーが色濃く反映された映画、アメリカン・ニューシネマの作り手たちに、当時の映画界の様子をインタビューしたドキュメンタリー。
「イージー・ライダー」「卒業」「タクシー・ドライバー」「狼たちの午後」「マッシュ」「ゴッドファーザー」等々、私の愛してやまない作品の制作秘話がいろいろと聞けて楽しかった。監督のテッド・デミが若くして亡くなってしまったのが悔やまれる。2006.1.21 参考CINEMA:「ブロウ」
アメリカ,家族のいる風景 DON'T COME KNOCKING
ヴィム・ヴェンダース監督、サム・シェパード原案・主演、ジェシカ・ラング、ティム・ロス、ガブリエル・マン、サラ・ポーリー、エヴァ・マリー・セイント出演☆☆アメリカ西部の荒涼とした原風景に、皺くちゃ顔の渋いサム・シェパードがたたずむ…。そんなシーンを想像しただけでゾクゾクくる人は必見。ロード・ムービーはやっぱり大画面で見るに限ります。
☆元西部劇スターのハワードは、映画の撮影現場から逃げ出し、アメリカ西部をあてもなく彷徨う。そして、たどり着いたのは30年あまり近寄ることのなかった故郷。
一人で気丈に暮らす母親から、はるか昔、「ハワードの子を宿した」という知らせがあった、と聞かされたハワードは、自分の子供を生んだと思われるウェイトレス、ドリーンのいるモンタナへ向かう。
落ちぶれて覇気のない元スターを演じたサム・シェパードがとにかくステキ。
自ら企画して主演してるんだから、見せ方はよくわかってるんだろうけど、あの渋さはなかなか演技で作れるものじゃない。若かりし日の自分のポスターの前で恥ずかしそうに顔を隠すしぐさもカワイイ。
年取って皺くちゃ顔になってもホント絵になるよなあ。セクシーさではイーストウッドを抜いてるかも。オヤジにときめいたのは久々です。
スト−リーは、人生に疲れた男が自分のルーツを探す旅に出る、というオーソドックスなものだが、そこに、ヴェンダース独特のテンポ、BGM、映像美が加味され、上質なアート作品に仕上がっている。
何度も言うが、サム・シェパードの存在感は頭抜けているし、彼をとりまく女たちも魅力的。ジェシカ・ラングの凛とした美しさ、サラ・ポーリーの澄んだ瞳、息子の恋人のはすっぱ娘、そして30年ぶりに再会したハワードを温かく迎え入れる寛大な母親。
このハワードという男は女たちに支えられて生きてきたんだろうなあ。女泣かせの憎い奴!(表現が古いけど、古臭さが似合う映画だと思うので^^;)
ただ、一点、ハワードを追うティム・ロスの役は、とってつけたようで余計な気がした。ティム・ロスもうまい役者なので、あんな使い方は、もったいない。
さすがに「パリ、テキサス」のような感動はなかったけど、最近のヴェンダース作品では、「ランド・オブ・プレンティ」に次いで気にいりました。2006.4 参考CINEMA:「ランド・オブ・プレンティ」「ミリオンダラー・ホテル」
アララトの聖母 ARARAT
アトム・エゴヤン監督、デヴィッド・アルペイ、シャルル・アズナヴール、アルシネ・カンジアン、マリ=ジョゼ・クローズ、クリストファー・プラマー出演☆画家のゴーキーは、1915年のトルコによるアルメニア人大虐殺で母を亡くした。その彼の絵「芸術家と母親」を研究するカナダ在住のアルメニア人女性アニは、虐殺を描く映画への協力を依頼される。
カナダ育ちのアニの息子は、自分のルーツを探しに虐殺があったとされるアルメニア・アララトへ旅立つ。
「ホテル・ルワンダ」を見たばかりなので少々インパクトにかけたが、アルメニアという国がどこにあるのかも知らなかったので勉強になった。トルコはいまだに虐殺の事実を認めてないらしい。なんて横暴な国だ!と怒る前に、日本も、中国で皮剥ぎとかやってたことを忘れちゃいけない。やった側は「昔のことを今更」と言い、やられた側は末代まで語り継ぐ。「恨み」はそれほどに深いものなのだ。
人道的には、加害者側こそ永遠に罪を忘れてはいけないのだろうが、臭い物にはフタをしたくなるのが人の常なのだろう。
テーマはすばらしいと思うのだが、登場人物が多すぎるのと、過去と未来の構成が複雑すぎて、話に着いていけず。青年と母親、絵描きの話だけに集約すればよかったのに。監督がアルメニア人なので、思い入れが強すぎたのかもしれないが。もったいない。2006.7
ある子供 L' ENFAN ★
ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ監督、ジェレミー・レニエ、デボラ・フランソワ、ジェレミー・スガール出演☆盗みをしながらその日暮らしをしている青年ブリュノは、恋人ソニアに子供が出来ても父親の自覚がもてない。ソニアから子守を頼まれたある日、ブリュノは自分の子供を勝手に売るという行動にでる。
大人になれないバカ者は万国共通。炎天下に子供を車においてパチンコやってる日本の親も一緒。働くという意識がはなからないブリュノを見ながら、「この大バカ者」「とっとと刑務所いけ」と、心のなかで罵っていたんだけど、少しずつ変化していくブリュノに、最後には「頑張れ。まだ若いんだから」と、エールを送っていた。
乳飲み子を乗せた乳母車をおもちゃのように軽々しく扱っていたブリュノが、空になって軽くなったはずの乳母車に前よりも重みを感じ、さらには、相棒を失った後のバイクを今までに感じたことのない重々しさで引きずっていく姿は、彼の気持ちの変化とオーバーラップしていた。
これぞダルデンヌ監督独特の映像テクニック。
「ロゼッタ」「息子のまなざし」のときは正直よくわからなかったんだけど、独特の映像に慣れてきたせいか、そのうまさにあらためて感服させられた。
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ブリュノとソニアはただの「バカップル」扱いされがちだけど、私には恋人ソニアは立派な大人に見えた。
子供を勝手に売られた後、寄ってくるブリュノを頑として受け入れない態度。あれはなかなかできないよ。あのソニアのぶれない心が、バカ男を改心させる要因にもなった気がする。
じゃれあってばかりのバカップルと、刑務所の面会室で涙を流しあう二人の姿の対比が見事だった。
一方で、「現実にはソニアのような女の子って少ないだろうなあ」「みんながソニアだったらもっと悲惨な犯罪は減るのに」などと悲観してしまったのも事実です。2006.2.5 参考CINEMA:「息子のまなざし」「ロゼッタ」
アルフィー ALFIE
チャールズ・シャイア監督、ジュード・ロウ、マリサ・トメイ、オマー・エップス、スーザン・サランドン、シエナ・ミラー出演☆リムジン運転手のアルフィーは、次々に女を口説く名うてのプレイボーイ。人妻、子持ち、イケイケ娘、年上の金持ちなどなど、どんな女も虜にするが、女たちがさらに彼と親密になろうとすると、アルフィーはスルリと逃げてしまう。
超ナンパ男アルフィーが、カメラに向かって自分の感情を説明したり、街中に彼の気持ちを表す看板が出てくるなど、見せ方が凝っていてオシャレ。&アルフィーは男前ジュードにぴったりだし、女たちも芸達者ぞろいで楽しめた。
さんざん女を遊び倒しても、いざ自分が寂しくなったとき、誰も助けてくれる人はいない。それは遊び人の宿命。アルフィーのような男はこの世にたくさんいるけど、遊び人は一生家庭に収まらず、遊び人として孤独な人生を全うしてほしいものです。まあ、本人はキツイんだろうけど、それこそ真のプレイボーイというものです。2006.4
アレキサンダー ALEXANDER
オリヴァー・ストーン監督、コリン・ファレル、アンジェリーナ・ジョリー、ヴァル・キルマー、アンソニー・ホプキンス、ジャレッド・レトー出演☆紀元前336年、マケドニアの王フィリッポスの息子アレキサンダーは、父親と対立。フィリッポスは何者かに暗殺され、アレキサンダーは20歳で王位を継ぐことになる。アレキサンダーは父が成し遂げなかった東方制圧を実現。はるかインドまで軍を進めるが、過酷な戦に疲れきった軍隊は徐々に分裂していく。
古代西洋史ではもっとも名のある英雄だが、彼の実績を詳しく知らなかったので勉強になった。哲学者のアリストテレスがアレキサンダーの先生だったことも知らなかったし。戦のシーンもさすが金かけてるだけあって迫力あった。
けど、ちょっと長すぎて退屈。舞台劇のように、説明台詞が多すぎて眠くなった。せっかく映画にしたんだから、もっとテンポよく映像で見せていけばいいのに。
アレキサンダーは男色、という設定だったけど、史実? アジアに行く途中マラリアで死んだ、という説もあるみたいだし。古代の話だから、必ずしも史実に忠実である必要はないけど、映画に入り込めなかったせいか、ちょっと気になった。
コリン・ファレルは、古代の英雄にはどうしても見えず。アンジェリーナは怪しげかつエキゾチックでよかったけど。正直「トロイ」のほうが楽しめた。やっぱりオリバー・ストーンは苦手だ。2006.6
アワーミュージック NOTRE MUSIQUE
ジャン=リュック・ゴダール監督、ナード・デュー出演☆サラエヴォを訪れたゴダールは、学生の一人オルガと知り合う。戦争へのアンチテーゼを映像を使って哲学的に描いた作品。案の定、眠くなったが、戦争の映像、サラエボの様子などがフラッシュバックされることで、戦争の無意味さ、むごさが伝わってきた。もう一度、劇場で見てみたい。2006.8
赤目四十八瀧心中未遂
荒戸源次郎監督、大西滝次郎、寺島しのぶ、新井浩文、大森南朋、大楠道代、内田裕也 ほか出演☆世捨て人のように暮らす生島は、尼崎のボロアパートで、臓物をさばき、串にモツを刺す日々を送っている。同じアパートには、背中に美しい刺青を彫った妖艶な綾がいた。二人は逢瀬を重ねるが、綾は兄の借金の形にされてしまう。
江戸時代のような古典的悲恋話を現代の尼崎に置き換えているのだが、違和感なく描かれているのがさすが。寺島しのぶの体当たり演技は確かに拍手喝采ものだったけど、焼き鳥屋の女将を演じた道代姉さんの存在感に圧倒された。「赤目四十八瀧」って場所知らないけど、行ってみたくなった。2006.3.25
イン・ドリームス/殺意の森 IN DREAMS ★
ニール・ジョーダン監督、アネット・ベニング、エイダン・クイン、ロバート・ダウニーJr.、スティーヴン・レイ出演
レビューはCINEMAの監督たち(N・ジョーダン)へ
苺とチョコレート FRESA Y CHOCOLATE (キューバ)
トマス・グティエレス・アレア監督、セネル・パス原作、ホルヘ・ペルゴリア、ウラジミール・クルス出演☆キューバの学生ダビドは、カフェでホモ・セクシュアルのディエゴに声をかけられる。最初はディエゴに嫌悪感を抱いていたダビドだが、彼の繊細な人柄や、芸術的志向に感化され、ディエゴの家に入り浸るようになる。
共産主義国特有の息苦しさは、多くの中国映画と同じようにこの作品からも感じ取ることはできるが、違うのは人々のノリである。密告もあるのだが、中国のような陰湿さは感じられない。それは、空の青さやラテン気質によるものが大きいのだろう。
バルガス・リョサの小説を薦めるシーンがあるのだが、キューバでは読んではいけない小説家なのだろうか。どのあたりが反社会的なのかよくわからないが、自由に好きな本も読めない社会は、ディエゴのようなアーチストには苦痛なのだろう。
ディエゴの苦しみに気づかない純真なダビドが、少々じれったくもあったが、それが青さというもの。社会批判をオブラートでくるんだ友情と青春の物語だった。2007.1
硫黄島からの手紙 LETTERS FROM IWO JIMA ★
クリント・イーストウッド監督、ポール・ハギス製作総指揮、渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、中村獅童ほか出演☆終戦間近の1944年6月。日本軍は硫黄島を死守するため、新指揮官・栗林を送り込む。上官の理不尽なしごきに不満を募らせていた若い兵士・西郷は、鞭で打たれているところを栗林に助けられたのをきっかけに、栗林を敬うようになる。
アメリカという国の大きさ、強さを熟知していた栗林は、洞窟を掘り、地下の要塞からアメリカ兵を狙撃する戦法を選択し、兵士たちの自決を否定。しかし、部下の多くは、栗林のやり方に違和感を覚える。
負け戦でもわが身を投じようとする日本的な戦法は、数々の映画やドラマで描かれてきたので、さほど新鮮味はなかったが、この映画を、敵国だったアメリカの監督が撮ったということに大きな意味を感じた。
瀕死のアメリカ兵に愛を示す元オリンピック選手や穏健派・栗林は、人としてまっとうだし、今なら誰も彼らの考えを否定はしないだろう。自己犠牲精神が大の苦手な私も、もちろん栗林派である。
でも、この映画に限っては、理想的な善人二人よりも、昔のやり方に固執する鬼上官・伊藤(獅童)や、投降して無残に殺される元憲兵・清水(加瀬)にばかり目がいき、惨めな最後を迎える二人に同情を覚えた。
戦地という極限状態の中では、あの二人の姿こそが現実であり、「お国のために地雷を担いで戦車に突っ込んでやる」と息巻く鬼上官・伊藤は、世界各地で起こっている自爆テロ決行者とダブって見えた。
戦争はむごいものである。誰もが頭ではわかっていることなのに、人々は戦争をやめようとはしない。
相変わらずの殺し合いは続いている…。
見終わった後、むなしさとやりきれなさで、大きなため息が出た。2006.12 参考CINEMA:「スペース・カウボーイ」「ミスティック・リバー」「ブラッド・ワーク」「目撃」「ミリオンダラー・ベイビー」「父親たちの星条旗」
W・ヴェンダース、イザベル・コヘットほか監督☆世界の監督たちが、南米やアフリカで暮らす人々にインタビューし、厳しい現実を訴えったドキュメンタリー。プロデュースはスペインの俳優ハビエル・バルデム。セリフがほとんど聞き取れず残念。やはり真面目なドキュメンタリーは日本語字幕がないと私にはきついです。。。2007.10 サンパウロ国際映画祭07にて
12:08 East of Bucharest(ルーマニア)
Corneliu PORUMBOIU 監督、Mircea Andreescu出演☆田舎町のTVキャスターが、チャウシェスクの独裁政権が崩壊した1989年の革命の瞬間、何をしていたかを市民にインタビューする番組を企画する。会場に呼ばれたのは、酔っ払いの教師と、ちょっととぼけた老人。
キャスターは四苦八苦しながら、教師から「革命の時には広場でエキサイトしていた」という予定通りの言葉を引き出すが、まもなく、「教師は飲んだくれていたのを目撃した」という抗議の電話が次々とかかってくる。
飄々としたとぼけた老人のキャラが最高。セリフもちょっとシニカルで笑いを誘う。
革命を経験していないので実感が沸かないが、市井の人々には、革命よりも、今日のおいしい食事や家族との団欒が大事、ということなのだろう。舞台にしても面白そうな小粋な作品だった。2006.10.16 釜山国際映画祭06にて
イニシャル(頭文字)D INITIAL D
アンドリュー・ラウ、アラン・マック監督、しげの秀一原作、ジェイ・チョウ、鈴木杏、エディソン・チャン、ショーン・ユー、アンソニー・ウォン出演☆元天才走り屋の父を持つ高校生・拓海は、豆腐の配達の際にドライビング・テクニックをマスターし、天才的なコーナーワークを身につける。
舞台は日本(たぶん群馬)で、みんな日本人という設定。でも、役者は鈴木杏以外は香港&台湾のスター。その違和感のある設定が面白くて笑ってしまった。アンソニー・ウォンの役名が藤原文太だもんねえ。単純なカーアクション映画なんだけど、スピード感があるし、CGをほとんど使わない手作り感もイイ。さすがアンドリュー・ラウ監督だ。
役者も、オーラのあるジェイ・チョウはじめ、「インファナル」の主役二人、脇役二人がいい味だしててGOOD。「続編あるよ」という終わり方も納得。単純に楽しめる痛快カーアクションだった。2006.5 参考CINEMA:「インファナル・アフェア」
イノセント・ボイス 12歳の戦場 VOCES INOCENTES ★
ルイス・マンドーキ監督、オスカー・トレス原案、カルロス・パディジャ、レオノア・ヴァレラ、ホセ・マリア・ヤスピク、ダニエル・ヒメネス・カチョ出演☆1980年代、政府軍と反体制ゲリラの間で内戦状態にあったエルサルバドルでは、政府軍が12歳になった少年達を強制的に徴兵。激戦区では、外出禁止時間の夜になると銃撃戦がはじまり、住人の被害者が続出する。バラックで母と暮らす11歳のチャバは、母の仕事を手伝いながら、気丈に振舞っていたが、夜になると、銃撃戦に怯える毎日だった。
まもなく、チャバの学校に政府軍がやってきて多くの少年が徴兵される。さらに、チャバのガールフレンドの家まで焼き討ちにあってしまう。
この恐ろしい話が現実であること(俳優オスカー・トレスの実話)に愕然とした。12歳の少年が兵士として徴兵されるのがゲリラ側じゃなくて、政府軍ってどういうこと?(しかも政府の背後にはあのアメリカ軍)。一般人の暮らす場所が、激戦区になってしまっているというのもひどい話だし…。
それが戦争というもの、と言ってしまえばそれまでだが、無邪気に遊ぶ少年達の笑顔はどこでも見かける普通の子供と同じ。それだけに、彼らの抱えている問題の深刻さとのギャップがありすぎて、胸に突き刺さるような痛みを感じた。
政府軍が少年狩りにやってくる、との情報をゲリラの一人から聞いたチャバたちは、当日、屋根の上で死んだように寝そべり身を隠す。緊張感と静寂が見事にマッチしたシーンは圧巻。屋根に横たわる少年たちを俯瞰から映すアングルも見事である。
見せ場はいろいろあったが、もっとも印象に残ったのはこのシーンである。
いろんなことが次々に起こって、少々ドラマチックすぎる感じもしたが、信じがたい出来事が実際に起こっていたのだから仕方ないのかもしれない。
原案者のトレスは、撮影に立ちあったとき、封印していた辛い思い出がよみがえり涙があふれてきた、と話していた。嫌なことは忘れるに限るけど、あまりに強烈な体験は、一生トラウマとなって残ってしまうものなのだろう。世界の子供たちが平和に暮らせる世の中って、現実的でない理想社会にしか存在しないのかなあ。やりきれない。2006.11
イルマーレ IL MARE ★
イ・ヒョンスン監督、イ・ジョンジェ、チョン・ジヒョン、チョ・スンヨン出演☆海辺に建つ瀟洒な一軒家「イルマーレ」から、若い女性が引っ越して行く。彼女は郵便ポストに次の住人への依頼を書いて入れるが、その手紙を受け取ったのは、2年前に住んでいた建築士の男だった…。
現在の住人と過去の住人がポストを通じて文通をはじめ、お互いを大切に思うようになるファンタジックなラブ・ストーリー。霞がかかったような映像と、チョン・ジヒョンのかわいさ、イ・ジョンジェの誠実さが、見事にマッチングしていて、胸がキュンとするようなステキな映画に仕上がっていた。やっぱりイ・ジョンジェいいわあ。あの立ち姿とさりげない笑顔がステキ。ストーリーはお決まりパターンではあるんだけど、上品で、ちょっと「冬ソナ」っぽくて、好感が持てた。ポスト、家、愛くるしいワンコロが、時空を越えた二人をつなぐ小道具になっていたんだが、使い方も洒落ていた。こういう映画は、たまに見ると、少しだけ心が優しくなれる気がします。2006.6
インサイド・マン INSIDE MAN ★
スパイク・リー監督、デンゼル・ワシントン、クライヴ・オーウェン、ジョディ・フォスター、クリストファー・プラマー、ウィレム・デフォー出演☆☆スパイク・リーの雇われ仕事はどんなものかとあまり期待しなかったけど、スピーディーでカッコよくて、説教くささもなくて。娯楽に徹した小気味いい娯楽サスペンスをよくぞ作ってくれました! さすがスパイク。何でもこなせる器用な監督です。
☆ニューヨーク・マンハッタンにある信託銀行に4人組が強盗に入り、人質を取って立てこもった。犯人グループは、人質に全員自分たちと同じ扮装をさせ、犯人か人質か区別がつかないように細工する。
市警のフレイジャーたちは、主犯の男に翻弄され、彼らの本当の目的は何なのか、なかなかつかめない。その頃、信託銀行の会長は、女弁護士に、自分のある秘密を守って欲しい、と依頼していた…。
オープニング。いきなり主犯役のクライブ・オーウェンの独白から始まり、唐突に強盗シーン。そしてテキパキと人質に「携帯電話を出せ」「服を脱げ」と、指示が続く。
はじまったばかりなのにココまで手際よくすすめちゃって後が続くの? という心配はご無用。「これからどうなるの?」「真実は?」といった緊張感は最後まで持続する。
犯人グループと市警のやりとりは真剣ではあるんだけど、随所に笑える箇所もある。お互いがゲームを楽しんでいる軽さもイイ感じ。
犯人がクイズを出して市警の面々があーだこーだと言い合っている場面や、「アルバニア」か「アルメニア」かを巡ってアタフタするところは、スパイク映画らしさも見られ、ついニヤリとしてしまった。
そしてそして、私が一番はまったのが犯人一味探しである。
クライブ・オーウェン以外は、みんな扮装させられてるから誰が犯人グループかよくわからないし、人質のふりしてる中にも犯人がいるかもしれない、ということで、終始「こいつが怪しい。いや、こいつかも」と、疑ってみていた。
立てこもりが続く場面の合間に、解放された人質全員が尋問を受けるシーンがインサートされる、という構成も洒落ていて、誰がウソをついているのか、市警と一緒に最後まで犯人探しも楽しめる。
サスペンス映画でこんなにワクワクしたのは久しぶり。「インファナル・アフェア」以来かも?!
ただ、ジョディ・フォスターの役だけは、あんまり意味がないというか、ジョディを使うほどの役じゃない、というか。もっと女弁護士が絡んでくるのかと期待をもたせながら…、あらら、尻つぼみ。弁護士を登場させなくても十分楽しめたので、余計な役という気がしてならなかった。
それと、会長の秘密についても、うやむやにされた感じで納得いかず。ひょっとして「オーシャンズ11」のように、続編狙ってません?
最後の最後まで「To be continued」の文字を探してしまった。
会長と犯人グループ、叩けばまだまだホコリが出てきそうな気がするし…。
その会長役には、毎度お馴染み〜の、悪だくみジジイをやらせたら右に出るものはいないクリストファ・プラマー。最高です。ぴったりです。
切れ者犯人役のクライブ・オーウェンも、悪人顔じゃないんだけど身体が大きくて迫力あったし、自信満々の話し方もGOOD。今後も注目の俳優だ。
インドのボリウッド音楽とラップをミックスさせたオープニング&エンディングも、ナイスな選択。スパイクの音楽センスはいつも私のツボにはまります。
スパイク・リー健在ってところを見せてくれたので、次回作にもおおいに期待!です。2006.6 参考CINEMA:「サマー・オブ・サム」「25時」
インタープリター THE INTERPRETER
シドニー・ポラック監督、ニコール・キッドマン,ショーン・ペン,キャサリン・キーナー出演☆NYの国連で通訳をする女性が、アフリカのある国の大統領暗殺計画を偶然耳にする。警護にあたったシークレットサービスは、彼女の両親がアフリカで非業の死を遂げた事実を知り、彼女に疑いの目を向ける。
オーソドックスなサスペンス映画だった。バスの中に疑惑の人物3人が同乗するシーンはハラハラしたけど、ほかは印象薄。まあ、テレビの2時間ドラマみたいで見やすかったのでよしとしよう。2006.3.11
イン・ハー・シューズ IN HER SHOES
カーティス・ハンソン監督、キャメロン・ディアス、トニ・コレット、シャーリー・マクレーン、マーク・フォイアスタイン出演☆真面目で優秀な弁護士の姉と、容姿だけのアバズレ妹。幼い頃に母を亡くした二人は反発しあいながらも支えあって生きてきた。しかし、妹が姉の恋人を誘惑したことをきっかけに、妹は家を出てしまう。妹は、長い間音信不通だった母方の祖母のいるマイアミへと旅立つ。
キャメロン主演だから軽いラブコメかと思っていたら、シリアスな人間ドラマだったのにまず驚いた。妹は、ひどいコンプレックスから自暴自棄になっていて、難読症という心の病まで抱えている。姉は、そんな妹に振り回され、偉ぶってはいるんだけど、彼女自身もコンプレックスの塊で…。
「うまく生きられない」と少しでも悩んだことがある人なら、この映画は共感できる部分が多いだろう。自分もダメな妹の面と、杓子定規な姉のような面があるので、それぞれに感情移入できた。
でも、この二人の悩みは単なる性格によるものではなく、幼児体験が関係しているので、それが明らかになると、共感とは別の哀れみのようなものを感じた。
マイアミの老人ホームは妙に明るく描かれていたけど、老人ホームってこんな楽しいの? 妹の心を癒す場所なので、わざと現実離れした天国のような描き方をしたんだろうが、共感を呼ぶ前半と、再生を描いた後半のトーンが微妙に違うのが気になった。
オススメのバイプレーヤー、トニは相変わらずいい味出してました。2006.8 参考サイト:脇役たち(トニ・コレット)、参考CINEMA:「LAコンフィデンシャル」「ワンダー・ボーイ」「8マイル」
【ウ u】
うつせみ 3-IRON ★★
キム・ギドク監督、イ・スンヨン、ジェヒ出演
レビューはCINEMAの監督たち(K・ギドク)へ
受取人不明 ADDRESS UNKNOWN
キム・ギドク監督・脚本、ヤン・ドングン、チョ・ジェヒョン出演
レビューはCINEMAの監督たち(K・ギドク)へ
美しい夏キリシマ ★★
黒木和雄監督、柄本佑、小田エリカ、石田えり、原田芳雄ほか出演☆1945年夏。中学生の康夫は、霧島ののどかな村にある祖父の家で暮らしていた。元軍人の祖父は、康夫の覇気のない姿をもどかしく思い、康夫につらく当たる。実は康夫は、目の前で友人が爆撃にあい助けることができなかった、という負い目で苦しんでいた。
一見、戦争とは無縁に見えるのどかな田舎の風景。
のんびりとした雰囲気を持つ康夫も、悩みを抱えているようには見えない。
ませた従姉妹、明るい奉公人、陽気な叔母…。女たちもみんな一様に元気だ。
でも、映画が進むにつれて、そんな彼らの悲しさが、少しずつ炙り出される。恋人、家族、友人との別れのパターンはそれぞれ違うが、すべて戦争が招いた悲劇であることに変わりはない。流血や号泣シーンはひとつもない。淡々としていて、とても穏やかな映画である。それでも、こんなに悲しくなるなんて…。
柄本佑の棒読みっぽいセリフ回しも胸にしみる。監督の魂が乗り移ったかのような自然体の演技がすばらしかった。
急逝した黒木監督は、この映画をとるために、映画監督になったのかもしれない。 そう思いたくなるぐらい、魂を感じる映画だった。2006.8 参考CINEMA:「父と暮らせば」
歌え!ロレッタ愛のために COAL MINER'S DAUGHTER
マイケル・アプテッド監督、シシー・スペイセク、トミー・リー・ジョーンズ、ビヴァリー・ダンジェロ、レヴォン・ヘルム出演☆ケンタッキーの炭鉱で暮らすロレッタは、14歳で結婚し、子宝にも恵まれる。家事をしながら鼻歌を歌うロレッタの歌声に才能を感じた夫は、ロレッタにギターをプレゼントし、ラジオ局への売り込みをはじめる。ロレッタの歌声は、全米に知れ渡り、スターの仲間入りを果たす。
「メルキアデス〜」で共演したトミーとレヴォンが出ているというので借りてみた。役者がみんな初々しくて、時の流れを感じた。シシー・スペイシクの演技が突出していた。あらためてすごい役者だ。歌は吹き替えなのかな。ロレッタのハスキーボイスに癒された。レヴォン・ヘルムがラジオにあわせて歌うサービス・シーンは、ちょっとうれしくなりました。2007.1
ウィスキー
フアン・パブロ・レベージャ監督、アンドレス・パソス、ミレージャ・パスクアル、ホルヘ・ボラーニ出演☆ウルグアイに住むユダヤ人(?たぶん)の工場長ハコボは、生真面目な工員のマルタに、久々に帰郷する弟エルマンに会うときだけ、妻を演じてくれないか、ともちかける。
笑ったことがないんじゃないか、と思える仏頂面のハコボとマルタの冴えない擬似夫婦が何もしてないんだけど笑える。兄弟とは思えないほど陽気な弟と接するうち、マルタがどんどんきれいになっていき、まるで別人のようだった。生真面目な兄がちょっと気の毒。でもマルタの気持ちもわかるしなあ。カウリスマキ映画と共通点あり。2006.2.11
ウィンター・ソング PERHAPS LOVE
ピーター・チャン(陳可辛)監督、金城武、ジョウ・シュン(周迅)、ジャッキー・チョン(張学友)、チ・ジニ、エリック・ツァン出演☆若い頃、恋人同士だった香港の俳優リンと中国のスター女優スンが、新作映画で共演することになった。映画の内容は、サーカス団のブランコ乗りと昔の恋人との再会、そして男女の三角関係を描いた悲恋ミュージカルである。リンは、自分を捨てたスンにしつこくつきまとい、あの頃を思い出させようとする。スンとリンのただならぬ関係に気づいたスンの恋人ニエ監督は、映画の中で三角関係となる中年団長の役を、自ら演じることを決意する。
撮影が佳境を迎えた頃、ニエ監督が失踪し撮影は中断。リンはスンを連れ出し、かつて二人で過ごした雪の北京へと向かう。
香港、中国、台湾、韓国のスターをそろえ、上質のエンターテイメント・ラブストーリーに仕上げたピーター・チャン監督にまずは拍手!苦労しただろうなあ、いろいろと。そのチャレンジ精神には頭が下がります。
ここに日本のスター俳優オダギリジョーが入っていれば、もっとうれしかったんですが。
オープニング、いきなりチ・ジニが、山高帽をかぶって中国語で歌い出したのにもびっくり。「チャングム」での演技しか見たことなかったが、けっこうやるのねえ〜。
アジアと西洋を融合させた不思議な雰囲気のあるミュージカルで、はじめは少々違和感があったのだが、役者がみんな魅力的。中でもジャッキー・チョンには参った。
香港では、俳優より歌手としての評価が高いとはずい分前から聞いていたけど、あの歌唱力はほかを圧倒していた。さすがです。ミュージカルは顔より歌だ、とあらためて実感。
若い恋人との別れを予感し、もがき苦しむ中年監督(団長)の惨めな胸の内が、切ない歌で表現されていて、思わずもらい泣き。クライマックスの空中ブランコのシーンは鳥肌たった。もっと早くからジャッキー・チョンに注目しとくべきだったかも。
それと、目的のためには手段を選ばないスン役は、ジョウ・シュンにぴったり。永作博美と南果歩を足したような顔してるんだけど、「私は女優よ!」って自信に満ち満ちた感じが、いかにも古臭いスターっぽくていい。
&若い二人の思い出の場所、雪の北京の映像が幻想的でステキだわ〜、と思ったら撮影はクリストファー・ドイルだった。こちらも納得。
金城以外の俳優の衣装がちょっとダサかったり、踊りが中途半端だったり、ストーリーがとっちらかっていたり…、つっこみどころもなくはなかったが、でも完璧じゃないところが「たぶん愛」というタイトルに合っていた感じもした。2006.11
ウォーク・ザ・ライン/君につづく道 WALK THE LINE
ジェームズ・マンゴールド監督、ホアキン・フェニックス、リース・ウィザースプーン 、ジニファー・グッドウィン出演☆カントリー・ミュージック界のカリスマといわれたジョニー・キャッシュの半生を描いたヒューマン・ストーリー。
プレスリーやジェリー・リー・ルイスらと巡業し、ボブ・ディランともデュエットしたぐいらだから、アメリカでは誰もが知ってるミュージシャンなんだろうけど、私はまったく知らなかった。カントリー歌手っていうのはローカル向きだからでしょう。
正直「レイ」のほうが楽しめたのは、私が単にR&B好きだから。映画としてはオーソドックスな作りで安心して見られた。けど、最近、この手の伝記映画が多いので、見飽きた感もあり。
舞台上でプロポーズしたっていうのは実話?だとしたら、すごい情熱的。なぜ、ジョニーがあれだけジューンを思い続けるようになったのか心理描写があまりなかったので解せない部分もあったが、人を好きになるのは理屈じゃないからよしとしましょう。
40回プロポーズして想いが通じたっていうエピソードは、片思い中の人にはとても励みになる。
昨今のアーチストは離婚結婚を繰り返すのが当たり前になってるけど、昔は離婚は罪だったから、こういう忍ぶ愛のドラマが生まれるのでしょう。我慢する必要のない何でもありの世の中に、味気なさを感じます。
一番お気に入りのシーンは、監獄での復活ライブ。あの歌詞最高!
映画を見て、ジョニーのドキュメンタリーを見てみたくなりました。本人の憂いのある顔&歌声を映像で心ゆくまで見てみたい。2006.2.19 参考CINEMA:「ニューヨークの恋人」
美しい夜、残酷な朝 THREE... EXTREMES
三池崇史「box」,パク・チャヌク「cut」,フルーツ・チャン「餃子」監督、長谷川京子、渡部篤郎、イ・ビョンホン、カン・ヘジョン、イム・ウォニ、ミリアム・ヨン、レオン・カーフェイ、バイ・リン出演☆日本・韓国・香港の奇才監督がエログロイ世界を描いたオムニバス映画。
「box」双子の姉と見世物小屋で演じていた妹・鏡子は、親代わりの男の寵愛を受ける姉に嫉妬心を抱く。
「cut」名声も金も性格も申し分ない映画監督の家に、元エキストラの男が上がりこんだ。男は自分を覚えていない監督を恨み、ピアニストの妻をピアノ線にくくりつけて、言うことをきかないと、妻の指を一本ずつ切断する、と脅す。
「餃子」香港の怪しげな部屋で作られる特製餃子を食べると若返る、という噂を聞いた金持ちの妻は、永遠の美を求め、その部屋へ通いはじめる。
一番、そそられたのは「餃子」。餃子の中身を知ったときには、正直、吐き気をもよおした。美しい妻がコリコリ言わせながら餃子をむさぼるシーンは、グロくてエロイんだけど、妙な魅力があった。食に貪欲な香港人は、食べるシーンをとらせたら世界一だろう。
「cut」もチャヌク監督らしい残酷さが前面に出ていてよかった。ただ、「box」だけは、ちょっと入り込めなかった。三池監督ってもっと、スピーディーで残虐なイメージがあるんだけど、これは真逆。「美しく」撮ろうとしてるのはわかるんだけど、魅かれなかった。ハセキョーの演技もちょっとなあ。残念!2006.2.25 参考CINEMA:「オールド・ボーイ」「復讐者に憐れみを」「親切なクムジャさん」「JSA」「ハリウッド☆ホンコン」
有頂天ホテル
三谷幸喜監督、役所広司、松たか子、佐藤浩市、香取慎吾、篠原涼子、戸田恵子、生瀬勝久ほか出演☆高級ホテル「アバンティ」の大晦日。ホテルの副支配人・新堂は、さまざまな客の対応に追われながらも、田舎に帰るベルボーイの送別会に顔をだす。
ホテルマン、客室係、ベルボーイたちが、個性あふれる客たちに振り回されるエンタテイメント。三谷監督の真骨頂ともいえるオールスターキャストのライト・コメディ。
揃いもそろって主役級が、ちらりと出てきて、絶妙に絡んでいく。さすがです。
オダギリジョーなんて、普通ならありえない役やってたし。
なーんてことはないコメディではあるのだけど、みんな少しだけウソついて事情もあるので、タダの軽いコメディに留まらず、見終わった後に高揚感があった。いろいろあるけど、それでも年は明けていく〜、っていう流され方も小気味いい。
三谷作品は映画館で見るよりテレビで見たほうがきっと楽しめるだろう、と予想していたが、やっぱり大晦日にテレビで見て大正解だった。
一つ気になったのは、偶然の再会が、役所&原田、佐藤&松、香取&麻生、と3つもあったこと。ちょっと安易すぎないかい?と、思ったが、まあ、面白かったので、ご祝儀ご祝儀。2006.12.31. 参考CINEMA:「竜馬の妻とその夫とその愛人」「みんなの家」
運命じゃない人
内田けんじ監督・脚本、中村靖日、霧島れいか、山中聡、山下規介、板谷由夏出演☆お人好しのサラリーマン宮田は、友人の私立探偵・神田に「あゆみの件で話がある」と呼び出される。宮田は恋人あゆみと暮らすために高級マンションを購入したが、振られてしまい、未だに彼女を忘れられないでいた。一方、あゆみが結婚詐欺だとかぎつけていた神田は、ヤクザから金を盗んできたあゆみの逃亡を手伝うはめになる。
お人よしの宮田の視点から描いたエピソードと、探偵から見たエピソード、さらにはナンパした女、ヤクザからの視点、と4人それぞれの事情を絡めた構成力が絶妙。なるほどそういうことねえ、と感心しながら見てしまった。宮田以外、誰も彼もうそつきで、そのウソを隠すためにバタバタする。舞台にしても面白そう。
ただ、構成はよくできてはいるんだけど、盛り上がりがないのが残念。唯一の善人・宮田君が最後に何かどでかいことをやってくれたら、もっと楽しめたのに。もしくは、SABU監督作品のように「走る」ことをテーマにするとか、「アモーレス・ペロス」のように「犬」を絡めるとか、もう一工夫ほしかった。
作品の個性が見えてこなかったのが惜しい。才能は感じるので次回作に期待したい。2006.7
映画に愛をこめて アメリカの夜 DAY FOR NIGHT
フランソワ・トリュフォー監督、ジャクリーン・ビセット、ジャン=ピエール・レオ出演☆トリュフォー自身が監督役を演じ、撮影中の出来事を再現フィルムのように描いたドキュメンタリー・タッチの実験映画。猫がなかなか思い通りに動いてくれなかったり、隅っこでキスしてるスタッフがカメラに映ってしまう、など、リアルなハプニングが次々に起こるのが楽しくて、撮影所を俯瞰している気分にさせられる。ただ、ドラマ性を廃した作りなので、途中で飽きてしまった。実際撮影所にいたら、待ち時間がたくさんあって退屈なんだろうなあ。そんな冗長な時間さえも、リアルに再現したところが、トリュフォーらしいですけどね。2006.10
エル・スール EL SUR
ヴィクトル・エリセ監督、オメロ・アントヌッティ、ソンソレス・アラングーレン、イシアル・ボリャン出演☆スペインの北部で両親と暮らす少女は、父の部屋である女性の名前と似顔絵を見つける。それは、父のかつての恋人で今は映画女優になっている女の名前だった。
寂しげな田舎の風景と、何かを思い悩んでいるような父の姿。すべて少女の目線で描かれている。小品だが、独特の映像、ゆっくりとしたセリフ、寒々しい映像に、見入ってしまった。今、エリセ監督は何をやっているのでしょうか。2006.9
エンジェル・スノー A DAY
ハン・ジスン監督、イ・ソンジェ、コ・ソヨン、ユン・ソジョン出演☆子供をはやく作りたい妻とそれを支える夫。妻はやっとのことで妊娠にこぎ着けるが、お腹の子供は、生まれてもわずかしか生きられないという障害を抱えていることが判明する。
十分幸せそうな夫婦でノリは軽いし、別に子供なんていなくてもいいじゃない、と前半はちっとも同情できず。でも、さすがに子供の障害を知ってからのシビアな話にはちょっとウルっとくるものあり。たとえ短い生命でも、生きようとしているかぎり、人間の都合で抹殺することは罪なことだと痛感した。イタリアでの実話を基にした映画らしい。夫役のイ・ソンジェは長髪より絶対短いほうが似合うと思う。2006.6
炎上
市川崑監督、和田夏十脚本、市川雷蔵、仲代達矢、二代目中村鴈治郎、北林谷栄ほか出演☆金に輝く美しい寺・驟(しゅう)閣寺に魅せられた学僧・溝口は、寺の掃除をすることが生きがいになる。しかし、欲におぼれた友人や大人たちに絶望し出奔。さらに驟(しゅう)閣寺に火を放ち、自らも命を絶とうとする。
市川雷蔵はリアルタイムでは知らないが、やっぱり存在感が違う。二代目中村鴈治郎、北林谷栄の老獪な演技もアッパレ。正直、小説を読んだときのようなインパクトはなかったが、青年が堕ちていく様がリアルに描かれていた。2006.12
参考CINEMA:「黒い十人の女」
オフィシャル・ストーリー LA HISTORIA OFFICIAL (1985年・アルゼンチン)
ルイス・プエンソ監督、エクトル・アルテリオ、ノルマ・アレアンドロ、ウーゴ・アラーナ出演☆学校の女性教師は、子供ができないため、夫が連れてきた子供を養子にして育てている。同窓会で友人と会った彼女は、活動家と結婚した友人が拷問を受け、投獄されていたことを知る。友人は、逮捕された女性の中には妊娠している女性もいて、産んだ子供を奪われていたと話す。女性教師が政府機関で働く夫の行動に疑念を抱きはじめた矢先、ある老婆が訪ねてくる。
政治犯の投獄については、南米映画で幾度となく見てきた事実ではあるが、この映画では、拷問を受けた側の苦しみそのものではなく、保守層の女性からの視点で描かれているのが新鮮だった。純真無垢な子供の笑顔がたまらなくキュートなだけに、彼女の出生の秘密が、重く胸にのしかかる。
厳格な教師で、裕福な夫もいるエリートの女性が、愛する娘がどこから連れてこられたのかを知ろうとすることで、夫との亀裂が生まれる。
絶対に口を割らない夫の態度は、事実が明らかにならなくても、疑わずにはいられない。それを感じ取った彼女の苦悩と絶望がひしひしと伝わってきた。アルゼンチンの負の遺産を市民の目から見つけた問題作である。2007.4
カルロス・ディエギス監督、ヴィニシウス・ヂ・モライス原作、カエターノ・ヴェローゾ音楽、トニー・ガヒード、パトリシア・フランサ、ムリロ・ベニーシオ、ミウトン・ゴンサウヴェス出演☆スラム街の丘に住む人気ミュージシャン、オルフェは、名うてのプレイボーイ。丘の女たちは、誰もがオルフェに夢中だ。カーニヴァルを前にしたある日、オルフェは、田舎から出てきた純真な女性ユリディスと出会い、恋に落ちる。
一方、オルフェの幼なじみは、ギャングのボスとなり、丘を牛耳っていた。
パソコンや携帯電話が出てきたり、ギャルのファッションがヘソ出しだったりするので、現代の設定ということはわかるのだが、主役の二人のキャラはあくまで古典的。はじめは違和感あったが、見ているうちに、こういうアンバランスな世界もありかな〜、とけっこう楽しんで見れた。バズ・ラーマンの「ロミオ&ジュリエット」に近いものあり。
ギャングのボス役の俳優がなかなかのイケメンで、つい悪役に肩入れしてしまいました。リオのカーニバル、ぜひ行ってみたいがいつか行けるだろうか…。2007.3
ALWAYS 三丁目の夕日
山崎貴監督、吉岡秀隆、堤真一、小雪、堀北真希ほか出演☆昭和33年の東京。小さな自動車修理工場・鈴木オートに、青森から集団就職で六子がやってきた。そして、向かいに住む売れない小説家・竜之介のもとには、飲み屋の美人おかみ・ヒロミが連れてきた少年・淳之介が転がり込む。
戦後の混乱が残る昭和30年代。人々は貧しいながらも希望を持って生き生きと暮らしていた…。ノスタルジックにあふれ、人間愛を感じられるとてもいい映画ではあるのだが、残念ながらまったく映画の世界に入り込めなかった。昭和30年代を感じさせる看板や車などは楽しめたんだけど、人物のキャラがありきたりでタイクツー。この映画を楽しめた人は、そこそこ自分の環境に満足している余裕のある人たちなのでしょう。
首相が言ってる「美しい国」というのは、こういう劇画チックな世界にしか存在しないような理想国家なのかもしれませんね。2007.1
男たちの挽歌 英雄本色
ジョン・ウー監督、ツイ・ハーク製作、チョウ・ユンファ、ティ・ロン、レスリー・チャン出演☆香港マフィアの幹部ロンと相棒マークは無二の親友。ロンには弟がいたが、彼には自分がマフィアだとは言えずにいた。弟から「刑事になる」と告げられた直後、ロンは仲間の裏切りにより逮捕される。
数年後、出所したロンは、堅気になることを決意するが、元組織から命を狙われる。一方、ロンの敵討ちで足を負傷したマークは掃除係になっていた。
ベタである。作りも安っぽい。でも面白い。荒削りではあるが、ドンパチシーン、アクションシーンはストレス発散できるし、何より、役者がとても魅力的。
この頃のユンファって、どん臭くて間抜けだけどそこがたまらない。&レスリーは当時から目力が超一級。かわいい顔してるんだけど、あの憂いのある目は、どんな役をやらせてもはまってしまう。この2人の旬の時代の映画を久々に見たが、やっぱりスターは違うよなあ。
レスリーが兄につっかかるシーンでは、思わずホロリ。レスリーは永遠に不滅です。。そういえば昨日が命日でした。合掌 2007.4
男たちの挽歌2 英雄本色
ジョン・ウー監督、ディーン・セキ、ティ・ロン、チョウ・ユンファ、レスリー・チャン出演☆刑事の弟チェンの潜入捜査に協力することになった元マフィアのロンは、かつての仲間セキを助け、ニューヨークに避難させる。だが、娘が殺されたとしったセキは廃人となってしまう。そんなセキに手を差し伸べたのは、かつてのロンの相棒マークの双子の弟であった。
パート1以上に激しいドンパチも楽しめるが、ドラマ的にもしっかり作られている。人情にあつい男をやらせたらユンファはピカ一。レスリーの壮絶な最後は涙。。です。2007.5
王の男 THE KING AND THE CLOWN
イ・ジュンイク監督、 カム・ウソン、イ・ジュンギ、チョン・ジニョン、カン・ソンヨン出演☆舞台は16世紀の朝鮮半島。芸人のチャンセンと女形のコンギルは、都・漢陽で、王・燕山君(ヨンサングン・「チャングム」に出てきた王の父親?)のよからぬ噂を耳にする。チャンセンたちが芸生と王の乱交ぶりを皮肉った芝居を披露すると、民衆は大喜び。
しかし、それを見た官吏によって捕らえられてしまう。チャンセンは「王の前で芝居を披露して王が笑ったら、侮辱したことにはならない」と官吏に直訴。芝居は見事に成功し、王を大笑いさせる。まもなく、チャンセンたちは宮廷お抱えの芸人となるが、官吏たちは不満を募らせる。そして怒りの矛先は、王に寵愛されている女形コンギルに向けられる。
どこの国の歴史にもバカ殿は一人や二人登場するものだ。日本だったら、お犬様・綱吉あたりだろうか。
一介の旅芸人が、綺麗な顔立ちのせいでバカ殿に寵愛され、人生を狂わされてしまう。
よくある話ではあるが、お決まりの悲劇に、宮廷を皮肉った芝居を絡めているのが新鮮だった。
官吏の汚職や、王の実母の暗殺といった宮廷の腐敗が、芝居によって明らかにされ、ただのバカ殿が、歴史に名を残す狂気の暴君になっていく。劣等感の塊のような王が、だんだんと壊れていくさまを、チョン・ジニョンが熱演していた。
この手の映画、日本ではあまり受けない気がするけど、韓国では大ヒットしたようだ。お国事情か国民性かは定かではないが、こういった皮肉な作品を、韓国の人々は欲しているのだろう。「トンマッコル」も「グエムル」も同じように社会批判精神がストレートに描かれていし…。
官吏、王、そして芸人二人の行く末を明かさないエンディングは、希望と絶望、どちらにもとることができる。それを選ぶのはあなたたちですよ、しっかり考えてね、と、宿題を出されている気がしてならなかった。エンターテイメント映画ではあるが、今の時代にも通じるものがあり、なかなか奥が深い作品だった。
&大絶賛された美しいイ・ジュンギもよかったけど、バカ殿最高!志村ケンもびっくり!チョン・ジニョンの今後に期待したい。2006.12
奥さまは魔女 BEWITCHED ××
ノーラ・エフロン監督、ニコール・キッドマン、ウィル・フェレル、シャーリー・マクレーン、マイケル・ケイン、ジェイソン・シュワルツマン出演☆魔女のイザベルは、ひょんなことから、「奥さまは魔女」のリメイク・ドラマにサマンサ役で出演することになる。ダーリン役のジャックは、横柄極まりない落ち目の役者で…。
「奥さまは魔女」ファンとしては許せない駄作。評判どおり、あらら、やっちゃったって感じ。アカデミー俳優をずらりと揃えても、脚本が悪いと失敗するお手本のよう。
二人の恋の行方なんて脇に置いといて、ママ役の魔女とか、ドジなクララおばさまのキャラを前面に出せばよかったのに。魔女顔のシャーリーまで出てるのに、もったいなーい。2006.6 参考CINEMA:「電話で抱きしめて」
オール・ザ・キングスメン ALL THE KING'S MEN
ロバート・ロッセン監督、ブロデリック・クロフォード、ジョーン・ドルー、ジョン・アイアランド出演☆田舎町で演説の妨害を受けながらも、農民のために闘っている男ウィリーの姿に共感した新聞記者は、彼の仕事を手伝うようになる。やがて、時代は変わり、ウィリーは州知事にまで登りつめる。彼は権力を傘に不正を働き、家族をも裏切る悪人に変わり果てていた。
ウィリーは確かに嫌なやつなんだけど、昔の政治家の原点が見てとれた。日本で言えば田中角栄かな。はじめは世の中を変えよう、と理想に燃えて立ち上がっても、力を持つと人は変わってしまう。貧乏暮らしの反動からか、金と権力の上に胡坐をかいてしまうのだ。人間の悲しいサガ…。
それでも私は、最近はやりのお坊ちゃん育ちの二世政治家よりは、人間味があっていいと思っている。庶民の気持ちや人の弱さ、ずるさを知っている悪徳政治家のほうが、人間としての魅力を感じてしまう。
ショーン・ペン、ジュード・ロウ、アンソニーホプキンス、ケイト・ウィンスレットという豪華キャストのリメイク版が、オリジナルを上回る出来になることを期待したい。 2006.9
The Optimist (セルビア)★
ゴラン・バスカリェーヴィチ監督、ラザル・リストフスキー出演☆洪水の被災者に訪れたナゾの男は、失意の人々に「楽観的になろう」と語りかけ、催眠術をかけていく。
娘をレイプされた父親は、相手の男を撃ち殺そうと押しかけるが、逆襲されてしまう。
ギャンブル狂の青年は、父親の葬儀の最中でも、ギャンブルに夢中で…。
不治の病に侵された人々に病気を治す温泉がある、と吹き込み、バスツアーに連れ出す男の正体は…。
などなど、悲劇的状況にある人々に追い討ちをかけるように、とんでもない出来事が訪れる。不謹慎かもしれないが、どのエピソードも笑わずにはいられない。バルカン映画らしい、逆境を蹴散らす力強さと、楽観主義にあふれた作品だ。
クストリッツア監督の「アンダーグラウンド」に出演していたクロ役のラザルが、オムニバスすべての話に登場。髪そめたり、若作りしたり、ヒゲはやしたりするんだけど、すべて存在感あり。すごい役者だ。日本でいえば三国連太郎か。2006.10.16 釜山国際映画祭06にて
おわらない物語 アビバの場合 PALINDROMES
トッド・ソロンズ監督、エレン・バーキン、スティーヴン・アドリー=ギアギス、ジェニファー・ジェイソン・リー出演☆空想癖のある少女アビバは、子供を生んで母親になることを夢見ている。ある日、ジュダという少年と初体験したアビバが妊娠した。両親は無理やり中絶手術を受けさせるが、アビバはショックから家を出てしまう。
あらすじを書くとこんな感じだが、アビバが大きくなったり小さくなったり若くなったり黒くなったりする、とても奇天烈で不可思議な映画。でも、よくわからないんだけど、なんとなく愛おしくなるから不思議。アビバの姿は七変化しても、アビバの本質は変わらないのよねえ。世界にはアビバみたいに母になることを夢見る少女がたくさんいるんだろうなあ。アビバのバカがつくほどの純粋さにすがすがしさを感じた。2006.3
参考CINEMA:「ウェルカム・ドールハウス」「ストーリーテリング」「ハピネス」
オペラ座の怪人 THE PHANTOM OF THE OPERA
ジョエル・シューマカー監督、ジェラルド・バトラー、エミー・ロッサム、パトリック・ウィルソン、ミランダ・リチャードソン、ミニー・ドライヴァー出演☆舞台は1870年のパリ。オペラ座に住みつき、人々を恐怖に陥れているファントムは、若い女性クリスティーヌに恋をし、姿を隠して彼女に歌の指導をしてきた。クリスティーヌは、ファントムの望みどおり、新作オペラの主演に抜擢されスターになるのだが…。
超ロングランのミュージカルの映画版。歌はほんとにすばらしいんだけど、やっぱりこれは劇場で見たい、と思った。歌と舞台装置の迫力が売りのミュージカルだから、映画だと限界がある。シャンデリアのシーンはやっぱり舞台でなきゃ。怪人役も俳優にも、あまり魅力を感じなかったし。期待していただけにちょっと残念。2006.5
参考CINEMA:「フォーン・ブース」