気まぐれCINEMAレビュー BackNumber
2006年

【カ行】

過去の「気まぐれCINEMAレビュー」をまとめました。
満足度は★で、がっかり度は×で評価しました。
五十音順にタイトルが並んでいます。
データベースとしてご活用下さい。

【過去の年間BEST3】
BackNumber CINE LATINO (2007年〜
中南米映画 日本未公開版
2007年〜
【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】  【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】  【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】  【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 
【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】  【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】  【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】  【ヤ】【ユ】【ヨ】 
【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】  【ワ】【タイトル不明】
1999〜2005年
【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】  【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】  【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】  【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 
【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】  【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】  【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】  【ヤ】【ユ】【ヨ】 
【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】  【ワ】【タイトル不明】

【カ ka】

カランジル CARANDIRU (ブラジル) 
エクトール・バベンコ監督、ルイス・カルロス・ヴァスコンセロス、ミウトン・ゴンサウヴェス、アイルトン・グラーサ、ロドリゴ・サントロ出演
☆サンパウロにあるカランジル刑務所に、エイズ感染予防のため新しい医師が着任した。刑務所には、強盗犯や麻薬ディーラーなど、7千人もの囚人が収容され、定員オーバーの状態にあったが、彼らなりの秩序を保ちながら暮らしていた。医師は、囚人たちと心を通わせ、刑務所内のイベントにも進んで参加するようになる。しかし、所内のサッカー大会当日、小競り合いをきっかけに惨劇がおとずれる。
 1992年、カランジル刑務所で軍警察が111人もの囚人を射殺したという実話を、巨匠ヘクトル・バベンコが映画化した問題作。
医師の目から見た囚人たちは、荒くれ者ではあるけれど、血の通った人間でもある。個性豊かな囚人たちのさまざまな事情を断片的に紹介しながら、大きな悲劇に向かっていくまでが、ストレートに、時にコミカルに描かれていく。
刑務所内で恋に落ちたゲイ・カップルの結婚式の微笑ましさは、無抵抗の人々を虫けらのように銃殺する襲撃シーンの残酷さをいっそう際立たせている。人の命の重さについて考えずにはいられない問題作である。こういう映画は、平和ボケの日本でこそ公開されるべきでしょう。2007.1

カクタス・ジャック MATANDO CABOS (2004年・メキシコ)
アレファンドロ・ロサーノ監督、トニー・ダルトン、アナ・クラウディア・タランコン出演
☆町の大物カボスの娘と付き合いはじめたジャックは、ひょんなことから気絶したカボスを車のトランクに積んで逃げまわることに。一方、カボスらしき男の頭に袋をかぶせ誘拐を企てたボッチャたち。実は、その男は、清掃員のボッチャの父親だった…。
みーんな間抜けで、次から次へと災難がふりかかるハードボイルド・コメディ。暴力描写が話題になったが、私的には、超うるさいオウムの鳴き声が一番印象に残っている。
ジャックとボッチャは、どちらも今時の若いイケメンだったけど、元伝説のレスラーがもっともインパクトあり。2007.6

カマキリな女 LUCIA, LUCIA (2003年・メキシコ)
アントニオ・セラーノ監督、セシリア・ロス、クノ・ベッカー、カルロス・アルヴァレス=ノヴォア出演
☆童話作家ルチアの夫が、バケーションへ向かう空港で失踪した。ルチアは同じアパートの住人の協力を得て、夫の捜索を始める。
コミカルなテイストの明るいサスペンス。コメディなのかドラマなのか、今ひとつ中途半端で入りづらかった。犯罪の経緯もとっちらかっていてよく分からなかったし、犬が殺されたのも腑に落ちないし…。
でも、セシリア・ロスは圧倒的な存在感があり、どんな格好をしても凛としていて美しい。ああいう年の重ね方したいわ〜。アメリカで言えば、フェイ・ダナウェイか。
老人役には、「ローサのぬくもり」でもよき隣人役を好演していたノヴォア。スペインではおそらく名わき役なのでしょう&セシリアに惚れる若者を演じたクノ・ベッカー、なかなかキュートだわ、と思ってたらサッカー映画「GOAL」の主役でした。今後、出世しそうな注目株です。2007.5

カポーティ CAPOTE
ベネット・ミラー監督、フィリップ・シーモア・ホフマン、キャサリン・キーナー、クリス・クーパー出演
☆1959年、カンザス州で一家4人の惨殺事件が発生。ニューヨークのバーで夜な夜な仲間たちと飲み歩いていた人気作家のカポーティは、この事件に興味を抱き、現地へと赴く。
まもなく、二人の犯人が逮捕された。カポーティは、犯人との面会を重ねるうちに、彼らの生い立ちに迫っていく。
カポーティという稀有の天才作家を、風貌が似ているホフマンが見事に演じた伝記映画。「冷血」を読んだときに、ひどく興奮した覚えがあったし、カポーティの小説は学生時代にひととおり読んでいたので、かなり期待していた。それだけに、ちょっとがっかりの出来。「冷血」を書き上げるまでのカポーティの心の変化を描いているのはわかるのだか、展開が単調で、ところどころ飽きてしまった。
もう少し、犯人側の心理変化も描いたほうが、物語に抑揚が出た気がする。
もう1度みたら、何か新しい発見ができそうな作品ではあるので、忘れたころに再度、見てみたい。映画をみて「冷血」をもう1度読みたい、と思えなかったのが、残念だった。2007.6

ガウディ・アフタヌーン GAUDI AFTERNOON
スーザン・シーデルマン監督、ジュディ・デイヴィス、マーシャ・ゲイ・ハーデン、リリ・テイラー、ジュリエット・ルイス出演
☆バルセロナに住むアメリカ人女性カサンドラのもとにフランキーという謎の女性が訪ねてきた。彼女は、失踪した夫ベンを探してほしいと頼む。翻訳の仕事がスランプ気味だったカサンドラは報酬のため、渋々承諾。
探っていくと、ベンというのはオナベ(女性)で、着飾ったフランキーが男だということが判明する。
ガウディの建築に囲まれた町を舞台にしたライト・コメディ。リリ・テイラーがオナベ役なのは予想できたが、まさかマーシャが男役とは!勇気ある挑戦に拍手!
役者は曲者ぞろいでキャラも個性的。舞台はカラフルなバルセロナ、とくれば、面白くなる要素はたくさんあるのだが、なんだかぬるい。あんまり面白くなーい。たぶんテンポが悪いのでしょう。こういうスラップスティックなコメディは、スピード感がないと飽きがくる。のってきたかなーと思っても、途中で余計なシーンが多いから、失速するし…。テーマと素材はいいだけに、もったいない出来だった。2007.1 参考:脇役たち(リリ・テイラー

隠された記憶 CACHE
ミヒャエル・ハネケ監督、ダニエル・オートゥイユ、ジュリエット・ビノシュ、モーリス・ベニシュー出演
☆テレビのキャスター、ジョルジュの元に、ある日、自分の家を監視しているようなビデオテープが送られてきた。なぞのテープに対する恐怖が、ジョルジュの家族を襲い家族間に亀裂が生まれる。さらにテープの内容は、単なる監視に留まらず、ジョルジュの過去へと向かっていく。
 ストーカー的な行為によって、人の心が壊されていくさまが綿密に描かれていた。ハネケ監督のことだから普通のサスペンスではないな、と予想はしていたものの、エンディングにはさすがにびっくり。この映画はサスペンスというよりは、恐怖心、猜疑心がテーマの心理学的実験映画に近いかもしれない。(「ブレア・ウィッチ」を高尚にしたような作品、と言えなくもないですが)2007.2

カサノバ CASANOVA  ×
ラッセ・ハルストレム監督、ヒース・レジャー、シエナ・ミラー、ジェレミー・アイアンズ、オリヴァー・プラット、レナ・オリン出演
☆18世紀のヴェネチア。多くの女性たちに愛をささやき虜にしていたカサノバは、女性の権利を訴えるフェミニスト、フランチェスカと出会い、強く引かれる。しかし彼女は、プレイボーイとして名高いカサノバに嫌悪感を抱いているため、自分がカサノバだと名乗れない。
 愛の伝道師カサノバを男前ヒースがどう演じるか、かなり期待していたのだが、カサノバが本当の恋をする、というストーリーになってしまっていたので拍子抜け。サザーランドの「カサノバ」とは比べようもない内容だった。ハルストレム監督作品は嫌いじゃないが、いつも毒を抜いてしまうので、主人公の危険な魅力がなくなってしまう。
 カサノバは実は…という最後のオチは面白いとは思うけど、自分の期待する方向とあまりにも違ってしまったので、最後まで話に乗れなかった。フランチェスカを演じたシエナはよかった。ただの美女役以外にもいろいろできる女優のようです。見直した!2007.4 参考CINEMA:「ショコラ」「サイダーハウス・ルール

カスパー・ハウザーの謎 EVERY MAN FOR HIMSELF AND GOD AGAINST ALL
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、ブルーノ・S、ワルター・ラーデンガスト出演
☆19世紀初頭、地下室に閉じ込められて育った男、カスパー・ハウザーが、言葉を覚え、人とコミュニケーションがとれるようになりながらも、あっけない最期を遂げるまでを独特の切り口で描いた作品。
やっぱりヘルツォークは難しい。よくわからない。だけど、なぜか見たくなる。カスパーの正体は最後までわからなかったが、ひょっとして宇宙人?
ヘルツォークの映画に出てくる人って、いずれも超越している人ばかりだ。「ワイルド・ブルー・ヨンダー」も宇宙人の話だったし。実はヘルツォーク監督が宇宙人で、映画という媒体を使ってメッセージを送っているのかも。音楽の使い方はこの映画でも冴えてました。2006.12 参考CINEMA:「ワイルド・ブルー・ヨンダー」「フィツカラルド」「ノスフェラトゥ」「神に選ばれし無敵の男

カナリア CANARY
塩田明彦監督、石田法嗣、谷村美月、西島秀俊、りょう、つぐみ出演
☆テロ事件を起こしたカルト教団「ニルバーナ」の施設で多感な時期を過ごした12歳の少年が、施設を抜け出し、引き離された妹へと会いに行く。
 カルト教団という特異な社会をリアルに描いてはいるのだが、オウム事件当時、さんざんTVで見せられた世界なので、驚きはそれほど感じなかった。
 純粋すぎる人たちの危うさは、伝わってきたのだが、もうちょっと突っ込んでもよかった気がする。でも、これは、あくまで二人の少年少女の逃避行のお話なので、これでよいのかもしれないが。大きな感動もなかったが、とても見やすい好感の持てる青春ドラマだった。2007.3

かもめ食堂
荻上直子監督、小林聡美、もたいまさこ、片桐はいり出演
☆ヘルシンキで日本式の小さな食堂をはじめたサチエだが、お客はまったく入らない。ある日、日本オタクの青年に「ガッチャマン」の歌詞を教えてと頼まれるが、サチエは途中までしか思い出せず…。
ひょうひょうとした3人の演技は予想通りだったが、カウリスマキ映画っぽくて楽しめた。いきなり、どうして女が一人でフィンランド? サチエの突拍子もない行動力に比べて、経営方針はいたってシンプル。かたくなに「おにぎり」にこだわり宣伝もしない。いつかはお客さんがやってくるはず、と何の根拠もなくでーんと構えているサチエがむちゃくちゃかっこいい。
よくあるサクセス・ストーリーとは違うけど、マイペースでやってるうちに少しずつお客さんが増えてきました〜、というほのぼのしたノリがたまらない。こういう映画が受ける日本、大好きとまではいえないけど、けっこう好きかも。2007.4

亀は意外と速く泳ぐ
三木聡監督、上野樹里、蒼井優、岩松了、ふせえり出演
☆若い主婦スズメには、夫の大事なペットである亀と、幼馴染のクジャクという親友がいる。ある日、豆粒のような広告「スパイ募集」に目をとめたスズメは…。
脱力系コメディ。三木聡の真骨頂!初っ端からニヤニヤしながら楽しめました。この手のコメディは大画面では見る気がしない。部屋でスナック菓子でも食べながら脱力状態で見るに限ります。今をときめく樹里&優ちゃんも、しっかりこのゆる〜い世界にはまっていた。脇役のキャラが「時効警察」のまんまなのがちょっと気になったけど、好きなのでヨシとしよう。2007.5

カルテット QUARTET
久石譲監督、袴田吉彦、桜井幸子、大森南朋、久木田薫、草村礼子、三浦友和出演
☆音大を卒業した4人の若者が、それぞれ思うようにいかない人生を送りながらも4人でカルテットを組む、という青春音楽映画。
 映画の出来としては、正直、学生のデビュー作並みだと思ったら、久石譲の監督デビュー作だったのね。納得。映画音楽界の巨匠がいまさら映画とらなくてもいいとは思うけど、まあ、とってみたかったのでしょう。
 雨のシーンを多用しすぎてたり、これ見よがしに雷鳴が鳴り響いたり、ドサ周りのシーンが無意味に長かったり、などなど、陳腐と思えるシーンは多々あったけど、でも、さすがに音楽はよかった!あの4人のカルテット曲をフルで聞きたいがために、平日の夜中にも関わらず最後までつい見てしまいました。
 あらためて音楽の力ってすごい。何度も何度も同じフレーズが流れても、いい音楽ってうるさく思わない。また聞きたいと思えてくる。名作「砂の器」を見たときもそうだった。もう、話そっちのけで、あの音楽に酔っていた。
映画好きには、ストーリー派、影像派、SFX派、などいろいろいるが、私は、つまんない映画でも、音楽がいいと、見てよかった、と思えてしまう、かなり音楽重視派のようです。2006.2.6

玻璃(ガラス)の城
メイベル・チャン監督、レオン・ライ、スー・チー 、ダニエル・ウー、ニコラ・チェン出演
☆学生時代を共に過ごした最愛の人と再会した中年の男女。二人にはすでに家族があったが、想いを抑えられず、一緒に暮らし始める。そんな二人が香港返還を控えた1997年の大晦日にロンドンで事故死する。遺品を整理しに来た子供たちは、親たちの出会いから別れ、再会の歴史を知ることになる。
 典型的な悲恋もので見飽きた感はあるが、役者がいい味を出していた。70年代の若者役は、ちょっとダサいけど誠実そうなレオン・ライ、天真爛漫な女子大生にはオバQ顔のスー・チー。二人ともレトロな雰囲気がぴったり。そして、現代っ子の息子役をダニエルが初々しく演じていた。
 1997年返還の一大イベントに、香港の過去と現在、ある男女のラブ・ストーリーを上手く絡めていた。2006.10 参考CINEMA:「宋家の三姉妹

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【キ ki】

キッチン・ストーリー KITCHEN STORIES
ベント・ハーメル監督、ヨアキム・カルメイヤー、トーマス・ノールシュトローム出演
☆1950年代。スウェーデンの家庭研究所が、独身男性を対象にした台所動向調査を実施することになった。調査員は、監視台から住人を観察するだけで、一切言葉を交わしてはならない、という規則があるのだが、初老の男イザックと調査員フォルケは、次第に心を通わせていく。
 台詞は少ないが、行動の一つ一つがちょっとずつおかしくて、カウリスマキの世界を彷彿とさせた。イザックとフォルケ。似たもの同士が、戸惑いながらも心を通わせるまでが丁寧に描かれていた。孤独な人の気持ちは、同じように孤独を感じている人だけにしか、わからないのかもしれないなあ。2007.2

君とボクの虹色の世界 ME AND YOU AND EVERYONE WE KNOW
ミランダ・ジュライ監督・主演、ジョン・ホークス、マイルス・トンプソン出演
☆ビデオアーティストを夢みる女性クリスティーンは、ある日、老人の付き添いで靴を買いに行き、販売員のリチャードに一目ぼれする。一方、リチャードは、妻と別れたばかりで恋に臆病になり、さらに、2人の息子はネットでのエロ・チャットに夢中になる。
小さな町の住人は、みんなちょっとだけずれていて、それでも誰かと心を通わせずにはいられない…。こういうズレた感覚、大好きです。チャットやビデオアートを絡ませるあたりが、今風でポップな感じ。7歳の男子のエロ・チャットの相手には正直、笑ったけど、わからなくはないなあ。誰に感情移入するかは人それぞれ。小さな幸せを感じられるハート・ウォーミング・ドラマです。2006.3

キンキーブーツ KINKY BOOTS
ジュリアン・ジャロルド監督、ジョエル・エドガートン、キウェテル・イジョフォー、サラ=ジェーン・ポッツ出演
☆ノーサンプトンの老舗靴工場の社長が急死し、田舎を出てロンドンへいく予定だった息子チャーリーが跡を継ぐ。しかし、工場は倒産寸前。チャーリーは、ドラッグ・クイーンのローラに助けられたことをきっかけに、女装用の派手なブーツを作ることを決意する。
 窮地に立たされた田舎モノが一念発起して夢をつかむ、イギリス映画定番のハートフル・コメディ。ドラッグクイーンの装いに比べて、映画自体はとても地味だが、丁寧に作られていて好感がもてた。田舎特有の保守的な部分も面白く描かれていたし。ローラ役のイジョフォーは、「惰天使の〜」と同一人物とは思えない!ワハハの梅ちゃんとだぶって見えた。2007.6

キンスキー、我が最愛の敵 MEIN LIEBSTER FEIND - KLAUS KINSKI
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、クラウス・キンスキー、クラウディア・カルディナーレ出演
☆怪優クラウス・キンスキーの人となりを、盟友ヘルツォーク監督が追っていくドキュメンタリー。撮影時、制御不能に陥ったキンスキーの生の姿が見れただけでも大満足。常識的な人間からかけ離れた世界を描き続けるヘルツォーク監督自身も、一般的ではないのだろうが、少なくとも、この映画の中の監督はまともに見えた。それだけキンスキーの個性が際立っているというこでしょう。
「フィツカラルド」の撮影時、先住民族の頭首が、荒れ狂うキンスキーをみて、監督に「殺してやろうか」と持ちかけた、というエピソードにはまいりました。
お近づきにはなりたくないけど、無視できない怪優。今はそういう人がいなくなってしまい寂しい感もある。2007.5 参考CINEMA:「ノスフェラトゥ」「神に選ばれし無敵の男」「ワイルドブルー・ヨンダー」 「カスパー・ハウザーの謎」「フィツカラルド

きみに読む物語  THE NOTEBOOK
ニック・カサヴェテス監督、ニコラス・スパークス原作、ライアン・ゴズリング、レイチェル・マクアダムス、ジーナ・ローランズ、ジェームズ・ガーナー出演
☆初老のデュークは、痴呆症の女性のもとへ毎日通って、ある物語を読み聞かせている。それは、1940年、ノース・カロライナ州の田舎で出会った若い男女の恋と別れの物語だった。
 「感動の」と冠のつく作品が苦手なので、まったく期待していなかったが、最愛の人が痴呆症になってしまときの絶望感は想像しただけでも涙が出た。若い二人の恋物語は予定調和でつまらなかった。もっと、老人二人のエピソードを描いてほしかった。
 ジーナ・ローランズとジェームズ・ガーナー、二人の名演技は見るに値する。さすがです。ニック監督の実績はずいぶんと母ジーナの力が大きいようで。「ミルドレッド」も名作です。2006.7

北の零年
行定勲監督、吉永小百合、渡辺謙、豊川悦司、柳葉敏郎、石田ゆり子、香川照之ほか出演
☆明治4年。淡路島の人々は、新政府から、北海道・静内への移住を命じられ、北の大地へたどり着く。北海道開拓団の苦労を描いた作品かと思ったら、男と女の裏切り話が中心で、農地開拓に苦労する姿がはしょられてしまっていた。すぐに大げさな音楽に逃げる演出も鼻についた。2006.12 参考CINEMA:「GO

嫌われ松子の一生
中島哲也監督、中谷美紀、瑛太、伊勢谷友介、黒沢あすか出演
☆戦後まもなく福岡で生まれた松子はスクスクとまっすぐに育ち、中学校の教師となるが、窃盗事件を解決するため、自分がやったとウソをつき、学校を解雇される。その後、作家の恋人の自殺、ヒモ殺害などを経て、あっという間に転落人生へ。
大ベストセラーの映画化なので、小説にはまった人とそうでない人では、感想も違ってくるだろうが、私は小説読んでないので、ピュアな気持ちで松子にのぞめた。彼女の人生を超不幸と感じる人も多いようだが、映画をみる限りでは、松子の人生、かっこいいじゃん、である。松子は人生に何が起こっても変わらない。ぶれない。自分の信念を貫いている。それは「人を信じる」ということ(逆に言えば、学習してないってことにもなるが)。
松子のように生きられるのも才能の一つ。不良のガキどもに説教して殺されるなんて、松子は殉教者だわ〜。ミュージカル仕立てで、ファッショナブルにしてあったので、単純なエンタメ作品としても楽しめた。この映画は劇場で見たかったなあ、とちょっと後悔。2007.5 参考CINEMA:「下妻物語

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【ク ku】

クィーン THE QUEEN
スティーヴン・フリアーズ監督、
レビューはCINEMAの監督たち(S・フリアーズ)へ 

クアトロ・ディアス O QUE E ISSO, COMPANHEIRO? (1997年・ブラジル)
ブルーノ・バレット監督、ペドロ・カルドーゾ、フェルナンダ・トーレス、アラン・アーキン、フェルナンダ・モンテネグロ出演
☆1969年、軍事政権下にあったブラジルでは、若者を中心とした抗議デモが盛んに行われていた。青二才の学生フェルディナンドは、急進派の一味に誘われ、銀行襲撃に参加。さらに、世界から注目を浴びるために、アメリカ大使の誘拐を提案する。
 60〜70年代といえば、世界中の若者が怒りに燃え、激しく揺れていた時代だが、遠いブラジルでは軍事政権化にあり、抗議デモが盛んだったことをこの映画ではじめて知った。貧弱で頭でっかちのフェルナンドが、時代の波に巻き込まれ、テロ活動に身を投じていく。こういう学生、当時は世界中にたくさんいたのだろう。もし、自分があの時代に学生だったら…。そんなことをいろいろと想像してしまった。
 アメリカ大使役のアラン・アーキンは存在感抜群。大使としての威厳を持ちながらも、ときには人間としての弱さ・やさしさも見せる。トイレで泣くシーンは印象的だった。
 もし、大使を殺害していたら、フェルナンドは今でも世界中を逃亡していたかもしれない。たられば、を言ってもきりがないが、実話なだけに、いろいろなことを想像してしまった。2007.5

クリップス REDEMPTION: THE STAN TOOKIE WILLIAMS STORY
ヴォンディ・カーティス=ホール監督、ジェイミー・フォックス、リン・ウィットフィールド出演
☆元ギャング団のボスで死刑囚のトゥッキー・ウィリアムズは、女性ジャーナリストとの面会をきっかけに、自分の過去の過ちを認め、非暴力の世界を望むようになる。ウイリアムズは、彼女を通じて、非暴力を世間に訴え、暴力の無意味さを記した幼児書を出版する。
ノーベル平和賞と文学賞の候補者になった実在の人物の反省を描いた伝記映画。
ウィリアムズという囚人作家の存在を知らなかったので興味深かった。いつまでたっても世の中から貧困と暴力はなくならないが、草の根的に子供たちに平和を訴えていくことの大切さを感じた。TVドラマのような地味な作りだが、ジェイミー・フォックスはさすがの存在感。ポストD・ワシントンの地位は、ほぼ当確! 2007.6

グリーンフィッシュ THE GREEN FISH
イ・チャンドン監督、ハン・ソッキュ、 シム・ヘジン、ムン・ソングン、ソン・ガンホ出演
☆除隊後、職もなくフラフラしていたマクトンは、汽車の中で出会った魔性の女に会いにいき、彼女の情夫のもとで働きはじめる。
 身障者の長男の世話をする母、アル中の刑事、卵売りの兄、そしてバーで働く妹。マクトンの夢は、そんな家族と一緒に店をだして働くこと。ヤクザな仕事にはまっていく一方で、家族愛を大切にするマクトン。そんな彼の二面性が魅力的に描かれていた。
女からみてあの魔性の女はまったく魅力的に見えず。でも、殿方は放っておけないタイプなのでしょう。チャンドン監督のデビュー作ということで、もう少し深みのある作品を期待していたのだが、意外にシンプルなチンピラ映画だった。ソッキュに嫉妬するチンピラ役にソン・ガンホが出ていた。チョイ役ではあったが、さすがに顔はインパクトあり。2006.6 参考CINEMA:「ペパーミント・キャンディー」「オアシス」「密陽 シークレット・サンシャイン」

靴に恋して PIEDRAS 
ラモン・サラサール監督、アントニア・サン・フアン、ナイワ・ニムリ、アンヘラ・モリーナ、ビッキー・ペニャ、モニカ・セルベラ、エンリケ・アルキデス、ダニエレ・リオッティ、ルドルフォ・デ・ソーザ出演
☆悩みを抱えた5人の女たちの生き方を、靴を絡めてつづった群像ドラマ。
 パンプスを履く娼館のマダム、スニーカーを吐く知的障害者の娘、サンダルで運転するタクシー運転手、小さいサイズの靴を履くセレブ妻、盗んだ靴を履く靴屋の店員。
年齢も人生もまったく違う女たちは、それぞれに悩みを抱えている。スニーカーをはく娘は、バイトできている看護士に恋をしてしまい、タクシー運転手は、夫の連れ子に手を焼き、そして、靴を盗む店員は、恋人に別れを告げられる。
 5人のキャラクターがそれぞれ個性的で、靴を絡めるという構成もとてもユニーク。はじめは、5人がまったく別々の動きをしているのだが、徐々につながりが見えてくる。
 群像劇の定番ではあるんだけど、そのつなげ方も自然で、「クラッシュ」を見たときのように、後半でぐっと気持ちが盛り上がってきた。
 みんな必死でもがいて生きているんだけど、なかなかうまく生きられない。自分が今、あまりいい状態にいないということもあるけど、それぞれの女たちに感情移入してしまい、とてもせつない気持ちになった。
 彼女達が最後に出した結論にも納得。この映画、脚本がすごくうまいと思った。かなりオススメです。2006.4

クラッシュ CRASH
ポール・ハギス監督、ドン・チードル、ライアン・フィリップ、マット・ディロン、ジェニファー・エスポジート、テレンス・ハワード、タンディ・ニュートン、ウィリアム・フィクトナー、サンドラ・ブロック、ブレンダン・フレイザー出演
☆舞台はさまざまな人種が混在して暮らす冬のLA。
黒人刑事グラハム(D・チードル)はヒスパニック系の彼女がいるのに、母親に白人の彼女がいるとウソをつき、
雑貨店を営むペルシャ人とその娘は、警備のために銃を買おうとして不当な差別を受ける。
白人のエリート検事(B・フレイザー)は、高慢な妻(S・ブロック)と買い物中、若い黒人二人に車を盗まれ、
人種差別主義者の警官ライアン(M・ディロン)は、盗難車と同じ高級車に乗る黒人デイレクター・キャメロン(T・ハワード)の妻クリスティン(T・ニュートン)にセクハラを。正義感の強い同僚のハンセン(R・フィリップ)はそんな同僚の行為に嫌悪感を覚える…。
 それぞれのコンビが“肌の色の違い”という偏見に直面する、全員が主役の群像劇。
 これほどまでに差別的発言が飛び交う映画は見たことがない。このジャンルはスパイク・リーの得意分野だが、彼の映画ともまた違う、なんともいえないやりきれなさ、後味の悪さを感じた。
 監督はTVドラマ出身ということ。さすがに、人間の絡ませ方が絶妙で、どんどん話に引きずり込まれてしまった。
 誰が見てもリッチで小奇麗にしていても、肌の色が黒いというだけで車泥棒と同じ扱いを受けてしまうキャメロンの“悔しさ”。
 一方、「白人警官の男」というもっとも威張っていられる立場にいても、親の介護すら満足にできない生活を送っているライアンの“惨めさ”。
 彼らの苦々しい思いは、対極にあるように見えるが、どちらも、貧富の差を生み出した
競争社会の負の財産だ。
 貧しい者は富める者を妬んで、自分の辛さを何かのせいにしたがる。そのもっとも手っ取り早いものが肌の色の違いなのかもしれない。
 この映画の登場人物のうち、誰にもっとも感情移入できるだろう、と考えてみたが、「誰の気持ちもわかるようで、ほんとのところはわからない」というずるい結論しか出なかった。
自分はアジア人で、肌の色の差別が身近ではない日本に住んでいる。
この映画のなかでは第三者の存在だ。白人社会でうまく生きようとするエリート黒人の気持ちもわかるし、リッチなのにイライラしてばかりの高慢女や、差別警官ライアンにも少しは同情できる。
 だけど、ほんとのところはわかっていない。それは体験したことがないから…。
ただ、一つわかったのは、差別のある社会はとても生きにくいということ。
差別撤廃なんて絵空事。みんなが平等なんてありえない。それでも差別は嫌なことだ、と強く感じさせされた映画だった。
 以下ネタバレありの一言:
 この映画に出てくる唯一の「いい人」は黒人の錠前職人の娘だけ。銃の音におびえる娘に父親が、命を守ってくれる不思議なマントを着せるシーンにはちょっとウルッときてしまった。ペルシャ人の店長が銃をもって復讐に行き、女の子が撃たれることは、予想できる展開だったけど、つい「ヤメテー!」と叫びたくなりました。
 見てるときには、よくできたおもしろい映画、と思ったけど、冷静になったら、ペルシャ人の発砲シーンや、マット・ディロンの交通事故救出シーンなど、ちょっとドラマチックに描きすぎなところが気になった。まあ、リアリティを追求すると重すぎるテーマだから仕方ないかな。
 ライアン・フィリップ演じる熱血警官のその後はどうなってしまうのか。もっともやりきれないエピソードだった。
 &マット・ディロンは好きだし、なかなかよかったとは思うけど、アカデミーで助演ノミネートされるほどの名演技だったとは思えず。それより、テレンス・ハワードのほうが光ってた気がするのは私だけでしょうか?2006.2.15

クラークス CLERKS
ケヴィン・スミス監督・出演、ブライアン・オハローラン、マリリン・ギリオッティ、ジェイソン・ミューズ出演
☆コンビニのバイト店員ダンテは、非番のはずが、店長から急なシフト出勤を頼まれる。店には、次々に奇妙な人々が現れて…。
 ついてないバイト店員、わがままなビデオ店員、店の前で立っているだけのジェイ&サイレント・ボブ。彼らを軸にしたオムニバス形式のライト・コメディ。コーヒー&シガレットと同じく、休憩時間にちょっと見て、頭をリフレッシュさせるには最高。ただ、ずっと見てると飽きるけど。ケヴィン・スミスのセンスがつまったインディ作品だ。 2006.12 参考CINEMA:「チェイシング・エイミー

クライング・フィスト CRYING FIST
リュ・スンワン監督、チェ・ミンシク、リュ・スンボム、イム・ウォニ、チョン・ホジン、ピョン・ヒボン(「グエムル」のお父ちゃん役)、キ・
ジュボン (あちこちで出てる小柄なおじちゃん)出演☆元メダリストでありながら財産・家族、すべてを失った男テシクが、再起をかけてリングに立つ。一方、19歳のチンピラ、サンファンは刑務所でボクサーとしての素質を見出され、亡き父・病気の祖母のために新人王戦に挑む。
 ストーリーはありきたりでテンポものろいので、途中飽きてしまった。でも、主役二人は、さすがの演技力。
 復活したベテラン、新人の元チンピラ、どちらが勝つのか…。二人の主役に平等にスポット・ライトをあてる構成だったので、クライマックスでは、どちらにも勝たせてあげたくなった。まあ、ほぼ予想どおりの展開ではあったけど。
「グエムル」のお父ちゃん、ヤクザ役の多い小さいおじさん俳優がここでも登場。韓国映画&ドラマって脇役の顔ぶれがいつも似たりよったりだよなあ。2006.12

Cruel Winter Blues 熱血男児 (韓国)
イ・ジョンボム監督、ソル・キョング、チョ・ハンソン出演
☆敵対するヤクザの暗殺を命じられたしがない中年ヤクザは、新米と一緒に、標的の母親の家を張り込む。一人で食堂を営む母親に近づいた中年ヤクザは、威勢のいい母親に翻弄される。
 寒々しい田舎町。だらしのないヤクザ。食堂のオバチャンとの交流。東映のヤクザ映画のようだ…。チョ・ハンソンはかっこいいけど、演歌歌手みたいな風貌だし。最後には悲しい結末が待っているのは百も承知なんだけど、やっぱりちょっと泣けました。隣で見ていたわかい女の子は刺されるシーンで、悲鳴だして、号泣していた。こちらの方は感情が激しいわー。なかなか渋い映画だとは思うけど、最近のソル・ギョング、キャラがかぶりすぎ。うまい役者なんだから、もっといろいろやってほしいな。個人的には「私にも妻がいたらいいのに」のような飄々とした役が好みなんだが。 
舞台挨拶には、主演二人が来なくてがっかり。母親役の女優さんがいらしていた。映画の中では田舎のオバチャンそのものだったけど、実物は上品なマダムだった。2006.10.15 釜山国際映画祭06にて

クローン・オブ・エイダ CONCEIVING ADA
リン・ハーシュマン=リーソン監督、ティルダ・スウィントン、ティモシー・リアリー、カレン・ブラック出演
☆科学者のエミーはDNA記憶拡張装置を使い過去の人物との交信実験に成功。その相手は、19世紀の英国で、コンピュータ理論の基礎である「解析機関」を発明したエイダだった。
 コンピュータで、現在と過去の人間が交信する、という話はよく聞くテーマではあるんだけど、相手が19世紀の科学者というのが興味深かった。予想どおりマニアックな作品ではあるが、エイダという人物に興味を持った。凡人には真似できない天才の生き様を見て、少なからず刺激を受けた。この映画の監督も、6歳で大学に飛び級した天才らしい。世の中にはすごい人がいるんですねえ。 2006.10

黒い十人の女 (1961年 103分 日本)
 TVプロデューサーの風は、毎夜、複数の愛人との情事にふける、妻も呆れるほどの浮気男である。ある日、愛人たちの何気ない会話から、自分の殺害を計画していると思い込んだ風は、一番信用している妻に相談。妻は、愛人たちの前で自分が先に夫を撃ち殺す、という狂言殺人を提案する。
 スタイリッシュなモノクロ映像は、洒落たフランス映画のよう。涼しげな顔で毒のある言葉を吐く愛人たちの会話は秀逸だ。黒い女たちを演じるのは岸恵子、岸田今日子、中村玉緒など、個性あふれる豪華な女優陣。女に振り回されるダメ男を演じる船越英二の軽い演技も痛快だ。(A新聞・今週の1本掲載コラム) 参考CINEMA:「炎上

【ぐ gu】

グエムル -漢江の怪物- THE HOST
ポン・ジュノ監督、ソン・ガンホ、ピョン・ヒボン、パク・ヘイル、ペ・ドゥナ出演
☆ソウル市内を流れる漢江の河川敷に、ウイルスを持ったなぞの巨大物体が現れ、人々を襲う事件が発生。売店を営むパク一家の孫娘チョンソも、怪物にさらわれてしまう。
 嘆き悲しむ家族だったが、チョンソの父親カンドゥの携帯に、チョンソから電話が入る。
「排水溝にいる」とだけ聞き取ったカンドゥは、娘が生きていることを訴えるが、警察も医者も「ウイルスに脳がやられて、幻覚をみているだけ」と、とり合わない。
 次男と長女も加わったパク一家は、愛するチョンソを探すため、隔離病棟を抜け出すが…。
 怪物ものは苦手なので、期待せずに見にいったのだが、これが意外に面白くてびっくり。怪物よりも、オトボケ家族のキャラクターと、社会を皮肉った乾いた視点がツボにはまった。
 飄々とした父親を筆頭に、頭の弱いダメ長男、カッコばかりの次男、アーチェリー選手の長女が、力を合わせて怪物とたたかうファミリー・ドラマ、ではあるのだが、家族みんながオトボケで、どこか抜けた感じなのが小気味いい。
 警察も医者も軍も、一大事なはずなのに、みんなのんびりと構えているのも奇妙である。
 一般的な怪獣パニックものだと、大げさな緊迫感が見所の一つなんだけど、この映画では、怪物を追う側が、みーんないい加減。子供が怪物に捕まって怖い思いをしてるっていうのに、パク一家はそろいもそろってだらしがないし、国も何も手を打とうとしない。怪物も、もとはと言えば医者の「いい加減さ」の産物だし…。
 大人も社会もまったく当てにならない、ってことがこの映画のテーマ? と思うぐらいに「いい加減さ」が目立っていて、そこがまた面白かった。
 怪物の形相や動きも、怖いというよりは、グロテスクで気持ち悪いけどちょっとコミカル。そのうち、しゃべりだすんじゃないの?と、思うぐらいリアルな動きで楽しめた。
 それと、日本の特撮映画ではありえない、まさかのエンディングも私好み。「大人社会のいい加減さ」を描いたので、映画のラストもいい加減にしちゃいました、ってことでしょうか。
 思わずつっこみ入れたくもなったけど、そのふざけたノリが、またよかったり…。
 社会ってこういうもんかもね〜。(詳細は見てのお楽しみ)
 ポン・ジュノ監督はハッピーエンディングが嫌い、と睨んだ。今後の作品も要チェックです。
 &「殺人の追憶」で冷徹な美青年を演じたパク・ヘイルが間抜けな次男役を好演していた。あの顔ならソフトな二枚目路線でいけるだろうに。コミカルな役に挑戦する心意気が気に入った! 2006.8 参考CINEMA:「殺人の追憶」「ほえる犬は噛まない

グッドナイト&グッドラック GOOD NIGHT, AND GOOD LUCK
ジョージ・クルーニー監督・出演、デヴィッド・ストラザーン、ロバート・ダウニーJr.、パトリシア・クラークソン、レイ・ワイズ、ジェフ・ダニエルズ出演
☆1950年代の米ソ冷戦真っ只中、共産主義者の排除活動「赤狩り」は、映画界、テレビ界、一般市民へと波及し、多くの人たちが告発の恐怖に怯えていた。CBSのキャスター、エド・マローは、家族の赤疑惑のために軍を解雇された男を取材し、マッカーシーを堂々と非難する。
 ドラマチックな展開や説明的台詞を極端に排し、テレビカメラの内側の人間模様を淡々と追った社会派映画で、まるで個人のドキュメンタリー・フィルムのようだった。正直、見やすい映画ではないが、荒いモノクロ映像が「赤狩り」という暗い時代を象徴しているかのようで、リアリティがあった。
 ただ、名指しで疑いをかけられたキャスターが自殺に追い込まれるエピソードはもう少しつっこみが欲しかった。
 マッカーシーと対峙しても、信念を曲げなかったエド・マロー。彼の存在はまったく知らなかったが、一人の気骨のあるジャーナリストがいたことを知れただけでも見る価値があった。
 自殺するキャスター役のレイ・ワイズってどこかで見たことがあると思ったら「ツインピークス」に出てた役者だった。
ダウニーJr.の妻役のパトリシア・クラークソンも脇でよく見る顔だし、地味だけど味のある役者がそろっていた。「シリアナ」見たときも感じたけど、この作品でクルーニーは、ただのイケメン役者じゃないことがはっきりした。たとえ人気が低迷しても、表現者として主義を曲げずに頑張ってほしいものだ。 2006.5

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【ケ ke】

ゲート・トゥ・ヘヴン GATE TO HEAVEN
ファイト・ヘルマー監督、ヴァレリー・ニコライエフ、マースミー・マーヒジャー、ミキ・マノイロヴィッチ出演
☆フランクフルト空港の地下では、さまざまな事情で密入国してきた人々が暮らしている。ロシア人のアレクセイは、忍び込んだ旅客機で、スチュワーデスの真似事をしている掃除婦のニーシャと遭遇し、一目で恋に落ちる。
 地下で暮らす人々や掃除婦が、ベルトコンベアーで移動しているのがケッサク。空港で暮らす人を描いた作品は、「パリ空港の人々」「ターミナル」を見たことあるけど、この映画が一番楽しめた。ただ一つ気になったのは、密入国者がみんな英語が達者、ということ。「ターミナル」と違って役者にもその国の人を使っているんだから、言葉も多国籍のほうが面白かったのになあ。残念。2006.3.5

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【コ ko】

今宵、フィッツジェラルド劇場で A PRAIRIE HOME COMPANION
ロバート・アルトマン監督、ギャリソン・キーラー、ケヴィン・クライン、ジョン・C・ライリー、ウディ・ハレルソン、トミー・リー・ジョーンズ、メリル・ストリープ、リリー・トムリン、リンジー・ローハン、ヴァージニア・マドセン出演
☆長寿ラジオ番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の公開放送最後の日。名司会者のギャリソン・キーラーは、淡々と出演者を紹介していく。年季の入ったカントリー姉妹、下ネタ連発のカウボーイ・デュオ、そして、超ベテラン歌手のチャックetc...。
一方、バックステージでは、支配人がいつになくソワソワしている。今日、大企業のオーナーである首切り男がやってくるのだ。
賑々しいステージが続く中、白いトレンチコートを着た謎の女がふらりと現れた…。
 長く続いたステージが幕を閉じる日を、ドキュメンタリー・タッチで描きながら、その場所に詰まった人々の思いをさりげなく盛り込んでいく。
 ドラマチックな演出はないけれど、なんとも味わい深い哀愁が漂う。それは悲しみではなく、さわやかで潔い哀愁…。
アルトマン監督の真骨頂ともいえる群像劇で、出演者はそれぞれに味がある。とくにギャリソン・キーラー。実際に「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の司会者だったらしいが、ベテラン役者を上回る存在感だった。やっぱりホンモノは違います。(日本で言えば、毒マムシ?!)
そして、わずかな出演だったが、バックステージで好きな音楽を聴き、愛する女を待ちながら逝ってしまうチャックもいい。ああいう死に方ってホント理想的。
アルトマン監督がどんな最期を迎えたのか定かではないが、「さわやかで潔い最期」をテーマにした作品を遺作にするなんて、さすが粋なことをやってくれます。
おそらくアルトマン監督は、ハッピーな映画監督人生を送られたのだと思います。
あらためて、ご冥福をお祈りいたします。(老獪なジジババに囲まれ、一人奮闘するリンジー・ローハンも、初々しくてよかったです)2007.3 参考CINEMA:「ゴスフォード・パーク」「ドクターTと女たち」「バレエ・カンパニー」「ロング・グッドバイ

コーヒー&シガレッツ COFFEE AND CIGARETTES
ジム・ジャームッシュ監督、ロベルト・ベニーニ、ジョイ・リー、スティーヴ・ブシェミ、イギー・ポップ、トム・ウェイツ、ケイト・ブランシェット出演
☆喫茶店でコーヒーを飲みタバコを吸ってる人の会話を切り取ったオムニバス映画。89年に作られたサンキ・リー編は劇場で見て気に入ったのを覚えていたけど、一つのシチュエーションで、ここまでバリエーションをつけられるジャームッシュはさすが。夜中、酒でも飲みながら、何にも考えずに見たかった。2006.3.10 参考CINEMA:「ブロークン・フラワーズ」

恋に落ちる確率 RECONSTRUCTION
クリストファー・ボー監督、ニコライ・リー・カース、マリア・ボネヴィー、クリスター・ヘンリクソン出演
☆デンマークの新鋭監督の作品。2003年のカンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞。アレックスは、恋人シモーネがありながら、美しい人妻に一目惚れ。恋に落ちた二人は一夜を共にするが、翌朝、アレックスが元の生活に戻ろうとすると、自分の部屋がなくなり、さらに自分を知る人たちから、ことごとく存在を否定されてしまう。
 ストーリーはSFっぽいのだが、内容はかなり実験的。荒い映像や俯瞰撮影、時間もいったりきたり。見ているうちに、迷路にはまって抜け出せない気分になった。「メメント」に似ているような似てないような…。アレックスの見ている夢の話なのかなあ、と想像しているうちに、終わってしまったので、ちょっと消化不良。でも、監督の才能は感じた。2006.4

恋は足手まとい UN FIL A LA PATTE
ミシェル・ドヴィル監督、ジョルジュ・フェドー原作、エマニュエル・ベアール、シャルル・ベルリング、ドミニク・ブラン、サラ・フォレスティエ出演
☆モテモテの歌姫リュセットは、文無しのエドワールに夢中。しかし、彼が金持ちの伯爵令嬢と結婚しようとしていたと知り…。19世紀の戯曲を映画化。個性的な人たちが出たり入ったり、泣いたり笑ったりするフランスらしいかわいい喜劇。エマニュエル・ベアールの魅力に尽きるでしょう。ですが、フランスのぶりっ子女優が苦手な私は、朗らかでモテモテの姉ちゃん持った妹に感情移入してしまった。衣装がステキでした。2006.7

公共の敵 PUBLIC ENEMY
カン・ウソク監督、ソル・ギョング、イ・ソンジェ出演
☆だらしのない汚職刑事が、張り込み中、偶然遭遇した男に刃物で襲われた。その晩、資産家の老夫婦の惨殺死体が発見される。刑事は、自分を襲った男と老夫婦の息子が同一人物だと勘づき、老夫婦殺害も息子の仕業と睨む。
 ソル・ギョング演じる刑事の熱血ぶりと、イ・ソンジェ演じるエリートの冷酷さが対照的な刑事ドラマ。「殺人の追憶」の二番煎じを狙ったようなストーリーだったが、正直、出来は雲泥の差。荒削りなソル・ギョングは魅力的だったけど、全体的に軽いB級ノリで、導入部分が長すぎて飽きてしまった。けど、検視のくだりからのラスト15分は見ごたえあり。バランスがよければ傑作になったかも。おしい作品。2006.9

ココシリ KEKEXILI: MOUNTAIN PATROL
ルー・チューアン監督、デュオ・ブジエ、チャン・レイ、キィ・リャン出演
☆チベットの海抜4700メートルにある原野「ココシリ」は、雪原と砂漠が延々と続く地の果てだ。村の男たちは、ココシリに生息するチベットカモシカの密猟グループを捕らえるため、パトロール隊を結成。過酷な自然とたたかいながら、密猟団を追跡する。
 ドキュメンタリー風の作りが気にいった。敵は密猟団なのだが、それよりも恐ろしいのが過酷な自然。吹雪や流砂、高山病の恐怖とたたかいながらが原野を進む男たちの姿に圧倒された。実話を基にしていて、「ココシリ」ではスタッフが高山病になりながら撮影したという。自然相手の映画は、臨場感のある大画面で見るに限る。
 密猟団側の革剥ぎ爺ちゃんがいい味だしてた。「おら何も知らねえ」なんて弱いフリしながら、生き残る術を熟知してるところが面白い。革剥ぎの息子が元医者っていう設定には、文革への皮肉もこめられているのだろうか。映画の題材になりそうなテーマが山ほどある中国映画にはこれからも要注目だ。2006.7

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