気まぐれCINEMAレビュー BackNumber
2006年
【マ行】
過去の「気まぐれCINEMAレビュー」をまとめました。満足度は★で、がっかり度は×で評価しました。
五十音順にタイトルが並んでいます。
データベースとしてご活用下さい。
【過去の年間BEST3】 BackNumber CINE LATINO (2007年〜 中南米映画 日本未公開版 2007年〜 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 1999〜2005年 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 |
アンドレス・ウード監督、マティアス・ケール、アリエル・マテルナ、マヌエラ・マルテーリ出演☆舞台は、社会主義政権下にあった1973年のサンチアゴ。
格差是正制度によって、富裕層が多く通う教会の学校に、貧民街で暮らす子供たちが入学してきた。揃いの制服や水着を買えない子供たちは、教室内で浮いた存在だったが、その中の一人マチュカは、いじめられっ子だったゴンザロと親しくなる。
二人は、お互いの家を行き来するようになるが、それぞれ、自分とまったく違った生活に驚きを隠せない。
ゴンザロとマチュカ、そしてマチュカの隣人シルバナの3人は、世の中の不穏な動きに戸惑いながらも、交流を深めていく。
一方、大人たちは、自分たちの生活を守りたい富裕層と、改革推進を望む労働者階級との間で対立が激化。
保守的なゴンザロの母がデモで遭遇したマチュカたちに罵声を浴びせたことをきっかけに、ゴンザロとマチュカたちとの間に微妙な溝が生まれてしまう。
そして、9月11日、軍がチリ政府を掌握。
まもなく激しい社会主義派狩りがはじまり、ゴンザロたちが通う教会の牧師も更迭されてしまう。
マチュカたちの身を案じたゴンザロは、自転車で貧民街へ向かうが…。
日本人にとって、チリという国はあまりにも遠すぎる。
ましてや1970年代に何が起こっていたのかなんて、ほとんど知られていないだろう。
「マチュカ」というタイトルと、子供の姿が写ったスチール写真を見ただけでは、子供たちの友情を描いたほのぼのとした人間ドラマ、と思うかもしれない。
もちろん、子供たちの心温まる交流も描いているし、「小さな恋のメロディ」のようなかわいい初恋物語も存在する。
ゴンザロの姉のパーティーで酒を飲んで酔っ払ったり、3人が無邪気に缶ミルクを舐めあったり…。貧乏とか金持ちとかは関係なく、普通の子供が経験する、ちょっと大人っぽい遊びを楽しむシーンは、とてもほのぼのしていて温かい。
ただ、その3人の子供の関係がとてもピュアなだけに、周りの環境である大人たちの対立や怒りの激しさが、際立って映ってくる。
富む者と貧しい者の格差は、ここサンパウロでも日常的に目にするし、南米の国々の長い歴史的事情もあるので、どうのこうの言うつもりはない。ただ、子供の生き生きした目が、絶望の目に変わる社会は、やはり見ていてとても辛い。
支配階級にどっぷりつかった母親の行動をだまって見つめるゴンザロ。
デモの中、戸惑いながらも旗を配るゴンザロ。
そして、衝撃の瞬間を凝視するゴンザロ。
いじめられっ子で、いつもビクビクおびえた表情だったゴンザロが、マチュカと友達になることで、生き生きとして子供らしい表情に変わり、そして、衝撃のシーンを目にしたあとは、一転して絶望の目と変わっていく…。
彼の表情の変遷に注目です。
もう一言;
アディダスの靴、コンデンスミルク、ぼっとんトイレなど、貧富の差を象徴する小道具の使い方もうまい。テイストは違うが「天国の口、終わりの楽園」「蝶の舌」といったラテン映画を彷彿とさせるものあり。2007.9
マッチポイント MATCH POINT
ウディ・アレン監督、ジョナサン・リス・マイヤーズ、スカーレット・ヨハンソン、エミリー・モーティマー出演☆元プロテニス・プレイヤーのクリスは、テニスを通じて実業家の息子トムに接近。妹クロエと付き合い始め、彼女の父親の会社にコネで就職する。
一方で、トムの恋人ノラの魅力の虜になり、二人はついに深い関係に。
まもなくクリスはクロエと結婚。しかし、トムと別れたノラと偶然再会したクリスは、また、ノラにおぼれていく。
☆☆これってほんとにウディ・アレン作品?と疑いたくなるぐらい、ブリティッシュ上流階級の鼻持ちならない匂いがプンプン。BGMのオペラも、お高い感じで効果的に使われている。
スカーレットは、男だったら誰でも骨抜きにされそうな小悪魔役がぴったり。肉感的な女とは縁がなさそなウディ・アレンも、あの色気にノックダウンされたのでしょうか?!
上流階級のお別荘でのお集まりのおしゃべりは、胸くそ悪くなるぐらい白々しいし、ボンクラ兄妹トム&クロエの、人を馬鹿にしたような余裕シャクシャクのお上品さも鼻につく。
子供を作ることしか興味がなくて、夫クリスに何の疑いも抱いてないようなクロエは腹立つし…。
(かなり個人的やっかみ入ってます。僻みだすと止まらなくなりそうなのでこのへんで終了)
片や、ノラとクリスの人生は綱渡り的だ。運が悪ければ、あっという間に転落人生が待っている。そうならないために、二人はイチかバチかの賭けに出る。
ボンクラ兄貴トムの恋人だった頃のノラは、余裕ある連中の仲間入りをした気分でいられたので、寄ってくる男たちを適当にあしらい、クリスに対しても「一晩の遊び」と突き放す。
ところが、いざ自分がハイソ(ハイ・ソサイエティ)から弾き飛ばされたら、今度は、うまくハイソに収まったクリスを離すまいと必死になる。「妊娠」を武器に大勝負に出るのである。
クリスの人生もノラ同様危ういが、こちらには強運がついてまわる。思い通りに富豪の娘に見初められ、義父の会社の重役におさまり、唯一の誤算だった愛人ノラの妊娠も、大博打に出て、乗り切ってしまう。
そんなクリスの姿に「太陽がいっぱい」のトムをダブらせたのは、私だけではないだろう。もし最後に、テニスボールがネットを弾いて、自分のコートに落ちていたなら「太陽がいっぱい」のトムと同じように、大どんでん返しを食らうことになったのだ。
ウディ・アレンとサスペンスってあまりピンとこなかったが、最後まで、運、不運、どちらに転ぶかわからない展開でハラハラさせられた。
そしてもちろん、ウディ・アレン映画の真骨頂、嫌味たっぷりのセリフも楽しめる。
人生は皮肉なもの。運と不運、どちらに転ぶかは神のみぞ知る…。
世の中にはクリスのように、うまく立ち回って運よく生きてる人もいるのでしょう。羨ましいとは思いませんけどねー。2006.10 参考CINEMA:「さよなら、さよならハリウッド」「おいしい生活」「セレブリティ」「ギター弾きの恋」「スコルピオンの恋まじない」
エジディオ・エローニコ監督、トーマス・クレッチマン、チャールトン・ヘストン、F・マーレイ・エイブラハム出演☆1985年、アマゾン流域の町マナウスで、元ナチの戦犯、ヨゼフ・メンゲレ医師の白骨死体が発見された。遺骨を引き取りにやってきた息子へルマンは、マスコミや国民から激しく叱責され、また、弁護士からは、メンゲレの死が偽装ではないかと疑われる。
ヘルマンは、8年前、マナウスで父と対面したときのことを思い出し苦悩する。
息子が苦悩する姿を見ながらも、自分の行為を否定せず、正しいと信じる父親。一見紳士だが、実はとても危険な思想の持ち主である男。そんな難しい役どころを、チャールトン・ヘストンが熱演していた。ライフル協会の会長でもあるし、彼自身、かなり偏った思想の持ち主なのかもしれないが、森の中で、人体実験の必要性を主張するシーンは鬼気迫るものがあった。実話が元になっているということ。今でも、アマゾンの奥地にこの医師が暮らしているのかもしれない…。娘が元ナチの父を告発する「ミュージック・ボックス」を思い出した。2007.6
マグダレンの祈り THE MAGDALENE SISTERS
ピーター・ミュラン監督、ノラ=ジェーン・ヌーン、アンヌ=マリー・ダフ出演☆1964年、ダブリン。マグダレン修道院には、性的に堕落したと見なされた女性たちが収容され、厳しい労働を強いられていた。従兄弟にレイプされたマーガレット、未婚のまま子供を生んだローズ、美貌のため男にちやほやされるバーナデット。3人の若い女性を中心に、修道院の異常さが語られていく。
1960年代といえば、お隣のイギリスでは若い女性がビートルズ見て失神していたはず。それが、ダブリンでは中世の魔女狩りのようなことが行われていたことに愕然とした。
精神病院以上にひどい世界で「やった男が悪いのに、なんで女だけが!」と、超腹がたった。女の苦しみを俳優でもある監督が繊細に表現していた。力作である。2007.3
真夜中のピアニスト THE BEAT THAT MY HEART SKIPPED
ジャック・オーディアール監督、ロマン・デュリス、ニールス・アルストラップ、オーレ・アッティカ、リン・ダン・ファン出演☆不動産ブローカーとして手荒な地上げを繰り返すトムは、ある日、ピアニストだった母のマネージャーの姿を見つけ、思わず声をかける。ピアニストになる夢を思い出したトムは、中国人女性に指導を受けながら日々、練習に励む。だが、仕事仲間や父親から、次々と危ない仕事を依頼され、レッスンに集中できない。
ハーヴェイ・カイテル主演「マッド・フィンガーズ」のリメイク。
ロマン・デュリスがいい。荒々しさと繊細さが同居している難しい役どころが見事にはまっていた。裏社会とクラシック音楽。美しさと汚さの間で悶々とするトムの苦悩が伝わってきた。
ヤクザなお父ちゃんが、どうしてピアニストと結婚したのかが、ちょっと気になってしまったが、細かいことより、ダークな雰囲気がいいのでよしとしよう。オリジナルの「マッド・フィンガーズ」も見てみたい。2006.9
マラソン MARATHON
チョン・ユンチョル監督、チョ・スンウ、キム・ミスク、イ・ギヨン出演☆自閉症の青年が、フルマラソンに挑戦するまでを、感動的に描いた作品。
「人とコミュニケーションがとれない」「何かに固執する」「記憶力がいい」というのが自閉症の症状らしいが、自閉症が障害と認められたのはつい最近というのには驚いた。
「もし、自分に障害者の子供がいたら」と想像しながら見ていたので、母親の気持ちになって、年中ウルウルしてしまった。もし自分だったらあんなふうに愛情を注ぐ自信はないなあ。チョ・スンウの演技は上手だと思ったが「オアシス」には及ばない気がした。予定調和的展開で、途中飽きてしまった。ちょっと期待はずれ。2006.7
間宮兄弟 ★
森田芳光監督、佐々木蔵之介、塚地武雅、常盤貴子、沢尻エリカ、北川景子、中島みゆきほか出演☆ビール会社で働く明信は、小学校の校務員・徹信と二人暮らし。二人は、大の仲良しで、一緒にテレビを見たり、散歩したりして、人生をのほほんと生きている。
そんな二人でも、いい加減いい年だし、女性に興味はある。ということで、ビデオ屋のお気に入りの店員・直美ちゃんと、学校教師・依子先生を誘ってカレーパーティーを開くことにする。
ゲイのカップルかあ?と疑うような、ちょっと気持ち悪いぐらい仲のいい男兄弟という設定がまず笑える。そして、カッコはいいけどいい人すぎるやせっぽちの兄と、見るからにもてなそうな小太り弟の風貌も、オモロイ。そして何より、肩の力がだら〜りと抜けた感じの演技が最高! 森田ワールド健在! 久々に楽しませていただきました。
兄も弟もいい人どまり。でも、それは、中島みゆき演じる能天気なお母さんに育てられたからなのでしょう。こういう兄弟、近所に一台欲しいけど、彼氏にするにはちょっと物足りない? いやいや、かなりいい夫候補です、二人とも。
間宮兄弟には、永遠にあのまま、のーんびーり、暮らしていってほしいものです。なんだか最近物騒なので、こういう「平和だなあ」的映画を見てみんな癒されたがっているのかもしれませんんね。2007.6
真夜中の弥次さん喜多さん
宮藤官九郎監督、しりあがり寿原作、長瀬智也、中村七之助、小池栄子、阿部サダヲ、柄本佑、森下愛子ほか出演☆弥次さんとヤク中の喜多さん。愛し合う二人がお伊勢さんに向かう途中、「笑の宿」や「歌う宿」など、奇妙な宿で奇天烈な人たちと遭遇する。
想像以上にやりたい放題のヤク中の幻覚映画。「ラスベガスをやっつけろ」のお江戸版、といったところか。でも、けっこう好き。とくに「笑の宿」「歌う宿」のベタな笑いは私好み。しりあがり寿ワールド、よく知らないけどすごいのねえ。普通のエリート会社員だったとは思えないぶっ飛びぶり。後半、「魂の宿」あたりの発想の奇抜さには、正直、ついていけず。それにしても、柄本佑って、ほんと特徴ない顔してるよなあ。何度か見てるはずなんだけど、いつまでたっても覚えられない。2006.4
Mr.インクレディブル THE INCREDIBLES
ブラッド・バード監督☆世間から非難を浴び日陰者となった元スーパー・ヒーロー、インクレディブル一家は、その力を封印して隠とん生活を送っていた。ある日、保険会社を首になったインクレディブルの元にナゾの女性から仕事の依頼が舞い込む。
お父さんは力持ち、お母さんは手足が自由自在、娘は透明になったりシールドをはる力を持ち、息子は誰よりも早く走ることができる。
彼らが力を合わせ、敵に立ち向かうファミリードラマ。
アニメは苦手なんだけど、CGの質の高さに驚かされた。劇場で見たらもっと迫力があって楽しめそう。子供向けとバカにできない出来だった。ストーリーはお決まりですけどね。2006.7
ミュージック・クバーナ MUSICA CUBANA (キューバ)
ヘルマン・クラル監督、ヴィム・ヴェンダース製作総指揮、ピオ・レイバ、マリオ・“マジート”・リベーラ、ペドロ・“エル・ネネ”・ルーゴ・マルティネス出演☆「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の重鎮ビオ・レイバが、タクシードライバー兼ミュージシャンのマネージャーと意気投合し、若手ミュージシャンと一緒にバンドを結成。往年のブエナ・ビスタ節と、現代のラップ、ポップスを織り交ぜた楽しいライブを披露する。
東京ツアーのシーンは圧巻。あの演奏、生で聴きたかったなあ。ビオは2006年3月に88歳でこの世を去ったそうです。合掌。キューバの人々はいろいろ抑圧もあるだろうに、明るいよなあ。ラテン気質がうらやましい。2006.11
ミュンヘン MUNICH
スティーヴン・スピルバーグ監督、エリック・バナ、ダニエル・クレイグ、キアラン・ハインズ、マチュー・カソヴィッツ、ジェフリー・ラッシュ,マチュー・アマルリック,ミシェル・ロンズデール出演☆1972年、ミュンヘン・オリンピックで起きたPLOゲリラによるイスラエル選手殺害事件とその後の報復を描いた問題作。イスラエルの特殊工作員のリーダー、アヴナーは、もともと人を殺したこともないような一般人。そんな彼が、国から特命を受け、敵を次々に暗殺していく。はじめは使命感に燃えていたアヴナーだったが、戦場のような殺戮を繰り返し、誰が味方なのかすらわからなくなり、精神的に追いこまれていく。
人殺しの末路には二通りあるのだろう。
一つは殺すことに何の罪悪感もなくなる殺人マシンになるパターン。そしてもう一つは、アヴナーのように、自分自身が壊れてしまうパターン。恐怖におびえ、狂ったようにベッドを切り裂くアヴナーの姿は痛々しかった。アヴナーに善人顔のエリック・バナを配したのは正解。演技がうまいとは思えなかったけど、頼りなさがにじみ出ていて、つい同情してしまった。
ですが…。
もっとも印象に残ったのは、苦悩するアヴナーの姿ではなく、PLOゲリラと鉢合わせになったアヴナーが、自分の身分を偽って彼らの話を聞くシーン。ユダヤ人観客を配慮してか、声高に主張はしていなかったが、あのわずかなシーンにこの映画を製作した意図が隠れていた気がする(というか、そう思いたい)。
敵と味方が鉢合わせし、そこで人間的な交流が…、というパターンは、「ノーマンズ・ランド」「ウェルカム・トゥ・ドンマッコル」にも描かれていたけど、争うことの愚かさ、やりきれなさを伝えるのには、もっとも適したシチュエーションと言えるだろう。
立場が違うだけで、同じ土地を愛することに変わりはない。
自分たちのルーツである土地に祖国を持ちたかったユダヤ人と、長年暮らした土地で生き続けたいパレスチナ人。どちらの気持ちも想像はできるのだが答えは見つからない。
両方を丸くおさめるには、「妥協」という言葉しか思いつかない。
賛否両論いろいろあったし、作品としては、問題提起しているのか、エンタテイメントなのか、中途半端な感じも否めない。
情報提供屋のフランス人マフィア(?)はイスラエルとPLOの触媒のような役目ではあるんだけど、金のためとはいえ彼らの立場も今ひとつはっきりしなかったし…。
うやむやにすることがリアリティなのかもしれないけど、ちょっと消化不良。
でも、映画の質はともかくとして、ユダヤ人であるスピルバーグが、ユダヤ側からの視点だけではなくPLO側の人間性にも触れた描き方をした勇気には拍手を送りたい。
エンタテイメント監督として不動の地位にあるスピルバーグがあえてハイリスクな作品にトライした。それだけでも価値のある映画だと思った。2006.3.17
参考CINEMA:「A.I.」「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」「マイノリティ・レポート」「ターミナル」
みんな誰かの愛しい人 LOOK AT ME
アニエス・ジャウィ監督・出演、マリルー・ベリ、ジャン=ピエール・バクリ、カイン・ボーヒーザ、ロラン・グレヴィル出演☆人気作家を父に持つ太目の女の子ロリータは、自分に近づいてくる人はみんな父親目当てだと思い込み、容姿や性格に強いコンプレックスを抱いている。父の存在を疎ましく思いながらも父親に愛されたいロリータは、声楽に夢中になることで、自分の存在価値を確かめようとする。
一方、声楽教師のシルビアは、ロリータの父目当てでロリータの個人教授を引き受ける。
女性監督作品らしく、揺れる女心の機微を丁寧に描いていて好感が持てた。「私に近づいてくるのはみんな父目当て」「自分の自慢は父親だけ」「こんなデブ、誰も愛してくれないわ」「ホントはお父さんに愛されたい」…。といったファザコンで劣等感の強いロリータの気持ち、よーくわかる。台詞も面白いし、カンヌで絶賛されたのも納得。
ただ、やっぱり私ってフランス映画苦手かも。なぜだかわからないんだけど距離を感じてしまう。フランス語の響きかなあ。台詞の掛け合いも巧みだとは思うんだけど、入りこめない。表現がストレートじゃないからかなあ。
監督、出演、容姿、歌。すべて完璧のアニエス・ジャウィ。その才能には恐れ入る。有名作家を演じた般若顔のジャン=ピエール・バクリとは、公私にわたるパートナー関係を解消したらしい。もったいなーい。
2006.5 参考CINEMA:「ムッシュ・カステラの恋」
ミラーを拭く男
梶田征則監督・脚本、緒形拳、栗原小巻、辺土名一茶、国仲涼子、津川雅彦ほか出演☆初老のサラリーマン皆川が車で接触事故を起こした。被害者の少女は軽傷だったが、被害者の祖父は毎日のようにイチャモンをつけに来る。事故のショックから立ち直れない皆川はある日、全国のカーブミラーを拭いて回る旅に出る。
日々、車に乗ってる身としては、事故は怖いです。ちいさな事故でも後が大変だし、とっぴな行動に出た皆川の気持ちもわかる気がする。ミラーを拭いて回る、という発想がとてもユニークで最初は楽しめたんだけど、ただちょっと中だるみした。1時間ならもったと思うんだけど、ミラーを拭く姿を延々見せられたので飽きてしまった。もうちょっと笑える仕掛けが欲しかった。あと一歩! 2006.6
【ム mu】
麦の穂をゆらす風 THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY
ケン・ローチ監督、キリアン・マーフィ、ポードリック・ディレーニー、リーアム・カニンガム、オーラ・フィッツジェラルド出演☆☆アイルランド独立までの長く険しい道のりを、市民兵となった若者の目から描いた社会派映画。ケン・ローチ作品に共通して見られる“まっすぐさ”はこの作品でも健在。真正面から直球を投げられ、胸にズシリと重くめり込むような痛さを覚えた。
☆舞台は1920年のアイルランド。医学を学び、医師への道を歩もうとしていた青年デミアンは、幼馴染が英国兵からなぶり殺されたことをきっかけに、メスを武器に持ち替え、英国からの独立を目指す市民兵となる。
しかし、仲間の密告によりデミアンたちは逮捕され、市民兵のリーダーで兄のテディは拷問を受ける。死刑執行の前日、見張り役の若者から助けられたデミアンたちは、密告者の元へ向かう…。
はるか遠い国アイルランドの“事情”を知ったのは、U2の音楽からだった。
はじめは「ボノがかっこいい」という理由だけでアルバムを買い、「Sunday Bloody Sunday」を聞いた。
そして、「How long must we sing this song?」というフレーズに、タダならぬものを感じた。
それから、当時、ヨーロッパで頻繁に起こっていたテロや、IRAという名を知るようになり、ニール・ジョーダンをはじめとするアイルランド出身監督の映画を好んでみるようになった。
(以下、ネタバレあり)
「IRAはテロ集団」という認識の人もいるだろう。でも、この映画を見ると、テロ行為を繰り返す集団も、始まりは心優しい小市民にすぎなかったことがよくわかるし、武器を持たざるを得なかった理由も見えてくる。
友達や兄を大切に思うデミアンは、目の前で仲間が殺されたのをきっかけに兵士になる。
そして、兄が拷問を受ける声を聞き、牢屋にとり残され処刑された仲間を思い、裏切り者の少年を自らの手で処罰する。
情愛深い青年だったデミアンの手は、少年を処罰した瞬間に汚され、以後、血で血を洗う争いへと巻き込まれていく。
後半、イギリスとアイルランドで講和条約が締結されてからは、仲間同士の対立が描かれる。北アイルランドは独立を認められないなど、不当な条約に怒りを露にする強硬派と、条約を受け入れてから前進すればいいと考える穏健派。
弟デミアンは信念をまげない強硬派となり、兄テディは穏健派となって、兄弟が対立してしまう。戦争時は、身内が対立する構図はよくある話ではあるのだが、やはり、何度見ても辛い光景である。
数年前には、弟が兄の身代わりになろうとした牢屋の中。その同じ場所で、今度は政府側の人間となった兄が、弟に死の宣告をする。
頑なに信念を貫こうとする弟よりも、説得できずに悲嘆にくれる兄の姿に、思わずもらい泣きしてしまった。
最後の最後まで、兄が弟を逃がしてやることを望んだが、兄弟は結局、身内への愛情よりも大義に身を委ねてしまう。
弟の処刑後、兄は、弟の妻へ遺書を届けに行き「二度と顔をみせないで」と罵倒される。
この言葉は、デミアンが処罰した少年の母から言われた言葉と同じだった…。
メスを武器に持ち替え、裏切り者の少年を撃ち殺した時から、デミアンの向かう先は決まってしまっていたのかもしれない。
いまだに北アイルランド問題は、完全には解決されていないという。
闘争の歴史に、終わりはないということか。
タイトルの「THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY」はアイルランド民謡とのこと。アイルランドののどかな風景をゆっくりと眺める余裕もないぐらい、悲しみに包まれた映画だった。
ケン・ローチはアイルランド出身かと思ったが、イギリス人らしい。母国の過去を冷静に批判できる目を持ったローチ監督に敬意を表したい。参考CINEMA:「スウィート・シックスティーン」「マイケル・コリンズ」「ブラディ・サンデー」
メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬 LOS TRES ENTIERROS DE MELQUIADES ESTRADA ★★★2006 MY BEST1 CINEMA
トミー・リー・ジョーンズ監督・出演、ギジェルモ・アリアガ脚本、バリー・ペッパー、レヴォン・ヘルム出演☆荒れ果てたテキサスの砂漠を、初老の偏屈カウボーイ、手錠をはめられた国境警備隊員、そして腐りかけた遺体が、馬に揺られて黙々と移動する。その光景は物悲しさを漂わせながらも、どこか滑稽でもあり…。「21グラム」の脚本家ギジェルモ・アリアガが、この作品でも「人の死」というテーマを独特な切り口で描き、見ごたえのあるロードムービーに仕上げている。
☆テキサス州の砂漠の町でメキシコ人カウボーイ、メルキアデスが殺された。彼の唯一の友ピートは、メルキアデスが生前「自分が死んだら故郷ヒメネスに埋めてくれ」ともらした言葉を思い出し、メルキアデスの遺体を掘り起こす。さらに、彼を殺した国境警備隊員マイクを拉致。2人と1遺体は、ヒメネスに向けて長い旅に出る。
旅の目的は、はじめは無残に殺されたメルキアデスの願いを叶えるためだった。それがいつしか、ピート自身の桃源郷探しの旅へと変わっていく。
珍道中には三人がつきものだが、旅のお供に選んだのが、撃たれた遺体と撃った犯人、という設定がとてもユニーク。オバカなコメディとかホラー以外で、遺体を扱った作品をあまり見たことないし、その遺体を巡って二人の男が奇妙につながっているのが興味深かった。
腐りかけた死体が顔を覗かせるシーンは、最初は思わず顔をしかめてしまったけど、何度も見てるうちに「人間ってこうやって腐って、崩れて、ハエやありや蛆にたかられて、土に戻っていくんだあ」なんて、冷静に見れるようになっていた(もちろん、ホントの死体ではないんだけど)。
腐りかけた人の死体なんて、平和な日本ではめったにお目にかからないし、私も見たことはないのだが、死は特別なことではないし、自分もいつかはああなるんだし(火葬されなければ、ですが)「気味が悪い」と感じること自体が、不自然なのかもしれない。
ピートは、マイクを警察に突き出して牢屋に入れたり、拷問したりせず、腐臭のする遺体の横に寝かせ、一緒に馬に乗せ、彼なりの罰し方で、罪を意識させようとする。
おそらく、古代はそういう拷問もあったのだろうが、それが妙案に思えてならなかった。
戦争を知らない平和ボケの世の中では、あまりにも「死体」が身近でなさすぎる。だから、殺すことの罪の意識も薄れてしまうのではないだろうか。
そんなことをぼんやりと考えてしまった。
(逆に、死体がゴロゴロありすぎて、殺すことが平気になる場合もあるだろうけど)
ここまで読んだ人は、かなりグロテスクな作品と思われるかもしれないが、決してそうではない。
けっこう笑える。死体も見ているうちにだんだんと愛しく思えてきたし、必死で死体からアリを払うピートの姿は滑稽だし、間抜けな犯人マイクが、女から仕返しされるのも痛快だし…。旅の間に遭遇するさまざまな出来事が、ひとひねりされていて、予定調和でないのもいい。
そして、笑ったあとには涙、である。
ピートがメルキアデスから聞いていた故郷ヒメネスは、本当に桃源郷なのだろうか…。旅を続けるうちに、だんだんと雲行きが怪しくなってくる。
それでもピートは彼の言葉を信じ続け、自分なりに終着点を見つけようとするのだ。
メルキアデスの3度目の埋葬シーンでは、旅のはかなさや現実のむなしさが、じわりじわりと心に染みて、見終わったあとも、しばらく席を立ちたくなかった。
今、もっとも注目してる脚本家、ギジェルモ・アリアガの作品をこれからも、追っかけます。&最近は役者として作品に恵まれなかったトミー・リー・ジョーンズですが、彼の手腕にもアッパレ。次回作にも期待大。
スペイン語わからないのに、大音響でメキシコのラジオを聴いてる盲目の爺さんを演じたのは、な・な・なーんと、「ザ・バンド」のドラマー、レヴォン・ヘルム!
役作りしていたとはいえ、あーんなヨボヨボのご老人になってしまったことに驚き。
「俺を殺してくれぇ」っていう爺さんの台詞には思わず笑い泣きしてしまいました。役者としても十分にオーラあり。2006.4 参考CINEMA:「21グラム」「アモーレス・ペロス」
メゾン・ド・ヒミコ ★★
犬童一心監督、渡辺あや脚本、オダギリジョー、柴咲コウ、田中泯、西島秀俊、歌澤寅右衛門、青山吉良、柳澤愼一ほか出演☆塗装会社の事務員・沙織は、実父「卑弥呼」が末期がんに侵されていると知らされる。だが、子供の頃に母と自分を捨て、ゲイバーのマダムになった父を許せない。父の若い恋人・春彦から、ゲイのための老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」を週末だけ手伝ってくれれば、高額の給料を出すと言われた沙織は、渋々父親に会いにいく。
老人ホームに暮らすゲイたちは、それぞれ事情を抱えながらも明るく生きていた。はじめはゲイを毛嫌いしていた沙織も、少しずつ心を開いていく。
力の抜け加減がいい。台詞がいい。役者がいい。こんなに心地のよい邦画を見たのは久しぶりかもしれない。オダギリジョーも最高にステキで、アップになるたび見とれてしまった。数多くのゲイ映画を見てきたが、この映画、ベスト10には確実にはいる。父と娘のギクシャクした関係、沙織と春彦の微妙な関係、沙織と上司の冷めた関係などなど、それぞれの人間関係の微妙な距離感が絶妙。男だって、女だって、ゲイだって、孤独だし不安だし、誰かとつながっていたいのだ。人間愛っていうやつです。
&脚本の渡辺あやってすごい才能。台詞は少ないんだけど、さらりと言った言葉一つ一つに含みがあって、なるほどー、と、感心しっぱなしだった。
ちなみに一番好きなセリフは、卑弥呼の葬式が終わり沙織が荷物をまとめて帰るとき、春彦が送りがてら、沙織が上司の細川と寝たことに触れて言った言葉「君がじゃなくて、細川さんがうらやましかったよ」。
自分が言われてるわけじゃないのに、赤面しちゃいそうなぐらいグッときた。好きな人に抱いてもらえない女はコンプレックスを抱いてしまうものだが、この春彦の一言は沙織を救ったんじゃないのかなあ。身体でつながるよりも大事な何かがつながった感じ、とでも言おうか。もういっぺん見たくなった。2006.11
メフィストの誘い LE COUVENT
マノエル・デ・オリヴェイラ監督、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジョン・マルコヴィッチ、ルイス・ミゲル・シントラ出演☆学者のマイケルはフランス人の妻ヘレンを連れ、研究のためにポルトガルの古い僧院を訪れる。哲学と官能の甘い香りが漂ってきそうな大人の映画。正直、分かりづらい映画ではあるが、「神への郷愁」という台詞が印象的だった。英語とフランス語とポルトガル語が入り混ざっていたのが、ヨーロッパ映画らしくて好感が持てた。2007.5
Mainline (イラン)
Rakhshan Bani-etemad監督、Mohsen Abdolvahab監督☆テヘランに住む若い女性は、カナダに住む彼の元へ嫁ぐ日を迎えようとしている。だが、彼女は薬物中毒であり、旅立つ前の晩に、家を抜け出し、薬を買いに行ってしまう。
まず、テヘランの都会ぶりと家の豪華さに驚いた。イラン映画は今まで田舎の話しか見てこなかったので、別の国のようだった。
薬中毒の娘の姿は痛々しくて、見るに絶えないものがあり「入院させなきゃダメだよ」とついイライラ。でも、もし母親の立場になったら、娘の「最後だから」という言葉を信じたいのだろうなあ。薬という魔の手のおそろしさを痛感させられる映画だった。いつも思うが、イラン映画って、一つのテーマを延々追い続けるものが多い。しつこい国民性なのだろうか。楽しいテーマだといいけど、深刻なものだと、見ていて辛いわ。2006.10.16 釜山国際映画祭06にて
モダン・タイムス MODERN TIMES
チャールズ・チャップリン監督・主演☆労働者はベルトコンベアーの一部のように働かされ、経営者は、部屋のテレビでそれを監視している。この冒頭のシーンは「未来世紀ブラジル」そのもの! もちろんこちらがオリジナルでしょう。ギリアム監督の原点は「モダン・タイムス」にあったのか。チャップリンの映画って、シーン1つ1つが完成されているので、長編としてみるより、細切れでみたほうが楽しめる気がする。食事時間の節約のために開発された自動食事機のお試しシーンが最高です。2006.8 参考CINEMA:「独裁者」
木浦は港だ MOKPO THE HARBOR
キム・ジフン監督、チョ・ジェヒョン、チャ・インピョ出演☆能天気なドジ刑事が木浦を牛耳る若い組長に近づき潜入捜査をはじめるが、二人の間に熱い友情が芽生えてしまう。
はじめの30分はとにかく、おふざけとバカ騒ぎしっぱなし。途中で何度、消そうと思ったことか。キム・ギドク映画のチョ・ジェヒョンしか知らないので、あまりのオバカぶりについていけなかった。
若い組長は、ダサい長髪に昔の石原軍団のようなグラサンかけてすごんでるんだが、顔は染五郎そっくりのあまーいマスク。ちょっとミス・キャスト。
お世辞にも傑作とはいえないんだけど、我慢してみていたら、後半は熱い男の友情ドラマに恋愛も加わり、けっこう楽しめた。「チング」のコメディ版、とでも言えばいいのでしょうか。「木浦」にちょっと行ってみたくなった。日本でいえば博多みたいな感じかな。2006.4