気まぐれCINEMAレビュー BackNumber
2006年
【タ行】
過去の「気まぐれCINEMAレビュー」をまとめました。満足度は★で、がっかり度は×で評価しました。
五十音順にタイトルが並んでいます。
データベースとしてご活用下さい。
【過去の年間BEST3】 BackNumber CINE LATINO (2007年〜 中南米映画 日本未公開版 2007年〜 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】【ド】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 1999〜2005年 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 |
ダック・シーズン TEMPORADA DE PATOS (メキシコ)
フェルナンド・エインビッケ監督、エンリケ・アレオーラ、ディエゴ・カターニョ・エリソンド、ダニエル・ミランダ、ダニー・ペレア出演☆14歳のフラマは、友人モコと一緒に親のいない休日をエンジョイしていた。そこへ、隣に住むリタがやってきて、オーブンを使わせて欲しいという。お腹がすいた二人は、ピザを頼むが、30分過ぎたと文句をつけて、代金を払わない。配達員は払うまで帰らない、と家に居座ってしまう。
全編モノクロ映像で、ホームビデオで撮影したようなテイストの小粋なコメディ。マリファナ入りのケーキ食べて、みんなでラリってしまうシーンは痛快。スピード感もGOOD。監督の次回作、おおいに期待できそう。2007.1
セバスチャン・コルデロ監督、ジョン・レグイザモ、レオノール・ワトリング、ダミアン・アルカザール出演☆エクアドルで子供ばかりが狙われる連続猟奇殺人事件が発生した。マイアミの人気レポーター、マノロたちは、取材の途中、子供を車で轢いた男ビニシオがリンチを受ける現場に出くわす。監獄で囚人たちからいじめを受けたビニシオは、マノロに、連続殺人の情報を提供する代わりに、自分を取材して欲しいと持ちかける。
子供の連続殺人もむごい話ではあるが、集団リンチのシーンがドキュメンタリーのようにリアルで、演技とはいえ見ていて辛いものがあった。
レポーターはリンチされていた男を助け、一躍ヒーローになるのだが、次第にその男への疑いを深めていく。明らかに怪しいと思いながらもあくまで取材第一。それが結果的に最悪の事態を生んでしまう。
ずいぶん昔のオウム村井の刺殺事件や永野会長の刺殺事件を思い出した。マスコミの人間は、スクープよりもまず人命、と、理屈では分かっているのだろうが、カメラとマイクを持つことで、取材マシーンと化してしまう。スクリーンの中だけではない現実がだぶって見えた。
リアルな映像、テンポのよい展開。見ごたえのある社会派サスペンス。レグイザモも素敵だったが、ビニシオを演じたアルカザールの演技が最高。善人にも悪人にも異常者にも見える多面性を見事に表現していた。2007.4 タンゴ TANGO, NO ME DEJES NUNCA (1998年・アルゼンチン/スペイン)
カルロス・サウラ監督、ミゲル・アンヘル・ソラ、セシリア・ナロヴァ出演☆映画監督のマリオはタンゴ・ミュージカルを企画。リハーサルにやってきた若いダンサーはマフィアのボスの愛人だった。
現実と映画の内容がシンクロするダンス・ミュージカル。タンゴの美しさと、監督の恋や孤独が、美しい映像で語られる。悪くはないけど、小さなTV画面ではその美しさを堪能できず。アート映画はやっぱり劇場で見るに限るわ。2007.4
太陽の雫 SUNSHINE
イシュトヴァン・サボー監督、レイフ・ファインズ、ローズマリー・ハリス、ジェニファー・エール、レイチェル・ワイズ出演☆ユダヤ人のゾネンシャインは、ハンガリーに移住し、薬草酒で成功をおさめる。法律家となった息子イグナツはユダヤ風の姓を改め、判事になるが、妻は保守的になった夫に失望し、別れを告げる。
20世紀の激動のハンガリーで生きたユダヤ人一家の過酷な運命を、ストレートにつづった大河ドラマ。レイフ・ファインズが3世代を演じ分けている。
とてもわかりやすく、時代を追って、真面目にユダヤ人一家を描いているのだが、女がらみの話がどの世代も同じようなパターンだったのが少々気になった。
東欧の激動の20世紀を描いた作品なら、やっぱりクストリッツアの「アンダーグラウンド」にはかなわない。「アンダーグラウンド」の質の高さを再確認した。2007.4
TAKESHIS’ ★
北野武監督、ビートたけし、京野ことみ、岸本加世子、大杉漣、寺島進、渡辺哲、美輪明宏出演☆人気タレントのビートたけしは、自分にそっくりな顔の北野と遭遇。存在感の薄い北野は、周囲から相手にされず、オーディションにも落ちてばかりいた。
人気タレント・たけしと、売れない役者・北野の人生は実はつながっていて、北野のその後が、ヤクザなタレント・たけしなのだろう、と勝手に思い込んで見ていた。
アーチスト北野とコメディアン・たけし。北野武の頭の中は、この映画の二人のように多面性があるに違いない。
「ひょうきん族」のようなお決まりのギャグにニヤニヤしながらも、北野が無表情に人を撃ち殺すシーンには見入ってしまった(自分にも2面性があるのかも、なんて思いながら)。「オーラ」の美輪明宏が、男装してシャンソン歌うシーンに感激。うちの母親はあの姿を「銀巴里」で何度も生で見たそうだけど、今となってはお宝映像だわ。
冷めた笑いと冷酷さが同居する不思議なたけしワールドを堪能できた。
私は、アートすぎる北野作品より、コメディの要素が入った作品のほうが好きだなあ。笑える悲劇。これ最高。2006.11 「座頭市」「菊次郎の夏」
ターネーション TARNATION
ジョナサン・カウエット監督・出演、ガス・ヴァン・サント、ジョン・キャメロン・ミッチェル製作総指揮☆俳優のジョナサン・カウエットは、元モデルの母レニーの子として生まれるが、母は心の病に冒され、精神病院の入退院を繰り返す。人一倍繊細なカウエットは、子供の頃から音楽や映像の世界にどっぷりとつかり、また、ゲイとしてのセクシャリティに目覚める。
俳優ジョナサン・カウエットが、元モデルで心を病んだ母の半生と、自分自身を見つめたセルフ・ドキュメンタリー。
彼と母のきっつい人生を、超高速カットバックを使い駆け足で見せていく。そのセンスに普通じゃないものを感じた。天才的だけど危ない感じ。スティーブン・ドーフ似でかなりいい男なんだけど、演技は一人よがりになりそう。自己愛が強すぎるタイプ、とでも言うのでしょうか。母と息子の個性に圧倒された。力作であることには間違いない。2006.12
タイフーン TYPHOON
クァク・キョンテク監督、チャン・ドンゴン、イ・ジョンジェ、イ・ミヨン出演☆北からの亡命を望みながら韓国政府に裏切られた少年が、どん底生活をしながら海賊のボスとしてのし上がる。彼はアメリカ軍から核兵器を強奪し、朝鮮半島を壊滅させようと企むが…。
髪振り乱しながら、荒くれ男を演じたチャン・ドンゴン。やっぱり彼はこういう役がよく似合う。でも、私の今回の目的は韓国軍人を演じたイ・ジョンジェ。牛島和彦監督に似てるけど、大画面で見るとやっぱり牛島監督よりずーっとかっこいいわー。
などと、役者の男前ぶりばかりが目に入ってしまったけど、内容もまずまず。
大河ドラマ「白夜」をもっと単純にして2時間にまとめたような作品。北の殺し屋チェ・ミンスと南の軍人イ・ビョンホンに匹敵するチャン・ドンゴン&イ・ジョンジェ、二人の魅力にクラクラッ〜ときてしまいました。
二人の役柄はベタだけど、熱くてホントはいい奴で、東映ヤクザ映画の鶴田浩二とか健さまとか文太アニキみたい。なんたって監督が「チング」のキョンテク氏ですから〜。
男同士の友情物語もGOOD。泣けるぜェ。
ということで、個人的には存分に楽しめたんだけど、映画の評価となると、中途半端感は否めない。
朝鮮半島分断の悲しい歴史に翻弄された庶民の苦しみや、同じ民族が戦うことのむなしさ。
韓国映画定番のテーマを扱いながらも、底が浅い。海底が見えちゃってる感じ。
どうせなら、アメリカとロシアを無理にからめるより、個人の対立にとどめて、もっと単純にしたほうが、娯楽作品としては面白くできたのでは、とも思う。
武器商人とか、チェルノブイリとか、とってつけたようなエピソードは陳腐だし、突然、カミカゼ特攻隊みたいな軍人がでてきたり、説明不足で話がつながらないし…。
などなど、突っ込みどころはたくさんある。
だけど、娯楽作品にも民族統一への思いをこめたい、という作り手の気持ちはわからなくはないし、現在進行中の問題を抱えた国ならではの揺るぎないテーマでもある。
なので、いろいろ言いたいことはあるけれど、ここは、彼らのメッセージをケチをつけずに素直に受け止めようと思う。2006.5 参考CINEMA:「ウェルカム・トゥ・ドンマッコル」「チング 友へ」
太陽 THE SUN
アレクサンドル・ソクーロフ監督、イッセー尾形、ロバート・ドーソン、佐野史郎、桃井かおり出演☆1945年8月。昭和天皇は、マッカーサーとの会見を前に、一人苦悩している。神であるか人間となるか。選択をせまられた天皇は、人間となる道を選ぶ。
戦前、天皇は神のような存在であったということは、頭では理解しているが、どうもピンとこないので、何だか別の国の天皇を見ている感じがした。
終始渋い顔をしていた天皇が、人間になることを選び、チョコレートに興味をしめしたり、皇后にちょっと甘えたり、米兵にチャップリンに似ているとか言われて喜ぶシーンは、愛嬌があって、思わず笑ってしまった。
長い間、自由を奪われ、籠のなかに閉じ込められていた鳥(=天皇)が、おそるおそる籠から出ようとしている。巣立ちのときを迎えた天皇の表情は、子供のように無邪気である。イッセー尾形、迫真の演技!よくぞ演じきった!
一人芝居はお得意だろうけど、ほとんど一人の天皇役だし、監督はロシアの巨匠。緊張したんだろうなあ、なんて役者に同情してしまった。
たぶん、いろいろなメッセージがこめられている作品なんだろうけど、霧がかかったような映像と、音のない世界に、私は度々舟漕ぎ状態。残念ながらおもしろい、とは感じなかったが、画期的な作品ではあることは間違いないでしょう。関係ないけど「あっそ」というのは皇室言葉なの?最後まで気になって仕方なかった。2006.12
タッチ・オブ・スパイス A TOUCH OF SPICE
タソス・ブルメティス監督、ジョージ・コラフェイス、タソス・バンディス出演☆イスタンブールに住む少年ファニスの遊び場は、祖父が営むスパイス店の屋根裏部屋。スパイスに囲まれて育ったフェニスは、祖父からユニークな人生論を学び、また、スパイスを使った料理の腕を身につける。だが、男らしさを望む両親は、ファニスの行く末を心配してキッチンに入ることを禁じてしまう。
そんなある日、トルコとギリシャの関係が悪化。トルコに住むギリシャ人は強制退去を命じられる。フェニスは大好きな祖父と離れ、両親とギリシャに移り住むことになる。
「肉団子にはシナモンを」「なくてはならない地球は、塩」「スパイスが目に見えないように、大切なものはいつも目に見えない」など、スパイスを人生にたとえる祖父のウンチクが楽しくて、おじいちゃん語録を作りたくなった。スパイスのきいたギリシャ料理もおいしそうだし…。スパイスって奥が深いよなあ。
さらに、たとえ上手のおじいちゃんは、ギリシャとトルコの悲しい歴史も、自分の首の古傷にたとえる。はるか太古の紀元前から、微妙な関係だったトルコとギリシャ。お隣の国とはいえ、宗教も違うし、溝はなかなか埋まらないのだろう。監督も祖父役の俳優も、イスタンブール出身のギリシャ人だそうだ。国の争いにより、家族が引き裂かれた人々の悲しい思いがつまった秀作だ。
一点気になったのは、舞台が現代になると、言葉が突然英語になったのはなぜだろう。トルコ語は忘れてしまったから?それとも、今のトルコでは英語をしゃべる人が多いのだろうか? どうして?? 2006.9
チェ・ゲバラ&カストロ FIDEL (2002年・アメリカ)
デヴィッド・アットウッド監督、ピクトル・フーゴ・マルティン、ガエル・ガルシア・ベルナル出演☆フィデル・カストロが革命家としてどんな人生を送り、キューバの権力者にまで上りつめたかを描いたTVドラマ。
アメリカ製作というわりには、それほどカストロに対して批判的ではなかったけれど、ホントのところはどうなのかな、と疑いながら見てしまった。いずれにしても革命を成し遂げる人というのは、やはりただ者ではない。カストロのインタビュー番組を見ただけで圧倒されてしまったぐらいだから、生カストロのオーラは半端じゃないんだろうなあ。
日本のDVDタイトルのゲバラは脇も脇。人格すら描かれていません。こういう偽りのタイトルを付ける配給にオブジェクションだ。2007.5
父親たちの星条旗 FLAGS OF OUR FATHERS ★
クリント・イーストウッド監督、ジェームズ・ブラッドリー原作、ライアン・フィリップ、ジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチ、バリー・ペッパー、ポール・ウォーカー出演☆1945年、硫黄島に上陸したアメリカ軍は、日本軍の激しい抵抗にあい、戦闘は予想以上に長引いてしまう。そんな中、硫黄島の頂上に星条旗を掲げた6名の兵士の姿が、新聞の1面を飾る。勝利を確信したアメリカ国民は歓喜し、6名は一躍、英雄となる。
まもなく、生きのびた3名、衛生兵のドク、ネイティブ・アメリカンのアイラ、伝達係のレイニーが帰還。3人は、激しい戦闘で疲れきった心身を癒す暇もなく、国債集金キャンペーンの広告塔として駆り出される。
テーマは、戦争映画の定番である戦友たちへの鎮魂歌。オーソドックスな話ではあるが、構成がすばらしい。戦場での死闘、英雄となって帰還した3名の戸惑い、そして現代が、絶妙なタイミングでフラッシュバックするので飽きがこない。脚本は誰?と思ったら、アカデミー受賞作「クラッシュ」の監督、ポール・ハギスだった。納得。
お恥ずかしい話だが、硫黄島の星条旗の写真の存在や、太平洋戦争の象徴として扱われていたという事実をまったく知らなかった。
フランス革命の象徴「民衆を導く自由の女神」の絵のように、国旗を掲げることで英雄に祭り上げられた兵士たち。国民の気持ちを一つにするために、3人は絶好の象徴だったのだろうし、戦争で使い切った金を集めたい、という国の事情もわからないでもない。
でも、英雄の裏には、若くして命を落とした何人もの犠牲者(アメリカ兵だけでなく、日本兵も)がいたのである。
映画は硫黄島で死んでいった兵士達の哀惜を、繰り返し繰り返し訴え続けていた。
イーストウッド監督は陸軍にいたらしいし、友人で戦士した人もいるのだろう。監督の鎮魂の思いはヒシヒシと伝わってきた。
&旗を揚げる兵士の銅像を建てるのはまだいいとして、チョコレートをトッピングされたケーキ(orアイスクリーム?)まで作ってしまう趣味の悪さや、メディアの加熱ぶりは、テレビや雑誌でよく見る光景なので、思わず苦笑いしてしまった。
オリンピックのメダリストや、ノーベル賞受賞者などをメディアが寄ってたかって取材し、私生活を暴き、ゆかりの地では受賞者の名前入りの土産物や道まで作ってしまう。某国のようにメダリストが一生、生活を保障されるわけでもないのに、さんざん持ち上げといて、飽きたらポイ捨て、である。
騒動にうまく乗ってヒーローからそのまま議員やタレントになる人もいるが、人生狂わされた元ヒーローも大勢いるのである。
スポーツの祭典であるオリンピックと、人の命を奪う戦争は、同じ土俵では語れないかもしれないが、ヒーローに対する異常な扱いは一緒である。その時は、寄ってたかって持ち上げるが、半年後には、次のヒーロー探しに躍起になっている。
「ハンカチ王子」のその後も、どうなることやら、である(話脱線しました。スミマセン)。
人々が狂喜乱舞した銅像は朽ち果て、あっという間に存在すら忘れられてしまったドク、アイラ、レイニー。ヒーローに祭り上げられた3人のその後の人生は、映画の後半、駆け足で描かれただけだったが、その厳しい現実が一番、印象に残るものだった。2006.11
参考CINEMA:「スペース・カウボーイ」「ミスティック・リバー」「ブラッド・ワーク」「目撃」「ミリオンダラー・ベイビー」「硫黄島からの手紙」
地球を守れ! SAVE THE GREEN PLANET!
チャン・ジュヌァン監督、シン・ハギュン、ペク・ユンシク、ファン・ジョンミン出演☆アンドロメダから来たエイリアンが人類を滅ぼそうとしている、との妄想に取り付かれたビョングは、大物のカン社長がエイリアンであると信じ拉致監禁。やがて、カン社長とビョングの関係が明らかになる。
シン・ハギュンの演技のうまさに尽きる。偏執狂役やると「ほんとにコイツ頭おかしいのかも」と、思えてくるからすごい。可愛い顔してるからお人よしの凡人役も出来るし、「トンマッコル」のような熱血役もいいし…。
ノリはB級ホラーで、ラストのオチも予想通りなんだが、残酷さ&ネチっこさが韓国映画らしい。人間の「僻み」「コンプレックス」を描くのが上手いよなあ。2006.7 参考サイト:脇役たち(シン・ハギュン)
チャーリーとチョコレート工場 CHARLIE AND THE CHOCOLATE FACTORY
ティム・バートン監督、ロアルド・ダール原作、ジョニー・デップ、フレディ・ハイモア、デヴィッド・ケリー、ヘレナ・ボナム=カーター、クリストファー・リー出演☆大人になりきれない工場長ウィリー・ウォンカが、チョコ工場に5人の子供を招待する。少年チャーリー以外の子供は、高慢ちきや頭でっかちな子供ばかりで、その欲深さが災いして、ウォンカに痛い目にあわされる。
楽しい映像と音楽に合わせて一緒に歌いたくなった。ちっちゃい人たちの歌が最高!気味悪い顔と、へんな踊りがケッサク。毎度のことながら、バートンの想像力には頭が下がります。かなり毒があって大人も楽しめるけど、ファンタジー映画はやっぱり子供がみるべきでしょう。2006.5 参考CINEMA:「ビッグ・フィッシュ」「猿の惑星」
父と暮せば ★
黒木和雄監督、井上ひさし原作、宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信出演☆原爆投下から3年後の広島。図書館員の美津江は、原爆の資料を収集する木下という男にひそかに想いを寄せている。毎晩のように訪れる父親の幽霊は、木下に想いを告げるようけしかける。しかし美津江は、原爆で亡くなった友や父への罪の意識を拭いきれず、自分は幸せになってはいけない、と頑なになっていた。
戯曲をそのまま映画にすると、回りくどくて飽きてしまうことがよくあるのだが、この映画は、父と娘の掛け合い台詞が絶妙で、最初から最後まで集中して見れた。
原田芳雄演じる父の幽霊が、気さくで楽しいキャラで、頑なな娘の心を「ああ言えばこう言う戦法」で解きほぐしていく。原爆という重いテーマを扱ってはいるんだけど、父のコミカルな部分が、重い雰囲気を和らげていた。宮沢りえもよかったが、原田芳雄の演技がすばらしい!舞台俳優ってことを忘れていたけど、やっぱりうまい。さすがです。杉村春子の「欲望〜」みたいに、原田芳雄もこの作品を一生ものにしていけばいいのに。
戦争を体験した生存者の、亡くなった人たちへの罪の意識、自分が生きていることへの後ろめたさは、敵味方関係なく同じように抱く感情だ(「父親たちの星条旗」の兵士たちでも繰り返し描かれていた)。国の利権を巡る戦いの犠牲者は、いったいいつになったら減るのだろうか。2006.11
参考CINEMA:「美しい夏キリシマ」
茶の味
石井克人監督、佐藤貴広、坂野真弥、浅野忠信、手塚理美、我修院達也、三浦友和、轟木一騎出演☆田舎町に住む春野家のメンバーは、恋に悩む高校生の長男、巨大なもう一人の自分が見える小学生の妹、アニメーターの内職に夢中の母、催眠治療士の父、音楽ミキサーのオジ、そして、ボケ気味(?)の変人爺ちゃんの6人家族。
のほほーーんと暮らす春野家の人々も、ちょっとした悩みを抱えていて…。
不思議ワールド全開のホームドラマ。面白いんだけど、2時間ぶっ通しで劇場で見ると、ちょっと疲れそう。いろんな面白さがテンコ盛りなので、30分ドラマの連載ものがベストかな。寺島進がウ○コされた骸骨の幽霊だった、っていう話には爆笑でした。「山よ」のメロディも未だに耳から離れず。続編をテレビの深夜枠でぜひやって欲しい。2006.7
チルソクの夏
佐々部清監督、水谷妃里、上野樹里、桂亜沙美、三村恭代ほか出演☆1977年夏。下関の高校生・郁子は、姉妹都市・釜山での陸上大会に出場し、釜山の高校生・安と言葉を交わす。帰国後、文通を始めた二人は「来年のチルソク(七夕)に再会しよう」と約束するが、二人の交際を大人たちは快く思わない。
高校生の淡く切ない恋話は、「中学生日記」みたいでこそばゆかった。でも、韓国と日本が当時どういう関係にあったかを、声高ではないけれども真摯に描いていて好感が持てた。自分が高校生のときも、彼女たちと同じくまったく無知だったよなあ、なんて、わが身を振り返ってしまった。
今は個人では、わだかまりなく交流できるようになってはいるけど、相変わらず政治は、竹島や靖国問題でケンケンゴウゴウやってるし…。どうしていがみ合うかなあ。人間ってつくづく争うことが好きな生き物なんだろう。悲しいね…。2006.8
【ツ tu】
ツォツィ TSOTSI
ギャヴィン・フッド監督、プレスリー・チュエニヤハエ、テリー・フェト出演☆ヨハネスブルクのスラム街で暮らす少年ツォツィは、強盗で日銭を稼ぐチンピラ。仲間割れして店を飛び出したツォツィは、高級車を運転する女性を襲って強奪。その車には乳飲み子が乗っていた。
愛を知らない不良少年が、乳飲み子を抱えてしまったことで、人間的な感情が芽生えていく。ツォツィを演じた少年の微妙な表情の変化が秀逸だ。強盗をするときには、笑うことを忘れてしまったかのような厳しい顔つきだったのが、赤ん坊がお乳を飲む姿を見ているときは、子供のように無防備で、温和な表情を見せている。
なかなか難しい役どころだが、見事に顔で演じていた。
ストーリー的には、もう少し、子供を抱えてオロオロするエピソードが欲しかった気がする。人まで殺してる悪党のわりには、あっさりと投降し過ぎ。
南ア映画は、欧米人側から描いたアパルトヘイトものしか見たことがなかったので、すべてが新鮮に感じた。ヨハネスブルクで暮らす一般市民(黒人)や、意外に開けた町の様子など、等身大の南アメリカが見れたのが興味深かった。
もうすぐWカップが開催される国だし、ある程度、発展しているとは思っていたが、かなり大都会と見てとれた。一度、訪れてみたい国の一つである。2007.5
ディパーテッド THE DEPARTED
マーティン・スコセッシ監督 レビューはCINEMAの監督たち(M・スコセッシ)へ
アンドリュー・ラウ監督、チョン・ジヒョン、チョン・ウソン、イ・ソンジェ出演☆アムステルダムの広場で肖像画を描いているヘヨンは、客として現れた韓国人ジョンウに恋をする。二人はゆっくりと心を通わせていくが、ジョンウはインターポールの刑事であり、広場に現れたのは、追っ手のアジトを見張るためだった。
銃撃戦に巻き込まれたへヨンは、首を撃たれて声を失い、傷を負ったジョンウもヘヨンの前から姿を消す。
悲しみに暮れるヘヨンの前に、パクウィという男が現れた。
かわいい女性を思う2人の男は、刑事と殺し屋だった…。というから、もっと犯罪が絡んだ話なのかと思ったら、意外や意外、とてもピュアなラブ・ストーリーだった。監督もチョン・ジヒョンのかわいさにメロメロ_だったのでしょう。
男だったら誰でも惚れるよなあ。なんて、映画の中身そっちのけで納得してしまった。主役3人はそれぞれ個性的で魅力的に描かれてはいたのだが、殺し屋と刑事の対決の図式が煩雑すぎて説得力に欠けた。私だったら、ちょっとストーカーっぽい殺し屋より、刑事がいいな、なんて好き勝手に選べる楽しみもあります。映画の出来としては期待はずれだったが、3人とも素敵だったのでよしとしましょう。どうでもいいけど、チョン・ジヒョンは、黒髪を下ろしたほうがぜったいキュート。インタビューとか、記者発表のときは、なんでいつもアップにしてしまうのだろう。もったいない。&ラウ監督は初期のカーウァイ作品(「今すぐ抱きしめたい」)の撮影監督だったようです。知らなかった。2007.4
デビルズ・バックボーン EL ESPINAZO DEL DIABLO
ギレルモ・デル・トロ監督、エドゥアルド・ノリエガ、マリサ・パレデス、フェデリコ・ルッピ出演☆舞台はスペイン内戦下。ある孤児院に連れてこられたカルロスは、夜中に少年の霊に遭遇。それは行方不明になっている少年サンティの霊だった。
大注目されているメキシコ人、デル・トロ監督作品に、「オープン・ユア・アイズ」のイケメン俳優ノリエガと「オールアバウト〜」のマリサ・パレデスが出演!ということで期待して見てみたが、なんてことはない普通のホラー・サスペンスだった。セピア色の映像は怪しげでよかったが、正直エンディングにはがっかり。ドラマ的にはBクラス。強いてあげれば少年たちはみんな魅力的。スペイン映画の少年少女は昔から演技が上手い!そういう意味では「パンス・ラビリンス」も期待できるかも。2007.5
天空の草原のナンサ THE CAVE OF THE YELLOW DOG ★
ビャンバスレン・ダヴァー監督、ナンサル・バットチュルーン出演☆モンゴルの遊牧民一家の長女、6歳のナンサは、ある日、洞窟で犬を見つけ、ツォーホルと名づけて可愛がる。しかし父は、オオカミを呼び寄せるかもしれないから捨てろという。
行商に行った父の代わりに放牧に出かけたナンサは、姿が見えなくなったツォーホルを探しているうち、日が暮れてしまう。
モンゴルの高原で暮らす人々をドキュメンタリータッチで描いた作品。出演者は素人の遊牧民らしいが、ナンサちゃんがかわいくて泣けてきた。モンゴルでも遊牧民は減りつつあるらしい。チーズの作り方や、ゲルの作り、家の中の家具など、一つ一つがめずらしくて、一度あの中で暮らしてみたくなった。今度、体験ツアーにでも参加してみようかな。2006.11
10ミニッツ・オールダー イデアの森 TEN MINUTES OLDER: THE CELLO
ベルナルド・ベルトルッチ、マイク・フィギス 、イジー・メンツェル、イシュトヴァン・サボー、クレール・ドニ、フォルカー・シュレンドルフ、マイケル・ラドフォード、ジャン=リュック・ゴダール監督、アミット・アロッツ、マーク・ロング出演☆名だたる監督が競作した短編。どれも哲学的でようわからんかった。こういう映画は、じっくりと劇場で見たほうが良さが伝わるのでしょう。2006.10
天才マックスの世界 RUSHMORE
ウェス・アンダーソン監督・脚本、ウェス・アンダーソン脚本、ジェイソン・シュワルツマン、ビル・マーレイ、オリヴィア・ウィリアムズ、シーモア・カッセル出演☆私立の名門校に通うマックスは、19ものクラブを切り盛りする人並みはずれた行動力の持ち主。だが、本業の成績はさっぱりで、校長からも目をつけられている。そんな彼が小学部の教師に恋をした。マックスはあの手この手を使い彼女に近づこうとするが、子供扱いされてしまう。
コッポラ・ファミリーの一人ジェイソン・シュワルツマンが大人と子供の顔を合わせ持つアンバランスな青年マックスを初々しく演じている。彼と張り合う大人気ない中年男には名優ビル・マーレイ。
向こう見ずにまい進する青年の恋と、自信をなくしかけた中年男のもどかしい恋。一人の女性をめぐって張り合う二人の姿は微笑ましい。小生意気なマックスだけど、その一途さにはホロリとさせられる。大人から子供まで楽しめるちょっぴりほろ苦い青春コメディです。
劇場未公開の作品だが、うもらせてしまうのはもったいない秀作だ。
音楽の趣味がいいと思ったら、The Whoのピート・タウンゼントの名前が!ロック好きにはたまらない名前です。2006.1.22 参考CINEMA:「ロイヤル・テネンバウムズ」
ディバージェンス -運命の交差点- DIVERGENCE 三岔口
ベニー・チャン監督、アーロン・クォック、イーキン・チェン、ダニエル・ウー、ロー・ガーリョン、アンジェリカ・リー出演☆刑事のシュンは、実業家イウの裁判の重要証人を護送するが、証人はシュンの目の前で殺し屋コークに射殺される。
さらにシュンはイウ主催のパーティーを張り込むが、そこで敏腕弁護士トウが連れた妻の顔をみて愕然とする。妻は、10年前に行方不明になった恋人とそっくりだったのだ。
刑事、殺し屋、弁護士の3人の人生が交差し、それぞれが分岐点を迎える。そこに、女も絡み…。男達の人生が錯綜するドラマは私好みなのだが、ちょっと話がとっちらかりすぎてて入り込めず。ダニエルはかっこよかったけど。
同じように豪華キャスト使ってても、「インファナル・アフェア」とは月とスッポン。「インファナル〜」は仕掛けもキャラも最高だったよなあ、なんてあらためて感心してしまった。2006.11 参考CINEMA:「香港国際警察/NEW
POLICE STORY」
Destiny (アルゼンチン)
ミゲル・ペレイラ監督、トリスタン・ウイロア出演☆麻薬ディーラーの男は牧師になりすましアルゼンチンとボリビアの国境へ取引に向かうが、相手に騙されて攻撃を受ける。行き倒れているところを助けられた男は、山奥の村で暮らし始める。
ロードムービーかと思ったら、旅をするのは最初の15分ぐらいで、祈祷師みたいな男との交流を描くのかと思ったら、あっさり殺されてしまったり、なんだか、話がとっちらかっていてよくわからない映画だった。期待してたので残念。2006.10.14 釜山国際映画祭06にて
囚われの女たち PANTALEON Y LAS VISITADORAS (1999年・ペルー)
フランシスコ・J・ロンバルディ監督、マリオ・バルガス・リョサ原作、サルバドール・デル・ソラール、アンジー・セベダ、モニカ・サンチェス出演☆民間人へのレイプ事件が問題になっている駐屯地の若い兵士たちのために、軍は、「ビジター」という名の軍専門の娼婦を派遣して犯罪をなくそうと画策。堅物のエリート軍人が、ビジターたちの管理を命じられる。
ビジターのおかげでレイプ犯罪は減るが、エリート軍人は娼婦の一人に溺れていく。
エロ作品として日本では出回っているようだが、まったく的外れもいいところ。軍人を癒すための娼婦(日本でいえば従軍慰安婦)たちの真面目な物語です。
制服を着た娼婦たちの前に、若い兵士達が並んでいる姿は、微笑ましくもあったが、娼婦も一人の女。好きな男と結婚して娼婦を辞めたいと思う女心も描かれていて好感がもてた。無理やりやらされていた日本軍の従軍慰安婦とは違うかもしれないが、性の問題は男女の間に深くて大きい川が流れているのだなあ、とあらためて考えさせられた。2007.2
トゥモロー・ワールド CHILDREN OF MEN
アルフォンソ・キュアロン監督、P・D・ジェイムズ原作、クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーア、マイケル・ケイン、キウェテル・イジョフォー出演☆舞台は2027年。人間が生殖機能を失い、子供が生まれなくなってから18年。世の中は、人類滅亡に対する絶望から秩序が乱れ、テロが横行していた。ある日、官僚のセオは、テロ組織を仕切る元妻ジュリアンから、ある移民の少女のために通行証を手に入れて欲しい、と頼まれる。
「未来世紀ブラジル」「ブレードランナー」、もしくは「ガダカ」のような近未来ものは、かなり好みなので期待していたが…。
もうちょっと風刺をきかせるか、アップテンポにするか、もしくは暗黒ワールドっぽくすればもっと楽しめたのに。世界感が中途半端というか、特徴がなくて、面白みにかけた。
ただ、ストーリーは興味深かった。人が滅亡するのが決定的になったら、やけっぱちでやりたい放題になるか、絶望するかのどちらかしかないことは想像できるし、もし、そこで奇跡が起こったとしたら、人々はキリストの誕生のように、新しい命を崇めるだろう。
あの赤ん坊のその後の人生は知りたいような、知りたくないような…、だったけど、唐突に終わるところに、パート2狙ってる匂いがプンプンした。テリー・ギリアムかリドリー・スコットに撮って欲しかった。クライブ・オーウェンはよかったけどね。&「堕天使のパスポート」のキウェテルがあの裏切り者のお兄ちゃんとはまったく気づかず。七変化の役者です。2006.12
参考CINEMA:「天国の口、終わりの楽園」
トゥルーへの手紙 A LETTER TO TRUE
ブルース・ウェバー監督☆写真家ブルース・ウェバーの愛犬トゥルーへの手紙、という形で語られたドキュメンタリー・エッセイ。犬がかわいかったのとBGMがよかったのぐらいしか印象に残らず。見る人が見れば感動するのかもしれないけど。
ダーク・ボガート、リズ・テイラーの話や、ジョナサン・デミがとったハイチ内乱のドキュメンタリー映画のことなど、興味を持てる内容がいろいろ入っているのに「知りたい」と思ったところで、まったく違う話題になってしまうので、消化不良を起こした。映画的な“見せる編集”を巨匠スコセッシあたりに学んでみてはどうでしょう?(余談:リズ・テイラーが「名犬ラッシー」の少女だったのを知ってびっくり!今の姿とギャップあり過ぎ…)2006.2.12
トランスアメリカ TRANSAMERICA ★
ダンカン・タッカー監督、フェリシティ・ハフマン、ケヴィン・ゼガーズ、フィオヌラ・フラナガン、グレアム・グリーン、バート・ヤング出演☆性同一性障害(トランスセクシャル)のブリーは、LAでウェイトレスをしながら孤独に暮らしていた。そんなブリーが待ち望んでいるのは男性器除去手術。許可が下り、やっと女性になれる、と喜んでいたところに、NYの留置所から電話が入る。17歳のトビーという少年が、身元引受人として実の父親スタンリーを指名したというのだ。かつてスタンリーという名の男性であったブリーは、17年前、一度だけ女性と関係を持ったことがあったのを思い出す。
セラピストから「子供に会わないと手術は許可できない」と言われたブリーは、身分を偽ってトビーに会いに行く。
自分はたぶんゲイではないとは思うのだが(まだ目覚めてないだけかもしれないが)、なぜかゲイ・ムービーに惹かれてしまう。オネエ言葉をしゃべるオカマちゃんや、ブサイク男が派手に女装してる姿は見ていて楽しいから、という理由もある。
でも、それ以上に、異端扱いされながら自分に正直に生きている姿に共感を覚え、応援したくなるから、というのが一番の理由である(あくまでも仮定。理屈じゃなく惹かれるものがあるので)。
この映画の主人公ブリーは、オネエ言葉もしゃべらないし、特別ブサイクでもないし、派手に着飾ってもいない。異端(ゲイ)であることを利用できるショービズ界とは縁のない、地味な世界の人間である。つまり、ビジュアル的にはさして笑い飛ばせる部分はない。
また、ブリーには恋人も友人もいない。身体だけの付き合いではなく、気持ちのふれあいを望んでいる引っ込み思案のブリーは、異端なうえに孤独でもあるのだ。
そんな地味で普通のブリーの前に、突然、自分の息子トビーが現れる。彼は、女として生きたいと願うブリーの唯一の汚点だ。いまいましい男だったころの過ちの証なのである。
当然のように、はじめは息子を疎ましく思い、義父に預けようとする。
しかし、息子トビーと共に旅をし、彼の生い立ちを知るに従い、人間としての情が沸いてくる。
「女になりたい男を、女優が演じる」という奇抜な設定に反して、ブリーと息子トビーのふれあいはごくシンプルだ。トビーの義父に虐待され、車を盗まれ、短い恋をし、そして、ブリーが長年会いに行くことのできなかった家族の元へ。道中、さまざまなトラブルを乗り越えながら、二人の友情が芽生えていく。
旅の途中でブリーが男だと知ったときには、トビーはもちろんショックを受ける。しかし、トビーは、その後もブリーを異端扱いせず、ウソをつかれたことに怒るぐらいで、簡単に和解してしまう。このあっさり感がいい。男でも女でもトランセクシャルでも、同じようなことで悩んでいるし、寂しいのも一緒。異端に見える相手とでも、わかりあうことはできるのだ。
何よりも女性が性同一性障害の男性を演じるという不自然さを、まったく感じさせないフェリシティの演技に脱帽。「デスパレート・ワイブズ」と比べて見ると、フェリシティの変貌ぶりにびっくりする。
それと、女となった息子を受け入れられない成金ママのキャラが最高。ギラギラしてて、お調子者なんだけど、息子をほんとに愛していたのだろう。理解してあげたいけど感情が許せない、というジレンマがヒシヒシと伝わってきた。
&トビー役のケヴィンが美しくて、見惚れてしまった。ブリーのママじゃなくても、側に置いておきたくなるわ。美青年の今後に期待!2006.9
トニー滝谷
市川準監督、村上春樹原作、西島秀俊ナレーション、イッセー尾形、宮沢りえ出演☆子供のころから人と接するのが苦手だったイラストレーターのトニーは、編集者の女性に恋をしてプロポーズする。幸せな結婚生活を送るトニーの唯一の不満は妻の買い物依存症だった。西島秀俊の淡々としたナレーション、平面的な映像、背中からのアングル等、独特な雰囲気のある映画だった。
トニーの孤独は痛いほどよくわかるんだけど、今の自分に比べたら幸せな奴って思ってしまった。白っぽい映像は綺麗だし、台詞もポエムっぽいし、雰囲気いいのはわかるんだけど、「だからなんなの?」って感じ。かなり評価の高い作品なんだけど、私は正直受付けなかった。これって村上ワールドなんでしょうか?村上春樹あんまり好きじゃないので、これまたわかんなーい。2006.4
ドリームガールズ DREAMGIRLS ★★
ビル・コンドン監督、ジェイミー・フォックス、ビヨンセ・ノウルズ、エディ・マーフィ、ジェニファー・ハドソン、ダニー・グローヴァー出演☆☆J・ハドソンからダニー・グローバーまで、新旧とりまぜたアフリカ系スターが勢ぞろい。ハデハデのステージ&衣装&ダンスも楽しいけど、J・ハドソンの胸に迫る歌声がとにかくすばらしい!鳥肌立ちました。スターのビヨンセ、エディ・マーフィー、J・フォックスを食った堂々の歌いっぷり。アレサ・フランクリンを凌ぐディーバ誕生!
☆1962年のデトロイト。明日を夢見る少女エフィー、ローレル、ディーナの3人は、“ドリーメッツ”というグループを結成し、オーディションへ挑戦する日々を送っていた。彼女たちの歌に無限の可能性を感じたマネージャーのカーティスは、手始めに、人気アーチスト、ジェームズ・アーリーのバック・コーラスとして彼女たちを売り出すことにする。
さらに、バック担当だったディーナの美貌に着目。圧倒的な歌唱力のあるエフィーをはずし、見栄えのするディーナをセンターに起用する。
“ドリーメッツ”は、たちまち全米チャートのトップに躍り出るが、エフィーは不満を募らせ、脱退してしまう。
1960年代、まだまだ黒人が差別されていた時代に、デトロイトの中古車屋が起こした音楽レーベル「モータウン」。シュープリームス、ジャクソン・ファイブ、スティービー・ワンダーらを生み出した伝説のレーベルの誕生秘話を、歌とダンスと涙でつづったブロードウェイ・ミュージカルがついに映画になった。(「モータウン」については「音魂大全さんに詳しく出ています」
ノリノリ(死語と知りつつ使います)のダンス&ミュージックと、腹筋をフルに使ったパワフルな歌。「うるさい」「暑苦しい」「下品」「ダサイ」などとおっしゃる方もいるでしょうが、やっぱりソウル・ミュージックはこうでなくっちゃ!
エフィー、ローレル、ディーナ。3人の歌姫は、初々しい10代からスタートし、きらびやかなポップスターへ。そして、恋や挫折、裏切りを経験し、魂を揺さぶる歌を奏でるようになる。
ストーリーはいたってシンプルで予定調和ではあるのだが、とにかく歌と衣装がすばらしい!
美貌の歌姫ディーナ(ビヨンセ)はオシャレでかっこいいし、ジェームズ(エディ・マーフィー)の下品な腰のフリも超セクシー。(「リトル・ミス〜」のオリーブちゃんの腰フリも見事でしたが、こちらは年季はいってます)
でも、なんといっても度肝を抜かれたのは、エフィ役のジェニファー・ハドソン。まったく知らない歌姫だけど、オーディション番組から出てきた新人らしい。
ちょっと太めで美人とはいえないルックス。でも、その歌声だけは誰にも負けない。エフィの役は演技力より歌がすべて。それだけにプレッシャーもあったでしょうが、堂々の歌いっぷり!
とくに、再起をかけた場末のバーのシーンでは、もう、パブロフの犬のように、条件反射で涙ボロボロ。めったに映画見て泣かないはずの私が、不覚にもジェニファーの歌にしびれ、3度も涙してしまった。
涙は悲しいから流れるのではない。心に響いてくるものがあれば、自然と流れてくるものなのだなあ〜、と痛感。
真実は定かではないが、「モータウン」の創始者は、実際にダイアナ・ロスの恋人だったようだし、エフィーは、シュープリームスを脱退したフローレンス・バラードがモデルとのこと。映画の中ではJ・フォックス扮する辣腕社長カーティスが悪者にされていたけど、あれぐらいのことはどんな世界でもよくあること。無断のパクリ歌が大ヒットなんて、当時はざらにあったのでしょう。
この映画では、エフィーが見事に復活するまでが描かれているが、実際にシュープリームスを脱退したフローレンス・バラードは、その後、アル中になり夭折したそうです。
G・グロ−ブ賞で、ジェニファー・ハドソンが挨拶の最後に彼女の名前を挙げていたのが印象的でした。
世の中って不公平だし、必ずしも努力が報われるわけではない。
でも、いちいち腐ってても仕方ない。夢破れ、都落ちしたわが身を振り返りつつ、ちょとだけエフィーから元気をもらうことができました。2007.2
ドア・イン・ザ・フロア THE DOOR IN THE FLOOR
トッド・ウィリアムズ監督、ジョン・アーヴィング原作、ジェフ・ブリッジス、キム・ベイシンガー、ジョン・フォスター、ミミ・ロジャース、エル・ファニング出演☆ロングアイランドに住む児童文学作家テッドは、作家志望の高校生エディを助手として雇う。
エディは、息子を亡くしたショックから抜け出せない妻マリアンに心を奪われ、二人は逢瀬を重ねる。
アービングの「未亡人の1年」の前半を映画化した作品。ジェフとキムの抑えた演技、物悲しいロングアイランド・ビーチの風景が、壊れかけた家族の心理状態をしっとりと表現していた。
ただ、アービング作品ならではの斬新な設定や、ブラックなテイストが好きなので、ちょっと物足りなかった。「未亡人の1年」後半の娘ルースの人生を違った切り口で映画にしてほしい。2006.9
独裁者 THE GREAT DICTATOR
チャールズ・チャップリン監督・出演☆ヒンケルという名の独裁者と、ユダヤ人の床屋をチャップリンが演じ、ナチスドイツを痛切に皮肉った作品。
随所に定番ギャグが入っている。今なおテレビや映画で繰り返し使われているギャグの原点はチャップリンだったのか、と、あらためて関心させられる。
ラストの演説シーンだけは「映画人」「コメディアン」であることを捨て、チャップリンという一人の表現者の主張が述べられていた。その時代を生きた者にしかわからない悲痛な思いは、胸に迫るものがある。ただのコメディアンはない、表現者としてのプライド、使命感のようなものが感じられた。今さらだが、チャップリンの偉大さに圧倒された。2006.7
ドリアン ドリアン DURIAN DURIAN
フルーツ・チャン監督、チン・ハイルー、マク・ワイファン出演☆中国東北部から香港へ出稼ぎに来たイエンは、毎日、男達の相手をしながら、精力的に稼ぎまくる。
大金を持って故郷へ帰ったイエンは、家族や友人から盛大に歓迎を受け、戸惑いを隠せない。香港で娼婦をしていたとは誰も知らなかったのだ。
夫との離婚を決意し、店を出す準備に追われるイエンの元へ、香港で知り合った少女からドリアンが送られてくる。
娼婦として働く女性の姿を淡々と追ったドキュメンタリー・タッチの映画。フルーツ・チャン=グロい描写、とイメージしていたので少々拍子抜け。前日みたジャ・ジャンクーの「青の稲妻」とダブってしまった。
香港でのイエンと、田舎で普通に暮らすイエンが、外見も表情もあまりにも違うので、別人?、と間違えるほど。彼女は、やむにやまれず娼婦になったわけではないのだろうが、家族・友人には絶対言えない、はやく忘れたい、という気持ちだけはヒシヒシと伝わってきた。現代的な娼婦の姿をリアルに描いた作品だ。2006.11
参考CINEMA:「ハリウッド・ホンコン」
独立愚連隊
岡本喜八監督、佐藤允、中谷一郎、鶴田浩二、中丸忠雄、雪村いずみほか出演☆時は日中戦争の中国。最前線で戦う荒くれ軍団・愚連隊に、荒木と名乗る新聞記者が馬にまたがりやってきた。荒木は実は、愚連隊にいた大久保の弟で、弟の死の真実を探りにきていたのだ。豪放磊落な荒木のキャラはヒーローもののお手本のよう。荒木を戦場まで追ってくる情熱的な娼婦や、馬賊のドンなど、脇のキャラも個性的。中国風日本語をしゃべる鶴田浩二も、さわやかでステキ。
戦争に対するシニカルな視点をからめてはいるが、基本はヒーローが悪を退治するエンタテイメント。黒沢映画ほど大掛かりではないが、スピード感、軽快さは絶品。岡本ワールドを思う存分堪能できた。ちなみに三船敏郎は狂った上官役でトータル3分ぐらいしかでないチョイ役です。2006.11