気まぐれCINEMAレビュー BackNumber
1999〜2005年
【ヤ行】
過去の「気まぐれCINEMAレビュー」をまとめました。満足度は★で、がっかり度は×で評価しました。
五十音順にタイトルが並んでいます。
データベースとしてご活用下さい。
【過去の年間BEST3】 BackNumber CINE LATINO (2007年〜 中南米映画 日本未公開版 2007年〜 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 1999〜2005年 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 |
ヤンヤンの思い出 ★★
エドワード・ヤン監督、ジョナサン・チャン、ケリー・リー、イッセー尾形、ウー・ニエンジェン出演☆台北に住むサラリーマンの家族とその回りの人々の人間模様を描いた作品。特別に事件もないのだが、小さなすれ違いや恋、仕事でもトラブルなどが重なって家族が揺れ動く。祖母から6歳の子供までが主役。それぞれの世代のドラマがゆっくりと展開されて、それが絶妙な構成ですすんでいく。結婚式で始まり葬式で終わるという流れもセンスを感じたし、窓からの眺めや鏡からのショットなど、映像も絶妙。
ホウ・シャオシェンの初期の作品のようだった。過去の恋人と日本で逢い引きするさえない父親の「何かが変わるかと思ったが、結末は何も変わらなかった」という台詞が印象的だった。
2001.1.20 参考CINEMA:「クーリンチェ少年殺人事件」
やさしい嘘 SINCE OTAR LEFT
ジュリー・ベルトゥチェリ監督、エステル・ゴランタン、ニノ・ホマスリゼ、ディナーラ・ドルカーロワ出演☆グルジアに住む老婆エカは娘と孫娘の3人暮らし。エカの唯一の楽しみは、パリに出稼ぎに行った息子オタールからの電話と手紙だ。そのオタールが事故死したとの知らせを受けた娘は、エカに偽の手紙を送り続ける。
エカおばあちゃんの素人っぽさ、一途さが哀愁を誘う。グルジアは旧ソ連だそうだが、ビザが下りない、仕事がないなど、苦しいお国事情も描かれていた。家にあるマルクスの本を大切にしているなど、おばあちゃんも息子もインテリなんだろうけど、学があるだけでは食べていけない経済状況にあるのだろう。
ラスト、おばあちゃんが娘たちにウソを言うシーンは泣けた。予想できる展開でもいいもんはいい、ということです。
ただ、孫娘の旅立ちに関しては、ちょっと唐突過ぎる感じがした。
主演のエステルは85歳で映画デビューを果たしたとのこと。人生諦めちゃいけないわ、と、ちょっと勇気づけられました。2006.7
やさしくキスをして JUST A KISS
ケン・ローチ監督、アッタ・ヤクブ、エヴァ・バーシッスル、アーマッド・リアス出演☆グラスゴーの高校で非常勤講師をするロシーンは、パキスタン移民の教え子の兄カシムと出会い恋に落ちる。しかし、カシムには親が決めた婚約者がいた。敬虔なイスラム教徒であるカシムは、恋人と家族のどちらを取るか、選択を迫られ苦しむ。
家族と宗教を大事にするイスラム教徒の生真面目さには頭が下がる。あの堅苦しさはとうてい理解できないし、イスラム教徒には絶対なれないけど、異国で生きるためには、家族の結束なしではやっていけない、という事情もあるのだろう。
「うっとおしい」とは思いながらも、つい家族の側に肩入れしてしまったのは、年のせいかなあ。
日本のドラマだと、男が苦しむ姿を見て、女は自ら身を引こうとするのが普通だけど、欧米女性は「好きだから別れたくない」とあくまで、自分の気持ち優先のようです。
二人のラブシーンはかなり生生しいんだけど、美しくかつやさしくて好感が持てた。だけど、この二人に障害を乗り越えるだけの強い絆は見出せなかった。一応ハッピーエンドではあるけれど「結局、女が捨てるんじゃない?」と、うがった見方をしてしまった。
一つ解せないのが、イスラム教徒がなぜ娘をカソリックの学校に入れたかってこと。最後まで気になってしまい、二人の恋を素直に応援できず。2006.6 参考CINEMA:「ベッカムに恋して」「やさしくキスをして」「麦の穂を渡る風」「明日へのチケット」
山の郵便配達 POSTMEN IN THE MOUTAINS
フォ・ジェンチイ監督、トン・ルーチュン、リィウ・イエ出演☆中国・湖南省西部の山奥で、長年郵便配達として働いてきた男は、息子に後を継がせるために、一緒に配達に出かける。
美しい山の映像が美しすぎて、ついウトウト。かなりヒーリング効果の高い映画です。
父が息子と旅をしながら自分の過去を振り返っていくロード・ムービーなのだが、私は主役の人間よりも、ともに旅する「次男坊」という名のシェパードがかわいくて、そちらのほうばかり気になってしまった。でも、いい映画です。お父ちゃんの顔は味があるし、息子役のリィウ・イエは坂口憲二みたいでかっこいいし。これは映画館で見たほうが良さが伝わる映画でしょう。2006.6
ユナイテッド93 UNITED 93 ★★
ポール・グリーングラス監督、ハリド・アブダラ、ポリー・アダムス、オパル・アラディン出演☆見に行こうかどうか、正直、迷っていた。あの時のニュース映像は今でも鮮明に脳裏に焼きついているし、作られた映像を今のタイミングで見てみたい、という気になれなかたのだ。
2001年9月11日。あの日、私は北海道旅行の最中で、閑散とした札幌・ススキノで最後の晩餐を楽しんでいた。
一報を聞いたのは、帰りのタクシーの中。運転手から「アメリカですごいことが起きてるよ」と聞いたのが最初だった。
私だけでなく、誰もが、あの日、あの時、何をしていたかは、忘れることができないだろう。とくに、アメリカ国民にとっては…。
映画「ユナイテッド93」は、自爆テロを決行しようとしている男達の様子を、まず映し出す。
ホテルの一室で仲間と祈る男達は、無差別テロを計画しているようには見えない、気の弱そうな青年である。これから自分たちがしようとしている、とてつもなく大きなことに怯える姿は、本当にそうだったかは別にしても、同情に値する。きっと、彼らも人として何かを感じ、震えていたのだろう。そう信じたい。
この冒頭シーンで、私は「見に来て正解だった」と確信する。
悲劇につきものの大げさな演出さや、敵を人間扱いしない一方的な戦争映画とは違い、人間を平等に、リアルに描こうとしている真摯な姿勢が感じとれたからだ。
そして映画は、飛行機に乗り込む人々、管制センターで働く人々の日常を淡々と描いていく。もし、これがサスペンス映画だったら、まちがいなく退屈なシーンが長すぎる、との批判を受けそうな単調さである。
でも、観客はこの後の大きな出来事を知っているので、退屈に見える冗長な日常が、どれだけかけがえのないものかを感じることができるのだ。
2001年9月11日の朝、アメリカ東海岸の主要空港を飛び立った旅客機が、何者かにハイジャックされたとの情報が入る。
管制センターや軍では情報が錯綜し、何が何だかわからないパニック状態に陥る。
そんな中、民間旅客機2機がWTセンターに追突。もう1機は国防総省ペンタゴンに激突する。
人々は、WTセンターに飛行機が追突するシーンを、呆然と見つめることしかできない。
一方、ハイジャックされたユナイテッド航空93便内では、地上との電話でWTセンター追突を知らされた乗客たちが、自爆テロ犯を襲撃することを決意。誰も助けてはくれない。自分たちでどうにかするしかない、と覚悟し、急降下する飛行機の中で、テロリストたちに向かっていく。
緊迫する乗客、興奮するテロリストたち。
映画は、彼らの様子を克明に描き、電話の向こうで心配する家族をまったく映さない。声すら聞かせない。
泣かせるための映画なら、子供の泣き声、かわいい笑顔など見せるんだろうけど、写真すら映さない。乗客が一方的に、家族や恋人に「I Love You」と電話で伝えるシーンだけを映し出す。それがかえって痛々しく、胸に突き刺さる。
もし自分だったら、誰に何と伝えるのだろう。
想像すらできない…。
この映画に「タイタニック」のようなドラマチックさを期待した人は、戸惑ったかもしれない。でも、これが現実なのだ。
本作に登場する管制官や軍関係者の一部の人は、あの日、実際に現場で勤務していた本人が自ら演じているという。専門用語が飛び交うので、詳しい内容までは理解できなかったが、とにかくすごい緊張状態にいたことだけは、肌から伝わってきた。過剰な演技は何一つないけれど、現場に助けにいけないもどかしさ、悔しさ、絶望感も伝わってくる。すごいリアリズムである。
奇しくも今日は防災の日。
会社等では、大々的に防災訓練が行われているところも多いだろう。
いざ、災害にあったとき、管理部門がどれだけ混乱し、情報が錯綜するのか。この映画は、リアルな現場が再現されていて、とても参考になる。
そしてまた、形だけの防災訓練なんて実際は何の役にもたたない、ということもよくわかるはずである。2006.9 参考CINEA:「ブラディー・サンデー」
ユー・ガッタ・メール
ノーラ・エフロン監督、メグ・ライアン、トム・ハンクス出演☆おきまりのラブ・コメなんだけど、けっこう最後は感動してしまうんだよねー。よかったよかった、めでたし。楽しけりゃいいじゃん、そういう映画もたまにはいいよね。2001.4.19
誘拐犯
クリストファー・マッカリー監督、ベニチオ・デル・トロ、ライアン・フィリップ、ジュリエット・ルイス、ジェームス・カーン出演☆荒くれ2人組が誘拐したのは、ギャングのボスの代理妻。身重の人質をかかえた犯人と、それを追う人間たちの、ちょっと代わったガン・アクション映画。なんだかよくわからない映画だったけど、のってるデル・トロはやっぱり魅力的。2001.10.20
弓 THE BOW
キム・ギドク監督、チョン・ソンファン、ハン・ヨルム、ソ・ジソク出演
レビューはCINEMAの監督たち(K・ギドク)へ
雪に願うこと
根岸吉太郎監督、伊勢谷友介、佐藤浩市、小泉今日子、吹石一恵、でんでん、山本浩司、山崎努ほか出演☆北海道の「ばんえい競馬」で調教師をする兄のもとに、弟・学が突然現れた。借金を抱えて逃げてき学は、厩舎で見習いとして働きはじめる。
挫折した男が、勝てない馬「ウンリュウ」の姿に自分を投影し、馬とのふれあいから少しずつ自分を取り戻していく。
地味だが、とても丁寧に作られている。速さだけを競う「競馬」と違い、「ばんえい競馬」は、生活くささがあって、好感が持てた。この映画の主役は馬です。2007.2
ユリイカ
青山真治監督、役所浩司、宮崎あおい、利重剛出演☆久しぶりの邦画の大作。淡々とした流れなんだけど、引き込まれるのは不思議。あの、セピア色の画面は秀逸。長さも感じなかったし、さすが、国際的に評価されるだけの映画。ただなあ。いい映画なのは認める。才能も認める。でも、大好きな映画ではない。やっぱり、ちょっと真面目すぎる。目の前で人が殺されるのを目撃してしまった人たちのトラウマと葛藤は、ビシビシ伝わってくるんだけど、ストレートすぎる。美しすぎる。あの、従兄弟の台詞は、世間一般の世の中の声を反映しているんだろうけど、やっぱり、美しい結末でいいのかな?という思いがあった。あと、血をはいたあとの澤井のその後も気になる。先は長くない、という設定なのかもしれないんだけど。ううっ。やっぱり、日本映画って、どっかで批評してしまうんだよね。素直に観客になりきれない。やっぱり、私の好みではないんだ、と痛感した。2002.5.25
参考CINEMA:「レイクサイド・マーダーケース」
夜になるまえに ★★★
ジュリアン・シュナーベル監督、ハビエル・バルデム出演、ジョニー・デップ、ショーン・ペン(カメオ出演)☆久々に見応えのあるアート系作品だった。やはり、キューバという特殊な社会で育った小説家の生き様が、実話だけにひしひしと伝わってきて、人生を考えさせられた。ずいぶんオープンにはなってきたキューバだが、まだ、鎖国してるんだよなあ。世界には、まだまだ自由のない国がたくさんあるんだよねえ。それと、主役のバルデムの演技が光ってたのも、ひきこまれた要因の一つ。アカデミー賞受賞式のときとは、ぜーんぜん違う感じで、お見事な演技だった。2001.10.11
1943年、キューバで生まれた作家レイナルド・アレナスは、独裁政権下において、ホモセクシャルの作家というだけで迫害を受け投獄される。彼の作品は海外で評価を得たものの、キューバ国内では発禁という憂き目にあう。アメリカに亡命し、自由の身となったアレナスだが、心は常に祖国キューバにあり、絶望感から解放されることはなかった。
カリブ海に浮かぶ島キューバと聞くと、紺碧の空と海、陽気な音楽とダンス、などといった明るいイメージを持つ人もいるだろう。
一方で、今もまだ独裁政権下にあり、自由を奪われた閉ざされた国という現実もある。この映画では、そんなキューバの光と影の部分を作家アレナスの目を通して生き生きと描いている。
複雑な主人公の心情を見事に演じきったハビエル・バルデムの渾身の演技にも注目だ。 (2006.9.30 A新聞 週末の一本掲載)
善き人のためのソナタ THE LIVES OF OTHERS ★★
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督、ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ出演☆舞台は1984年の東ベルリン。国家保安省のヴィースラー大尉は、反体制派の疑いのある人物の監視を担う生真面目な軍人だ。
ある日ヴィースラーは、ある劇作家とその恋人クリスタの監視を命じられる。
彼らのアパートに盗聴器を仕掛け、日夜監視を続けるヴィースラーは、次第に二人の生活に魅せられていく。
一方、監視されていることを知らない劇作家は、親友の自殺をきっかけに、国家批判の記事を西側の雑誌に投稿することを決意する。
自由主義者の芸術家と生真面目な軍人。普通ならまったく相いれないはずの二人が、盗聴する側とされる側という立場ではあるが、盗聴器を通じて知り合う(あくまで一方的に)。
盗聴する側の軍人は、今まで接したことのないタイプの二人の行動に興味を抱き、徐々に自分を同化させていく。
無表情でみるからに監視員っぽいヴィースラーが、二人の生活を盗聴しているときは無邪気な子供のようになり、厳しい顔に少しだけ人間らしさがあらわれる。
微妙な表情の変化で孤独な男の心情を表わすという難しい役どころを主演俳優のウルリッヒ・ミューエが見事に演じていた。
自分を表現するのが下手で、国家の言うとおりにしか生きられない男。そんな彼にも人間らいしい心があった。映画とはいえ、それを確認できたことが何よりもうれしかった。
そんなの人間なんだから当たり前、といえるかもしれないが、厳しい管理社会で監視員という役目を担っているヴィースラーにとって、人間らしさは必要のないもの。上司の命令に忠実に従う機械と同じだし、彼自身もそのことに何の疑問も抱いていない。
そういう人間こそが国家の宝であった社会主義時代の息苦しさを背景にしながらも、声高に社会批判せず、淡々と人間の心の変遷を追っていく。
見ているうちに、孤独な男ヴィースラーに、自分自身が同化してしまい、クライマックスでは、彼の気持ちを想像するだけで、涙があふれてきた。
主演俳優ミューエは、東ドイツ出身で、自分も監視された過去を持つらしい。そういう人物ならではの迫真の演技に、ただただ圧倒されっぱなしの2時間だった。
ただひとつ、少々気になったのは、クライマックス後の展開。壁崩壊から劇作家の復活までが説明的で、取ってつけたような感じがして興ざめした。
それでもやっぱりラストシーンのヴィースラーのアップにはウルウルきた。
役者の顔の演技で、これだけ心を揺さぶられたのは「ヴェラ・ドレイク」のイメルダ・スタウントン以来である。ウルリッヒ・ミューエという役者、これからも注目していきたい。
ヨコハマメリー ★★
中村高寛監督、永登元次郎、五大路子、杉山義法、清水節子ほか出演☆横浜に住んでいたころに、何度か遭遇したことのある白塗り白ドレスの老婆「ヨコハマメリーさん」。はじめて出会ったときは、あの化粧と衣装に驚き、一瞬、身を引いてしまった覚えがある。「あの人、娼婦らしいよ」「まだ客とってるらしいよ」「ホームレス?」などなど、ウワサにはいろいろと聞いていたが、真実はわからぬまま。そして、いつのまにか、姿を見かけることもなくなっていった。
横浜を離れて久しく経ち、当時を懐かしむ余裕も出てきた今、この映画を見ることは、メリーさんの半生や伊勢佐木町界隈の歴史を振り返るだけでなく、自分の過去を見つめなおすきっかけともなった。
映画は、異様な化粧と衣装に身を包んだ「メリーさん」と呼ばれる女性と関わった人々へのインタビュー形式で、淡々と進んでいく。
メリーさんをコンサートに誘ったシャンソン歌手、髪をカットしてあげていた美容室、着替え場所を提供していたクリーニング屋。そして、伊勢佐木町が華やいでいた戦後の混乱期に栄えた店・根岸屋を知る人々。一つ一つのエピソードの間に、少し寂れた今の伊勢佐木町が映し出される。
映画が進むにつれ、記憶がどんどん蘇り、さらには華やかだった頃の伊勢佐木町を想像している自分に気がついた。
メリーさんを通して昭和という時代を振り返る構成は、もし当時を知る年配の方が撮っていたら、もっと重い話になっていたかもしれない。
でも、30代の若い監督が、背伸びすることなく、自分が興味を持ったものに素直に向き合って撮ったのが功を奏し、とても見やすいドキュメンタリーに仕上がっていた。
根岸屋はもちろん、クリーニング屋も美容室も、今はもうない。
メリーさんがあの町から姿を消すのと同時に、メリーさんのような人を受け入れる人情もあの町から消えてしまったのかもしれない。
今思えば、メリーさんを見かけたとき、「こんにちは」と、声をかけていたら、何かもっと違う思いで、この映画を受け止めることができたかもしれない。
でも、実際にメリーさんに会ったときは、「怖い」「気味が悪い」と直感的に思ってしまい、とてもお近づきになるような度量も持ち合わせていなかった。
(おそらく無理して近づいても「あっち行け」と、拒否されたでしょうが。)
「メリーさんの人生」は、幸せだったとは言えないかもしれないが、哀れむ気にもなれない。
人に頼らず誇りを持ってヨコハマに立ち続けた半生。
「これが私の人生なの」と、訴えているかのようなあの姿からは、「哀れさ」ではなく「気高さ」を感じた。
晩年、メリーさんは養老院に行き、2年前、亡くなったそうです。
メリーさんでいることをやめた彼女の最後の何年間は、穏やかであったと願いたいです。2007.2
マルコ・ベロッキオ監督、マヤ・サンサ、ルイジ・ロ・カーショ出演☆1978年、左翼集団「赤い旅団」がイタリアのモロ元首相を誘拐した。犯人グループは首相をアパートの一室に監禁。世話係の若い女性キアラは、大義と情の間で激しく揺れ動く。
世間を騒がせたテロ集団の一味であっても、家族があり、情があり、できることなら命を助けたいと思うものである。兄や友人から「赤い旅団」についての意見を聞く時のキアラの表情が印象的だった。なぜ、彼女がテロ集団に加わるようになったか、その経緯がまったく描かれていなかったのが少々残念な気もしたが、あえて、説明しなかったのだろう。どんな理由があるにせよ、重要な秘密を持った人間の苦しみや、情と大義の間で揺れる気持ちに嘘偽りはないのである。
キアラはたとえ生き延びたとしても、一生、大きな罪悪感を背負っていかなければならない。それを思うと、とても悲しい気持ちになった。2007.6
容疑者 CITY BY THE SEA
マイケル・ケイトン=ジョーンズ監督、ロバート・デ・ニーロ,フランシス・マクドーマンド,ジェームズ・フランコ出演☆殺人事件の容疑者が生き別れた息子だと知り、戸惑いながらも彼を追う刑事の苦悩を描く。刑事は、誘拐した子供を殺した罪で死刑になった父親を思い出し、息子の事件に複雑な思いを抱く。
ヤク中になって身を滅ぼした息子の姿が痛々しかった。父と息子が割とあっさり和解してしまったのがちょっと予定調和だったけど、デニーロの演技に救われた感じだった。2004.2.9
欲望の翼
ウォン・カーウァイ監督、レスリー・チェン、マギー・チャン、カリーナ・ラウ、ジャッキー・チョン、アンディ・ラウ、トニー・レオン出演☆生き急ぐ青年を演じる若きレスリーの姿を脳裏に焼き付けようと追悼をこめて鑑賞。
何度見ても、格好いい映画だが、レスリーの自殺という現実があったので、感慨も格別なものがあった。
とくに、それまであまり気にもとめなかったラストシーン。フィリピンのジャングルを走る列車の中で、生き絶え絶えのレスリーとアンディのやりとりに聞き入ってしまった。
現実の最期はあんなに格好よくなかったのかもしれないけど、レスリーは格好よく生き、美しく死んでいったと思いたい。
そう思わせる近寄りがたいスター性のある俳優だった。合掌 2003.6.1 参考CINEMA:「2046」「花様年華」
予告された殺人の記録
ガルシア・マルケス原作、フランチェスコ・ロージ監督、ルパート・エヴェレット、オルネラ・ムーティ、ジャン・マリア・ヴォロンテ、アントニー・ドロン出演☆南米の小さな町。結婚前に処女を失ったということで、夫から実家に帰された女の兄が妹の処女を奪った男を殺害する。町の人は、その噂を知りながら、殺害を止めることができなかった。これ、実話みたい。たぶん、かなり時代は古いんだろうけど、すごく熱い国民性を反映した話だと思った。ルパートの役は原作に出てこないんだけど、映画では主役級。原因とか真実が、明らかにされないのは消化不良なんだけど、それがかえってこの土地の慣習が浮き彫りにされていたと思う。2000.2.5
容疑者 室井慎次
君塚良一監督・脚本、柳葉敏郎、田中麗奈、哀川翔、八嶋智人、吹越満ほか出演☆警視庁の室井管理官は、事件の容疑者である警官を追い詰め死に至らしめたことで、告訴され、逮捕される。さらに、過去の恋人を自殺に追い込んだ、と書かれた怪文書が出回り、窮地に追い込まれる。
連ドラの「踊る大捜査線」は大好きだったので、めずらしく映画版を映画館で見た。そして、その規模の小ささにがっかりさせられた。この番外編もヒットしたようなので試しにDVDで借りてみたが…。
テレビの2時間ドラマじゃん。まあ、150円で借りたから許せるけど。名前のある俳優をずらりと揃えたところは確かに豪華。だけど全体が安っぽい。ありきたり。室井が我慢するシーンがやたらと多いので飽きちゃう。ただ長回しすれば、気持ちがジワジワ伝わってくるわけじゃないんだよねえ。エンタメ作品なんだから、もっとテンポよくチャッチャカ作れなかったのかねえ。ジョニー・トーを見習ってほしいわ。ドラマとしてならまあまあの出来だと思うが、映画としては駄作と言わせていただきます。2006.11
夜のピクニック
長澤雅彦監督、恩田陸原作、多部未華子、石田卓也、郭智博、西原亜希、貫地谷しほり、柄本佑、加藤ローサほか出演☆夜を徹して80キロを歩き通す北高の恒例行事「歩行祭」の日。3年生の貴子は高校最後となる歩行祭で、クラスメートの西脇に話しかけたい、という気持ちを抱きながら、歩き始める。お互い意識し合っていることに気づいていた友人たちは、「好きなんでしょ」と焚きつけるが、実は貴子と西脇は異母兄妹だったのだ。
「好きな人と一緒に歩きたい」「今年こそは完歩したい」など、さまざまな思いを抱えながら、北高の生徒達は、ゴールに向かって長い道のりを歩き続ける。
わずか3年の高校生活。長い人生から見れば、1ページにも満たない時間である。
でも、そこには、喜び、苦しみ、辛さ、ときめきなどなど、たくさんの感情が詰まっているわけで、人はそれを「青春」と呼んだりする。
この映画は、そんな青臭い時代のたった1日の出来事を描いている。
強制的に参加させられる学校行事「歩行祭」は、子供の頃、誰もが楽しみにしていたような「遠足」や「修学旅行」とはまったく種類が違う。
その距離80キロ。朝から歩き始め、夜、わずか2、3時間の仮眠をとり、最後の20キロは自由歩行となる。
眠いし足痛いし、なんのために歩いているのかわからないし…。時代遅れも甚だしい修行の一種だ。
そんなうんざりする行事であっても、生徒達にとってはかけがえのない青春の1ページであり、「今まで生きてきた中で一番ドキドキする勇気」を振り絞って、何かを伝えようとするのだ。
言いたくても言い出せない貴子と西脇、そんな二人の背中を押す友人達。友情っていいよなあ、としみじみ思わせる、懐かしさがいっぱいつまっている。
小説と違い、ノスタルジックな雰囲気はあまり感じられなかったが、今の高校生の等身大の姿を投影しているのだろうし、小説と映画はベツモノ、と割り切れば、大人もそこそこ楽しめる。
個人的に気にいったのは、西脇の友人の戸田君のキャラだが、高校のときってああいう「いい人」よりも、ちょっと陰のある西脇のような男がもてるんだよねえ、なんて昔を懐かしんだりもした。
ただ、欲をいえば、もう少し、青春の苦さも描いて欲しかった気がする。
歩行祭は「告白ごっこが行われるドキドキの行事」という一面もあるのだが、その後には、厳しい大学受験が迫っていたり、部活で挫折感を味わったり、友達との別れを経験したり、自分の存在について自問自答したり、辛いこともいっぱいある。そういう負の側面があまり描かれていなかったのが残念だった。
たとえば、ガス・ヴァン・サント監督作品のように、高校生が何かに取り付かれたようにヘトヘトになりながら黙々と歩く姿を、背中から延々追いかける長回しがあれば、もっと、そういった「青春の苦さ」が伝わってきたのではないか。
アニメが突然でてきたのも唐突で、あまり意味がなかった気がするし…。
いずれにしても、記憶の隅っこに押しやられていた高校の行事を、こんな形で思い出せたことは、貴重だったし、原作者の恩田陸さんには、感謝感謝です。2006.10 参考CINEMA:「ソウル」