「気まぐれCINEMAレビュー」
(2007年1月〜2011年3月)
過去の「気まぐれCINEMAレビュー」をまとめました。満足度は★で、がっかり度は×で評価しました。
五十音順にタイトルが並んでいます。
データベースとしてご活用下さい。
◇過去の年間BEST3◇ ◇中南米映画(2007年〜2010年)◇*日本未公開作品含む Back Number2007〜2011年3月 【ア】【カ】【サ】【タ】 【ナ】 【ハ】【マ】【ヤ】【ラ、ワ、ン】 【A〜Z】(邦題なし作品) Back Number2006年 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 Back Number1999〜2005年 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 |
タイトル
監督・出演☆解説&感想 鑑賞日時
【ア】
愛を読むひと THE READER ★
スティーヴン・ダルドリー監督、ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ、デヴィッド・クロス出演☆舞台は戦後からの復興が見えてきた1958年のドイツ。病弱な15歳の少年マイケルは、町で助けてくれた車掌のハンナの家を訪れる。孤独な中年女性ハンナは、マイケルを誘惑し、二人は何度も身体を重ねる。間もなくハンナは「ベッドに入る前に本を読んで」とマイケルに頼み、以来、二人は朗読を通じて心を通わせていく。
だが、二人の恋はひと夏で終わりを迎え、マイケルは成長して法学生となる。
8年後、ユダヤ人収容所の看守だった女性たちの裁判を傍聴したマイケルは、被告席に座るハンナを見て衝撃を受ける。
アカデミー受賞監督と主演女優、原作はベストセラーということで、ひねくれ者の私は、どうせ優等生作品だろう、とまったく期待していなかったのだが、そんなひねくれた自分を大反省したほど、深い愛と苦悩の物語に心を揺さぶられた。
ユダヤ人収容所にまつわる物語は、数えきれないぐらい映画化されてきたが、これほど見ていて苦悩を感じたのは「ソフィーの選択」以来かもしれない。眉間に皺をよせ、苦しみを背負った女性を演じた美人女優ケイト・ウィンスレットが、08年の賞レース総ナメだったのも納得である。
ユダヤ人収容所の看守という仕事は、当時のドイツではある意味、名誉職だったのだろうが、戦争が終われば、たちまち非難される立場になる。社会が動く時代に生きた人々は、少なからずそういった矛盾に遭遇してきたはずである。だから、ハンナが裁判にかけられることは致し方ないないことだと思う。
今までのアウシュビッツ関連映画では「罪と罰」について描かれた作品が多かったのだが、この映画は、そこに焦点を当ててはいない。
彼女が、重罰に処せられることがわかっていながらもウソをついた「プライド」に、大きなスポットが当てられているのだ。
彼女が守ろうとした「プライド」の重さは、日本で普通に教育を受けた我々のような恵まれた人間には到底理解できない。だから「そんなことを隠すために、人生を棒に振るなんて…」という気持ちも正直ある。だが、そんな割り切れなさをカバーするぐらい、ハンナという一人の女性の心理が繊細に描かれていて、ケイトも乗り移ったかのような迫真の演技を見せてくれた。
ハンナの秘密を知っている唯一の人が、ひと夏だけ愛し合った若い学生、というのが、また、なんとも切ない。
辛かった過去を、長い人生の間のちょっとした懐かしい思い出話、として話せる人は幸せだ。
だが、ハンナやマイケルのように、たった一つの出来事が全人生に重くのしかかることもある。彼らを不運な人生だ、と一言で片づけてしまうのは簡単だが、そんな不器用な生き方も尊重したい、とこの映画を見て心から思った。2010.3
アバター AVATAR
ジェームズ・キャメロン監督、サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガーニー・ウィーヴァー、スティーヴン・ラング出演☆半身不随の元海兵隊員ジェイクは、衛星パンドラにある希少鉱物採掘のため、先住民ナヴィと同じ身体をもった「アバター」に意識を寄生させて、活動を始める。ナヴィたちは、美しい森や生物たちと平和に暮らしていたが、まもなく人間の破壊活動が始まる。
最新のCG映像が美しく、3Dの動きも滑らかなことにまず驚かされた。
ただ、人間による自然破壊や先住民族との交流といった物語は「ミッション」や「もののけ姫」などの作品と似通っていて、舞台が宇宙、先住民族が宇宙人というだけで、特に目新しさは感じなかった。ここまで世界中でヒットしているのは、おそらく3Dによる映像の美しさによるものが大きいのだろう。
何百年も前から、人は、鉱物や原油を巡って醜い殺しあいを続けてきた。それは、たとえ宇宙人と交信ができる未来になっても変わらないのかもしれない。悲しいけど、それが人間の性なのでしょう…。2010.2
アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン I COME WITH THE RAIN
トラン・アン・ユン監督、ジョシュ・ハートネット、木村拓哉、イ・ビョンホン出演☆富豪の息子シタオの捜索を頼まれた探偵のクラインは、LAから香港へ辿り着く。友人の刑事に協力を依頼した矢先、あるヤクザの惨殺事件の遭遇。現場には、シタオのいた形跡があり、クラインは取りつかれたように、シタオを探し始める。
アメリカ、香港、韓国、そして日本のスターが一堂に会したスタイリッシュなノワール映画、ではあるのだが、ただの犯罪ものではなく、シタオを不死身の救世主として描いた宗教色の強い作品でもある。映像は美しいし、それぞれのスター俳優もいい演技だし、嫌いじゃない世界なのだが…。
あまり心に強く響いてこなかったのはなぜだろう。この映画は、ジョシュが主役だと思うのだが、なんとなく、キムタクやビョンホンにも配慮した感じが伝わってきて、話がぶれていた気がする。脇はあくまで脇。登場回数は少なくても、魅せることが出来るのが名役者だ。オールスターキャスト映画にはありがちですけどね…。惜しい!というのが率直な感想だ。2010.3
アラトリステ ALATRISTE
アグスティン・ディアス・ヤネ監督、ヴィゴ・モーテンセン、エドゥアルド・ノリエガ出演☆舞台は17世紀のスペイン。権力者の陰謀が渦巻く中、孤高の剣客アラトリステは、信念を貫いて生きていた。一方、アラトリステが育てている友の息子イニゴは、権力者の侍女と恋仲になり、陰謀に巻き込まれていく。
ヴィゴはひたすら格好よく、スペイン語も上手でヒーローとしては申し分なかったが、扮装した難しい名前の人々が出過ぎて、何がなんだかわからず終い。エドゥアルド・ノリエガもちょろりとしか出ていなかったし…。盛り上がりにかける歴史ドラマだった。2010.3
あなたになら言える秘密のこと LA VIDA SECRETA DE LAS PALABRAS
イザベル・コイシェ監督、サラ・ポーリー、ティム・ロビンス出演☆若い工員のハンナは、毎日、誰とも口を聞かず、同じものだけを食べる生活を送っていた。休暇をとらないことが組合で問題になり、上司から1か月休むように言われたハンナは、油田で患者の面倒を見てくれる看護師を探していると知る。
海の孤島の油田では、孤独感と静かに向き合う人々が暮らしていた。
過去に傷を持つ若い女性と、火傷を負った男の間で静かに育まれる愛を、静かに描いた作品。ハンナのあまりに凄惨な過去の話にはゾッとさせられたが、同時に、戦争のむごさがヒシヒシと伝わってきた。二人のやり取りや表情だけで、悲惨な出来事を伝えることは難しいことだが、それにあえて挑んだコイシェ監督の意欲と力量にアッパレ。そしてそれに見事に答えた二人の演技も素晴らしい。トラウマを抱えた人間でも幸せになる権利はある。人生をリセットするには、時間の経過と、そして忘れることも大事なのかもしれない。2009.9
あの日、欲望の大地で THE BURNIG PLAIN
ギジェルモ・アリアガ監督・脚本、シャーリーズ・セロン、キム・ベイシンガー、ジェニファー・ローレンス、J・D・パルド、ホセ・マリア・ヤスピク出演☆ワシントン州にある高級レストランのマネージャー、シルヴィアは、男との一夜限りの関係や、自傷行為を続ける日々を送っている。
一方、ある砂漠の田舎町では、一人の美しい主婦が、メキシコ系の妻子ある男との恋愛に溺れていた。思春期の娘は母の不審な行動に気付き後をつける。母は男と砂漠の中のトレーラーで密会していた。
冬のワシントン州と、過去らしき砂漠の町での不倫愛、そしてメキシコで暮らす父と娘。3か所で暮らす人々が、どうリンクしていくのか明かさず、徐々に絡まった糸がほぐれていく展開は、アリアガ脚本お得意のパターンである。
風貌からいって、おそらく母の不倫に気付いた娘マリアーナが後のシルヴィアだとは推測できたのであるが、名前が違うので確信が持てず、前半は混乱しながら見ていた。
サスペンス映画じゃないんだから、ここまで謎解きさせる必要はあるの?ゲームじゃないんだし。というのが率直な感想である。
たとえば、マリアーナが彼サンティアゴと一緒に付けた腕の傷がシルヴィアにもあることを早めに明かすとか、母の不倫話の年代を字幕で出すとかしてくれれば、もう少しすっきりと見やすかった気がする。
そんなイライラしながらの前半だったが、絡んだ糸がほぐれたあとのドラマはグッと来るものがあった。
母と父が不倫の最中に焼死したというショッキングな事件がありながら、娘と息子が魅かれ合ってしまう。親を奪った憎むべき相手の子供である一方、同じトラウマを抱えた二人。悲しみを共有できる世界に、若い二人がのめり込んでいくまでのドラマは秀逸で、若い俳優の演技も素晴らしい。
それでも、マリアーナは彼と子供の元を離れていってしまった。それは、誰にも告げることができなかった、さらに大きな罪を抱えていたから…。
心理描写も丁寧だし、ストーリーも納得の展開である。さすがギジェルモ・アリアガ!
それだけに、前半の余計な謎解きが鼻についた。傑作になりうる作品なだけに惜しい。
2大女優も貫禄充分でよかったが、若い娘を演じたジェニファー・ローレンスが素晴らしい。ベネチアで新人賞受賞も納得の存在感。そして息子を演じたJ・D・パルドもかわいくて惚れてしまいました。さらにシルビアに会いに来たメキシコ人を演じたホセ・マリア・ヤスピクも脇役ながら MUY BIEN!やっぱりラテン系男子ってステキだわ。
2009.12 参考CINEMA:「夜のバッファロー」
アウェイ・フロム・ハー 君を想う AWAY FROM HER
サラ・ポーリー監督、ジュリー・クリスティ、ゴードン・ピンセント出演☆長い間夫婦として寄り添って生きてきたグラントとフィオーナ。だが、妻フィオーナが認知症となってしまう。1カ月後、施設を訪れたグラントだが、妻は夫を忘れ、車椅子の男に恋をしていた。
一見、健常者と同じように暮らしている老人たちだが、実際には家族を忘れ、自分が好きだったことまで思い出せない。初めて老人ホームを訪れたときのことを思い出した。
痴呆の人にとっては、すべて忘れてしまっているので、ある意味幸せなのかもしれないが、周りの家族のショックは計り知れない。
痴呆老人とその家族の心理描写が秀逸だ。監督のサラ・ポーリーは、ただの若手女優じゃない。監督としての今後に期待したい。
そして、なんといっても、素晴らしかったのがジュリー・クリスティの演技。美しく気品のある婦人でありながら、痴呆になった後は、子供のように駄々をこねたり、少女のように恋をする、という難しい役どころを堂々と演じていた。脱帽。2010.1
アイアンマン IRON MAN
ジョン・ファヴロー監督、ロバート・ダウニー・Jr、ジェフ・ブリッジス、テレンス・ハワード、グウィネス・パルトロー出演☆兵器開発会社の社長トニーは、アフガニスタンで拉致され、テロリストから兵器開発を依頼される。だが、隙をみて、廃材を使ってパワースーツを開発する。
人気コミックの映画化、ということだが、お手製のロボットでテロリストをやっつけてしまうB級ノリが新鮮で、単純に楽しめた。
キャストの豪華さにはびっくり!ダウニーJr.だけで十分でしょーが。と、突込みいれたくなったが、スター俳優陣も肩の力を抜いて楽しんでる感じ。たまにはいいでしょ、こういうのも。2008.8
アイム・ノット・ゼア I'M NOT THERE
トッド・ヘインズ監督、クリスチャン・ベイル、ケイト・ブランシェット、リチャード・ギア、ヒース・レジャー、
ジュリアン・ムーア、シャルロット・ゲンズブール、ミシェル・ウィリアムズ出演☆プロテスト・ソングを歌うフォークの神様のボブ、女性に愛される私生活のボブ、教会で讃美歌を歌うボブ、そして、ギターをエレキに持ち替えたボブ…。
さまざまな顔を持つボブ・ディランという一人のアーチストを、顔も性別もまったく違う役者がつないでいく実験的な音楽映画。
マスコミから批難されながらも、自分は自分、と開き直るボブをケイト・ブランシェットがポップに演じていた。ヒースが演じた私生活のボブの姿は、M・ウィリアムズと破局を迎えたヒースの私生活とダブって見えて、悲しい気分に。ボブ・ディランがこの映画に激怒した、という噂もあるが、ちっとも激怒するような内容ではないし、尊敬の気持ちがこめられていると感じた。
スコセッシ監督が撮ったボブのドキュメンタリーと見比べてみると、より深く楽しめそうだ。ただ、リチャード・ギアが演じたボブだけは、唐突すぎて違和感あり。2008.10 SP映画祭にて
アキレスと亀
北野武監督、ビートたけし、樋口可南子、柳憂怜、麻生久美子、中尾彬、大森南朋ほか出演☆絵画好きの富豪の家に生まれた真知寿は、幼い頃から特別扱いされ、大好きな絵を描くことがすべての生活を送っていた。だが、親の会社が倒産し、両親は自殺。真知寿は、親戚や施設に預けられながらも、絵を描くことだけは止めなかった。
だが胡散臭い画商は、真知寿の絵をことごとくけなすだけ。そんなとき、一人の女性と出会い…。
絵を描くことに取りつかれた売れない画家の半生を北野監督らしい切り口で描いたほのぼの人間ドラマ。
絵のさまざまな手法をコミカルに教えてくれる芸術入門映画のようで、楽しく見れた。
もっとも笑いのツボに入った絵は、真知寿が書いた閉店セールの挿絵。そして武監督自身が書いた絵で印象に残ったのは、鶏の絵。
監督はこの映画で、自分が書いた膨大な作品を公開したかったのかなあ、と勘繰ってしまうぐらい、最初から最後まで「絵がすべて」の映画だった。2009.8 参考CINEMA:「監督・ばんざい!」「座頭市」「菊次郎の夏」「TAKESHI'S」
アバンチュールはパリで NIGHT AND DAY
ホン・サンス監督、パク・ウネ ファン・スジョン イ・ソンギュン キムヨンホ キ・ジュボン出演☆マリファナを試した罪で捕まるのを恐れた画家のソンナムは、韓国に妻を残しパリへ。気ままに暮らすソンナムは、韓国人留学生ユジョンに魅かれる。
舞台はパリ、主役は画家。それなのに、まったくお洒落じゃないのがまず変。男は逃亡してきたはずなのに、ちっとも切迫感はなく、怠惰なソンナムの生活もまた変。その変さ、飄々とした感じがなんともホン・サンスらしい。今までの監督の作品は、なまなましい性描写が多かったのだが、この作品では一切なし。というのが新鮮だった。心境の変化?いずれにしても、ホン・サンス作品がどうして海外で評価が高いのか、やっぱりわかりません。
2010.5 参考CINEMA:「女は男の未来だ」「浜辺の女」
アメリカーノ AMERICANO
ケヴィン・ノーランド監督、ジョシュア・ジャクソン、レオノア・バレラ、ティム・シャープ、ルサンナ・ホッパー、デニス・ホッパー出演☆就職前の卒業旅行でスペインの牛追い祭りに参加したクリスは、自由なカップル二人と行動を共にしながら、つかの間の休暇を楽しんでいた。妖艶なスペイン女性アデーラと出会ったクリスは、自分の人生について考えはじめる。スペイン観光案内のような映画。謎めいた男としてデニス・ホッパーが出ていたが、あまり絡みもなく…。脚本も演技も青臭い感じ。ホッパーの娘か誰かがスタッフだったみたいなので、身内のよしみで出演したのでしょうか。これぞ遺作、という作品がなかったのは残念だけど、若いころたくさん代表作あるから十分かもしれませんね。スペインは行ってみたくなりました。2011.1 DVDにて
アンヴィル!夢を諦めきれない男たち ANVIL! THE STORY OF ANVIL
サーシャ・ガヴァシ監督、スティーヴ・“リップス”・クドロー出演☆メタルロックの祭典に出演したこともあるアンヴィルのメンバーのその後を追ったドキュメンタリー。ヒットに恵まれず、バイトや家族の施しで生きているロマンチストなオヤジロッカーの姿は、映画「レスラー」に通じる哀愁を感じた。夢を追うのは若者の特権、と昔は思っていたが、いくつになっても夢を持ってもいいじゃない。最近そう思えるようになりました。2010.5
アンナと過ごした4日間
イエジー・スコリモフスキ監督、アルトゥール・ステランコ、キンガ・プレイス出演 ☆舞台はポーランドの地方都市。病院で下働きをしているレオンは、レイプ犯の濡れ衣を着せられ投獄された過去があった。レオンは、窓から隣に住む看護師アンナの日常を覗き見ることを唯一の楽しみにしている。アンナへの思いはエスカレートし、留守宅に侵入するようになる。孤独なストーカー男が、正直気味が悪く、感情移入できず。気の毒とは思うのだが、一方的に覗かれているアンナに肩入れしてしまった。荒涼としたポーランドの田舎の風景が絵画的で印象に残った。2010.7 参考CINEMA:「エッセンシャル・キリング」「ザ・シャウト」
アマルフィ 女神の報酬
西谷弘監督、真保裕一原作、織田裕二、天海祐希、戸田恵梨香、佐藤浩市ほか出演☆舞台がイタリア、ということでイタリアに観光した気持ちを味わえた。けど、物語はありきたりで退屈。種明かしにつかった大臣の悪事をもう少し掘り下げてくれれば、犯人に感情移入もできただろうし、楽しめたかも。いろいろな立場の人間を絡めてはいるのだが、どのエピソードも薄味で見応えなし。
織田の演技はドラマで見るとはまるのだが、映画になると飽きてしまうのはなぜだろう。外交官・黒田のドラマは映画とは一味違った黒田が見られることを期待したい。2010.12
イップ・マン 葉問2
ウィルソン・イップ監督、ドニー・イェン、サモ・ハン・キンポー、ホァン・シャオミン出演☆舞台はイギリスが統治する1950年の香港。広東省佛山より移住してきた詠春拳の達人、イップ・マンは、道場を始めるが弟子はなかなか現れない。ケンカ好きな青年ウォンを簡単に倒したことをきっかけに、次々に弟子志願者がやってくるが、まもなく香港武術界を取り仕切るホンから、道場開設前に他の師範と勝負するよう言われる。
オーソドックスなカンフー映画。端正なルックスのドニー・イェンと脂ぎったサモハンの戦いが見もの。映画の後半は、横暴なイギリス人たちを悪者に、二人の友情も芽生える。サモハンとイギリス人ボクサーの壮絶な戦いは圧巻。往年のアクション・スターの存在感に圧倒され、思わず涙…。サモハン、おいしいところ持ってくよなあ。まあ、ドニーも相手がサモハンなら許したでしょうが。
久々にシンプルなカンフー映画を堪能した。最近のアクション映画は、CGや3Dなど、どんどん大がかりになっているが、やっぱり基本は人間のしなやかな動き。二人とも本物のアクション俳優なので、見応え十分。2011.2
命の相続人EL MAL AJENO
オスカール・サントス監督、エドゥアルド・ノリエガ、アンジー・セペダ、ベレン・ルエダ出演☆ディエゴは、今まで数々の難しい手術を成功させてきた優秀な医師だ。だが、有能であるがゆえに周りの人間の心の痛みや悩みを理解できずにいた。ある日、患者の家族から恨みを買ったディエゴは、銃を突き付けられ瀕死の重傷を負う。数時間後、病院のベッドの上で目覚めると、ある不思議な能力が備わっていることに気づく。
どんな病気でも手をかざすことで治したしまう神の手を持った人間の悲しみを描いた作品。神見終わった後でじっくり考えると、興味深い内容ではあったのだが、見ている間はなぜか、退屈に感じてしまった。映像とか台詞とか物語の展開が単調だからかも。映像をもう少し謎めいた感じにしていたら、もっと面白くなっただろうに…。あと一歩の感あり。2010.9 ラテンビート映画祭2010にて
イッツ・オール・トゥルー IT'S ALL TRUE
オーソン・ウェルズ、リチャード・ウィルソン、マイロン・マイゼルほか監督、マヌエル・オリンピア・メイラ出演☆1942年にブラジルのリオに渡り、漁師たちの日常の暮らしを描いたドキュメンタリー「筏の4人」を撮影していたオーソン・ウェルズは、ハリウッドの上層部の交代に撮影中止を余儀なくされる。
当時の状況を語る関係者のインタビューと、幻の作品「筏の4人」を交えたオムニバス・ドキュメンタリー。40年代のリオの映像は、まだまだのどかな漁村の色が残っていて、郷愁を感じさせる。ウェルズがリオの人々の明るさ、おおらかさに魅せられ、リオを愛していた、という事実を知れただけでも、大満足。音楽もステキでした。2010.7
インランド・エンパイア INLAND EMPIRE
デヴィッド・リンチ監督、ローラ・ダーン、ジェレミー・アイアンズ、ハリー・ディーン・スタントン出演☆豪邸に暮らすニッキーは、ある新作映画の主演に抜擢され女優業を再開。だが、その映画は、呪われたポーランド映画のリメイクだと知らされる。
おなじみリンチ・ワールド炸裂。奇妙なウサギちゃんが出てきたり、怪しげな謎の人物が次々登場し、なにがなんだかわからなかったけど、なんだかよくわからない恐怖心に怯えるローラ・ダーンは魅力的でした。リンチ映画は理屈じゃないので、不思議ワールドに入り込めたもの勝ち。心地悪い眠りに誘われ、じっとり&モヤモヤ感に襲われたが、それもまたリンチ映画の魅力。ある意味期待通りの映画だった。2010.7
いつか眠りにつく前に Evening
ラホス・コルタイ監督、クレア・デーンズ、トニ・コレット、バネッサ・レッドグレーブ、パトリック・ウィルソン、メリル・ストリープ、グレン・クローズ出演☆死を目の前にしたアンは、混濁した意識の中で、若かりし頃に出会った人々を思い出す。
40数年前、アンは親友ライラの結婚式に出るため彼女の別荘を訪れ、メイドの息子ハリスと恋に落ちる。だが、彼はライラが密かに思いをよせる相手でもあった。
ライラの弟バディからも言いよられた詰アンはバディに辛く当たってしまう。
死を前にしたとき、人は何を思うのだろう。過去の楽しかった思い出だろうか、それともアンのように悔恨だろうか。楽しい思い出だけを胸に最期を迎えることは理想の死に方だろうが、そうはならないのが現実なのかもしれない。
アンの過去が中心に描かれてはいるが、現在の娘との関係も丁寧に描かれていて好感が持てた。超豪華女優陣の共演の割には地味な作品ではあったが、見応えはあった。2010.5脇役たち(トニ・コレット)
息もできない BREATHLESS
ヤン・イクチュン監督・主演、キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク出演☆チンピラのサンフンは、DVの父が妹を刺殺した過去のトラウマから抜け出せず、暴力を繰り返している。ある日、気丈な高校生ヨニに唾を吐きかけたことをきっかけに二人の間に友情が芽生える。そのヨニも、精神を病んだ父と、家にこもって金の無心ばかりする弟との生活に、疲れきっていた。
「殴る者は殴られる。殴られた者は殴る」といった暴力の連鎖を描いてはいるのだが、家族が崩壊した荒くれ者が、孤独な女子高生や、純真な甥っ子と触れ合ううちに少しずつ人間らしい感情を取り戻していくヒューマン・ストーリー、といった印象のほうが強い。暴力モノでは「チング」のほうが衝撃度は大きかった。主演俳優ヤン・イクチュンが監督も兼ねているとのこと。韓国の北野武と呼ばれる日は近いかも。監督の今後の作品にも期待したい。2010.3
イザベラ ISABELLA
パン・ホーチョン監督、チャップマン・トー、イザベラ・リョン、アンソニー・ウォン出演☆舞台は返還間近の1997年のマカオ。汚職警官は、1度だけ寝た若い娼婦から、娘だと告げられ愕然とする。娘はかつて自分が愛した女性の子供だった。
さびれた雰囲気のマカオで、希望をなくした汚職警官と若い女性が出会い強く魅かれ合う。アンニュイなマカオの街の雰囲気と、愛に飢えた少女がぴったりマッチしていて、懐かしい香りのする映画だった。「インファナル・アフェア」で、トニーの手下を演じていたチャップマンが、荒削りな刑事役を熱演。キム・ギドク映画にも似合いそうな悪の強さが魅力的だった。香港映画はまだまだ掘れば名作に出会えそうな予感がした。2010.3
イカとクジラ THE SQUID AND THE WHALE
ノア・バームバック監督、ジェフ・ダニエルズ、ローラ・リニー、ジェス・アイゼンバーグ、
オーウェン・クライン出演☆気難しい落ち目作家の父と、新進作家の母が離婚した。12歳の弟フランクは、自慰や酒で寂しさを紛らし、兄ウォルトは、ピンク・フロイドの歌詞を自作だと偽って音楽コンクールで優勝し、ひと騒動に。
両親の離婚に傷ついた子供たちを中心に、インテリ家族の揺れる日々をリアルに描いた秀作だ。
過去の栄光にしがみつく作家の父親、そんな夫の卑屈さに幻滅している妻、そして、自信に満ちていた昔の父に憧れながらも、格好の悪い父の姿に気付かされる二人の息子。
「父」という絶対的存在の虚像と実像。
子供は成長すると、徐々に現実に気づくものだが、この子供たちの場合「離婚」という事件をきっかけに、いきなり現実を突きつけられる。
二人の子供がもがきながらも、父の弱さを受け入れるまでを丁寧に描いた秀作だ。
現実とは?大人とは?両親とは?等々、いろんなことを考えさせられる映画である。
母親の心理描写だけは、今一つ突込みが足りない気がしたが、あくまで子供の目からみた家族の姿なので、よしとしましょう。
もう1度、見てみたら、また違った部分が見えてくるかもしれない。2008.8
愛おしき隣人 DU LEVANDE
ロイ・アンダーソン監督、ジェシカ・ルンドベリ、エリック・ベックマン出演☆舞台は北欧のとある街。アパートでチューバの練習をする男、「誰も私をわかってくれない」と嘆きながら歌う太めの中年女、ロックバンド、ブラック・デビルのメンバーに恋をする若い女などなど、一風変わった住人の1日が交錯する。
夢か現実かわからないようなぼんやりとした町で、真っ白な肌の人々が飄々と暮らす風景。何も言葉を発しなくても、画面を見ているだけでクスクスと笑いたくなってしまう独特の空気感。
なんじゃこれ?さっぱりわからん、と拒否するか、よくわからないけどオモシローい、と感じるか。笑いのツボに入れば儲けもの(私はもちろん後者)。
ノリはカウリスマキ作品に似ているのだが、もっとシュールかつコミカルで、北野武作品にも若干通じるものあり。
ロイ・アンダーソンという監督の名前は、最近知ったのだが、CM界の大御所とか。なっとくの完成度である。
日本の通な観客は、このシュールな笑いの世界をおそらく気に入るだろう、とほぼ予想できるのだが、ここサンパウロでもひそかにロングラン中。
ブラジルの映画好きは、USAよりもヨーロッパ志向が強いですからね〜。
ブラック・デビルのメンバーがエレキ・ギターを黙々と弾くシーンがあるのだが、永遠のギター少年“忌野清志郎”のギターを弾く姿とダブってみえ、ちょっぴり感傷的になりました…。
鑑賞後、一緒に見に行ったブラジル人の友人も、「あのギター、よかったわ」と言っていました。
音楽に国境はないですね!フォーエバー、キヨシロー!!2009.5
イントゥ・ザ・ワイルド INTO THE WILD
ショーン・ペン監督、エミール・ハーシュ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・ハート出演☆一見、恵まれた生活を送っていた青年クリスは、大学卒業後、親の愛情や物質を拒否し、車を捨て、誰にも告げずに一人放浪の旅に出る。旅の途中で出会った人と親交を温めながらも、アラスカで生活する夢を追い続けるクリス。
アラスカに春が訪れた頃、クリスは一人荒野の奥地へ向かい、野草を食べ、狩りをしながら生きようとする。
見る前は、繊細な青年の大人社会、物質社会への反発を描いた青春モノで、アラスカへ向かったのは自殺行為なのかと思っていた。だが、まったく違い、シンプルな冒険と挫折の物語で好感が持てた。親への反発というのは10代の頃には多かれ少なかれ、誰もが感じる程度のものだし、旅の途中で出会った人との交流によって、家族への愛も芽生えてくる。
それでも、アラスカでの生活を選んだのは、反発というより、純粋な好奇心や冒険心から起こったシンプルな行動のような気がした。
「本を見ながら研究する」というのも青二才風だ。本でしか知らないロビンソン・クルーソーに憧れ、それを実践してみて、自然に負けてしまったのだ。
無念さは画面から伝わってきたが「泣ける」というより、すがすがしさが残る結末だった。この実話を、青年の悲劇や反逆としてドラマチックに描かなかったペン監督の技に脱帽です。2009.8
イースタン・プロミス EASTERN PROMISES
デヴィッド・クローネンバーグ監督、ヴィゴ・モーテンセン、ナオミ・ワッツ、ヴァンサン・カッセル、
アーミン・ミューラー=スタール出演☆助産婦として働くアンナは、赤ん坊を産んで死んだ14歳の少女の遺品からロシア語で書かれた日記を見つける。日記には、あるロシア料理店の名前が書かれていた。一方、ロシア料理店の運転手ニコライは、犯罪組織の後継者の世話係として危ない仕事に手を染めていた。
ロンドンのロシア移民、ロシアの犯罪組織にスポットをあてた映画は初めてみたので興味深く見れた。母国の文化を継承し、独自の価値観で生きる移民の姿は、ブラジルの日系人にも通じるものがあった。
そして、クローネンバーグならでは!のスローテンポ&危ない雰囲気がGOOD。残酷な首切りシーンは吐きそうになったが、それもクローネンバーグ映画らしさの一つである。
&極めつけはヴィゴである。冷たい視線が魅力のヴィゴだが、今回は筋肉隆々の全裸姿で格闘するシーンまであり、思わず見入ってしまった。08年のアカデミーで主演男優賞ノミネートも納得!監督はヴィゴを相当気に入っているのだろう。次はどんなヴィゴを見せてくれるか楽しみである。
ストーリーはよくある話だし、ほぼ予想通りの展開だったが、圧巻はエンディング。クローネンバーグらしい観客を突き放した唐突さが気に入った。オリジナリティがある監督が少なくなっているが、自分のスタイルに固執するしつこさがいい。次回作も期待大である。2009.7 参考CINEMA:「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「イグジスタンス」「スパイダー」
イングロリアス・バスターズ INGLOURIOUS BASTERDS
クエンティン・タランティーノ監督、ブラッド・ピット、クリストフ・ヴァルツ、マイケル・ファスベンダー、ダイアン・クルーガー出演☆舞台は第2次大戦下のヨーロッパ。フランスのある農家にドイツ軍が現れ、ユダヤ人が潜む軒下を銃撃。一人の少女が命からがら逃げる姿を、司令官は笑顔を浮かべながら見つめていた。一方、連合軍の極秘部隊は、捕まえた敵をいたぶり殺す、という悪行を続けていた…。
語り尽くされた感のあるナチスと連合軍、どっちもどっちの鬼合戦をタランティーノが料理するとどうなるのか、興味津々で見始めた。いつも個性的で遊び心の詰まったタランティーノ作品ではあるのだが、今までのテイストとは少々趣が異なり、嫌らしい軍部の裏話も盛り込まれ、珍しくセリフの多い、シニカル・バイオレンスに仕上がっていた。
正直「キルビル」のようなスピード感やハチャメチャ度を期待すると拍子抜けするが、タランティーノが戦争をテーマに映画を撮った、ということでは価値ある1本である。
何よりも印象に残ったのが、悪魔のようなナチスの司令官だ。笑顔の裏の狂気と、相手の心の動揺を見抜く鋭い目。ケーキを頬張りながら相手の表情を観察するシーンは、お見事!の一言に尽きる。究極の美食家ハニバル・レクター博士=A・ホプキンスの”食べる演技”にも匹敵する名演技。クリストフ・ヴァルツのカンヌ映画祭男優賞受賞も納得である。
連合軍側のボス役のブラピも熱演していたが、ヴァルツの演技の前では霞んで見えた。タランティーノ監督、お次はどんな作品に挑むのか期待大である。2009.9
生きていく日々 天水圍的日與夜
アン・ホイ監督、リョン・チョンルン、パウ・ヘイチン、チャン・ライワン出演☆香港郊外の団地、天水圍で暮らすクイは、スーパーで働きながら一人息子を育てていた。海外に移住した従兄弟や羽振りのいい親戚たちに援助を求めることもなく、笑顔を絶やさず働くクイ。ある日、スーパーで働く老女が同じ団地だと知ったクイは、彼女との交流を深めていく。
裕福とは決していえないクイの生活は、羽振りのいい親戚連中からしたら、惨めにさえ見えるかもしれない。でも、そんなことを微塵も感じず、聞き分けのいい高校生の息子と、ささやかな人生を送っている。お金、仕事、家、夫、子供…。そういった目に見えるものが豊かでも心が貧しい人は大勢いる。一方で、モノには恵まれなくてもクイのような心の豊かな人もいるのだ。どちらが幸せかと問われたら、間違いなくクイである。
天涯孤独の友人をいたわり、手を差し伸べるクイの出過ぎない優しさを見て、心が少しだけ優しくなれた気がした。香港の映画賞で主演女優&助演女優賞も納得の良品だ。2009.10
東京国際映画祭にて 参考CINEMA:「女人、四十」
インビクタス/負けざる者たち INVICTUS
クリント・イーストウッド監督、モーガン・フリーマン、マット・デイモン、トニー・キゴロギ出演☆1994年、アパルトヘイト撤廃後、初の黒人大統領となった南アフリカの英雄ネルソン・マンデラは、白人社会で人気の高いラグビー代表の試合を観戦する。
南アフリカで開催されるWカップを前に不甲斐ない試合を続けるチームに、ファンたちはブーイングを浴びせるが、マンデラは、Wカップでの優勝を信じ、主将のフランソワと面会する。
南アのアパルトヘイトも、マンデラの波乱の人生も映画やニュース等で度々語られていたので知っていたが、ラグビーがWカップで優勝したことは知らなかったので新鮮に感じた。
以前は、ラグビーは白人のもの、サッカーは黒人のもの、と住み分けされていた南アフリカ。国歌も分けられていた国で、黒人と白人が初めて心を一つにして応援したのがラグビーのWカップ決勝だった。この感動の物語を知ることができただけで、イーストウッド監督に感謝。マンデラ大統領という英雄役に挑んだモーガンにも拍手。ただしマット・デイモンは助演ノミネートされるような演技だったかは、少々疑問が残りますが…。
今年は南アフリカでサッカーのWカップも開催される。今度は、黒人選手が多数を占める南アフリカ代表の試合を、白人たちが観戦し、興奮しているリアルな姿をぜひ見たいものです。スポーツは敵対する国民をも平和な形で一つにする力を持っているのですね。2010.2
ウエディングベルを鳴らせ
エミール・クストリッツァ監督 レビューは
CINEMAの監督たち(E・クストリッツア)へ
美しき虜 LA NINA DE TUS OJOS (スペイン)
フェルナンド・トルエバ監督、ペネロペ・クルス、ホルヘ・サンス出演☆1938年、映画の撮影でベルリンを訪れたスペインの女優マカレナは、ナチスの大物ベッケルスに執拗に迫られる。マカレナの愛人でもある監督は、嫉妬を抱きながらも、ベッケルスを恐れて尻込みする。そんな愛人に愛想を尽かしたマカレナは、撮影現場で奴隷扱いされているロマの男に声をかける。
ナチスが支配する重苦しいベルリンにありながらも、陽気で好色なスペインの撮影隊たちのドタバタが圧巻。テイストは舞台劇で、台詞も多く登場人物も多いので、最初はついていけず若干、取り残された気分になった。後半は、マカレナがどうベッケルスの魔の手からどう逃れるのか、ハラハラドキドキの展開。コメディなので、ハッピーエンドではあったが、当時のスペインやドイツの政治体制を批判するしっかりとしたメッセージも込められた作品だった。監督の新作「泥棒と踊り子」も見てみたい。2010.2
ウェルカム!ヘヴン SIN NOTICIAS DE DIOS
アグスティン・ディアス・ヤネス監督、ペネロペ・クルス、ビクトリア・アブリル、ファニー・アルダン、ガエル・ガルシア・ベルナル出演☆あるボクサー、マニを改心させ、天国へ導くよう命じられた天使ロラは、マニの妻として地上へ。一方、地獄からの使いカルメンは、マニの姪になり済まし、マニを誘惑する。
フランス、スペイン、メキシコのスターをそろえた超豪華キャストのエンタメ作品。
天国ではフランス語、地獄では英語、地上ではスペイン語、と、言葉を使い分けていたのが印象に残った。ヨーロッパの人たちは、やっぱりアメリカを苦々しく思っているのでしょう。ほかにも、天国では人が激減し財政難、地獄は人であふれ活気がある、地獄社会では自分が望まない姿に変えられる等々、今の社会を皮肉ったウィットに富んだ設定が面白かった。女の姿に変えられてしまった地獄からの使者をペネロペが男っぽく熱演していた。派手さはないけど、大人向けのシニカルなコメディだった。2010.5
浮気な家族 A GOOD LAWYER'S WIFE
イム・サンス監督、ムン・ソリ、ファン・ジョンミン、ユン・ヨジョン出演☆何不自由なく暮らす専業主婦のホジョンは、隣人の高校生の視線をささやかな喜びにしている。一方、弁護士の夫は若い愛人宅へ足しげく通う毎日。息子のスインは自分が養子であることにコンプレックスを抱きながらも、母の愛情を受けている。
ある日、義父が余命わずかと知り一族が集まる。だが、義母には愛人がいて…。
みんなが伴侶に不義理をしている仮面家族を冷めた視点で描いている。心の奥に潜む熱く激しい感情を封印し、
淡々と暮らしている主婦のモヤモヤ感をムン・ソリが絶妙に演じている。
夫役のファン・ジョンミンもうまい役者だが、この映画に関してはムン・ソリの演技が突出していた。
ラスト30分、マグマが噴き出した後の妻の変貌も見もの。
韓国映画の名作は、一通り見終わった感があったが、まだまだ発掘し甲斐がありそうだ。2010.5
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映画は映画だ MOVIE IS MOVIE
チャン・フン監督、キム・ギドク製作、ソ・ジソプ、カン・ジファン、ホン・スヒョン出演☆けんか早い映画俳優スタは、相手役を本気で殴り撮影中止に追い込まれる。スタは以前カラオケ店で絡んできたヤクザの若頭ガンペに、映画出演を依頼。ガンペは本気で殴りあうことを条件に出演を承諾する。
映画俳優とヤクザ、男と男の友情をスタイリッシュに描いた快作。ヤクザを演じたソ・ジソプは、憂いがあって惚れてしまった。TVドラマを見たときは、ぱっとしない俳優、と思っていたのだが、エライ違いである。
ストーリーは単純なのだが、ワクワク、ハラハラ、ドキドキさせられるのは、さすがギドク組!監督はギドク映画の助監督出身ということ。二人のイケメンが、泥の海で殴りあうクライマックスは秀逸。ヤクザの流儀を通すガンペの選択も泣かせる。もう1度みたい、と思わせる上質のアクション映画だった。2010.1
永遠のこどもたち EL ORFANATO
J・A・バヨナ監督、ギレルモ・デル・トロ製作総指揮、ベレン・ルエダ、フェルナンド・カヨ、ロジェール・プリンセプ、ジェラルディン・チャップリン出演☆自分が育った古い孤児院で、夫と7歳の息子シモンと共に暮らし始めたラウラは、孤児院再建の準備を進める。だが、シモンは大人には見えない子供の存在を主張し始める。
パーティーの日、そのシモンが失踪した。ラウラ夫婦は必死で探すが見つからず、霊媒師にすがる。霊媒師が見たものは、何者かに殺され苦しんでいる5人の子供たちだった。
ホラーは超苦手なので、恐る恐る見てみたのだが、怖いだけではなく、不遇な子供たちの悲しみも描いたやさしい視点のホラーだった。スペイン&メキシコで大ヒットしただけあって、ハラハラ感もたっぷり。主演のベレン・ルエダ(「海を飛ぶ夢」)が素晴らしかったです。監督はこれが長編デビューとのこと。ラテン映画の大型新人登場はうれしい限りです。2010.1
エリザベス:ゴールデン・エイジ ELIZABETH: THE GOLDEN AGE
シェカール・カプール監督、ケイト・ブランシェット、ジェフリー・ラッシュ、クライヴ・オーウェン、アビー・コーニッシュ、サマンサ・モートン出演☆1585年、イングランドのエリザベス1世は、新世界から帰還したばかりの航海士ウォルターに惹かれるが、彼は密かに女王の侍女ベスと愛し合うようになる。一方、スコットランドの王女メアリーは、エリザベス暗殺を企て、スペイン王は、イングランドに攻め入ろうとしていた。
バージン・クイーンと呼ばれた孤高の女王エリザベス。周りには性を超えた気高さを見せているが、一人、鏡の前に立てば愛に飢えたか弱き女性。裏と表の顔を持つ女王をケイトが見事に演じていた。男はいつの時代でも、自分より地位の高い強い女性より、ぽっちゃりした癒し系の女性を選ぶものなのですね…。女王に思わず感情移入してしまった。衣装とヘアがシーンごとに違っていて、次はどんなドレスだろう、とワクワクしながら見れた。何度も言うがケイト・ブランシェットは適役。彼女のエリザベスはパーフェクトでした。2009.8
エグザイル/絆 EXILED 放・逐 ★
ジョニー・トー監督、アンソニー・ウォン、フランシス・ン、ニック・チョン、ラム・シュー、ロイ・チョン、ジョシー・ホー、サイモン・ヤム出演☆舞台は返還前のマカオ。マフィアのボスを狙ったウーを殺すよう命じられた4人の男は、ウーの家で待ち伏せする。まもなくウーが姿を現わし銃撃戦が始まった。だが、4人とウーは、昔から強い絆で結ばれた仲間だった。ボスに呼び出された男たちは、反逆を企てるが…。
ジョニー・トーの作品らしいスタイリッシュなクライム・ムービー。
4人の男の立ち位置、華麗な銃撃シーンなどなど、洒落たCMを見ているような錯覚に陥った。
例の如く、人間関係の説明を極力排した筋立てなので、はじめは惚れぼれするような映像美だけを楽しんでいたのだが、徐々に、男たちの美しき友情物語が浮き彫りになり、ストーリーにも引き込まれた。クライマックスの銃撃シーンは、ちょっと「キル・ビル」に似ていたのだが、「キル・ビル」にひけを取らないド迫力。
何よりもアンソニー・ウォンをはじめとする5人の男どもがそれぞれに魅力的で、時折映し出される若い5人の写真を見ただけで、彼らの長い歴史、強い絆が十分想像できた。
数多くのジョニー・トー作品の中でもお気に入りの一作。次回作にも期待大だ。参考CINEMA:参考CINEMA;「エレクション」「PTU」「ザ・ミッション 非情の掟」「ブレイキング・ニュース」「柔道龍虎房」「機動部隊 同袍」
エレクション ELECTION 黒社會
ジョニー・トー監督、サイモン・ヤム 、レオン・カーフェイ出演☆香港黒社会の新会長の座を狙うロクは、会長だけが手にすることができる「竜頭」と呼ばれる置き物を取り返すため、手下を中国へ送り込む。一方、血の気の多いヤクザ、ディーも会長の座を狙っていた。
中国黒社会の血生臭い戦いを、それこそ血も涙もないほど残酷に描いたフィルム・ノワール。テイストはスピード感のある「ゴッドファーザー」という感じ。はじめは人間関係が錯綜していてよくわからなかったが、スピード感があって楽しめた。2009.8 参考CINEMA;「エグザイル」「PTU」「ザ・ミッション 非情の掟」「ブレイキング・ニュース」「柔道龍虎房」「機動部隊 同袍」「エグザイル」
エレクション 死の報復 ELECTION 2
ジョニー・トー監督、サイモン・ヤム、ルイス・クー、ウォン・ティンラム出演☆ヤクザのトップをめぐる抗争を描いた第2弾。主演のルイス・クーがひたすらかっこよかったです。2010.5
エレニの旅 TRILOGIA I: TO LIVADI POU DAKRYZEI
テオ・アンゲロプロス監督、アレクサンドラ・アイディニ、ニコス・プルサディニス出演☆ロシア革命後、オデッサから追われて難民となったギリシャ人一行の中に、孤児エレニがいた。エレニはスピロスという一行のリーダー一族に育てられるが、10代前半で双子を身ごもってしまう。スピロスから隠れ、親戚の家で出産する。
エレニと家族の物語を言葉少なく、アンゲロプロス独特の映像美で描いた大作である。馬にまたがり水辺で休む男たち、地主となったスピロスの館の全景、真っ白なシーツが風に揺れる風景、エレニの花嫁衣装がかかった椅子と脱ぎ捨てられた靴等々、霧のかかった空を背景にした静止画のような美しい構図に、終始うっとり…。
アンゲロプロス絵画展を3時間近くたっぷりと堪能できて大満足である。
ギリシャ移民の歴史については、詳しくないし、説明台詞がまったくないため、彼らの物語については、よく理解できなかったのだが、お涙頂戴の大河ドラマをアンゲロプロス映画に求めてはいないのでまったく問題なし。だが、後半、大洪水や戦争によって家族が引き裂かれ、エレニが不幸のどん底に落ちていくまでの物語はあまりにも悲惨で、重苦しくて、見終わった後、気持がどんよりと落ち込んでしまった。
ギリシャ現代史3部作の1作目の予定で作られたということで、2部、3部の作品で希望を描く予定なのかもしれないが、絶望しか残らないエンディングはやはり辛すぎる。
ウソでもいいから、夢でもいいから、わずかな希望でも持たせてほしかったです。2010.3 参考CINEMA:「永遠と一日」
エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜 LA MOME
オリヴィエ・ダア監督、マリオン・コティヤール、シルヴィー・テステュー、ジェラール・ドパルデュー出演☆1910年代、パリの貧民街で生まれ育ったエディットは、祖母が経営する娼館に預けられた後、兵役から戻った父とともに、路上で大道芸の手伝いを始める。人前で歌い、拍手をもらったのをきっかけに、路上歌手として生計を立て始めたエディットは、名門クラブのオーナー、ルイにスカウトされ、スターへの階段を登りはじめる。
2008年アカデミー賞でフランス映画ながら主演女優賞を受賞した作品。
不幸な生い立ち、歌手になるまでのサクセス・ストーリー、そして恋人との別離…。わずか47年という太く短い激動の人生を、歌を交えながら描いた、ごくごく普通の伝記映画。
よくあるパターンで、とくに新鮮さは感じなかったが、ピアフのことは、背の低い個性的な声のシャンソン歌手、ということぐらいしか知らなかったので、大変、勉強になりました。
恋多き歌手と聞いていたのだが、恋愛に関してはボクサーとの悲恋物語ぐらいで、ほかは省略されていたようだ。
ピアフの声は、いわゆる「美声」ではないのだが、不思議と人をひきつける。
かなり個性的な声なので、受け付けない人もいるだろうが、強いリキュールのような歌声とでもいおうか、一度、はまったら病みつきになる声だ。
ピアフの一生は、幸薄い波乱の人生として描かれていたが、ピアフ本人にとっては「バラ色」の人生だったのでしょうか。バラ色、とは、美しいだけでなく「激しい」といった意味も込められているのかもしれない。そんなことを映画を見ながら考えていた。
自分の人生は、色にたとえたら何色かなあ。
薄くくすんだ赤紫あたりでしょうか(つねに欲求不満なので)。
主演のマリオンはアカデミー主演女優賞も納得の迫真の演技。次の作品選びが難しくなりそうなはまり役だ。2008.3
エッセンシャル・キリング
イエジー・スコリモフスキ監督、ヴィンセント・ギャロ出演☆アフガニスタンで一人洞窟に隠れていた男は、アメリカ兵を爆撃したことで、捕虜になる。拷問に耐え、山奥に移送される途中、男は脱走。雪深い森の中での長い逃亡が始まる。
言葉を発しないタリバン兵と思われる男が、雪の中を逃げる逃げる。ただそれだけの映画ではあるのだが、見せ方が巧みで、思わず引き込まれた。逃亡の初めの頃は、弱弱しくてとても逃げ切れそうにない風貌だったのだが、偶然も重なって逃亡に成功し、サバイバルを続けていくうちに、頼もしく見えてくるから不思議。
ギャロが捕虜になる前の展開は、少々ハリウッド映画っぽくもあったのだが、ハリソン・フォードやスタローンが主役だったら、まずこういう展開にはならないだろう、というリアルさが面白い。
さらに、雪野原の荒々しい映像が絶品で、真っ白な雪と、毒々しい血の色のコントラストも芸術的。大スクリーンならではの迫力もあり、テレビ画面で見たら面白さ半減なのは間違いないだろう。
単純だけど面白い。台詞なしでも観客を引きつける。ギャロの身体を張った演技と、スコリモフスキの卓越した演出力が光った逸品だ。2010.10 東京国際映画祭にて
永遠のモータウン STANDING IN THE SHADOWS OF MOTOWN
ポール・ジャストマン監督、ファンク・ブラザース、チャカ・カーン、ベン・ハーパー出演☆ブラック・ミュージックの創成期を支えたモータウン・レコードの歴史を紹介しながら、チャカ・カーン、ベン・ハーパーらが懐かしのブラック・ミュージックを披露する音楽ドキュメンタリー。懐かしさプンプンのダンス・ミュージックが堪能できた。深さはないけど楽しかったです。2010.10
おいしいコーヒーの真実 BLACK GOLD
マーク・フランシス監督☆エチオピアでコーヒー農園の労働者の生活改善のために運動する一人の男が、コーヒーの流通システムや、労働者の実態に鋭く迫ったドキュメンタリー。コーヒー好きにとっては、おいしいコーヒーを安く飲めることはありがたいことなのだが、儲かっているのは一部のコーヒー会社のみ。農園で働く労働者の生活は一向によくならない、という事実はとても耳が痛い話である。それでも、諦めたら出口はないわけだし…。
国際協力って、大きな目標を持ちすぎると、先が見えなくて続かないけれど、自分が一杯のコーヒーを飲むことで、労働者の生活改善に少しでも役立っている、と考えよう。一日一善!きっといいことあるよね、いつか。2009.10
王妃の紋章 CURSE OF THE GOLDEN FLOWER
チャン・イーモウ監督、コン・リー、チョウ・ユンファ、リウ・イエ、ジェイ・チョウ出演☆唐王朝滅亡後の中国。ある国の王には3人の王子がいたが、皇太子は、先妻の子供。
現王妃と皇太子は王に隠れて密会していたが、王は、その王妃に薬と偽り、トリカブトを与え続ける。
王妃の実子である第2皇子は、母の衰弱ぶりを見かね、薬を飲むのを止めるよう告げるが、王を憎む母の思いを知ることになる。
絢爛豪華という言葉がぴったりくる、中国ならではのスケールの大きな歴史絵巻。
王妃にトリカブトを飲ませる非情な王を演じたユンファ、そしてその王への憎しみを募らせながら菊の刺繍をさし続けるコン・リー。
2大スターの演技バトルはすさまじく鳥肌がたつほど。
また、きらびやかな衣装、セット、CGもすばらしい。
一歩間違えば安っぽくなってしまう定番の歴史エンタメではあるが、2大スターの存在感と映像美に終始圧倒されっぱなしだった。
中国を代表する監督とスターが組んだ極上のエンタメ映画。さすが、の一言につきる。飛行機内の小さな画面で見たのがとても悔やまれる。2008.9
オフサイド・ガールズ OFFSIDE
ジャファル・パナヒ監督、シマ・モバラク・シャヒ出演☆舞台は、2005年のWカップ最終予選。この日の試合でWカップ出場が決まる、という大事な試合を一目見ようと大勢の観客がスタジアムに集まっている。女性が男性のスポーツ観賞を禁じられていつお国柄だが、サッカー好きな女性たちは、男装してなんとかスタジアムに潜り込もうとする。
女性は、男性の前で歌ってはいけない、男性のスポーツを見ることもダメ、などなど、日本や欧米では考えられない法律がまず信じられないのだが、お国事情だから仕方ない。
それでも、現代的価値観を持ったイランの若い女性たちは、男性のふりをし、警備する男たちを翻弄しながら、サッカー観戦しようとする。その逞しさ、したたかさが笑いを誘った。イスラムの厳しい戒律と男女平等の価値観の狭間で生きるイランの若い女性たちは、日々、戦っているのでしょう。彼女たちの逞しさにエールを送りたくなりました。余談だが、サッカー観戦に向かう観客が、ブラジルのスター、ロナウドのユニフォームを着ていたのが印象的だった。縁もゆかりもないイランでもロナウドは憧れのスターなんですね。参考CINEMA;「白い風船」
おまけつき新婚生活 DUPLEX
ダニー・デヴィート監督、ベン・スティラー、ドリュー・バリモア、アイリーン・エッセル出演☆作家のアレックスと編集者のナンシー夫婦は、暖炉のある古いマンションを安く購入するが、上の階に住む老女はとんでもない迷惑ババアで…。
マンションにありがちな騒音公害を面白おかしく描いたドタバタ・コメディ。思い余った新婚夫婦が、老婆の殺害計画を実行するのはどうかと思うが、バアチャンのほうが1枚も2枚も上手なので、ヨシとしましょう。ベン・スティラー出演の映画は、みーんな似たり寄ったり。いっときのスティーブ・マーチンのよう。彼もそのうちシリアス・ドラマに出るようになるのでしょうか。2008.3
オール・ザ・キングスメン ALL THE KING'S MEN
スティーヴン・ザイリアン監督、ショーン・ペン、ジュード・ロウ、アンソニー・ホプキンス、ケイト・ウィンスレット、マーク・ラファロ出演☆舞台は50年代のアメリカ。生真面目で熱血漢の出納係ウィリーは、汚職まみれの役人を告発し逆襲される。だが、直後、ウィリーに追い風が吹き、一躍市民のヒーローになる。
名門出身のジャーナリストは、冷めた目でウィリーを見ながらも、彼のもとで働くようになる。だが、知事にまで登りつめたウィリーは、次第に権力を振りかざすようになり…。
50年以上前の作品の再映画化。純粋な熱血漢が、ヒーローとして祭り上げられ、権力を持つことによって、かつて嫌悪していた汚職に自ら手を染めるようになる…。
欲、権力、金。この3つは、力を持った人間が溺れてしまう魔物なのだろうか。人間というのは何と、弱く愚かな生き物なのだろう。初めは、純粋な気持ちで社会のために生きようとしていただろうに…。みんな、どこかやましい部分がある、というのがリアルでいい。旧作を見た時は、それほどピンとこなかったのだが、今作では、権力者にすり寄る男や女に感情移入し、自分の姑息な部分を再確認。人間、清廉潔白じゃ生き抜けない。悲しいけどそれが現実です。2009.8
おくりびと
滝田洋二郎監督、本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子、吉行和子、笹野高史、杉本哲太ほか出演☆小さなオーケストラでチェロ奏者としての仕事を見つけた大悟だったが、オーケストラの突然の解散で仕事を失い、借金を抱え、故郷の山形に戻ってくる。
ひょんなことから、遺体を綺麗にする仕事「納棺師」として働き始める大悟。最初は戸惑いの連続だったが、ベテラン納棺師の仕事を見ているうちに「遺体を清めて旅立たせる」という仕事にやりがいを見出すようになる。
世間知らずの芸術家だった大悟が、納棺師という特殊な仕事につくことによって、大人になっていくまでの気持の変遷が、誰にでもわかりやすく丁寧に描かれていた。
久し振りによくこなれた脚本の作品をみて「やっぱり日本人はきっちり仕事するよなあ」とまず関心。そして何より、脇を固める山崎努と風呂屋のおばちゃん・吉行和子が素晴らしい。これぞ日本映画!である。
山崎努と冠婚葬祭といえば伊丹作品である。最初の納棺HOW TOビデオの録画のシーンでは、「お葬式」、さらにもっくんのオムツ姿は「しこふんじゃった」を思い出し大笑い。
そんなコミカルでちょっとブラックな導入部分でまず肩の力を抜き、徐々に感動の納棺の話に入っていく。その自然な流れに好感がもてた。
風呂屋のおばちゃんとのちょっとした交流、昔の友人や周りの人々の職業蔑視等々、日本の田舎にありがちなパータンではあるのだが、そういう予定調和も気にならないのは、納棺という仕事の特殊性と脇役の味のある演技があるからだろう。
そして山形の美しい自然。東北とチェロ、と言えば宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」である。作者がゴーシュをイメージして大悟という人物を作り出したことは十分想像できる。
美しい日本の田園風景とシンプルなストーリー、そして味のある脇役陣の演技にほだされ、風呂屋のおばちゃんの納棺のシーンでは、自然と涙があふれてきた。
おそらく日本でこの映画をみたのなら、こんなにも涙は出なかったと思う。
でも、ここは多感な人々の多いブラジル。そして私は、もうすぐブラジルを去らなければならず、会えなくなる人が大勢いる、というナーバスな気持のなかでの鑑賞ということもあり、つい感情が高ぶってしまったようである。
「別れ」というのは何度経験しても寂しいものだ。別れてしばらくすれば、何でもない日常に戻るとわかってはいても、別れの瞬間というのは、なんとも表現し難い湧き上がる感情が抑えきれなくなる。
感情表現が苦手のひねくれモノが、こんなにも感情的になるんなんて…。
うれしい気持ちを正直に表現できない不器用な自分、ホントは寂しいのに寂しくなんかないと強がる自分。そんな肩肘はった生き方をしてきた自分の、ガチガチに凝り固まった感情が、すっと軽くなり、自然に涙が出てきた。ときには、気持ちに正直に泣いてみるのも悪くない。
格好つけずに感情を表現することは、心にうるおいを与えてくれるものだ。
"映画レビューの書き手"という視点から見れば、「おくりびと」は、取り立てて驚きも発見もない映画である。よくできてるけど普通、という評価でしかない。
それでも、映画をみて自然と素直な気持ちになれただけでも「見る価値あり」の映画である。
最後にもう一言;生き別れの父との劇的な再会話はやりすぎの感あり。笹野高史が風呂屋の店番しながら居眠りしているシーンで「完」だったら、大絶賛!なのだが…。
エンデイィングはさらりと、が、私好みです。
(父を演じた峰岸徹の遺作になってしまったということもあるので、父のシーンがすべて余計と言うのも気が引けます…。結果的に峰岸徹さんに捧げる作品となり、このエンディングは必然だったのかもしれません)。2009.6 狼の死刑宣告 DEATH SENTENCE
ジェームズ・ワン監督、ブライアン・ガーフィールド原作、ケヴィン・ベーコン、ケリー・プレストン出演☆二人の息子と妻に囲まれ幸せに暮らす男ニックに悲劇が訪れた。町のチンピラに長男を殺されてしまったのだ。犯人はすぐに逮捕されたが、死刑にならないと知ったニックはわざとうその証言をし、男は釈放される。ナイフを手にニックは犯人を襲う。
普通のエリートサラリーマンがギャング相手に戦いを挑んで、けっこう戦えちゃうっていうのが違和感あり。まあ、元スポーツ選手という設定なのであり得なくもないけど。後半飽きてしまいました。2011.2
オーシャンズ13 OCEAN'S THIRTEEN
スティーヴン・ソダーバーグ監督、ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、アル・パチーノ出演☆詐欺仲間のルーベンが、ホテル王バンクに裏切られ、そのショックから発作を起こして倒れてしまう。オーシャンたちはバンクに復讐を誓い、さっそく計画を練るが、バンクのカジノには、最新のセキュリティーが装備されていた。
アル・パチーノの存在感が光っているシリーズ3作目。やっぱりシリーズものは1作目にはかなわないですね〜。とくに斬新さも感じず。2010.10
夫以外の選択肢 WE DON'T LIVE HERE ANYMORE
ジョン・カーラン監督、マーク・ラファロ、ナオミ・ワッツ、ローラ・ダーン、ピーター・クラウス出演☆作家兼大学教授の夫を持つエディスは、家族ぐるみで仲の良い夫の同僚ジャックと不倫関係を続けている。それぞれ夫婦間に問題を抱えていた二人は、浮気に罪悪感を持たない夫と、だらしのないジャックの妻が関係を持つよう仕向けるが…。
不倫、スワッピングという行為を扱ってはいるが、二組の夫婦の苦悩に鋭く切り込んだ哲学的なラブ・ストーリーである。ジャックは、同僚の妻と不倫しているが、内面では、妻に対して苛立ってしまう自分や、同僚に対する激しいコンプレックスを抱えている。エディスは、夫や不倫相手から愛を得ようと身体を差し出すが、真実の愛を得られない。いわゆる愛されたいけど愛せない女。4人4様のキャラクター設定が巧みだし、4人の役者が彼らの複雑な内面を見事に演じきっている。4人のあいまいな関係は、ドラマの中でもすっきり清算されない。夫婦はそれぞれ、自分たちのとった行為を告白し、少しだけ距離が近づくようには見えたが、すべてを見せたわけではない。それがまたリアルである。人と人との関係は、つねに探り合い。すべてを分かりあえることはない。自分自身のことだってわからないのだから…。舞台劇にしても面白そうな興味深い心理ドラマだった。2010.3 脇役たち(マーク・ラファロ)
女が男を捨てるとき Yo soy la Juani
ビガス・ルナ監督、ベロニカ・エチェーギ、ダニエル・マーティン出演☆田舎町のレジ係フアニは、女優になる夢を持ちながら、悶々とした日々を送っていた。ある日、恋人の浮気を目撃したファニは親友と一緒にマドリッドへ。都会生活をエンジョイし、女優への道を進もうとするが…。田舎娘の夢と挫折を描いた青春ドラマ。今時の若者の生態はスペインでも日本でも大差はないようだ。ファニの成長をもう少し丁寧に描いてくれれば、面白かったのかも。2010.4
【カ】
渇き THIRST
パク・チャヌク監督、ソン・ガンホ、キム・オクビン、シン・ハギュン、キム・ヘスク出演☆カトリックの神父サンヒョンは、ある研究所の人体実験に参加。致死率100%と言われていたが、ただ一人生き延びる。まもなく、サンヒョンの身体に異変が起きた。人の生血が欲しくなり、飲まないと発疹がでるようになったのだ。そんな中、幼なじみの家に出入りするようになったサンヒョンは、女中のように扱われている彼の妻と惹かれあうようになる。
神父が心に反して吸血鬼となり、罪の意識を抱きながらも、血を欲する気持ちの痛みも伝わらなくはない。苦悩する神父を描きたかったのだろうし、前半のソン・ガンホは見事に演じきっていた。だが、女の誘惑に負けてからの後半は、ただの化け物映画と大差なし。せっかくの芸達者シン・ハギュンもまったく見せ所なく消えてしまったし…。。パク・チャヌク映画はヒイキにしていたので、期待が大きすぎた、というのもあるだろうが…。
チャヌク映画特有の“痛さ”は健在で、人体実験の研究所で吸血鬼にされるという設定もチャヌクらしい。それだけに、後半のありきたりな展開が惜しく感じた。2010.3
蟹工船
SABU監督、松田龍平、西島秀俊、高良健吾、新井浩文ほか出演☆漁船の中で奴隷のようにこき使われる蟹缶工場の工員たちは、自分の人生を呪い、実現不可能な夢を語り合うことしかできない。ある日、若い工員二人が脱走し、ロシア船に救助される。ロシア船の中では労働者でも、豪華な食事をし、ダンスをして楽しんでいたことに驚き、また、通訳してくれた男から、自分で考え行動することを教えられる。
なぜ今、プロレタリア文学の「蟹工船」が注目されているのかは、映画を見ても解せなかったが、若者たちのスタイルはパンク調でカッコイイ。暗くて重ーい労働文学をSABU監督がクールに料理していて好感が持てた。ただ、SABU映画の真骨頂であるスピード感があまりなかったのがちょっと残念。当時の共産主義者たちは、ソビエトの共産主義が理想と思っていたんだろうなあ。小林多喜二は、今の世の中を見て何を思うのでしょう…。2010.3
帰らない日々 RESERVATION ROAD
テリー・ジョージ監督、ホアキン・フェニックス、マーク・ラファロ、ジェニファー・コネリー 、ミラ・ソルヴィノ、エル・ファニング出演☆大学教授のイーサンの息子がある晩ひき逃げされた。妻と二人で、絶望の日々を送るイーサンは、なかなか捜査のすすまない警察に業を煮やし、弁護士事務所を訪れる、しかし、その相手ドワイトは、息子をひき逃げした男だった…。
愛する子供を失った夫婦の悲しみを描くと同時に、轢き逃げしてしまった加害者の恐怖感もしっかり描いてくれていて、好感が持てた。
愛する人を殺され、報復を考える父の気持ちもわかるのだが、逆に、もし引き殺してしまったら…、という恐怖感のほうが、自分にとってはリアル。その場ですぐに罪を認める自信は正直ありません。泣き崩れて、うずくまることしかできないかも…。お気に入りのマーク・ラファロ、この映画でもホアキンを食う演技をしてくれました。参考CINEMA:「ホテル・ルワンダ」、脇役たち(マーク・ラファロ)
隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS(2008)
樋口真嗣監督、黒澤明、菊島隆三、小国英雄、橋本忍脚本、松本潤、長澤まさみ、椎名桔平、宮川大輔、阿部寛ほか出演
☆戦国時代、秋月、早川、山名という小国が、軍資金を巡って争っていた。ある日、武蔵と新八という二人の男が金を盗んで逃走。だが、その金を六郎太という男に奪われてしまう。
実は六郎太は秋月の武将。一緒にいた少年は秋月家の唯一の生き残りである雪姫だった。
ひょんなことから一緒に行動することになった4人は、軍資金を持って早川へ逃げ込もうと試みるが、次々に追ってが現れる。
原作が黒沢映画とはいえ、アイドルが出演していたので、まったく期待していなかったのだが、これがけっこうおもしろくて、飛行機の中で2度も見てしまった。松潤と宮川大輔のコンビもよかったし、阿部ちゃんもステキ。もちろん、三船敏郎とは比べられないけど。脚本とキャラクター設定は、100年たっても色あせることはないだろうし、いつ誰がどこでリメイクしても、面白く仕上がるだろう。
あの「スター・ウォーズ」だって、この脚本が元になっているのだし。
リメイクを見て、あらためて黒沢監督の偉大さに敬服させられた。100年に1度しか現れない天才です。2008.8
亀も空を飛ぶ TURTLES CAN FLY (2004・イラク)
バフマン・ゴバディ監督、 ソラン・エブラヒム、ヒラシュ・ファシル・ラーマン、アワズ・ラティフ出演☆イラク北部の小さな村では、大勢の戦争孤児たちが共同生活を送っている。子供たちのリーダーであるサテライトは、アンテナを設置中、小さな子供をおぶった少女アグリンと知り合う。アグリンに恋心を抱くサテライトだが、彼女は誰にも心を開こうとしない。
アグリンには両手を失った兄がいたが、彼は口を使って地雷除去のアルバイトをする、という過酷な生活を強いられていた。
そんな中、アグリンと子供が行方不明になった。サテライトたちは二人を手分けして探すが…。
イラクの難民キャンプが舞台ではあるのだが、そこに、大人はほとんど登場しない。主役は、個性豊かな子供たちだ。
片足を失いながらも、元気に走り回る参謀、泣いてばかりいる情報屋、子供だけでなく老人たちにも頼りにされているリーダー、予知能力のある両手のない少年、そして、目の見えない赤ん坊を抱えた悲しい瞳の少女。
生まれて10年にも満たない子供たちの過酷な人生は、細かく語られはしないが、彼らの姿を見ただけでも、つらく悲しい歴史を背負っていることがよくわかる。
それでも彼らは希望を失わず、生き抜くために危険な仕事を買って出る。
唯一、絶望から抜け出せない少女を除いて…。
サテライトを筆頭にした子供たちの、たくましく元気な姿には、見ている側も元気をもらえるぐらいなのだが、男の子たちとは対照的に、すべての悲しみを背負い込んでしまった少女の瞳は、あまりにも悲しげだ。
サテライトの優しさを最後は受け入れ、最後には子供らしい笑顔を見せてハッピーエンド、で、あってほしかったのだが…。
これは、ハリウッドの心温まるファミリー映画でも、メルヘンチックな宮崎映画でもないので、そう簡単にはいかない。厳しい現実が、子供たちに、容赦なく襲いかかってくるのだ。
泣き叫ぶ赤ん坊を助けるため、地雷の埋まった場所に進んでいく少年サテライトの勇気ある行動。
自分の体を犠牲にしながらも、赤ん坊を救った彼の気持ちに答えることなく、少女アグリンはその赤ん坊を連れて消えてしまう。
癒すことのできない傷を追った少女の選んだ選択を、誰も責めることはできないけれど、それだけに、やりきれない思いでいっぱいになった。
彼女が命をかけて訴えたかったのは、No,More War!それはよーくわかるのだが…。
シビアすぎる現実。目をそらしてはいけないのだろうが…。「1度で十分。もう見たくない」そう思ってしまうほど、辛すぎるエンディングだった。2009.2
カフェ・ブタペスト BOLSHE VITA
フェケテ・イボヤ監督、ユーリー・フォミチェフ出演☆社会主義崩壊直前のブタペストにやってきたロシア人の若いストリート・ミュージシャンは、イギリスから遊びにきていた若い女性2人組と親しくなり、一緒に暮らし始める。
当時のロシアと英米の若者の考え方の違いと、ブタペストのドキュメント映像を並行して見せることで、時代の移り変わりを描いた作品。悪くない手法だとは思うが、それほど面白さも感じず。とてもうまくいかないだろうな、と思っていた男女がくっついちゃった、というエンディングは、社会主義と資本主義の融合を物語っているのでしょう。
大変だろうけど、なんとかうまくやっていけるもんなのかも、人間も社会も。2009.12
カルメン CARMEN
カルロス・サウラ監督、アントニオ・ガデス、ラウラ・デル・ソル出演☆フラメンコの巨匠が見出した若い踊り子は、舞台で演じるカルメンと同じように奔放で激しい女性だった…。劇中劇のフラメンコ版。あまりの美しさに、フラメンコを踊ってみたくなったが、無理ね…。スペインならでは、の映画でした。2010.1
参考CINEMA:「タンゴ」
カルメル - Carmel
アモス・ギタイ監督ジャンヌ・モロー朗読☆ローマ帝国とユダヤ人の戦闘の歴史から現代の軍事キャンプ、そして監督の母の手紙をリンクさせたアート作品。
何層にも重なる芸術的映像と、母の手紙の内容は興味深かったのだが、詩の朗読シーンが多すぎて、かなり難解な作品だった。詩の内容を字幕を読みながら理解する作業が難しくて、言葉の意味を考えようとしてる間に、どんどん進んでしまいイライラ。字幕を読むのを諦めたほうが、もっと、ギタイ作品の世界に入り込めたかも。
監督の母は、イスラエル建国前のパレスチナ地区で生まれ育ったユダヤ人で、のちにフロイトに傾倒しウィーンに留学。そこでナチスからの迫害を経験し、後にイスラエルとなった故郷に戻ったという。ギタイ監督は超インテリにありがちな近寄り難さを感じたが、世界を牛耳る頭脳と財力を誇るユダヤ人ですから、一般市民とは感覚もかなり違うのでしょう。個人的には、庶民の苦しみを描いた作品が好きだが、こういう世界もあることを知れただけでも勉強になった。2009.11
母べえ
山田洋次監督、吉永小百合、浅野忠信、檀れい、志田未来、坂東三津五郎ほか出演☆舞台は昭和15年の東京。幸せに暮らす野上家に、ある日特高刑事が現れ、父が逮捕されてしまう。文学者である父は、国の政策を批判する態度を崩さず、長い牢獄生活が始まる。
母は、家族を養うため、代用教員を始める。そんな家族のもとには、父の教え子・山崎や、父の妹・久子が度々訪れ…。
暗い時代にありながらも、人々が支えあいながら生きている姿が微笑ましく、古き良き日本を感じさせる家族ドラマに仕上がっていた。テイストが、向田&久世ドラマにちょっと似ているな、と感じたのは私だけ?二人が亡き後、自然消滅してしまった感があるが、それを山田監督が復活させてくれたことがうれしくて涙でそうでした。
寄り添いながらささやかに生きてきた罪のない人々。だが、夫は獄中で、山崎は戦場で、そして久子は原爆で命を奪われることになる。母べえを中心にした家族の物語があまりにも微笑ましかっただけに、彼らの最期に、あらためて戦争に対する怒りを覚えた。
山田監督の、静かだけれどしっかりと筋の通ったメッセージが込められた反戦映画である。2010.2
監督・ばんざい!
北野武監督・出演、 江守徹、岸本加世子、鈴木杏、吉行和子出演☆ある映画監督が、次は今まで撮ったことのない作品を作ろう!と、小津風、SF、ノスタルジックもの、などに挑戦するが、結局できたのは…。いわゆる北野映画ファンなら、この映画「なんじゃこれ?」なのかもしれないが、ひょうきん族のタケシが好きな私は、十二分に楽しめた。このレビューを書くのが見てから1か月後なので、あまり詳細は覚えていないのだが、様々なワンポイント・ギャグがちりばめられていて、飽きずに見られた。
大ヒット映画「3丁目の夕日」のパロディのような、ノスタルジー映画は、ぜひ、北野監督に撮ってもらいたい。停めてあった車に抱きつき「拾った」と言い張る馬鹿男はケッサク。ブラジルだと、ギャグじゃなくて、ほんとにありそうな話なので、リアルに笑えました。2008.6
カサンドラズ・ドリーム 夢と犯罪
ウディ・アレン監督、ユアン・マクレガー、コリン・ファレル、ヘイリー・アトウェル、トム・ウィルキンソン出演☆イアンは、父の経営する小さなレストランで働きながらホテル事業への投資を夢見る野心家の男。一方、弟テリーは修理工場で働きながら酒とギャンブルに溺れる日々を送っていた。イアンは、弟から借りた客の高級車でドライブの途中、新進女優と知り合い一目ぼれ。金持ちを装い近づく。そんな時、テリーがポーカーで大きな借金を抱え込む。金に困った二人は、羽振りのいい母の弟に相談を持ちかけるが、逆にある男の殺人を依頼される。
ウディ・アレン作品らしいウィットのきいたマシンガン・トークは健在。転落していく若い兄弟の心理描写も巧みで、見応えのあるサスペンスだった。間抜けで気の弱い弟をコリン、野心家の見栄っ張り兄貴をユアンがそれぞれ好演。皮肉なエンディングも乙でした。2010.10
カティンの森 KATYN
アンジェイ・ワイダ監督、マヤ・オスタシェフスカ、アルトゥル・ジミイェフスキ出演☆舞台は、第2次大戦下のポーランド。ナチスとソ連に侵攻されたポーランドでは、多くのポーランド人がナチスもしくはソ連の捕虜となって収容所へ送られた。
将校の夫を持つアンナは、娘と共に夫へ会いに行くが、夫アンジェイは、将校としての責任を果たすため、仲間と共にソ連軍に連行される道を選ぶ。
その頃、大学教授のアンジェイの父は、勤務する大学でナチスに捕えられ、収容所送りになる。
1943年4月、ドイツ軍はソ連領のカティンで多数のポーランド人捕虜が虐殺されたと発表。だが、ナチスが撤退し、ポーランドがソ連の支配下に置かれると、情報がすり替えられ、カティンでの虐殺はナチスの犯罪と公表される。
間もなく、夫の生還を信じているアンナの元に、犠牲者死亡リストに出ていた夫の友人が訪れる。
戦争によって引き裂かれた家族の悲劇は、世界中で語られ、数えきれないほど多くの映画が作られてきた。正義が通用しない世の中で、主張することもできず、息をひそめ、肩を寄せ合って生きるしかない被害者家族の人生は、何度見ても、胸が締め付けられる。
若かりし頃は、さまざまな戦争映画を好んで見ていた方だし、ワイダ監督の底なしに重いテーマのモノクロ映画も嫌いではなかった。
だが、年のせいか、戦争映画を見過ぎたせいかわからないが、この「カティンの森」では、胸に重量級の重りを乗せられたような気分になり、「苦しい。もうやめて」と叫びたくなり、そして「戦争の悲劇を扱った映画は当分見たくない」と、思ってしまうほどの重厚感があった。
今まで見てきた戦争ものに比べて、特別悲惨な事件を扱っているわけではないし、ワイダ作品の割には、女性的な視点で描いた作品ではある。
だが、ここまで見る側の気持を重くさせたのは、監督が作品に込めた魂の重さが尋常ではなかったからのような気がしてならない。
父親をカティンで虐殺されたワイダ監督が、事件から60年を経た今、被害者家族の一人として自らメガホンをとった。60年という年月は、一般的には長いと感じるが、被害者家族にとっては、たとえ100年経とうが、その悲しみを忘れることはできないだろう。
「カティンの森事件」を、作家目線で語るのには、半世紀以上の時間が必要だったのかもしれない。
ポーランド軍捕虜の大虐殺「カティンの森事件」、それがソ連によって、ナチスの犯罪と捻じ曲げられたこと等、ほとんど知らなかったので、ポーランドの悲しい歴史を知る意味でも、とても勉強になった。
今回の大統領専用機の事故によって、「カティンの森」事件が再びクローズアップされたというのは、なんとも皮肉な話ではあるが、戦争によって起こった悲劇は、語り継がれるべきものである。
「当分、重い戦争映画は見たくない」というのが本音ではあるが、事実から目をそむけてはいけない、と改めて考えさせられた。2010.4
カルメン
ヴィセンテ・アランダ監督、パス ヴェガ、レオナルド・スバラグリア出演☆軍人のホセはジプシー女カルメンに魅せられ虜になる。だが、カルメンはホセ以外の男とも逢瀬を重ねる。スペインらしい情熱がみなぎった映画ではあったが、特別印象に残らず。2010.6
君のためなら千回でも THE KITE RUNNER ★
マーク・フォースター監督、カーレド・ホッセイニ原作、ハリド・アブダラ、ホマユン・エルシャディ出演☆舞台はソ連侵攻前のアフガニスタン。資産家の家庭の少年アミールは、召使いの息子ハッサンと大の親友。落ちた凧を追い掛けて捕まえるのが得意なハッサンを誇りに思っていた。だがハッサンは迫害されている側の人間であったため、子供たちから屈辱的ないじめに逢ってしまう。アミールはハッサンと距離をとり始め、二人の間に溝ができる。
間もなくソ連軍が侵攻。共産党を毛嫌いするアミールの父は息子と共にアメリカへ亡命する。
アフガニスタン、と聞けばタリバン、ソ連侵攻、アメリカとの戦争、ビン・ラディン等など、想像を絶する抑圧された暮らしを想像する人も多いだろう。
映画を見るまでは自分もそうだったので、ソ連侵攻前の人々ののどかで優雅な暮らしが信じられなかった。だが、優雅ではあっても差別があり、迫害を受ける民族がいて、子供の間でもイジメが横行していた。子供社会の残酷さがリアルに描かれていて引き込まれた。
ハッサンとアミールの微妙な関係も子役二人が絶妙に演じていてGOOD!大人になってからの物語は少々ありきたりの感じもしたが、アメリカの移民問題を扱った映画は数多くあるので仕方ないかも。アミールが作家になり、父の親友に会いに行ってからのドラマチックな展開がまた驚きだ。アフガニスタンで生まれ故郷を離れた青年の激動のドラマを丁寧に描いた秀作だ。2011.1
キューバのアフリカ遠征 Cuba: An African Odyssey (07年・フランス・エジプト)
ジハン・エル・ターリ監督☆アフリカ各国で、植民地支配からの独立を目指す動きが1960年代に活発化。コンゴ(旧ザイール)には、革命軍への応援にキューバからチェ・ゲバラ率いる黒人の兵士たちが派遣される。ゲバラは変装して入国。表向きは黒人のキューバ人司令官付きの医師として、コンゴ革命軍を指導するが…。
アフリカは、長い間、欧州の植民地として虐げられてきた。60年代から様々な指導者が出現し、独立運動は高まったが、独立にむけた戦いや内戦で、国々は荒廃していく。
その裏に、アメリカとソ連という超大国の利害関係が絡み、事態はさらに複雑化していく…。
このドキュメンタリーは、米ソ冷戦とアフリカの内戦に、キューバも深く関与していたことに注目し、当時を知る各国の関係者から生の声を引き出していく。
190分という長い作品で、前半は、ベルギー領だったコンゴに渡り、革命軍を指導したチェ・ゲバラとキューバ軍人にスポットを当て、後半は、ポルトガル領だったアンゴラとキューバ軍の遠征について描かれている。
この作品に登場するのは、コンゴ軍人、キューバ軍人、アンゴラ軍人、アメリカのCIA、ソ連の要人…と多岐にわたり、出てくる言葉も、フランス語、英語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語と多種多様。
話し手の役職の字幕を読むより先に、彼の言葉はスペイン語だからキューバ人だな、ポルトガル語だからアンゴラ人だな、と言語で判別できるぐらい、様々な言葉が飛び交っていて、ヒアリングの訓練になったぐらい。
あまりにも多くの組織がグチャグチャに絡み合っていて、一度に全部を理解はできなかったのだが、アフリカがいかに、欧米の国々のいいように分割され、争いの道具にされてきたか、ということだけはよくわかった。
この映画はアフリカ人女性が監督で、来場もしていたのだが、作り手の主張を声高に訴えるのではなく、様々な立場の人のリアルな言葉を、ニュートラルな立場で紹介していたのが、印象的だった。
お堅い旧ソ連やCIAの担当者なんか、よく話してくれたなあ、と驚いた一方で、キューバの兵士たちはとても気さくで、「アフリカに着いたら黒人ばっかりでびっくりしちゃったよ〜」なんて率直に話していたのも面白かった。
190分という長さで、後半は集中力が切れて爆睡してしまったけど、もう少しアフリカの知識があれば、また違った観点で見ることが出来たかもしれない。ぜひ、DVD化してほしい力作だ。2010.11 アフリカ映画祭にて
義兄弟 SECRET REUNION
チャン・フン監督、ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、チョン・グクァン出演☆国家情報員のイ・ハンギュは、北朝鮮のスパイ“影”を目の前で取り逃がし、警察をクビになる。
影と行動を共にしていた若きスパイのソン・ジウォンは、北からは裏切り者扱いされ、南からも指名手配されながら、6年もの間逃亡生活を続けていた。
ある日、しがない探偵になったハンギュはジウォンと出くわす。二人は、お互いに6年前に出会い顔を覚えていたことを隠しながら、一緒に探偵の仕事をはじめる。
南北の関係に翻弄されるスパイと刑事の話は今まで数多くみてきたが、この映画はかなりソフトな展開。正直物足りなさも感じたが、こういう夢物語があってもいいのかも。これは、北朝鮮の攻撃の前に作られた作品だし…。など現実と映画を関係づけて見ざるを得ないのがなんとも悲しいことです。今はまた韓国では、極右的過激な思想が広がりつつあるのだろうか…。平和的に北と南が統一することを願ってやまない。
キスキス,バンバン KISS KISS, BANG BANG
シェーン・ブラック監督、ロバート・ダウニー・Jr、ヴァル・キルマー、ミシェル・モナハン出演☆ニューヨークで泥棒稼業中のハリーは、ハリウッド映画のオーディション会場に逃げ込んだのをきっかけに、俳優としてLAへ呼ばれる。華々しいパーティー会場で、女優を夢みる幼なじみハーモニーと再会。私立探偵ペリーとともに、彼女の妹の死の謎を追いはじめる。
ライト感覚の犯罪コメディ。ダウニーJr.ってほんとダメ男役がよく似合う。荒れた私生活も肥やしにして、しっかりとオールラウンド・プレーヤーの道を歩んでいますね〜。昔からのファンとしてはうれしい限り。ヴァル・キルマーもすっかりオヤジになってしまい…。昔はもうしょっと華があったよなあ、なんて過去を振り返ってしまった。2010.10
郷愁は夢のなかで
岡村淳監督☆ブラジルのマットグロッソ州奥地の掘立小屋で、仙人のような暮らしをしている年老いた日本人がいると聞いた岡村監督は、昔、彼の隣人だったという日本人に案内してもらい老人を訪ねる。だが、彼の家はすでになく、老人はブラジル人の家に世話になっていた。監督はその老人がよく唱えていたという「浦島太郎」の物語を聞かせてほしい、と頼むが、老人は拒む。
戦前、叔父とともに鹿児島からブラジルへ渡り、成功することを夢見ながらも挫折し、落ちぶれてしまった男の一生を、一人の映画作家の目をとおして語られる入魂のドキュメンタリー。
移民100周年の時にブラジルに住んでいたということもあり、日系移民の苦労話はいろいろと聞いていたし、また、同じような物語なのだろう、と、正直、それほど期待していなかった。だが、このドキュメンタリーに描かれていたのは、老人の苦労話や波乱万丈の人生、というよくあるドラマだけではない、様々な要素が詰まっていて、155分という長さが気にならないぐらいに見応えのある作品に仕上がっていた。
大志を抱いてブラジルに渡ったものの理想どおりにいかなかった人なんて、星の数ほどいるし、そういう日系移民を大勢見てきたが、多くが、それなりに生きる場所を見つけ、ほどほどの暮らしを送っていた。だが、この映画に出てきた老人は、挫折から立ち直ることを拒み、一人自作の「浦島太郎」を吟ずる人生を選んだ。それは本意ではないのかもしれないし、単に不器用なだけなのかもしれない。でも、そんな生きざまを憐れむ気にはなれず、逆に潔ささえ感じた。
老人の落ちぶれ方に見かねた周囲は、日本に帰ることを勧め、彼も帰国を決心する。
だが、日本は自分が思い描いていた故郷とはあまりにも違い過ぎていた。まさに「浦島太郎」状態の帰国だった。そして、1年もしないうちに日本からブラジルへ舞い戻り、それからは仙人生活を続け、ブラジルの地で無縁仏となるのだ。
この映画でもっとも興味深かったのは、落ちぶれた老人に対するブラジルと日本の接し方の違いである。
老人は、掘立小屋を出たあとブラジル人家族と一緒に暮らしはじめるのだが、親戚でもない日本人のために、敷地内に離れを作ってやるそのやさしさには、思わず涙した。弱い立場の人にはとことんやさしいのがブラジル人の良さ。2年間で何度も目にしたことだが、ここまで親切にしてくれるブラジル人には、見習うべきことが多い。
「彼はいい人だったよ」と語るのはブラジル人特有のリップサービスかもしれないが、それでも、ブラジル人家族と暮らした数年と養老院での2年は、老人にとっては安らぎの日々だったと思いたい。でも、本当なら、その安らぎを、老人が愛した故郷で味あわせてあげたかったのだが…。
後半、老人がなぜ1年もしないうちに日本を離れてしまったのか、そのいきさつにも触れている。故郷・鹿児島で暮らす老人の家族の話は、人によって言うことが違うのだが、つまりは、金も持たず、惨めな姿で舞い戻ってきた厄介者の弟に、みんなが一様に戸惑った、ということなのだろう。
おそらく彼の親戚はみんなとてもいい人だろうし、ブラジル帰りの弟を嫌いだった訳ではないはずだ。でも、周りの目を気にする日本独特の閉鎖性が、彼を「ブラジル帰りの厄介者」に仕立てた気がしてならない。
この鹿児島でのインタビューは、先日見たばかりの小林政広監督の秀作「春との旅」の世界そのもの。仲代達矢演じる偏屈な老人が、面倒を見てくれる親戚を探して孫と旅をし、事ごとく弾き飛ばされてしまう、というフィクションだが、おそらくこのドキュメンタリーの老人も、同じような気持ちを味わい、1年もたたずにブラジルに戻っていったに違いない。
そういう意味で、この偏屈なブラジル日系移民の人生を描いたドキュメンタリーは、過去の悲劇だけではない、今の日本の姿もしっかりと投影されていた。2010.7 ジャック&ベティ ブラジル映画祭にて
危険な欲望 INTRUSO (スペイン)
ビセンテ・アランダ監督、ビクトリア・アブリル、イマノール・アリアス、アントニオ・バレロ出演☆歯科医の妻ルイーザは、かつて愛した男ラミロが変わり果てた姿で公園にいるのを見かけ、家に連れて帰る。夫とラミロは嫉妬の火花を散らすが、ルイーザはラミロを追い出さない。まもなくラミロが余命わずかな命だと知ったルイーザは、激しくラミロを求めるようになる。
中年の男女の再会と別れを情熱的に描いたラブ・ストーリー。日本映画ではあり得ない激しい愛情表現がエロ、とみなされたのか、邦題もパッケージもエロ一色。だが、役者も演出も魅力的で、見応え充分の一級品だ。ビクトリア・アブリルの美しさが光っていたが、子役二人も芸達者で超キュート。ラミロが子供たちと遊ぶシーンが微笑ましかった。2010.3
キャデラック・レコード CADILLAC RECORDS
ダーネル・マーティン監督、エイドリアン・ブロディ、ジェフリー・ライト、ビヨンセ・ノウルズ、コロンバス・ショート、モス・デフ出演☆50年代、ポーランド系ユダヤ人のレナード・チェスは、黒人ミュージシャンのライブハウスを経営。ミシシッピーから出てきたギタリスト、マディ・ウォーターズ、ハーモニカ奏者のリトル・ウォルターら、ブルース・バンドが注目を浴びるようになる。白人社会にも黒人音楽を広めようと画策するチェスは、白人の父を持つ歌手エタ・ジェイムスを見出す。
スコセッシ監督のブルース・ドキュメンタリーでもチェス・レコードのことは出てきた記憶があるので物語自体にそれほど発見はなかったのだが、単純にブルースを楽しむにはいい映画でした。2010.3
キサラギ
佐藤祐市監督、古沢良太脚本、小栗旬、ユースケ・サンタマリア、小出恵介、塚地武雅、香川照之ほか出演☆あるアイドル、キサラギユキの自殺から1年後。ファンサイトの管理人、家元は、サイト仲間とのオフ会を開く。はじめは、思い出話に花をさかせていたが、オダユージと名乗る男が、ユキは殺された、と言い出した。やがて、犯人探しから端を発し、5人の男たちとユキの関係が明らかになる。
一幕ものコメディ。脚本がよくできている。物語展開もスムーズだし、それぞれのキャラ、ユキとの関わりも「なるほどねえー」と思わせるほど、よくできている。映画オリジナルかと思ったら、原作は舞台とのこと。やっぱりね。
ただし、演出はTVドラマ調でがっかり。香川照之も出てるのだから、もうひと工夫してくれたら、傑作になっただろうに。フジテレビ的演出は久しぶりにみたので楽しめたのだが、ちょっと安っぽい感じ。おしい!2008.7
傷だらけの男たち 傷城 CONFESSION OF PAIN
アンドリュー・ラウ、アラン・マック監督、トニー・レオン、金城武、スー・チー、シュー・ジンレイ出演☆アル中気味の探偵ポンは、恋人の自殺をきっかけに職を辞した元刑事。ある日、元上司ヘイの義父で大富豪の男と執事が殺される事件が発生。まもなく犯人一味の死体が発見される。だが、ポンは第3の男がいると推理し、調査をはじめる。
第3の男の正体を観客には早々に明かし、「なぜ?」という疑問で最後までひっぱる、という構成のサスペンス。
トニー・レオンが、タダの悪党であるわけはないので、そこに深い理由があるのはわかるのだが、過去の明かし方が簡単すぎて、ちょっとがっかり。
サスペンス映画としては、悪くないストーリーだし、主演二人の魅力も十分に引き出せていたとは思うのだが、「インファナル・アフェア」のようなワクワク、ハラハラ感がほとんどなくて、TVの2時間ものサスペンスドラマを見ている気分になった。
ついスピード感を期待してしまった、とうのもあるのだが、やっぱり、トニー・レオンの過去の明かし方にもうひと工夫ほしかったきがする。
悪役のトニー・レオンって今まであまり記憶がないのだが、暗い過去を持つ冷たい雰囲気の刑事役も、様になっていた。
金城はいつもと変わらずいい男だけど、ちょっと飽きてきたかも。
見方は様々だろうけど、私的には、眼鏡の奥のトニー・レオンの冷たい視線にしびれました。2008.8
機動部隊 同袍
Wing-cheong Law監督、ジョニー・トー製作、サイモン・ヤム、マギー・シウ、ラム・シュー出演☆ある林の中に逃げた犯人をPTU(香港警察特殊機動部隊)は、手分けして捜索するが、霧の中で捜査は難航する。霧に覆われた林を舞台にした一幕物の捕物帳。
緊迫感&スピード感があり、お見事!の出来栄え、機内での鑑賞だったので集中できなかったのだが、それでも十二分に楽しめた。
PTUシリーズは、もっと日本でヒットしてもいいのになあ…。日本の刑事ドラマよりも、はるかに質が高いですよ。2009.7
キャンディ CANDY
ニール・アームフィールド監督、ヒース・レジャー、アビー・コーニッシュ、ジェフリー・ラッシュ出演☆アーチスト志望でヘロイン常用者のダンは、恋人のキャンディにせがまれ彼女にもドラッグを与えるようになる。ドラッグを買う金のため、キャンディが身体を売り始めるが、ダンは何もすることができない。やがて、精神を病んだキャンディは入院してしまう。「酒とバラの日々」の現代版。ヒースがオーストラリアで撮った作品ということで見てみたが、薬に溺れ落ちていく姿がリアルで、心が苦しくなりました。ヒースの死は事故ではあるのだが、薬を大量に飲まないと眠れない日々を送っていたのは事実だろうし…。映画としては、とくに特徴のない退屈な作品ではあるのだが、ヒース・レジャーという俳優の孤独感が投影されている気がしてならなかった。2010.1
孔雀 我が家の風景 PEACOCK
クー・チャンウェイ監督、チャン・チンチュー ファン・リー ルゥ・ユウライ フォアン・メイイン チャオ・イーウェイ出演☆1970年代。山間の村で暮らすカオ家の長女ウェイホンは、保育所の仕事よりも、落下傘部隊に憧れる多感で早熟な女子高生。だが、知的障害を持つ長男の世話や、仕事で忙しい両親は、彼女の思いを受け入れてはくれない。
気の弱い末っ子ウェイチャンは、奔放な姉や、障害者の兄のせいで恥ずかしい思いをしながらも、我慢する日々を送っていた。
田舎で暮らす3兄弟のそれぞれの半生を、やさしい視点で見つめた家族の物語。けっして裕福とは言えず、自由もない暮らしではあるのだが、彼らの人生に悲壮感はない。もがき苦しみながら、人生を受け入れ成長していく姿はすがすがしかった。みんな多かれ少なかれ自分の境遇をのろうことはあるが、そんな思春期を乗り越え、人は大人になっていくのだろう。3兄弟のささやかな人生に乾杯を送りたい。2010.3
クレイジー・ハート CRAZY HEART
スコット・クーパー監督、ジェフ・ブリッジス、マギー・ギレンホール、ロバート・デュヴァル、コリン・ファレル出演☆かつて人気を博したカントリー・シンガー、バッドは酒に溺れ、家族にも見捨てられ孤独な日々を送っている。地方巡業で何とか食いつないではいるが、歌うことに生きがいを見いだせないでいる。そんなある日、田舎の雑誌記者ジーンと知り合い、二人は急接近。ジーンの息子とバッドは意気投合し、いつしか家族のような絆が生まれるが、バッドは酒をやめられず…。
落ちぶれたカントリー・シンガーの再生物語を真摯に描いた作品。ジェフの存在感が際立っていて、アカデミー賞も納得。セクシー親父の代表格ジェフは、ほんと、いい年の取り方をしている。ストーリーはごくごくシンプルで、予定調和ではあるのだが、退屈に感じなかったのは、ひとえにジェフ・ブリッジスの魅力に尽きるだろう。かつての弟子で人気シンガーをコリン・ファレルが演じているのだが、脇役のコリンも出過ぎずにいい味を出している。そしてそして、忘れちゃならない旧友役のデュバルもいぶし銀の魅力全開。派手さはないが心に染みる秀作だ。カントリー人気は、日本になかなか伝わってこないが、アメリカでは固定ファンがいるようです。2010.6
クリーン CLEAN (フランスほか)
オリヴィエ・アサイヤス監督、マギー・チャン、ニック・ノルティ、ベアトリス・ダル出演☆落ち目のロック・スター、リーは、妻エミリーと些細なことから喧嘩した後、ドラッグの過剰摂取で急死してしまう。夫への罪悪感や自らのドラッグ中毒と向き合い、もがき苦しむエミリーは、周囲の冷たい視線から逃げるように、かつて暮らしたパリへ向かう。一方、リーの祖父母の元で幸せに暮らしていた一人息子の人生も一変しようとしていた…。
フランスのオリヴィエ・アサイヤス監督が、元妻マギー・チャンをヒロインにして撮った5年前の作品である。
カンヌで主演女優賞受賞、しかも日本でもよく知られた香港のスター女優の主演作。話題性は十分なのに、なぜこんなに公開がおくれたのか、という疑問は置いておくとして、正直、地味な作品ではある。
どん底の落ち目歌手が、三歩進んで二歩下がりながら、息子へのの愛に目覚めていくのだが、彼女の再生に、特別大きな障害はない。大成功をおさめた旧友に頭を下げに行き冷たく扱われたり、親戚の営む中華レストランで雇われたものの、そりが合わなかったり…。こういったことは、突然、夫を失った女が再生する際にありがちな壁である。
だが、そのリアルさが観客の共感を呼ぶ。あのマギー・チャンがお肌ボロボロ、やつれた顔ををさらけ出し、汗まみれになっているのだ。
比較的清楚な役が多かった彼女だけに、その汗かき感が新鮮で、彼女の体当たり演技に思わず引き込まれた。
また、エミリーをとりまく脇役も豪華である。とくに義父を演じた名優ニック・ノルティが素晴らしい。破天荒な息子夫婦の人生に口出しもせず、じっと見守りながら、孫の面倒を見ている父の、丸まった背中に、家族への愛や、息子を失った悲しみを感じ取れた。
日本でも芸能界の薬物汚染は話題だが、地に落ちた芸能人たちには安易に仕事復帰することなく、エミリーのようにもがきながら再生してほしいものである。2009.9
グラン・トリノ GRAN TORINO
クリント・イーストウッド監督・出演、ビー・ヴァン出演☆妻に先立たれたコワルスキーは、子供たちにも疎んじられるほどの偏屈老人。人種差別発言を繰り返し、となりに越してきたモン族の人々にも冷たく接する。ある日、隣人の少年タオが、不良に絡まれるのを目撃したコワルスキーは、銃を持ち出し、不良を追い払う。
元フォードの工員でクラシックなスポーツカー、グラン・トリノを愛し、朝鮮戦争に従軍した過去を持ち、アジア人や黒人を毛嫌いしている偏屈オヤジ。誰からも疎んじられる厄介者ではあるのだが、一本気な性格で正義感が強く、孤独であってもそれを他人に見せようとしない。過去の遺物になりつつある典型的な昔堅気オヤジをイーストウッド御大が魅力たっぷりに演じてくれていて、もうそれだけで大満足。
カウボーイや、ダーティーハリーを演じていた頃のイーストウッドのイメージを決して裏切らず、自らを演出し続ける御大には、ただただ脱帽です。
監督兼主演作品ではいつでも格好良すぎる役ってことが、気になった時代もあったけど、ここまで徹底してくれると気持ちがよいものだ。ずっとやり続けて欲しい。
たとえそれが単純でありきたりなドラマであろうが、これぞイーストウッド・スタイル!ラストの潔さは、いつもながらしびれました。コワルスキーのような最期を迎えるのは男のロマンなのかもしれません。2010.1
ぐるりのこと。
橋口亮輔監督、木村多江、リリー・フランキー、倍賞美津子、寺島進ほか出演☆90年代に美大卒のアルバイター、カナオと結婚した翔子は、待望の子供を授かるが、生まれてすぐに子供を亡くすという悲劇に見舞われる。法廷画家や絵画教室の講師をしながら生活を支えるカナオだが、妻・翔子は、子供を亡くしたショックから立ち直れない。
お気楽なバブル期から一転して、異常な犯罪や、不景気に見舞われた社会の変遷と、カナオ&翔子夫婦の生活をやさしい視点で描いた人間ドラマ。心の病と闘う翔子と、じっと耐えるカナオ。二人の関係性が繊細に描かれていて好感は持てたのだが、つい小栗監督の「死の棘」と比べてしまい、冷めた目で見てしまった。それよりも、本筋ではない、兄夫婦と姑の関係や、法廷でのやりとりが面白く見れた。
日本のガス・ヴァン・サント、橋口監督には、原点に戻って、ゲイ社会を鋭く描き続けてほしい。2010.1
グッド・バッド・ウィアード THE GOOD, THE BAD, THE WEIRD
キム・ジウン監督、ソン・ガンホ、チョン・ウソン、イ・ビョンホン出演☆舞台は日本占領下の満州。列車強盗のユンは、日本軍人のバッグからある地図を見つけ持ち去る。その地図を巡って、非情な殺し屋、ヤミ市場の強盗団、そして賞金ハンターらの、追いつ追われつの横取り合戦が始まる。
満州の広大な平原で、馬に乗った男たちが激しいドンパチを繰り広げるエンタメ作品。この手の単純明快なアクションものは大画面に限るわ〜、と、肩の力を抜いて楽しく見れた。ビョンホンはファンの期待を裏切る(?)汚いメイクで、悪役に徹し、ウソンは相変わらずの清潔さ。二人ともなかなかの熱演だったが、やっぱりこの映画の主役はソン・ガンホ。おバカなコソ泥役は最高でした。
ただし、エンディングのオチは、もう少し単純にしたほうが…。「グエムル」ほどのシニカルさもないのだから、エンディングだけ意味深にするのは違和感があった。2009.9
グッド・シェパード THE GOOD SHEPHERD
ロバート・デ・ニーロ監督・出演、フランシス・フォード・コッポラ製作総指揮、マット・デイモン、アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・タートゥーロ、ウィリアム・ハート、アレック・ボールドウィン出演☆40年代、軍人だった父を持つ大学生エドワードは、CIAのスパイ部員として引き抜かれ、諜報活動を開始。友人の妹と結婚するが、直後に海外勤務となる。
CIA諜報部員が最も活躍した時代を描いている。キャストも豪華、テーマも重厚、上映時間が長い、そして製作はコッポラ、ということで、かなり期待してしまたが…。重くて暗くて長い、という印象ばかりが残ってしまい、まったく話に引き込まれなかった。デニーロは役者に徹するべき、と実感。第2次世界大戦から冷戦まで、という激動の時代が舞台のスパイ物なのだから、もっとハラハラドキドキ感が欲しかった。家の前でスパイが仕事の話なんてするかね、と、突込みどころも多かった。残念!2010.1
クロッシング・ザ・ブリッジ CROSSING THE BRIDGE
ファティ・アキン監督☆西洋と東洋の文化が交錯するイスタンブールならではの音楽事情を追ったドキュメンタリー。
アラビア調の音楽だけにとどまらず、ロックやスラブなど、さまざまな音楽が溶け合っているイスタンブール。
馴染みのない音楽なので、途中で飽きてしまったけれど、奥は深そう。1度は訪れてみたい街の一つだ。参考CINEMA:「愛より強く」
グアンタナモ、僕達が見た真実 THE ROAD TO GUANTANAMO
マイケル・ウィンターボトム監督、アルファーン・ウスマーン出演☆友人の結婚式に出席するためパキスタンを訪れたパキスタン系イギリス人の3人の若者は、軽い気持ちでアフガ二スタンへ出かけ、テロリストとして拘束されてしまう。まもなくグアンタナモ収容所に送られた彼らは、テロリストとして決めつけられ、拷問を受け、自白を強要される日々を送ることになる。
やってもいないのに激しく追及され、「認めれば楽になる」と言われ、つい「やった」と認めてしまう、といった冤罪事件は世界中で起こっているが、この場所はアメリカなのかキューバなのかあいまいな無法地帯グアンタナモ収容所である。その扱いは尋常ではなく、家畜以下の扱いを受ける日々だ。こんなことがつい最近まで実際に行なわれていた、というのだからゾッとする。
国家権力は、罪のない一般市民を守ってくれるのかと思ったら大間違い。一歩間違えば、自分だって犯罪者扱いされるおそれだってあるのだ。
あまりにも平和な日本にいると実感はないのだが、海外旅行先でスパイ扱いされることだって、あり得ないとは言えない。この誤認逮捕とグアンタナモでの拷問は実際にあった話とのこと。フィクションであって欲しかったのだが、「真実」という言葉を重く受け止めた。2009.8 参考CINEMA:「イン・ディス・ワールド」「コード46」「24アワー・パーティー・ピープル」
消されたヘッドライン STATE OF PLAY
ケヴィン・マクドナルド監督、ラッセル・クロウ、ベン・アフレック、レイチェル・マクアダムス、ヘレン・ミレン出演☆若き議員コリンズのもとで働く女性職員ソニアが、地下鉄で事故死した。間もなくコリンズとソニアの不倫疑惑が浮上し、恋愛のもつれで自殺したと報道される。コリンズの親友である新聞記者カルは、ソニアの死の真相に迫る。
元々はイギリスのテレビシリーズだったということで、よくできた興味深いサスペンス映画だった。ただし、ちょっとてんこ盛りしすぎで、話の全容が把握できず。議員=悪者、新聞記者=善人、というありがちな展開にも少々がっかり。ラッセルとベン、二人のスターの共演が十二分に楽しめたから、まあいいか。2010.3
ケドマ 戦禍の起源 KEDMA
アモス・ギタイ監督、アンドレイ・カシュカール、エレナ・ヤラロヴァ出演☆第2次世界大戦終結後間もない48年。生き延びたユダヤ人たちは、地中海を渡ってパレスチナに移住する。だが、パレスチナ人からは疎んじられ、まもなく独立戦争に巻き込まれていく。
終始重い雰囲気で絶望感さえ漂う。イスラエル入植がすべての争いの発端、という視点で描かれていて、強いメッセージを感じた。クライマックスで、男が延々とユダヤ人の宿命を嘆くシーンは見応えあり。言葉すら通じないユダヤ人が各地から集まりイスラエルが作られた、という歴史すらよく知らなかったので、大変勉強になりました。2010.12
この自由な世界で IT'S A FREE WORLD...
ケン・ローチ監督、カーストン・ウェアリング、ジュリエット・エリス出演☆日雇い労働者の斡旋業を始めたシングルマザーのアンジーは、深刻な雇用状況を目の当たりにする。
世界から労働者が流れつく大都会ロンドンの最底辺層の人々の暮らしぶりをリアルに追った社会派ドラマ。ドキュメンタリー風の作りは好感が持てたのだが、立ち止まることをせず、終始いきり立つアンジーの姿を見て、気持ちがどんより暗くなった。
ロンドンの不法労働者に比べたら、日本はまだまだお気楽なのかも。でも、まもなく他人事ではない社会がやってくるという危機感もある。末恐ろしくて、目をそらしたくなった。ケン・ローチは、いつもぶれずに労働者の視点で映画を作っている監督なので、尊敬はしているのだが、あまりに作風が真面目すぎて疲れるときがある。余裕はなくても貧乏を笑い飛ばしたり、歌ったり飲んだりして、たまには休憩してもいいのでは? そんなこと言ってるから貧困や格差がなくならないんだ、と叱られそうですけど^^;2009.10
参考CINEMA:「麦の穂を揺らす風」
小人の饗宴 AUCH ZWERGE HABEN KLEIN ANGEFANGEN
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、ヘルムート・ドーリンク出演☆小人の暮らす施設で、館長を縛り上げた小人たちがバカ騒ぎする様を描いている。
見ていて気持ちが荒んでくる映画ではあるのだが、なぜ小人たちがケダモノのようになってしまったのか、を考えさせられた。人間というのは、抑圧から解き放たれた直後というのは、常軌を逸した行動にでるものなのだろう。ヘルツォークの70年代の映画。らしい映画ではあるのだが、あの延々と続く独特な笑い方に正直、頭が痛くなりました。2010.2
告発のとき IN THE VALLEY OF ELAH
ポール・ハギス監督、トミー・リー・ジョーンズ、シャーリーズ・セロン、スーザン・サランドン、ジョナサン・タッカー出演☆イラクに従軍した息子が行方不明になったとの知らせを受けた元軍人の父は、息子を探すため自ら捜査を始める。息子が戦場から送ってきた動画を手掛かりに、軍隊の仲間から聞き込みをはじめる。まもなく、無残に切り刻まれた焼死体が発見され、それが息子の遺体であることが判明する。
心優しく純粋だった青年たちが、イラクという過酷な戦場に送られたことで人間性まで変わってしまうという辛い現実。昔堅気の元軍人が、息子の死を通じて戦争のおそろしさ、惨さに向き合う社会派サスペンス。
おぞましい人間の集団心理。平和な暮らしの中では想像もできないことだが、人はいざとなるといくらでも残酷になれるものなのだろう。この映画も実話に基づいているとのこと。「実録・連合赤軍」と通じるものを感じた。2009.8
ゴーン・ベイビー・ゴーン GONE BABY GONE
ベン・アフレック監督、デニス・レヘイン原作、ケイシー・アフレック、ミシェル・モナハン、モーガン・フリーマン、エド・ハリス、エイミー・ライアン出演☆ボストンの住宅街で4歳の少女の誘拐事件が発生した。義理の姉から捜査を依頼された探偵のパトリックとアンジーは、刑事たちとともに捜査を始める。少女の母は、薬中で、毎日のように幼子を置いてバーに入り浸っているアバズレ女で、さらに、犯罪組織の金を盗んだことが判明する。
豪華キャストにまず驚き。ベンは人望があるのでしょう。また「ミスティック・リバー」の原作者の作品ということで、シビアで重い作品に仕上がっていた。身勝手な大人の犠牲者はいつも子供たち…。やり切れません…。
ストーリー展開に斬新さは感じられず、役者の知名度から先の展開が読めてしまったのは残念だが、それでも丁寧に作られていたし、監督の思い入れが伝わってきた。
この映画が日本未公開というのは残念である。ストーリーは深刻で見終わった後、気持が暗くなるが、オールスター・キャストに近い豪華さだし、なかなかの力作なのに…。しかも、あばずれ母を演じたエイミー・ライアンは、この作品で08年アカデミー賞助演女優賞にノミネートされている。
二年いない間に、日本の映画界はすっかりTVドラマ・レベルの邦画が席巻し、良質の洋画がないがしろにされるようになってしまったのですね。2009.7
コッポラの胡蝶の夢 Youth Without Youth
フランシス・フォード・コッポラ監督・製作・脚本、ティム・ロス、アレクサンドラ・マリア・ララ、ブルーノ・ガンツ出演☆ナチスの陰に怯える1940年代のルーマニアで、年老いた言語学者ドミニクが落雷に遭う。
全身火傷を追ったドミニクの体は、異常な早さで回復し、若い体と頭脳を手にする。学会に返り咲いたドミニクは、古代人の魂が宿る霊媒体質の女性の研究を続けるうち、彼女を愛するようになる。
古代言語にはまったく暗いので(明るい人はそういないでしょうが)、ドミニクの研究にいま一つ興味が持てず。
それより、なぜ、ドミニクが若返ったのか、ばかりが気になってしまった。
コッポラ監督はやっぱり超人?!難解な物語をもう少し噛み砕いてくれれば、凡人の私でも楽しめたかも…。残念!2008.8
湖中の女 THE LADY IN THE LAKE (1946年・米)
ロバート・モンゴメリー監督・出演、オードリー・トッター出演
☆探偵フィリップ・マーロウの元に、失踪した社長夫人を探して欲しいとの依頼が入った。
依頼主でもある社長の愛人とマーロウは急接近し…。40年代の作品とは思えないほど実験的なカメラワークが面白い。
新しい試みをしてきた映画作家があってこそ、今の映画があるのでしょう。敬服します。2008.3
ゴヤ GOYA
カルロス・サウラ監督、フランシスコ・ラバル、マリベル・ベルドゥ出演☆宮廷画家ゴヤの半生を過去と現在を、ゴヤの独白を中心に描いたアート作品。何が何だかよくわからなかった、というのが正直な感想。でもゴヤっていう画家は天才だったのでしょう。ドラマ性を排除した作りはサウラ監督らしかったです。2010.1
国境の南 SOUTH OF THE BORDER
オリバー・ストーン監督、ウーゴ・チャベス、ルラ・ダ・シルバ、エボ・モラレス出演☆熱血の反米監督、オリバー・ストーンが、米国で危険人物視されているベネズエラのチャベス大統領を初め、ボリビア初の先住民族出身大統領となったエボ・モラレス、労働運動の旗手から大統領の座に登りつめたブラジルのルラ、反新自由主義政策をとるアルゼンチンの女性大統領クリスティーナ・キルチネルなどを訪ね、インタビューして回る政治ドキュメンタリー。
……と、聞くと、お堅い作品と思われるだろうが、テイストはマイケル・ムーア作品にかなり近くて、米国のおちょくり方が半端じゃない。
冒頭でいきなり、アメリカの女性キャスターが、チャベスを非難するシーンから始まるのだが、ここでキャスターは、南米の大統領がコカインの原料コカの葉を噛んでいると言おうとして「チャベスはいつも”ココ”を食べてる」と言い間違え。
「“ココ”を噛んでる」「“ココ”・ペーストも食べるのよっ」と“ココ”を連呼し、共演者に指摘されてもまた間違える始末。見ていた私は、もう笑いをこらえるのに必死。周りの観客は真剣に見ているから、余計に笑いが止まらず…。お下品でスミマセン…。
(ブラジルだったら会場中が大爆笑だったはず。ココはココナッツの意味なのだが、後ろの“コ”にアクセントが付くと、ウンがつくものになります。スペイン語圏では知らないけど、同じような意味があるかも?!)
もちろん、中身は真面目な政治ドキュメンタリー。
南米の経済がいかに米国の都合のいいようにコントロールされていたのか言及したり、IMFの実態にも迫っていたりして、見応え十分なのだが、いきなりおバカな言い間違えで笑かしてもらったものだから、私はすっかり肩の力が抜け、「チャベスって若いころはイケメンだったのね〜」とか「この間、軟禁されていたエクアドルのコレア大統領も男前だわ〜」なんて、映画の内容そっちのけで、不謹慎にもはしゃいでしまった。
南米のトップ達の多くが米国に尻尾を振らず、堂々としている様が頼もしくて、「VIVA! ラテンアメリカ!」と叫びたくなった。
それに比べて我が日本は…。人間も国もちっちゃいよなあ。
迷走中の大国米国や、やたらと強気な中国にすり寄るよりも、イケイケの南米のほうが可能性があるのに…。日本人にも、中南米へのマイナス・イメージを払拭してもらい、ラテンアメリカの本当の姿、南米の人々の素晴らしさをもっと知って欲しい、と、切に願います。2010.10 ラテンビート映画祭にて
こわれゆく世界の中で BREAKING AND ENTERING
アンソニー・ミンゲラ監督、ジュード・ロウ、ジュリエット・ビノシュ、ロビン・ライト・ペン出演☆建築家のウィルは治安の悪い地区にオフィスを開くが、強盗に入られコンピュータを奪われてしまう。オフィスの監視のため、毎夜出かけるようになったウィルに、妻ウィルは、冷たい視線を投げかける。
ある晩、オフィスに侵入しようとした少年を追いかけたウィルは、彼の家を突き止める。ウィルは、ボスニア出身の少年の母親に安らぎを求め、いつしか愛し合うようになる。
ミンゲラ監督作品らしいしっとりとした大人の愛の物語だった。ミンゲラ監督の遺作、といってもいいだろう。妻との関係も表面的には上手くいっているし、妻の娘も慕ってくれてはいる。でも、心と心が通じているわけではない。微妙な寂しさを感じている夫役をジュードが好演していた。だからといって、すぐに不倫、という展開は「男の身勝手さ」ではあるのだが、最近はそういう男の弱さも受け入れられるようになってきた。
この男、息子の犯罪を知りながら、それを告げずに母親に近づく最低な奴なのだが、言わないのも優しさ、なんだろうし…。でも、真実を知ったときの母はキツイよなあ。
人間同士が上手につながりあうことの難しさを感じた。ミンゲラ監督作品は正直苦手だったのだが、人間の弱さやずるさを上品に描いている作品が多い。今、見直せば新たな発見がありそう。監督の早すぎる死が悔やまれる。2010.10
コロンブス 永遠の海
マヌエル・デ・オリベイラ監督・出演☆新大陸を発見したコロンブスに魅せられ、彼の人生を生涯追い続けた医師マヌエルが、コロンブスゆかりの地を旅しながら、古き時代に想いを馳せる。晩年のマヌエル役をオリヴェイラ監督とその妻が演じている。ドキュメンタリー・タッチの紀行映画で、ドラマ性はないが、ポルトガルの歴史のある町に触れることができ、気持いいい時間を過ごせた。ポルトガルにあるCUBAという町を訪れてみたくなりました。2010.7
コントロール CONTROL
アントン・コービン監督、サム・ライリー、サマンサ・モートン、アレクサンドラ・マリア・ララ出演☆1970年代、アマチュアのパンクバンドのボーカルとして活動しながら、職安で働き妻を養うイアン。一見、平穏な生活を送っていたが、彼の繊細な心は日々揺れていた。彼のバンド「ジョイ・ディビジョン」は次第に知られるようになり、若者の心を捕えて行く。ある日、イアンは癲癇を発病。いつ来るかわからない発作に怯える毎日を送るようになる。そんなとき、ベルギー大使館で働くアニークと出会い、恋に落ちる。
あまりに繊細が故に死を選んでしまった実在の若きロッカーをサム・ライリーが魅力たっぷりに演じていた。モノクロ映像のカッコよさとサムの美しさ、そして「ジョイ・ディビジョン」の音楽がぴったりとはまっていて引き込まれた。その繊細さや破滅的な生き方は尾崎豊に通じるものを感じた。妻役がサマンサ・モートンとうのが落ち着き過ぎて違和感はあったが、浮気される妻役なので仕方ないか。とにもかくにもサム・ライリーがステキでした。2010.7
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【サ】
サイボーグでも大丈夫 I AM A CYBORG, BUT THAT'S OK
パク・チャヌク監督、チョン・ジフン(ピ)、イム・スジョン出演☆精神病院の患者の一人ヨングンは、自分はサイボーグだと信じ、食事をしようとしない。職員たちは、無理やり食べさせようとするが、すべて吐いてしまう。そんなヨングンを心配した青年イルスンは、ヨングンの閉ざされた心の扉を開こうとする。
舞台は精神病院だが、ポップかつシュールで笑いを誘う映画である。ただ、ヨングンの不思議キャラが延々と続くので、見ているこちら側まで、頭の中が混乱してきて、何がなんだかわからなくなってしまった。パク・チャヌク監督の新たな側面を発見できたが、正直、今までの作品のほうが私好み。2時間ぶっ通しの不思議世界は疲れた…。2009.12 参考CINEMA:「オールド・ボーイ」「親切なクムジャさん」「復讐者に憐れみを」「JSA」「サースト」
サルバドールの朝 SALVADOR
マヌエル・ウエルガ監督、ダニエル・ブリュール、トリスタン・ウヨア出演☆1970年代、フランコ独裁政権下のスペインで、学生運動に身を投じたサルバドールは、警察との銃撃戦で負傷し、逮捕される。刑事が撃たれて死んだことで、警察側はサルバドールの罪を激しく追及。弁護士や家族の訴えも取り下げられ、死刑を宣告される。
若い政治活動家が死刑になったという実話を基にした社会派ドラマ。
フランコ政権や反政府活動そのものではなく、死刑を宣告されながらも、希望を失わない監獄の青年の姿を静かに見つめた作品で、死刑制度そのものの是非について、考えさせられた。2010.1
最後の人 DER LETZTE MANN (1924年・ドイツ)
F・W・ムルナウ監督、 エミール・ヤニングス出演☆ホテルの老ドアマンは毎日、威厳のある制服を着て家を出る。彼はホテルの仕事に誇りを持っていて、近所でも憧れの的だった。しかし、そんなドアマンに悲劇が訪れる。老齢のため、トイレのボーイに降格されてしまったのだ。男は、威厳を保つため、ドアマンの制服を持ち出し、出勤の途中で着替える偽りの生活を続けるが…。
仕事に誇りを持ってきた男が、その誇りを捨てきれずに偽りの生活を続けることで起こった悲劇を、サイレントで見事に表現していた。
役者の演技がすっばらしい。おそらく当時の有名な俳優なのでしょう。
とくに、支配人からの通告を読む瞬間、メガネをまさぐるシーンが気に入った。
ドイツ人と日本人は、よく似ていると言われるが、仕事熱心で見栄っ張りなところ、制服好きなど、共通点が多い。現代の日本に置きかえても、十分ドラマになりうるテーマである。
ムルナウの作品ははじめて見たが、ほかの作品も機会があれば見てみたい。2008.3
サラエボの花 GRBAVICA: THE LAND OF MY DREAMS
ヤスミラ・ジュバニッチ監督、ミリャナ・カラノビッチ、ルナ・ミヨビッチ、レオン・ルチェフ、ケナン・チャティチ出演☆ボスニア・ヘルツェゴヴィナの首都サラエボで暮らすエスマには12歳の娘サラがいる。
娘の修学旅行代を稼ぐため、ナイトクラブで働き始めたエスマは、ときどき訪れる客に激しい嫌悪感を覚え、嘔吐を繰り返す。
一方、はみ出しっ子のサラは、自分の父親について疑問を頂きはじめていた。
戦争で深い傷を追った母、そして子供たち。
平和な日々が戻ったように見えるサラエボだが、今でも後遺症に苦しみ続ける人は大勢いるのだろう。
戦争のトラウマを持った人々が集まる会合に出ても、体験を話そうとせず、手当だけを受けとるエスマ。
辛い過去を忘れることは簡単なことではない。それは体験した者だけにしかわからないこと。
娘に激しく詰め寄られ、発狂したようにすべてをぶちまけるエスマの姿は、心にずっしりと重く響いてきてた。
悲しい物語ではあるのだが、母子それぞれに恋の話もある。
現実を健気に生きようとする前向きな姿はすがすがしく、明るい未来も感じさせる映画だった。
いつになるかわからないけど、サラエボにはぜひ一度訪れてみたい。2008.8
3時10分、決断のとき 3:10 TO YUMA
ジェームズ・マンゴールド監督、ラッセル・クロウ、クリスチャン・ベイル、ローガン・ラーマン、ベン・フォスター、ピーター・フォンダ出演☆舞台は南北戦争後のアリゾナ。借金を抱えた農民ダンは、悪名高い強盗団の略奪現場に居合わせ、馬を盗まれる。間もなく、強盗団のボス、ベン・ウェイドが捕まり、3日後の3時10分発、ユマ行きの列車で移送されることになった。ダンは報酬目当てに護送役に名乗りを上げる。だが、道中で、強盗団一味と激しい銃撃戦が繰り広げられる。
50年代に作られた作品のリメイクで、追いつ追われつの逃走の間に、囚人と護送役の男の間に友情が芽生えるシンプルな西部劇。広い荒野を舞台にした男と男の友情もの、というだけで生唾ものなのだが、主役の二人が魅力的で、うっとりでした。傷を負った敵役の老人、存在感あるなあ、と思ったらピーター・フォンダだったとは。さすが、老けても味があります。女がほとんど出てこない、“男気”が詰まった西部劇でした。2009.9
参考CINEA:「17歳のカルテ」「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」
サベイランス SURVEILLANCE
ジェニファー・リンチ監督、デヴィッド・リンチ製作総指揮、ジュリア・オーモンド、ビル・プルマン出演☆田舎町で起きた男女二人組の猟奇殺人事件を追うFBI捜査官のエリザベスとサム。2人は、家族を殺された少女、現場に出くわした悪徳警官、彼氏を殺されたジャンキー女から事情を聴く。
リンチ父娘の映画、ということで、怪しげかつ滑稽な映画を期待してみたのだが、ただ後味が悪いだけのサスペンスだった。ただし犯人を目撃したと思われる少女の演技には脱帽。
リンチ作品は、本筋から離れたところに面白味があるのが魅力なのだが…。まあ、これはあくまで娘の作品なので仕方ないのかも。2010.2
サンキュー・スモーキングTHANK YOU FOR SMOKING
ジェイソン・ライトマン監督、アーロン・エッカート、マリア・ベロ、デヴィッド・ケックナー出演☆タバコ研究所の敏腕PRマン、ニックは、世の中から冷たい視線を浴びながらも、お得意の話術で商売敵を一掃。離婚した妻が育てる息子は、そんな父をヒーロー視していたが…。二枚目半男エッカートは、ダーク・ヒーロー役にぴったり。もっとハチャメチャだったら、私好みの作品だったのだが、少々大人し目の社会派コメディ、という感じ。印象薄し。2009.10 参考CINEMA : 「ジュノ」
サブウェイ123激突 THE TAKING OF PELHAM 123
トニー・スコット監督、デンゼル・ワシントン、ジョン・トラヴォルタ、ジョン・タートゥーロ、ルイス・ガスマン出演☆NYの地下鉄運行指令室で働くガーバーは、地下鉄ジャックした犯人からの電話を受ける。巧みな話術で犯人から心理的に追い詰められ、不正収賄を告白させられたガーバーは、さらに、身代金受け渡し人として指名されてしまう。
最近は、どんでん返しや裏があるサスペンスが多いのだが、犯人と地下鉄職員の絶妙なやり取りが見応えのある単純なハイジャックもので、肩肘はらずに楽しめた。デンゼルは太っちゃって走る演技も大変そう。イケメン黒人俳優の走りだったのに…。時の流れを感じました。2010.3
サンシャイン・クリーニング SUNSHINE CLEANING
クリスティン・ジェフズ監督、エイミー・アダムス、エミリー・ブラント、ジェイソン・スペヴァック、アラン・アーキン出演☆高校時代はスターだったローズは、今や父親のいない子供を抱え、ハウスキーパーで生計を立てている。妹のノラもバイトをさぼってクビになり、父親も当たりそうもない仕事にばかり手を出す始末。
そんなある日、事件や事故現場を清掃する専門員がいることをしったローズは、妹を誘い、見よう見まねで特殊清掃の仕事を始める。
人が嫌がる汚い仕事は金になるのはどこの世界も一緒。血や肉片が飛び散った凄惨な現場の清掃員なんてやりたくないなあ、というのが率直な感想ではあるのだが、そんな仕事にやりがいを見つけたローズはエライ!そんなローズのダメダメ家族も微笑ましくて、心が温まりました。2010.3
最終爆笑計画 SPANISH MOVIE
ハビエル・ルイス・カルデラ監督、アレクサンドラ・ヒメネス、シルヴィア・アブリル出演☆スペインやメキシコのヒット作品のパロディ作品。元ネタとなった映画はほぼ見ていたので、理解はできたが…。パロディ映画は1時間か30分で飽きてしまうのよねえ。2010.11
ザ・シャウト さまよえる幻響 The Shout(1978年)
イエジー・スコリモフスキ監督、ジェレミー・トーマス製作、スザンナ・ヨーク、ジョン・ハート、ティム・カリー、アラン・ベイツ出演☆精神病院のクリケット大会で、若い男は奇妙な患者と知り合う。患者は、叫び声で世界を牛耳る男の話を語りはじめる。
特殊な力を持った男が、ある夫婦に近づき、彼らの生活をじわりじわりと浸食していく過程がお見事。なんともいえない不気味な雰囲気を持った映画である。
70年代のヨーロッパ発、ということで実験的要素も含んではいるが、難解な作品ではない。物語はシンプルだが奇抜。じっくりと人間を描く手法は新作「エッセンシャル・キリング」にも通じるものあり。DVDより映画館で見たかった! 2010.12
雑魚 AGALLAS/GUTS (スペイン)
アンドレス・ルケほか監督、カルロス・ゴメス、セルソ・ブガーリョ、ウーゴ・シルバ出演☆チンピラのセバスチャンは、出所後、叔母の金を奪って地方へ逃げる。ある町で豪邸で暮らす裏ビジネスの大物ラモンの電話を偶然聞いたセバスチャンは、ラモンに近づき、側近を殺害。ラモンの右腕として働きはじめるが…。
裏社会のドロドロした人間関係が面白く描かれてはいたが、香港ノワールものと比べるとまだまだ、という感じ。セバスチャンとラモンを演じた二人はスペインの有名スターらしいので、現地ではヒットしたのだろうけど、ありきたり感あり。2010.12
さらばベルリン
スティーブン・ソダーバーグ監督、ジョージ・クルーニー、ケイト・ブランシェット、トビー・マグワイア、ボー・ブリッジズ出演☆ポツダム会談の取材でベルリンにやって来たアメリカ人ジャーナリストは、かつて愛した女性レーナと再会。だが、彼女は彼の運転手と恋仲にあった。豪華キャスト&監督はソダーバーグなのに、まったく印象に残らない退屈な映画だった。モノクロ映像は洒落ていたが…。残念!2010.6
しあわせの隠れ場所 THE BLIND SIDE
ジョン・リー・ハンコック監督、サンドラ・ブロック、クィントン・アーロン、ティム・マッグロウ、キャシー・ベイツ出演☆元バスケット界のスターを夫に持つリー・アンは、娘と同じ学校に通う黒人の青年マイケルが家を追われてさ迷っているところに遭遇。家に連れて帰る。ヤク中の母に育てられたマイケルは、身体の大きさを買われて名門高校へ編入したものの、周囲と溶け込めずにいた。リー・アンは自分の子供たちとマイケルを同等に扱い、彼に愛情を注ぐようになる。ある交通事故をきっかけに、マイケルの優れた保護本能を見抜いたリー・アンはアメフト部のコーチへ進言。マイケルはメキメキとアメフト選手として頭角を現しはじめる。
気が強いけど正義感が強くて自分の信じたことに突き進むリー・アンをサンドラが好演。とても心に染みる人間ドラマに仕上がっていた。実話だし、感動のストーリーだとは思うのだが、幸せになったのはリー・アンのファミリーと、マイケルだけ?ヤク中の母とかレストランで働く実の兄はどうなっちゃったの?と、気になって仕方なかった。
恵まれない子供を養子にするのが、金持ちの証でもあるようなお国柄なので、正直、リー・アンのとった行動にはそれほど感激もせず。マイケルの成功は彼の人柄と才能によるものが大きかったのだと思います。2010.10
10億分の1の男 デラックス版 INTACTO (スペイン)
ファン・カルロス・フレスナディージョ監督、レオナルド・スバラグリア、マックス・フォン・シドー、ユウセビオ・ポンセラ、モニカ・ロペス、アントニオ・デチェント出演☆触れることで人の運を奪う能力を持ったフェデリコは、命の恩人で雇い主のサムにと袂をわかち、サムに能力を吸い取られてしまう。7年後、飛行機の墜落事故でただ一人生き残ったトマスは、銀行強盗犯で逃亡中の身だった。病院で軟禁中だったトマスのもとへフェデリコが現れ、運だめしのゲームに誘う。
豪華キャストのサイコ・サスペンス。「命の相続人」は触れることで人の病を治す男の話だったが、これは触れることで人の運を奪う男の話。スペイン人はこの手の超能力ものが好きなのでしょうか。面白い話だとは思うけど、今一つ引き込まれず。2011.1 DVDにて
白いリボン THE WHITE RIBBON
ミヒャエル・ハネケ監督、クリスティアン・フリーデル、レオニー・ベネシュ、ウルリッヒ・トゥクール出演☆20世紀前半の北ドイツの小さな村で、有力者の医者が落馬して大けがを負う。誰かが仕掛けた針金が原因だった。以来、次々に起こる事件に村人たちは振り回される。息子をイタズラされた権力者の男爵は、村人たちの集会で、人々に罵声を浴びせる。
カンヌでパルムドール、Gグローブで外国語映画賞、と2009年の各賞総なめの巨匠ハネケ監督の最新作である。非エンタメ作品を追いかける映画ファンとしては当然見ておかねばならない話題作だが、正直、劇場に向かう足は重かった。ハネケ監督作品は本音を言うと苦手な部類なのだ。
案の定、悪い予感が的中し、その淡々としたモノクロ映像は私を深い眠りに誘い、目覚めた後も、重苦しいテーマと灰色の世界に気持ちがどんよりと沈み込んでしまった。
見ていて苦痛とまでは言わない。たしかにいろいろと考えさせられる深い映画ではある。
20世紀初頭のドイツの閉鎖的な村で暮らす人々は、一様に無表情。高慢で暴力的な男たちから女たちは蔑まれ、子供たちはそんな男たちを手本に育っていく。
映画の後半、第1次大戦の開始が告げられ、映画は数々の謎を残したまま、エンディングを迎える。感情をなくし人々を恐怖に陥れる子供たちは、20年後にはナチスの将校となってユダヤ人迫害に手を染めていくのだろう。そんなことを暗示させるような最後にゾッとした。2011.1
シビル・ガン/楽園をください RIDE WITH THE DEVIL
アン・リー監督、トビー・マグワイア、スキート・ウールリッチ、ジョナサン・リス=マイヤーズ出演☆南北戦争時代、ドイツ系移民の青年は、南軍派のゲリラ部隊に入隊する。だが、ドイツ系というだけで周囲の目は冷たく…。アン・リー監督作のわりに、人間関係がとっちらかり気味で、盛り上がりに欠ける映画でした。2010.4
灼熱の肌 MENTIRAS Y GORDAS (スペイン)
アルフォンソ・アルバセテ監督、アナ・デ・アルマス、マリオ・カサス、ヨン・ゴンサレス、アナ・マリア・ポルボローサ出演☆スペインの若者たちの無軌道な性生活を赤裸々に描いている。美男美女だらけで、誰が誰だか区別がつかず。スペインのTVで人気の俳優陣が出演しているらしく、本国ではヒットしたそうです。ラテンビート映画祭では「セックスとパーティーと嘘」という邦題で上映されました。2010.5
菖蒲 TATARAK
アンジェイ・ワイダ監督☆舞台はワルシャワの郊外の田舎町。マルタは、医者の夫と二人、静かに暮らしている。実はマルタは肺がんで余命わずかなのだが、それを夫は告げられずにいた。ある日、マルタは一人佇む青年ボグシに声をかける。
美しいマルタにはつねに死の影がつきまとう。肺がんに侵されている、二人の愛する息子は戦争で死んだらしい。そして、死を予感させる菖蒲の臭い…。そんなマルタを演じる女優自身が、死に至る病に伏す夫を抱えている。女優の独白と役の中のマルタの人生をオーバーラップさせることで、人の死との向き合い方を静かに描いている。少々わかりにくい設定ではあるが、大人向けの憂いのある映画だった。ワイダ監督作品としてはめずらしいテイストで少々意外ではあったが、のどかな川の景色が印象に残るポエムのような作品だった。2010.6 EUフィルムデーズにて 参考CINEMA:「カティンの森」
シングルマン A SINGLE MAN
トム・フォード監督、コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、マシュー・グード出演☆舞台は1960年代のロサンゼルス。大学教授のジョージは、16年間の愛人だったジムを交通事故でなくし、失意の毎日を送っていた。希望を失ったジョージは、身辺を整理し、ピストルの弾を購入。唯一心をさらけ出せる旧友チャーリーと共に酔いつぶれる。
家に戻ったジョージは、遺書を書き、ピストルに手をやるが死にきれない。酒の力を借りに酒場へ行くと、そこで教え子と出くわす。
愛する人を失い絶望した男が、死を決意した一日を追った作品。苦悩するジョージを演じたコリン・ファースの演技が絶賛されていたが、期待通りの名演技。さらに台詞の一つ一つが洗練されていて、抑えた演出もお見事。
60年代始めというと、まだまだ同性愛がオープンではなかった時代なので、大学教授の“秘密”や苦悩もリアルで、苦しみが画面からジワジワと伝わってきた。
コリン・ファースという俳優は演じる役によって七変化するし、脇役が多かったので、今まであまり気に留めていなかったのだが、この作品では彼の演技力が見事に開花していた。もともと実力派だったのだろうけど、今まで作品に恵まれていなかったのかも。
イギリスなまりのジュリアン・ムーアも魅力的。監督が名ファッション・デザイナーということで、衣装もステキだった。地味だけど見応えあり。大人のための映画を久しぶりに堪能できた。2010.10
シリアの花嫁 THE SYRIAN BRIDE
エラン・リクリス監督、ヒアム・アッバス、マクラム・J・フーリ出演☆舞台はイスラエル占領下のゴラン高原。かつてはシリアだったこの村の人々は、イスラエルにいながら心はシリアにある。反イスラエル政府運動家の父を持つ次女と、シリアのコメディ俳優との縁談が決まり、結婚式には、各地に散らばっていた家族が集まってくる。
だが、父は国境区域へ入れば逮捕する、と脅される。長女は、父のために警察に掛け合いにいくが…。
イスラエル、というとパレスチナとの関係の映画が多いのだが、シリアとも複雑な関係があったということを、この映画をみて初めて知った。まったく、イスラエルっていう国は…、なんだけど、自分の土地を追われたユダヤ人の気持もわからなくはないしなあ。あとからやってきたんだから、国境なんて作らず、みんなが自由に行き来できるようにすればいいのに…。なんていうのは理想論なのは百も承知。それでも、この映画のように、国境をはさんで、印がどうのこうの…と、振りまわされる花嫁を見ていると、国や民族にこだわる人々が滑稽に思えて仕方ない。気丈な長女を演じたヒアムの美しさはこの作品でもピカ一。彼女が主演の「レモン・ツリー」、日本での公開を希望します!2010.3
ジャマイカ 楽園の真実 LIFE AND DEBT
ステファニー・ブラック監督☆欧米人向けのリゾート地、もしくはレゲエの聖地として親しまれているジャマイカで暮らす労働者たちの実態に鋭く迫ったドキュメンタリー。
1962年にイギリスの植民地支配から独立した後も経済的に自立してるとはいえないジャマイカ。自国の農業を成長させる政策も阻まれ、実態は英米の植民地状態。労働者たちの訴えは切実で、ジャマイカに対するイメージががらりと変わった。鎖国状態にある隣国キューバは、モノ不足ではあるけれども、大国に踏み荒らされていないという誇りがある。キューバのほうがまだましかも、と思ってしまった。
映画では、アンチ・グローバリゼーションを訴えているが、でも難しいよなあ、というのが率直な感想。欧米が自滅でもしない限り、世界は変わらないのかもしれない。2009.11
ジェシー・ジェームズの暗殺 THE ASSASSINATION OF JESSE JAMES BY THE COWARD ROBERT FORD
アンドリュー・ドミニク監督、ブラッド・ピット、ケイシー・アフレック、サム・ロックウェル出演☆南北戦争後、南部の山賊ジェシー・ジェームズ一味は、人々から恐れられる一方、貧しい民からは英雄視されていた。そんなジェシーに憧れていた青年ロバート・フォードは、ジェシーに付きまとい行動を共にするようになる。「明日に向かって撃て」のような明るさを期待したのだが、まったく違って、終始重苦しい雰囲気で、正直見ていて疲れた。だが、ジェシーに憧れながらも、嫉妬心を抱くロバート・フォードの心理描写はお見事。ケイシーの演技がとにかく素晴らしい。英雄になり損ねた地味な男の一生には、共感するものあり。前半の強盗シーンをもうちょっとテンポよく軽快に描いてくれたら、重苦しい後半がもっと生きてきたのになあ。惜しい!2009.8
ジプシー・キャラバン WHEN THE ROAD BENDS: TALES OF A GYPSY CARAVAN
ジャスミン・デラル監督、タラフ・ドゥ・ハイドゥークス、エスマ出演☆スペイン、ルーマニア、マケドニア、インドで活躍するロマ(ジプシー)のミュージシャンを一堂に集めた北米ツアーの音楽ドキュメンタリー。自分たちの文化に誇りを持ち、逞しく生きているロマの人々に、ただただ圧倒されました。2009.8
シークレット・サンシャイン SECRET SUNSHINE
イ・チャンドン監督、チョン・ドヨン、ソン・ガンホ出演☆小さな息子を連れ、亡き夫の故郷・密陽に引っ越してきたピアノ教師のシネは、気のいいジョンチャンという男に思いを寄せられるが、心を開こうとしない。ある日、最愛の息子が誘拐され殺されるという事件が起こる。絶望したシネは、隣人の勧めでキリスト教の信者となるが…。
悲劇のヒロインの絶望と再生の物語である。彼女の心の痛みをえぐり出す韓国映画らしい“しつこさ”がいい。見ている側が辛くなるほど、執拗に女の苦悩を描いている。
そして、そんな女に不器用に接する男の戸惑い。この主役二人の演技と演出が最高にうまい。
動揺と平静を繰り返す女が、少しずつ、3歩進んで2歩下がりながら、自分を取り戻していく。その姿がリアルである。イ・チャンドン監督に脱帽。次回作にも期待大である。参考CINEMA「オアシス」
JUNO ジュノ
ジェイソン・ライトマン監督、エレン・ペイジ、マイケル・セラ、ジェニファー・ガーナー、J・K・シモンズ、アリソン・ジャネイ出演☆毒舌家の女子高生ジュノは、軽い気持ちで同級生とSEXし妊娠してしまう。一度は中絶を考えるが、直前で思いとどまり、産んで里子に出すことを決意する。ジュノが選んだ里親は、リッチな音楽家夫婦だったが…。
可愛げのない女子高生ジュノの吐く毒舌が面白い。大人よりも冷静で鋭い分析力。でも、どこか頼りない部分もあり…。そんな彼女を取り巻く人たちは、ジュノと本気でやり合いながらながらも彼女の個性を認めている。
妊娠した娘の決断を認め、一緒に里親に会いに行く父親。ジュノのために本気で戦ってくれる義理の母。そして、奔放なジュノの行動に戸惑いながらも不器用に彼女を思う同級生。ジュノは幸せだよなあ、なんて、ちょっと羨ましくなった。2009.7
17歳 BRUJAS (スペイン)
アルファロ・フェルナンデ・アルメロ監督、ペネロペ・クルス、アナ・アルバレス、ベアトレス・カバジャル出演☆夫とケンカして家を出た中年女と化粧品の訪問販売員、そして若いバックパッカー。年齢も性格も違う3人の女性がひょんなことから出会い、トラブルに巻き込まれる。いきなり金の奪い合いで、スピード感あって面白そう、と期待したのだが、そのあとは、これと言える展開もなくがっかり。少年っぽいペネロペの初々しい演技は新鮮に感じたが、それだけ、の映画だった。2010.3
ショートバス SHORTBUS
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督、スックイン・リー、ポール・ドーソン、PJ.デボーイ出演☆恋愛カウンセラーのソフィアは、夫とのセックスを楽しむ日々を続けていたが、実は一度も快感を得たことがない、という悩みを誰にも打ち明けることができない。
一方、ゲイのカップル、ジェイムズとジェイミーも、二人の関係を変えたいと考えていた。
ジェイムズとジェイミーに連れられ、怪しげなバー「ショートバス」を訪れたソフィアは、自由に愛の行為を楽しむ人々の姿に圧倒される。
終始セックスの話なので、ついていけずに大変だったが、見終わってみれば、人と人の関係はセックスだけがすべてではないのだろうな、という結論に。けど、ここまでくるのが長すぎ。
1時間ちょいぐらいにまとめてくれれば、もっと楽しめたかもしれないのに。さまざまな体位の激しいセックスシーンを描きたかっただけなのかあ?と、疑いたくなるほど性描写が多すぎでした。
ただし挿入歌は今回も最高!「ヘドウィグ〜」の大ファンなだけに、がっかり度も大きかった。2008.8 参考CINEMA:「ヘドウィグ〜」
実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち) ★
若松孝二監督、ARATA、並木愛枝、地曵豪、坂井真紀ほか出演☆60年安保から、日本赤軍と革命左派の統一、山中のアジトでの凄惨なリンチ、そしてあさま山荘事件までの流れを、鋭い視点で描いた入魂の力作。
若松孝二監督自身、当時、赤軍の若者たちと深いつながりがあったと聞いていたが、納得のリアルさである(監督は、未だにアメリカ政府から“国際テロリスト”とみなされ、入国を許されていないとのこと)。
仲間をつるし上げ、一人ひとりに殴らせ、野ざらしにして生殺しにしていく「総括」という名のリンチ・シーンは、もう見たくない、と思わせる惨さだったが、命を失った一人ひとりの名前と年齢、死亡年月日を見る度に、これは作り話ではなく、実際に起こったことなのだと確認し、やりきれない思いで胸が一杯になった。
監督は、なぜ今この作品を撮ったのだろう。
監督人生の集大成としたかったのか、それとも、革命を信じていた純粋な若者たちへの鎮魂歌だったのか。もしくは、オウム真理教とも通じる狂信的な若者の暴走をリアルに描きたかっただけなのか…。
40年前は、こういった過激な学生たちが世界各国に存在したことはよく知られている事実だが、今とあまりにも違いすぎて、実感が持てないというのが、正直な気持ちである。ただ、イスラム過激派は、今もなお、彼らの信じる聖戦を続け、自爆テロを繰り返しているのだし、過去の話、と割り切ることもできない。
俳優陣は派手さはないが、お嬢様兵士・遠山を演じた坂井真紀をはじめ、陰湿な永田洋子、リンチ事件の首謀者・森、そして16歳の青年・加藤、それぞれがリアルですばらしい演技だった。まさに若松マジック!である。とくに嫌味な永田洋子が最高。「なんで化粧するわけー?」「髪のばしてー」「そんな服着てんじゃないわよ」と過激派とは思えないセリフを連発するのだが、こんなの革命という言葉をかりたただのブス女のやっかみじゃん、と、腹がたって仕方なかった。そして、ラストのクライマックス、未成年の加藤がついに本心をぶちまけるシーンが印象に残った。彼は保護された、ということだが、今も健在ならこの映画をどんな思いで見ているのかなあ。
とても長くて疲れる映画だったが、見ごたえ十分。赤軍派のことをよく知らなかったので、勉強にもなりました。2009.8
スウィーニー・トッド SWEENEY TODD: THE DEMON BARBER OF FLEET STREET
ティム・バートン監督、ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アラン・リックマン出演☆舞台は19世紀のロンドン。理髪店を営むベンジャミンは、妻と子を判事に奪われ、無実の罪で投獄される。15年後、ベンジャミンは素性を隠し、判事の殺害を計画する。ティム・バートンお得意のダークなミュージカル。毎度おなじみ〜、で見飽きた感あり。2009.10
ストーリーズ Relatos (スペイン)★
マリオ・イグレシアス監督、コンセプシオン・ゴンサレス、ルイス・カジェホ、ジャゴ・プレサ出演☆主婦のロサリオは、心理セラピストに、夜になると恐怖心に襲われて眠れないと相談する。セラピストからの助言をヒントに、短編小説を書きはじめたロサリオは、かつて死産した時の感情を思い出す。
トラウマを持った女性の自分探し物語、ということで、重くて暗い映画を想像し、まったく興味がわかなかったのだが、試しに見たら大当たり!
ロサリオは、自分に自身がもてない主婦で心の悩みを抱えてはいるのだが、その風貌は飄々としていて、とても温かみのある女性。主演女優のふくよかな体型、緩慢な動きは、時にコミカルで笑いを誘う。日本の女優で言えば市原悦子タイプなのだ。
そうかといって軽くはならない。彼女の描く短編小説をモノクロ映像で描くことにより、アンニュイな雰囲気も漂わせる。
ロサリオ自身の物語から、彼女の書く短編小説の物語へのスイッチングも絶妙のタイミングで、観客も素直にストーリーの流れに乗っていける。ロサリオのモヤモヤ感は彼女の描く短編小説にも投影され、最初の頃の物語は、少々インパクトに欠ける。
それを小説を持ち込んだ出版社の編集者にはっきりと指摘されるのもリアルである。
言われたときは「そうよね。当たり前よね」なーんて、相変わらず飄々としているのだが、後になってジワジワ悔しさがわいてくる。そして、車の試乗をしている最中に、営業マンの横で突然泣き出してしまうのである。
もっと感動的なシーンで泣けば、観客の涙を誘うのかもしれないが、そういうウソ臭いことはしない。人間の感情なんて、そう簡単にコントロールできないものだ。だから、間の悪い場所で泣いたり怒ったりしてしまい、あとで激しく後悔したりするのである。
私はこのあたりから完全にロサリオに感情移入し「そうそう。そうなのよー。わかるわー」と、うなづきオバサン状態に。
ロサリオが自分のトラウマにやっと気づき(ちょっと遅すぎ。そのあたりもドン臭くて面白い)、さらに偶然ある男の財布を拾ったことをきっかけに名作を生み出す、というハッピーエンドにも、素直に拍手を送ることができた。
監督&主演女優は長年舞台を一緒にやってきた仲間とのこと。「なるほどー。よくこなれた舞台劇だわ」と納得。日本で上演しても受けそうな上質なストーリーでした。2009.10 東京国際映画祭にて
スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ
三池崇史監督、伊藤英明、佐藤浩市、伊勢谷友介、クエンティン・タランティーノ、香川照之、桃井かおりほか出演 ☆ある村に埋蔵金が眠っているとの噂を聞きつけた平清盛率いる平家(赤軍)は、村人を虐殺し、村に居座る。そこへ今度は、源義経率いる源氏(白軍)がやってきて…。平家物語と西部劇をミックスさせた和洋折衷アクション映画。タランティーノの「キルビル」を意識した作りで、最初の10分が面白くみれたのだが…。平家と源氏のいざこざを描いた中盤があまりにもまったりしていて、中身もないので見ているのが苦痛だった。豪華キャストそろえても、見るに堪えない作品。ただし、桃井のお姉さまが「キルビル」のユマ・サーマンばりのアクションを見せる後半はそこそこ楽しめた。1時間で十分、の映画でした。2009.8
スラムドッグ$ミリオネア SLUMDOG MILLIONAIRE
ダニー・ボイル監督、デヴ・パテル、マドゥール・ミタル、アニル・カプール出演☆スラム街で兄サリームと暮らす少年ジャマールは、暴動で母と家を失い、孤児の少女とともに、放浪生活をはじめる。子供を傷つけ、物乞いをさせる男の元から逃げた二人は、盗みや詐欺を働きながら、生き伸びていくが…。
ブラジルにもファベーラと言われるスラム街が存在するが、インドのスラム街ほどの悲壮感はない。国民性もあるかもしれないが、ブラジルのファベーラは、電気もガスも水道も(たぶん不法で)通っているし、テレビはもちろん、インターネットが使える家もある。
インドのスラム街の様子も知っているほどではないのだが、バスの窓からみた限りでは、ブラジルのファベーラよりも、状況は深刻だ。
そんなスラム街で生まれ育った少年が、大金をかけたクイズ番組で勝ち上がっていく、という、夢のような奇抜な設定がまず面白い。
さらに、そこで出題される問題と、少年の過去の生活がオーバーラップするという展開も、OTIMO!
スピード感があり、少年少女たちの素直な演技にも好感が持てたし、子供たちを食い物にするアクドイ大人たちも、それぞれ個性がある。
非の打ちどころのない愛と涙と感動、そして奇跡の成功物語、といってよいだろう。
「いい映画だね」と、隣に座っていたブラジル人カップルも感心していたし、エンタメ作品としては優良ではあるのだが…。
ミュージカルと聞いていたので、ボリウッド映画のようなハチャメチャさを期待してしまった分、「なんだかなあ。普通だなあ」というのが率直な感想。
緊張のファイナルアンサー?!のシーンで、ボリウッド映画なら、突然、歌とダンスが始まるのになあー。
もちろんアカデミー賞をとっただけあって質は高いと思うのだが、なんだかディズニー映画の実写版のようで、ひねくれ者には少々物足りない。
せめて殺し屋の道を選んだ兄ちゃんの生き様を、もう少し描いてくれたら、王道嫌いの私のような観客もそこそこ感動できたのではなかろうか?
それはともかくとして、日本の子供達にはぜひ見てほしい映画である。
インドという国や、スラム街の暮らし、家のない子の存在を知るだけでも、とても勉強になります。
最後にもう一言:子ども時代はヒンズー語だったのに、青年になっていきなりすべての会話が英語、というのに違和感あり。だれに英語を教わったのか、最後まで気になってしまった。2009.3
スリ SPARROW/文雀
ジョニー・トー監督、サイモン・ヤム、ケリー・リン出演☆スリ集団が、ある組織のドンの情婦チュンレイとスリ合戦。期待しすぎのせいか、今までのトー監督作品とは比べ物にならないぐらい印象の薄い作品だった。2010.3
スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー SKETCHES OF FRANK GEHRY
シドニー・ポラック監督、フランク・ゲーリー、デニス・ホッパー、ジュリアン・シュナーベル出演☆建築家フランク・ゲーリーのいままでの作品と彼の作品に魅せられた人々のインタビューで構成されたドキュメンタリー。ブラジルのオスカー・ニマイヤーしかり、海外にはアーチスティックな建造家が多くて興味深い。スペインのグッゲンハイム美術館等いつか見にいってみたいなあ。デニス・ホッパーの自宅はゲーリー作だそうです。2011.1
ずっとあなたを愛してる I'VE LOVED YOU SO LONG
フィリップ・クローデル監督、クリスティン・スコット・トーマス、エルザ・ジルベルスタイン、セルジュ・アザナヴィシウス出演☆ジュリエットは、15年の刑期を終え、妹レアの元へ身を寄せる。レアや養子の子供たちはジュリエットに心を開くが、夫は義姉を警戒する。ジュリエットは我が子を殺害した罪で服役していたからだ。
徐々に社会復帰し、周りにも認められていくジュリエットの表情の変化をクリスティンが熱演。美人女優として有名なだけに、最初のやつれた顔には驚かされた。ただ、ドラマの展開としては予定調和で、息子を殺した理由も予想通りで少々拍子抜け。ベトナム人の養子二人が超キュートでした。2011.1
砂の上の恋人たち CASTILLOS DE CARTON
サルバドール・ガルシア・ルイツ監督、アドリアーナ・ウガルテ、ニーロ・ムル、ビエル・ドゥラン出演☆美大に通う魅力的な女性と、二人の男の型破りな恋愛を描いた作品。二人で一人の女を愛する、といういびつな関係に初めは戸惑いながらも、次第にはまっていく女。一方、男たちはお互いに嫉妬心を抱きはじめ…。遊びならいいんじゃない、とは思うが、結末は見えている。若い3人がそれぞれ魅力的だったので、単なるエロ映画にならずにすんだかな、というのが率直な感想だ。もう少し、それぞれの心理を深く掘り下げてくれればもっと面白く見れたのに。もうひと押し、という感じ。2010.5
スプリング・フィーバー 春風沈酔の夜 Spring Fever/春風沈酔的晩上
ロウ・イエ監督、Qin Hao、Chen Si Cheng、Jiang Jiaqi出演、郁達夫(ユイ・ターフー)原作☆書店主ルオの妻は、夫の浮気調査を探偵に依頼。探偵は、夫が旅行会社勤務の男ジアンとの逢引現場を写真に収める。妻はルオを問い詰めジアンの職場に乗り込む。それをきっかけに、ジアンはルオに冷たく接するようになる。
一方、二人の密会を調査していた探偵は、いつしかジアンの虜になり、二人は関係を持ってしまう。
現代の南京で暮らすゲイの男たちの生体と、彼らを取り巻く愛憎を赤裸々に描いたラブ・ストーリー。初めの印象は、ゲイの男が次々と相手を変えていく淫らなセックス・ライフを描いた作品か、と冷めた目で見ていたが、あっという間にジアンの魅力に引き込まれてしまった。
男女問わず虜にする危険な男ジアン…。主役を演じたQin Haoは亡き沖田浩之にそっくりで、ヒロ君もステキだったよなあ、なんて青春時代に戻ってシミジミ。また、中国映画ということで、「欲望の翼」や「ブエノスアイレス」のレスリーを思い出し涙…。
不倫騒動から新しい恋人の出現、夫の自殺。そして奇妙な三角関係と3人の旅へ、という一見複雑な人間模様も自然に流れていき、カンヌでの脚本賞受賞も納得のハイ・クオリティだ。
ウォン・カーウァイやホウ・シャオシェンなど、中華圏のアート映画路線を受け継ぐロウ・イエ監督の今後にも要注目!2009.11 参考CINEMA:「パープル・バタフライ」「天安門、恋人たち」
セント・アンナの奇跡 MIRACLE AT ST. ANNA ★★
スパイク・リー監督、デレク・ルーク、マイケル・イーリー、ラズ・アロンソ出演☆1983年のNYで郵便局員が客を射殺する事件が発生。まもなく犯人ヘクターの部屋から、戦後、行方不明になっていたイタリアの橋の彫像が発見される。
時代はさかのぼり1944年のイタリア。米軍黒人部隊の兵士トレインは、身体は大きいが少年の心を持った男で、激しい銃撃戦の中でも拾った彫像をお守りに、なんとか生き延びていた。
そのトレインが、不思議な言動をするイタリアの少年アンジェロの命を救った。
トスカーナの山間の村へ逃げこんだ兵士たちは、プエルトリコ出身でイタリア語がわかるヘクターが通訳となり、美しい人妻に少年の手当を依頼する。
イタリアのセントアンナの大虐殺、という実際に起こった悲惨な事件を題材にした小説の映画化である。
83年の事件と登場人物が、戦時下のイタリアとどう結びついているのかを探りながら見ていたのだが、途中から、そんなのどうでもいいや、と思えるぐらい、戦場の黒人兵たちの人間ドラマが興味深く描かれていた。鋭いセリフ、個々のキャラクターが秀逸で、さすがはスパイク・リーである。イーストウッドの硫黄島2部作にも匹敵するリアルな戦闘シーン、人々の絶望や悲しみ、怒りが、画面を通じてヒシヒシと伝わってきた。
そんな中で一人天使のような少年の無邪気さがすばらしい。少年と大男トレインの心温まる触れ合いは、シビアな現実の中では浮いた存在なのだが、彼らがこの物語の唯一の救いとなっているのだ。
逃げ込んだ村では、パルチザン(抵抗組織)、ドイツ兵の捕虜、ムッソリーニ支持者の老人、そして黒人米兵、と、立場が違う人々が入り混じっているのだが、イタリア語とドイツ語、英語の使い方も絶妙だ。 それぞれ言葉がうまく伝わらず、混乱したりもするのだが、徐々に同じ人間同士として通じ合っていく。
また、少年と大男トレイン以外は、誰も清廉潔白ではない、というのがまたリアルだ。
人妻は寂しさから米兵に癒しを求め、その父は保身のためだけにムッソリーニ支持を訴え、パルチザンもきな臭い。一方で、捕虜のナチス兵と少年の心が通じ合っていたり、黒人部隊を平気で見捨てる米軍がいたり…。
根っからの悪人も善人も出てこない。個人は政治や社会の犠牲者であり、悪人だって立場が変われば善人になることだってあるのだ。
3時間近い映画ではあったが、サスペンス、戦争アクション、人間ドラマ、社会派等々、さまざまな側面を持っていて、終始、飽きることなく見ることができた。
あまりにも厳しすぎる現実の後の“おとぎ話”は「ショーシャンクの空に」のような清々しい余韻を残してくれる。
最後にもう一言;舞台がヨーロッパや南米なのに全編英語という不自然な映画が多い中、この作品ではしっかりドイツ語とイタリア語が使われていたのは好感がもてた。円熟味を増したスパイク・リー監督の次回作にも大いに期待したい。2009.8 参考CINEMA:「インサイド・マン」「ラスト・ゲーム」「25時」「サマー・オブ・サム」
ゼア・ウィル・ビー・ブラッド THERE WILL BE BLOOD ★★2008 MY BEST CINEMA ★★
ポール・トーマス・アンダーソン監督、アプトン・シンクレア原作、
ダニエル・デイ=ルイス、ディロン・フレイジャー、ポール・ダノ、ケビン・J・オコナー出演
彼の噂を聞きつけた青年から、未開の地リトル・ボストンに石油が眠っているとの情報を得たダニエルは、幼い息子と二人三脚で、宝の眠るその地を訪れる。
自分の力を信じ、一人だけで人生を切り開いていく野心家の男ダニエル。石油屋としてトップに上りつめる彼の生きざまは壮絶だ。
誰も信じず、子供を利用し、老人や若者を騙し、富を築き、反発する者、裏切ったものには容赦なく制裁を加えていく。傍から見れば鬼のような男であるが、反面、憧れも抱いてしまう。
その圧倒的なカリスマ性を持つダニエル役をデイ・ルイスが怪演。アカデミー主演男優賞も納得の演技だった。
だが、デイ・ルイスの演技以上に興味深かったのが「石油」の描き方である。
100年前、鉱山労働者たちは、どうやって石油を見つけ、掘り出し、富を築いていったのか。また、周囲の人々の生活や考え方は、どう変化していったのか。石油を取り巻く人々の生活の変遷が、重々しい音楽とともに語られていく、その雰囲気に圧倒された。
ダニエルのような労働者が苦労して掘り当てた石油は、今では世界全体を凌駕し、石油を巡る争いは激化し続けている。
中東ではイラク、中央アジアでは南オセチアのパイプライン、そして、中南米ではベネズエラ等など。
石油というエネルギー資源は、もはや、人間が生きる上でなくてはならないものである。
だが、原油の値上がりに世界中が振り回され、石油の利権を奪い合う戦争が繰り返される世の中の動きを見ていると、なんだかとても奇妙に思えて仕方がない。
「石油」という宝の存在が、人間を強欲にし、判断力を失わせ、人の命を奪うことすら厭わなくなる。
石油とは、魔物、なのか。
石油に取りつかれたダニエルの生きざまは、現代社会の縮図であり、利権争いを続ける世界への警笛でもある。
骨太の社会派映画を、カルト映画が得意なアンダーソン監督が撮ったということを評価したい。 2008.8 参考CINEMA:「ブギーナイツ」「マグノリア」「パンチドランク・ラブ」
戦場のレクイエム 集結號
フォン・シャオガン監督、チャン・ハンユー出演☆国民党との戦いに従軍した人民開放軍の隊長グーは、集合ラッパが聞こえるまで、戦い続けるよう部下に指示を出すが、ラッパは鳴らず、部下たちは次々に戦死していく。
戦場で大勢の部下を死なせた責任を負い続けた男の半生を描いた骨太の戦争映画。実話が元になっているということだが、中国版「行き行きて神軍」、という感じ。反戦色の強い作品ではあるが、勲章を貰って涙するシーンではひいてしまった。中国共産党お墨付き映画なのでしょうか。2010.1
戦場でワルツを WALTZ WITH BASHIR
アリ・フォルマン監督☆従軍体験のある監督は過去の記憶をなくしてしまったが、当時を知る旧友を訪ねるうちに、少しずつ、辛い体験を思い出していく。
あやふやな思い出をアニメを使って描いていく、という手法が面白い。ただ、イスラエルのレバノン従軍や、バシールという人物がどういう立場だったかなど、まったく知識もなく見に行ってしまったので、今までいろいろ見てきた戦争映画のアニメ版ね、といった程度の感想しか持てなかった。
その分、ラストの実写の悲惨な映像は衝撃が大きく、ガツンと脳天を叩き割られた気分に。アニメの中のあやふやな記憶が、突然、リアルな現実として鮮明に蘇ってきた、という監督の意図が伝わってきたし、このシーンに監督の主張のすべてが凝縮されていると感じた。
レバノン戦争についてもう少し知っていれば、理解も深まったと思うのだが…。勉強不足をちょっと反省。2009.12
千年の祈り A Thousand Years of Good Prayers (米・08年)
ウェイン・ワン監督、ヘンリー・オー シー、フェイ・ユー、ヴィダ・ガレマニ出演☆中国からアメリカに住む娘のもとへやってきた父は、慣れない暮らしの中で、なにかと娘の世話をやき…。中国人の生活習慣を捨て切れない父親が、成人の娘を子供のように扱う姿を見て、世界広しといえども、リタイアした父親の生態は同じなんだなあ、と苦笑いしてしまった。
離婚したばかりで傷ついた娘を気遣っているのはわかるのだが、娘側からすると放っておいてほしい、というのが本音だろう。父と娘でギクシャクしながらも、いたわりあう姿はほほえましかった。Wワンの名前は、久々に聞いたが、しっかり映画とっているのですね。在米の中国人監督としては、アン・リーが大活躍中だが、ワン監督のほうが先なのかも?同じアジア系として、応援していきたい。 2008.10 SP映画祭08にて
ぜんぶ、フィデルのせい? La Faute a Fidel! (06年・フランス)
ジュリー・ガヴラス監督、ニナ・ケルヴェル、ジュリー・ドパルデュー、ステファノ・アコルシ出演☆舞台は1970年のパリ。ブルジョワ一家の娘アンナは、スペインの貴族階級出身の父フェルナンドと、雑誌記者の母マリーが、スペインからやってきた叔母の影響で、共産主義に目覚めた姿を不思議な思いで見つめていた。
やがて、チリ旅行から戻った両親は、チリの民主化運動の先陣を切り、家には続々、運動家たちが訪れる。
今まで見たことのないようなひげ面の男たちが毎晩のように議論している姿を横目で見ながら、アンナは、変わってしまった両親に反抗を繰り返す。
まもなくチリの選挙で、社会主義派が勝利。両親たちは手を取り合って喜んでいたが…。
70年代といえば、世界各国でさまざまな反体制運動が起こり、一大ブームとなっていた時代。パリも例外ではなく、他国の政治をめぐって激しい抗議運動が起こっていたようだ。
フランスとチリ。言葉も違うし遠い国だし、あまり関連なさそうに見えるが、この映画の監督がコスタ・ガブラスの娘、と聞いて納得した。
コスタ・ガブラスといえば「ミッシング」である。チリで行方不明になった息子を探す父をジャック・レモンが演じたバリバリの社会派映画の監督だ。
おそらくジュリー監督は、幼少の頃、社会派監督の父親の姿をアンナと同じような思いで見つめていたのだろう。
映画は、終始、アンナの視点から語られ、大人が何を考えているのかは、ほとんど描かれていない。それでも、アンナの観察がとても細かいし、コメントがとてもリアルなので見ていて飽きがこなかった。(台詞はほとんど理解できなかったですが…)
これはかなり監督の個人的思いが入っている映画だ、十分想像できる。
アンナガ少しだけ大人の理屈を理解できるようになった頃、チリで軍事政権が始まる、という皮肉なエンディング。好みはわかれるでしょうが、私は好きです。2008.1
潜水服は蝶の夢を見る
ジュリアン・シュナーベル監督、ジャン=ドミニク・ボービー原作、マチュー・アマルリック、マリー=ジョゼ・クローズ、マックス・フォン・シドー出演☆全身麻痺に陥り、片目だけしか機能しない男ジャン=ドーは、雑誌「ELLE」の編集者として華やかに暮らしていた日々を振り返る。
やがて、目のまばたきによって言葉を伝えるようになった彼は、言語療法士の女性の力を借りながら自伝を書き始める。華やかな過去を持つ男が、想像力をかきたて、自分の人生を振り返っていく姿が絵画的に描かれる。画家の監督ならではの視覚に訴える映画だった。
スペイン映画「海を飛ぶ夢」では、全身麻痺の後、尊厳死を選ぶ男の姿を描いていたが、こちらは、残されたわずかな機能を使い、自分自身を振り返ることを選んだ男の生きざま。
全身麻痺になったとしたら、自分はどんな時間の使い方をするのだろう。想像もできないが、映画になるようなアクションを起こすことはできないだろう。それだけでも頭がさがります。
フランス人俳優マチュー・アマルリックが大のごひいきなので、彼の粋な姿を見れただけでも十分満、でした。2008.8 参考CINEMA:「夜になる前に」
セックス・アンド・ザ・シティ SEX and THE CITY
マイケル・パトリック・キング監督、サラ・ジェシカ・パーカー、キム・キャトラル、クリスティン・デイヴィス、シンシア・ニクソン、クリス・ノース、ジェニファー・ハドソン出演☆コラムニストのキャリーは腐れ縁の恋人ビッグと、豪華なペントハウスに移り住むことに。
ビッグからプロポーズされたキャリーは舞い上がり、周囲も大騒ぎ。
雑誌のグラビア撮影、デザイナーからのドレスのプレゼント等々、キャリーの結婚狂想曲が始まる。
一方、ビッグはこの騒動に戸惑いを覚え、友人のミランダは夫の浮気を知り大激怒。
LAで年下の彼と住むサマンサは倦怠気味で…。 TVシリーズの大ファンだったので、キャリー、サマンサ、ミランダ、シャーロットの4人と再び出会えただけで満足。
TVシリーズで一度は終止符を打ったので、4人がそれぞれ伴侶を見つけ、それなりに愛を感じながら暮らしている、という設定の出だしは、正直、違和感があった。
が、ビッグの毎度の裏切り、4人4様の悩みも、TVシリーズと同じくしっかり描かれていて楽しめた。
ただし、映画館で見たら、がっかりだったかも。「踊る大捜査線」のときにも感じたが、TVシリーズはTVという小さな画面で見るから楽しいのであって、映画館の大画面で見ると、物足りなさを感じてしまうもの。
そういう意味でも、機内で見るには最適の1本だった。
ジェニファー・ハドソンには歌手の卵、という設定で、1曲歌って欲しかったのだが…。欲を言えばきりがないのでよしとしましょう。2008.9
さあ帰ろう、ペダルをこいで Svetat e golyam i spasenie debne otvsyakade
ステファン・コマンダレフ監督、ミキ・マノイロビッチ出演☆ドイツに住むブルガリア移民のアレクサンドルは、交通事故で両親を失い、自分も記憶喪失になる。祖父は、すべてを忘れたアレクサンドルのために、自転車の旅に誘う。
アレクサンドルと両親は、かつて社会主義体制下にあった国を逃げ出しイタリアの難民収容所で暮らしていた。だが、収容所の生活は過酷な牢獄のようだった…。
アレクサンドルの今と、過去の物語が同時進行で語られていくのだが、その行ったり来たり感が不快でイライラした。この手法は、様々な映画でとられているがタイミングが大切だ。味のある名優ミキが祖父を演じているのだが、彼と孫の関係の描き方も薄っぺらく感じた。ブルガリアからイタリアへ逃れようとした家族の物語は興味深かっただけに残念な出来でした。2010.6
正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 CROSSING OVER
ウェイン・クラマー監督、ハリソン・フォード、レイ・リオッタ、アシュレイ・ジャッド出演☆LAで不法移民の取締りにあたる捜査官マックスは、ある日、メキシコ移民の女性から、幼い息子の住所を渡される。いったんは非情に振る舞うマックスだったが、彼女の真剣な眼差しが忘れられない。一方、オーストラリアからやってきたクレアは、グリーンカードの判定官に、カードと引き換えに身体の関係を迫られる。
アメリカへやってくるさまざまな境遇の移民の苦悩を真摯に見つめた作品。アカデミー賞をとった「クラッシュ」にテイストが似てはいるものの、こちらのほうがより現実を描いている。ハリソン・フォードが主演とはなっているが、本当の主演は移民たち。メキシコ、バングラディッシュ、オーストラリア、中国等、多くの国から夢を抱いてたどり着いたアメリカは、決して夢の国ではなかった…。そんな厳しい現実が胸にグサリと突き刺さった。2010.6
世界で一番パパが好き! JERSEY GIRL
ケヴィン・スミス監督、ベン・アフレック、リヴ・タイラー、ジョージ・カーリン出演☆突然、妻を亡くした映画のやり手宣伝マン、オリーは、乳児を抱えて仕事に出かけ、大失態を演じる。業界から締め出され、泣く泣く故郷ニュージャージーの実家へ戻ったオリーは、実父と共に、慣れない子育てをはじめる。7年後、オリーは、娘から愛される幸せな日々を送っていたが、一方で、恋を忘れ、仕事にも不満を抱いていた。
シングル・ファーザーの奮闘をコミカルだけど、ドタバタではなく丁寧に描いている。アフレックの盟友たちがカメオ出演しているのも面白い。ケヴィン・スミス映画は、小品が多いけど、作りはとても丁寧で味がある。見あきた感のあるファミリー映画だが、久しぶりにダメだしなしで、楽しく見れた。2010.10
ソウル・パワー SOUL POWER
ジェフリー・レヴィ=ヒント監督、ジェームズ・ブラウン、B・B・キング、ファニアオールスターズ出演☆1974年10月、ザイールのキンシャサで行われたアリ対フォアマンの試合の前に行われたブラック・ミュージックの祭典の模様を追った音楽ドキュメンタリー。
長い間差別に苦しめられてきたアメリカの黒人たちが、差別撤廃運動を経て、発言権を持つようになった70年代。アフリカ系であることのプライドを持ち、自分たちのルーツであるアフリカの地でこのようなビッグ・イベントが行われたことは、当時は活気的なことだったのだろう。ミュージシャンたちの喜びと興奮がスクリーンからビシビシ伝わってきて、鳥肌がたった。JBやBBキングのソウルフルなファンク・ミュージックだけでなく、ファニア・オールスターズのカリブの香り漂うサルサや、アフリカのミュージシャンのライブも十二分に楽しめる超豪華版。
1時間半では少々物足りなさも残ったが、この映画はモハメド・アリのドキュメント映画用に撮った映像の一部ということなので、仕方ないですね。
「ウッドストック」や「ラスト・ワルツ」など、“時代”を体感できる名作に匹敵する貴重な音楽ドキュメンタリーだ。
最後にもう一言:若いころからオヤジ臭プンプンのJBの映像に歓喜!横浜体育館で見た晩年の生JBと、ちっとも変わってなくて、笑いが止まらず。2010.7
そして、私たちは愛に帰る THE EDGE OF HEAVEN ★★2009 MY BEST CINEMA ★★
ファティ・アキン監督、 バーキ・ダヴラク、トゥンジェル・クルティズ、ヌルギュル・イェシルチャイ、ハンナ・シグラ出演☆大学教師のネジャットは、父から娼婦イェテルを紹介され戸惑う。だが、彼女がトルコにいる娘に、靴屋で働いていると偽りながら仕送りしていることを知り、彼女の生き方を受け入れる。その直後、父が誤ってイェテルを殺すという事件が起こる。ネジャットは、イェテルの娘アイテンを探しにドイツからトルコへ飛ぶ。
その頃アイテンは学生運動に身を投じ、ドイツに逃げていた。アイテンは親しくなった女子学生の家に居候を始めるが…。
ドイツとトルコ。2つの国を舞台に、トルコ系移民の父と息子、トルコ人の母と娘、そしてドイツ人の母娘の人生が絡み合っていく。
移民としてドイツに渡った父や母の人生、現代に生きる娘たち。それぞれのヒストリーが巧みに物語に反映され、登場人物それぞれに共感できる。
ドイツに逃げてきたアイテンが、ネジャットが講師をする大学生になり済まし、彼の講義を受けていたり、イスタンブールにやってきたアイテンの親友が、ネジャットの書店に立ち寄り彼の家に下宿することになるなど、アイテンとネジャットの周りでは人々が運命的に出会っているのだが、肝心の2人はなかなか巡り逢えない。
「いつになったら二人は会えるの?」といったハラハラドキドキ感も楽しめ、そうしているうちに、周辺の人々の生活にも変化が生まれていく。
アキン監督技あり!カンヌ07脚本賞受賞も納得のストーリー構成は見事である。
不幸な死や、残された人々の悲しみを追いながらも、絶望的な展開にはならず、それぞれがささやかな明日を見つけていく姿は涙を誘う。
世界各国で生きる移民たちは、多かれ少なかれ、彼らと同じように苦労や絶望を繰り返しながら、それでも生き抜いてきたのだろう。決して声高ではないが、移民たちの波乱のヒストリーがこの物語の軸になっていると感じた。
ファティ・アキン作品はひととおり見てきたが、この映画が間違いなくMyナンバー1。
もう1度スクリーンでじっくり見直してみたい珠玉の名作である。2009.11 参考CINEMA:「愛より強く」「太陽に恋して」「クロッシング・ザ・ブリッジ」「ソウル・キッチン」
その土曜日、7時58分 BEFORE THE DEVIL KNOWS YOU'RE DEAD
シドニー・ルメット監督、フィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、マリサ・トメイ、アルバート・フィニー出演☆離婚後、娘の養育費が払えないハンクは、兄アンディから、ある犯罪を持ちかけられる。それは、自分たちの両親が経営する宝石店の強盗だった。怖気づく弟に兄は「店には保険がかけられているから誰も困らない」と、言って説得するが、怖くなった弟は、悪友に協力を依頼。その悪友は、銃を持って店に押し入ったことで、犯罪計画が狂い始める。
兄、弟、父、さらには兄嫁。それぞれの立場から、一つの事件を描いていく複雑な作りのサスペンス。難しい映画だなあ、というのが第一印象。それでも人間描写はさすがルメットで、自信家の兄、気弱な弟、二人の男に挟まれた嫁、それぞれの心理描写は秀逸。追い込まれていく弟と兄を演じたフィリップとイーサンの演技もリアルでよかったが、もっとも印象に残ったのは父を演じたアルバート・フィニー。どんな役でもこなせる名優です。地味な映画ではあるが、もう一度、頭が冴えているときに見返してみたい一本だ。2010.3
SOUL RED 松田優作
御法川修監督、松田優作、浅野忠信、香川照之、仲村トオル、松田龍平、松田翔太ほか出演☆縁があって、かつて4年間住んでいた家に、今、移り住んでいる。
この家に住んでいたのはもう何年も前のことで、頭の隅に追いやられた記憶も多い。なぜここに住むようになったのかさえ忘れていたぐらいである。
でも、住み始めると少しずつ記憶が戻ってきた。
昔、流行っていたTVドラマ、好きだった音楽、自分が抱いていた夢。
そして、かつて出会った人々etc...。
そんなこの家で過ごした4年間の思い出の一つに「松田優作」もいる。
彼の死を知ったのは、朝のニュースだった。
いつものようにバタバタと朝支度をしていたとき、テレビを見ていた友人が「松田優作が死んだって」と、私に伝えてきた。
優作にとくに思い入れのない友人は、ただ、テレビで流れたニュースを情報として私に伝えただけだったが、私は「何いってんの?死ぬわけないじゃない。別人だよっ」と、腹を立て、すぐには信じることができなかった。
それほどまでに彼の死は衝撃だった。
ちょうど「ブラック・レイン」で優作の狂気の演技を見たばかりで、まだ、その感動と興奮の最中にあったのだから…。
死の直後は、優作の特集雑誌を買いあさり、記事を切り抜き、スクラップにした記憶がある。
そして20年。あの衝撃を味わった家に戻った今、優作のドキュメンタリーが公開されたのである。
正直、もうあの頃の情熱は残っていないし、優作の映画やドラマも私にとってはすっかり過去のものであった。でも、映画のスクリーンに映し出された優作の姿を見、声を聞いた途端、すぐに20年前、30年前の自分に戻ることができた。
夢中になったTVドラマ「探偵物語」の製作の際、「テレビではハードボイルドは受けない。ユーモアがないとだめだ」と、優作がいったという話、「ア・ホーマンス」で監督をすることになったいきさつ、「役者にとって、走る姿、ピストルを構える姿がかっこいいっていうのは大事だよ」と後輩の役者に話したことなどなど、すべての言動に「優作らしいな」と感じ、「やっぱり最高」と、ファンだったあの頃の気持ちに戻って無我夢中で画面に見入ってしまった。
優作と一緒に仕事をしてきたスタッフの話も興味深かったが、香川照之、仲村トオル、浅野忠信、3人の俳優が優作を敬愛し、彼について熱く語る様子がもっとも印象的で、優作ファン同士の絆を勝手に感じて、ほくそ笑んでしまった。
どうしてもファンの目線になってしまい、映画に対して客観的判断はできないのだが、おそらく優作を知らない若者でも、スクリーンの中の優作の姿、言動に少なからずインスパイアーされるはずだ。草食系なんて言われてることに少しでも抵抗がある人なら、優作の魅力にきっと気づいてくれるだろう。スクリーンの中の優作は、いつまでも色あせることなくセクシーで、ワイルドで、理知的で、やさしくて、映画に対する情熱でムンムンしている。
家宝にしたいドキュメンタリーを作ってくれたスタッフ&優作ファミリーに「ありがとう」と言いたい。2009.11
素粒子 ATOMISED
オスカー・レーラー監督、ミシェル・ウエルベック原作、モーリッツ・ブライブトロイ、クリスティアン・ウルメン、フランカ・ポテンテ出演☆教師のブルーノと天才学者のミヒャエルは、ヒッピーの母を持つ異母兄弟。兄ブルーノは、日々の暮らしに違和感を覚え、異常な性衝動に苦しんでいる。一方、弟ミヒャエルは、初恋の女性への思いを秘めたまま研究に没頭していた。ある日、兄は、フリーSEXの会に参加し、ある中年女性に夢中になる。弟は、初恋の人と再会し、思いを遂げるが、彼女は癌に冒されていた。
奔放な母から生まれ、愛に恵まれなかった男二人の歪んだ成長物語をコミカルに描きながらも、愛、孤独、生と死について考えさせられ、見終わった後で、心にずっしり響いてくる人間ドラマである。
心の病を扱ってはいるのだが、そこに悲壮感はない。深刻な症状とはいえ、どこかコミカルでもある。自分を解き放つための出口まで行きながら、扉を開けられなかった兄と、一歩踏み出した弟のその後の人生は対照的ではある。だからといってどちらが正しいかなんて誰にもわからない。救いを求めながら、救われなかった兄の人生もまた真である。
兄の選んだ人生は一般的にみればとても哀れな一生かもしれないが、そんな彼の選択を尊重したい。心理的に色々な要素が詰まった作品で原作にも興味を持った。2009.11
それでも恋するバルセロナ VICKY CRISTINA BARCELONA
ウディ・アレン監督、ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、スカーレット・ヨハンソン、レベッカ・ホール出演☆親友同士のヴィッキーとクリスティーナは、休暇にバルセロナを訪れる。自由恋愛主義者のクリスは、離婚したばかりの画家フアンに海辺の町への小旅行に誘われ、お堅いヴィッキーも渋々ついて行くはめに。フアンの軽いキャラに、初めは反発していたヴィッキーだったが、クリスが寝込んでいる間に、彼に口説かれ…。
恋多き女のクリスとお堅いヴィッキーの関係を見て他人事と思えず苦笑い。ヴィッキーがフアンにいちいち噛み付く辛らつな台詞も的を得ていて、笑ってしまった。さすがはウディ・アレン。女の気持ちがよーくお分かりのようで。
恋の三角関係に、元妻ペネロペが加わると、話はもっと混乱していくのだが、ここまで激しすぎるともう感情移入出来ず。ただただ「芸術家の恋愛は何でもありなのねえ」と高みの見物状態に。やたらめったら激しいペネロペはアカデミー助演女優賞をとったのだが、そんなによかったかなあ、というのが正直な感想。あのキャラは面白かったけど賞とるほどのレベルとは思えず。スペイン語と英語の割合が今の私の語学力にあっていて、いいヒアリングの勉強になりました。2009.10 参考CINEMA:「マッチ・ポイント」「さよなら、さよならハリウッド」「おいしい生活」「セレブリティ」「ギター弾きの恋」「スコルピオンの恋まじない」
そんな彼なら捨てちゃえば? HE'S JUST NOT THAT INTO YOU
ケン・クワピス監督、グレッグ・ベーレント原作、ジニファー・グッドイン、ベン・アフレック、ジェニファー・アニストン、ドリュー・バリモア、ジェニファー・コネリー、スカーレット・ヨハンソン出演☆友人の紹介で初デートを楽しんだジジは、彼に夢中になるが、相手は若い彼女に夢中。一方、同棲7年目のベスは、彼に思い切って結婚を切りだすが…。
原作&脚本が「SEX & THE CITY」のスタッフ、ということで、一つ一つのセリフが面白く、的をついていて楽しめた。初めのデートの別れ際、男性が「今日は楽しかった」と言ったら、それは興味がないことを意味する、といううんちくに納得。でも、女はその言葉を真に受け、電話を待っちゃうのよねえ。
男でも女でも惚れたほうが「負け」なのは重々承知しているのだけど、ほれられて相手の心を弄ぶずるい奴になるより、惚れて傷つく愚か者のほうが私は好き。なぜなら…。などなど、映画を見ながら、自分の恋愛論を再確認してしまった。
長すぎた同棲生活を解消するカップルにベンとジェニファー、Jコネリーは夫に浮気される生真面目な主婦、そして小悪魔スカーレットは、やっぱり男を翻弄する小悪魔、とそれぞれが適役。
なかでも七転び八起きで恋人探しに励むジジを演じたジニファー・グッドインがgood。機内で見るのに最適な軽ーいラブコメでした。2009.7
それぞれのシネマ - To Each His Own Cinema
Tアンゲロプロス、Oアサヤス、Bアウグスト、Jカンピオン、Dクローネンバーグ、ダルデンヌ兄弟、コーエン兄弟、Mオリヴェイラ、Aエゴヤン、Aギタイ、Aカウリスマキ、Aキアロスタミ、Aコンチャロフスキー、Kローチ、Dリンチ、Nモレッティ,Rポランスキー、GVサント、LVトリアー、Wヴェンダース、Tミンリャン、Hシャオシェン、Cカイコー、Wカーウァイ 、Cイーモウ、北野武、AGイニャリトゥ、Wサレスほか監督☆2007年のカンヌ映画祭のために、世界の著名な監督たちが、映画館をテーマに撮った短編集。わずか3分の作品だが、さすがは名だたる監督たち。各々の世界観で短い物語を作っていた。アジア勢はノスタルジー、ヨーロッパ勢は男と女の物語が多かったのは、やはり、映画館に対するイメージの違いだろう。アジア人の多くにとって、映画館はみんなで楽しめる娯楽の場所だが、ヨーロッパ人にとってはデートの場所。(ただしカーウァイ監督は男と女の秘め事でしたが)。
個人的に気に入ったのは何にも起こらないけどなぜか笑えるカウリスマキ、そしてRポランスキーの作品。期待していたイニャリトゥは、まだまだって感じでした。こういう企画ものは楽しいので、またぜひ作っていただきたい。
希望をいえば、次回はこの面々にプラスして、クストリッツア監督ほか、私のお気に入り監督たち(こちら)の作品も見てみたいのですが…。
会場では、北野監督の超ベタなお笑い作品が受けてました。TVでさんざん見てきた笑いですが、サンパウロでみると、また違った味わいがありました。
ベタな笑いは世界共通。
そういう意味では、マッチャンの笑いも、十分、世界で通用すると思います。2007.11.3
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ダークナイト THE DARK KNIGHT ★
クリストファー・ノーラン監督、ヒース・レジャー、クリスチャン・ベイル、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマン、アーロン・エッカート、
マギー・ギレンホール、モーガン・フリーマン出演
ヒースはこの冷徹な道化悪人役を、どんな気持ちで演じていたのだろう。家族も恋人も仲間もいない孤独な悪人ジョーカー。そんな化け物役に、のめりこみ過ぎたのだろうか。
そうだとしたら、ジョーカーが、ヒースを死に追いやった、と言っても過言ではないだろう。
映画やドラマを見る側は、いつでも役者に迫真の演技を期待する。
その期待に答えた役者は演技派の称号を得るが、観客は、次はもっといい演技をしてほしい、感動を与えてほしい、と望む。
ヒースがもし、演じる上で何かしらのプレッシャーを感じていて、心理的に追い詰められていたのだとしたら…。
もちろん、役柄と演者は別ものだし、役との距離をうまくとって、自分をコントロールするのがプロなのかもしれない。
でも、みんながみんな器用なわけではないだろうし、役にのめりこみ過ぎて自分を見失ってしまう人間だっているだろう。
そんな不器用さがヒースを死に追いやったのだろうか。
などなど、映画の内容そっちのけで、悪党演じるヒースの心理状態が気になってしまった。
ジョーカーの役をジャック・ニコルソンのように、もっとおバカに、軽ーく演じていたのなら、今ごろヒースは生きていて、テリー・ギリアムの新作に出ていたかもしれない…、そんなことを思うと、悔しくて…。
映画レビューのはずが、ヒースの死を惜しむ一ファンの嘆き、になってしまいました。
あまりにヒースに集中しすぎて、警部役がゲーリー・オールドマンだったことにも気付かず。このところ悪役専門だった役者が、熱血善人役というのも皮肉なのだろうか。善人と悪人は紙一重。ジョーカーは、みんなの心の奥に潜んでいるのかもしれません。
2008.8
ダージリン急行 THE DARJEELING LIMITED
ウェス・アンダーソン監督、オーウェン・ウィルソン、エイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマン、アンジェリカ・ヒューストン出演☆父親を亡くした3兄弟、長男フランシス、次男ピーター、三男ジャックは、インドの長距離列車「ダージリン急行」に乗り旅をする。基本はお馬鹿でくだらないナンセンス・コメディなんだが、舞台がインドの列車の中、ということで、インドの旅を思い出しながら楽しく見れた。
オーウェン・ウィルソンは、いつも、あまりに羽目外し過ぎで正直、苦手だったのだが、この作品ではおとぼけキャラを演じていて、好感度アップ。ひがんだ小説家の三男坊を演じたJ・シュワルツマンもよかったです。参考CINEMA;「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」
抱かれる女 TUYA SIEMPRE
マヌエル・ロンバルデーロ監督、フローラ・マルティネス、ルーベン・オチャンディアーノ出演☆彼のために献身的につくす若い女は、あるピアニストの部屋の掃除を始める。ピアニストと強く惹かれあうようになるが、ダメ男の彼を捨てきれず…。スペインのジャズクラブが舞台の洒落た雰囲気の映画ではあるのだが、ドラマの設定があまりにもお粗末で、まったく話に入っていけず。女優はスペインの売れっ子女優らしいが、かわいいけど、とくに魅力も感じなかった。残念。2009.8
ダウト 〜あるカトリック学校で〜 DOUBT
ジョン・パトリック・シャンリー監督、メリル・ストリープ、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、ヴィオラ・デイヴィス出演☆舞台は1964年のカトリック学校。保守的な女校長アロイシアスは、新人のシスター・ジェイムズから、フリン神父と黒人の生徒ドナルドの関係について相談する。以前から、進歩的な考えを持つフリン神父を心よく思っていなかった校長は、ドナルドの母親を学校へ呼び出し、厳しく追及する。
舞台の映画化ということで、密室劇でのやりとりはさすがに見ごたえがあった。メリルは厳格な意地悪ババア役がぴったりで、あの怖ーい顔で見つめられるだけで、息が詰まりそうになった。
神父のやさしさは、神に仕える立場からの純粋な愛なのか、それとも少年好きという性癖故なのか…。灰色なのかどうかも疑わしいのだが、意地悪ババアにかかったら、真実は白でも黒にされてしまう。人間社会にはびこる噂の半分は、権力争いや妬みによって捏造されたものなのかもしれない…。人間心理の嫌ーな部分を見せられて、後味は悪かったが、よくできた心理ドラマだった。2010.1
ダイアナの選択 THE LIFE BEFORE HER EYES
ヴァディム・パールマン監督、ユマ・サーマン、エヴァン・レイチェル・ウッド、エヴァ・アムリ出演☆ちょっとひねた早熟の高校生ダイアナは、敬虔なクリスチャンの親友モーリーンと女子トイレにいたときに、クラスメートの銃乱射事件に巻き込まれる。
15年後。ダイアナは大学教授の夫と結婚し、聡明な娘にも恵まれ何不自由ない生活を送っているようにみえたが…。
大人になったダイアナと、高校時代のダイアナの生活が行ったりきたりしながら、衝撃のクライマックスへ進んでいく展開。お世辞にも優等生とはいえないダイアナの高校時代のストーリーには共感がもてたのだが…。衝撃の現実を突きつけられても、今ひとつピンと来なかった。というか、途中から、これは「ジェイコブズ・ラダー」だな、と直感したのだが、それなら、もうちょっと伏線が欲しかった気がする。主演のユマ、ませた女子高生を演じたレイチェル・ウッド、そして親友役のエヴァは、それぞれ熱演していたし、キャラもしっかりしていたので、惜しい、というのが正直なところ。欲を言えば、大きな事件に巻き込まれた人々のトラウマをもう少し掘り下げて描いて欲しかった。2009.10
タクシデルミア ある剥製師の遺言 TAXIDERMIA
パールフィ・ジョルジ監督、モロジュゴバーニ・ヴェンデル、バラトニ・カールマーン出演☆第二次大戦中、戦場で生まれたカールマーンは、大人になり、大食い選手権の有望選手となる。よく肥えた女と恋に落ち、結婚し、子供も授かるが、選手としては、泣かず飛ばず。月日は過ぎ、社会主義体制も崩壊した現代。カールマンは、食べすぎて身動きの取れない身体となり、剥製師となった息子の世話になっていた。
ストーリーを解説すれば、わりとシンプルな話ではあるのだが、このつながりは最後まで見て初めてわかるのであって、途中までは何が何だかさーっぱりわからず。ただただ、しつこくグロい。大食い大会というよりは、ゲロ吐き大会というのにふさわしい延々続くゲロ吐きシーンは、笑いを超越してしまっている。
面白いけど、もうお腹いっぱい。吐きそう…。
それがやーっと終わってくれたと思ったら、今度は、息子である剥製師のこれまた生々しい剥製作りが始まって…。
性欲ビンビンの兵士から大食いのデブ男まではつながるが、さらにその息子がやせっぽっちの剥製師なんて、発想が突拍子過ぎて、開いた口がふさがらず。
さらにエンディングが、またまたびっくり。機械につながれ、彼は何やってるのかと思ったら…。
監督の想像力と、それを映像に落とし込むワザは、度肝を抜く。
メイキングでは、意外と普通の監督の姿が映っていたけど「コイツ、普通に見えるけど、頭おかしいよ」って誰かに耳打ちしたくなるぐらい飛んでる作品だった。
監督の才能は認めるし、とにかく凄い世界なのだが…。
好きかと問われれば、答えに詰まる。
お次はどんな作品が出てくるのか、興味を持たずにいられません。2009.10 参考CINEMA;「ハックル」
第9地区 DISTRICT 9
ニール・ブロンカンプ監督、シャールト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ出演☆南アフリカのヨハネスブルグにエイリアンの乗ったUFOが現れてから数年。故障して行き場を失ったUFOとエイリアンたちは、地球に留まり、無法地帯“第9地区”と呼ばれる区域に隔離されていた。国のエイリアン対策課のヴィガスは、エイリアンへの突撃取材を敢行。ある子持ちのエイリアン宅で謎のカプセルを見つける。
数日後、ヴィガスは身体の異変に気づく。
「ET」と「エイリアン」をミックスさせたような筋立てなのだが、その見せ方が現代風で超ユニーク。一見、ドキュメンタリー・タッチで、最初は、エイリアンの生態を客観的に追っていく。徐々に、人間の身勝手さが露わになり、後半に、ヴィガスの逃亡劇へと移っていくのだ。ノリは超B級で、エイリアンも安っぽいのだが、そこがまた微笑ましい。
監督もキャストも無名なのに、これだけ世界的ヒットとなったのはまさにアイデアの勝利。お金かけなくても、面白い作品はいくらでも生み出せる、インディペンデントのお手本のような映画だった。2010.10
ONCE ダブリンの街角で
ジョン・カーニー監督、グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ出演☆ダブリンのストリート・ミュージシャンは、チェコ出身の花売りの女性と知り合い、彼女にオリジナルの曲を教える。ピアノを奏でる彼女と心を通わせ、バンドを組んでレコーディングをすることになる。
主演俳優はアイルランドの人気バンド“ザ・フレイムス”のフロントマン、相手役の女性はチェコのシンガーソングライターということで、終始、彼らの歌声が流れ続ける音楽映画。映画として見ると、ちょっと退屈だったが、歌がよかったのでよしとしましょう。2010.6
タロットカード殺人事件 SCOOP
ウディ・アレン監督、スカーレット・ヨハンソン、ヒュー・ジャックマン、ウディ・アレン出演☆休暇でロンドンに滞在中のジャーナリスト志望の女子大生サンドラは、マジックショーのボックスの中で、急死した有名ジャーナリストの幽霊と遭遇。彼は、巷を騒がせているタロットカード殺人事件の犯人は、貴族のピーター・ライモンだと告げる。
好奇心旺盛なサンドラはマジシャンのシドと手を組み、父娘になりすましてピーターへ接近。まもなくサンドラはピーターの魅力の虜になってしまう。
アレン映画らしいウィットにとんだ台詞を久しぶりに堪能。アレン監督って身近にいたらほんと面倒臭い奴だろうなあ、と思いながらも、ついクスクス笑ってしまった。すっかりアレン映画の常連となったスカーレットも、ベテラン女優の風格あり。シリアスもの撮らせてもうまいけど、やっぱりアレン映画はコメディが一番!2010.7
旅するジーンズと16歳の夏 THE SISTERHOOD OF THE TRAVELING PANTS
ケン・クワピス監督、 アンバー・タンブリン、アレクシス・ブレデル、アメリカ・フェレーラ、ブレイク・ライヴリー出演☆16歳のティビー、リーナ、カルメン、ブリジットは、人種も育った環境も違うが大の仲良し。体型がまったく違うのに誰にでも似合うジーンズを見つけた4人は、それが幸運を呼ぶと信じ、1週間ずつジーンズを回していくことにする。夏休み。ギリシャの祖父母の元で過ごすリーナは、そこで素敵な恋をする。
母親を亡くしたばかりのブリジットは、メキシコのサッカーキャンプに参加。
自主映画作りに没頭するティビーは、バイト先のスーパーで、不思議な少女とであう。そしてプエルトリコ系移民のカルメンは、離婚した父と久々に一緒に過ごすことになるが、父はコンサバな恋人とその子供たちと暮らしていた。
「セックス&ザ・シティ」の高校生版、という感じ。4人のキャラがしっかりと描かれていて、彼女たちの体験もユニーク。そこに幸運を呼ぶジーンズが絡むのがまた面白い。原作はアメリカでべストセラーになったというのも納得。いくつになっても楽しめるほろ苦青春ドラマでした。2010.12
旅するジーンズと19歳の旅立ち THE SISTERHOOD OF THE TRAVELING PANTS
ケン・クワピス監督、 アンバー・タンブリン、アレクシス・ブレデル、アメリカ・フェレーラ、ブレイク・ライヴリー出演
☆それぞれ別の大学に進んだティビー、リーナ、カルメン、ブリジットのひと夏の物語。
前作同様、4人それぞれの個性が丁寧に描かれていて十二分に楽しめた。個人的には、容姿コンプレックスを持つカルメンに感情移入。
人づきあいが下手くそなパンク少女のティビーもキュートでした。ギリシャの島に行ってみたくなりました。2011.4
チル・アウト! Descongelate! (スペイン)
フェリックス・サブロソ、ドゥーニャ・アジャソ監督、ロレス・レオン、ルーベン・オカンディアノ、ペポン・ニエート、オスカル・ハエナダ出演☆場末の劇場でコメディアンをしているティトは、店を訪れた新進気鋭の映画監督アイトールと知り合い、部屋へ呼んで映画出演の約束を取り付ける。だがその直後、麻薬常習者の監督が急死。妻は、契約書にサインするまで、アイトールの死を隠そう、と言い出す。アルモドバル組のスタッフが撮ったシニカルコメディ。ティトの母、弟、妻がそれぞれ個性的。ドタバタ感もほどよくて見やすいコメディ映画だった。あまり奥は深くないのでテレビで見るのは最適デス。2010.12
チェイサー THE CHASER ★★
ナ・ホンジン監督、キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ソ・ヨンヒ出演☆デリヘルの元締めジュンホは、姿を消したデリヘル嬢の行方を捜している途中で車の衝突事故を起こす。相手の不審な様子にピンときたジュンホは、男の持っていた携帯番号から失踪した女の最後の客だったことを突き止める。格闘の末、警察に連行された二人だが、「女を売っただろう」と詰め寄るジュンホに、男は「殺したよ」とつぶやく。
元警官のヤクザ者と猟奇殺人犯。二人の追いかけっこをシンプルに描いたサスペンスなのだが、ストーリー展開、スピード感、構成、すべてが圧倒されるほどの素晴らしさで、あっという間にこの映画の世界に引き込まれてしまった。
連続殺人犯は早い段階ですぐ捕まったのに、警察は容疑を立証できずイライラ。
ジュンホは、デリヘル嬢がまだ生きてるはずだ、と彼女の居場所を探すが、すぐ目の前までいっているのに見つけられずキレまくる。
そんな周りの慌てようを、憎たらしい微笑みを見せながら静観している犯人。
この三者のドラマの絡め方が絶妙である。
そしてジュンホが走り回る坂の多い夜の町の雰囲気がまたいい。なんとも怪しげで暗くて、道が狭く袋小路の迷路のようで…。
これほどまでに三拍子そろったサスペンス映画には久々に出会った気がする。ハリウッドが即リメイク権を買い取ったのも納得の質の高さだ。
「ジュンホは、なんで鍵まで持ってるのに、警察に一斉捜査を依頼しないのよー」などなど、突込みたくなる展開もあるのだが、犯人以外、みんなが冷静さを失って、バタバタしちゃってるから、もうどうしようもない。
一見やさしそうな猟奇殺人犯のあの冷たい微笑みが、ぞっとするほど怖くて鳥肌もの。演じたハ・ジョンウはギドク映画「絶対の愛」で美容整形中毒の女に翻弄される相手役を演じたのだが、顔も雰囲気も違っていて、まったく気付かなかった。
ハ・ジョンウの次回作にも期待大。さらに監督は新人ということ。まだまだ韓国映画界の未来は明るいでますね。2009.10
チェンジリング CHANGELING
クリント・イーストウッド監督、アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ、ジェフリー・ドノヴァン出演☆舞台は1928年のロサンゼルス。電信会社に勤めるクリスティンの9歳の息子ウォルターが失踪した。5ヶ月後、警察が連れてきた息子ウォルターは、見かけも背丈も別人だったが、警察は母親の育児放棄だといって取り合わない。息子を取り返すため、クリスティンは警察へ働きかけるが、逆に精神病院に収監されてしまう。
まもなく、カナダから不法入国していた少年が、従兄弟に指示され何十人もの少年を殺した、と告白する。
これが実話だ、というのが驚きである。単純な人違い事件を扱ったサスペンスではなく、当時のLA警察の腐敗にもしっかり切り込んでいるところは、さすがイーストウッド。
精神病院に不当に収監され、電気ショックをかけられた人々のくだりは、「カッコーの巣の上で」そのもの。何度見せられても、鳥肌が立つ。
そんな彼女たちを救い出し、警察と裁判起こして勝利する強い母は、少々かっこよく描きすぎ、とは思ったが、リアルな演技とはほど遠いアンジーなので適役。精神病院でいたぶられても反発するアンジー見てたら、デビュー作を思い出した。長さも感じさせない展開で、見応えがありました。2010.1
チェチェンへ アレクサンドラの旅 ALEKSANDRA (2007・ロシア)
アレクサンドル・ソクーロフ監督、ガリーナ・ヴィシネフスカヤ出演☆孫に合うため、チェチェンの戦場を訪れた老女アレクサンドラは、そこで暮らす少年兵や村の人々と言葉を交わす。
戦争の最前線と老女、という不釣り合いな組み合わせが面白い。武器を持ち、迷彩服をきて歩く軍人たちのアレクサンドラを見る目は一様にやさしい。アレクサンドラは、緊張を強いられる戦場の中に降り立った天使のような存在だ。
一方、チェチェンの市場の人々も、アレクサンドラと言葉を交わし、家にまで招き入れる。
誰も口汚くののしることもせず、平和に生きているように見える。
でも、そこは戦場…。
静と動。正反対の世界が混在する戦場を描くことで、監督は反戦を訴えたかったのだろう。
風景の切り取り方が秀逸で、とてもいい映画だとは思うのだが、あまりにも静かなので、やっぱり私は寝てしまいました…。アレクサンドラを演じた女優は、故ロストロポーヴィチの妻にして世界的なオペラ歌手とのこと。ただのお婆ちゃんではないとは思ったが、何とも表現しがたい気高さを感じた。2009.5 参考CINEMA:「太陽」
長江哀歌 三峽好人 STILL LIFE
ジャ・ジャンクー監督、チャオ・タオ、ハン・サンミン出演☆舞台は、中国の一大プロジェクト長江の三峡ダム建設が進む町、奉節。山西省出身の労働者は、16年前に別れた妻子を捜してこの町にやってきた。一方、中年女は、2年間、音信不通の夫を探しに町にたどりつく。
人探しに訪れた人間の目を通して、ダム建設で様変わりしていく奉節の姿を淡々と追っていく。
壊されるビルと、異様なほどきらびやかな近代的なビルの対比。
壊す側で黙々と働く肉体労働者と、建てる側で荒稼ぎする経営者。
大国中国の現代の姿が凝縮された「奉節」という町の描き方が秀逸だ。
ドキュメンタリー風に仕上げてはいるが、ダム建設によって何らかの形で影響された人々の小さなドラマも盛り込み、移りゆく風景と人々の暮らしをやさしい視点で見つめている。
ブラジルでもロングランされていたが、急速な発展と格差社会、多民族国家、という共通点があるだけに、ブラジル人も、他人事と思えないのかもしれない。
今までジャ・ジャンクー映画が、なぜこれほど評価されているのか、理解できなかったのだが、この映画はベネチアでのグランプリも納得だ。私小説的色合いの濃かった今までの作品よりも,
ワンランクアップした感じがする。今後の作品にも注目していきたい。2008.8
つぐない ATONEMENT
ジョー・ライト監督、イアン・マキューアン原作、キーラ・ナイトレイ、ジェームズ・マカヴォイ、シアーシャ・ローナン、ヴァネッサ・レッドグレーヴ出演☆1935年の夏。イングランドの屋敷で暮らす小説好きの少女ブライオニーは、家政婦の息子ロビーにほのかな恋心を寄せていた。だが、ロビーが姉セシーリアにあてた恋文を読んでショックを受ける。さらに、姉とロビーの情事を目撃。その直後、従姉が男に襲われる事件が発生した。その場に居合わせたブライオニーは、犯人はロビー、とウソをつく。
多感な少女のちょっとした嫉妬心から生まれた心ないウソが、人の人生を狂わせてしまう悲劇を丁寧に描いた秀作だ。愛する人と引き離され、刑務所に入れられ、戦場に送られたロビーも悲劇だが、好意を寄せていた相手を陥れ、詫びることすらできなかったブライオニーの贖罪の日々を思うと、胸が締め付けられる。正直、英国上流社会が舞台の映画は苦手なのだが、この映画は、スピード感があり、場面展開も凝っていて飽きずに見れた。姉の彼を陥れる多感な少女を演じたシアーシャ・ローナンの演技は圧巻!08年アカデミー賞助演女優賞ノミネートも納得の名演技でした。2009.7
ツバル Tovalu
ファイト・ヘルマー監督、ドニ・ラヴァン、チュルパン・ハマートヴァ出演☆舞台は、かつて栄えたのであろうある国の朽ち果てたプール。外に出ることを禁じられた次男坊アントンは、目の見えない父に、子供たちの声でにぎわっているように細工をする毎日を送っている。ある日、父親と一緒に現れた若い娘エヴァに一目ぼれしたアントンは、彼女の誘いに乗り、初めて施設の外に出る。
台詞もなく色は二色。動きもぎこちなくて、まるでチャップリン映画のようである。一歩間違えば名作のパクリと言われそうな作風なのだが、アントンの表情やコミカルな動き、ストーリー展開が巧みで、監督のセンスの良さを感じさせる秀作に仕上がっていた。
音楽はクストリッツア組ということで、クストリッツア作品に共通するシニカルな視点もちりばめられている。
アントンが暮らしているプールは、かつての社会主義国家や鎖国時代の日本であり、エヴァは黒船。敵にも味方にもなりうる存在だ。夢のあるラストには、監督の希望がこめられているのだろう。ツバルというのは、太平洋上に実在する島の名で、地球温暖化の影響で消滅の危機にさらされている小国だという。そんな島の名をタイトルにしたファイト・ヘルマーの今後に期待大である。参考CINEMA:「ゲート・トゥ・ヘブン」
冷たい雨に撃て、約束の銃弾を VENGEANCE 復仇 ★
ジョニー・トー監督、ジョニー・アリディ、アンソニー・ウォン、ラム・カートン、ラム・シュー、サイモン・ヤム出演☆マカオで暮らす会計士一家が何者かに襲われた。フランス人の妻は奇跡的に助かるが、寝たきり状態に。フランスでレストランを営む妻の父親コステロはマカオを訪れ、一人、犯人捜しを始める。ホテルで、殺し屋の殺人現場に偶然遭遇した父親は、彼らに、娘一家の復讐を依頼。レストランの経営権を報酬に3人の殺し屋は仕事を受ける。
かつては同じ闇社会で生きていたコステロと、殺し屋3人は、いつしか熱い友情で結ばれるが…。
名作「絆 エグザイル」の続編的作品。さびれたマカオの下町と、近代化された都心部、そして香港を舞台にした殺し屋たちの銃撃戦の迫力。男たちの計算されつくした立ち位置、研ぎ澄まされた映像等々、まったく隙がない。
アンソニー・ウォンはすっかりお腹出てきちゃってるし、ラム・シューは相変わらず汚いデブだし、ラム・カートンも地味な風貌、そしてフランス人のジョニー・アリディも老けこんでるし…。
ルックスはお世辞にも美しいとは言えない殺し屋3人と元殺し屋1人が、銃をぶっ放すシーンは最高にクール!思わず劇場で、カッコイー!!と叫びたくなるほど。
ただ歩いているだけの場面でも、そこに男たちの生きざまがにじみ出ていて味がある。
ジョニー・トー作品は、当たりはずれもあるのだが、この映画は大当たりである。
ギラギラした復讐心、男同士の絆、年老いることの悲哀、負け戦に乗り込む心意気…。
懐かしの西部劇やヤクザ映画が、そのままマカオ&香港で蘇ったようである。
迫力満点のドンパチシーンと、殺し屋たちの佇む姿、スタイリッシュな映像を、スクリーンでぜひ堪能していただきたい。2010.6 参考CINEMA:「絆 エグザイル」
月に囚われた男 MOON
ダンカン・ジョーンズ監督、サム・ロックウェル出演☆舞台は近未来の月。燃料を採掘する会社から3年契約で送り込まれたサムは、コンピュータ相手に一人で暮らしていた。唯一の支えは家族とのTV電話。任期もわずかとなり、地球へ戻れる日を待ちわびるサム。だが、作業現場で事故にあったサムが目覚めると、そこには自分とそっくりな男が立っていた。
テイストは「2001年宇宙の旅」。もちろん作りは安っぽいし、到底本家には及ばない出来ではあるのだが、からくりがとても興味深い。
サムが実は記憶を埋め込まれたクローンであり、故障用に多くのクローンが作られている、と知ったときの心の動揺。もう一人のクローンとの触れ合い等など、後半の展開が面白くて、身を乗り出して見入ってしまった。曲者役者サムはほんと上手、一人きりの演技なのに、まったく飽きさせないし、いろんな性格の人間を演じられるので、同じ顔したクローンでもまったく違った見えたぐらい。そしてそして、デビッド・ボウイの息子である監督にもアッパレ。ボウイってゲイのイメージが強かったので息子がいたことには驚き。ダンカン監督の顔も見てみたい。2010.10
テトロ ★
フランシス・フォード・コッポラ監督、ヴィンセント・ギャロ、オールデン・エーレンライク、マリベル・ベルドゥ出演☆17歳のベニーは、長い間、音信不通だった兄アンジーがブエノスアイレスで暮らしているのを知り、彼の家を訪れる。だが、しばらくぶりに会った兄は、アンジーではなくテトロと呼べと命じ、周りにはベニーを友人と紹介。また、妻には父親が著名な音楽家であることすら隠していた。自分の過去や家族を否定して生きる兄の態度に不満を募らせたベニーは、兄の持ち物から、家族の物語を見つけ出す。
退廃的な雰囲気の漂うブエノスアイレスの街並、影を多用したモノクロ映像と計算された構図は圧巻。パタゴニアの風景もモノクロになると、実際とはまったく違った景観になるのが興味深かった。
(ちなみに、実際のパタゴニアはこんな感じ)。
そんな芸術的映像に絡んでくるアルゼンチン・タンゴの調べと、荘厳な交響曲が、これまた素晴らしい。
テトロ兄弟の複雑な家族構成が多少ややこしくはあったが、そんなことが気にならないほど、映像力が抜群で、やっぱりコッポラ映画は大画面でみなくちゃ伝わらない、と思わせてくれた。「ゴッドファーザー」や「地獄の黙示録」と、作風はまったく違うインディペンデント作品ではあるのだが、映像に対する拘りはしっかりと感じることができた。
家族の過去が明らかになるラスト30分の展開もハラハラさせられ、ドラマ展開も申し分なし。「ランブルフィッシュ」が春の映画なら、この映画は秋の映画。大画面で何度でも見直してみたい珠玉の一本だ。 2010.9 ラテンビート映画祭2010にて
天使の眼、野獣の街 EYE IN THE SKY
ヤウ・ナイホイ監督、ジョニー・トー製作、ケイト・ツイ、レオン・カーフェイ、サイモン・ヤム出演☆新人刑事のホーは、監視班に配属されて早々、上司のウォンから監視のノウハウを事細かに叩きこまれる。
一方、宝石強盗団は2度目の犯罪を計画。だが、監視班の活躍で失敗に終わる。強盗団のボス、チャンを尾行していたホーは、チャンが警官を殺害する現場に出くわす。毎度のことながら、ジョニー・トーらしさが全開の犯罪映画。監視班と強盗団の騙し合い、追いつ追われつの緊迫感は何度見てもゾクゾクさせられる。すっかり悪役が板についたレオンと、カメレオン役者サイモン・ヤムの静かなる対決も見ごたえあり。ワンパターン、といえなくもないが、一度はまったら抜けられないのがジョニー・トー映画の醍醐味だ。2010.6参考CINEMA:「ザ・ミッション 非情の掟」「エレクション」
マイケル・ジャクソン THIS IS IT ★★
ケニー・オルテガ監督☆大きな事件、事故のニュースを知った瞬間というのは、いつまでも記憶に残るものである。
9月11日ワールド・トレードセンターのニュースを聞いたのは旅先のタクシー運転手から知らされた。
サリン事件は、人影のない霞が関駅を地下鉄が速度も落とさずに通過したことで、何かとんでもないことが起こったことを直感した。
そして、2009年6月25日のマイケル・ジャクソンの死はサンパウロの自宅で知った。
日本への帰国を1週間後に控え、慌ただしく部屋の片づけをしているとき、テレビのニュースで緊急ニュースが流れたのだ。マイケルの死はブラジル中で話題になり、彼の追悼番組がテレビで放送された。
特別ファンでもなく、CDも持っていなかったが、マイケルがもっとも輝いていた80年代に、多感な10代を過ごした自分にとって、彼の死は少なからず衝撃だった。
あれから4か月。死の直前のマイケルはどんな様子だったのかが気になり、軽い気持ちでこのドキュメンタリーに臨んだ。
ところが、5分もしないうちに、映画の中のマイケルに魅せられ、あとはもうマイケル・ワールドの虜に…。
晩年は、私生活でスキャンダルまみれだったマイケルだったが、彼の稀有な才能はそんなことでは揺るがない。絶対的なカリズマであることを、この遺作で見事に証明してくれた。歌、ダンス、スタイル、発言…。すべてが唯一無二のマイケル。誰にも真似することはできないマイケル・ジャクソン。
ファンでもないのに、すべての曲を耳にしたことがあり、口づさむことが出来ることにも驚きだった。
映画の構成は、リハーサルの様子を追っただけのシンプルな作りではあるのだが、バックダンサーもコーラスもスタッフもセットも、すべて超一流で本気モード。みんな最高にカッコイイ。そして中心に立つマイケルは、そのシルエットだけでマイケルとわかる圧倒的な存在感なのである。
どんなビッグ・アーチストとも比較できないスケールの大きさ、華やかさ。
マイケルってホントすごい。本物のエンターテナーだわ!と、終始感激しっぱなし。
それと同時に、このリハーサル風景の後に、大観衆の歓声を浴びるマイケルの姿が映し出されない物足りなさ、その映像をもう永遠に見ることができない現実を思い出し、なんともいえない悲しみが押し寄せてきた。
「観客に、日常ではない夢を与えよう」そう言っていたマイケルの言葉が実現しなかったことが残念でならない。
マイケルのファンでなくても見る価値のある質の高い音楽ドキュメンタリーであることは間違いない。人々に夢を与えてくれた偉大なるマイケル・ジャクソンに、心から「ありがとう」と伝えたい。2009.11
デカローグ DECALOGUE
クシシュトフ・キエシロフスキー監督
第1話 ある運命に関する物語
数学者の父は、冬の夜、スケートを楽しみにしている息子のために池の氷の張り具合を確かめにいく。十分な厚さに張ったとしり喜ぶ息子だったが…。
無邪気な息子と父の会話がほほえましいだけに、過酷な現実はどん底につき落とされたような気分になった。運命とはなんと残酷なのでしょう。ため息…。
第2話 ある選択に関する物語
余命わずかの夫の看病をする妻は、お腹に新しい命が宿っていることを医者に告げる。だが、それは夫の子供ではなかった…。
夫の死を前に、不倫関係で身ごもった子供を産むか産まないか、思い悩む女の葛藤を描いている。夫をそれほどまでに愛していたのなら、なぜ不倫なんか…、とは思うのだが、長い人生の中では魔が差すこともある。人生って辛い…。
第3話 あるクリスマス・イヴに関する物語
寒い冬の夜、タクシー運転手はかつて愛した女性に会いに行く。女は孤独な生活を悟られまいと細工をするが…。昔の男の前で強がってしまう孤独な女と、それを感じながらも抱き締めることができない男。二人のちぐはぐ感がいい。何でもオープンに見せてしまう昨今の恋愛ドラマでは見られない、もどかしい思いが胸を打つ。
第4話 ある父と娘に関する物語
大学生の娘は、幼い頃に亡くなった母の残した手紙を目にし、開けようかどうか思い悩む。
強い絆で結ばれた父と娘の秘密を、娘が父親にカマをかける形で進行する。奔放な娘を見つめる父の視線は親子の愛情を超えてはいるのだが、彼はそれを決して行動には移さない。若い娘の激しさを前に耐える父の姿に真の愛情を感じた。
第5話 ある殺人に関する物語(「殺人に関する短いフィルム」)
ミロスラフ・バカ出演☆世の中に希望を見出せない青年ヤチェクは、タクシー運転手を殺害し、逮捕される。若き弁護士は死刑反対を訴えるが判決は覆らず、ヤチェクは死刑執行の日を迎える。すべてに投げやりだった青年が、死の直前、恐れから暴れる姿と、死刑執行する側の機械的な動きが強く印象に残った。
第6話 ある愛に関する物語(「愛に関する短いフィルム」)
オラフ・ルバシェンコ出演☆郵便局員トメクは、向かいに住む熟女マグダの部屋を望遠鏡で覗くのを趣味にしている。マグダへの思いが募り、男との情事を妨害したり、郵便の細工をするなど、マグダに近づき始めたトメクは、ついに彼女に覗きを告白する。
内気な青年の心理描写が秀逸。熟女から誘惑され、自殺未遂を図ったことで自分を解き放つ、というエンディングに希望を感じた。青い春に挫折はつきものだが、立ち直る兆しを見せた青年に拍手!
第7話 ある告白に関する物語
夜泣きが治らない少女アニヤを連れて姉のマイカが失踪した。マイカは、実の母は自分だ、とアニヤに告げ、アニヤの実の父親のもとに身を寄せる。
子供を母に奪われた若い女の反乱を描いた作品。厳格な母と娘の確執は、娘の視点からのみ語られるので、真実はどうなのかわからないが、母親の冷たさが印象に残った。
第8話 ある過去に関する物語
マリア・コシャルスカ出演☆大学教授のゾフィアは、講義中、ナチス時代のワルシャワで、ユダヤ人少女の命を守るための洗礼の後見人になるのを拒んだカトリックの夫婦についてどう思うか質問される。ゾフィアと夫は、そのカトリックの夫婦だった。
女性をアパートに招いたゾフィアは、彼女が無事だったことを喜び、自分たちの行為の真相を告白する。
過去の恨み、後悔、そして和解を描いている。戦争を体験した人々というのは、想像以上に様々な裏切りや後悔を経験しているのかもしれない。辛い過去は封印しないと前を向いて歩けないが、心の奥では忘れられない出来事として蓄積されているのだろう。仕立て屋の老人のかたくなな姿に、過去の悔恨を感じた。
第9話 ある孤独に関する物語
ピョートル・マカリカ出演☆性的不能となり絶望した医師は、すべてを妻に話す。妻は夫を受け入れるが、以前から学生との不倫を続けていた。
人間関係に絶対的なものはない。夫婦でも友人でも兄弟でも、もちろん親子でも。みんな少しずつ心を偽りながら生きているのかもしれない。
第10話 ある希望に関する物語
イェジ・シトゥール、ズビグニェフ・ザマホフスキ出演☆ある兄弟は疎遠だった亡き父の部屋で、切手コレクションを見つける。予想外に高価な切手に目を輝かせる二人は欲を出し…。コレクターにしか理解できない切手の価値を巡って、素人の兄弟が振り回される姿を皮肉をこめて描いている。物欲のなれの果ては仲間割れ。最後に自分たちの愚かさを知り、笑い転げる二人にささやかな希望を感じた。記念切手を売っている郵便局員は第6話のトメク少年だそうです。
「デカローグ」全10話をひと通り見て感じたのは「悲しいのは自分だけじゃない」ということ。人と人とのつながりにすれ違いはつきもの。すべてをわかり合うのは不可能だが、わかろうとする努力は大切なのでしょう。聖書の十戒をベースにしているようだが、決して絶望的な物語ではない。監督の愛を感じた。ちなみに、もっとも印象に残ったのは3話と6話でした。2009.12
鉄コン筋クリート
マイケル・アリアス監督、松本大洋原作、二宮和也、蒼井優:声の出演☆無法地帯「宝町」で暮らす少年クロとシロは、チンピラ連中から金を奪いながら、気ままなその日暮らしを続けていた。だが、老獪なヤクザ、通称ネズミが街に舞い戻り、まもなく町では大規模な再開発が始まる。
近未来なのか過去なのか現代なのかはっきりしない設定ではあるけれど、クロとシロのような親も家もないストリート・チルドレンをブラジルで実際に目にしてきた後だけに、リアルな現実が見えてしまい、ちょっぴり暗い気持ちになった。
シロはクロの良心として存在していて、二人は表裏一体。ほんとは1人しか存在していないのかもしれない。過酷な社会で生き延びる術を身に着けた子供たちは頼もしくもあるが、現実は、悪知恵の働く大人たちにつぶされるのが運命なのだろう。アニメは苦手分野だが、ダークな松本ワールドは嫌いじゃありません。2010.1
天安門、恋人たち SUMMER PALACE
ロウ・イエ監督、ハオ・レイ、グオ・シャオドン、フー・リン出演☆80年代後半、中国の北朝鮮国境近くで暮らすユー・ホンは北京の大学に進学。まもなく、青年チョウ・ウェイと恋に落ちるが、彼は多くの女性と関係を持っていた。一方、学生たちの民主化を求める運動が激しくなり、天安門事件が起こる。
学生運動が盛んだった頃の学生の無軌道な生き方をリアルに描いている。日本でいえば、70年安保世代と生きざまはダブる。ちょうど20年ずれている感じだ。
主演の男女の青さ&エロさが全開の青春映画である。無茶で危なっかしい二人の生きざま、情熱に圧倒されっぱなしの2時間だった。
恋人たちの会話はほとんどなく、激しいセックス描写と、学生運動のシーンだけが絡まりあいながら物語は進んでいく。ここまで挑戦的でストレートな映画では、中国で上映禁止になったのもやむを得ないだろう。若者の激しさをストレートに描くロウ・イエ監督は、日本でいえば30年前の長谷川和彦に匹敵するかもしれない。ロウ・イエ監督の今後に要注目だ。参考CINEMA:「パープル・バタフライ」「春風沈酔の夜 Spring Fever」
転々
三木聡監督、オダギリジョー、三浦友和、小泉今日子、吉高由里子、岩松了ほか出演☆親を早くに亡くした大学生の文哉は、借金の取立屋・福原から、霞ヶ関まで徒歩で行く長い散歩に付き合えば100万円やる、と言われ、渋々引き受ける。散歩の途中、福原は妻と口論した際、誤って殺してしまい、霞ヶ関の警視庁に自首しに行くのだ、と告げる。
孤独で無気力な青年と、妻を殺したチンピラ。二人の散歩をのほほんと描いたロードムービー。何か大きな事件が起こるわけではない、脱力系不思議ワールドなのだが、男二人のロードムービーは大好きだし、主演は現お気に入りナンバー1のオダギリと、30年前のMYヒーロー友和様なので、十二分に楽しめた。「時効警察」のスタッフが作ったということで、作風もキャストも「時効警察」カラーが強く、随所でクスクス笑ってしまったけれど、ラスト、友和様の寂しそうな後姿に哀愁を感じホロリ。原作は小池真理子の夫、藤田宜永。私好みのテイストです。2010.1
デンジャラスな妻たち MAD MONEY
カーリー・クーリ監督、ダイアン・キートン、クイーン・ラティファ、ケイティ・ホームズ、テッド・ダンソン出演☆夫の失業と借金で生活に困ったコンサバ主婦は清掃員の仕事を紹介してもらう。そこは、FRB中央銀行の古くなった紙幣を処分する部署だった。主婦は、清掃員仲間2人と計画を練り、処分直前の紙幣を奪い始める。
捨てる紙幣を盗む、というアイデアが面白い。3人のスター女優もそれぞれに個性的だし、日本で公開しなかったのが意外なほど、粋な犯罪コメディだ。働いたこともないお気楽主婦が、ひょんなことから悪事を思いつき、罪悪感もまったくないまま、ゲームに興じる。その軽さは、ネットを使って簡単に株価操作が出来てしまうような、現代の犯罪を皮肉っているようにも感じた。2010.3
トゥヤーの結婚 図雅的婚事 ★
ワン・チュアンアン監督、ユー・ナン出演☆内モンゴルの若い女トゥヤーは、事故で下半身が動けなくなった夫バータルと幼い子供を抱えながらも、気丈にたくましく暮らしていた。だが、無理がたたって腰を痛めたトゥヤーは、医者から、今までのような過酷な労働は命取りになると告げられる。義理の姉はバータルの面倒は自分が見るから離婚して新しい夫を見つけるよう勧める。だが、トゥヤーは、夫バータルとともに面倒を見てくれる男を探す、と言い出す。
現代とは思えない内モンゴルの過酷な生活。周りの人々は次々と放牧をやめ、都会に出ていく中、トゥヤーは頑固に土地に拘っている。若いのになんとまあいい嫁だこと、と、まず感心。働き者で気立てのよいトゥヤーは人気者で、次々と縁談の話が来るのだが、問題は身障者のバータルだ。
舞台は日本とはかけ離れたモンゴルなのだが、身障者になった夫を抱えた妻の人生は、どこの世界にも通じる問題なので、興味深く見れた。
求婚してきた成金の男と一度は所帯を持とうと決意したのだが、施設に入ったバータルは自殺を図ってしまう。そこで、トゥヤーは泣いてすがらない。「俺なんかいないほうが…」と気弱になってる夫に「そんなに死にたいなら、私も子供たちも今すぐここで死んでやる」と、激こうするシーンは圧巻だ。トゥヤーは強い!笑っちゃうぐらい逞しい。一方、寄ってくる男たちは揃いもそろって、不甲斐ないのである。
トゥヤーのような母性の強い女性には、バータルや、隣人で恐妻家の男のようなダメ男が寄ってくるのが運命なのかもしれない。だが、それを受け入れる心意気が最高にカッコイイ。
近代化の波が押し寄せるモンゴルにあっても、都会や楽な暮らしに逃げることなく、過酷な放牧生活とダメ男を引き受けるトゥヤーに、今や幻想となった大地のような広くて深い愛を感じ、すがすがしい気分にさせられた。ベルリン金獅子賞も納得の傑作だ。2010.2
扉をたたく人 THE VISITOR
トム・マッカーシー監督、リチャード・ジェンキンス、ヒアム・アッバス、ハーズ・スレイマン出演☆大学教授のウォルターは、妻を亡くして以来、生きる喜びを感じることなく、孤独に暮らしている。学会でニューヨークへ行くことになり、かつて住んでいた部屋を訪れると、そこにはシリア出身の青年タレクとセネガル出身の恋人ゼイナブが住んでいた。不動産屋に騙されていたと知り、途方に暮れる二人を放っておけないウォルターは、新しい家が見つかるまでの間、彼らを置いてやることにする。
ウォルターは、打楽器奏者のタレクに楽器を教えてもらい、二人の間には友情が芽生える。だが、ある日、地下鉄の改札で警察に呼び止められ、連行されたタレクは、そのまま不法滞在者の拘置所に入れられてしまう。
孤独な初老の男と若い移民カップルの友情と、アラブ人への差別問題をやさしい視点で描いた良質の人間ドラマである。
堅物で孤独な男が、打楽器を叩くことで、閉じ込めていた心を解放していくシーンがいい。思わず、自分も膝を叩いてしまった。
だが、二人の音楽を通じた交流は、はやい段階で終わりをつげ、後半はタレクを救うために奔走するウォルターと、タレクの母の物語に変わっていく。個人的には、音楽を通じた男の友情物語をもっと掘り下げてほしかったのだが…。
911以降、厳しくなったといわれるアラブ系移民に対する差別や移民問題。国同士が友好であればビザなしの滞在でも、さほど厳しくないのだろうが、国の関係が悪化した途端、非情になる。それが国家というもの。海外にわずかでも暮らしてみると、ビザ問題は身近で、また避けて通れないシビアなことでもある。国の政策に翻弄される移民たちの苦悩を思い、心が痛くなった。
タレクの母を演じたヒアム・アッバスは「レモン・ツリー」でも主役を演じた女優。その凛とした美しさには圧倒された。現代のミューズ10傑に間違いなく入る名女優だ。2010.3
永遠(とわ)のかたらい UM FILME FALADO
マノエル・デ・オリヴェイラ監督、レオノール・シルヴェイラ、フィリッパ・ド・アルメイダ、ジョン・マルコヴィッチ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ステファニア・サンドレッリ出演☆ポルトガル人の歴史学者ローザは、7歳の娘を連れ、マルセイユ、ギリシャ、ポンペイを娘と語りあいながら旅をしている。ある夜、豪華客船に乗った二人は、アメリカ人船長、フランス人、イタリア人、ギリシャ人が、それぞれの言葉で歓談する場面に出くわす。
地中海に面した国々の歴史を母娘の目を通して描く旅物語。
ヨーロッパの街並みと歴史を伝える前半は、旅ものドキュメンタリー風で少々退屈に感じたが、客船の女性たちの会話には引き込まれた。ギリシャ、フランス、イタリア、そして英語。自分の国の言葉を大事にしながら、会話が成り立つ、という設定が素晴らしく、またうらやましく感じた。ギリシャ人の女性が「ギリシャ語はギリシャでしか話されていない」と嘆くシーンがあるが、日本語のほうがもっと孤立しています…。
船の中の優雅さと哲学的台詞に聞き入って、とてもゆったりとした気分に浸っていただけに、ラストの突然の展開はかなりショックだった。最後の最後に、巨匠オリヴェイラの主張が込められているのだろうけど…。世界平和は永遠に来ない夢でしかないのだろうか…。2009.12
トゥルパン
セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督、アスハット・クチンチレコフ、サマル・エスリャーモヴァ、オンダスン・ベシクバーソフ出演☆舞台は広大な高原の続くカザフスタン。頭の弱い青年は、父親に一人前に扱ってもらえない。そんなとき、羊の出産に立ち会うことに。
中央アジアの広大な高原で暮らす遊牧民の日常をドキュメンタリータッチで追った作品。うぶな青年の成長がやさしい視点で描かれていた。羊の死産のシーンはリアルに悲しかったです。2008年東京国際映画祭出品作 2009.7
トウキョウソナタ
黒沢清監督、香川照之、小泉今日子、小柳友、井之脇海、井川遥、津田寛治ほか出演☆佐々木家は一見、誰が見ても平凡な家族である。一流会社に勤める夫、きれいな妻、素直な二人の息子が、きれいな一戸建てに住んでいる。だが、ふたを開けると、夫はリストラを隠して出社するふりをし、長男はアメリカ軍に入隊願望を持ち、二男は給食費を使いこみ…。
幸せそうな家族の崩壊ドラマは永遠不変万国共通。いつの時代も人と人とのつながりは家族といえども不安定で、相手の本心なんてそう簡単にわかるものじゃない。
ほかの作品と比べて、特別に毒もないし新鮮さも感じない普通の家族崩壊ドラマである。
特別、誰かの演技が光っていたとも思えないし、演出や映像もごくノーマル。
それでも好きな作品だな、と感じられたのは、夫、妻、友人、息子たち、それぞれに感情移入ができたから。そして圧巻は静かなエンディング。彼らがその後、穏やかな生活を見つけたのかは、明確に示されてはいないが、二男が弾くピアノの音色に一瞬だが、心が癒された。2009.7
トランシルヴァニア TRANSYLVANIA
トニー・ガトリフ監督、アーシア・アルジェント、アミラ・カサール出演☆イタリアから突然去ってしまった恋人を探しに彼の故郷トランシルヴァニアを訪れたジンガリナは、再会した彼から拒絶され絶望。自棄になった彼女を助けたのは、古物商の中年男チャンガロだった。
ロマの人々が大勢暮らすトランシルバニアで、異邦人女性が、カルチャーショックを受けながらも、現地に溶け込んでいく姿をガトリフ監督独特のスタイルで描いた作品。
奔放な女ジンガリナの生きざまよりも、ロマの音楽とダンスが印象に残った。2008.8
参考CINEMA:「ガッジョ・ディーロ」「僕のスウィング」
Dr.パルナサスの鏡
レビューは
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【ナ】
ナイン NINE
ロブ・マーシャル監督、ダニエル・デイ=ルイス、マリオン・コティヤール、ペネロペ・クルス、ジュディ・デンチ、ケイト・ハドソン、ニコール・キッドマン、ソフィア・ローレン出演☆時代は1960年代。イタリアの著名監督グイドは、新作の撮影開始を前にして、脚本が書けず、頭を抱えていた。準備は着々と進み、スタッフや主演女優も現地入り。グイドは愛人との情事に逃げるが、夫を心配した妻が現地に現れる。
フェリーニの「8 1/2」が元になっているとはいっても、ブロードウェイ・ミュージカルなので、影も形もないぐらいアメリカ・ナイズされているのだろう。そう思いながら見にいったのだが、意外や意外。そこには、しっかりフェリーニらしき監督が存在し、夫のたび重なる裏切りに苦しみながらも、じっと耐えしのび夫を愛し続ける妻ジュリエッタの影があった。
とくに妻役のマリオンがジュリエッタに似ていてびっくり。伝記映画でもないのに、勝手に私の中で「フェリーニ&ジュリエッタ物語」と位置付けられてしまった。
歌と踊りがメインのミュージカルで、女優陣も超豪華なので、その華やかには当然圧倒されたのが、ダニエルは芸達者だし、マリオンもキュートなので、監督と女優の夫婦愛の物語としても見応え十分。
こういう派手なエンタメ作品はハリウッドの十八番なのだが、イタリアでも、チネチッタがあった当時は、さぞ華やかだったんだろうなあ。かつてのイタリア映画への郷愁も感じさせてくれた。
&ほとんど歌と踊りだけの出番だったケイト・ハドソンの「CINEMA ITALIANA」は超クール。さすがサラブレッド。ラブコメ映画だけじゃもったいないカリスマ性を感じた。
2010.3 参考CINEMA:「シカゴ」
夏のない年 Year without a summer
タン・チュイムイ監督☆マレーシアの海に親友とその妻と訪れた男は、素潜りが得意な妻に対抗して自分も夜の海に飛び込む。夜の海の映像は幻想的で美しかったが…。その他があまりに退屈で耐えられず。2010.11 東京フィルメックスにて
脳内ニューヨーク SYNECDOCHE, NEW YORK
チャーリー・カウフマン監督、フィリップ・シーモア・ホフマン、サマンサ・モートン、ミシェル・ウィリアムズ、キャサリン・キーナー出演☆ニューヨークで暮らす劇作家ケイデンは、画家の妻に突然家を出ていかれ失意の日々を送る。劇場の受付嬢や、女優に安らぎをもとめるが…。カウフマン作品はどんどん不思議度を増していて、正直ついて行けません…。天才劇作家の類いまれなる想像力と孤独な半生を描いているのだとはわかったけど…。とくに書き留めておきたい感想もナシ。2010.11
ノーカントリー NO COUNTRY FOR OLD MEN
ジョエル&イーサン・コーエン監督、コーマック・マッカーシー原作、ハビエル・バルデム、トミー・リー・ジョーンズ、ジョシュ・ブローリン、ケリー・マクドナルド、ウディ・ハレルソン出演☆メキシコ国境近くに住むモスは、薬物取引の銃撃戦に出くわし、大金を奪って逃亡。だが、自家製エアガンで殺戮を繰り返す殺し屋が、モスを執拗に追い回す。引退間近の保安官エドは、モスと殺し屋の行方を追うが…。
モスと殺し屋の追いつ追われつの逃亡劇は、エンタメ作品にありがちなスピード感も爽快さもなく、黙々と、陰湿に進んでいく。
物言わぬ追跡者の陰に怯えながら、逃亡者モスも助けを求めず、一人、孤独に逃げていく。その独特のリズム感がいい。
ジワジワと恐怖感が伝わってくる。
今までのコーエン兄弟作品のようなコミカルさ、力の抜けたふざけた感はなく、つねに緊張感が漂うし、何より、ギョロ目でオタク・ヘアーの殺し屋(バルデム)が怖いったらありゃしない。
アカデミー賞をとったというのが不思議なほど、ある意味マニアックな作品だったのが驚きだった。
男と男の逃亡劇は、手に汗握る面白さではあったのだが、途中で登場する中途半端な保安官(ウディ・ハレルソン)は余計な感あり。
トミー・リー扮する保安官もそれほど存在感はなかったし…。
今までのコーエン作品と比べてしまったため、この乾いた世界に没入するまで少々時間がかかった。
この映画はDVDではなく、大画面で見たら、印象がまったく違っていた気がする。残念!2008.8
参考CINEMA:「オー、ブラザー」「レディ・キラーズ」「ディボース・ショウ」「バーバー」
ニューヨーク、アイラブユー NEW YORK, I LOVE YOU
ミーラー・ナーイル、岩井俊二、シェカール・カプール、ナタリー・ポートマン、ファティ・アキンほか監督、アンディ・ガルシア、ナタリー・ポートマン、イーサン・ホーク、ロビン・ライト・ペン、ジェームズ・カーン、ジュリー・クリスティ、カルロス・アコスタ出演☆NYの街角で出会う人々の小さなドラマを11人の監督がつむいだオムニバス。
この種のオムニバスを見るときは、いつも、お気に入りのエピソードを探して楽しむのだが、今回もっとも心に染みた短編は、老舗ホテルを舞台に、ジュリー・クリスティ演じる初老の元歌手と、若いボーイがささやかな交流を持つ物語(シェーカル・カプール監督、アンソニー・ミンゲラ脚本)。老いや死を扱っているのだが、絶望感はなく、ジュリー・クリスティの美しさと、上品な台詞のやりとりが心にしみてきた。エンディングの「アンソニー・ミンゲラに捧ぐ」というテロップを見て、彼の遺作に感動できたことに感涙。
&白人の子供の子守と間違えられた黒人の父親を演じたカルロス・アコスタも印象に残った。アメリカンだと思ったら、彼はキューバの有名なダンサーとのこと。味のある顔と、肉体美に惚れた(ナタリー・ポートマン監督)。
ちなみに、もっとも苦手と感じたエピソードは、予想通り、苦手な日本人監督のもの。
次回は、「上海、I love you」も企画されているとのこと。都市を巡るオムニバスは、今はやりのようです。2010.3
【ハ】
ハート・ロッカー THE HURT LOCKER ★
キャスリン・ビグロー監督、ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ、レイフ・ファインズ、ガイ・ピアース出演☆舞台は2004年のバグダッド。アメリカ陸軍の爆発物処理班で事故が起き、死亡した兵士に代わってジェームズが赴任する。彼とチームを組んだサンボーンとエルドリッジは、命を省みないジェームズのやり方に反発する。
死と隣り合わせの爆弾処理の任務が続き、緊張の連続で心を休める時間もない。そんな兵士たちと一緒になって、思わず見る側も緊張せずにはいられない。フィクションでありエンタメ作品でもあるのだが、ポップコーンとビールを片手に見れる映画ではない。
表現しがたい緊迫感がスクリーンからジリジリと伝わってきて、目をそらすことすらできない。防具も付けず、死に急いでいるかのように見えるジェームズだが、彼にも妻子がいるし、仲間たちと飲み明かして緊張をほぐす普通の男である。
でも、いざ爆弾を前にすると、恐怖心よりも「爆弾に勝ちたい」という気持ちが先にたってしまう。いわゆる、爆弾に取り付かれた男なのである。
そのジェームズのような男を、アメリカ軍はヒーローと呼ぶのかもしれない。
だが、この映画はけっしてヒーロー礼賛映画ではない。ジェームズの心は明らかに壊れており、恐怖心を感じられない不感症に陥っていることも、暗示している。
ぎりぎりのところを生き延びて無事家族のもとへ帰還したジェームスだが、安らぎを感じることはできない。任務終了までのカウントはリセットされ、ジェームスはまた、唯一、輝ける爆弾の元へ旅立っていく。そんな彼の後ろ姿は、戦争が作り出した「化け物」に他ならない。形は違えど「地獄の黙示録」のカーツ大佐と大差はない。
この映画、賛否両論あるだろうし、なかには国威発揚映画、などと取る人もいるかもしれない。だが、監督はそんなことを意図してはいないだろう。
人間の心を壊し、化け物に変えてしまう戦争の恐ろしさを痛感されられた。アカデミー賞受賞も納得。女性でありながらこんなにも骨太の映画を作ってしまうキャスリン・ビグローには恐れ入った。女性特有なやさしい視点を、微塵も感じさせないカラッカラに乾いた作風に、「この女監督、男よりも男らしいわ」と実感。ドラマチックなラブ・ストーリーがお得意のキャメロン監督の作品のほうがよっぽど女らしい。こんなに視点の違う男女がうまくいくわけないですね。など、監督の私生活や性格にも興味を抱いてしまった。2010.3
バッド・ルーテナント THE BAD LIEUTENANT: PORT OF CALL NEW ORLEANS
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、ニコラス・ケイジ、エヴァ・メンデス、ヴァル・キルマー出演☆舞台はハリケーン直撃後のニューオーリンズ。水につかった刑務所で逃げ遅れた囚人に、汚い言葉を浴びせる二人の刑事テレンスとフランキーは、見るからに悪徳刑事である。だが、テレンスは突然、スーツを脱ぎ捨て、囚人を助け出す。
このことがきっかけで警部補(ルーテナント)に昇格するが、テレンスは改心したわけではない。セネガルからの不法移民家族惨殺事件の捜査の最中も、ドラッグをギャングからせしめ、愛人と一緒にラリっている始末。まもなく事件の主犯と見られる男に行きつくが、テレンスは、ドラッグ欲しさに主犯の男に協力し始める。
「テレンスは善人か、それとも悪人か?」そう問われたら明らかに彼は悪人だ、と答えたい。悪党を上回る罪悪感の欠如、世の中を小バカにした振る舞い等々、かなりたちが悪い。刑務所に数年ぶち込まれたぐらいでは公正させるのは無理なほど根が深い。でも、その悪っぷりが逆に大きな魅力でもある。
映画は、いきなり洪水の泥水の中をヘビが泳ぐシーンで始まる。
これがいったい何を意味するのか分からなかったが、見終わってしばらくたってから「あの蛇はテレンスの分身だったのだ」と思い返す。
そんな蛇のような男テレンスを演じたニコラス・ケイジは、ものの見事にぴったりとはまっていた。
もともと爬虫類系の顔してるし、「ワイルド・アット・ハート」では蛇柄のジャケット着ていたし、「リービング・ラスベガス」ではアル中を熱演していたし…。これは適役だな、と、見る前から想像はしていたが、期待通り、さすが!の演技で大満足である。
幻覚で登場するイグアナやワニ。その爬虫類の肌感がリアルに画面から伝わってきて鳥肌が立った。
正直、ヘルツォーク作品の割にはノーマルな作品で、衝撃度には欠けたが、ニコラス久々の怪演と、ジメジメとしたニューオリンズの雰囲気&幻覚ワールドを楽しめたのでマル。ニコラスにはこれをきっかけに演技派に戻ってほしいけど…。借金地獄に陥ってるらしいから、作品選んでる場合じゃありませんね^^;2010.2
参考CINEMA:「フィツカラルド」「小人の饗宴」
ハックル HUKKLE
パールフィ・ジョルジ監督、バンディ・フェレンツ出演☆舞台はハンガリーの小さな村。おじいさんのしゃっくりに反応するかのように、村に住む動物、昆虫、そして人々はゆっくり動きだす。
セリフがまったくない中で、村の日常が静かに進行していく作風に、正直ついていけなかった。時差ボケ状態で見てしまったので、その面白さを実感する前に寝てしまった。大失敗。2009.7
花の生涯〜梅蘭芳 MEI LANFANG
チェン・カイコー監督、レオン・ライ、チャン・ツィイー、スン・ホンレイ、安藤政信出演☆幼少の頃から京劇の女形のスターとして活躍していたメイは、彼の演技に魅せられた演出家と出会い、新しい演劇に目覚めていく。一方で、男形女優モン・ツァオトンと強く惹かれあい…。
カイコー監督と京劇、といえば「覇王別姫」だが、レスリーに負けず劣らず、レオン・ライも色気たっぷりに女形を演じていて惹きこまれた。ただ、ストーリーはあまりにも予定調和で、後半の展開はがっかり。チャン・ツィイーとの許されぬ愛も中途半端だし、日本軍との関係も…。前半30分のしっとり感がよかっただけに残念です。2009.7
パラノイドパーク PARANOID PARK (07年・米)
ガス・ヴァン・サント監督、クリストファー・ドイル撮影、ゲイブ・ネヴィンス、ダン・リウ出演☆ポートランドにあるパラノイド・パークには、毎晩のように若者がスケートボードを手に集まってくる。その中の一人の少年の元に刑事が訪れた。死亡事件があったある晩のことを聞きに来たのだ。少年は、無表情で刑事の質問に答え始める…。
美少年、思春期の心の闇、ドキュメンタリー風の構成…。
すべてにガス・ヴァン・サントらしさが詰まっている。
目新しさといえば、クリストファー・ドイルのカメラワーク。色づかいが独特で、こちらもドイルらしさが感じられた。
今回も主役の美少年は素人をスカウトしたらしいが、目が印象的で、放っておけない危うい魅力があった。テイストは違うが、ヴィィスコンティの「ベニスに死す」の美少年を彷彿とさせる。
ほぼ予想通りの作品で「エレファント」を見たときのように、何か胸の奥に詰まったものがこみ上げてくるような感覚はなかった。
でも、二人のアーチストの技は光っていたし、何よりも主役の少年が美しかったので、それだけで十分満足です。2008.2 参考CINEMA:「グッドウィル・ハンティング」「小説家を見つけたら」「ジェリー」「エレファント」
パリ20区、僕たちのクラス THE CLASS (ENTRE LES MURS)
ローラン・カンテ監督、フランソワ・ベゴドー出演☆2008年のカンヌ・パルムドール作品を一足早くサンパウロで鑑賞。
正直、見る前から「フランス映画お得意のセリフ中心の1幕物だろうから、フランス語はもちろん、ポ語字幕がほとんど理解できない私にとっては、拷問のような2時間になるかも」と予想していた。
で、ほぼ予想的中。教育熱心な先生と、突っかかる生徒たちのやりとりは、何が何だかさーっぱりわからず。でも、あーいえばこういうヘリクツ学生たちに先生が手を焼いている、ということだけは理解できた。
さらには、生徒たちの多くが労働者階級で、アフリカや、アジアからの移民が多数をしめ、家に帰っても親との会話に乏しく愛情に飢えているのだ、ということも。
様々な移民が暮らすフランスならではの教室風景であり、それはまたここブラジルでも同じことである。
2年前、ブラジルの公立学校で話をしたときにみた子供たちの顔ぶれによく似ていて、あのときの緊張を思い出してしまった。
日本の学校もの、といえば、熱血教師が、反発する子供としっかり対峙し、愛情のうすい親や頭の固い教頭と戦いながら子供との交流を深めていく涙涙の物語が定番なのだが、この映画は、かぎりなくドキュメンタリーに近く、大きなドラマも起こらない。
唯一のドラマは、アフリカ移民の悪ガキが問題を起こし、言葉のわからない母を連れて、裁判にかけられ、結局、学校を去っていく場面。
だが、ここでも、教師や生徒は泣きながら追いかけもせず、無力感にさいなまれることもない。
その欧米的な冷たさ、突き放し方は、日本の学園ものに見慣れている私には、逆にとても新鮮に映った。
ただし、もともと理屈っぽいフランスものが苦手なので、たとえ日本語字幕付きで見たとしても、好きなタイプの映画とは言えないのだが…。
ショーン・ペンがカンヌで、この映画をパルムドールに選んだのだから、質に間違いはないのでしょう。2009.4.17
ハリウッドランド HOLLYWOODLAND
アレン・コールター監督、エイドリアン・ブロディ、ダイアン・レイン、ベン・アフレック、ボブ・ホスキンズ出演☆1959年6月16日、人気テレビ番組「スーパーマン」の主演俳優ジョージ・リーブスがハリウッドの自宅で拳銃自殺した。
リーブスの母から事件の真相を突き止めてほしい、と依頼された探偵ルイスは、死んだリーブスとハリウッドの大物プロデューサーの妻が不倫関係にあった事実を突き止める。
華やかな時代の光と影にスポットをあてたサスペンスといえば、名作「LAコンフィデンシャル」や「ブラック・ダリア」が思い出されるが、この作品もその路線。当時の華やかさを再現し、女たちの甘美なドレスや髪型などを楽しむと同時に、権力者たちの裏の顔も浮き彫りにしていく。
二流のTVスターを演じたベン・アフレック、彼に夢中になる権力者の妻を演じたダイアン・レイン、そしてその夫役のボブ・ホスキンスがそれぞれいい味を出している。ダイアン・レインは老けメイクしていたようだが、美しいけど寂しげな上流階級の中年女そのもの。顔だけじゃない演技派美人女優として、見事に復活したようだ。
役者はそれぞれ持ち味を出してよかったのだが、過去と現在がいったりきたりのタイミングが悪くて、見ていて不快感あり。この構成はサスペンスものによくあるパターンなのだが、場面展開は重要だ。探偵が事件を追いながら事実を想像していくのだが、見る側の「知りたい」という欲求とフラッシュバックが、チグハグでとっちらかってる感じ。
「ゾディアック」と「LAコンフィデンシャル」はタイミングが絶妙だったよなあ。などと、他の作品とついつい比べてしまった。
役者陣が豪華だっただけに残念!2008.8
バーン・アフター・リーディング BURN AFTER READING
イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン監督、ブラッド・ピット、ジョージ・クルーニー、ジョン・マルコヴィッチ、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィントン出演☆元CIA職員のオズボーンは、極秘情報の暴露本の執筆に取り掛かる。ところが、その原稿の入ったメディアをフィットネスジムーのスタッフが拾ったことから、事態は意外な展開に…。
出会い系サイトにはまり全身整形手術の金がほしいジムのスタッフ、その片腕の脳天気男、出会い系サイトで女と遊びまくる財務省職員、アル中の元CIA職員…。彼らの人生が絶妙に絡まりあう犯罪コメディ。
人間の軽さ、いい加減さ、残酷さを面白おかしく料理しているのはコーエン兄弟らしいのだが、初期の作品で見られた陰湿さが欠けていた。「ブラッド・シンプル」「バートン・フィンク」「ファーゴ」の、あの何ともいえないネバネバ、ジトジトした質感が好きだったので、最近の彼らの作品の乾いた感じがどうも馴染めない。
役者も豪華で楽しいのだけど、ひょっとして、イーサンとコーエンで担当分けしてて、どちらかの作品が乾いているのでしょうか?2009.12 参考CINEMA:「ファーゴ」「ノーカントリー」
母なる証明 MOTHER
ポン・ジュノ監督、キム・ヘジャ、ウォンビン、チン・グ出演☆知的障害を持つ息子トジュンが、女子高生殺人事件の容疑者として連行された。息子を溺愛する母は、警察に通い、トジュンの無実を証明しようとする。
知的障害者を扱った映画は韓流のお得意分野だし、監督もポン・ジュノということでかなり期待して見に行ったのだが、思ったよりも衝撃度の少ないシンプルな母子の物語だった。
日常生活は送れるが、記憶障害が強い息子の事件。
ほかに真犯人がいる、と信じて疑わない母のその必死さは観客にも伝染し、冷静に事件を俯瞰することすらできない。
なんたって息子役は澄んだ瞳を持ったイケメンのウォンビンだし。
事件の真実が明らかになり、母と息子、二人だけの秘密を共有することになるのだが、この展開は「推定無罪」を彷彿とさせた。ハラハラドキドキ感も十分で、母と息子、それぞれの心理描写も素晴らしい。サスペンス・ドラマのお手本のような作品である。ただ、それ以上の“何か”を期待していただけに、少々物足りなさも感じてしまった。
異常とも見える激しい母性を持つ女を演じた女優の演技も必見だが、もっとも強く印象に残ったのは、息子の身代わりになったダウン症の男と母の対面シーン。母だけでなく一観客であった自分自身も、ウォンビンが演じたルックス抜群のかわいい息子に肩入れしていただけに、このラストシーンは、自分が持っている差別意識を突きつけられた感じがして、バツの悪い気分にさせられた。
この場面はメイン・ストーリーから外れてはいるのだが、なんたって監督はあのポン・ジュノである。この小さな一場面に、監督の社会的メッセージが込められていた気がした。参考CINEMA:「殺人の追憶」「グエムル -漢江の怪物-」
パブリック・エネミーズ PUBLIC ENEMIES
マイケル・マン監督、ジョニー・デップ、クリスチャン・ベイル、マリオン・コティヤール出演☆舞台は大恐慌の20年代。大胆に銀行を襲う強盗団の頭ジョン・デリンジャーは、社会のアンチ・ヒーローとしてマスコミを賑わしていた。そんなデリンジャー逮捕のために、警察は州を超えた捜査が出来るようシステムの改善を訴える。
ラスト30分のジョニー・デップは最高にかっこよかったのだが、そこに行き着くまでが難あり。デリンジャーという大強盗の魅力もさっぱり伝わってこなかったし、彼がなんであんなに仲間や女を大事にしたのかも解せなかった。人物描写があまりにもお粗末ということだろう。
ドンパチ・シーンは迫力があって、さすがマイケル・マン監督なのだが、深みのなさは相変わらず。ジョニーの肌の荒れが気になり、すっかりオッサンになっちゃったなあ、なんて、どうでもいいことで嘆いてしまった。ジョニーには、原点に戻り、もっと作品を吟味して出演して欲しい。ジャズの名曲「バイバイ・ブラックバード」は粋に使われていて好感が持てたのだが、全体的には残念!の出来でした。2010.1
パリ、ジュテーム PARIS, JE T'AIME
ガス・ヴァン・サント、コーエン兄弟、ウォルター・サレス、クリストファー・ドイル、イザベル・コイシェ、諏訪敦彦ほか監督、スティーヴ・ブシェミ、カタリーナ・サンディノ・モレノ、ニック・ノルティ、ボブ・ホスキンスほか出演☆18人の監督がパリの街を描いた短編集。歴史を感じさせる洒落たカフェや街角は印象に残ったが…。CMっぽかったです。2010.1
ハサンとマルコス
ラミ・イマーム監督、オマー・シャリフ、アーデル・イマーム出演☆キリスト教徒とイスラム教徒が混在する街カイロで暮らすキリスト教の牧師ボロスは、過激派から命を狙われる。警察から、イスラム教徒と偽って暮らすよう指示されたボロスは家族とともにイスラム教徒の振りをする。一方、隣人のマフムードは、イスラム教徒でありながらキリスト教徒の振りをして暮らしていた。
宗教を偽って暮らす二組の家族の交流をコミカルに描いた宗教コメディ。こういう設定は日本ではあり得ないので、興味深く見れた。アラブならではのコメディ。あまりに展開が予定調和で、先が読めて飽きてしまったが、名優オマー・シャリフ主演のコメディ映画なんてそう見る機会もないので、居眠りせずにしっかりと最後まで鑑賞。
あまりにコッテコテのお笑いなので、宗教対立を茶化したまま終わるのかと思ったらすっとこどっこい。宗教対立が激化し、暴徒化した人々の間を二家族が手をとって歩くラストシーンは涙…。宗教対立へのアンチテーゼが込められたコメディ映画を、エジプトの人々はどんな気持ちで鑑賞したのだろう。キリスト教の牧師を演じたアーデル・イマームは、エジプトのコメディ王とのこと。役者も豪華で暴動シーンも迫力があり、エンタメ作品としては見ごたえあり。2009.10
東京国際映画祭にて
遥かなるクルディスタン JOURNEY TO THE SUN
イェシム・ウスタオウル監督、ニューロズ・バズ、ナズミ・クルックス出演☆田舎育ちのメフメットは、暴漢に襲われたところを助けてくれたクルド人のベルザンと親しくなる。肌が黒いというだけで、クルド人と間違われ、何かと差別されるメフメットは、ある日、バスで隣に座った男から知らないうちに拳銃をバッグに入れられ、警察に捕まってしまう。暴行を受け、傷ついたメフメットは、釈放されてからも、迫害を受けるようになる。
純朴なトルコ青年と、虐げられるクルド人たちを支える勇敢な若者の交流を真摯に描いた感動作。多民族国家における少数民族への迫害は、世界各国共通の問題となっているが、日本で暮らしていると、あまりにも実感が薄く、スクリーンの向こうの別世界のお話、としか考えられない。それはいいことなのか悪いことなのか…。ただ、トルコでもイラクでも、イランでもクルド人は苦しめられているのだ、という現状だけは、頭にしっかりとインプットしておきたい。
親友ベルザンがどれだけ辛い思いをしてきたか、自分が無実の罪で捕まって始めて実感したメフメット。彼はベルザンの亡きがらと共に、ベルザンの故郷へ向かう。
道中出会った人々のちょっとしたやさしさにウルウルしながら、彼の旅を見守っていたが、無残な故郷の姿に絶望しながらも、気丈に、棺を流すメフメットの姿を頼もしく感じた。彼はきっと、ベルザンの思いを継いでくれるだろう。そんなささやかな希望が唯一の救いだった。2010.1
(ザ)・バンク 堕ちた巨像 THE INTERNATIONAL
トム・ティクヴァ監督、クライヴ・オーウェン、ナオミ・ワッツ、アーミン・ミューラー=スタール出演☆インターポール捜査官サリンジャーは、国際銀行IBBCとイタリアの武器製造会社との取引の証拠をつかみ掛けた矢先、目の前で同僚が殺害される事件が起こる。
サリンジャーはNYの女検事と共に、ベルリン、フランス、ミラノ、ニューヨークと、世界を飛び回り、事件の真相に迫っていく。
世界の観光地を舞台にした国際犯罪ドラマ。ハラハラドキドキのエンタメ・サスペンスで、「グッゲンハイム美術館で殺し屋一人殺すためにいきなり激しいドンパチってあり?」「大銀行の頭取が運転手もガードもつけないで取引に行くかなあ?」などなど、細かい部分で突込みどころも多く、雑な作りが少々気になった。
でも、マネー・ロンダリングをしている巨大銀行が、武器の仲介を行い、アフリカの国々を借金漬けにして支配しようとしている、という設定は興味深かった。「銀行は、借金が増えれば増えるほど力を持つ」という台詞に納得。金貸して、利子で儲けてるのが銀行ですからねえ。もし、こんなことが事実だったら恐ろしけど、ありえない話ではないかも。「俺が死んでも終わらない。誰かが引き継ぐだけだ」という頭取の命乞いの言葉には、思わず頷いてしまった。2010.2
パイレーツ・ロック THE BOAT THAT ROCKED
リチャード・カーティス監督、フィリップ・シーモア・ホフマン、トム・スターリッジ、ビル・ナイ、ケネス・ブラナー出演☆舞台は1960年代のイギリス。ロックやポップスは不良の音楽と言われてていた時代、法律が及ばない北海に、24時間ロックを流し続ける海賊ラジオ局があった。母親の勧めで海賊ラジオ局に送り込まれた高校生のカールは、そこで暮らす個性豊かなDJたちから様々なことを学んでいく。
海賊ラジオ局が実在した、というのがまず驚き。禁止されればされるほど、人はのめり込んでいくものだが、当時は大人の目を盗んでラジオを聴くことが若者たちをドキドキワクワクさせていたのだろう。何でも自由に手が入ってしまう飽食の時代を生きる今の若者は、ある意味不幸なのかもしれない。何はともあれロックは最高!と思える気持のいい音楽映画だった。2010.5
春との旅
小林政広監督、仲代達矢、徳永えり、大滝秀治、菅井きん、小林薫、田中裕子、淡島千景、柄本明ほか出演☆北海道の漁村で祖父・忠男と暮らす春は、仕事を失い、東京に出ることを決意。足が不自由でわがままな祖父の面倒を見てくれる親戚を探すため、二人で旅に出る。だが、豪農の兄は、放蕩な弟・忠男に辛くあたり、もうすぐ老人ホームに行くことになった、と告げる。
日本を代表する役者たちの名演技、リアルな老後問題の切り取り方等々、すべてが一流で非の打ちどころのない良質な日本映画だ。孫娘とわがままな祖父が、黙々と決して明るくない未来に向けて歩いていく後ろ姿が印象に残った。ヒョコヒョコとガニ股で歩く春ちゃんのあの歩き方に、祖父と孫娘との強い絆を感じた。あんな純真な孫娘は、今どきいないだろうけど、唯一、現実的ではない存在の春に、小さな希望が込められている気がした。2010.6
ビバリーヒルズ・チワワ BEVERLY HILLS CHIHUAHUA
ラージャ・ゴスネル監督、ジェイミー・リー・カーティス、ホセ・マリア・ヤスピク、ドュー・バリモア(クロエの声)出演☆ビバリーヒルズの豪邸に暮らすチワワのクロエはメキシコで迷子犬になってしまう。犬が本当にしゃべっているようにみえるのには驚き。特撮、進化してますねえ。お話は昔みた「ベンジー」と同じようでした。犬たちがかわいかったのでマル。2010.10
ヒットマンズ・レクイエム IN BRUGES ★
マーティン・マクドナー監督、ブレンダン・グリーソン、コリン・ファレル、レイフ・ファインズ出演☆アイルランドのヒットマン二人組はベルギーの古都ブルージュにやってきた。仕事の依頼を待つ間、中年ヒットマンは観光を楽しむが、若いヒットマンは、映画の撮影現場で知り合った女性をナンパするなど、行動が落ち着かない。実は、この男は、誤って子供を殺してしまったトラウマに苦しんでいたのだ。
一方、中年ヒットマンは、ボスからの仕事の依頼を受け愕然とする。それは、相棒を始末しろ、というものだった。
ディズニーランドのようなかわいいベルギーの街ブルージュに殺し屋二人、という不釣り合いな設定がまず面白い。そして、人生に疲れた感のある中年殺し屋と、危なっかしい若い殺し屋の乾いた関係性が絶妙だ。相棒の殺害依頼を受けた中年は、初めは、仕事と割り切って撃とうとするのだが、自殺をしようとする彼をみて、つい人道的に助けてしまう。そこから、二人の人間的な交流が始まるのだ。
さらに後半には、曲がったことが大嫌いな非情なボスも登場し、3人の追いつ追われつが始まる。3人のキャラと絡まり方、ウィットにとんだ台詞が面白くて、グイグイ話に引き込まれた。
これだけよくできた犯罪コメディが日本公開されていない、ということが、最近の洋画不況を物語っている。主演のコリン・ファレルはこの映画でいろいろと賞をとったようだが、中年殺し屋を演じたブレンダン・グリーソンが素晴らしい! 壮絶な最期を迎えるクライマックスでは、おもわず涙、でした。
めずらしく悪役のレイフ・ファインズもびっくりするほど荒っぽくて存在感あり。中年二人のいぶし銀役者にアッパレです。2010.1
悲夢
キム・ギドク監督 レビューはCINEMAの監督たち(K・ギドク)へ
フラメンコ フラメンコ
カルロス・サウラ監督、ビットリオ・ストラーニ撮影☆長年に渡ってラテン音楽やダンスを探究し、華麗な映像美で人々を魅了してきたスペイン映画界の巨匠カルロス・サウラ監督が、史上最高のフラメンコ歌手、ダンサー、そしてギタリストたちを集めて一つの映画にした。アンダルシア出身の名歌手ホセ・メルセ、フラメンコ界のカリスマとして世界に知られるダンサー、サラ・バラス、スペインを代表するギタリスト、パコ・デ・ルシアらが、華麗なパフォーマンスを披露する。狂おしいほどに情熱的なフラメンコの世界をドラマチックに描いたダンス&音楽ドキュメンタリーである。
フラメンコは映画も舞台もまともに見たことがなかったのだが、踊りから演奏まで、さまざまな形のフラメンコがあることをこの映画を見て初めてしり、発見の連続だった。演奏はもちろん映像も、どこを切り取っても一級品。これぞ芸術!こんなに豪華なアーチストを集められるサウラ監督の偉大さに敬服した。家宝にしたい1本だ。2010.9 ラテンビート映画祭2010にて
フェアウェル さらば、哀しみのスパイ L'AFFAIRE FAREWELL
クリスチャン・カリオン監督、エミール・クストリッツァ、ギョーム・カネ、ウィレム・デフォー出演☆舞台は1981年のソビエト連邦。グリゴリエフ大佐は、社会主義体制末期の自国の行く末に不安を覚え、息子たちの世代のために、危険なスパイ活動に手を染める。大佐が接触したのは、フランスの技師ピエール。彼は大佐の熱意と人柄に触れ、西側にソ連の情報を提供し始める。
実在したスパイ、フェアウェルとフランス人技師との心の交流と、ソビエト対西側諸国の緊迫した関係が丁寧に描かれていた。展開は少々、予定調和ではあったが、クストリッツアのなりふり構わないスパイぶりは圧巻。何をやっても存在感のある御方です。誰がスパイかわからない社会で暮らすと、人を疑うのが日常になり、人間不信に陥る。崩壊間近の会社に短期間通ったとき、他人への不信感が募って心が荒んだことがあったが、ソ連のような国で暮らすということは、その緊張状態を職場でも街中でも家の中でさえ持たなければならないこと。想像しただけで息がつまりそうだ。
冷戦下のスパイ活動はいろいろと映画化されてきているが、この映画は中でもかなりインパクトがあった。2010.7
ファイティング・シェフ EL POLLP, EL PEZ PEZ Y EL CANGREJO (スペイン)
ホセ・ルイス・ロペス=リナレス監督、ヘスース・アルマグロ、セルジュ・ビエラ出演☆2年に1度、リヨンで開催される料理オリンピック“ボキューズ・ドール国際料理コンクール”に挑むスペイン代表の奮闘を描いたドキュメンタリー。
F1レースのように多くのスタッフが関わっていて、応援も派手なのには驚いた。味で勝負というよりは、いかに斬新かつ手をかけているか、といった発想と技術が競われている感じ。料理の世界も奥が深そう。スペイン代表は優勝できるのか?それは見てのお楽しみ。2010.12
プラネット・テラー in グラインドハウス PLANET TERROR
ロバート・ロドリゲス監督、クエンティン・タランティーノ製作、ローズ・マッゴーワン、フレディ・ロドリゲス、ブルース・ウィリス、ジョシュ・ブローリン、マイケル・ビーン出演☆テキサスの田舎町で、怪しげなガスを吸った人間がゾンビ化。病院には、ゾンビに足を食いちぎられたダンサーのチェリーや、ゾンビ化した人間が次々に運び込まれる。
ゾンビ映画を久々にみたので笑ってしまった。「マテェーテ」には劣るが、そのチープ感が最高。中年保安官がマイケル・ビーンだったとはまったく気がつかず。すっかりオジサンになったなあ。逞しい女たちがかっこよかったのがGOOD。この「グラインドハウス」シリーズ、続けて欲しい気もするが…、3本ぐらいがベストなのかも。2011.1
プリズン211 CELDA 211
ダニエル・モンソン監督、ルイス・トサル、アルベルト・アンマン、マルタ・エトゥラ出演☆刑務所の看守となったフアンは、着任前日に職場見学へ行った先で暴動に巻き込まれ、一人、刑務所に取り残されてしまう。咄嗟の判断で囚人を装った彼は、暴動の中心人物から信頼を得ようと近づくが、側近の男に怪しまれてしまう。囚人たちは、同じ刑務所に収監されていたバスク人のテロリストを人質に、警察に様々な要求を出す。一方、フアンの妻は、連絡のない夫を心配して刑務所にむかう。
フアンは脱出できるのか?、フアンの身元はばれないのか?、といったハラハラドキドキ感はハリウッドの娯楽大作風で超シンプル。
だが、バスク人のテロリストを殺されたら国が戦争になってしまう、というお国の事情を絡めていたり、看守の暴力がフアンの身重の妻にも及ぶなど、刑務所の中だけでは終わらない設定も面白い。後半は、フアン自身が囚人たちの中心となり、暴動の中心人物との友情も芽生えるのだが、そこまでの流れも自然で説得力があり、最後まで飽きずに見ることができた。
ゴア賞総ナメも納得。スペインの刑務所ではあっても、アルゼンチンのユニフォームを着ている囚人がいたり、アンデスのインディオ風な顔つきも大勢いて、スペインにも南米から多くの移民が流れこんでいることがうかがえ興味深かった。2010.11
フリー・ゾーン
アモス・ギタイ監督、ナタリー・ポートマン出演☆恋人の家族に会いにイスラエルを訪れたアメリカ人女性は、彼の親類のイスラエル人と車でヨルダンへ向かうはめになる。厳しい検問のある国境をなんとか乗り切った二人。だが、商談相手は姿を消し、代理の女性がいるだけだった。
立場の違う3人の女性の偶然の出会いを通して、イスラエルと周辺諸国の微妙な関係を描いている。3人の女たちの会話が一般的な内容ではないので、半分ぐらいはよくわからなかったのだが、生きぬいていくために人々は必死なのだ、ということだけは伝わってきた。トリフォー映画のようなしゃれた感じもいい。いろんなメッセージが込められている作品だというのはわかったのだが…。中東は複雑です。2010.7
ブラザーズ・ブルーム
ライアン・ジョンソン監督、エイドリアン・ブロディ、マーク・ラファロ、レイチェル・ワイズ、菊地凛子出演 ☆詐欺師の兄弟は、富豪の箱入り娘に近づきカモにしようとする。だが、お人よしの弟はその娘に恋をしてしまう。豪華キャストの割に、作りはB級。マーク・ラファロは、頭の切れる詐欺師の兄を演じているのだが、とくに魅力も感じず。日本未公開も納得の中途半端なコメディだった。2010.4 脇役たち(マーク・ラファロ)
プレシャス PRECIOUS
リー・ダニエルズ監督、ガボレイ・シディベ、モニーク、ポーラ・パットン、マライア・キャリー、レニー・クラヴィッツ出演☆舞台は1987年のニューヨーク。暴力的な母と暮らす高校生のプレシャスは、数学教師とのロマンスや、愛情にあふれたやさしい母を空想することで、救いのない日々から逃避する毎日を送っていた。ある日、校長から呼び出されたプレシャスは、2度目の妊娠を追求され、フリースクールへ行くよう勧められる。
プレシャスは、時々やってくる父親からレイプされ続けていたのだ。
母からの執拗な言葉の暴力に耐えながらもフリースクールへ通うことで、人生に希望を持ち始めたプレシャス。だが、子供を出産した直後、父親がエイズで死に、自分にも感染していることを知ってしまう。
学校ではデブと罵られ、読み書きもできず、家に帰れば母からの執拗なDV。そして父親からはレイプ…。あまりにも悲惨すぎる現実。
それでも、下を向かないプレシャスの逞しさには、ほんと頭が下がります。
母親が「お前なんか勉強したってしょうがない」と執拗に罵られるシーンは、まるで自分が言われているような気分になり、恐ろしくなった。モニークの助演女優賞も納得、の迫真の演技だった。
こういった執拗な暴力に日々さらされていると、自分に自信がなくなり、ビクビク怯えながら生きざるを得ないのだろう。
そんな中でも、プレシャスは強く逞しく、下を向かない。お金がなくてお腹がすいた時は無銭飲食しちゃったりするが、それ以外は、悪いことに手を出さないし、悪い友達にすり寄ったりもしない。
そして、フリースクールで素晴らしい先生と出会い、友人もできるのだ。
少々現実離れした予定調和な展開だとは思うのだが、現実にDV被害にあっている人々へ「負けないで!」とエールを送りたい、という作者の意図が感じ取れた。
個人的には、鬼畜の母親が福祉課職員の前で、「あたしだって愛してほしかったんだよ…」と自分を憐れむシーンが、もっとも強く印象に残った。彼女の言葉に“リアル”がすべて詰まっている気がして、重く受け止めた。
スッピンのマライア・キャリーは、初めて見たけど、普通の女性でびっくり。あの姿で町を歩かれたら誰もマライアとは気付かないわ〜。レニー・クラビッツは、そのまんまかっこいい看護師役でステキでした。などなど、脇役の豪華さも十二分に楽しめた。
黒人映画らしいヒップホップな感じの映画を想像していたのだが、まったく違い、真摯でストレートな青春映画だった。2010.6
不都合な真実 AN INCONVENIENT TRUTH
デイヴィス・グッゲンハイム監督、アル・ゴア出演☆ブッシュと大統領を争ったアル・グアが強い信念を持って世界の温暖化を訴える骨太のドキュメンタリー。
地球がいかに危機的状況にあるかをわかりやすく解説していて、とても勉強になった。ゴア氏が、あの史上まれにみる大統領戦で勝っていたら、今のアメリカはもうちょっとマシになってたかも…。たられば、をいまさら言っても仕方ないのだが…。温暖化対策はやはり大事なことだ、と肝に銘じた。2010.1
PLASTIC CITY プラスティック・シティ
ユー・リクウァイ監督、ジャ・ジャンクー製作、オダギリジョー、アンソニー・ウォン 出演☆サンパウロの中華系裏社会を仕切るユダに育てられた日系人キリンは、ユダへの恩を忘れず、危険な仕事に手を染めるようになる。
舞台は2008年のサンパウロ、リベルダージ。自分はそのときその場所で暮らしていたのだが、映画のような怪しげな雰囲気は感じない雑然とした汚い町だった。 何でもありの多文化都市サンパウロらしさが、画面からほとんど伝わってこなかったので少々拍子抜けしたが、監督は、ウォン・カーウァイのような非現実性を追求したかったのかもしれない。
なぜ舞台をブラジルにしたの?中国でもよかったのでは?、という疑問は残るものの、ポルトガル語がたっぷり聞けたのでよしとしよう。資料には出てないけどブラジルの若手実力派俳優Sidney Santiago( 「os 12 trabalhos」など)がジョーの親友役で出演。一度みたら忘れないゴリラ・マンBabu Santanaもちょい役で出てました。2009.11
ブラッド・ブラザーズ 天堂口 BLOOD BROTHERS
アレクシ・タン監督、ジョン・ウー製作、ダニエル・ウー、スー・チー、チャン・チェン、リウ・イエ出演☆農村から上海へ出てきたばかりの青年フォンは、友人のフーとその兄カンとともに、ナイトクラブ「天国」で働きはじめる。オーナーの愛人で女優を夢見るルルに、フォンは一目ぼれするが、オーナーの用心棒も、ルルを愛していた。
20年代の上海を舞台にした青春ノワール。ダニエル、チャン・チェン、そしてリウ・イエがそれぞれぴったりのはまり役。スーツに帽子がよく似合ってて、かっこいー!男たちに惚れられるルルを演じたスー・チーも魅力的で、エンタメ作品として単純に楽しめた。やっぱりこういう定番ものは華のある男女がやらないとねえ。ワクワク、ドキドキはしなかったけど、手堅いノワール映画だった。2010.1
フロスト×ニクソン FROST/NIXON
ロン・ハワード監督、フランク・ランジェラ、マイケル・シーン、ケヴィン・ベーコン、レベッカ・ホール、オリヴァー・プラット、サム・ロックウェル出演☆任期途中で職を追われたニクソン元大統領は、英国の人気テレビ司会者フロストから、単独インタビューの話を持ちかけられる。だが、大手テレビ局は、堕ちた権力者と3流司会者のインタビュー番組に興味を示さない。フロストはスタッフを集め、番組を自主製作することを決意。
だが、インタビュー当日、いきなりニクソンに先制パンチを食らう。
大物政治家ニクソンの自信に満ちた鼻っ柱をどうへし折るか、が見ものの一幕モノ。しゃべりすぎたニクソンの自爆っぽくも見えるのだが、司会者の力も素晴らしい。ジャーナリストを目指す人にはいいお手本になりそうな映画です。ニクソン役のランジェラは貫禄十分で恐ろしかったです。2010.1 参考CINEMA:「シンデレラマン」「エドTV」「ビューティフル・マインド」「ダヴィンチ・コード」
ふたりの人魚 蘇州河
ロウ・イエ監督、ジョウ・シュン、ジア・ホンシュン出演☆舞台は変わりゆく上海。人魚に扮して水中を踊るダンサー、メイメイの前に、ある男が現れた。男は、かつて愛した少女ムーダンと瓜二つのメイメイを、ムーダンと思いこむ。
キュートな少女とバイク便の青年の悲恋を、少女にそっくりな娘に恋した男を語り部にして展開する恋物語。瓜二つの女メイメイは「人魚になりたい」といって川に飛び込んだムーダンなのだろう、と思わせておいて…。意外な展開に少々面食らったが、自分の分身のような人間も、広い地球にはどこかに存在しているのかもしれない。メイメイを演じた南果歩似の女優が超キュート。奔放な少女に振りまわされる男の物語は正直苦手なのだが、この映画は、見終わった後、少しだけやさしい気持ちになれた。2010.3
ファーストフード・ネイション FAST FOOD NATION
リチャード・リンクレイター監督、ジェレミー・トーマス、マルコム・マクラーレン製作、グレッグ・キニア、イーサン・ホーク、パトリシア・アークエット、カタリーナ・サンディノ・モレノ、アシュレイ・ジョンソン、ブルース・ウィリス出演☆バーガー・チェーン店「ミッキーズ」のマーケティング部長ドンは、パテから糞便性大腸菌が検出されたことを知り、パテ工場に調査に向かう。
その工場には、メキシコから不法入国してきた労働者が、低賃金重労働で働いていた。
バーガーチェーン本社の社員、下請け工場で働く工員、そして、バーガー店で働くバイト。3者の視点からファーストフード・チェーンの実態に迫った社会派コメディ。
国境越えをしてまでもアメリカで働かざるを得ないメキシコ人、男に弄ばれ、薬づけになる若い工員、気に入らない客のバーガーに唾を入れながら、つまらなそうに働くバイト生などなど、リアルな実態が描かれていて、興味深かった。
社会派ではあるが重苦しさはないので、「あるある、こういうこと」なんて笑いながら見れるのがいい。
ただ、工場で牛たちが、無情にさばかれていくいくシーンにはつい目を覆ってしまった。
でも、ああやって解体された肉を、私も日々おいしく頂いているわけだし…。
工場内で怪我した不法労働のメキシコ人に、経営者が「体から違法ドラッグが検出された」と通告するシーンを見て、こうやって会社はずる賢く人を遣っているんだろうなあ、と実感。
相撲協会の検査だってどこまで本当かわかりゃしないね。
キャストが超豪華で、チョイ役に大物が出てる面白さあり。ブルース・ウィルスなんて1シーンだったが、インパクトあり。2008.8 参考CINEMA;「スクール・オブ・ロック」
フローズン・リバー FROZEN RIVER (08年・米)
Courtney Hunt監督、メリッサ・レオ, Misty Upham, Michael O’Keefe出演☆カナダとの国境付近で暮らすレイの夫が、突然失踪した。二人の子供を抱え、生活に困り果てたレイは、夫の車を見つけ追跡。だが、持ち主はモホーク族居住区に住むトレーラー暮らしの女リラだった。二人の女は、生活の糧をえるため、カナダからアメリカへの不法入国者の運び屋を始める。
夫に突然去られ、前向きになれない主婦が犯罪に手を染める、というパターンは、よくある話ではあるのだが、そこにモホーク族の人々の暮らしぶりや、子供を思う母の気持ちをうまくからめ、心理描写も丁寧で、好感のもてる人間ドラマに仕上がっていた。
暗闇の中、氷の川を車で渡る女二人の不安と緊張が、ひしひしと伝わってきた。
髪振り乱してやつれた中年女を演じた女優Melissa Leoの演技がgood!どこかで見た顔、と思ったら「21グラム」「メルキアデス〜」にも出演していた脇役女優でした。サンダンス映画祭で大賞受賞も納得の秀作。2008.10 SP映画祭にて
フィクサー MICHAEL CLAYTON
トニー・ギルロイ監督、ジョージ・クルーニー、トム・ウィルキンソン、ティルダ・スウィントン、シドニー・ポラック出演☆法律事務所で問題が起こった案件を処理する掃除屋「フィクサー」として働くマイケルは、同じフィクサー仲間アーサーと大手農薬会社のトラブルを探るうち、自分自身も危険にさらされる。裏稼業のストレスや罪の意識にさいなまれながらも、職務を全うしようとするマイケルと、何もかも捨てて真実を暴こうとするアーサー。派手なドラマはないが、フィクサー二人の苦しい心理状態がジワジワ伝わってくる大人向けのサスペンスだった。こういう渋い作品にも進んで出演するクルーニーに好感がもてた。ポスト、C・イーストウッドはクルーニーで決まり! 2009.8
ペルシャ猫を誰も知らない NO ONE KNOWS ABOUT PERSIAN CATS ★★ 2010 MY BEST 1 CINEMA ★★
バフマン・ゴバディ監督、ネガル・シャガギ、アシュカン・クーシャンネジャード出演☆テヘランで暮らす若いミュージシャンのカップル、ネガルとアシュカンは、演奏活動ができないテヘランを離れ、ロンドンへ脱出する決意をする。二人から偽造パスポートの手配を頼まれた便利屋ナデルは闇業者を紹介。パスポートを待つ間、彼らにアルバム製作を持ちかける。
テヘランのインテリ層の若者たちは、英語が話せ、ファッションもお洒落。車も持っていて素敵な家に住んでいる。一見、何の不自由もなく、うらやましいぐらい豊かな生活を送っている。それなのに、好きな音楽を聞いたり演奏したりすることができない、というのは、正直、想像ができなかった。彼らが貧困層だったら、まだ話はわかるのだが…。
それが社会の違いであり、そこで暮らすなら社会のルールは守らなければならない。というのは頭で理解できても、表現の自由のない暮らしというのは何とも窮屈そうである。
女は人前で歌ったらダメ、音楽の演奏やCD発売は検閲がある、飼い犬は外に連れ出したらダメ。
日本人からみたら何とも変なルールではあるのだが、まあ、音楽やらなくても生きてはいけるし、犬は家の中で飼えばいいし…。
ゴバディ監督の前作「亀も空を飛ぶ」が、あまりにも過酷な虐げられた子供たちの話だったので、このギャップには正直驚いた。
この映画はノリがポップで音楽も楽しく、監視の目をくぐってあの手この手で自分たちの夢を実現しようとする若者のバイタリティがヒシヒシと伝わってきて、ぐっとひきこまれた。彼らの奏でる音楽も、閉そく感を打破しようとする力がみなぎっていて、「ロックの原点ここにあり!」って感じ。
何でも手に入り、何をやっても許される日本のような自由な社会で暮らす若者が奏でる音楽とはまったく違った、外向きのパワーに圧倒され、スクリーンに向かってエールを送りたくなった。
クルド人監督のゴバディは、この映画をテヘランでゲリラ撮影し、今は海外に脱出。出演者もロンドンで活動中とのこと。フィクションではあるのだが、そこにはリアルな現実が投影されていた。
便利屋ナデルの軽快なフットワーク、ウィットにとんだ台詞は圧巻。
観客を突き放した厳しいエンディングも、なんともゴバディ監督らしい。
鋭い反骨精神を持ちながらも決して堅苦しくないゴバディ映画は、クストリッツア映画に通じるものあり。まだまだ若い監督なので、次回作にも期待大です。2010.8参考CINEMA:「亀も空を飛ぶ」
Paper Birds PAJAROS DE PAPEL
エミリオ・アラゴン監督、リュイ・オマル、カルメン・マチ、イマノル・アリアス出演☆喜劇役者ホルヘは、戦時中、妻と息子を空襲で亡くしてしまう。1年後、役者仲間のエンリケと再会したホルヘは、親を亡くした孤児ミゲルと知り合う。旅芸人一座に加わった3人は、フランコ政権を皮肉った芝居をして、ホルヘたちは、軍から目をつけられてしまう。
スペインの暗黒の時代といってもいいだろうフランコ政権下での演劇人の苦労をドラマチックに描いている。子供を亡くしたコメディアンと孤児ミゲルの心の交流、軍人による圧力との戦い等々、丁寧に描かれていて、安心して見ることができた。感動的なエンディングも秀逸。派手さはないがよい映画。モントリオール国際映画祭で観客賞受賞も納得。2010.6 ラテンビート映画祭2010にて
北京の自転車 十七歳的単車/BEIJING BICYCLE
ワン・シャオシュアイ監督、ツイ・リン、リー・ビン、ジョウ・シュン出演☆田舎から大都会にやってきた17歳の少年グイは自転車を支給される配達便の職を得る。裕福なビジネスマン相手に、必死で働いていたが、ある日自転車を盗まれ、書類の配達をミスしてしまう。仕事を解雇されても食い下がるグイは、自分の自転車を乗っている高校生を見つけ、追いかける。
自転車ぐらい親にすぐに買ってもらえる高校生、そんな友達の前で見栄を張りたいがために親の金を盗んで自転車を手に入れた高校生、そして田舎から出てきて必死で生きてるグイ。三者三様の17歳の今の姿がリアルに描かれている。
テイストはイラン映画「友達のうちはどこ」風でもあり、また、ブラジルで見たバイク便の少年の物語「」にもよく似ていたので、それほど新鮮さは感じなかったが、急激に発展した北京における格差問題を少年たちにスポットを当てて描いたのが興味深かった。
自転車を取り返すため、殴られても殴られてもひるまないグイの姿が痛々しい。持たざる者の執念深さが悲劇を生むという展開は辛いが、それも現実なのだろう。社会も人間も成長する課程には、さまざまな歪みが生じるのは仕方のないこと、と頭では分かっていても、頑張ってるグイには幸せになって欲しかったな…。2001年ベルリン映画祭の銀熊受賞、新人男優賞も納得の力作だった。2011.2
ヴァンダの部屋 NO QUARTO DA VANDA
ペドロ・コスタ監督、ヴァンダ・ドゥアルテ出演☆麻薬中毒のヴァンダの日常を2年に渡って追い続けたドキュメンタリー。見ているだけで辛くなる映画でした…。2010.10
ヘアスプレー HAIRSPRAY ★
アダム・シャンクマン監督、ジョン・トラヴォルタ、ニッキー・ブロンスキー、ミシェル・ファイファー、クリストファー・ウォーケン、クイーン・ラティファ出演☆舞台は60年代のボルチモア。TVのダンス番組が大好きなかなり太めの高校生トレーシーは、彼女よりもひと回りビッグサイズのママの反対を押し切り、番組のオーディションに参加する。元ミスのTVプロデューサーはトレーシーをすぐさま追い払うが、学校の居残り教室で黒人たちと一緒に踊るトレーシーを見た番組の司会者が彼女を見染め、一躍スターに踊り出る。
巨漢ディヴァインが母親を務めたジョン・ウオーターズ版がお気に入りだったので、リメイクを見るのには抵抗があったのだが、見てみたら、やっぱり大好きな作品だった。
オリジナルのような脂っこさはなくシンプルかつ淡泊なのだが、歌も踊りも最高に楽しいし、太っちょトレーシーも超キュート。黒人差別があった当時のボルチモアを反映しつつ、若者の勢い、明るさをストレートに描いている。本当の名作は、何年たっても色あせないというけど、ヘアスプレーもその域に達していると感じた。
おデブのママ、男だってことは分かったけど、まさかトラボルタ、とは気付かず。どうりでダンスがうまいはずだわ。名作「サタデー・ナイト・フィーバー」のダンス・キングをデブママに抜擢するセンスには恐れ入りました。&最高のパパを演じたウォーケンもよかったです。いつでも手元に置きたい作品です。2009.8
ペネロピ PENELOPE
マーク・パランスキー監督、クリスティナ・リッチ、ジェームズ・マカヴォイ、キャサリン・オハラ出演☆イギリスの名家の娘ペネロピは、祖先の呪いのため、豚の鼻を持って生まれてきた。名家の出の男と結婚すれば呪いがとける、と信じる母は、ペネロピに見合いをさせるが、男たちはもんなペネロピの鼻を見て、逃げてしまう。
豚の鼻を持った女性を主役に、女性の容姿コンプレックスを面白く描いたコメディ。部屋に閉じ込められていたペネロピが自分の意志で家を抜け出す。その勇気に元気づけられた。与えられた楽な道ばかり選んでいては、本当の幸せは見つけられない、ということでしょう。2009.8
ベガスの恋に勝つルール WHAT HAPPENS IN VEGAS
トム・ヴォーン監督、キャメロン・ディアス、アシュトン・カッチャー出演☆ラスベガスで羽目をはずし、酔った勢いで結婚してしまった男と女。二人はすぐに結婚解消しようとするが、直後に男がギャンブルで大金をつかみ…。
計画大好きの潔癖症の女と、自分に自信のないモラトリアム男が、偶然出会い、すったもんだの挙句、お互いの良さに気付いていく定番のラブコメ。飛行機の中で見る分には、軽〜いのりで楽しめるが、映画館で見たら…。
キャメロン・ディアスは相変わらずキュートだけどワンパターン。そろそろ、かわいいだけじゃ通用しないお年頃でしょう。アシュトンは、ダメダメ男を軽ーく演じていて好印象。2008.8
ベンジャミン・バトン 数奇な人生 THE CURIOUS CASE OF BENJAMIN BUTTON
デヴィッド・フィンチャー監督、ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ティルダ・スウィントン、ジェイソン・フレミング、イライアス・コティーズ出演☆舞台は1918年のニューオーリンズ。老人ホームの前に、ひどく老けた赤ん坊が捨てられていた。施設で働く黒人女性クイニーは、自分の子ベンジャミンとして育て始めるが、彼は次第に若返っていく。ある日、ベンジャミンは、入居者の孫娘デイジーと運命的な出会いをする。
スコット・フィッツジェラルドの短編が原作ということ。どんどん若返っていくとはどんなことなのか、想像しながら楽しんで見れた。ブラピの特殊メークも一見の価値あり。
デイジーと結ばれ、子供を授かりながらも、自分の未来を予感して、去っていくベンジャミンに対して、はじめは「身勝手すぎる」と、腹が立ったのだが、彼の末路を見たら納得。反面、体が小さくなるので介護しやすくていいかも、なんて現実的に思ったりもして…。フィンチャー監督ということで、かなり期待してたのだけど、割とシンプルな人間ドラマだった。なぜか印象に残ったのは、ハチドリの話と、ボケじいちゃんの7回雷にうたれた話。人の記憶のほとんどは、その人の主観が多分に入った作り話なのかもしれない。そこが人生の面白さ、なのでしょう。2010.1 参考CINMEMA:「ゾディアック」「パニック・ルーム」「ゲーム」
ポイント・ブランク GROSSE POINTE BLANK
ジョージ・アーミテイジ監督、ジョン・キューザック、ミニー・ドライヴァー、ダン・エイクロイド、ジョーン・キューザック、アラン・アーキン出演☆殺し屋稼業に疲れ気味の男が、故郷に戻り、昔の恋人や同級生たちと再会するブラック・コメディ。
カーラジオから流れる80年代ロックと、軽いノリの殺し屋キューザックはナイスで〜す(古い表現)。見あきた感のある普通のアメリカン・コメディだった。2009.12
ぼくセザール 10歳半 1m39cm MOI CESAR, 10 ANS 1/2, 1M39
リシャール・ベリ監督、ジュール・シトリュク、マリア・デ・メディロス出演☆パリに住むちょっと太めの少年セザールは、親友のモルガンとクラスのマドンナであるサラと共に、モルガンの父を探しにロンドンへ向かう。
10歳の少年の日常と、初めての冒険をコミカルに描いた作品。テイストは「アメリ」の少年版といった感じ。フレンチ・コメディお得意のウィットにとんだモノローグは秀逸。セザールが「お父ちゃんは刑務所に入った」と思いこみ、たちまち学校中に噂が広がって、一躍時の人になってしまう、という導入部分は面白かったのが、後半は定番スタイルでちょい飽きてしまった。それでも少年少女たちがキュートだったのでよしとしましょう。2010.1
ボヴァリー夫人 MADAME BOVARY
アレクサンドル・ソクーロフ監督、セシル・ゼルヴダキ、ロベルト・ヴァープ、アレクサンドル・チェレドニク、ヴィアチェスラフ・ロガヴォイ出演☆田舎の町医者の妻エマは、若い男と情事を重ねるが、男は突然姿を消す。その悲しみを埋めるかのようにほかの男たちとも関係を持つようになるが、一方で、夫は医療ミスを犯し、破産してしまう。
透明感のある美しい妻だったエマが、不倫を重ねるうち、服装や化粧、表情がどぎつくなり、どんどん落ちていく様が克明に描かれた前衛的芸術作品。
画面から伝わってくるのは冷たさ。台詞も人も雰囲気も、人間の温かさからは程遠い氷のような冷たさがあり、滝に打たれる修行僧のような気分にさせられた。
BGMにはオペラ、衣装にはディオールを使い、アート作品としての質の高さは感じたが、たとえばギリシャの名匠テオ・アンゲロプロスとは似て非である。
どんどん落ちてボロボロになっていくボヴァリー夫人の破滅人生はただただ恐ろしかった。 1989年に製作された映画を再編集したということで、今の作品とは一味違った質感も楽しめた。2009.11 参考CINEMA:「天皇」「チェチェンへ アレクサンドラの旅」
ボーダータウン 報道されない殺人者 BORDERTOWN
グレゴリー・ナヴァ監督、ジェニファー・ロペス、アントニオ・バンデラス、マヤ・サパタ、ソニア・ブラガ、マーティン・シーン出演☆アメリカのラテン系ジャーナリスト、ローレンは、上司の命令で、メキシコとアメリカの国境の街フアレスを訪れる。そこでは、何百人もの女性工員が行方不明になる事件が起こっていたのだ。
反体制新聞を発行している旧友ディアスに会いに行くと、そこへ、先住民族出身のエバが訪ねてくる。エバは、バス運転手とその一味にレイプされ、埋められながら、奇跡的に生還した被害者だった。命を狙われるエバをかくまい、事件の真相にせまるローレンとディアスだったが、事件には資本家の男が絡んでいた…。
アメリカの巨大工場が立ち並ぶ国境の町フアレスでは、実際に、何百、何千もの女性行方不明事件があり、ほとんどが未解決のまま、という事実に、まず愕然とさせられた。
立場の弱い女性たちが、レイプ、暴力を受けた挙句に殺されて捨てられる。動物以下の扱いをされているのに、政府も警察も見て見ぬふりなんて、信じがたい話だが、まぎれもない事実なのだ。
Jロウは、タダの派手でわがままなセレブ女優、と思っていたが、こういった社会問題にも目を向け、プロデュースしている、ということに驚き。ラテンの出世頭は、しっかりとラテン社会の問題にも目を向けてるのね。おみそれしました。
映画的には、少々ドラマチックにし過ぎの感はあったが、この事実を世界に公表したことだけでも意義がある。被害者の女性を演じたマヤは日系メキシコ人ということ。Jロウを食う演技はアッパレ。メキシコは、アメリカという大きすぎる国の隣にあることで、恩恵よりも被害を受けているのかもしれない。 いいとこ取りの超大国は、都合の悪いものはみんな隣のメキシコに捨てちゃえ、ってことでしょうか。 こういう映画は、もっと、日本で大々的に公開してほしかったのですが…。正直、見ていて辛い作品ではあるが、無視できない社会派作品の一つです。2009.8
ぼくを葬る(おくる)LE TEMPS QUI RESTE
フランソワ・オゾン監督、メルヴィル・プポー、ジャンヌ・モロー出演☆ファッション・フォトグラファーのロマンは、医者から、末期ガンであることを告げられ愕然とする。ゲイの恋人や家族には真実を告げず、距離を置こうとするロマン。ある日、カフェで働く女から、子供が作れない夫に代わって子作りの手伝いを頼まれる。
若い男が突然、余命3カ月と宣告されたとき、残りをどう生きるのか。 女性版「死ぬ前にしたい10のこと」と比べてみると面白いかも。 パリで暮らすゲイのカメラマンというお洒落な男でも、死ぬ前はボロボロになる。 人間、誰でも最期は一緒。家族がいても一人身でも、死ぬ時はみんな一人。 悲しい映画ではあるけれど、見終わったあと、少しだけ孤独と友達になる強さをもらった気がした。2010.3
ボーフォート -レバノンからの撤退- BEAUFORT
ヨセフ・シダー監督、オシュリ・コーエン出演☆レバノンとの戦争中、イスラエル軍によって作られたボーフォートで爆発処理を行う若い軍人の姿を追った作品。キャスリン・ビグローはこの作品からヒントを得たのではないか、と思わせる内容で興味深かった。撤退の日を待ちわびながら、次々に死んでいく若い兵士たち。ドラマチックな場面はほとんどないのだが、それだけにリアル。イスラエルっていう国は、永遠に戦争をし続けるために生まれた国ではないだろうに…。自分たちの聖地に国を作りたいというユダヤ教の人々の気持ちもわからないではないが、無理やり国を作った代償の大きさを感じた。2010.6
ボスニア戦線 TERRITORIO COMANCHE
ヘラルド・エレーロ監督、イマノール・アリアス、カルメロ・ゴメス、セシリア・ドパーゾ出演☆スペインの女性キャスター、ラウラは、ボスニア紛争真っただ中のサラエボへ。つわものぞろいの戦場カメラマンやジャーナリストは、ラウラを冷たくあしらう。
戦場のジャーナリストの姿を追ったドキュメンタリー風戦争映画。命をかけて、橋の爆破の瞬間を取材すようとするクライマックスは鳥肌たった。あの橋は、今もまだ修復されていないのだろうか…。いつかは行きたいサラエボだけど、いつになったら行けるのか…。サラエボが舞台のスペイン映画、というだけでも見た価値あり、でした。2011.1
抱擁のかけら LOS ABRAZOS ROTOS
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【マ】
マイレージ、マイライフ UP IN THE AIR ★
ジェイソン・ライトマン監督、ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック出演☆リストラ宣告請負会社のやり手社員ライアンは、1年300日以上出張し、世界で数名しか達成していない1千万マイルのマイレージを集めることを目標にしている。
ある日、新卒のナタリーの教育係となったライアンは、彼女と一緒に出張へ。相手が怒りだしても決して謝らない、自殺をほのめかしても本気にしない、などといったリストラ宣告のノウハウを伝授する。
ある日、一夜限りの遊び相手だったアレックスと鉢合わせしたライアンは、新人ナタリーから、アレックスとの関係を追及され、「本気で人と向き合っていない」と、鋭く指摘されてしまう。さらに上司から、ネット電話でのリストラ宣告を採用し出張を廃止する、と告げられたライアンは、今までの自分の価値観に疑問を持ちはじめる。
出張が生きがいで、ネット電話での画面越しのリストラ宣告に違和感を覚える中年サラリーマン。一見スマートに見えるが、中身は、古ーいタイプの日本のオジサンたちと一緒。そのまま日本映画にしても面白そうなキャラクターである。ネット世代の1年生社員も、日本の会社によくいそうだし、妙に物分かりの良い遊び相手のキャリア女性も、最近日本でも増えてきたサバけた女である。
中年男の悲哀、頭でっかちの新人の脆さ、一夜限りの大人の関係で日常から逃げる熟女。3者3様の心の機微が丁寧に描かれているが、けっして説教くさくはない。
軽ーく聞こえる台詞ではあるが、世界共通の社会の現実を見事に言い当てている。一言一言に、くすりと笑い、そしてうまいよなあ、と感心させられる。お見事!な脚本が圧巻だ。みんなが幸せになってバン万歳と、うまい具合にいかないのもまたいい。
夢のマイレージを手に入れた男の悲哀は、これからも続いていく。それが人生…。
ジョージ・クルーニーは、毎度のことながら最高の演技。作品選びも上手いのだろう。 遅咲きの中年スターの今後の作品にも期待大である。&彼の人生を凝縮したような邦題をつけた配給会社にも拍手! 2010.4
参考CINEMA:「ジュノ」「サンキュー・スモーキング」
マチェーテ MACHETE ★
イーサン・マニキス,ロバート・ロドリゲス監督、クエンティン・タランティーノほか製作、ダニー・トレホ、スティーブン・セガール、ドン・ジョンソン、ロバート・デニーロ、ジェシカ・アルバ、ミシェル・ロドリゲス、チーチ・マリン出演☆メキシコの元連邦捜査官マチェーテは、家族をマフィアのドンに殺された後アメリカへ逃亡。テキサスで日雇いとして働いていた。テキサスでは、メキシコとの国境に鉄線を張ることをスローガンにかかげる極右派議員が出現。マチェーテは、謎の男からその議員の暗殺を依頼されるが、まもなく罠だったことが発覚。マチェーテは、お尋ね者となってしまう。
強面の巨人マチェーテの風貌があまりにも強烈で、それだけでもうお腹一杯。さらに脇役には、セガール、ドン・ジョンソン、デニーロと往年の曲者揃いで、ジジイが揃いもそろって頑張ってる姿に笑いがとまらず(みんな動きは鈍いのですが、それがまた味がある!)。
そしてそして、マチェーテの兄の神父役には、まーったく似てないチーチ・マリン!
ドン・ジョンソンとチーチ・マリンの共演なんて「刑事ナッシュ・ブリッジス」以来だわ〜と、感慨もひとしお。(残念ながら絡みはありませんでしたが)
この配役に喜べる自分もすっかり中年ど真ん中だなあ、と再確認。
綺麗どころも充実していて、移民取締官にはジェシカ・アルバ、不法移民の救世主でタコス屋の女にミシェル・ロドリゲス、とスタイル抜群の美女たちも出演して、華を添えている。
ロドリゲス映画なので、派手なドンパチはもちろん健在。血しぶき、首ちょん切れ、セガールの二刀流などなど、アクションは超B級ノリ。まったくリアルじゃない分、女性でも目を背けずに見ることができます。
つべこべ言わずに、見て楽しむ。この手の映画に理屈は不要デス。2010.11
マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾 800 BALAS (スペイン)
アレックス・デ・ラ・イグレシア監督、サンチョ・グラシア、アンヘル・デ・アンドレス・ロペス、カルメン・マウラ出演☆都会で母と暮らすやんちゃな少年カルロスは、祖母からお父さんとお爺ちゃんはマカロニ・ウエスタンのカーボーイだったと聞かされ、一人祖父のいるウエスタン村を訪れる。そこは閑古鳥の鳴いたウエスタン村。祖父フリアンと仲間たちはたまに訪れる観光客相手にウエスタン・ショーを披露する日々を送っていた。
おバカな連中が暴れまくるアクション・コメディ。フラン役のサンチョ・グラシアはおそらくスペインでは有名人なのでしょう。存在感ありました。ハチャメチャ感も適度で、軽く楽しめた。2010.11
松ヶ根乱射事件
山下敦弘監督、新井浩文、山中崇、川越美和、木村祐一、三浦友和ほか出演☆雪深い松ヶ根町で、若い女性の死体が発見された。だが、女性は生き返り、ひき逃げされたと告げる。生真面目な警官・光太郎には、双子の弟・光がいたが、実は、ひき逃げ犯はその光だった。被害者と女とその愛人は、光を痛めつけ、空き家になっていた光の祖父の家にいついてしまう。
光太郎の複雑な家族構成と、壊れていく光太郎の変化を、淡々と見つめた不思議なコメディ。面白いとは思ったが、その奇妙な世界に今ひとつ入り込めなかった。2010.6
迷子の警察音楽隊 THE BAND'S VISIT
エラン・コリリン監督、サッソン・ガーベイ出演☆あるエジプトの警察音楽隊がイスラエルにできたアラブ文化センターでの演奏を依頼された。だが、イスラエルの空港に出迎えはなく、行き方もわからない。聞かされていた住所を元になんとか移動するが、そこはホテルすらない小さな田舎町だった。
アラブとイスラエル。国同士は仲がよいとはいえない緊張関係にあるのだが、そこで暮らす市井の人々はみんないい人ばかり。言葉や国の関係を越えた人間関係を淡々と描いているのだが、ちょっと退屈で爆睡してしまった。2010.9
マルティナは海 SON DE MAR (スペイン)
ビガス・ルナ監督、レオノール・ワトリング、ジョルディ・モリャ、エドゥアルド・フェルナンデス、セルジオ・キャバレロ出演
☆海辺の町に文学教師ウリセスが赴任してきた。下宿先の若い娘マルティナは、彼のロマンチックな雰囲気に魅かれ、二人は結婚。子供も授かり幸せな家庭をを築いていた。だが、マグロを釣りにいったウリセスが遭難し、船だけが流れついた。失意のマルティナは、町の有力者と再婚する。
身勝手な男に振り回されながらも自分の感情に正直に生きる道を選ぶマルティナ。破滅型女性の悲劇を美しい海を背景に描いている。マルティナを演じたレオノールの美しさが光っていた。それに比べて男たちはどいつもこいつも…。子供の行く末がほったらかしにされていたのだが気になった。2010.7
マイ・ブルーベリー・ナイツ MY BLUEBERRY NIGHTS
ウォン・カーウァイ監督、ノラ・ジョーンズ、ジュード・ロウ、デヴィッド・ストラザーン、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマン出演☆NYのカフェの店長ジェレミーは、傷心の客エリザベスが残していったカギを預かったことをきっかけに、彼女と親しくなる。だが、まもなくエリザベスは、傷ついた心を癒すため、旅にでる。
ウォン・カーウァイ監督のアメリカ進出作品、ということで、期待半分、不安も半分で見に行ったのだが…。
雰囲気は、カーウァイ監督らしい。カメラ・アングルや色づかいも工夫されている。ただ、いつものカーウァイ作品とは、ちょっと違う、と感じたのは、台詞のせいだろうか。
今回は、英語字幕での鑑賞、という見る側(私)の事情もあったのだが、今までのカーウァイ監督は、もっと、感覚的で、台詞も少なかった気がするのは私だけだろうか?
場末のバーで、酔いつぶれる中年男(ストラーザン)。その姿を心配そうにただ見つめるだけのエリザベス(ノラ)。それだけで十分絵になるのに、会話で説明が入るのが余計に思えてならなかった。
監督にとっても自分の国の言葉ではないし、アメリカを意識しすぎてしまったのか。アート作品なのか、ドラマなのか、どっちつかずで中途半端な感じを受けた。
ラストのカウンターでのキスシーンもステキだったが、私がもっとも印象に残ったのは、レイチェル・ワイズが、バーに入ってきて、その姿をストラーザンが愛しさと憎しみの入り混じった複雑な表情で見つめるシーン。
説明などなくても、それだけで観客は、ぐぐっと画面に吸い付けられるのだ。
カーウァイ監督自身が、それを100も承知だろうに。
期待が大きかっただけに全体の出来には少々不満が残るが、音楽のセンスは抜群だし、ノラの映画初主演も健闘してたし、レイチェル・ワイズとストラーザンが魅力的だったのでヨシとしましょう。2008.5 参考CINEMA;「2046」「花様年華」「欲望の翼」「愛の神 エロス」
街のあかり Laitakaupungin valot
アキ・カウリスマキ監督、ヤンネ・フーティアイネン出演・監督、マリア・ヤンヴェンヘルミ出演☆ヘルシンキのショッピングセンターで夜警として働く男は、町で知り合ったミルヤから、デートに誘われる。
はじめて恋心を抱いた男だったが、ミルヤはギャングの情婦だった…。
カウリスマキ作品の淡々としたリズムを踏襲しながらも、めずらしくサスペンス・タッチのドラマがあり、新鮮に感じた。
間抜けな主人公は、何考えてるかわからない仏頂面なんだけど、ナイフを手にする、という行動にでたときはびっくり。
カウリスマキ、新境地開拓?!主演俳優が監督も兼務していたようなので、ちょっと違ったテイストなのも納得だが、いい意味で期待を裏切る作品だった。2008.8
参考CINHEMA:「浮き雲」「過去のない男」「白い花びら」
マイ・ライフ、マイ・ファミリー THE SAVAGES
タマラ・ジェンキンス監督、ローラ・リニー、フィリップ・シーモア・ホフマン、フィリップ・ボスコ出演☆バッファローで暮らす大学教授のジョンと、事務仕事をしながら劇作家を目指している妹ウェンディは、、父レニーの後妻が亡くなったとの知らせを受ける。突然、認知症の父を押し付けられ戸惑う二人は、ジョンの住む町にある施設に入れることにするが…。老人介護に戸惑う兄妹の姿をリアルに描いている。もし自分だったら、とつい感情移入してしまった。それまで疎遠だった親兄弟も、家族の問題に遭遇したときに、はじめてそれぞれの生活が見えてくるものなのだろう。ドラマチックに家族愛を確かめうなんて展開は、現実はそうないだろうし、この映画でもそんなことは起らない。兄、妹、そして父。孤独な生活を送っていた3人が、父の介護問題によって、ほんの少しだけ距離、が縮まり、自分の生活や考え方にちょっとだけ変化が起こる。ほんのちょっとだけ、というさじ加減がリアル。人の人生も家族関係も、現実はこんなもの、そう思えて、ホッとできた。2010.3
マリー 〜もうひとりのマリア〜 MARY
アベル・フェラーラ監督、ジュリエット・ビノシュ、フォレスト・ウィテカー、マシュー・モディン、ヘザー・グラハム、マリオン・コティヤール出演☆人気監督が、キリストの映画を製作した。マグダラのマリアを演じた主演女優は、役に取りつかれ、一人エルサレムへ向かう。一方、アメリカでは、作品を巡ってキリスト教信者たちの抗議デモが起こっていた。渦中の映画監督へインタビューしたテレビの司会者は、生まれたばかりの子供が、生死をさ迷う姿を見て苦しんでいた。
キリストを描き、物議をかもした映画監督といえばメル・ギブソンだが、ここでは監督のことや、キリストを人間として描いた映画を糾弾してはいない。映画をきっかけに、関わった人たちが、信仰と現実、生と死の間で苦悩する姿を描いている。
宗教色が濃く、重いテーマなので、日本人には受け入れられにくいが、人間は何によっていかされているのか、といった哲学的なことを考えさせられる。もう一度、心を見つめなおしたいときにでも見てみたい。2005年のベネチアで特別賞を受賞している。 2010.3
マン・オン・ワイヤー MAN ON WIRE
ジェームズ・マーシュ監督、フィリップ・プティ出演☆1974年のニューヨーク。ワールド・トレード・センターのツインタワーの屋上にワイヤーを張り、命綱もつけずに渡りきる、という神業を成し遂げた大道芸人フィリップ・プティの姿を、当時の映像と、今の映像を交えながら描いたドキュメンタリー。2008年度アカデミー賞(ドキュメンタリー部門)受賞作。
並の人間が真似できない、とてつもないロマンを持った男が、夢を成し遂げるため、仲間たちと研究を重ねる姿を見て、青春っていいなあ、としみじみ。
冒険家に「何のため?」と質問することは陳腐なことである。彼らは、目の前にある死の恐怖よりも、夢を成し遂げたいという願望が人並み以上に強い人たちなのでしょう。ただただ頭が下がります。何度も危険な綱渡りをしてきたプティがまだ生きていて、WTCが今はもうない、ということも皮肉でしょうか。10年前、初めてNYに行ったとき、地上からWTCを見上げて写真をとったことを思い出し、私もあの頃は…、なーんて映画を見ながら、当時を振り返ってしまった。2009.5
マーゴット・ウェディング MARGOT AT THE WEDDING
ノア・バームバック監督、ニコール・キッドマン、ジェニファー・ジェイソン・リー、ジャック・ブラック、ジョン・タートゥーロ出演☆女流作家のマーゴットは、妹ポーリンの結婚式のため、息子を連れて妹の家を訪れる。だが、妹とその結婚相手との関係はしっくりいかない。さらに、夫とは別れ話が進行し…。「イカとクジラ」の監督作品なので、一風変わったインテリ作品だろうな、と予想していたが、ほぼ予想通り。神経が過敏過ぎる女流作家と、後先考えない妹の確執がリアルで「こんなお姉ちゃんいたら私もウザくて嫌だわ」と実感。結婚相手のジャック・ブラックがもうちょっと本領発揮して、壊し屋を演じてくれたらもっとメリハリが出て面白かったのに…。あまりにも文学的過ぎて、後半は飽きてしまった。2010.2
マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トーキョー MAPA DE LOS SONIDOS DE TOKIO:
イザベル・コイシェ監督、菊池凛子、セルジ・ロペス、田中民、中原丈雄出演☆築地で働く若い娘リュウは、殺しを請け負う裏稼業を生業としている。彼女のもとにスペイン人殺害の依頼が舞い込んできた。彼に近づいたリュウは、彼と苦しみを共有するうちに、愛するようになる。
外国人監督が描く日本はいつもどこか奇妙である。今の日本ではあまり見られないデカダンスな雰囲気。昭和歌謡に赤ちょうちん。家族や友人といく観光地「ラーメン博物館」でサビシイ男女が出会うなんて変だー、などなど、日本人から見ると、こんなのは今の日本の本当の姿じゃない、と突っ込みたくなる個所が満載だ。
タランティーノぐらいハチャメチャに描いてくれたら気にもならないのだけど…。
まあ、毎度のことなので慣れてしまったが、そういった突っ込みどころを度外視しても、それぞれのキャラクターの心理描写があいまいで誰にも感情移入できなかった。
なんであんな若い娘が、オヤジ顔のスペイン人と大恋愛し自殺までするかなあ。殺し屋とスペイン人も心より身体の関係だけに見えてしまうし、録音技師のナレーションも今ひとつ浮いている。すべてがバラバラに感じてしまった。
この映画はコイシェ監督の前2作とはあきらかにテイストが違う。ちょっと冒険してしまった、というか遊んでしまった感がある。Wカーウァイの作風に似ていたのも気になったし…。期待していただけに、残念な出来だった。参考CINEMA:「死ぬ前にしたい10のこと」「あなたになら言える秘密のこと」
マシニスト THE MACHINIST/EL MAQUINISTA
ブラッド・アンダーソン監督、クリスチャン・ベイル、ジェニファー・ジェイソン・リー、アイタナ・サンチェス=ギヨン出演☆機械工のトレバーは、極度の不眠症からガリガリにやせ細ってしまっている。ある日、工場の同僚が自分のミスで手を失う事故が起こった。トレパーは、アイバンという新入りが自分を挑発した、と訴えるが、誰も男を知らないという。
不眠症の男の形相があまりにも痛々しく普通ではないので、アイバンがもう一人の自分であることは容易に想像がついた。すべてが明らかになる種明かしまでのストーリー展開は巧みだが、今ひとつゾクゾクしなかった。
ただベイルの身体を張った演技は見る価値あり。いわゆる一般的にいい人顔のクリスチャン・ベイルだが、あまりの痩せ方にゾッとした。人間、異常に痩せると二枚目でもあれだけ恐ろしい形相になるんですね。
いくらでもラブコメ主演ができるルックスを持ちながら、個性派に徹するベイルという俳優には、今後も注目していきたい。2009.11
マックス・ペイン MAX PAYNE
ジョン・ムーア監督、マイク・ウォールバーグ、ボー・ブリッジス、クリス・オドネル出演☆妻を殺された男が、続々と起こる連続殺人を追ううち、妻が勤めていた製薬会社の陰謀に気づく。どこを切ってもB級のお粗末サスペンス。出演者は豪華なのに、なんじゃこれ、って感じ。マイキーも知らないところで、駄作にけっこう出ているのね。
真実も最初から読めてしまい、何のひねりもない。安易な2時間ドラマど同レベルでした。2009.10
マンマ・ミーア! MAMMA MIA!
フィリダ・ロイド監督、メリル・ストリープ、アマンダ・セイフライド、ピアース・ブロスナン、コリン・ファース出演☆舞台はギリシャのカロカイリ島。古いホテルを営むドナの娘ソフィは、結婚式に母が昔付き合っていた3人の男を招待する。
アバの曲をつないだつミュージカル。音楽と景色はすばらしかったのだが…。正直、退屈だった。メリル・ストリープは、陽気で単純な母親役より、意地悪ババア役のほうが断然はまる。屈折した女を演じきれるテクがあるのだから、ぶれずに芸達者の道を突き進めばいいのに…。2010.1
ミスター・ノーバディ Mr.Nobody ★
ジャコ・ヴァン・ドルマル監督、ジャレッド・レト、ダイアン・クルーガー、サラ・ポーリー出演☆2092年。人間が死ななくなった近未来で人類最後の死を迎えようとしている老人は、研究者から過去の記憶を呼び起される…。
1975年、お天気キャスターの父と綺麗な母の一人息子として生を受けたニモは、幸せな子供時代を過ごしていた。だが、ニモが9歳の時、両親は争いが絶えなくなり、ニモは母が同年代の少女の父親と逢引している現場を目撃してしまう。
母が家を出ていく日、ニモは父と母のどちらと暮らすか決断を迫られる。
物語は、老人の記憶なのか夢なのか妄想なのかはっきりしない形で、思いつくままに語られていく。
父を選んだニモは、病気になった父を看病しながら暗い少年時代を過ごす。孤独を紛らすかのように小説を書き始めたニモは、幼なじみで情緒不安定な少女に恋をする。
いやいや、そうじゃない。彼女には振られて、ノリでダンスをしたアジア系の女性と結婚し、商売をあてて大富豪になったのだ。
違う違う、ニモは母を選んだのだった。母は一人娘を持つ男と暮らし始めるが、その一人娘とニモは愛し合うようになるのだ。
…というように「もし、何々だったら…」の違う人生が、2つではなく3つも4つも並行して、時間軸もバラバラに語られていく。見ている側は当然こんがらがるのだが、そんなこと途中でどうでもよくなり、ただただ監督のイマジネーションの世界に圧倒されっぱなしだった。
ニモの人生を一つ一つ紐解けば、納得がいく筋立てではあるのだが、そこにさまざまな想像物が絡んでくる。
「トト〜」や「八日目」でも想像力たくましい少年が主人公だったが、過去の作品と比較にならないぐらい、イマジネーションが奇妙奇天烈で次々に飛び込んできて、ちょっと頭おかしくなりそうになったぐらい。
テイスト的には、かなりテリー・ギリアムの世界に近いものを感じた。
(自分はあらためて、イマジネーション豊かな映画に心を奪われるんだと再確認。)
監督が前作を発表してからかなり時間がたっていたので、監督はひょっとして精神的に閉じた世界にいたのかしら、と心配するぐらい。
でも、上映後に来場したドルマル監督はいたってノーマルな人柄の、丸ーい身体の気さくなオジサンでした。
シナリオをまとめるのに6年、撮影に半年、編集も1年かかったということ。たしかにこの複雑な作品ならそれぐらいかかるでしょう。
監督は「ノーマルな映画はストーリーがエンディングにむかって進んでいくが、実人生というものは、枝分かれして広がっているもの。人生はいろいろな方向に進んでいくものだ、ということを表したかった。観客には、人間のイマジネーションの世界を楽しんでもらいたい」と語っていた。
物語の複雑さにプラスして、粋な音楽、そして凝った映像も駆使されていて“映画の中の映画”と言える紛れもない大作であることは間違いない。
ただし、すべてをわかろうとすると頭が混乱したり、疲労感がたまりやすい作品なので、時々、息抜きしながら見るのをオススメします。集中力を維持するのはとっても大変な映画です。ただただ監督の想像力にアッパレ!の作品でした。2010.11/2011年公開予定
ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 MILLENNIUM: PART 1 - MEN WHO HATE WOMEN
ニールス・アルデン・オプレヴ監督、スティーグ・ラーソン原作、ミカエル・ニクヴィスト、ノオミ・ラパス出演☆社会派雑誌「ミレニアム」のジャーナリスト、ミカエルのもとに、孤島に住む富豪のヘンリックから、かつて行方不明になった妹の事件の調査依頼が舞い込む。執筆記事を訴えられ、社会からバッシングを受けていたミカエルは、逃げるように孤島へ向かい、調査を開始。
一方、ミカエルのパソコンをハッキングしていた若い女リスベットは、ミカエルが調べる事件に興味を持ち、彼に手を貸し始める。
スウェーデン発の大ヒット・ミステリーの映画化。原作者が病気で死んでしまったので幻の…、などとうたわれているが、ごく普通のエンタメ作品だった。
過去の行方不明事件がナチと絡んでいたり、エロじじいにリスベットがレイプされたり、女の悲しいドラマが描かれてはいるのだが、心までは響いてこず。ゲームっぽい展開の早いサスペンスが今風なのでしょうか。よくできたエンタメ作品ではあるのだが、1本で十分。2010.10
ミスにんじん CRUSH AND BLUSH
イ・ギョンミ監督、コン・ヒョジン、イ・ジョンヒョク出演☆ ロシア語教師のミスクは、同僚の教師に片思い。だが、同じ教師のユリとその教師が付き合っていると知り、 二人の仲を裂こうと画策する。顔がニンジンのように赤くなるコンプレックスの塊のミスクを中心に、 曲者たちが交錯する不思議なコメディ。パク・チャヌクの原点ここにあり?なのかどうかはわからないが、 不思議ちゃんたちが、大暴れし過ぎでついていけず。2010.7
ミラクルバナナ
錦織良成監督、小山田サユリ、山本耕史、津田寛治、宮崎美子、緒形拳ほか出演☆フランスに留学経験のある能天気な若い女性がハイチの大使館に赴任。日本とは違う生活に戸惑いながらも、バナナの皮から紙が作れる、という大学教授の話を聞き、ハイチの子供たちのために、バナナペーパー作りに奔走する。
JICAやODAの宣伝用映画のような予定調和の展開。発展途上国での生活に驚く日々が長すぎて退屈だった。何の産業もない最貧国ハイチでバナナペーパーを開発した、というのは活気的なことなのだから、紙作りまでの失敗の数々、職人の紙作りの様子や、偏屈な職人を説得する過程、そして子供たちとの共同作業から成功、と的を絞って突っ込んで描いて欲しかった。紙職人役に緒形拳を使っているのに、彼の存在感や演技力がまったく生かされていないのも残念。いい題材なだけに陳腐な展開がもったいなく感じた。2010.11
ミスター・ロンリー MISTER LONELY
ハーモニー・コリン監督、ディエゴ・ルナ、サマンサ・モートン、ドニ・ラヴァン、ヴェルナー・ヘルツォーク出演☆マイケル・ジャクソンを演じることが唯一の生きがいだった青年は、老人ホームの余興の仕事でマリリン・モンローのそっくりさんと知り合う。彼女に促され、スコットランドの古城で暮らすモノマネ芸人たちと共同生活をはじめるが、人妻マリリンへの思いはつのるばかりで…。ディエゴ・ルナとヘルツォークが競演、ということで借りてみたが、二人はまったく絡まず仕舞い。ヘルツォークが演じた牧師はいったい何だったのか理解できず。サマンサ・モートン演じる太目のマリリンは魅力的でした。2010.1
ミルク MILK
ガス・ヴァン・サント監督、ショーン・ペン、エミール・ハーシュ、ジョシュ・ブローリン、ジェームズ・フランコ、ディエゴ・ルナ出演☆1972年のニューヨーク。40歳のハーヴィーは、年下の青年スコットを道でナンパし一緒に暮らし始める。サンフランシスコに移住し、カストロ地区で店をはじめた二人だったが、ハーヴィーは、虐げられた同性愛者の権利を主張し、政治運動に目覚めていく。
同性愛者であることを公表して政治家となったハーヴィー・ミルクの波乱の人生を彼の演説と政治運動を中心に追ったゲイ・ムービー。
スコット(エミール・ハーシュ素敵!)を愛しながらも、政治運動にまい進し、彼が去った後は、ナイーブな若い男(ルナ)と暮らし始めたハーヴィー。彼の私生活の描き方は生々しく、ガス監督の真骨頂だったのだが、演説のシーンがあまりに多すぎてひいてしまった。ハーヴィーのドキュメントを以前に見ていただけに、演説シーンでは実物にかなわない、というのが率直な感想である。政治家としての一面よりも、私生活をもっと掘り下げて描いてほしかったなあ。エミール・ハーシュとディエゴ・ルナ、二人とも魅力的な俳優なので彼らの演技をもっと見たかった、という個人的好みも入ってますが^^;期待していただけに、ちょっと残念でした。2009.12 参考CINEMA:参考CINEMA:「グッドウィル・ハンティング」「小説家を見つけたら」「ジェリー」「エレファント」
湖のほとりで LA RAGAZZA DEL LAGO (イタリア)
アンドレア・モライヨーリ監督、トニ・セルヴィッロ、ヴァレリア・ゴリノ出演☆美しい湖のほとりで若い女性アンナの他殺体が発見された。殺人課の名刑事は、彼女の恋人や、ベビーシッター先の夫婦、父と二人で暮らす男などから聞き込みを開始する。その矢先、殺されたアンナが、脳腫瘍で余命わずかだったことが判明する。一方、刑事は、進行性アルツハイマーの妻を持つ悲しみを抱えていた。
美しい森と湖を背景に、一見何の害もなさそうな村人たち。だが、捜査が進むにつれ、彼らの悩みが浮き彫りになっていく。
隣の芝生は青くみえる、というけれど、幸せに、穏やかに暮らしているように見える人々でも、それぞれ何らかの事情を抱えているものなのだろう。
初めは、事件の真相は何なのか興味津々で見ていたが、そのうちに、犯人が誰でもよくなってしまったのは、村人たちそれぞれの悲しみが伝わってきたから。
イタリアというと、陽気なラテン系というイメージが強いのだが、笑ってばかりもいられない現実もあるのだ。後味の悪さが残るエンディングではあったが、心理描写が丁寧な大人の映画だった。2009.10
未来を写した子どもたち BORN INTO BROTHELS: CALCUTTA'S RED LIGHT KIDS
ロス・カウフマン、ザナ・ブリスキ監督☆カルカッタの売春街で生まれた子供たちの姿と、彼らの町で共に暮らしながら子供たちに写真を教えるアメリカ人女性の交流を4年間にわたって追ったドキュメンタリー。
身体を売って生活する女たちと、酒やドラッグで身を持ち崩す男たち。そんな大人に囲まれていても、少年少女たちの目は澄んでいて、未来に夢を持っている。「スラムドッグ&ミリオネア」はエンタメ作品であったが、あの彼らのような生活を送っている子供が、インドには大勢いるのである。
正直、悲惨な環境で暮らす子供たちの映像を見せられるのは苦手なので、この映画を観る前は憂鬱だった。ところが見てびっくり。子供たちがホント、みんな無邪気&元気なのだ。
いい服着たり、満足に食べていなくても、楽しそうなのはなぜだろう?
その生活しか知らないから?
日本のようにモノにあふれ、物質的に満たされた人が多すぎると、所有することだけが生きる目的や物差しになってしまうのかもしれない。
お金、三高夫、美人妻、優秀な子供、大きな家、広い土地etc...
形あるものにしか目がいかなくなると、自分より多くのモノを持っている人と比較し「あの人たちに比べて自分は幸せじゃない」と、感じてしまうのかもしれない。
そんなことをカルカッタの子供たちの生き生きとした瞳を見ながらあれこれ考えてしまった。
売春街で暮らす彼らの未来は、おそらく夢のように簡単ではないだろうし、親たちのような生活を強いられることもあるだろう。それでも、絶望せずに生きてほしい。
日本に戻ってから凹み気味の私は、彼らの笑顔から元気をもらい、少しだけ前向きになることができた。ありがとう!カルカッタの子供たち!2009.11
めざめ CARNAGES
デルフィーヌ・グレーズ監督、アンヘラ・モリーナ、キアラ・マストロヤンニ出演☆若きマタドールは植物状態になり、保母は奇妙な言動の多い幼児に手を焼く。保母の母は、過去に何か秘密があり…。
スペイン、フランスを舞台に様々な境遇の人々の人生が交錯していく。
登場人物が多すぎて、こんがらがってしまった。死んだ牛のパーツを手にした人々の人生を描く、という設定は面白いと思うのだが、人間をあと半分に減らしてくれればなあ。
残念ながら、「アモーレス・ペロス」や「そして、私たちは愛に続く」といった名作とは、比べ物にならないとっちらかったオムニバス映画だった。2010.2
殯(もがり)の森
河瀬直美監督、うだしげき、尾野真千子出演☆奈良の山奥の老人ホームに赴任した真千子は、33年前に妻を亡くし心の癒しを求めるしげきと知り合う。最初は痴呆症のしげきに手を焼いていた真千子だったが、二人は徐々に心を通わせていく。或る日、2人でしげきの妻の墓参りに行く途中、車が故障。二人は森の中を彷徨い歩く。
淡々とした老人ホームの暮らしを追った前半から一転、後半は森の中、雨に打たれた二人が心身を解放し、心の闇と戦う激しいシーンが続く。重い映画である。繊細な心を持った人間の生きる辛さが伝わってきて、心が痛くなった。真千子が、子供を慈しむように、必死でしげきを介抱するシーンが印象に残った。心をさらけ出した映画。つくづく河瀬監督って業の深い人だな、とちょっと恐ろしくなりました。2010.10
【ヤ】
闇の子供たち
阪本順治監督、梁石日原作、江口洋介、宮崎あおい、妻夫木聡、豊原功補、佐藤浩市ほか出演☆新聞社のバンコク駐在記者南部は、東京本社から闇ルートの臓器移植の情報を入手し、取材を開始する。一方、タイのNGOのボランティア活動に参加していた音羽恵子は、少女アランヤーから、売春宿に売られたという手紙を受け取り、彼女の救出に奔走する。
日本では許されていない子供の臓器移植。そのため、大金をかけてでも海外で移植手術をさせたい、という親の気持ちは痛いほど分かる。我が子のためなら、貧しく暮らす子供の命なんて比較にできない、というのも本音だろう。
そんな親の気持ちを利用した闇の臓器売買は、以前から多くの映画やドラマで取り上げられてきたが、実態までは聞こえてこない。ホントだとしたら恐ろしいことなのだが…。
この映画の面白さは、お涙頂戴でも、正論を主張するだけのヒューマン・ストーリーでもない多面性にある。
ただ事実を伝えるだけ、というジャーナリストの乾いた視点。NGOの活動に批判的な若者たちの冷たい視点。子供を買っていたぶる欧米や日本の変態男たちの歪んだ視点。
臓器売買の実行犯にも、過去に売られた経験があることを匂わせているし、ゴミ袋にいれられた子供が逃げ帰った家では、親から抱きしめてもらうことも出来ないという、厳しい現実を突きつけられる。そして、まさか!のラスト…。
「一人の命を救っても、また次の誰かが犠牲になる」という言葉が重くのしかかってきた。ピンクのワンピースを着せられたつぶらな瞳の少女を、もし病院から助け出しても、次の生贄が連れてこられるだけ…。映画とはいえ、やりきれない…。
「亡国のイージス」ではがっかりさせられたけど、阪本ワールド健在を示してくれて、ファンとしてはうれしい限り。梁石日の原作も読んでみたくなった。2009.12
参考CINEMA:「顔」「KT」「この世の外へ」「ぼくんち」「亡国のイージス」
ゆれる
西川美和監督、オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子出演☆売れっ子カメラマンの猛は、母の一周忌に久々に帰郷し、兄・稔と再会する。兄の働くガソリンスタンドで昔の彼女、智恵子を見かけた弟・猛は、兄と智恵子が仲むつまじく話している様子に嫉妬をおぼえ、その晩、智恵子の部屋を訪れる。
翌日、兄と弟、そして智恵子の3人で渓谷を訪れるが、ある吊り橋の上で、痛ましい事件が起こる。
家業を継いだ人のいい兄は、自由奔放で女を弄ぶ弟と自分を比べ、自分の人生を蔑みながらも、いい兄を演じ続ける。一方弟は、人当たりがよく、親に気に入られている兄を羨みながらも、反抗を繰り返し、別の道を歩む。
どこの兄弟姉妹も、多かれ少なかれ、この映画の二人のように、互いの性格を羨み、対抗意識を抱いているのではないだろうか?
同じ親をもちながらも、性格が正反対になりがちなのは、兄弟姉妹の抱く羨望、ライバル心が大きく関係しているだろし、物理的には、日本に多い二人だけの子供、さらに外的要因としては、親がおしつける役割も関係あるだろう。
この映画のシチュエーションは決して特殊ではないし、女が絡めばなおさら二人の関係は複雑になる。
吊り橋の上で起こったことは、兄と死んだ智恵子にしかわからない。他殺か事故か。弟は、兄が自分と智恵子の関係に嫉妬して殺した、と、心の奥では思いながらも、兄を弁護する側に回る。だが、その気持ちを兄は見破っていて、人が変わったように、弟を罵る。
この二人が、刑務所の面会室で、透明のついたてをはさみながら感情をさぐりあうシーンは見ごたえあり。
オダジョー、香川、二人とも適役だし、キャラクターに深みがある。ふだんは封印している感情の負の部分が、じわじわ染み出てくる感じがいい。
二人の刑務所のやりとりを、もっとずっと見ていたい気分にさせられた。
死んだ女には悪いが、彼女の話は発端であり、兄弟にとっては付属品にすぎない。だからではないが、裁判のシーンは、必要だったのか疑問。
裁判になっても、弟と智恵子の関係が暴かれない、という点は、どう考えても不自然。前日に女が寝た相手、なんて、すぐにでもわかる話なのに、それをあえて暴露しないのは違和感あり。兄弟二人の間に、外的に女の情報が入るのは、展開的によろしくなかったのだろうが、その不自然さが気になって、裁判のシーンはウソくさく感じた。いずれにしても、今をときめくオダジョー&香川。二人の演技に惚れたので、二重マル 2008.7
ユゴ/大統領有故 PRESIDENT'S LAST BANG
イム・サンス監督、ハン・ソッキュ、ペク・ユンシク、キム・ユナ出演☆横暴な大統領への不満を募らせた大統領の重臣の一人、キム部長は、クーデターを起こし、大統領を暗殺。だが、事実は歪められ…。
政治をめぐる血なまぐさい裏社会を、シニカルに描いている。テイストはイタリア映画の「IL DIVO」にちょっと似ている。朴大統領暗殺事件を扱った作品といいながらも、かなり風変り。韓国の政治家は、暗殺、誘拐、自殺、贈収賄…と、日本以上に事件がらみで抹殺されることが多いので、こういう世界もあながちウソではないのかも。少々わかりづらい映画ではあったが興味深い物語だった。2010.5 参考CINEMA:「浮気な家族」
ユートピア (スペイン)
マリア・リポル監督、レオナルド・スバラグリア、ナイワ・ニムリ、チェッキー・カリョ出演☆予知能力を持つ青年アドリアンは、毎夜のように見る悪夢に怯えている。そこには、ある一人の女性が凄惨な事件に巻き込まれる夢だった。彼女の命を救いたいと願うアドリアンは、その女性と運命的に出会う。一方、アドリアンと同じ能力を持つ男の自爆に巻き込まれ、妻子を失ったフランス人の刑事は、アドリアンの命を狙っていた。
ストーリーは、要約すればこんなだったと思うのだが、かなり複雑で正直、よくわからない映画だった。主役二人はスペイン映画界の売れっ子で、フランスからはカリョも出ているので、オールスターキャスト、とも言えるのだろうが…。苦悩するスバラグリアがステキだったことだけが収穫かな。2010.3
4人の女 Solo quiero Caminar (スペイン)
アグスティン・ディアス・ヤネス監督、ディエゴ・ルナ、ビクトリア・アブリル、アリアドナ・ヒル、ピラール・ロペス・デ・アジャラ出演☆スペインの女窃盗団の一人アンはマフィアのドンと結婚しメキシコへ。だが、夫から暴力を受け、意識不明の重体に陥る。窃盗団の仲間たちは、マフィアから金を奪うため、綿密な計画を立てる。
オールスターキャストの犯罪映画。マフィア側の殺し屋を演じたディエゴは童顔ながら魅力的だし、4人の美女窃盗団もキャッツアイみたいでカッコよかったのだが、どんでん返しがあるわけでもなく、ハラハラドキドキのスピード感があるわけでもなく…中途半端な感じ。残念。2010.6 参考CINEMA:「ウェルカム!ヘブン」
4枚目の似顔絵
チョン・モンホン監督、ビー・シャオハイ、ハオ・レイ、レオン・ダイ出演☆田舎で父と暮らしていた10歳のウェンシャンは、父の死後、都会で暮らす母に引き取られる。兄の夢を見たというウェンシャンに、母は今の夫といるときに、行方不明になったと話す。
孤独な少年が描く4枚の絵と、少年の心の変化をリンクさせた構成にセンスを感じた。少年の演技も素晴らしかったのだが、なぜか心に響くものがなく…、ちょっと退屈でした。2010.10 東京国際映画祭にて
夜顔 BELLE TOUJOURS (ポルトガル)
マノエル・デ・オリヴェイラ監督、ミシェル・ピコリ、ビュル・オジエ出演☆年老いた男アンリは、クラシックコンサートの帰り道、昔、愛したことのある女性セヴリーヌを見かけ、後をつける。小さなバーで、若いバーテン相手に女との出会いを語った後、セヴリーヌを付け回し、なんとか食事に誘うまでこぎ着けるが…。
ブニュエル監督の「昼顔」(1967年)のその後を描いた作品。
老い先短い男が、昔の恋を思い出し、青年のように夢中で追いかけまわす姿がかわいくて、思わず笑みがこぼれた。ミシェル・ピコリはほんと上手いよなあ。いい寄られる女性は、老人に同情心すら見せず、最後の最後まで拒絶し続ける。「過去の私とは違うのよ」と、言い続け、非情に去っていくのだ。女にはもともと男に対する愛情などかけらもなかったのか、もしくは、「昔は好きだったけど、今じゃあり得ないわ。あんなオヤジ」と、松田聖子ばりにサバサバと過去を忘れられる女なのか、「昼顔」を見ていないので定かではないが、この映画はあくまで男側の妄想に近い恋心を描いている。その単純さがまたいい。100歳のオリベイラ監督もこの男のように茶目っけたっぷりのお爺ちゃんなのかもしれないなあ。もっとお堅いイメージが強かったので、新鮮に感じた。2010.6
酔いどれ詩人になるまえに FACTOTUM
ベント・ハーメル監督、チャールズ・ブコウスキー原作、マット・ディロン、リリ・テイラー、マリサ・トメイ出演☆アル中気味の物書きチナスキーは、バーで知り合ったジャンの家に転がり込む。
「バーフライ」「リーヴィング・ラスベガス」に続くアル中映画。
ニコラス・ケイジ演じるアル中作家は悲しみを抱え苦悩するアル中だったが、マット・ディロン演じるのは世に出る前のブコウスキー、ということで悲壮感はない。 酒と女の力をかりながら、詩作に没頭する男を、マットが好演していた。
チナスキー同様、怠惰なアル中女ジャンを演じたリリ・テイラーがGOOD。
世間一般から見たらダメ人間の二人だが、彼ら独自の価値観で生きている。その潔さがカッコイイ。
イケメン・スターから見事な転身を果たした中年俳優マット・ディロンの復活ぶりが際立つ快作だ。参考CINHEMA:「バーフライ」「キッチン・ストーリー」、脇役たち(リリ・テイラー) 4ヶ月、3週と2日 4 LUNI, 3 SAPTAMANI SI 2 ZILE
クリスティアン・ムンジウ監督、アナマリア・マリンカ、ローラ・ヴァシリウ、ヴラド・イヴァノフ、アレクサンドル・ポトチェアン出演☆舞台は独裁政権下のルーマニア。大学生のオティリアは、妊娠したルームメイトの中絶手術の手を貸す。が、ホテルの予約もままならず、さらに中絶を請け負った男からは、嫌味を浴びせられる。
融通のきかないホテルのフロント、寒々とした町並み、偉そうな言葉を吐きながら少女たちを食い物にする悪徳医者などなど、当時のルーマニア社会の冷たい現実が描かれていて、興味深かった。
中絶を望む大学生、彼女を助けようと必死に駆け回る友人。二人の関係がどれほど強いものか、彼女たちの背景もほとんど描かれていないので、二人の行動には正直、同情できなかったのだが、この映画は、そこにテーマはないのだろう。
もうひとつ興味深かったのは、オティリアが彼の家にいったときのファミリーの様子。どこにでもある幸せそうな家族なのだが、なぜかウソくさい。 そこに自由のない社会が映し出されていた気がした。2007年カンヌのパルムドール作なのだが、それほど強い印象は残らず。2008.8
欲望のあいまいな対象 CET OBSCUR OBJET DU DESIR
ルイス・ブニュエル監督、フェルナンド・レイ、キャロル・ブーケ、アンヘラ・モリーナ出演☆フランスの老紳士は、駅のホームで若い女性に水をかけ、客たちを驚かせる。そんな彼らに紳士は、彼女とのいきさつを話し始める。
若くてきれいな元家政婦に夢中になった老紳士は、金を積んでもなかなか身体を許そうとしない女に翻弄され…。
哀れなエロじじいが小悪魔女に翻弄される姿がなんともコミカル。ブニュエルの遺作ということだが、ブニュエル自身も小悪魔に振り回されるのがお好きだったのでしょうか。ほかは「アンダルシアの犬」しか見ていないので、比較しようがないが、ラテンの巨匠作品をほかにもいろいろ見てみたい。キャロル・ブーケはこの映画がデビュー作でわずか17歳だったとのこと。その成熟度にはびっくりでした。2010.1
ラスト、コーション LUST, CAUTION ★★
アン・リー監督、トニー・レオン、タン・ウェイ、ワン・リーホン、ジョアン・チェン、トゥオ・ツォン出演☆舞台は1942年、日本軍占領下の中国。女子大生チアチーは、友人の誘いに乗り、抗日運動のスパイとして、日本軍に加担するイーの家に出入りし始める。
冷たく頑ななイーの鋭い視線に怯えるチアチー。
一度はスパイ活動に失敗したチアチーだったが、再び、イー家に潜入するチャンスが巡ってくる。
スパイ映画は数多く見てきたが、これほど悲しく辛い映画は初めてである。
女たちの麻雀シーン、痛々しいまでの激しい性描写…。すべてに緊張感がある。
見終わった後、ため息がでるほど、集中と緊張を強いられる映画だった。
今まで見たことがないほど非情な男役のトニーがいい。長年、彼のファンでいたのは間違っていなかった、と彼の魅力を再確認。いろんな引き出しがある役者である。
また、新人ながらも大胆に演じてくれたタン・ウェイにもあっぱれ。個人的に、チャン・ツイイーよりも好きなタイプなので、今後の活躍に期待大である。
さらにアン・リー監督の多才ぶりにも頭が下がる。アクション・エンタメ、ファミリー・ドラマ、そしてゲイ・ムービー、と彼の作品を一通り見てきたが、どの分野でもしっかりきっちりと作品を仕上げている。手を抜かない職人気質の監督なのでしょう。
ベネチア映画祭2年連続の快挙も納得の傑作です。2008.8 参考CINEMA:「推手」「ブロークバック・マウンテン」「グリーン・デスティニー」
ケヴィン・マクドナルド監督、フォレスト・ウィッテカー、ジェームズ・マカヴォイ出演☆1970年代、ウガンダにやってきたスコットランド出身の若い医者ニコラスは、軍事クーデターによって大統領になったアミンと偶然知り合い、主治医として登用される。
多くの国民に愛されていたように見えたアミンだが、疑いをもった人物を次々に殺害する恐怖政治を行っていた。一方、ニコラスはアミンの第2夫人と親しくなり、一線を越えてしまう。
実在した独裁者アミンを一人のスコットランド人の医者の視点から見つめた伝記映画。
笑顔の奥に悪魔の顔を持つアミンを演じたフォレスト・ウィッテカーの熱演は光っていたが、ドラマ的にはシンプル。チャラチャラした若い白人医師の軽さばかりが目立っていて、ウガンダという社会や背景が見えてこなかったのが残念だった。2010.1
楽園の瑕 東邪西毒 ASHES OF TIME
ウォン・カーウァイ監督、レスリー・チャン、レオン・カーフェイ、ブリジット・リン、トニー・レオン、マギー・チャン出演☆西毒は、殺し屋の元締めを営んでいるが、彼が捨てた女は、兄の妻となっていた。華麗な剣術と荒涼とした砂漠の映像は、すばらしかったが、ストーリーを、ほとんど、西毒の語りで説明していくので、広東語とポ語字幕では、まったく理解できず。以前、日本語字幕で見た時もよくわからなかったので、仕方ないが。
今はなきレスリーの姿を大スクリーンで再び見れただけで満足です。オールスターキャストなのに、ほとんど、レスリーのためだけの映画だった。2008.10 SP映画祭にて
ラスベガスをぶっつぶせ 21
ロバート・ルケティック監督、ジム・スタージェス、ケイト・ボスワース、ローレンス・フィッシュバーン、ケヴィン・スペイシー出演☆マサチューセッツ工科大学の苦学生ベンは、ハーバード大学医学部への学費をかせぐため、教授の誘いにのり、カウントという手法でラスベガスでひと儲けするチームに参加。週末はベガスで豪遊、平日は地味な苦学生、という2重生活を送ることに。
ある日、教授の指示に従わずギャンブルに没頭したベンが大損してしまう。教授はベンの卒業を取り消し、稼いだ金もすべて盗まれ…。
地味なエリート苦学生の成功物語。実話ということだが、頭の切れるMITの連中よりも、ベガスの監視役フィッシュバーンに肩入れしてしまった。
「世の中、金がすべてじゃない」という優等生的エンディングはありきたり。ギャンブル映画は騙しダマされ、最後には悪人が生き延びる、ぐらいのシニカルな設定のほうが面白い。2008.8
ラブリーボーン THE LOVELY BONES
ピーター・ジャクソン監督、シアーシャ・ローナン、マーク・ウォールバーグ、レイチェル・ワイズ、スーザン・サランドン、スタンリー・トゥッチ出演☆14歳の少女スージー・サーモンは1973年に、近所の男に殺されてしまう。死体は見つからず、犯人もわからないまま月日は過ぎ、両親も不仲になってしまう。昇天できないサーモンはそんな下界を寂しく見守ることしかできない。
主に殺されたスージーの視点から描いてはいるのだが、誰に対しても今ひとつ感情移入できず。残された家族の苦悩も、犯人の異常性も、サスペンスとしてのハラハラドキドキ感も、どれも中途半端で退屈だった。せっかくウマイ役者をそろえているのに、なんとももったいない。事件の解決に重きをおかないのなら、もっと繊細な家族の心理描写が欲しいし、事件を解決させるなら、あのエンディングは収まり悪過ぎ。
唯一印象に残ったのは、スーザンがさまよう幻想的な草原の映像と音楽。音楽監督はブライアン・イーノと知り納得。環境ビデオのような映画だった。2010.2
リダクテッド 真実の価値 REDACTED (米) ★
ブライアン・デ・パルマ監督、ロバート・デバニー、イジー・ディアズ出演☆舞台はイラクの米軍駐屯地。映画監督を目指す若者、エロ本ばかり読んでる能天気なパンク野郎、小説好きなインテリ男などなど、個性的な軍人たちの生活はまるで寄宿学校のようである。
一方、宿舎の外では、誤爆や自爆テロ、報復といった生々しい惨劇が繰り返し起こり、軍人たちのテンションもあがっていく。
そんななか、スパイ容疑で家宅捜索に行った軍人が、娘を犯し家族を射殺する、という事件が起こる。
カメラオタクの軍人が基地の生の様子を撮影する、という手法を使った疑似ドキュメンタリー映画。
ベトナム戦争後、世界中の人々が間違いを認め、数多くの反戦映画が作られていたのはつい最近のことである。
世界中が反省し、学習したのかと思ったら…。
相変わらずアメリカは戦争好きなようで、場所をベトナムからイラクに変え、同じことを繰り返している。
デ・パルマ監督というと、サスペンス映画の巨匠、というイメージが強かったので、こんなに主義主張のはっきりしたアンチ戦争映画を撮ったということに驚きだった。
軍人の茶化し方がどことなく「MASH」に似ていて、R・アルトマン監督へのオマージュも込められているのかな、などと勝手に想像してみたり…。
戦場という場所は、人々の頭と心のネジが外れ、極限状態に陥り、人を人と思わなくなり、感情が麻痺してしまう、ということだけは、十分想像できる。
先日見た「ブラインドネス」でも描かれていたが、人というのは心底困った状態に陥ると、野獣と化す弱い生き物のようである。
だから、「リダクテッド」でケダモノと化した二人の軍人に対して、私は憤りよりも憐みすら感じてしまった。彼らだって戦争というバケモノの犠牲者…。
ベトナムのときと大きく違うのは、インターネットというメディアの登場である。
拉致された軍人の処刑がネットで世界中に配信されるといったことは、実際に行われているわけで、そのストレートな残酷さは、30年前には伝えられなかったことである。
私は、疑似ドキュメンタリーとはいえ、目を覆ってしまったのだが、感情が停止した人間は、何も感じないかもしれないし、興奮するかもしれないし…。
戦争にネットを利用した新たな形をこの映画で再確認し、これから世界はどうなってしまうのだろう…、と危機感を覚えた。
隣で見ていた年配のカリオカは「オー・メウ・デウス!」と叫んで顔を覆って、映画が終わったあともしばらく立ち上がれなかったようだ。
心臓悪い人にはお勧めできませんが、衝撃作です。2008.10 RIO映画祭08にて
リミッツ・オブ・コントロール THE LIMITS OF CONTROL
ジム・ジャームッシュ監督、イザック・ド・バンコレ、工藤夕貴、ジョン・ハート、ガエル・ガルシア・ベルナル、ビル・マーレイ出演☆強面の黒人の殺し屋は、ある大物の殺しを依頼されスペインへ。行く先々でマッチ箱を持った人間たちから指令を受け取り、スペイン中を旅していく。
ジャームッシュが原点に戻ったともいえる超不思議映画だった。意味不明ではあるのだが、スペインの田舎町の乾いた風景みられただけで十分。正直、映画館じゃなくてDVDだから許せる、と思えた出来だったが、この淡々とした不思議ワールドは、好きな人にはたまらないのかも。いい意味で、期待を裏切る作品だった。2010.11
ルワンダの涙 SHOOTING DOGS
マイケル・ケイトン=ジョーンズ監督、ジョン・ハート、ヒュー・ダンシー出演☆協力隊の英語教師としてルワンダに赴任した英国人青年ジョーは、地元の子供たちと触れ合い、充実した日々を送っていた。間もなく、フツ族出身の大統領が乗る飛行機が撃墜されたのをきっかけに、フツ族によるツチ族への虐殺が始まった。フツ族はかつて、ベルギー人に優遇されたツチ族に奴隷のような扱いを受けていた過去があるため、再びツチ族に支配されるのを恐れていたのだ。学校には、虐殺を恐れて多くのツチ族の人々が避難してくるが、国連軍は虐殺を目の前にして、何もすることができない。さらに国連は、ルワンダからの全面撤退を命じる…。
地元の人々と触れ合い、自分はいいことしてるのだ、感謝されているのだ、と満足感に浸っていた世間知らずの若い協力隊員ジョーに、いきなり突きつけられた現実。おびえることしかできない彼をみて、情けない奴、と蔑むことは自分にはできない。
また、社会背景も生きてきた環境もまったく違う先進国の人間にとって、ルワンダでの虐殺は野蛮で悲惨な行為に映るが、当事者でない第三者には、フツ族を一方的に非難する権利もないのである。
長い歴史、深い怨恨、社会的な利害関係…。さまざまなことが重なって戦は起こるのだろうが、目の前で殺されようとしている人間を見殺しにする国連軍は、何のためにいるのだ?ということになるし…。それぞれの言い分があり、立場もわかるし、とても難しい問題だ。
だが、「見捨てないでね」とすがる子供のために、命を張った神父の行動が、もっとも人間的に崇高な行為であることは間違いない。だからといって、誰もが真似のできることではありませんが…。映画「ミッション」で、武器を取らずインディオ達と共に死んでいった神父を思い出した。2009.12
レッドクリフ T,U RED CLIFF 赤壁 ★★
ジョン・ウー監督、トニー・レオン、金城武、チャン・フォンイー、チャン・チェン、中村獅童ほか出演☆西暦208年。漢の時代。絶大な兵力を誇る漢の丞相、曹操は、敵軍を征服し、全権を握ろうとする。
劉備軍は、なんとか曹操軍から逃げのびるが、征服されるのも時間の問題であった。軍師の諸葛亮孔明は、劉備に、敵である孫権との同盟を進言し、孫権を説得。さらに、孫権軍の大将(大都督)・周瑜と会い、 彼の知己に富んだ人間性に触れる。
あまりにも有名ではあるが、正直、ほとんど詳細を知らなかった「三国志」。小説にもトライしたのだが、読破出来ず、自分はこの物語と縁がないのかなあ、と思っていた矢先の「レッド・クリフ」である。
故事成語にもなっている言葉のルーツがここにたくさん詰まっている。それだけでも、とても勉強になる作品なのだが、そんなことをまったく気にせず、単純な大スペクタクル・エンタメ映画としても、十二分に楽しめる。
ド迫力の巨大兵力。槍や刀を使った戦闘シーン。そして、トニー、金城、チャン・チェンらスターたちの競演。
当初は、ユンファが周瑜で、トニーが孔明の予定だったらしいが、周瑜は絶世の美女を妻に持つ色男役なのでトニーがぴったり。予定が狂って大正解である。
衣装やセットも抜け目なく、ストーリー展開もお見事!
男だらけの殺伐とした戦の話の中に、間者として敵地に忍び込んだ勇敢な妹のちょっとした恋愛ドラマや、周瑜の妻を巡る男たちの心理戦なども盛り込まれ、老若男女問わずに楽しめる展開になっている。さらに、クライマックスに向けた男たちの気持の高ぶりがジワジワ伝わってきて、つい興奮状態に陥った。かっこいーっ!!
「ジョン・ウーまだまだ健在。どうだーっ!見てみろ!」って言いたげな自信作。
レビュー書いてるだけで、あのときの興奮を思い出してしまった。
1と2を通しで、もう一度大画面で見てみたい作品である。
レイチェルの結婚 RACHEL GETTING MARRIED ★
ジョナサン・デミ監督、ジェニー・ルメット脚本、アン・ハサウェイ、ローズマリー・デウィット、ビル・アーウィン、デブラ・ウィンガー アビー☆長女レイチェルの結婚式に家族や友人が集まる中、妹のキムも更生施設から一時退院してきた。家族はキムとの再会を喜ぶが、キムは家族団らんに溶け込めない。キムは薬に溺れた末、幼い弟を誤って死なせてしまった過去に苦しんでいた。
一見、幸せそうな裕福な一家。リッチでお洒落な家族や友人たちに囲まれ長女の結婚準備は進んでいく。が、そこにうまく溶け込めない妹キムは、姉や父、母たちと衝突を繰り返す。キムのあまりにも不器用で攻撃的な態度を見て「うざい女」「迷惑だわ」「気の毒ね」と傍観するのは、第三者なら簡単なことだ。でも、家族にはそれが出来ない。ぶつかり合いながらも彼女を支える運命を背負ってしまっているのだ。
この映画を傍観できた人は、ある意味幸せな人なのだろう。
姉レイチェルや父に感情移入した人、またはキムの苦しみを自分のことにように受け止めてしまった人にとっては、正直辛い映画である。 上手く社会に適応できず、引きこもっている人、薬に頼らざるを得ない人、そしてその家族…。 日本では欧米ほど、問題を抱えた家族が表に出てこないだけに、事態はより深刻なのかもしれない。
結婚式前の夕食会での賑々しい雰囲気、食器洗いを父と新郎が競う楽しそうな場面など、ハッピーそのものなのだが、キムは、心から楽しもうとしてカラ回りしてしまう。
「みんなのように、楽しみたいのに、どうして私はいつもこうなってしまうの…」キムの苛立ちや心の叫びが画面から伝わってきて、いたたまれない気分になった。
それでも、見終わった後、何かしらの感動と希望を与えてもらえたのは、諦めず、キムと正面から向き合ってくれた姉と父のおかげ。歯の浮くような励ましの言葉はなくても、ちょっとした家族の気遣いがキムの再生を感じさせた。脚本は巨匠、シドニー・ルメットの娘ジェニーということ。しっかりDNA受け継いでいるようです。監督としても出てくることでしょう。今後のジェニー・ルメットに期待大。2010.2
レッド・バルーン LE VOYAGE DU BALLON ROUGE
ホウ・シャオシェン監督、ジュリエット・ビノシュ、シモン・イテアニュ、ソン・ファン出演☆パリで赤い風船を見つけた少年シモンは、新しいベビーシッターのソンから「赤い風船」の話を聞く。一方、シモンの母は、カナダに行ったまま帰らない夫や、家賃を滞納している下宿人に腹をたて、苛立つ日々を送っていた。
パリの町をゆっくりと進む大きな赤い風船と、かわいいフランス少年。この絵になる風景と、苛立つ母のドラマは、一見、何の関係もないようだが、不思議と違和感なく見ることができた。ホウ・シャオシェン監督作品からはしばらく離れていたのだが、久々に見て、その感性の鋭さを再確認。パリで一人で頑張っちゃってる母の思いを乗せ、あの赤い風船はいったいどこに行くのだろう。
「寂しいのはみんな一緒だよ」赤い風船がそう言っている気がして、とても心が癒されました。2009.11
レスラー THE WRESTLER
ダーレン・アロノフスキー監督、ミッキー・ローク、マリサ・トメイ、エヴァン・レイチェル・ウッド出演☆80年代の人気プロレスラー、ランディは、中年になっても場末のリングで現役を続けている。ある日、心臓発作を起こして引退を示唆されたランディは、中年ストリッパーのキャシディに救いを求める。
多くのスポーツ選手は、10代〜20代に栄華を迎え、30代で引退を余儀なくされる。
人生80年の折り返しすら向かえない段階で、栄光の人生から退くことを強いられるのだ。覚悟はしていることだろう。うまく第2の人生を歩める人もいるだろう。でも、多かれ少なかれ、まったく違う生き方に戸惑い、挫折を経験するのではないだろうか。
ランディもそんなスポーツ選手の一人である。過去の栄光が忘れられず、いつかもう一度、スポットライトを浴びることを信じている。器用に再スタートを切れなかった男の悲しい末路、と憐れむのは簡単だが、彼の痛々しいまでのストレートな生きざまに、男の美学を感じた。「俺にはこれしかない」と、開き直るまでの、ぐずぐず感もよくわかる。
彼のような元スポーツ選手だけではない。一般の中年会社員だって、残りの30年、40年を散歩だけで終わらせたくない、という思いはそれぞれ持っているだろう。
自分の人生をどう全うするか…。答えは、人の数だけある。
若い頃には思いもしなかった課題を、今、目の前に突き付けられている。答えはなかなか見つからないのだが、ランディのように、ぐずぐずしながら、私も何かを見つけたい、と思った。元セクシー俳優ミッキー・ロークの見事な崩れぶりにも驚いたが、大のお気に入りであるマリサ・トメイの脇役としての存在感が光っていた。いい年の取り方してますね。 2010.1
恋愛睡眠のすすめ THE SCIENCE OF SLEEP
ミシェル・ゴンドリー監督、ガエル・ガルシア・ベルナル、シャルロット・ゲンズブール出演☆メキシコ人のステファンはパリのアパートで隣人ステファニーに恋をする。彼の妄想はいつしかエスカレートし、現実と妄想の区別がつかなくなってしまう。
「エターナル〜」路線を突っ走った奇妙奇天烈映画。玩具のような小道具やファッションは、キュートで楽しいのだが、相変わらずストーリー展開がぶっ飛びすぎていてついていけず。残念 参考CINEMA:「ヒューマンネイチュア」「エターナル・サンシャイン」
ロフト.LOFT
エリク・ヴァン・ローイ監督、ケーン・デ・ボーウ、フィリップ・ペータース、ブルーノ・ヴァンデン・ブルーク出演☆建築家のビンセントは、4人の友人に自分の建てたマンションのロフトルームを共有しようと持ちかける。その一人、堅物の精神科医は最初、鍵を受け取らなかったが、市長の愛人と親しくなったのをきっかけに、仲間に加わってしまう。まもなく、ある女の死体が発見された。5人の男たちはロフトに集まり、犯人捜しをはじめる。
ベルギーで大ヒットしたスタイリッシュなサスペンス。妻に隠れて女と密会するための秘密の部屋、と聞いて思い出したのは押尾学の事件。日本でもセレブは同じようなことしてるんだろうなあ。
過去と現在の行ったり来たり感もグッド・タイミングで5人のキャラもそれぞれ個性的。ハリウッドがリメイクしそう。でも、なぜかゾクゾクこなかった。男も女も誰に対しても共感できるものがなかったからかもしれない。金持ちでインテリの男どもがゲームのように女を弄ぶ姿にはムカついた。女の逆襲が見たかったのだけど…。2009.11
ロルナの祈り LE SILENCE DE LORNA
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督、アルタ・ドブロシ、ジェレミー・レニエ出演☆アルバニアからベルギーにやって来たロルナは、国籍を取得するため麻薬中毒のクローディと偽装結婚をする。国籍取得が決まり、恋人との逢瀬を楽しむロルナだったが、薬を止めようともがくクローディを見ているうちに情がわいてしまう。
だが、偽装結婚の仲介人は、ロルナとロシア人との偽装結婚話を進め、はやく離婚するよう詰め寄る。
国籍を得るための偽装結婚なんて、ヤクザな別世界のお話、とかつては思っていたのだが、ブラジルで「国籍がほしい」と、思ったときに思い浮かんだのは偽装結婚だった。
国籍がないと、自分の力で仕事を探すことも、学校に通うことも、家を借りることもできない。その自由のなさに愕然としたものだ。情報化がすすみ、どこにいても世界中のものが手に入る時代にはなったが、人が自由に自分の意志どおりに生きられる範囲というのは、意外に狭いものなのかもしれない。
それだけに、ロルナの浅はかな行動にも同情出来るし、薬中の青年が藁をもつかむ思いで彼女にすがろうとするのもよくわかる。人間の寂しさや不安感を見事についた作品だった。ダルデンヌ作品の特徴であるハンディ・カメラも巧みに使われていたし、役者たちの自然な演技も素晴らしかった。ただ、「ある子供」を見たときのようなグサッとくる何かを感じなかったので、ちょっと拍子抜け。見慣れてしまったせいもあるかもしれないが、あまり印象に残らない映画だった。参考CINEMA:「ある子供」「息子のまなざし」「ロゼッタ」
ロスト・ストーリー 現代の奇妙な物語 Stories of Lost Souls
マーク・パランスキー、トア・スタッパー、イリアナ・ダグラスほか監督、ケイト・ブランシェット、ポール・ベタニー、ジョシュ・ハートネット、イリアナ・ダグラスほか出演☆有名スターたちが出演した全7話のオムニバス映画。母親と暮らすストレスフルなOL役を演じたケイト・ブランシェットにはちょっと驚き。いつもクールな役が多かったので、等身大の普通の女性役に好感が持てた。もっとも面白かったのはイリアナ・ダグラスが監督主演したスーパー。女優がスーパーで働いていたら、という設定がケッサクだった。2010.6
倫敦(ロンドン)から来た男
タル・ベーラ監督、ミロスラヴ・クロボット、ティルダ・スウィントン、ボーク・エリカ出演☆港で働くマロワンは、ロンドンから来た殺人犯と遭遇する。まったりとしたテンポ、ほとんど台詞のない前半、そしてモノクロ写真のような色合いの映像…。
たっぷり睡眠とったあと、精神が研ぎ澄まされた状態で映画館で見たら、細部までしっかり見れてそれなりに堪能できたかもしれないが、家のカウチだと、そのテンポの単調さについていけず、さっぱり訳がわからずじまいでした。2010.12
ワンダーラスト FILTH AND WISDOM
マドンナ監督、ユージン・ハッツ、ホリー・ウェストン、ヴィッキー・マクルア出演☆ロンドンの下町で暮らすウクライナ移民のAKは、SMプレイの相手をする日々を送っている。ルームメイトのホリーはバレリーナ志望だが、ストリップバーで踊り子のバイトを見つけ、アフリカにボランティアに行くことが夢のジュリエットは薬局で働きながら薬中毒の日々…。そんな若い移民3人の姿を淡々と追った青春ドラマ。
マドンナ監督!というから、豪華キャスト&お洒落な若者の映画かと思ったら、スットコドッコイ。テイストはカウリスマキ風。その意外性についついひきこまれた。
まあ、マドンナぐらになると映画は趣味で、今さら大ヒットさせる必要もないだろうし、自分が惚れこんだ俳優のために一肌脱いだ、という感じなのでしょう。AKの脱力感が心地よく、こいつは信用出来るな、と思わせる魅力的な男だった。ウクライナ移民、というマイナーな人々にスポットを当て、そこに絡むインド移民との違いもさりげなく描かれている。電車にも乗らないトップスターなのに、隅っこで生きる人間たちをこんな風に描けるマドンナってやっぱりスゴイ。 だからマドンナはいつまでもたっても飽きられないのかもしれません。2011.2
忘れ得ぬ女 CALL GIRL (ポルトガル)
アントニオ=ペドロ・ヴァスコンセーロス監督、ソライア・シャーヴェス、イヴォ・カネラシュ、ニコラウ・ブレイネ出演☆ポルトガルにある田舎町の町長は、妖艶なコールガールを愛人にし、夢中になるが、彼女との情事は仕組まれたものだった。一方、刑事はかつて愛したことのある女が、町長の愛人となっていることを知る。
エロが全面に出ている作品ではあるのだが、よくできた犯罪映画だった。コールガールを演じた女優は危ない魅力たっぷりで、ぶれない悪女ぶりが堂に入っていた。もっといろいろポルトガル映画も見てみたい、と思わせる力作だった。2010.4
わたしの可愛い人―シェリ CHERI
スティーヴン・フリアーズ監督・ナレーション、コレット原作、ミシェル・ファイファー、ルパート・フレンド、キャシー・ベイツ出演☆舞台は1906年のパリ。高級娼婦ココットのレアは、元同業者マダム・プルーの息子フレッド(シェリ)を紹介され、恋愛の教育係として付き合いはじめる。やがて、二人は本気で愛し合うようになり、6年が過ぎる。だが、シェリは10代の娘と結婚。傷心のレアはパリを離れるが…。
綺麗だけど老いは隠せないミシェル・ファイファーの存在感は突出していたが、ドラマ展開が退屈で、睡魔との闘いだった。フリアーズ監督作のファンだけにがっかり…。2010.11
私の秘密の花 LA FLOR DE MI SECRETO
レビューは CINEMAの監督たち(ペドロ・アルモドバル)へ
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【映画祭等で観賞した邦題なし作品】ABC順
AFRICA UNITE
Stephanie Black監督☆ボブ・マーリーの子供たちが、エチオピアでレゲエ・ライブを行った模様を伝えた音楽ドキュメンタリー。ボブ・マーリーの当時の映像や、彼の半生が描かれるのか、と思って期待していたのだが、メインは後継者たち。
ユニセフの宣伝映画みたいで拍子ぬけ。ボブ・マーリーは平和の使者だったの?!もっと、当時は衝撃的でアナーキーなイメージだったのでは?ユニセフのアルコール臭がプンプンしてきた。残念。2008.10 SP映画祭08にて
Actresses (2007年・フランス)
Valeria Bruni Tedeschi監督・主演、Noemie Lvovsky, Louis Garrel, Mathieu Amalric, Marysa Borini Contacto出演☆サルコジ大統領の新妻の姉が監督・主演という話題性だけで見に行ったが、期待以上に面白くてびっくり。舞台はパリのテアトロ。40歳で独身の舞台女優が、仕事や結婚、出産等々のことで、悩みながらも奮闘するライト・コメディ。
設定は自分と随分かけ離れてはいるのだが、独身ハイミスの悩みは世界共通。出産のデッドラインを目の前にして、結婚、出産、仕事等、いろいろな悩みを抱えた女性のリアルな生活をコミカルに描いていた。
何をやってもうまくいきそうでいかないのが人生。若い役者にちらりと心をときめかせたり、友人の赤ん坊に授乳しようとしてみたり…。いろんなことで、焦りを感じる年頃なんですよ。気持ち、よーーーーくわかります。
人と人って完璧な関係はありえない。つねにあやふやな部分がある。それが人生だわねー。なんて、妙に達観してしまいました。&女優の母とおばさんのキャラがケッサク。若い英語教師に色目を使うシーンは、笑わせてもらいました。2008.4.ブエノスアイレス映画祭にて
A Outra Margem (07年・ポルトガル)
Luis Filipe Rocha監督、Filipe Duarte, Maria d'Aires Tomas Almeida出演☆ゲイバーの歌姫リカルドは、突然、恋人を失い失意の日々を送っていた。田舎でダウン症の息子バスコと暮らす姉マリアは、憔悴したリカルドを田舎に連れていく。
愛する者を失った男と、純粋な甥っ子ヴァスコとの心温まるふれあいを描いたハート・ウォーミングな人間ドラマ。
のどかな田舎で純粋に生きてきたヴァスコは、男を愛し、毒々しい化粧をし、ドレスを身につけた異物であるおじさんから刺激を受け、少しずつ大人の世界を知っていくのだが、その過程の描き方が丁寧で、ヴァスコを演じたダウン症の役者も自然に演じていた。ヴァスコを取り巻く人たち、母、祖父、そして叔父の距離感も心地いい。溺愛もせず、エキセントリックにもならない大人たちが、ヴァスコの純粋さに心いやされながら生きている。ほんとにいい家族だわ〜。なーんて、しみじみ感じてしまいました。
ポルトガル語の映画だったのだが、字幕付きだったので、語学が苦手な私には助かりました。聴覚障害者でも見れるように、との配慮なのでしょう。
ダウン症の映画というと傑作「8日目」を思い出すが、また違った温かみのある映画だった。2008.11
Ballast (2008年・アメリカ)
Lance Hammer監督、 Micheal J. Smith Sr.、JimMyron Ross、Tarra Riggs出演☆ミシシッピーの寒村で母と暮らす少年ジェイムスは、拳銃を手に、スーパーマーケットを営む孤独な男の家を訪れる。拳銃をキーポイントに、孤独な人間達が不器用に近づいていくまでを、淡々と追ったドキュメンタリータッチの秀作。まだまだ荒削りで退屈なシーンも多かったが、銃、母子家庭、貧困というアメリカ社会の問題点をしっかりととらえているし、拳銃を手にしてしか人に近づけない少年、という設定も興味深かった。監督の今後に期待大。2008.4.10 ブエノスアイレス映画祭にて
Choke (08年・アメリカ)
Clark Gregg 監督、サム・ロックウェル、アンジェリカ・ヒューストン出演☆テーマパークの俳優ヴィクターは、セックス依存症でセラピーに通っていたが、まったく効果のない日々を送っている。痴ほう症の母が暮らす施設へ見舞に行き、施設の若い医者にさっそく欲情する始末。一方、母は息子を認識できず、ビクターの友人を息子と思って抱擁。母の愛に飢えたビクターは、自分の父親探しを始めるが…。
性欲を抑えられない愛に飢えたモラトリアム男役がサムのくだけた風貌にぴったり。さらに、ビクターを超個性的に育て上げたパンクな母役はアンジェリカ!これまたドンピシャ。久々にアンジェリカをスクリーンで見たが、老けてもカッコイイ。
セリフもおそらくウィットにとんでいたのでしょうが、早すぎて理解できず。日本でDVD化されたらもう一度見てみたい。監督はTVや映画に年中でてる脇役俳優のようです。2008.10 RIO映画祭08にて
Duska (07年・オランダ)
Jos Stelling監督、Gene Bervoets、Sylvia Hoeks、Sergei Makovetsky出演☆孤独な映画監督ボブは、近所の映画館で切符係をやっている若い美女に心を奪われ、ひそかに後をつけ始める。彼氏とけんかした場所に居合わせたボブは、部屋に誘うことに成功。だが、そこへ、奇妙なロシア人デュスカが現れる。
孤独な男と風変りな男の奇妙な友情をコミカルに描いた作品。
やることなすことすべてが迷惑。でも、本人にちっとも悪気はないのだから、さらに厄介。そんなデュスカに付きまとわれ、気が狂いそうになりながらも、放り出せないボブ。彼の気持ち、よーーくわかります。
デュスカのキャラは、Mr.ビーンや志村けん演じる「変なおじさん」に、哀愁を漂わせた感じ。演じているのはロシア人俳優らしいが、おそらくかなり有名なコメディアンなのでしょう。堂に入ってました。デュスカは、実在するのか、はたまたボブの想像の産物なのか。夢か現実かわからない不思議な雰囲気も醸し出していた。 2008.10 SP映画祭08にて
El Greco (07年・ギリシャほか)
Iannis Smaragdis監督、Nick Ashdon, Juan Diego Botto, Laia Marull出演☆クレタ島の画家が、ベネチア、ローマ、そしてスペインにわたり、画家として成功を収めながらも、横暴な司祭に嫌われ、裁判にかけられるまでを、ドラマチックに描いた伝記映画。名前は知っていても、どういう生い立ちか知らなかったので、勉強にはなったが、映画としての魅力は特に感じず。クレタ島出身の男がなんで英語しゃべってるのか不思議で、そればかり気になってしまった。どうせなから、全部スペイン語でもよかったのでは? となりに座っていた気難しそうなおじさんは、30分で席を立っていました。2008.10 SP映画祭にて
ゴモラ GOMORA (08年・イタリア)
マッテオ・ガローネ監督☆ナポリにある巨大な団地で暮らす人々と、犯罪組織との関わりを乾いた視点で描いた衝撃のドキュメンタリー風バイオレンス作品。
マシンガンをおもちゃのように扱う若者、子供に防弾チョッキを着せて根性試しをするマフィア等々、容赦ない暴力、裏切りがまん延する冷酷な世界が描かれている。男も女も老人も子供たちも、暴力の世界と何かしらのつながりを持たずにはいられない特殊な空間が、ナポリの町にも存在しているということにぞっとした。
さまざまな人間が出てくるので、スペイン語字幕だけの鑑賞では、一つ一つのエピソードを理解するのは無理と判断し、映像を目で追うことだけに専念。それが功をそうしたのか、淡々とした映画のリズムに乗ることができた。
ゴモラとは聖書に出てくる退廃した町の名前だが、そのままずばりのタイトル。小説も面白そうなのでぜひ読んでみたい。
“命の軽さ”はブラジル映画「シティ・オブ・ゴッド」に通じるものあり。「シティ〜」ほど躍動感はないのだが、それだけにリアルで鳥肌が立つほど恐ろしく感じた。
サンパウロ映画祭ではチケットがとれず、見逃したので、ハバナ映画祭で鑑賞したのだが、キューバでも大人気でした。今年のヨーロッパ映画賞総ナメのようですし、日本でもおそらく公開になるでしょう。2008.12 ハバナ映画祭にて
HANAMI Kirschbluten (08年・ドイツ)
ドリス・デリエ監督、Elmar Wepper, Hannelore Elsner, Aya Irizuki出演☆初老の妻は、夫の命が残りすくないことを医者から聞かされ、都会に暮らす子供たちを訪ねる旅にでる。日本びいきの妻は、日本の現代舞踏に魅せられるが、夫は興味を示さない。そんな妻が旅先で急死した。
夫は、悲しみを抱いたまま、息子が住んでいる日本を訪れる。
ビルだらけで味気ない大都会東京、なかなか姿を見せない富士山などなど、異国の人が抱きがちな奇妙でエキゾチックな日本ではなく、等身大の真の日本の姿が描かれていることに好感をもった。この監督は、かなりの日本通なのだろう。
カット割りや、ゆったりとしたテンポは、昔の日本映画をみているようで、なつかしい気分になったし。主役を演じた二人の演技がGOOD! とくに夫を演じたElmar WepperがGOOD!。妻を亡くしてから戸惑いの日々をおくる初老の男の寂しさがジワジワと伝わってきた。
ブラジルの観客には、この淡々としたノリは退屈では?と、心配もしたが、上映後、拍手が起こっていた。親日派が多いサンパウロならではの温かい反応に日本人としてちょっぴりうれしくなりました。08年ドイツ映画賞銀賞受賞。2008.10 SP映画祭08にて
Iklimler (06年・トルコ)
ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督・主演☆大学の講師イサは、TV局で働く若い彼女バハールとの旅行先で、彼女に別れ話を切り出す。彼女は激しく動揺するが、一人去っていく。一度は昔の女とよりを戻したイサだったが、バハールの近況を聞くと、急に彼女が懐かしくなり…。
大人になりきれないマザコン気味のモラトリアム男イサ。勝手で子供っぽいけどこか魅力があり放っておけない、女にとってはやっかいなタイプである。いわゆる勝手な中年男の自分探しドラマで、正直、苦手な分野。だが、ストーリー展開よりも、映像の面白さに魅せられた。
別れを決めた夏の海岸と、再会した雪の村のコントラストも絶妙だし、風景描写も秀逸。また、イサとバハールのベッドシーンのカメラアングルもアーティスティックで凝っている。
作風的には、キム・ギドク作品とホウ・シャオシェンの過去の作品を足して2で割った感じ、とでもいおうか。ジェイラン監督は「Three Monkeys」でカンヌで監督賞を受賞したトルコの期待の星。今後の作品にも要注目だ。2008.12
IL DIVO (イタリア・07年)
パオロ・ソレンティーノ監督、Toni Servillo、Anna Bonaiutosyu出演☆76年から92年まで、7回も首相を務めたキリスト教民主党(DC)の大物政治家ジュリオ・アンドレオッティの半生を、シニカルに描いた社会風刺ドラマ。
モーロ首相暗殺はテロ集団「赤い旅団」がやったのだと思っていたが、実は対立した政治家が絡んでいたとは…。ケネディ暗殺もニクソンが絡んでいるっていう噂だし、政治家の死の影には政敵あり、ということでしょう。
まだまだ最近の話だし、本人は存命みたいだし、こんなに首相のキャラを面白おかしくしちゃっていいの?と、余計な心配してしまうぐらいにコミカルで、音楽もリズムも超ポップ。黒い政治家たちを、徹底的にちゃかしてしまうイタリア映画界の懐の深さに感心させられた。
台詞が難しくて、詳細までは理解できなかったのだが、無表情で神経質な政治家ジュリオ・アンドレオッティのコミカルな動きを見ているだけでも十分楽しめた。主演のToni Servilloは話題の「GOMORA」にも出演しているようだ。ベテラン役者の演技もブラボー!でした。カンヌで特別賞受賞も納得の意欲作だ。2008.10 SP映画祭にて
Il seme della discordia(伊・2008年)
Pappi Corsicato監督、Caterina Murino, Alessandro Gassman, Martina Stella、Isabella Ferrari出演☆ブティックで働く美しい人妻ベロニカは、ある晩、暴漢に襲われる。気を失い、何が起こったのか覚えていないベロニカは、助けてくれた警官に礼を言い、何事もなかったように日常生活に戻る。まもなく妊娠が判明した。だが、夫は子供を作れない体質だとわかり、家を出て行ってしまう。ベロニカは、暴漢に襲われたときの記憶をたどり、自分を犯した男を探しはじめる。
暴漢に襲われ妊娠する女性の話ではあるのだが、シリアスになりがちなテーマを、軽ーくコミカルに描いている。
主演の女優はモデルのように美しく、カラフルなファッション、歩く姿、街並など、すべてが軽く、まるで現実味がない。ポップな色調はアルモドバル映画に似ていなくもないが、あちらは、もっとしつこく激しくじっとりしている。この映画は、カラッカラに乾いているので、事件が起こってもあまり心に引っかからず、あっさりスルーしていく。まるで人形たちが演じているような感覚なのだ。
ベネチア映画祭のコンペ作ということで、期待しすぎた感はあるが、軽ーいコメディと割り切って見れば、なかなか楽しい作品です。
暴漢探しの後半、もっとハチャメチャにすれば(たとえば「神経衰弱ぎりぎりの女たち」のように)なあ。惜しいデス。2008.11
Lemon Tree/ Etz Limon (07年・パレスチナ)
エラン・リクリス監督、ヒアム・アッバス、アリ・スリマン出演☆パレスチナ自治区に住むサルマは、父から受け継いだレモン果樹園を大事に守ってきた。だが、果樹園の隣にイスラエル政府の要人一家が引っ越してきたことで事態は一変。果樹園はイスラエルとパレスチナの境界線となり、フェンスが建てられてしまう。
サルマは弁護士に相談し、イスラエル政府に対して裁判をはじめる。
まもなくサルマの行動は、マスコミからも注目を浴び始めるが…。
(以下、ネタバレあり)
イスラエルとパレスチナ。日本からもブラジルからも遠い中東で続いているいがみ合いは終わりが見えず、2009年、年明け早々から、激しい爆撃戦のニュースが各国を駆け巡った。
この映画は、そんな地域で起こった一人の女の戦いのドラマである。
戦い、とはいっても、無残な殺し合いや、暴力シーンはほとんど出てこない。
中年女サルマは、武器を持って応戦もしないし、危険な目にあうこともない。突然の軍隊の家探し、脅し、そして、苛立ったサルマが隣人宅にレモンを投げこむ程度である。
だが、心理的にサルマは戦い続ける。ときには、一人、台所で涙を流しながら、レモンの木を守るために。
最初は不安げで、アメリカに住む息子に助けを求めたりするのだが、自分の意志で立ち上がり、弁護士とともに法廷に立つことを決意するサルマ。
戦い始めた彼女の表情が、徐々に凛として、美しくなっていくのが印象的だ。
一方、みるからにブルジョワ階級のイスラエル要人の妻は、フェンスの向こうのレモン果樹園を毎日眺め、サルマの黙々と働く姿をみているうちに、彼女に興味を持ち始める。
二人の交流が始まり、友情が生まれれば万々歳なのであるが、イスラエルとパレスチナの関係のように、そう簡単には行かない。
すぐ目と鼻の先に暮らす同年代の女性でありながら、言葉を交わすことも、握手することもできない。要人の妻は、1度はサルマに近づこうとするのだが、それもボディーガードによって阻まれてしまうのだ。
戦闘シーンや爆撃の犠牲になった一般市民の痛々しい姿は、毎日のようにニュースで目にしている。戦場と化したパレスチナは、はたから見ると、人間が安全に暮らせる場所とは思えないし、多くの人がニュース映像を見て「ひどい」「気の毒」「かわいそう」、などと同情しているだろう。
だが、実際にそこで暮らすサルマのような人々には、そんな同情心は役にはたたない。
自分たちの生活を維持するために、働かなければならないし、タフにならなければ生き抜けない、という状況にあるのだ。
サルマの孤独な戦いが、マスコミに取り上げられ、アメリカで暮らす息子が、TVで母の姿を見て驚くシーンがあるのだが、息子でさえも、パレスチナで起こっていることが他人事のように感じてしまう。それほど、パレスチナの現状が特殊であるということだろう。
エンデイング。裁判が終わり、結局、レモン果樹園はつぶされてしまうのだが、サルマは逃げたり絶望したりしない。それでもパレスチナで生きる道を選んだ彼女に、ささやかな希望を感じ、潔い彼女の姿に爽快感さえ覚えた。
サルマを演じた名女優ヒアム・アッバスの凛とした美しさは圧巻。「にっぽん昆虫記」の左幸子や、「グロリア」のジーナ・ロランズに通じるかっこよさだ。
最後にもう一言;サルマを助ける若い弁護士を演じたのは、「パラダイス・ナウ」で、軽い気持ちで自爆攻撃に参加してしまうハーレドを演じたアリ・スリマン。
この映画でも熱血青年弁護士を好演しています。2009.1
Love Liza (2002年)
Todd Louiso監督、フィリップ・シーモア・ホフマン、キャシー・ベイツ出演☆妻の自殺から立ち直れないウィルソンは、ガソリン中毒に陥り、自堕落な生活を送っていた。ある日、自分あてに妻が残したと思われる手紙を見つけるが、ウィルソンは中を見ることができない。
愛する人が突然自殺したら、残されたものは誰でも「なぜ?」という疑問や罪悪感を抱くものだ。自殺は罪。こういう喪の苦しみを描いた映画をみるとつくづく思う。
一方、自殺するまでの苦しみ、というのも理解できなくはないし…。自殺をしようとする人は、残された人に対する「感謝」を残すのが、最低限の礼儀なのかもしれないなあ。などと、いろいろ考えてしまった。それだけ、フィリップの演技がリアルで素晴らしかったということ。地味だし暗いし、ガソリン中毒の話だからか、日本では残念ながら未公開。2008.1
Pas a nivell(2007年・スペイン)
Pere Vila i Barcelo監督☆スペインの海の町でジェットスキー貸し出しのバイトをしている青年の怠惰な日常を、そのまま切り取った作品。
ドラマは下宿屋のおばあちゃんの突然の死だけ。その直後、少しだけ彼に変化が見られたものの、基本的には退屈な日常は続いていく。
とても現実的ではあるのだが、退屈な日々を2時間、大画面で見せられるのは、ちょっときつかったです。2008.4.11 ブエノスアイレス映画祭にて
Sonic Mirror (2007年・フィンランドほか)
Mika Kaurismaki監督☆サルバドールの太鼓グループ「Male de bale」の子供たちと一緒に演奏するドラマー、Billy Cobham(マイルス・デイビス・グループの元ドラマー)と、スイスの養護施設でのコンサートの模様をつづったドキュメンタリー。ブラジルとスイス、まったく違う国、環境ではあるのだが、音楽を楽しむ気持ちに国境はない。
演奏シーンと日常シーンが、絶妙に構成されていて、楽しいミュージック・ドキュメンタリーだった。アキ監督とは別路線で音楽映画を作っているミカ監督の次回作にも期待したい。2008.4.10 ブエノスアイレス映画祭にて
TEZA (08年・エチオピアほか)
Haile Gerima監督、Aaron Arefe, AbeyeTedla, Takelech Beyene出演☆1990年。エリート薬学者のAnberber は、心身の傷を癒しに、老いた母の暮らすエチオピアの村へ戻ってくる。毎晩のように悪夢にうなされながらも、少しずつ普通の暮らしを取り戻していくAnberber。
そして、70年代、西ドイツで仲間たちと社会主義運動に目覚めた日から、激しい弾圧や差別の日々、親友の死について、少しずつ、振り返っていく。
40年代、エチオピアが戦争状態にあり、イタリアの植民地であったことなど、まったく知らずに見たのだが、アフリカの多くの人々が、ヨーロッパからの独立を目指して闘ってきた、という歴史を知る上で、とても貴重な映画だ。
エリート学者でありながら、政治の荒波にのみこまれてしまう国の状況。嘆かわしいことだが、それが今のアフリカ諸国の姿であり、自分たちで改革していくしか道はないのだろう。
毎度のことだが、斧での殺戮シーンは残酷すぎる…。
エチオピアの田舎の、のどかな夜明けのシーンだけが、心を静めてくれた。実話ではないようだが、実際に、多くのアフリカ人が殺されていることは事実。
夜明けは近いか遠いのか。近いことを祈りたいが…。過去と現在の切り替わり方が絶妙で、見ていて飽きがこなかった。監督はエチオピアのベテラン監督とのこと。まだまだ、世界には知られていない名監督がいるようだ。ベネチア映画祭で審査員特別賞・脚本賞を受賞したのも納得の完成度の高い1本だ。2008.10 SP映画祭にて
Un giorno perfetto (伊・2008年)
Ferzan Ozpetek監督、Isabella Ferrari, Valerio Mastandrea, Valerio Binasco出演☆エマは夫と別れ、テレフォン・アポインターの仕事をしながら、二人の子供を育てている。一方、別れた夫アントニオは、ある要人の元で働くエリートだ。
アントニオは、エマに復縁を迫るが、エマは拒否。激高したアントニオは、エマに激しく暴力をふるう。命からがら逃げ出したエマだったが、アントニオは、二人の子供を連れ出し…。
生活に疲れ、やつれた娼婦のようなエマと、ビシッとスーツを決めた好男子アントニオ。
その風貌だけで判断すると、エマはアントニオの元へ戻ったほうが幸せなのでは、と思ってしまうが、アントニオは、恐ろしい鬼のような一面を隠し持っている。
エリート男がとんでもないストーカー暴力夫、というのは、ニュースなどでよく聞く話ではあるのだが、アントニオのような悲劇を呼び込む男に惚れられたら最後、地獄から抜け出せないのだ、と考えると、恐ろしくなった。
かなりショッキングな映画。あんなに暴力振るう夫なんだから、娘が「大丈夫だよ」って電話をしても、普通は信用しないよ等々、疑問に思う箇所もあったのだが、アントニオとエマを演じた二人の迫真の演技が素晴らしかったのでヨシとしましょう。
二人とその子供たちの話だけでも、十分ドラマチックなのだから、アントニオの上司とその家族の話は邪魔くさかった。若い妻と腹違いの息子の恋物語なんて、この映画の流れと関係ないじゃーん、と、つっこみたくなりました。
いろいろな話がてんこもり過ぎると、焦点がぼけて気持ちが高揚しないのよねえ。
力作ではあるんだけど、欲張り過ぎが災いして、傑作になり損ねた感あり。残念!2008.11
THE STRANGER IN ME (08年・ドイツ)
Emily Atef監督、Susanne Wolff, Johann von Buelow, Maren Kroymann出演☆フラワーアーチストのレベッカは待望の子供を授かるが、出産直後から、子供や夫へ愛情を感じない心的障害に陥る。自殺を図ったレベッカは、病院で治療を受けながら、徐々に感情を取り戻していく。
育児ノイローゼというと、幼児虐待、と考えがちだが、この映画のケースは虐待ではなく、無感情。育児を放棄し、すべての人間とコミュニケーションをとれなくなる病だ。
子供を生き物として扱えず、人形のように赤ん坊を風呂に沈めてみたり、置き去りにしてしまうレベッカは、妊娠中の穏やかな顔とは別人のようである。こんなに違うのに夫が気づかないっていうのが問題ありとも思ったが、夫婦なんて案外そんなものかもしれない。
この映画では、障害に陥ったレベッカが再生するまでの治療期間が丁寧に描かれている。
ゆっくりゆっくりケアし、徐々に病が治ってくると、今度は本当に回復したのか信用できない回りとの確執が生まれる。ここで対立てしまうと、また、病気が再発したり…。
本人はもちろん、まわりも大変だろうなあ。などと、溜息つきながら見てしまった。
病気の妻と自分の家族の間に挟まれ、疲れ切った夫を、レベッカがやさしく抱きよせるエンディングは秀逸。映画は終始レベッカの視点から描かれていたものの、個人的には、突然の妻の発病、自殺未遂、そして乳飲み子の世話、と、気を抜く暇のなかった夫に感情移入していたので、このラストは自分が救われた気分になった。コンペ部門の作品賞&女優賞ダブル受賞も納得の良質の心理ドラマだった。監督は、ドイツの新人女性監督。今後の作品にも注目だ。2008.10 SP映画祭にて
Warsaw Dark
クリストファー・ドイル監督、Anna Przybylska、Jan Frycz出演☆ワルシャワに住む若い踊り子が、車中で政治家の相手の真っ最中、政治家が殺された。目撃者となった踊り子は、ある部屋に監禁されるが、監視役の男は、女に心を奪われ…。
Wカーウァイ作品で知られるCドイルが、ワルシャワを舞台に監督した作品。
アンニュイな雰囲気、青白い映像は、ドイルらしさを感じたが、ストーリーはなんだかよくわからず…。あんまり退屈なので、カーウァイ作品との差は何だろう、と考えながらみたのだが…。なぜにワルシャワを選んだの? カーウァイ作品のあの雰囲気は、やはり中華圏ならではの世界なのかも。雑然とした街や派手な看板が背景にあれば、ドイルの手腕が生きてくる気がした。残念。2008.10 SP映画祭08にて
Yo (2007年・スペイン)
Rafa Cortes監督、Alex Brendemuhl出演☆小さな村に仕事にきたドイツ出身のハンスが、前任者で同じ名前のハンスの影におびえ、次第に姿の見えない彼に同化していく。美しい海と照りつける日差し。一見、のどかな村なのだが、そこにはミステリアスな雰囲気が漂い…。今まであまり見たことがないような不思議な映画。ちょっとわかりにくい部分もあったが、アルモドバル、アレハンドロ路線とはまた別の新しいスペイン映画が見れたのは収穫だった。2008.4.13 ブエノスアイレス映画祭にて
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