最新のラテン映画&DVD(ブラジル、メキシコ、アルゼンチンetc…)をワンポイント診断。
大絶賛から辛口コメントまで、BOSSA独自の視点で切り込みます。
MEXICO BRASIL ARGENTINA CUBA COLOMBIA  PERU URUGUAI CHILE、BOLIVIA e outro  中南米映画アーカイブ(2010~21)

タイトル
監督・出演
☆解説&感想 鑑賞日時

【ブラジル】

『ピシンギーニャ‐愛情深い男』 Pixinguinha Um Homem Carinhoso
監督:Denise Saraceni、Allan Fiterman、出演:セウ・ジョルジ、タイス・アラウージョ/「カリーニョーゾ Carinhoso」の作曲者、ピシンギーニャことAlfredo da Rocha Vianna Juniorの人生と作品を描いた伝記映画。14歳で音楽の道に入り、若いころから才能を認められ、パリで演奏したり素敵な女性と出会ったり…。黒人差別はもちろんあったとは思うが、比較的順風満帆な人生で、終始ほっこりさせられた。妻を演じた女優タイスが綺麗で、調べたらテレビを中心に活躍していて、らざーろ・ハモスの妻だということ。知らなかった~。ブラジルで知ったお気に入りの曲「Rosa」もピシ作曲と知り嬉しかった。メロディーラインが素敵な曲。とっても難しい曲ですが。2024.3 ブラジル映画祭にて

『天使たちのテーブル』 O Clube dos Anjos
監督:Angelo Defanti、出演:Otavio Muller、マテウス・ナシュテルガーレ、パウロ・ミクロス、マルコ・ヒッカ/謎めいたシェフが企画した豪華な宴会が開かれた。学生時代からの悪友が集まり、美食パーティーが始まるが、最後に料理を追加で食べた一人が翌朝、急死してしまう。
 美味しそうな料理の誘惑が、次第にロシアンルーレットのような死のゲームになっていく過程が面白い。何よりも、癖のあるオジサンたちの会話が絶品。ブラジルのテレビや映画でよく見かける名優たちの競演を楽しめた。2024.3 ブラジル映画祭にて

『エドゥアルドとモニカ』 Eduardo e Monica
監督:Rene Sampaio、出演:Gabriel Leone、アリッセ・ブラガ、ヴィットル・ラモリア/80年代のブラジリア。浪人生のエドゥアルドは年上で奔放な医師モニカと出会い惹かれ合うが、好みもイデオロギーも真逆の2人はなかなかうまく行かず…。
80年代のバンドLegiao Urbanaのボーカル兼ソングライターが作曲しヒットした曲の歌詞にそった青春ラブストーリー。
 自分の青春時代とかぶることもあり、2人の関係性を微笑ましく見ることができた。アリッセはちょっと年上すぎないか?とは思ったが、まあ童顔なのでよしとしましょう。最後に歌が流れたが、具体的な歌詞で映画はかなり忠実に描いていたようだ。歌を先に知っていたら、また感じ方が違ったのかも。2024.3 ブラジル映画祭にて

パワー・アレイ  Levante
監督:リラ・ハラ、アヨミ・ドメニカ、ロロ・バルドー、グレイセ・パソー出演/ブラジルのユース選手権決勝を控えた前にに望まない妊娠が発覚した17歳のバレーボール選手ソフィア。思い悩んで、ネットで中絶に対応している病院を探して訪れるが、そこは、保守的な教会の信者が経営する反中絶派の牙城だった。ソフィアは妊娠を父親に告げ、中絶が合法なウルグアイまで旅に出る。だが、死んだ母親がウルグアイ人だという証拠がないため、ウルグアイでも中絶手術を拒否されてしまう。
 まもなくソフィアの妊娠は世間に知られることとなり、中絶反対派のはげしい嫌がらせがはじまる。
 10代の女の子が妊娠して1人で悩んでしまうという物語は、カソリック教徒の多い国ではよく映画になるのだが、この映画は、中絶反対派と擁護派がまっぷたつに割れ、女性が子どもを生むことを選ぶ権利について、考えさせられる社会派映画となっているのが新鮮だった。ブラジルでは、中絶は犯罪で逮捕されるというのを知らなかったのでショックだった。日本ではお金はかかるけど、逮捕はされないので。ここまで性行為が世界中で開放的になった今、中絶すら自由に出来ない宗教や法制度は時代に合っていないと思う。けど、熱心な保守宗教の信者が身近にいるので、大きな声では言えない。信教は個人の自由だが、他人に対して押し付けないでほしい、というのが正直な気持ち。東京国際映画祭にて2023.10

奇蹟の人/ホセ・アリゴー A DANGEROUS PRACTICE
監督:グスタヴォ・フェルナンデス 出演:ダントン・メロ | ジュリアナ・パイス | ジェームズ・フォークナー/50年代。ブラジルで“心霊手術”を行い、様々な疑いの目を向けられながらも、治療費を一切受け取ることなく多くの人々を病から救い、奇蹟の人と呼ばれた実在の人物、ホセ・アリゴーの生涯を映画化した伝記ドラマ。サイババと同じタイプの心霊手術士。あまり興味はなかったのだが、ブラジルものということで見てみた。人間の力を越えた神の手を持つ人というのも、もしかしたら本当にいるのかもしれないが…。病気の人にとっては神のような存在なのでしょう。映画としては特に面白みもなく、冗長で飽きてしまった。ダントン・メロもオジサンになったなあ。ミナスの風景、懐かしかったです。2023.5

ピンク・クラウド A nuvem rosa
監督・脚本:イウリ・ゲホバージ、出演:ヘナタ・ジ・レリス、エドゥアルド・メンドンサ、カヤ・ホドリゲス、ジルレイ・ブラジウ・パエス、ヘレナ・ベケル/触れると10秒で死に至るピンク色をした謎の雲が出現し、外出制限で人々は家から一歩も出られない状況に。ジョヴァナは初めて会ったばかりの男性ヤーゴと、二人きりで部屋に閉じ込められる。ピンクの雲は消えないまま、月日は過ぎ、二人は子どもを授かるが、二人の関係には亀裂がはいり、家庭内別居が始まる。
 閉じ込められた状況は世界中が経験したことなので、十分に感情移入できた。ただし閉そく感、恐怖心を経験したこともあり、予想通りの展開で新鮮さは感じず。運よくコロナはワクチンが出来て、ただの風邪レベルにまで落ち着いたが、もし、3年前の今頃のように、即死に至る病のまま、今も閉じ込められていたら、彼らのようになっていたかもしれない。ピンクの雲が出来てから誕生した子どもは、雲が大好きになるという設定は恐ろしく感じたが、そうなる気持ちもわからなくはない。今の赤ちゃんたちは、マスクをしない人を怖がるようになるかもしれないなあ。人間は単に生かされている生き物にすぎないことを実感した。2023.1

私はヴァレンティナ VALENTINA
監督:カッシオ・ペレイラ・ドス・サントス/出演:ティエッサ・ウィンバック|グタ・ストレッサー/ブラジルのミナス州の小さな街に引っ越してきた17歳のヴァレンティナ。トランスジェンダーであることを伏せて、女子として学校へ通い始めるが、校長からは、父親の署名がないと通称は使えない、と言われてしまう。母子家庭のヴァレンティナは友だちの手を借り、父親を探そうとする。ある夜、仮装パーティで、悪魔の仮装をした男に下半身を触られたヴァレンティナは犯人捜しを始める。同時に、ヴァレンティナは男だと揶揄する映像が拡散され…。
 性的マイノリティの差別を扱った映画は数多く見てはいるが、これは高校生の話で、実際にトランスジェンダーの子が演じていることもあり、リアルかつストレートに偏見への苦しみが伝わってきた。ヴァレンティナと親友の関係性にはほっこりさせられたが、一方で差別をするマッチョたちのやり方が暴力的で辛いものがあった。母親は聖人ではないのだが、ヴァレンティナとしっかり向き合っていたのがよかった。説教じみたことは言わないけど、ヴァレンティナの苦しみを受け止めていた。監督自身がゲイということなので、誰かモデルになった人もいるのかも。
 とても良い映画なので、もっとたくさんの人に見てもらいたいのだけど…。映画の日なのに客が一人って、それはないでしょ、でした。2022.4

これは君の闘争だ ESPERO TUA (RE)VOLTA
監督:エリザ・カパイ/2013年6月、ブラジル・サンパウロの路上で公共交通料金賃上げに対する大規模な抗議デモが起きた。初めはバス料金20セントに対する要求だったものが、次第に物価上昇や重税、人種差別など、様々な問題に対する抗議へと広がっていった。そして2015年10月、サンパウロの高校生たちが公立学校の予算削減案に抗して自らの学校を占拠し始めた。
 デモが起こった背景を良く知らなかったので、勉強になった。学生たちのパワーに頼もしさを感じた。未来が見えない香港のデモと違い、ブラジルのデモは少しは光が見えるのが救い。デモも祭りにしてしまう国民性もあるのでしょう。同じことの繰り返しで正直、飽きてしまった。もう少し違う切り口も欲しかった。2022.3

いんちきーズ os salafrarios
監督:ペドロ・アントニオ 出演:マルクス・マジェーラ | サマンタ・シュムーツ | カイート・マイニエル/絵の贋作で詐欺を働くクロビスのもとに義理の妹ロアーニがやってくる。詐欺師にキッチンカーをだまし取られたロアーニは、兄の詐欺に手を貸すことに。
ブラジルらしいおバカ丸出し、マシンガントーク炸裂のコメディ。全編爆笑コントが続くので、見ていて疲れるが、何も考えたくないときに見るには最高のコメディです。2022.1 Netflix

プリジョネイロ 7 PRISIONEIROS
監督:アレクサンドル・モラット 出演:クリスチャン・マリェイロス | ロドリゴ・サントロ | ブルーノ・ホーシャ/サンパウロ州の農村部カタンドゥバで家族と暮らしていたマテウスは、生活のためにサンパウロ市に出稼ぎに行くが、そこでは自由を奪われた囚人のような暮らしが待っていた。廃品工場の経営者ルカに対しマテウスは反発するが…。
 ブラジルの労働者の過酷な現実をシビアに描いた作品。非人道的な扱いに反発しながらもマテウスが徐々に彼らのやり方に染まっていってしまう現実が痛々しい。美形俳優ロドリゴ・サントロが汚れ役に徹していた。顔だけじゃないロドリゴにブラボー。
辛い展開

人生のコンマ O Vendedor de Sonhos
ジャイミ・モンジャルジン監督、 Dan Stulbach, Cesar Troncoso出演/心理学者ジュリオが高層ビルから飛び降りようとしているところに、なぞの男が近づき、声をかける。彼の言葉で自殺を踏みとどまるが…。 人間の内面に訴えかけるスピリチュアルもの。説教くさいので苦手なタイプの映画だった。2022.2 Netflix


【メキシコ】
イビルアイ MAL DE OJO
監督:イサーク・エスバン 出演:オフェリア・メディーナ | パオラ・ミゲル | サマンタ・カスティージョ/病気の妹とともに祖母のもとに預けられた13歳の少女が、祖母の不可解な行動に疑問を抱き、その正体を暴こうと恐怖に立ち向かっていく。
 久しぶりに「つまんねー、帰りたい」って思う映画だった。ホラーなのに全然怖くないし、化け物も気持ち悪いだけ。役者の演技も2流。さらに物語がまったく説得力ない。そもそもなぜ両親は子どもを置いていったの?先住民の儀式も魔女の物語とのつながりが感じられず唐突。B級と呼ぶほど、はっちゃけてないし。中途半端過ぎてあくびがでた。唯一良かったのは病気の妹役の子は名演技でした。2023.8

ニューオーダー NUEVO ORDEN
監督:ミシェル・フランコ 出演:ナイアン・ゴンサレス・ノルビンド | ディエゴ・ボネータ | モニカ・デル・カルメン/富豪の大豪邸で娘マリアンの結婚パーティが開かれているが、町では暴徒と化した市民が、街を破壊していた。そんな中、かつての使用人が、病気の妻のためにカンパしてほしいとやってくる。マリアン以外の家族は適当にあしらうが、マリアンは助けたい一心で、使用人と一緒に街へ出かける。
 行き過ぎた格差社会の行く末を描いているようにみえて、実は過去のホロコーストや軍政下のアルゼンチンの凄惨なジェノサイドを彷彿とさせる悲劇へとつながる。出口なし、すくいなしの展開。フランコ監督の悲劇的世界観は、とんがってた若いころなら好きだったけど、今は、少しでも希望を持ちたいと思ってしまう。年とるとはこういうことなのかも。すごいとは思うけど、辛すぎて苦手な映画。2023.4

フリーダ・カーロの遺品 -石内都、織るように
監督:小谷忠典 出演:石内都/メキシコを代表する女性画家、フリーダ・カーロ。2004年、死後50年を経て、遺言により彼女の遺品数百点が公開された。そして2012年、その遺品を撮影するプロジェクトが立ち上がり、日本を代表する女性写真家・石内都のもとに依頼が届く。メキシコシティにあるフリーダの生家にしてフリーダ・カーロ博物館でもある通称“青い家”で行われた、3週間にわたる撮影の過程に密着したドキュメンタリー。フリーダの遺品を通して過去を想像するというよりは、石内さんという一人のカメラマンの気持ちの変化に焦点があたっていたのがユニークだった。友人が自殺したのをしって号泣するシーンとかもあり、海外で暮らす孤独感などを勝手に想像したりした。いつかメキシコに行ってみたい。2023.3

バルド、偽りの記録と一握りの真実 Bardo(o falsa cronica de unas cuantas verdades)
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、ダニエル・ヒメネス・カチョ出演/LAに住むドキュメンタリー作家は、久しぶりに故郷メキシコへと帰郷することに。彼は、自分のルーツであるメキシコを愛しながらも、故郷の家族とは距離を感じる。米国では異国人扱いされ、故郷でも疎外感を感じてしまった男は、過去の記憶や幻想に取りつかれていく。自分とは何ものなのか。そんなことをずっと考えさせられる哲学的な作品で、正直よくわからなかったのだが、一観客である自分も、自身を見つめ直しながら映画を見る、という今までにない感覚は新鮮だった。
 コメディ色がもう少しあれば、さらによかったのだが…。イニャリトゥ監督は、今までの作品とは違うテイストに挑戦していて、攻めてるなあ。さすがです。ダニエルって、今まで癖強い役が多かったのだが、今回は等身大の役だった。思っていたより若くてイケメン。冒頭の砂漠のシーンなど、スクリーンならではの美しさも楽しめた。配信で何度か見直してみると、また違った感想が生まれそう。奥が深い映画でした。2022.12

母の聖戦 La Civil
監督:テオドラ・アナ・ミハイ、出演:アルセリア・ラミレス、アルバロ・ゲレロ、アジェレン・ムソ、ホルヘ・A・ヒメネス/シエロのひとり娘ラウラが犯罪組織に誘拐された。要求に従い20万ペソの身代金を支払うがラウラは帰ってこない。警察に相談しても相手にされず、別居中の夫も頼りにならない。ラウラは一人で犯罪組織を監視しはじめ、密かに軍の中尉に協力を依頼する。
 娘思いのやさしい母だったラウラが、娘を取り戻すために危険な組織に近づいていく過程がリアルに描かれていて見ごたえがあった。この作品にはモデルがいて、最初はドキュメンタリーを撮る予定だったが、あまりに危険すぎるのでフィクションにしたとのこと。さらにこのモデルになった母親は殺害されてしまったという監督の話を聞き、背筋が凍った。身近な人でも信用できない閉そく感の中で生きる苦しみは想像を絶するものがある。米国でも安全ではないのだが、中南米から多くの人々が命をかけて米国に密入国しようとするのは、経済的理由だけではなく一般市民でも死と隣り合わせという社会背景があるのだろう。メキシコの犯罪ものは何作も見ているので食傷気味だったが、監督も主役も女性ということで、比較的暴力シーンも少なく心理描写が丁寧で見やすかった。2022.11

コップ・ムービー Una pelicula de policias
アロンソ・ルイスパラシオス監督、ラウル・ブリオネス、モニカ・デル・カルメン出演/女性警官テレサと相棒のモントーヤは警察官になった経緯と日常を独白する。やがて二人は恋をしてラブ・パトロールと冷やかされるようになる。ここまではドキュメンタリー風のフィクション。その後、映画は撮影裏話というドキュメンタリーに変わり、さらに、実際のテレサとモントーヤが登場。そして、警察組織の腐った現実へと話が進んでいく。今まであまり見たことがないような構成で次は何がくるの?っていうワクワク感もある。フィクション部分では恋話もあってコミカルなのだが、後半はぐっと笑えない現実に進んでいく。映像も凝っていてて飽きさせないし、音楽もスタイリッシュ。ルイスパラシオス監督(『グエロス』『Museo』)は将来有望。メキシコの映画界は人材豊富だ。ベルリン国際映画祭2021芸術貢献賞受賞。2022.1 Netflix

人生はコメディじゃない EL COMEDIANTE
監督:ロドリゴ・グアルディオラ、監督・主演:ガブリエル・ナンシオ、出演カサンドラ・シアンゲロッティ | アドリアーナ・パス/売れない劇作家ガブリエルは引きこもりがちな日々を送っている。それでもある女性から宇宙人と交信できる、といった話を聞かされたり、子どもが欲しいという女友だちから精子を提供してほしいと言われるなど、少しずつ生活に変化も見え始め、新しい生き方を考えはじめるのだが…。
 こだわりが強くプライドの高いガブリエルが、ユニークな女性たちに翻弄されていく展開は興味深いのだが、くどい台詞が多くてちょっと退屈。もう少しブラックコメディなテイストだったら楽しめたのに。残念。グアダラハラ映画祭では撮影賞受賞。2022.1 Netflix

ダンス・オブ・41 El baile de los 41
監督:ダビ・パブロス(『囚われた少女たち』)、出演:アルフォンソ・ヘレラ エミリアーノ・スリータ マベル・カデナ フェルナンド・ベセリル ロドリーゴ・ビラーゴ/1900年初頭のメキシコ。大統領の娘と結婚した議員イグナシオには若い男性の恋人がいた。イグナシオは密かに入会していた貴族的なゲイの会合に恋人を誘う。一方、妻は夫の冷たさに心を痛めるていた。ゲイの会合が密告され、41人がさらし者にされた、という衝撃の実話を映画化。どちらかというとゲイとは知らずに結婚してしまった妻に感情移入してしまった。イイグナシオを演じたアルフォンソ・ヘレラのルックスには惚れ惚れ。2022.1 Netflix


【アルゼンチン】
犯罪者たち Los Delincuentes
監督:ロドリゴ・モレノ、ダニエル・エリアス、エステバン・ビリャルディ、マルガリータ・モルフィノ出演/銀行員のロマンは職場の金庫から大金を奪い姿を消す。まもなく同僚のモランの前に姿を現し「自分は自首する。3年半だけ金を預かってくれたら出所後、山分けしよう」と持ちかけられる。
 前半は、いわゆるシンプルな犯罪映画のテイスト。後半は、ゆったりとしたテンポで、戸惑うモランの心理描写と、自由な人間たちとの出会いが描かれている。後半はロメール調というかカウリスマキ風というか。12年つまらない銀行員を続けて得る収入分を盗んで、刑務所で3年半我慢して残りの日々を盗んだ金で暮らしたい」という、ロマンチストのロマンと、日々、とくに何も考えずに飄々と生きている気弱なモラン。二人の性格は対照的なのだが、名前がMoranとRomanという双子のような名前なのが面白い。さらに後半出てくる女性は姉のノルマと妹のモルナ。で、モルナと恋に落ちたのが、ロマンとモランというのだから(笑)。気づかなかったが、銀行の頭取の役と、囚人のボス役が同じ役者だとのこと。観客を混乱させるのがお好きですねえ。あとは音楽も面白い。Pappo’s Bluesというアルバムが好きなロマンは、モランにプレゼントするのだが、彼は興味を示さない。でも、このアルバムの曲が、随所に出てくるので、自然と刷り込まれていく。あとは、ロマンが刑務所内で読書にふけり、詩を読むのだが、「みかんの皮を投げて」という一節が出てきた時は思わずニヤリ。前半でロマンがベッドの上にみかんの皮を投げるシーンがあったのだ。細部にいろいろな仕掛けが仕込まれているので、何度も見たくなる。
でも正直、3時間は長すぎ。配信のほうが楽しめるかも、と思ったり。モレノ監督の次回作にも期待大。東京国際映画祭にて2023.10

レイムンド Raymundo
監督、脚本、編集、録音:エルネスト・アルディト、ヴィルナ・モリナ/1976年に軍事独裁政権に拉致され殺されたアルゼンチンの映像作家レイムンド・グレイザー。彼が遺した作品、家族を映したホームムービーや資料映像を縦横に駆使、彼の人生と1960年代、70年代のラテン・アメリカの反戦映画や解放運動の歴史が描かれる。アルゼンチンだけでなくブラジル、キューバ、メキシコ等で労働者側の映画を撮り続けたレイムンドの半生を追っていた。辛い結末ではあるが、レイムンドの信念が伝わり鳥肌がたった。表現の自由は死なず!と、叫びたくなる力強さがあった。2023.10 山形にて

ダイブ LA CAIDA
監督:ルシア・プエンソ 出演:カーラ・ソウザ | エルナン・メンドーサ、デハ・エベルゲニー/メキシコの飛び込み女子代表として輝かしい実績のあるマリエルだが、若い選手ナディアの台頭に焦りを覚えている。ある日、ナディアの母親がコーチの性虐待を訴える。オリンピックを控えた協会側はコーチを擁護。マリエルもコーチ側に回り、ナディア自身も事実ではないと発言するが…。スポーツ界の性虐待は世界中で問題になっている。圧倒的な主従関係にある状態での性虐待は絶対悪なのだが、ジャニー問題など、業界の負の慣習はなかなか一掃されないというのも現実にある。この映画はマリエルの心理に焦点を当てている。子どもの頃の虐待がどのようなトラウマとなり、心の傷として残っていくのか、丁寧に描かれていた。2023.7 Amazon

コンペティション Competencia oficial
ガストン・ドゥプラット監督、ペネロペ・クルス、アントニオ・バンテラス、オスカル・マルティネス出演/大富豪の起業家から映画製作を依頼された天才女性監督は、世界的大スター俳優と、老練な一流舞台俳優を呼びつけ、演技指導を始める。エゴが強すぎる3人はまったく気が合わず…。
 大がかりな舞台装置のような空間を使い、ユニークな演技指導をするシーンは舞台を見ているような感覚になった。3人の会話劇が中心なので、字幕だと今一つ、皮肉などが伝わらない感あり。スター3人を起用しながら、とんでもない方向にいく、というストーリーなのだだが、この映画もスター3人を起用しながら、退屈な展開になってしまっていた。残念。2023.3

アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~
サンティアゴ・ミトレ監督、リカルド・ダリン、ピーター・ランサーニ出演/1985年。暗黒の軍事独裁政権下で行われた数々の殺人、誘拐、拷問、人権侵害を指揮した軍の幹部らを裁くためにストラセラ検事は立ち上がるが、幹部が命じたという証拠を探すのは困難を極める。若き副検事や法を信じる若者たちの手を借りることで、徐々に証人たちも集まり…。アメリカ映画でもよく見られる法廷ものの定番ではあるのだが、検事をヒーロー扱いせず、若者たちの奮闘ぶりにもスポットが当たっているので、青春ドラマとしても見ることができた。ミトレ監督の作品は硬いイメージだったが、この映画は重いテーマの割にはとっつきやすかった。非人道的な行いを徹底的に裁くスタイルは米国でも好まれるので、GGだけでなく、アカデミー賞も受賞ありそうだ。2023.1 Amazon にて

雨あられ Granizo
Marcos Carnevale監督、Guillermo FrancellaPeto MenahemRomina Fernandes出演/人気者のお天気キャスターは、大粒の雹が降ることを予測できず、非難の的になる。娘の住む故郷に身を隠すが、娘には冷たくされ…。最初はコメディなのだが、途中から雲行きが怪しくなり…。アルゼンチン映画らしいコメディとB級ホラーが混ざりあった映画だった。「笑う故郷」にテイストは似ているのだが、エンディングには?だった。2022.9 Netflix

コブリック大佐の決断 Koblic
セバスティアン・ボレンステイン監督、リカルド・ダリン、オスカル・マルティネス、インマ・クエスタ出演/軍事政権下、空軍のパイロットのコブリックは、生きたまま人を空まで運び、突き落とす軍のやり方に絶望し、身を隠すことを決意する。誰も知らない村で暮らし始めるが…。身を隠しているのに、女と不倫してしまうのが、なんでかねえ。そこがアルゼンチン男らしいのでしょうか。ダリンが主演の割には、今一つな内容でした。2023.1 Amazonにて

ミリオンダラー・スティーラー El robo del siglo
アリエル・ウィノグラッド監督、ディエゴ・ペレッティ、ギレルモ・フランセーヤ、パブロ・ラゴ、ルイス・ルケ出演/2005年、アルゼンチンの都市。フェルナンドはある銀行の下に広い下水道が通っていることに気付き、そこからトンネルを掘って銀行に侵入できないかと考える。実際にあった銀行強盗の話をドラマ化した作品。前に実在の犯人が出てくるドキュメンタリーを見ていたので、ドラマ的に新しさもななく…。実在の人物の方が個性的だったというのもあるので。こちらを先に見てた方が楽しめたのかも。残念。2023.1 Amazon にて

悪夢は苛む DISTANCIA DE RESCATE
監督:クラウディア・リョサ 出演:マリア・バルベルデ | ドロレス・フォンシ | ヘルマン・パラシオス/スペインから幼い娘と共にアルゼンチンの田舎に引っ越してきた若い母アマンダは、隣人カローラから息子のダビが幼いころに病気になった話を聞かされる。心理的な怖さがじわじわ伝わってきた。リョサ監督の前作も見ているのだが、テイストが違う。謎の隣人を演じたドロレスは何もしていないのに怪しげな雰囲気がよく出てきた。病気はおそらく村の水質汚染が原因なのはわかるのだが、そこには踏み込まず一人の女性の不安感にしぼった演出はさすがです。2022.8 Netflixにて

逃走のレクイエム Plata Quemada (2000年)
マルセロ・ピニェイロ監督、レオナルド・スバラーリャ、エドゥアルド・ノリエガ、ドロレス・フォンシ出演/1965年のブエノスアイレス郊外。双子と呼ばれるネネとアンヘル、そして怖いもの知らずのクエルボらは現金輸送車を襲撃。大金を奪い、ウルグアイに逃げるが、次々に仲間が捕まり…。「俺たちに明日はない」「明日に向かって撃て」を彷彿とさせる逃亡劇。冷静なネネをレオナルド・スバラーリャ、自由人のアンヘルをエドゥアルド・ノリエガが演じている。美しい男二人の関係が見どころ。実話が元になっているとのこと。原作も読んでみたくなった。2022.7 セルバンテス文化センターにて

明日に向かって笑え! La Odisea de los Giles
監督・脚本:セバスティアン・ボレンステイン、出演:リカルド・ダリン、ルイス・ブランドーニ、チノ・ダリン、ベロニカ・ジナス/2001年アルゼンチン。元サッカーのスター選手フェルミンは、放置されていた施設で農業組合を作るため出資を募る。住民たちの協力により資金が集まるが、現金を銀行に預けた翌日、金融危機で預金が凍結され、さらに悪徳弁護士に彼らの資金をだまし取られてしまう。
 アルゼンチンの金融危機を背景にした市民たちの逆襲を描いている。前半はシリアスな悲劇が続くので、これってコメディ?と思ったが、後半はグッとスピード感が出てきてワクワクさせられる展開。キャラクターの強い出資者たちだけだと正直、華がないのだが、そこにフェルミンのイケメンの息子も絡ませることでエンタメ色もプラスされ、楽しく見ることができた。カタキ役のアタフタ感、間抜け感もケッサクです。2021.6


【キューバ】
ジュリ
イシアル・ボジャイン監督、出演:カルロス・アコスタ/バレエ界で最も重要な役を演じた初の黒人系ダンサー、カルロス・アコスタ。彼はキューバで生まれ育ち、英米のトップバレエ団でプリンシパルダンサーを務めた。カルロスが、自伝的ダンスプログラムを演出しながら、キューバ時代を振り返っていく作品。
 ダンサーの自伝映画というと、本人が踊るのが好きで好きで、という設定が多いのだが、カルロスは子どものころ「ペレみたいなサッカー選手になりたい」と思っていた、というエピソードが微笑ましかった。才能を見抜いた父親とダンス教師が、厳しく指導するのだが、カルロスは練習が嫌で逃げたりもする。自由がほしい!という若者の素直な気持ちがストレートに伝わってきた。個人的には、自伝的な物語よりも、実際のカルロスが演出をしていくダンスの演目に興味を持った。美しい筋肉美に惚れ惚れ。この手の映画はスクリーンで見るに限る。ぜひ、配信ではなく劇場公開してほしい。2023.10 セルバンテスにて

El Mayor
Rigoberto Lopez監督、ダニエル・ロメロ主演/キューバのスペインからの独立戦争で活躍したイグナシオ・アグラモンテの半生を描いた歴史作品。彼のことを全く知らなかったので勉強になった。調べたらカマグエイの空港名にまでなっているとのこと。独立のために全てをささげた英雄の礼賛ものはあまり好きじゃないので…。戦闘シーンばかりで退屈に感じた。主演俳優は相手役の女優と結婚して、今はフロリダにいるそうです。2024.1 明治大学にて

 
【コロンビア】
アンヘル69 Anhell69
監督:テオ・モントーヤ Theo Montoya
多くの若者の死に直面した監督の私的な思いが込められた作品。性的マイノリティの人たちの心理的な不安感が伝わり胸が痛くなる。映画を見ながら、監督、死なないでね、と思わず心でつぶやいてしまう。あと思い出したのはりゅうちぇるのこと。死を選んだ本当の理由はわからないけど、性的マイノリティの若者の不安感は、想像することしかできないのだけど、とてもいたたまれない気持ちになった。
 作品にはアピチャッポン(目だけ光る影)やホドロフスキー(棺桶に入ったシーン)へのオマージュ的なシーンも入れたとのこと。いろいろ研究しているんだなあ。若く意欲ある監督に期待大。2023.10 山形にて

ゴスペル 落ちこぼれコーラス隊
ジョニー・ヘンドリックス・イネストロサ監督、アンドレス・セペダ, ラムセス・エリアス・ラモス, ニディア・パオラ・バレンシア出演/人気歌手のバックコーラス隊として急きょ集められた黒人の素人たち。彼らは口パクでゴスペル隊として出演するよういわれるが…。メンバーそれぞれの背景が様々だったr、嫌味な演出家が出てきたり、よくある話。でも楽しめた。メデジンまでの道のりが山道で、興味深かった。メデジンはサンパウロみたいな高地にあるんですね、きっと。2023.7 Amazon

MEMORIA メモリア
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン 出演:ティルダ・スウィントン | エルキン・ディアス | ジャンヌ・バリバール/頭の中で鳴り響く謎の爆発音に悩まさる女性が、その原因を探ろうする。理解するのは無理だとは思っていたのだが…。よくわからない…。森の中の長回しのシーンにはひきつけられるものあり。後半、魚の形をした謎の物体が出てきて、これは「2001年宇宙の旅」なのかあ?とも思ったのだけど。過去と現在と未来の出会い、みたいなものなのでしょうか。最後までそれって、必要?と思ったのだが、妹との関係性。音と映像はアートでした。2022.3

ラ・ハウリア La Jauria
監督:アンドレス・ラミレス・プリード、出演:ジョジャン・エステバン・ヒメネス/ある犯罪を犯して厚生施設に送り込まれた青年は、そこで肉体労働を強制される。南米らしいよくある作品で、特に新しさも感じず。2022.10 TIFFにて


【ペルー】

パクチャ
監督:ティト・カタコラ/ペルーアンデス高地のアイマラ族に伝わる、アルパカの毛刈りの儀式を撮影したドキュメンタリー。アルパカたちが可愛かっただけに祭りのお供えにされたのは気の毒ではあったが、まあ仕方ないか。濃い毛色のアルパカは貴重なんだ、ということも初めてしまった。黒いアルパカもいたのにはびっくり。2022.7 セルバンテス文化センターにて

名もなき歌 CANCION SIN NOMBRE
監督:メリーナ・レオン、出演:パメラ・メンドーサ | トミー・パラッガ | ルシオ・ロハス/1988年、情勢不安により夜間外出禁止のリマでじゃがいもの街頭売りをしている先住民の女性ヘオルヒナ。妊娠中の彼女は、妊婦に無償医療を提供するというラジオの宣伝を聞きある産院を訪れ無事女児を出産する。だが、赤ん坊は検査をすると言って連れていかれたまま戻ってこない。警察や裁判所は有権者番号のない彼女を相手にしてくれず、藁にもすがる思いで新聞社に押し掛ける。一方、記者ペドロは、ゲイであることを隠しながら暮らしていた。実際に起こった事件が基になっているという。欧米では子どもができない夫婦などが養子を貰うのは割と日常的に行われているようだが、その裏で誘拐、売買が行われている、という事実に驚愕した。子どもを養子に貰うなら実の母親のことも知るべき、とは以前から思っていたのだが、誰かわからないとか写真だけで済ませると、こういう犯罪が起こるうる。貧しい先住民のためまともな社会保障も得られない現実がヒシヒシと伝わってきた。モノクロ映像も役者の演技もよかった。ただ記者がゲイであることは、ちょっととってつけた感がある。マイノリティへの差別も描きたかったのだろうけど、盛り込みすぎに感じた。2022.7 セルバンテス文化センターにて

アンダーグラウンド・オーケストラ
エディ・ホニグマン監督/パリの地下鉄構内、あるいは街角で、さまざまな音楽家が思い思いの楽器を演奏し、糧を得ている。ベネズエラやサラエボ、ルーマニアから移民としてやってきた彼らの奏でる演奏と、過酷な現実を切り取った音楽ドキュメンタリー。国や事情は違えど故郷を離れた人々の寂しさは同じ。異国の地で懸命に生きる彼らに感情移入できた。とても良質の映画でした。2021.11 ペルー映画祭にて

忘却
エディ・ホニグマン監督/ペルーの首都リマに生きる老バーテンダー、路上パフォーマンスで日銭を稼ぐ若者や子どもたちの日常を追ったドキュメンタリー。サンパウロと似ているなあ、と思い出しながら見てました。2021.11 ペルー映画祭にて

ユートピアクラブ 消えた真実
ヒノ・タッサラ監督、レンゾー・シューレル/ロッサーナ・フェルナンデス・マルドナード/カルロス・ソラーノ出演/2002年7月、若者に人気のリマのクラブ「ユートピアクラブ」で火災事故が起き29人の若者が命を落とした。遺族たちは杜撰な経営を行っていたクラブのオーナーを訴えるが、政治も絡みまっとうな裁判が行われないでいた。ジャーナリストのフリアンは遺族や現場にいた人物にコンタクトをとり、真実に迫っていく。
 実話の映画化。ホワイトカラーの恵まれた家族が事件によって悲劇に見舞われる、という、国際映画祭などではあまり取り上げられない内容だったので新鮮だった。映画の構成は拙さを感じもどかしかった。前半のドキュメンタリー風なテイストと、最後のドラマチックな展開のバランスが悪くて、唐突な感じがした。ハリウッドでリメイクすれば、もっと面白くなりそうな内容ではあった。2021.12 ペルー映画祭にて


【ウルグアイ】
雪山の絆 LA SOCIEDAD DE LA NIEVE
督:J・A・バヨナ 出演:エンソ・ボグリンシック | アグスティン・パルデッラ | マティアス・レカルト/70年代、ウルグアイの軍用機でアンデス山脈を越えてサンティアゴに向かった飛行機が雪山に墜落。絶望視されていたが、数名が、遺体を食糧にしながら2カ月間を生き抜いた、という実話を映画化。英語版もドキュメンタリーも見ていたのだが、細かい部分を忘れていたので新鮮に見れた。遭難の後で、雪崩に巻き込まれてさらに死者が増えてしまったシーンや、山を越えて谷まで降りた2人の過酷な旅など、見どころ満載でドキドキしながら見ることができた。究極状態の中では、実際はもっとドロドロしていたのだろうが、この映画は友情を描いた物語なのでよしとします。最初は、遺体を食糧にすることに抵抗していた青年ヌマが、足を怪我して余命がないと悟り、「友のために命をささげることほど偉大な愛はない」とヨハネの福音書の一節を書き残した、というエピソードにはグッときた。(でもここは実話なのかは不明。おそらくフィクションでしょう)。人肉を食べることは大岡昇平も描いていたし、日本人としてはそれほど、ショッキングなことではないのかも。もし私だったら、しっかりと手を合わせてから、食べると思う。でも、そこまでして生きたいと思うかは、やっぱりその時にならないとわからないけど。2024.2 Netflixにて


【チリ, ボリビア、パラグアイ、ベネズエラ、エクアドル、グアテマラ、パナマほか】

伯爵 EL CONDE (チリ)
監督:パブロ・ラライン 出演:ハイメ・バデル | グロリア・ムンチマイヤー | アルフレド・カストロ/チリの独裁者ピノチェトが吸血鬼だったという設定のダークな寓話。老いぼれたピノチェトと家族が集まり、隠し財産の相続争いをし始める。そこへ若い修道女が現れ、隠し財産の在処を調査し始める。社会風刺とアートを絡めた個性的な映画で、なかなかその世界観に追いつけず。この作品は劇場で見た方が面白く感じられたかも。後半、サッチャーが吸血鬼でピノチェトの母親だった、という設定には苦笑い。とてもわかりにくい社会風刺劇だった。2024.1 Netflixにて

Plaza Catedral(パナマ)
Abner Benaim監督、イルセ・サラス、フェルナンド・ハビエル・デ・カスタ、マノロ・カルドナ出演/パナマの旧市街カテドラル近くの高級マンションに住む建築家の女性アリシアは、車の駐車の監視で小銭を稼ぐ少年と知り合う。アリシアは少年に冷たく当たっていたが、ある日、腹を撃たれた少年がアリシアの部屋に逃げ込み、やむなく彼を介抱することになる。
 元ギャングの使い走りだった少年の荒んだ人生と、子どもを亡くしたことから立ち直れない裕福な女性の交流を通して、パナマの貧困社会に切り込んでいる。少年の役者がすごくいい味出していたのだが、彼はその後、撃たれて亡くなった、という現実があまりに衝撃的で…。映画よりも現実の方がドラマチックになってしまったのですね…。音楽もセンスがよく、エンディングのダニーロ・ペレスのピアノも圧巻。多くの人に見てもらいたいラ米映画の一つです。2024.1 明治大学にて

ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦 Viva Maestro! (ベネズエラ)
監督:Ted Braun/ベネズエラ出身の指揮者グスターボ・ドゥダメルは、母国最高峰の青少年オーケストラ、シモン・ボリバル交響楽団のツアーを指揮するために母国に戻りが、政治的に理由により公演中止が決まってしまう。母国の仲間たちが、次々に国を離れ、若いメンバーはデモ隊に加わりはじめる。ドゥダメルの熱血指揮がとにかく印象に残る作品だった。ベネズエラの楽団員の窮地については、あまり深く突っ込まず、あくまで音楽家目線。骨太の社会派ドキュメンタリーを期待すると肩透かしを食らうが、これはこれでよいと思う。音楽を愛する人たちが、音楽を自由に続けられなくなる社会が、あちこちで生まれてしまっている現状を嘆くことしか出来ず。2023.11

開拓者たち Los Colonos(チリ)
監督:フェリペ・ガルベス、マーク・スタンリー、カミロ・アランシビア、ベンジャミン・ウェストフォール、アルフレド・カストロ出演/20世紀初頭のパタゴニア地方。広大な土地を所有するホセ・メネンデスに先住民族を皆殺しにするよう命じられ、国籍の違う3人の男が荒野を旅していく。先住民との混血であるセグンドは苦悩しながらも罪を犯し…。
西洋人が各地で行ってきた虐殺の歴史にメスを入れた作品。アメリカの西部劇のような入りだったので、苦手だなあ、と思いながら見始めたが、最後のパートをみて、やっと監督の意図がつかめた。上映後の監督の話を聞かなかったら、モヤモヤ感は残ったかも。
東京国際映画祭にて2023.10

ある映画のための覚書 Notes for a Film(チリ)
監督:イグナシオ・アグエロ Ignacio Aguero
19世紀、チリの一部となったばかりの先住民族マプチェの土地アラウカニア。鉄道建設の技師としてギュスターヴがベルギーから赴任した。監督は、彼の日記を基に俳優を配して足跡を辿り、往時の冒険を回想する。
「ドキュメンタリーは自由であってい」というアグエロ監督の言葉どおり、シビアな先住民の歴史の話に、クスっと笑えるメイキング映像などが盛り込まれていたり、全て理解できたとは言えないが飽きずにオモシロく見れた作品。技あり!2023.10 山形ドキュメンタリー映画祭

オオカミの家 LA CASA LOBO (チリ)
クリストバル・レオン、コシーニャ監督/ピノチェト軍事政権下に実在したコミューン“コロニア・ディグニダ”をモチーフに、そこから脱走し、二匹の子ブタが住む森の中の一軒家に逃げ込んだ少女を待ち受ける悪夢的体験を、様々な技法を織り交ぜグロテスクかつシュールな筆致で描き出していく。
 紙粘土の人形?なのかよくわからないけど、手作り感満載の手の込んだアニメーション。コロニアの教祖は、幼児虐待者だったということで、ついジャニーの顔を思い出してしまった。ディグニダのPR動画風作品が盛り込まれているので、風刺なのだとはわかるが、アニメだけだと、背景がよくわからず。頭で考えるより、感じる映画だとは思うのだが、あまり感情も揺さぶられず。きっと、映画の撮り方としては画期的なのでしょうけど、専門外なのでよくわからず。2023.10

GREEN GRASS~生まれかわる命~ (チリ)
監督:イグナシオ・ルイス 、出演:イシザキ マサタカ | 小澤征悦 | 西岡徳馬/震災で命を落とした日本人の青年が、死を認識できず、死後の世界をさまよい歩く。物語は正直、あらすじを読まないとよくわからいのだが、霧がかかった風景、人々の表情から、ここはこの世とあの世の間なんだろうな、ということは理解できた。映像が絵画のようで、監督は、アンゲロプロスの影響受けてるんだろうなあ。死後の世界の映像には魅せられたのだが、日本の現実社会バージョンは必要だったのかなあ。日本人への演出が今一つ。合作映画の難しさを感じた。2023.9

1976 (チリ) 
監督:マヌエラ・マルテッリ監督、アリン・クーペンヘイム、ニコラス・セプルベダ、ウーゴ・メディナ/ピノチェト独裁政権下のチリ。医師の夫がいる裕福な主婦カルメンは司祭から、足に傷を負った若い男の世話を頼まれる。反体制派への弾圧が続く中、カルメンは、密告や尾行の恐怖に怯えながらも、男の世話を続ける。
 遺体や拷問など、直接的な描写をあえて排除し、不穏な音楽と、カルメンの表情だけで恐怖心を描く心理描写が秀逸。シンプルな展開なのだが、カルメンの気持ちに感情移入して飽きずに見れた。監督は1976年に亡くなった祖母のことを想像して、この映画を作ったとのこと。独裁政権下を描いた作品は数多くみてきたが、今までの作品とはまた違った角度から描いていて興味深かった。監督は、「マチュカ」に出演していた少女とのこと!名作なので、こんなに立派なクリエーターに育っていたことがとても嬉しいです。TIFFにて 2022.10

真珠のボタン EL BOTON DE NACAR
監督:パトリシオ・グスマン/西パタゴニアには、水の遊動民(ノマド)として生きた先住民がいた。ある時、西パタゴニアの海底でボタンが発見された。そのボタンはかつて祖国と自由を奪われた先住民への迫害の歴史を語り、さらにはピノチェト独裁政権下で政治犯として海に葬られた人々の記憶へとつながっていく。パタゴニアの雄大な自然の風景から、先住民の悲しい歴史へ。そして軍政時代、多くの行方不明者が飛行機から海へ落とされた虐殺の歴史へとつながる社会派ドキュメンタリー。3部作のラストを飾るにふさわしい、チリという国の負の歴史を静かなトーンで表現していて、見ごたえがあった。Amazon 2022.6

カナルタ 螺旋状の夢 KANARTA: ALIVE IN DREAMS
監督:太田光海/日本人監督が、かつて首狩り族として恐れられたシュアール族の村で村長夫婦の家に住み込み、アマゾンのジャングルで大自然とともに生きる彼らの日常を見つめるとともに、そうした営みの中で培われ受け継がれてきたユニークかつ奥深い世界観に迫っていくドキュメンタリー。
 先住民族の村長がサービス精神が旺盛で、キャラクターが魅力的なので、飽きずに見ることができた。アマゾンに生息する薬草の話など、興味深い。妻が創るユカの煮込みスープには、唾を入れることで塩味と酵素でうまみがでるという。唾を入れるというのが現代人にとってはちょっと引くのだが、考えてみればそれは生き物の知恵の一つ。一方、彼らは原始的な生活だけでなく、町に出て水の浄水設備を要求したり、息子に高度な学問を受けさせたりしており、現代の生活と伝統的生活、両方を上手く折り合いをつけて生きているのがリアルだった。先住民族だってテレビでサッカーの試合は見て興奮するし、お洒落な洋服は着たいし、ジャングルを歩くために頑丈な長靴を履く。二択ではなく両立している生活に好感が持てた。主演俳優賞が貰えそうな個性の強いキャラクターとの出会いにアッパレです。2021.10

ベネズエラ)
報復の街をあとに ~ペドロ12歳の旅立ち~ La familia
監督: グスタボ・ロンドン・コルドバ/ベネズエラの下町で暮らすペドロは、ある少年とトラブルになり彼を刺してしまう。被害者がスラム街に住む子供だと知ったペドロの父は、息子を連れて町を出る。貧困層の日常で起こった悲劇を描いた作品。富裕層の家の壁塗りやパーティーの給仕をしながらも、父子は日々の暮らしもままならないという現実が痛々しかった。生きるのに精いっぱいの父を見ながら、反抗的だった息子の態度が徐々に変化していく過程は見どころ。ではあるのだが、今一つ話に入り込めず。2022.10 Gyao

パナマ)
チャンス! メイドの逆襲 CHANCE
監督:アブナー・ベナイム 出演:ローサ・ロレンゾ、アイダ・モラレス、フランシスコ・ガットルノ/大統領選に立候補した実業家の夫と富裕層出身の妻のもとで働く二人のメイドトーニャとパキータ。10年もの間働いてきたが給料は2カ月も未払いだ、コロンビアで暮らす息子の授業料が払えないと訴えるパキータだが、夫婦は無視。トーニャとパキータは一家を軟禁。
 派手に見えても中身は借金だらけという富裕一家のもとで働くメイドの下剋上をコミカルに描いている。パナマが舞台だが、格差社会のブラジルでもよく描かれる世界と共通点が多い。面白く見れました。2022.3
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