気まぐれCINEMAレビュー BackNumber
2006年
【ハ行】
過去の「気まぐれCINEMAレビュー」をまとめました。満足度は★で、がっかり度は×で評価しました。
五十音順にタイトルが並んでいます。
データベースとしてご活用下さい。
【過去の年間BEST3】 BackNumber CINE LATINO (2007年〜 中南米映画 日本未公開版 2007年〜 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【パ】【バ】【ヒ】【ピ】【ビ】 【フ】【プ】【ブ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 1999〜2005年 【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】 【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】 【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】 【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】 【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】 【ヤ】【ユ】【ヨ】 【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】 |
クレイグ・ブリュワー監督、テレンス・ハワード、アンソニー・アンダーソン、タリン・マニング出演☆メンフィスのポン引きDジェイは、旧友ケイと再会し、ラッパーとしての成功を夢見ていた過去を思い出す。二人は、自宅に作ったスタジオで、デモ・テープの音入れをはじめる。だが、家族や仕事仲間の反応は冷ややかだった…。
堕落しきった生活を送っていたジェイと、退屈な暮らしに飽き飽きしていたケイ。若くはない二人が、かつての夢を思い出し、音作りに夢中になる姿は、まるで少年のよう。彼らが奏でるラップは、どん底生活から生まれた真の叫びであり、ビート感にあふれている。
頭空っぽそうな娼婦が、大の大人が夢に夢中になる姿を見て、「自分も何かやりたい」と思い始める。この映画は一人の娼婦のサクセス・ストーリーでもある。
「夢は誰でも持てるもの」。そんな台詞に、ちょっと青いけどホロリとさせられてしまった。とにもかくにもラップが最高!思わず一緒に身体を揺らしてしまいました。2007.5
ハッピー・エンディング HAPPY ENDINGS ★
ドン・ルース監督、リサ・クドロー、スティーヴ・クーガン、ジェシー・ブラッドフォード、ボビー・カナヴェイル、マギー・ギレンホール、ジェイソン・リッター、ローラ・ダーン出演☆親の再婚で突然弟ができたメイミーは、家を出るために弟チャーリーを誘惑し、彼の子を身ごもる。
20年後、中年となったメイミーは、満たされない日々を怪しげなエステで癒していた。一方、弟チャーリーはゲイとなってレストランを経営。その店で働く金持ちのボンボンのオーティスは、チャーリーのビデオを見て欲情する毎日。ある日、店で美声を披露したジュードは、オーティスに接近し、彼の家に住み着く。
チャーリーの店を中心に、さまざまな人間の小さなドラマが交錯する群像ドラマ。ティーンエイジャーの妊娠、ゲイ・ピープルの苦悩、体外受精、金目当ての結婚などなど、現代的なエピソードを通じて、一筋縄ではいかない人生をユニークに綴っていく。キャラクターがそれぞれとても人間臭く、ゲイにはゲイなりの、金持ちには金持ちなりの悩みがあることを、しみじみ感じさせられた。
タイトルの「ハッピー・エンディング」は皮肉でもあり、また真実でもある。誰もが認めるハッピー・エンディングは人生にはあり得ないけど、小さな幸せを感じられたらとりあえずオッケー。それが、幸せになる秘訣です。見終わった後、少しだけ元気になれたので、私はとりあえずハッピー。
リサ・クドロー、「フレンズ」のオトボケキャラとはまったく違う役だったので、最後まで気づかず。目の皴はわざと付けたのか本物か。40代のようなので、仕方ないか。2007.4
裸のマハ VOLAVERUNT
ビガス・ルナ監督、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ペネロペ・クルス、ホルヘ・ペルゴリア出演☆19世紀初頭のスペイン。美貌のアルバ公爵夫人は、総理大臣マヌエルと、宮廷画家ゴヤ、という二人の愛人がいたが、総理大臣は、また、王妃の愛人でもあり、若いベビータという女性も囲っていた。ある日、アルバ公爵夫人が何者かに殺される。
ゴヤの裸婦像は、あまりにも有名だが、絵が描かれた背景を何も知らなかったので勉強になった。いつも思うのだが、貴族の生活って退屈そうだよなあ。ヒマだから、愛人ばっかり作るのでしょうか。ハラハラドキドキのサスペンスタッチにするか、ねっとり隠微ないやらしさを前面にだすか、どちらかにすればよかったのに。中途半端な感じ。2006.9 参考CINEMA:「ハモンハモン」
ハモンハモン JAMON JAMON
ビガス・ルナ監督、ペネロペ・クルス、アンナ・ガリエナ、ジョルディ・モリャ、ステファニア・サンドレッリ、ハビエル・バルデム出演☆タイトルの意味は「ハム、ハム」。「肉感的な」という意味もあるようだが、タイトルどおりムチムチの母娘と、男性下着メーカー社長の成金家族、そして下着のモデルをやっているマッチョマンが、組んず解れつの恋愛バトルを繰り広げる。ペネロペの母役のアンナ・ガリエナが色気たっぷりのママを好演。演技派ハビエル・バルデムがマッチョの愛人役で出ているのもオイシイ。エロいんだけど、ジメジメ感がないのはスペインというお国柄?2006.2.25 参考CINEMA:「裸のマハ」
ハッカビーズ I HEART HUCKABEES
デヴィッド・O・ラッセル監督、ジェイソン・シュワルツマン、ジュード・ロウ、ダスティン・ホフマン、リリー・トムリン、マーク・ウォールバーグ、イザベル・ユペール、ナオミ・ワッツ出演☆環境保護に燃える男アルバートは、偶然に出会った男が自分にとってどういう意味を持つか知りたくなり、哲学的見地から人間の内面を解明する「心理探偵」に自分の調査を依頼する。
探偵は、アルバートの宿敵でやり手宣伝マン、ブラッドとの関係を探るが、そのブラッド自身も自分の調査を依頼したことから、話はあらぬ方向へ…。
変人アルバートを笑いとばしながらも、他人事とは思えず、ちょっと身につまされた。要領の悪さを周りのせいにしたくなる気持ち、わかるんだよねえ。で、一人でもがいてみたりして。私がこういうオタク映画が好きなのは、バカなのは私だけじゃないわ、と思って安心できるからなのでしょう。
シュワルツマンもよかったけど、同朋の消防士マイキーがかわいかった。マイキーのオタク役なんてめずらしい。シュワルツマンの母、タリア・シャイアがどこに出ていたか気づかず。残念。2006.5
参考CINEMA:「天才マックスの世界」「スリー・キングス」
母なる自然 Mater natura
マッシモ・アンドレイ監督マリア・ピア・カルツォーネ出演☆女として生きる美しい男性の数奇な人生を、ナポリの美しい街並みをバックに描いたラブ・ストーリー。
彫刻のような顔の男女(男男)がポンペイの悲劇の舞台となったヴェスヴィオ火山の前で抱き合う姿が美しかった。イタリア人との共通点について書いたばかりだけど、容姿が日本人とまったく違うのは誰もが認めるところ。
二人の悲恋話はよかったんだが、個人的にはゲイの人たちがコミュニティを作るまでのエピソードをもうちょっと掘り下げてほしかったな。ゲイ映画なので、ついアルモドバル作品と比較してしまった。
この映画が製作されたあと、出演者の一人でゲイの役者が議員になったらしい。イタリアでは、まだゲイは認知されていないってことなのでしょう。
ただ一つ、女優がゲイを演じていたのはちょっと違和感あり。どうしても女に見えてしまった。2006.5 イタリア映画祭にて
浜辺の女 Woman on the Beach
ホン・サンス監督、キム・サンウ、コ・ヒュンジュン、キム・テウ出演☆スランプに陥った映画監督の中年男は、友人とその女友達と浜辺に行き、彼女に言い寄る。数日後、すっかり恋人気分の彼女から逃げ出した男は、同じ浜辺に行き、ほかの女性と行きずりの恋をする。
出ました!ホン・サンスの真骨頂、ダメダメ男。ダメ男を描いたら右にでるものはいない。相変わらず、話がダラダラと続くんだけど、今までの作品よりは、ずっと見やすかった(というか慣れてきただけかも)。
まったくどうしようもないサイテー男なんだけど、何で女はあんなダメ男にほれちゃうんだろうねえ。女の母性をくすぐる男をキム・サンウが、だらしなーく演じていた。無精ひげもヨレヨレの歩き方もGOOD。パリッとしたイメージだったけど、別人のようだった。2006.10.13 釜山国際映画祭06にて 参考CINEMA:「女は男の未来だ」「テイル・オブ・シネマ」「豚が井戸に落ちた日」
ハリウッド☆ホンコン HOLLYWOOD HONG-KONG
フルーツ・チャン脚本・監督、ジョウ・シュン、ウォン・ユーナン出演☆バラックが集まる貧民街で焼き豚屋を営むデブの一家のもとに、トントンと名乗る女性が現れる。末っ子の小学生は、トントンと親しくなるが、彼女はネットで客をとる売春婦だった。トントンはタイニーの兄と父を誘惑し、近所のポン引きも騙して、大金を要求する。
小悪魔的美女に、高慢そうなジョウ・シュンがぴったりだった。
豚の解体シーンはグロくて気持ち悪かったけど、豚肉ムシャムシャ食べてるくせに何言ってんだー、です。手の切断も痛かったけど、右腕に左手がくっついちゃった、っていうオチにはつい笑ってしまった。かなりグロテスクな映画ではあったけど嫌いじゃない。不思議な魅力を感じた。2006.10 参考CINEMA:「美しい夜、残酷な朝」「ドリアン・ドリアン」
ホ・ジノ監督、ユ・ジテ、イ・ヨンエ、ペク・ソンヒ出演☆自然の音を録音して歩く録音技師・サンウは仕事で知り合ったDJのウンスと恋仲になる。不器用ながらも彼女を大切に思い続けるサンウだったが、ウンスの心は次第に離れていく。
二人の気持ちの流れがゆっくりと言葉少なく描かれている。とくに大きな出来事がなくても、気持ちはいったりきたり、揺れたりすれ違ったりする。それが恋というものだろう。そんな二人のさりげない感じがリアルでよかった。こういう静かな恋話は、監督の演出力と役者の魅力によるところが大きいのだが、それぞれの力量が見事に噛み合っていた。とくにユ・ジテがいい。素朴なサンウが、ときにストーカーまがいなことをしながら、彼女への気持ちを清算していく姿に感情移入できた。正統派のイメージが強いイ・ヨンエも、男を振り回すちょっと嫌な女がさまになっていた。こういうフツーの恋愛モノ、けっこう好きです。2006.6
半月 Half Moon
バフマン・ゴバディ監督☆イランのクルド人居住区で暮らす老人マモは、イラクでコンサートを開くため、仲間を集めて国境を越えようとする。しかし、警備に見つかり、女性歌手が逮捕されてしまう。
クルド人ゴバディ監督の作品を初めて鑑賞。能天気なバスの運転手のキャラは、クストリッツア映画に通じるものあり。内戦と貧困でさんざん苦しめられた民族は、何があっても陽気でいることが拠り所になっているのかもしれない。
旅の途中でなぜ女性歌手が逮捕されたのか、理解できなかったのだが、上映後のQ&Aで、イランでは女性がソロで歌を歌うのが禁じられていると知らされて驚いた。 イランに生まれなくてよかった。
なかなか行きたい場所にたどり着けない夢をよく見るのだが、この映画はそんな私の夢とオーバーラップして、ちょっと疲れた。
(半分居眠りしながら見てた、ということもあるのだが^^;)キアロスタミ監督作品にも通じる粘っこさが、この映画でもしっかり見てとれた。2006.11 東京フィルメックスにて
ハウルの動く城 HOWL'S MOVING CASTLE
宮崎駿監督、倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏、我修院達也ほか声の出演☆魔法で老婆になってしまったソフィーが、動く城で国中を旅する魔法使いハウルたちと出会い、友情を育むファンタジー。
火がしゃべったり、カカシが飛び跳ねたり、空を飛んだり等々、童心に帰れば楽しめるんだろうけど…。
ストーリーがけっこうややこしくて、辻褄も合わないんだけど、たぶんこの映画はそういうところを見る映画じゃないので、細かいことはあえて言いません。
この世界に入れるか否かで、評価は真っ二つに別れるのでしょう。子供のときはファンだったが、やっぱり宮崎アニメは苦手…。
「なんでみんな幸せになれちゃうの?」「それは、子供に夢を与えるアニメだからです」っていう素直すぎる作りがなあ。
「世間はもっと不公平でずるいものなんだけど、それでも何とか楽しく生きていきましょ」っていうちょっぴり捻ったハッピー・エンディングが私好み。
2006.7
パラダイス・ナウ PARADISE NOW ★
ハニ・アブ・アサド監督、カイス・ネシフ、アリ・スリマン出演☆舞台はイスラエル占領地のヨルダン川西岸地区。青年サイードとハーレドは、修理工場で働きながら、明日の希望を持てない日々を送っている。サイードは、英雄として崇拝される男の娘スーハに好意を持っていたが、思いを告げられずにいる。
そんなある日、サイードとハーレドは、組織からテルアビブでの自爆攻撃の実行者に任命される。名誉だと浮かれるハーレドに対し、サイードの表情は暗い。
自爆攻撃決行の日、爆弾を腹に巻いた二人は、西地区を囲うフェンスを抜け、イスラエル側で支援者を待つのだが…。
サイードとハーレドの二人は一見普通の若者だ。音楽に合わせて踊ったり、水タバコをふかしたり、女の話をしたり…。さほど深刻さは感じられず、のんびりと構えている。
二人の憩いの場は、西地区が見渡せる丘の上。綺麗とは言い難い街並みではあるが、そこには人々の生活があり、市場には人があふれている。ここは本当に占領下なの? と疑いたくなるほどのどかな風景だ。
ところが映画が進むにつれ、この場所には自由がないことが見えてくる。
いたるところで道が封鎖され、高いフェンスに囲まれ、外の世界から隔離され…。人々は普通に暮らしているように見えて、実は大きな刑務所の中で暮らしているのだ。
さらに、人々の死に対する感じ方も尋常でないことが分かってくる。
店では自爆攻撃へ向かう青年のビデオメッセージが流れ、店員は「密告者のビデオのほうが人気があるよ」と、あっけらかんと言ってのける(この台詞には思わず笑ってしまった)。
おそらく、長い間閉ざされた場所に閉じ込められているパレスチナの人々は、平和&自由ボケ日本人からは想像できないほどの閉塞感にさいなまれ、自爆攻撃でしか自分の存在を確かめられない状況にあるのだろう。
自爆攻撃で英雄になることを軽く考えるハーレド、密告者として処刑された父を持つことに罪悪感を持っているサイード。それぞれ自爆攻撃をする動機は違っても、出口の見えない社会から抜け出したいという思いは同じだ。
そしてもう一人、サイードと惹かれあう女性スーハは、フランス育ちの洗練された美人で、パレスチナ人女性のイメージとはかけ離れている。彼女は英雄として死んだ父親を持つからこそ、自爆攻撃に何の未来もないことを知っている。
スーハは「攻撃すれば攻撃される理由を与えてしまう」と、自爆攻撃に向かう二人にはっきりNOと言うが、男たちは聞き入れない。
この台詞、欧米や日本のいわゆる傍観者が吐いたら、ただの「きれいごと」に聞こえるだろう。だが、英雄の親を自爆攻撃で失った女性に言わせることで、強いメッセージとなって観る側に訴えてくる。
決行日、ハーレドとはぐれたサイードが、爆弾を腹に巻いたまま、町を彷徨する姿は痛々しく、彼の苦悩が画面からヒシヒシと伝わってきた。
自爆攻撃する側される側、どちらにも大事な人があり、感情があり、苦しみがある。
イスラエル側から描いた「ミュンヘン」と、パレスチナ側の「パラダイス・ナウ」は、立場は逆ではあるが、人として感じる苦しみは同じ。日本の神風特攻隊もしかり。
この映画を冷静に見られない人たちが大勢いることに、世界が抱える問題の深刻さを感じた。2007.3
パビリオン山椒魚
冨永昌敬監督、オダギリ ジョー、香椎由宇、高田純次、麻生祐未、光石研、KIKI、キタキマユ出演☆レントゲン技師の芳一は、動物国宝オオサンショウウオ「キンジロー」のレントゲンを撮ってほしい、との依頼を受け、財団のパーティに忍び込む。キンジロー財団は、美人四姉妹によって管理されていたが、4人には何か事情がありそう…。
予想どおり、ぶっ飛んでて意味不明の映画。とくに後半はキンジローそっちのけで、はあ??って感じだったけど、はなから理解する気もなかったので、単純にオダギリのいっちゃってる演技を楽しんだ。「真夜中のヤジキタ」のようなぶっ飛び映画。
ミクロな部分に奇抜さが詰め込まれているので、おもちゃとして楽しむのにはいいんだけど、見終わったあとに何も残らなかった。ハチャメチャな中に一本筋のとおった何かがあれば、傑作になりうるんだろうけど…(単に私の感性が時代遅れなだけ?)。2006.9
バベル BABEL ★
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、ギジェルモ・アリアガ脚本、ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、役所広司、菊地凛子、アドリアナ・バラーザ、ガエル・ガルシア・ベルナル出演☆モロッコの砂漠で暮らす羊飼いは、ジャッカル退治のため、知り合いからライフルを買って二人の息子に預ける。
アメリカ人夫婦は、ギクシャクした夫婦関係を修復するため、二人でモロッコの旅へ。そして、家に残された子供たちは、メキシコ人の乳母と一緒にメキシコへ向かう。一方、日本では、母を亡くした聾唖の高校生チエコが、心の傷を癒せないまま、街をさまよい歩いていた…。
☆☆「アモーレス・ペロス」では犬、「21グラム」では死亡事故を媒介に、見知らぬ人々の人生を一つの大きな物語として描きあげたイニャリトゥ監督が、新作「バベル」で選んだテーマは「一発の銃弾」。
時間も場所もバラバラであった物語が、絶妙なタイミングで絡み合い、銃を媒介に一つのドラマが生まれる。この手法はヘタをすると、とっちらかって支離滅裂になりかねないのだが、さすがはイニャリトゥ監督&アリアガ脚本! 前作2本で見せた構成力をこの新作でもいかんなく発揮し、世界共通の悲しみの連鎖を見事に描いている。
日本、アメリカ、モロッコ、メキシコ。どの物語に肩入れするかは、人それぞれだし、考え方も違うだろうが、私がもっとも気になったのはモロッコの兄弟の悲劇だ。
二人が、銃の腕試しに観光バスを撃ったのは、あきらかにおろかな行為である。でも、銃に対する恐怖心が麻痺してしまっているのが現代社会であり、それはモロッコの山奥でも同じ。そこに、なんともいえないやりきれなさを感じ、加害者であるはずの少年が、実は一番の被害者のように思えてならなかった。
ほか、長年、アメリカで乳母として働いてきたメキシコ人女性が、息子の結婚式のためにメキシコに戻ったことで、トラブルに巻き込まれるエピソードは、アメリカとメキシコの関係をよく知るイニャリトゥ監督ならではのリアルな物語で、興味深かった。
ただ一つ違和感があったのは、自分にとってもっと身近な日本編。
聾唖の高校生が繁華街を徘徊して遊びまわる姿は、今の日本の若者の姿をうまく表現していたと思うが、一般の日本人と銃の結びつきが、あまり一般的でないためか、嘘っぽさを感じてしまった。
日本を舞台にした海外映画を見るときに度々感じることなのだが、やっぱり日本って誤解されている。超高級マンションに住むエリート・ビジネスマンがモロッコでハンティング?
ヤクザとか政治家ならあり得なくもないが、かなり特殊な人物である。
リッチな日本人だからイギリス貴族みたいに狩猟の趣味ぐらいあるだろう、家に一丁ぐらい拳銃があるだろう。そう思ったのかもしれないが、一般の日本人から見れば少々乱暴な設定である。
ただ、そういう誤解を招くということは、アメリカやメキシコでは銃が一般社会に入り込んでいるためでもあるわけで…。
テーマも素晴らしいし、いろいろと考えさせられることの多い深い作品ではあるのだが、「21グラム」や「アモーレス・ペロス」ほど心が動かされなかったのは、日本編への違和感によるものだけではない気がした。
何だか物足りない。なぜだかわからないけれど…。
それでも、やっぱりイニャリトゥ監督にはこれからも注目していきたいし、次回作にもおおいに期待している。
間違っても、次回はハリウッド・スター総出演のアクション大作!なんてことにはならないよう、祈っています。2007.5 参考CINEMA:「アモーレス・ペロス」「21グラム」
バタフライ・エフェクト THE BUTTERFLY EFFECT ★
エリック・ブレス、J・マッキー・グルーバー監督、アシュトン・カッチャー、エイミー・スマート出演☆記憶障害のあるエヴァンは、自分の行いを忘れないため、毎日日記をつけはじめる。
大学生となったエヴァンが日記を読み返すと、仲間とのイタズラが親子を死に至らしめた事件や、目の前で愛犬が殺された出来事など、忌わしい過去の記憶が蘇ってくる。
さらにエヴァンは、過去に戻ってそれらの出来事を回避する、という能力まで備えていた。
「バタフライ・エフェクト」とは「一匹の蝶が羽ばたいた結果、地球の裏側で竜巻が起きる」というたとえで、最初の些細な違いが将来的に予測不能な大きな違いを生じるというカオス理論だそう。
一つを回避して未来を変えても、また新しい災難が起こってしまう。変化する未来がそれぞれ、うまく出来ていて楽しめた。過去と未来をいったりきたりするSFは私好み。脚本もよくできてるし、過去と未来の切り替えも絶妙だった。
年上キラー、アシュトンもステキだったし。デミ・ムーアが惚れたのも納得。ただ、相手役の女性があまり魅力的に見えなかったのが残念。
エンディングには、ちょっと納得いかなかったけど、監督の才能を感じた。次回作も期待したい。2006.7
バス174 ONIBUS 174 (2002年・ブラジル)
ジョゼ・パジーリャ監督☆2000年にリオで発生したバス・ジャック事件の中継映像と、犯人の生い立ちを絡めて描いたドキュメンタリー。
2000年6月、174路線のバスに、乗客11名を人質に取り、拳銃を持って立てこもったサンドロ。彼は、少年のとき母親を目の前で殺される、という過去を持つ貧民街出身のストリート・チルドレンだった。
反社会的行為を繰り返すストリート・チルドレンは、社会から虫ケラのように扱われ、早々に死んでいくという現実には、確かに心が痛む。
一方、バスジャック事件ということだけから見れば、日本でも同年代の青年が同じような事件を起こし人を殺していたので、リアル映像に対する衝撃はさほど大きくなかった。あのときも、たしか生中継されていた。
ただ、大きく違うのは、青年の育った環境。サンドロは親もいない貧民で、逮捕歴もあり、助けてくれる人は誰もいない境遇。日本では、金も親も家もあるけれど、心の中は空っぽで、人間関係をうまく築けない引きこもり青年。
どちらが不幸といえるのか…。「社会」「組織」という観点から見れば、ブラジルのほうが問題ありなのだろうけど、裕福でありながら夢も希望も持てない引きこもりが増えている日本も、そうとう病んでいる気がする。
そして、もう一つの大きな違いは、犯人のその後。日本の青年は、たぶん死刑ではなかったはず。かたやブラジルでは、警察に捕まったサンドロは「暴れたから」という理由で首を絞められ窒息死。警察はお咎めなしだそうです。どちらが正しいかは一概には言えないけど…。2007.3
バッシング BASHING
小林政広監督、占部房子、田中隆三、大塚寧々出演☆中東で人質になり、日本中から総スカンをくらった女性は、アルバイトもクビになり、町中から白い目でみられ、イタズラ電話に悩まされる日々を送っていた…。
あの事件、もう忘れてしまったけど、当時は確かに彼女はかなりヒンシュクを買っていた。なぜだったかも覚えていないのだが…。人と違うことをして目立つ人間をよってたかって苛める日本の村社会的体質を、執拗に描いていて、なんだか、自分が苛められている気分になり、辛かった。何も悪いことしてないんだけどねえ。
彼が彼女を呼び出して何言うかと思ったら「みんなに迷惑かけて」と、他人みたいに説教したのには唖然。最低な男だとは思うが、思い返せば、私も相手が辛い立場にいることを分かっていながら、キツイ態度をとってしまったことが何度かあることを思い出したりもした。人は弱いから、自分が一番かわいいから、何かあると、長いものに巻かれてしまうものなのだ…。
被害者の辛さもわかるけど、白い目で見てる周りの人たちの気持ちもわからなくもない。
いろんな意味で、かなりキツイ映画だった 2007.5
ビハインド・ザ・サン ABRIL DESPEDACADO (ブラジル)
ウォルター・サレス監督、ロドリゴ・サントロ、ラヴィ・ラモス・ラセルダ、ルイス・カルロス・ヴァスコンセロス、フラヴィア・マルコ・アントニオ出演☆1910年。ブラジルの荒地で暮らす貧しいブレヴィス家は、隆盛を極めるフェレイラ家と長年にわたって確執があり、それぞれの息子たちの殺し合いが続いていた。
ブレヴィス家の家長は、殺された長男の血に染まったシャツの色が黄色に変わると、次男トーニョに報復を命じる。
報復という行為は、誰かが勇気を持って止めに入らないと、一族が滅亡するまで永遠に続いていく。とても古典的な話ではあるが、現代にも通じるものがあり、身につまされた。
最悪の結末は十分予想できたことだが、それでも、胸が痛くなった。
次男役のロドリゴは、「カランジル」ではゲイの囚人役を好演していたが、ここでも美しさが光っていた。「カランジル」の医師役ルイス・カルロス・ヴァスコンセロスも脇役ながら存在感あり。この二人の役者、これからも要チェックだ。2007.1 参考CINEMA:「モーターサイクル・ダイアリーズ」
ショーン・レヴィ監督、フランキー・ムニッズ、ポール・ジアマッティ、アマンダ・バインズ出演☆いたずらっ子のジェイソンは、宿題で書いた作文「ビッグ・ファット・ライアー」というお話を、ハリウッドのプロデューサーに盗作されたことを知る。ジェイソンはガールフレンドと一緒にハリウッドに乗り込むが、プロデューサーからは相手にされない。悪党のプロデューサー役をジアマッティが嬉々として演じていた。全身青色の怪物に変身したジアマッティはケッサク。テンポもいいし、役者もいいのに、なぜ日本で未公開なのでしょうか。なつかしの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「フェリスはある朝突然に」のノリの楽しい青春コメディでした。2007.8
ヒストリー・オブ・バイオレンス A HISTORY OF VIOLENCE
デヴィッド・クローネンバーグ監督、ヴィゴ・モーテンセン,マリア・ベロ,エド・ハリス,ウィリアム・ハート出演☆☆一見すると普通の家族。でも何かある。何かが違う。
そう思わせるのはクローネンバーグ監督の腕か、それともヴィゴのダーク・グレイの目の色のせいか…。
観客は、疑惑の片鱗を見つけようと、目を凝らさずにはいられないだろう。
あからさまな異端ではないけれど、クローネンバーグ監督色はしっかりと見て取れる意欲作だ。
☆片田舎で食堂を経営するトムは、妻と2人の子どもと静かに暮らしていた。ある日、凶暴な強盗に襲われたトムは、素人とは思えぬ身のこなしで悪党を射殺。一躍、町のヒーローに祭り上げられる。まもなく、店にトムをジョーイと呼ぶマフィアが現れる。
過去を封印して穏やかな生活を送っていた男に突然降りかかった恐怖を描いたサスペンス。
と、ひとことで片付けてしまうにはもったいない、怪しい雰囲気を持った作品だ。
トム一家につきまとうマフィア役のエド・ハリスや、兄役のウィリアム・ハートも十分おっかないのだが、それよりも不気味なのは主人公のトムを演じたヴィゴ・モーテンセンの冷たい目。
何考えてるのかわかんないし、2重人格と信じそうになるほど、自分の過去を隠そうとする態度には恐怖感を覚えた。
頭の中は善人に変われても、身体は暴力を忘れていない。
心と身体が乖離してしまったトムは、はたして…。
彼に抱いた疑惑。それは、残忍に人を殺す男、という表面的なものではなく、彼の心のうちに潜んでいる“狂気”に対する恐怖である。
穏やかな男のふりしてるけど、真の姿は鬼かもしれない…。
今こうやって、家族と団欒しているときにも、夫は心のなかで家族をいたぶる想像をして楽しんでいるのかも…。
おそらく妻は、想像を膨らませて、ベッドで怯えていたはずだ。
妻を演じたマリア・ベロは、美人だけど薄っぺらな感じがするので普通の女の役がぴったり。チアガールの恰好をすれば夫が興奮するだろう、などと考える単純な妻だから、よりいっそう夫の過去を知り怯えてしまうのだ。
冷たい目の男優と薄っぺらな女優を夫婦にした配役もクローネンバーグ・テクニックの一つといっていいだろう。
ジョーイへと変貌したトムの残忍な殺害シーンはあるけれど、トムの真の狂気は結局、最後まで姿を見せることはない。だから余計に恐ろしい。いつ彼が正体を現わすのか…。
家族はこれから先ずっと、彼のうちなる狂気に怯え続けなければならないだろう。
そう予感させる唐突な終わり方も、なかなかいい。
妻は怯えながらも、夫の狂気に次第にはまっていき、二人はよりアブノーマルな愛へと突き進む…なんていう展開もあるかもしれない。
(などなど、私の妄想はどんどん危ない方向へ…)
この映画のエンディングについては賛否両論あるようだ。
最後は「お父さんが過去を清算して戻ってきたわ〜」と、家族抱き合って終わってほしかった、と思う人の気持ちもわからなくはない。
深読みしなければ、メデタシメデタシのハッピー・エンディングだってありうる展開だし、スッキリした予定調和的エンディングもエンタテイメント作品だったら嫌いじゃない。
だけど、やっぱりそこはクローネンバーグ。
ただ者ではないアブノーマルな彼の作品では、そうあって欲しくないし、あってはならないのだ。
この映画では、彼お得意のグロテスクさはほとんど見てとれなかったけど、心理的な恐怖感はたっぷり味わうことができた。2006.6 参考CINEMA:「イグジスタンス」「スパイダー」
台湾を旅をすると、流暢な日本語を話すお年寄りに出会うことがあります。太平洋戦争前、台湾は日本の統治化にあり、学校では日本語教育が行われていたためです。今週はそんな台湾の激動の時代を切り取った名作を紹介します。
舞台は港町・基隆。長男が酒家を切り盛りする林家は、次男、三男を戦争に取られ、ろうあ者の四男は写真館を営んでいる。1945年、日本からの解放で喜びに沸いたのも束の間、大陸から渡ってきた外省人と台湾に長く暮らす本省人の対立が激化し、林家の人々は否応なしに争いに巻き込まれていく。
ホウ・シャオシェン監督独特のゆったりとしたテンポで血生臭い抗争の歴史が語られていきます。アジアのスター、トニー・レオンが演じた四男とその妻が静かに寄り添いながら生きる姿は、時代に翻弄される庶民の深い悲しみを代弁しているようで涙を誘います。
。(A新聞 [週末のこの1本] 2006.3.11 掲載コラム) 参考CINEMA:「珈琲時光」「百年恋歌」
百年恋歌 最好的時光 THREE TIMES
ホウ・シャオシェン 監督、スー・チー、チャン・チェン、メイ・ファン出演☆1966年。兵役につく青年とビリヤード場で働く女性の不器用な恋。1911年。遊郭に通う外交官と芸妓の大人の愛。そして2005年。歌手のジンとカメラマンの若く激しい愛…。3つの時代の恋物語を、淡々とつづったオムニバス。
ホウ監督らしいまったり映画で、案の定、うつらうつらしながらの鑑賞。
でも、やっぱりカメラ・アングルは秀逸。とくに2005年は、カメラマンが主人公、ということもあるのか、アップのスー・チーが超クール。
なんてことはない世界なんだけど、高度な芸術性を感じさせるあたりはさすが。
スー・チー、チャン・チェン、ともにモデル体型のせいか、1966年の二人は、ちょっとカッコよすぎて違和感あり。2007.2 参考CINEMA:「珈琲時光」
ヒトラー 〜最期の12日間〜 DOWNFALL
オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督、ブルーノ・ガンツ、ユリアーネ・ケーラー出演☆ヒトラーの最期の12日間を、個人秘書をしていた女性の目をとおして描いた意欲作。
多くの民を虐殺した極悪人ヒトラー。そんなヒトラーの人間的側面を描いた作品は初めて見た。エキセントリックさばかりが注目されてきたけど、あれだけのドイツ国民が信奉していたのだから、人間的な魅力もあったのだろう。
若い秘書の「総統は二つの顔を持っている」というセリフは的を得ていた。
「ナチス以外の世では生きていたくない」と、子供まで殺してしまう母親の姿が一番痛々しかった。実直すぎると、周りが見えなくなって危険だ。
若い秘書はまだ存命で、映画の最後に本人が登場していた(顔を出した彼女の勇気に感服。覚悟の出演だったはずだ)。「若さは理由にならない」という彼女の悔恨の言葉が印象的だった。2006.9 参考CINEA:「独裁者」
PTU
ジョニー・トー監督、サイモン・ヤム、ラム・シュー、マギー・シュー出演☆香港映画復活の担い手であるジョニー・トーの作品。PTU(香港警察特殊機動部隊)のホー隊長は、組織犯罪課のサァ刑事が拳銃を盗まれたと知り、24時間以内に拳銃を探し出す手助けをする。そんなとき、マフィアのボスの息子が殺された。サァ刑事は、マフィアから、復讐を手伝えば拳銃は返す、と脅される。
スタイリッシュなノワールものなんだけど、随所に笑いもあり、気楽に見れるサスペンス。北野武映画との共通点を感じた。サイモン・ヤム渋いけど味がある。「黒社会」でも主演してるみたいだし、ちょっと注目。2006.5
参考CINEMA:「ザ・ミッション 非情の掟」「ブレイキング・ニュース」「柔道龍虎房」
ピアノ・ブルース PIANO BLUES
クリント・イーストウッド監督、マーティン・スコセッシ総指揮、レイ・チャールズ、デイヴ・ブルーベック、ファッツ・ドミノ、ドクター・ジョンほか出演☆クリント・イーストウッドがレイ・チャールズやドクター・ジョンなど、偉大なピアノマンにインタビューしながら、ブルース・ピアノの歴史をたどっていく。フィルム出演が超豪華!おいしいとこどりの早引き映像は魅せられた。みんなかっこいいよなあ。クリントとレイが意気投合しながら話す姿が無邪気でかわいかった。二人ともほんとに音楽が好きなんだなあ。好きなことがあるっていいよね。私も音楽、またはじめたくなりました。2006.5 参考CINEMA:「ソウル・オブ・マン」、「ゴッドファーザー&サン」、「ロード・トゥ・メンフィス」
エクトール・バベンコ監督、フェルナンド・ラモス・デ・シルヴァ、マリリア・ペーラ出演☆サンパウロの少年鑑別所には、貧民街の少年達であふれかえっている。年少のピショットは仲間の一人を警察の拷問によって亡くしたことをきっかけに、鑑別所を脱走。町で盗みを働きながら、暮らしていた。銃を手に入れたピショットたちは、美人局で金を稼ぎ始める。
20年以上前の映画ではあるが「シティ・オブ・ゴッド」となんら状況は変わっていない。おそらくサンパウロでは、今でも、その日を生き延びるための犯罪が多発しているのだろう。エンディング。あまりにもたくさんの死を見すぎたピショットの顔から、最初のかわいらしさが消えてしまっていたのが痛々しかった。2007.4
白夜 LE NOTTI BIANCHE
ルキノ・ヴィスコンティ監督、フョードル・ドストエフスキー原作、ニーノ・ロータ音楽、マルチェロ・マストロヤンニ、マリア・シェル、ジャン・マレー出演☆マリオは、恋人との再会のために毎夜、橋の上に立つナタリアに一目ぼれする。傷心のナタリアを励ますうちに打ち解けた二人だったが…。
ヴィスコンティらしさは感じられなかったが、ニーノ・ロータの音楽は秀逸。マストロヤンニとジャン・マレーに惚れられる女なんてうらやましいわ、なんてくだらないことを考えながら見てしまった。私って俗物。2006.11
ビヨンド・ ザ・シー 〜夢見るように歌えば〜 BEYOND THE SEA
ケヴィン・スペイシー監督・脚本・主演、ケイト・ボスワース、ボブ・ホスキンス、ブレンダ・ブレシン、キャロライン・アーロン、ジョン・グッドマン、グレタ・スカッキ出演☆エンターテイナー、ボビー・ダーリンの一生を、ミュージカル仕立てで描いた作品。
曲は有名だけど、ボビーの存在はまったく知らなかった。劇中劇のような作りなのだが、最初からケヴィンが「年とり過ぎ」と指摘されるところが面白い。配役の違和感を自ら語るところにちゃめっ気を感じた。ケヴィンは、自分でボビーの曲を歌いたいがためにこの映画を作ったのだろうか。「五線譜のラブレター」に構成が似てたし、ミュージシャンの伝記は見飽きたので、新鮮味はゼロ。妻を演じたケイト・ボスワースはおっとりしていてかわいかったが、姉役のキャロライン・アーロンのド迫力には敵いませんね。2006.8
【フ hu】
フランシスコの2人の息子 2 FILHOS DE FRANCISCO - A HISTO'RIA DE
ZEZE' DI CAMARGO & LUCIANO (2005年・ブラジル)
ブレノ・シウヴェイラ監督、アンジェロ・アントニオ、ジラ・パエス、ダブリオ・モレイラ、マルコス・エンヒケ出演☆小作農のフランシスコは大の音楽好き。子供たちをミュージシャンにさせるため、わずかな収入を楽器購入に使ってしまう。
いやいや音楽をはじめた長男ミロズマルは、父の熱意に押され、独学でアコーディオンを習得する。
土地を追われた家族は都会へ移住。しかし、生活は田舎以上に苦しい。ミロズマルと次男エミヴァルは、バスターミナルで路上ライブを始める。
二人は、怪しげなプロモーターに見い出され、地方周りを始めるが…。
ブラジルの人気デュオ、ゼゼ・ヂ・カマルゴ&ルシアーノの成功を、涙と笑いで綴ったハートウォーミングなファミリー・ドラマ。
チチローやさくらパパなど、日本にも英才教育で子供を成功に導いた親たちがクローズアップされているが、このパパ、フランシスコの熱心さも尋常ではない。貧しさから抜け出したいという思いもあったのだろうが、夢のためにすべてを犠牲に出来るのは、親が子の能力を信じ、子は親の気持ちを受け止めているからできることだ。なんともうらやましい親子関係ではあるが、誰にでもできることじゃないよなあ…。
歌と笑いと涙と喜び…。とても分かりやすいサクセス・ストーリーで、子供から老人まで、誰が見ても楽しめる。
ただ、お父ちゃんから独立した後のミロズマルの苦労話は、事実とはいえ、少々しつこい感あり。父と息子たちの話に集約したほうが締まった気がする。
フランシスコを演じたアンジェロ・アントニオ、男らしさとソフトさが備わった素敵な役者だ。若かりし頃のメル・ギブソンを見ているよう。
&ゼゼ〜の生ライブ、機会があったらぜひ行ってみたい。正直、好きなジャンルとは言えないが、ライブは楽しそうだし、興奮する客を眺めるだけでも面白そうだ。2007.3
ボビー・ファレリー監督、マット・デイモン、グレッグ・キニア、シェール、シーモア・カッセル出演☆結合双子のウォルト&ボブは、町の人気者。ハンバーガー屋をやりながら、スポーツや演劇で大活躍していた。
ある日、兄のウォルトが映画俳優になりたいと言い出した。ボブは渋々承知し、二人はLAへ。偶然あったシェールに誘われ、ウォルトがTVドラマに出演すると、予想外の人気者になってしまう。
結合双子がピッチャーをやったら、ホッケーのキーパーをやったら、俳優をやったら…、などなど、面白い発想が次々出てきて、飽きずに楽しめた。軽いけど、細かいところにまで目が行き届いて、結合双子ならではの悩みも説得力があった。典型的アメリカン顔のグレッグ・キニア、いい仕事してました。グリフィン・ダンやメリル・ストリープがチョイ役で出てくるおまけもおいしかった。参考:「メリーに首ったけ」
復讐者に憐れみを SYMPATHY FOR MR. VENGEANCE
パク・チャヌク監督、ソン・ガンホ、シン・ハギュン、ペ・ドゥナ出演☆ろうあ者のリュウは姉のために、闇の臓器売買屋から腎臓を買おうとして金を騙し取られてしまう。そんなとき、病院から移植ドナーが見つかったと知らされるが、手術の費用は手元にない。早急に金を工面するため、リュウは自分を解雇した工場長の娘を誘拐してしまう。
復讐が復讐を呼ぶ悲劇を残忍かつコミカルに描いた作品。姉の命を救うために奔走しながら、悪い方にどんどん転がってしまうリュウをシン・ハギョンが熱演。役柄によって顔が七変化するうまい役者だ。後半は、ソン・ガンホが復讐の鬼となるんだけど、リュウのほうにすっかり入れ込んでいたこともあり、ちょっと迫力不足。ガンホはブ男だけどいい人役がやっぱり似合う。2006.3.25
参考CINEMA:「JSA」「オールド・ボーイ」「親切なクムジャさん」「美しい夜、残酷な朝」
胡同(フートン)のひまわり SUNFLOWER ★
チャン・ヤン監督、 スン・ハイイン、ジョアン・チェン、ガオ・グー、ワン・ハイディ 出演☆1976年、北京郊外の胡同。母と二人で暮らす9歳のシャンヤンのもとへ、文革のために強制労働に行かされていた父が帰ってくる。手を痛め、画家としての道を絶たれた父は、ションヤンに夢を託し、厳しく絵の指導をするが、ションヤンは反抗をくり返す。
10年後。親の望みどおり美大に入ったションヤンは、授業をさぼってスケートリンクでハガキを売っていた。それを知った父は激怒。友人や恋人と広州に旅立とうとするションヤンを無理やり連れて帰る。
さらに、ションヤンの恋人から妊娠を知らせる手紙を受け取った両親は、ションヤンに内緒で堕胎を迫る。
自分の夢を息子に託し、過干渉する父親。文革という徹底した管理社会を生きてきた父親が、教育父になってしまうのはわからなくはない。
だが、息子には息子の人生があり、意思もある。
自分はションヤンと同世代でもあるので、どうしても息子の視点で見てしまい、父親に対して「ほっとけっ!うるさいっ。時代が違うんじゃ」と毒突きたくなった。
どこの家庭でも、親は自分の理想どおりに子供を育てようとし、子供は自由に生きたいと願うもの。ただ、ションヤンの場合、一人っ子で、父から夢を託されたプレッシャーもあり、余計に親子関係が密になっていったのかもしれない。
ションヤンは反発しながらも、結局は父のいいなりになってしまう。この父と息子は共依存の関係だったともいえるだろう。
1960年代から現代の中国という社会が急速に変わっていく時代が背景なので、昔気質の父親が時代の変化に取り残されていく姿も克明に描かれていて、興味深かった。
日本で言えば、戦前に教育を受けた世代の戸惑いが、それに当たるだろう。
現代の近代化された北京の街。高層マンション。高級車。モデルみたいにお洒落な息子の嫁(女優が伊藤美咲そっくり!)。
60年代と同じ世紀とは思えない変わり様である。生活が豊かになると、いいこともたくさんあるのだが、昔ながらのスローな暮らしが忘れさられてしまうのは、なんだか寂しい感じもする(そう言いながら、不便な生活には戻りたくないのだが)。
30歳になり、妻とお洒落なディンクス生活を楽しんでいるションヤンは、初めての個展を開く。
そこで息子の絵を見た父は……。
言葉にすると陳腐になるのであえて書かないが、父と息子、それぞれが一人立ちした瞬間が、あの1シーンに詰まっていた。
(中国を代表するアーティスト、ジャン・シャオガンの作品らしい。絵画に疎い私でさえ、あの絵力に圧倒された)
母親役の女優、おばちゃんだけど色っぽいなあ、と思っていたら、なんとジョアン・チェン! 役作りかもしれないが、ずいぶんふくよかになられて…。「ラストエンペラー」からの歳月を感じてしまいました。参考CINEMA:「スパイシー・ラブ・スープ」
フライトプラン FLIGHTPLAN
ロベルト・シュヴェンケ監督、ジョディ・フォスター、ピーター・サースガード、ショーン・ビーン出演☆ベルリンで夫を亡くした航空機設計士のカイルは、夫の遺体を引き取り、6歳の娘ジュリアとともに飛行機に搭乗する。途中、娘ジュリアが姿を消した。カイルは周囲に娘の姿を見なかったか聞いて回るが、誰も知らないという。さらに、搭乗記録にも名前がなく、ジュリアはベルリンで亡くなったというFAXまで届く。
ジュリアは存在していたのか、それともカイルの妄想だったのか…。一人別世界にいるような病的なカイル役のジョディは、さすが!の演技。
同じ飛行機に乗っていても隣の人が子連れだったかなんて、みんな気にしていないのかもしれない。人の記憶よりも書類が信用されてしまう世の中なんて悲しいわ。でも、それが現実なんだけど。
途中までは面白く見れたのだが、ラスト30分は拍子抜け。悪党の動機とキャラが弱すぎるし、話のトーンも変わってしまい不快感すら覚えた。「ダイハード」と「シックス・センス」をくっつけるのはやっぱり無理があるわ。2006.11
フラガール
李相日監督、松雪泰子、豊川悦司、蒼井優、山崎静代、富司純子ほか出演☆昭和40年代、不況の続く炭鉱町・磐城では、温泉を利用したリゾート施設ハワイアンセンターを建設する計画がすすめられていた。若い娘・早苗と紀美子は、ダンサー募集の説明会に出向くが、家族に猛反対される。
ハワイアンセンターの常連客だったので思い入れはかなりあったのだが、あの子供の頃にみたダンサーは、地元の人たちだったとは、この映画を見てはじめて知った。今で言う、村興しの走りなのだろうけど、あの時代に「東北にハワイ」なんて、ありえない話だったのだろう。
実際は、あれだけ大きな規模の施設だから、ダンサーの苦労話以外にもいろいろエピソードはあったのだろうが、話をダンサーたち一本に絞り、うそ臭い恋愛話もいれずに、シンプルに人間を描いていたのには、好感が持てた。
なんだか「プリティ・リーグ」っぽいなあ、と思いながらも、ベタなスポ根話は嫌いじゃないので、かなり楽しめた。蒼井優はもちろん最高に輝いていたが、富司純子が東北の炭鉱のオバちゃん役を見事に演じていたのにびっくり。ドヌーブが女工役をやった「ダンサー・イン・ザ・ダーク」以来の驚き。しかも、うまい!普段は上品なセレブ女優だけど、モンペも似合ってしまうあたりがさすが。ただ、兄ちゃん役のトヨエツはちょっとねえ。松雪との恋愛話を発展させなかったのは、正解だったと思うが、それならもっと炭鉱夫っぽく見える俳優でもよかったのでは?と、余計なチェックを入れてしまった。
ハワイアンズ、久しぶりに行ってみたくなったけど、今の踊り子さんは、みんなバリバリのプロなんだろうなあ。2007.6
デヴィッド・フランケル監督、メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラント、スタンリー・トゥッチ出演☆ジャーナリスト志望の若い娘アンディが、一流ファッション誌のカリスマ編集長ミランダのアシスタントとして働くことになった。ダサい洋服を最新のモードに着替え、携帯電話片手に、鬼編集長にこき使われる毎日を送るアンディ。恋人との大事な約束も仕事でつぶされ、余裕のない日々を送りながらも、アンディは次第に、ミランダから認められるようになる。
やり手ババアが若い女性をいじめる話、と思ったら、すっとこどっこい。女編集長の言っていることはそれなりに筋が通っているし、女が出世するには、裏工作の一つや二つ、当然。悪魔と呼ばれてるけど、何が悪いのさって感じ。
若くて初々しいアンディは、結局、自分が本来やりたかった新聞社の仕事に就き、恋人との仲も復活してハッピーエンドっていうのが納得いかず。若いアンディが悪魔ミランダを出し抜き、やり手ババアとなっていく「イブの総て」的エンディングが私的には好みです。2007.7
プレステージ THE PRESTIGE
クリストファー・ノーラン監督、ヒュー・ジャックマン、クリスチャン・ベイル、マイケル・ケイン、スカーレット・ヨハンソン、デヴィッド・ボウイ出演☆舞台は19世紀末のロンドン。若きマジシャン、アンジャーとボーデンは、同じ師匠のもと、切磋琢磨しながら、技を磨き合っていた。
ある日、アシスタントをつとめていたアンジャーの妻が、水中縄抜けに失敗し、命を落とす。アンジャーはボーデンの縄の結び方に疑惑を抱き、二人は決別する。
以降、二人は、お互いのマジック会場に忍び込み、復讐合戦をはじめる。
「決してラストは話さないで下さい」で、はじまるトリック映画。
どんな大ドンデン返しがまっているのか、と思いきや…。
二人が袂をわかち、お互いの技を盗みあうやりとりは、とても面白くて、よくできた映画だとは思うのだが、騙し合いも延々見せられると、なんだかとてもいやーな気分になってくるもの。
単純に、技の巧妙さだけを見て楽しむ、と割り切ればいいのだろうが、自分はそういう映画の見方ができないほうなので、いろいろと、二人の心理状態を深読みしてしまった。
結果、思ったことは、ボーデンという男には、まったく人間的な心が見つからなかった、ということ。誰が本物のボーデンなのかも定かではないし。。
いったい彼は何者? 実はボーデンは本物の人間じゃないのかも?
(いろいろと深読みすると、ますますわからなくなりそうなので、このへんでやめておきます)
「ラストは話さないで」と、うたっているいるわりには、伏線があって十分想像できる展開。
面白い映画ではあるけれど、好きな映画ではない、というのが率直な感想だ。
最後にもう一言:エンドロールが流れるまで、デヴィッド・ボウイが何役だったのかまったくわからず。私にとっては、これが、もっとも驚きのエンディングでした^^;参考CINEMA:「メメント」
プロデューサーズ THE PRODUCERS ★★
スーザン・ストローマン監督、メル・ブルックス製作・脚本、ネイサン・レイン、マシュー・ブロデリック、ユマ・サーマン、ウィル・フェレル、 ゲイリー・ビーチ、ロジャー・バート出演☆1959年のNY。落ちぶれたブロードウェイのプロデューサー、マックスは、失敗確実な作品を作って、資金の不正操作で金を騙し取ろうと画策。生真面目な会計士レオを丸め込んで史上最低ミュージカルの製作に乗り出す。彼らが選んだのは、ヒトラー礼賛の脚本と、フランス人のオカマ演出家。そして資金は、マックスにご執心の老婆たちから巻き上げる。
いよいよ至上最低のミュージカルの幕が開き…。
喜劇王メル・ブルックスが68年に作ったコメディを2001年にブロードウェイでミュージカル化して大ヒット。さらに同じキャスト、スタッフで映画化した作品。
「ここはブロードウェイ?」って間違えるぐらい、舞台がそのまま画面から飛び出てきた感じ。
ネイサンとマシューの掛け合い漫才コンビは、芸術の域に達した完成度だし、歌も踊りも楽しくて、ついつい一緒に歌いたくなった。
ストーリーも四半世紀前のものとは思えない鋭さ。相変わらず戦争は終わらないし、独裁者も居なくならない。今はゲイ・ピープルはショービズ界では常識だし、資金繰りの不正操作は、つい最近ホリエモンがやったばかり…。
風刺ものって、時代が変わると古臭くなりがちなんだけど、この映画は永遠に終わらない社会悪を痛切に皮肉っているので、今も昔も変わらず楽しめる。
68年に作られた作品はテレビで見たことがあるが、正直それほど「楽しかった」という記憶はない。リメイクされ、さらに完成度が高くなる作品もめずらしい。
不評だったユマやウィルは少々違和感あったものの、気になるほどじゃなかったし、オカマ演出家とその愛人のキモい二人も最高におかしい。二人とも知らない役者だけど、舞台の人なのかな?
でも、やっぱり一番はネイサンとマシューの二人。舞台の主演がそのまま演じてるから、演技もそのまんま舞台用。映画として見たら大げさかもしれないけど、二人の演技は完璧!
とくにネイサンはほんと、超一流のエンターテナーです。脱帽!
何度も言うけど、とにかく楽しくて、幕が開いてから閉まるまで、ブロードウェイの世界にどっぷりつかってしまった。
華やかさ、楽しさ、鋭さ、面白さ、などなど、いろんなものがいっぱい詰まっていて、久しぶりに文句なしで楽しめる映画だった。2006.4 参考CINEMA:「逆転人生」
プードルのトリミング White Trash
アネット・ヴィンブラード・バルテル監督☆口うるさい育ての親の介護に追われる独身女性リタは、自己啓発セミナーで、理想的な男性クヌートと出会う。二人は急接近するが実はクヌートは新聞のコラムニストで…。クヌート役の俳優は、ラブコメ・キング、ヒュー・グラントをひと回り大きくしたようなタイプで、ストーリーもラブコメの王道そのもの。わかりきった展開ではあるんだけど楽しめたのは、リタとその仲間たちの明るいキャラの魅力につきる。不器用にしか生きられない女の再生物語は、世界共通のテーマ。遠い遠いスウェーデンでも日本でも、人間の生活って基本的に変わらないんだな、と再認識した。2007.5
プルートで朝食を BREAKFAST ON PLUTO ★
ニール・ジョーダン監督、キリアン・マーフィ、リーアム・ニーソン、ルース・ネッガ、ローレンス・キンラン、スティーヴン・レイ出演
レビューはCINEMAの監督たち(N・ジョーダン)へ
プルーフ・オブ・マイ・ライフ PROOF
ジョン・マッデン監督、グウィネス・パルトロウ、アンソニー・ホプキンス、ジェイク・ギレンホール出演☆高名な数学者ロバートが亡くなった。晩年、精神を病んでしまった父ロバートを看病してきたキャサリンは、父を尊敬する数学者ハルに1冊のノートの入った机の鍵を渡す。それは、ある定理の証明が記されていたノートだった。キャサリンはハルに、自分が証明を解いたと話すが、ハルは信じようとしない。
父の天才的頭脳を受け継ぎながらも、父の影に隠れて暮らしてきた娘。凡人の姉からは、心を病んでいると思われ、一人前に扱ってもらえない。さらに、心を許した男性からも自分の才能を認めてもらえず…。そんな女性の心の揺れが繊細に描かれていた。ピューリツァ賞をとった戯曲が原作ということ。さすがによくできている。
ただ、グウィネスがどうしても天才数学者に見えなかったのがちょっと残念。ちょうどジョディ・フォスターの映画を見た後だったので、役者の差を感じた。グウィネスはやっぱりかわいくておっとりしたお嬢様役が似合う気がする。父が監督した「デュエット」は超キュートだったのに。&狂った数学者を演じたホプキンスの演技がもう少し見たかったかな。2006.11
参考CINEMA:「コレリ大尉のマンドリン」
プロミス 無極 PROMISE
チェン・カイコー監督、真田広之、チャン・ドンゴン、セシリア・チャン、ニコラス・ツェー、リィウ・イエ出演☆舞台は戦のたえない中国大陸。将軍・光明は奴隷の昆崙の足の速さに惚れ込み、傷を負った自分に代わり、華鎧をつけて王を救うよう命じる。しかし、将軍に化けた昆崙は王妃・傾城の危機を救うかわりに王を殺めてしまう。
内容の薄っぺらさが評判になっていたので、まったく期待せずに見たのだが、はじめの30分は予想どおり。特撮と笑いを誘うアクションは、まるでジャッキーの映画のよう。カイコー監督は、いったいどこへ行こうとしているのでしょうか。。。
しかーし。後半は、けっこう堪能してしまったんだなあ、これが。
きらびやかな衣装と美しい中国大陸の映像がなによりすばらしかったし、真田、セシリア、チャン・ドンゴンの恋愛模様も「シラノ・ド・ベルジュラック」のように、最後までもどかしい感じが私好み。そして、せこい悪役を演じたニコラス・ツェーの妖艶な演技もなかなかいい味出していて好感が持てた。
酷評されてはいるけれど、私は「無極」に「覇王別姫」の片鱗が見れた気がして、とてもうれしかったのだ。
やはりカイコ監督はラブ・ストーリーの名手だ。それも等身大ではない高貴な香りが漂う恋愛絵巻。レスリー・チェンの後を継ぐ者はなかなか現れないようだけど、ニコラス・ツェーも大物になりそうな予感がしたし、役者を変え、CGとアクションを減らせば、アート作品にもなりうる出来だった気がする。(そうなると、まったく別物ってことだが^^;)
チャン・ドンゴンは嫌いじゃないのだが、カイコー監督作品にはあっていない気がした。弟や国のために戦う不死身の男をやらせたら、ピカ一なんだけどなあ。それと、セシリア・チャンも現代的美人だから、お姫様役はちょっと違う感じ。
ドンゴンのファンを敵に回す気はさらさらないのですが、セシリアとドンゴンはミス・キャスト、とあえて言わせていただきます。2006.3.10 参考CINEMA:「北京バイオリン」「10ミニッツ・オールダー」
ブロークン・フラワーズ BROKEN FLOWERS
ジム・ジャームッシュ監督、ビル・マーレイ、ジェフリー・ライト、シャロン・ストーン、ジェシカ・ラング出演☆悠々自適に暮らす中年男の元に、息子の存在が書かれたピンクの手紙が届いた。おせっかいな友人の計画に乗せられた男は、かつて関係のあった恋人を訪ねる旅に出る。渋々始めた旅が、次第に、自分の居場所を探す旅へと変わっていく。「メルキアデス〜」「アメリカ、家族のいる風景」とテーマ的に似ているが、ビルが演じているので何だか可笑しい。彼女の持ち物のピンクに異常に反応したり、偶然たずねてきた少年に「俺の息子だろ!」と詰め寄ったり…。
毎日グウタラしてたおっちゃんが、少しだけ頭と身体を働かせてドキドキワクワク感を味わう。特別ドラマチックでもなく、普通の生活を淡々と描いているだけなのだが、人の人生ってこんなもんだよなあ、なんて妙にしみじみ感じてしまった。ビル・マーレイって実物もやる気なーいタイプなんだろうか。いくつになっても気になるオヤジ役者である。2007.5
ブエノスアイレスの夜 VIDAS PRIVADAS
フィト・パエス監督、セシリア・ロス、ガエル・ガルシア・ベルナル、ルイス・シエンブロウスキー出演☆カルメンは父親危篤の知らせを聞き、20年ぶりに故郷アルゼンチンを訪れる。1976年の軍事クーデターによって、政治犯として拷問を受けたトラウマから、人と触れ合うことができなくなっていたカルメンは、愛人クラブで知り合った若い男の声に引かれる。やがて二人は愛し合うようになるのだが…。
カルメンの屈折した性欲は正直理解しがたいが、声に惚れる気持ちはよーくわかる。前半はかなりエロ度が高かったので、このままエロエロ、ジメジメでいくのかと思ったら、後半、いきなりドラマチックな展開になったので違和感があった。エンディングに驚愕の事実を持ってくるのなら、もっとカルメンの過去について描いてほしかった。なぜ拷問されたのか、軍事クーデターで何があったのか、など、ほとんど描かれていなかったのが残念。アルゼンチンの歴史を詳しく知りたくなった。でも主演の二人はさすがに魅力的でした。監督はセシリア・ロスの夫だそうです。2006.6
ブレイキング・ニュース BREAKING NEWS 大事件
ジョニー・トー監督、ケリー・チャン、リッチー・レン、ニック・チョン、ラム・シュー出演☆強盗団のアジトを張り込んでいた特捜班のチョン警部補は、逮捕直前で捕り逃してしまう。女性キャリアの捜査官レベッカは、メディアを利用し、犯人追跡をテレビで流すことで、警察の信頼回復を図ろうとする。まもなく、チョンらが追い詰めた強盗団は、アパートの住人を人質にとって篭城を始める。
涙や人情とは無縁の、現代的でスタイリッシュな捕り物帳。ガン・アクションが超クール。韓国も日本も頑張ってはいるけど、アクション系はまだまだ香港にはかなわない。年季が違いますわ。「PTU」で拳銃盗まれた間抜けな警官を演じたラム・シューがここでも強盗団の人質にされるオトボケ住人を好演。いいバイプレーヤーだ。&ケリー・チャンは清楚なマドンナ役より、きついバリキャリ女のほうがあっている気がした。日本でもジョニー・トーみたいなわかりやすくてかちょいい映画つくる監督、出てこないかなあ。 参考CINEMA:「ザ・ミッション 非情の掟」「PTU」
「柔道龍虎房」
ブロークバック・マウンテン BROKEBACK MOUNTAIN ★★
アン・リー監督、アニー・プルー原作、ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール、ミシェル・ウィリアムズ、アン・ハサウェイ出演
☆舞台は1963年のワイオミング。ブロークバック・マウンテンという名の山奥に、羊の世話をするためにやってきた青年イニスとジャックは、二人だけの時間を過ごすうちに熱い友情で結ばれる。やがて、気持ちを抑えきれなくなった二人は肉体関係を持ってしまう。イニスは山を降りると、二人の関係を封印して、婚約者と結婚し、新しい生活をはじめる。
数年後、ジャックと再会したイニスは、自分がジャックを忘れられないでいたことに気づかされるが、二人の関係は決して公にできない秘め事だった…。
映画の作りはいたってシンプルで、二人の関係もドラマチックに描かれてはいない。
それぞれの家族との葛藤と、二人の逢引の様子が、時代を追って淡々と描かれていき、劇的な変化は訪れない。妻たちは、二人のただならぬ関係にうすうす気づきながらも追求しないし、イニスとジャックも本当の姿を見せずに、気持ちを抑えてやり過ごしている。
そんな姿に、もどかしさも覚えたが、抑圧されている環境であればあるほど、秘めた恋が、より燃え上がるのはよくある話。
恋路を邪魔された二人の心中事件をめっきり聞かなくなったのも、何でも許される自由恋愛の世の功罪と言えるだろう。
気持ちを押し殺し、良き父、夫として暮らしているイニスとジャックのどこか物憂げな表情と、逢引のときにだけ見せる至福の笑顔の対比が見事だった。
とくに家族といるときのイニスの大きな背中に、なんともいえない悲哀が投影されていて、ジワッと心に染みてきた。
彼らのように大きな秘密をかかえていなくても、気持ちを偽って生きている人は多いだろう。本当の自分が出せず、しがらみに縛られて生きていたり、空しい作り笑いをして日々暮らしていたり…。
「自分らしく生きられない」と、感じている人々の気持ちを、イニスの背中が代弁しているような気がしてならなかった。
複雑な胸の内をしっかり演技していたヒース&ジェイクの演技力と、アン・リーの演出には脱帽です。
数多くのホモセクシャル映画を見てきたけど、これだけ上品に描いている作品は初めてかもしれない。
男女だろうが男と男だろうが、生涯にたった一人、愛する人がいることは、それだけで幸せなことだよなあ。などと、しばらくしみじみ感じてしまった。
ヒース・レジャー、ますますファンになりました。カサノバも楽しみです! 2006.4 参考CINEMA:「グリーン・デスティニー」「推手」
Heavenly kings 四大天王★★
ダニエル・ウー(呉彦祖)監督・出演、アンドリュー・リン(連凱)、コンロイ・チャン(陳子聰)、テレンス・イン(尹子維)出演☆ドキュメンタリー風に見せながら、実はフィクション。歌も踊りもさっぱりだけど顔だけはいい4人組「ALIVE」が、香港のポップスターになっていく様子を皮肉たっぷりに描いたコミカルなポップ映画。
ビートルズ映画みたいにアニメを使った映像センスも抜群。
ジャッキー・チェン、カレン・モク、ニコラス・ツェーが真面目な顔してインタビューに答えるシーンもあって、キャストも超豪華。
そしてそして、主演の4人がとっても魅力的。監督のダニエルはもちろんだけど、アンドリューも、テレンスも、ちょっと太目のコンロイも、いい味だしてる。
4人の衣装がどれをとってもダサくて、みごとに似合っていないのもケッサク。顔もスタイルもいい人は何を着ても似合うと思ってたけど、あれだけ似合わない衣装がそろうとは!
人気俳優がお遊びで監督した映画ではなく、クオリティも折り紙付き。日本語字幕つきで、もう一度見てみたい映画の1本だ。2006.10.13 釜山国際映画祭06にて 参考CINEMA:「ワンナイト・モンコック」
ベネズエラ・サバイバル SECUESTRO EXPRESS (2005年・ベネズエラ)
ジョナサン・ヤクボウィッツ監督、ミア・マエストロ、ルーベン・ブラデス、カルロス・フリオ・モリーナ出演☆ヴェネズエラの首都カラカスで、高級車に乗った若いカップルが誘拐された。3人の誘拐犯は、一見、凶悪な荒くれ者だが、それぞれに家族があり…。
ベネズエラという国が意外にも都会だったことにまず驚かされた。中南米に関しては知らないことだらけなので、映画を見て、歴史や文化や地理を学んでいます。
誘拐された若いカップル。とくに男のほうに、まったく同情できず。女捨てて逃げるなんて最低。でも、実際は多いのでしょう。人間誰でも、自分が一番大事ですから〜。2007.5
ヘンダーソン夫人の贈り物 MRS. HENDERSON PRESENTS
スティーヴン・フリアーズ監督、レビューはCINEMAの監督たち(S・フリアーズ)へ
蛇イチゴ
西川美和監督・脚本、宮迫博之、つみきみほ、平泉成、大谷直子、笑福亭松之助ほか出演☆一見、平和な家族の明智家だが、実は、父親はリストラを隠して借金まみれ、息子は香典泥棒、母はボケ老人の介護で疲れきっていた。ボケ老人の祖父が急死した。葬式の日、父の借金取りに踏み込まれ、家族の恥が露呈。窮地を救ったのは根っからのうそつきの息子だった。
ありがちなストーリーだけど役者の演技がいい。ボケ老人役の松之助師匠、クダをまく大谷直子がGOOD。堅っくるしい女教師のつみきみほもぴったりだった。西川美和の演出力か、役者の腕か定かではないけど、次回作も見てみたい。2006.7
参考CINEMA:「ゆれる」
ホテル・ルワンダ HOTEL RWANDA ★★
テリー・ジョージ監督、ドン・チードル、ソフィー・オコネドー、ホアキン・フェニックス、ニック・ノルティ出演☆舞台は1994年ルワンダの首都キガリ。多数派フツ族の過激派リーダーは、かつての宗主国ベルギーによって優遇されていたツチ族に対して、敵意をむき出しにし、ラジオで「ツチ族を絶滅せよ」と扇動。そんな中、フツ族の大統領が何者かに暗殺される。これを機にフツ族の過激派は、罪なきツチ族の市民を襲撃し始める。
外資系高級ホテルの支配人でフツ族のポール・ルセサバギナは、ツチ族の妻と子供達に被害が及ぶのを恐れホテルへ避難する。ホテルにはツチ族の人々が続々と詰めかけ、国外脱出を望む。しかし、国連軍が下した決定は「外国人だけの救済」だった…。
目をそらしたくなるむごいシーンの連続、を予想していたが、虐殺シーンよりも、心に訴えかける人間ドラマに仕上がっていた。
ただし、救いのない事実の映画化であるため、終始、額に皴がよった状態ではあったのだが…。
この手の映画は、くどくどと感想を述べるよりも、「とにかく見て欲しい」の一言につきる。
むごい虐殺が、わずか10年ほど前、アフリカの一国で起こっていたという事実に、目をそむけてはならないし、今もまだ、いろいろな国で殺戮は繰り返されていることを忘れてはいけない。こういう映画を見ると、あらためて思い知らされる。
虐殺の首謀者やフツ族の将軍にすがり、媚を売って賄賂を渡すポールの痛々しい姿に、まずウルウル…。
そして、外国人だけを乗せた避難バスを、裏切られた市民が悲しそうに見送るシーンに、やり場のない怒りを覚え、さらに、ポールが妻の手を離し、一人ホテルに残ろうとする姿に、また、涙。
唯一のなごみは、プールサイドで無邪気に踊る子供達。でも、その姿がまた悲しくもあり…。
「欧米の人たちがきっと助けてくれるはず」と、望みを捨てないポールに対し、ホアキン扮する白人ジャーナリストが、
「欧米の人間は、ルワンダの様子がテレビのニュースで流れても、「まあ、かわいそう」と一言だけ言って、また食事を始めるよ」、とはき捨てるように言うシーンが、印象的だった。
この映画を見たすぐ後で、私もバーゲンに行き、服をあさり、家では野球を見ながらビールを飲んだ一人である。
なんともバツの悪い話だが、それでも、「ホテル・ルワンダ」を知らないよりはよかった、と思うようにしている。
悲惨な事実を描いた映画を見ることで、何か役に立てるわけではない。
でも、どんな大義があるにせよ、寄ってたかって人を殺していいわけがない。
理想論ではあるんだけど、「やっちまえ!」の一言で、暴発する人々に、「待った」と言える大人でありたいし、多数派の意見にも「ほんとにそうかな?」と、冷静になれる自分でありたい。
(もし、自分があのルワンダ虐殺の現場にいたら…。平和ボケしてるので、想像できません…。たぶん、気が狂ってしまうでしょう。)
最後にもう一言:
ドン・チードルは(たぶん)生粋のアメリカ人なのに、訛った英語を上手にしゃべっていたのに驚いた。彼の演技は拍手喝采ものです。
ただ、やっぱりセリフが全部英語っていうのは違和感あり。仕方ないとは思うけど…。
何年先になるかはわからないけど、次回はぜひ、アメリカから見た「ルワンダ」ではなく、アフリカの人々の声で「ルワンダ」を語る映画を見てみたい。2006.7
ボンボン El Perro (2004年・アルゼンチン)
カルロス・ソリン監督、フアン・ビジェガス、ワルテル・ドナード出演☆職を失い、娘からも厄介者扱いされている初老の男がある大きな犬を手に入れた。一見、役立たずの犬ボンボンは、意外にもドッグ・ショウで勝ち抜ける血統の持ち主で…。
オトボケ・キャラのおじいちゃんと不細工な犬ボンボンが、オンボロ車に乗って旅をする姿はそれだけで笑いを誘う。そんなイケテナイ珍コンビがドッグ・ショウに出演?! てっきり「リトル・ミス・サンシャイン」のように、コンテストで大恥かくのかと思ったら…。
意外な展開もまた楽しい。とくにラストのオチは最高。
地味な映画ではあるが、人間と動物のぬくもりがジワジワと心にしみてくるハート・ウォーミング・コメディ。主演のおじいちゃんは演技未経験のシロウトらしいが、犬との息はぴったり。監督の演技指導?にも拍手! 2007.5
ナンシー・マイヤーズ監督、キャメロン・ディアス、ケイト・ウィンスレット、ジュード・ロウ、ジャック・ブラック出演☆ロンドンで働くアイリスは、長い間思い続けた男の婚約発表にショックを受け、どこか遠くへ行こうと決意。
一方、ロサンゼルスでは、アイリスが出したホーム・エクスチェンジの広告を映画予告編製作者のアマンダが目にとめる。アマンダも恋人に浮気され、家を追い出した直後だったのだ。 二人の女は心をいやすため、ロンドンとLAにわかれて2週間のクリスマス休暇を過ごすことに…。
信じちゃいけない男たちに、わかっちゃいるけど振り回される女たち。気持ちわかるよなあ、と共感できる女性はきっと多いはず。女心をくすぐるようなアイリスとアマンダのキャラクターが丁寧に描かれていて楽しめた。
家を交換してから、アマンダは一夜限りの関係だと割り切った男に恋をし、アイリスは新しい生活で、お人好しすぎる自分の弱さとの決別をする。
おとぎ話のようなハッピーエンドのラブ・コメではあるが、「ありえなーい」と思わせないのは、女性の繊細な心の動きを上手にとらえているからだろう。
クリスマス・ソングの流し方も、押しつけがましくないのがおしゃれだし、老脚本家を脇役にして、さりげなく今のハリウッド大作映画への皮肉も入れているのが心憎い。ダスティン・ホフマンがチラリと登場したり、老脚本家が舞台に上がろうとするときのBGMが「ドライビング・ミス・デイジー」だったり、遊び心も満載で、カユイところに手が届いている感じ。なかなかナイスなCINEMAです。2007.4 参考CINEMA:「恋愛適齢期」
ほえる犬は噛まない BARKING DOGS NEVER BITE ★
ポン・ジュノ監督、ペ・ドゥナ、イ・ソンジェ、コ・スヒ出演☆高層マンションに住む大学講師ユンジュは、犬の鳴き声にノイローゼ気味。ある日、扉につながれた子犬を見つけたユンジュは、その犬が鳴き声の元凶と思い込み、地下の箪笥に閉じこめてしまう。一方、マンションの管理事務所で働くヒョンナムの元には、愛犬を探して欲しい、と少女が駆け込んでくる。
かわいいワンちゃんたちを救う映画、と思いきや、そこはポン監督作。かなりビターでグロいコメディだった。犬をビルから投げ落とすユンジュは最低人間だけど、犬殺してナベ作ってる警備のオヤジもケダモノ。こういう普通に見えておそろしい人たちって、けっこういるのかもしれない。ぞっとした。残虐な殺人者は、まず動物を試しに殺すっていうし、病んだ社会の側面を鋭く描いている。
それと、BGMに流れる粋なジャズが、映画のくだけた感じにぴったりとはまっていた。長編デビュー作とは思えないクオリティ。ポン監督さすがです。2006.10 参考CINEMA:「グエムル」「殺人の追憶」
香港国際警察 NEW POLICE STORY
ベニー・チャン監督、ジャッキー・チェン、ニコラス・ツェー、ダニエル・ウー出演☆やり手警部のチャンは、銀行強盗と対峙した際、目の前で多くの部下を亡くしてしまう。以来、酒びたりの日々を過ごしていた。そこへ、若い警官シウホンが現れ、チャンに付きまとう。ジャッキーの痛快アクションが久々に見れる、と思ったら、痛快どころか、苦悩するジャッキーばかりが目に付いてしまった。コメディ・タッチのアクションこそがジャッキーの真骨頂なんだけどなあ。若手のニコラス、ダニエルはいい味だしてたけど、もうちょっと楽しい映画であってほしかった。残念!参考CINEMA:「神話」「ディバージェンス」
ボルベール VOLVER
ペドロ・アルモドバル監督、レビューはCINEMAの監督たち(P・アルモドバル)へ
ボラット
ラリー・チャールズ監督、サシャ・バロン・コーエン、ケン・ダヴィティアン出演☆カ〜ザフスタンからやって来た〜オオボケ野郎ボラットが、おバカやりながら、アメリカを横断するナンセンス・コメディ。
終始おふざけ、差別用語だらけ、お下品極まりない!
でも、ボラット、実はインテリ?って思わせるあたりは、モンティ・パイソンに似てなくもないか。と、思ったら、彼はイギリス人らしい。納得!
ユダヤ人に対する差別用語だらけだけど大丈夫なの?と心配してたら、サシャはユダヤ人なんだって〜。なるほどねえ。
自虐ネタ、とでもいうのでしょうか。
偏見だらけの人間の本質を、鋭くというか、ひたすらオバカに描いていたのがケッサクだった。
昨年のGG賞でも話題になっていた「ボラット」だが、こういう映画は、シーンと静まりかえった映画館で見るのはちょっときつい。
気の置けない友人たちと一緒に、酔っ払った状態で見ると、かなり楽しめると思います。
ユダヤ人ネタや下ネタよりも、マナー教室で失言しまくるボラットや、酔っ払い学生と意気投合するボラットが、一番、楽しめたかな。
自分はやっぱりベタな笑いが好きなんだ、と再確認したのでありました。2007.6
墨攻 A BATTLE OF WITS
ジェィコブ・チャン監督、酒見賢一原作、アンディ・ラウ、アン・ソンギ、ワン・チーウェン、ファン・ビンビン、ウー・チーロン、チェ・シウォン出演☆舞台は紀元前370年頃の中国大陸。大国・趙の攻撃を受けた梁の王は、非攻を信念とする集団・墨家に援軍を求める。しかし、やって来たのは革離という男ただ1人。
革離は、篭城して大軍の攻撃を塞き止める策をとり、見事に趙軍を撃退する。
しかし、王とその側近たちは、「革離は王族の地位を狙っている」と吹聴し、革離を城から追放する。そして数日後。趙の大軍が再び梁を攻め始める。
原作は10年前に出版された日本の劇画。原作では、もっといろいろ技のあるキャラが出てくるようだが、映画では革離が出ずっぱり。
もし、日本人の役者が日本語で演じてたら興ざめだったかもしれないけど、アジアのスター、アンディが主演だったので、そこそこ楽しく見られた。
ただ、前半は、小軍が頭を働かせて大軍を打ち負かすという、おきまりの展開に終始していたので、少々飽きてしまった。革離って「シェーン」みたいだわ、なんて思いながら、あまり集中できず。
しかし後半、革離が城を追い出されてからは見応えあり。革離の「嘆き」がクローズアップされ、戦うことのむなしさを全身で訴えかけていた。
この映画、前半は男性向き、後半は女性向きといえるでしょう。
アンディって背が低いけど、さすがにスクリーンで見ると映える。さすがスター。
今年は紀元前の戦国時代が舞台の映画が目白押し。「呉越同舟」「邯鄲の夢」などの格言が、この時代の逸話から作られているのも興味深い。「赤壁の戦」「三国志-龍の復活-」も楽しみです。2007.1
ボビー BOBBY
エミリオ・エステヴェス監督・出演、アンソニー・ホプキンス、デミ・ムーア、シャロン・ストーン、リンジー・ローハン、ウィリアム・H・メイシー、フレディ・ロドリゲス出演☆舞台は1968年6月5日、LAのアンバサダー・ホテル。ホテルのマネージャーは、人種差別発言をした部下をクビにする。一方、厨房では選挙権のないメキシカンたちが、忙しく働き、ネイル・サロンには、徴兵逃れのため偽装結婚しようとしている新婦が現れる…。
そして、パーティー会場には、大統領候補ロバート・ケネディがやって来る。
タイトルは「ボビー」ではあるが、映画の主役はあくまで、衝撃のその瞬間、ホテルにいた人たち。
ベトナム戦争、ラテン系の不法労働、人種差別撤廃運動、ヒッピーといった60年代アメリカの時代背景を踏まえながら、ホテルにいた人々のそれぞれの人生が語られていく典型的な群像劇である。
役者陣の華やかさのわりに、一人一人の個性が今ひとつ引き出されていなかったのが惜しい。人物の絡ませ方が単調で、登場の仕方も唐突…。などなど、突っ込みどころも多いし、数多く作られている群像ドラマ、たとえばアルトマン作品などと比べたら雲泥の差がある。
だが、「R・ケネディ暗殺」という悲劇的な大事件の裏には、流れ弾にあたった被害者たちがいて、そういう世の中から忘れられがちな市井の人たち個人個人に光をあてた、という点では、エステベス監督のセンスに敬服する。
俳優としては、名実ともに、父マーチン・シーンには及ばないけれど、監督として地道に活動を続けていくと、意外に大成するかも?
個人的には、厨房で働くホセを演じたフレディ・ロドリゲスに大注目。プエルトリコ出身だそうです。
&エステベス監督が、元恋人デミをビッチな妻役で器用したことにビックリ!エステベスは優しさだけがとり得の冴えない夫役だったけど、実生活でもデミの尻に敷かれてたのでしょうか?? エステベス監督とデミ・ムーアは、ウディ・アレンとD・キートンのように別れた後も友好関係にあるのでしょう。現夫アシュトンは、さすがにまったく絡みのないヒッピー役でしたけどね。2007.5
僕と未来とブエノスアイレス EL ABRAZO PARTIDO
ダニエル・ブルマン監督、ダニエル・エンドレール、アドリアーナ・アイゼンベルグ、ホルヘ・デリア出演☆ブエノスアイレスのユダヤ人が多く住む商店街にあるランジェリーショップで働く青年アリエルは、自分のルーツであるポーランドの国籍をとって欧州へ行こうとしていた。そんなある日、イスラエルで暮らしていた父が帰国。アリエルは、母と自分を捨てた父と、素直に向き合うことができない。
この陽気さは、ラテンの土地柄のせいか、それともユダヤ人コミュニティ独特のものなのか。みんなそれぞれ事情を抱えてそうなんだけど、荷物運び競争で盛り上がったりして楽しそう。外の世界を知りたいという若者特有の悩みも描かれていたし…。正直、すごく楽しめたわけじゃないけど、ウディ・アレンっぽい、というのはあたっているかも。ただ、御大と比べるのはまだまだ青いね。次回作に期待したい。 2006.11
ボブ・ディランの頭のなか MASKED AND ANONYMOUS
ラリー・チャールズ監督、ボブ・ディラン、ジェフ・ブリッジス、ペネロペ・クルス、ジョン・グッドマン、ジェシカ・ラング、ルーク・ウィルソン、アンジェラ・バセット出演☆舞台はとあるキューバっぽい国。音楽プロモーターが伝説のシンガー、ジャック・フェイトを担ぎ出すライブを画策。一方、ジャックは、国の支配者である父親が病床にあると知り、ひそかに父親を訪ねる。豪華キャストに驚いたけど、チーチ・マリンとエド・ハリスがどこにいたのかわからず。反体制運動の申し子として祭り上げられたボブ自身を揶揄している作品なんでしょうが、正直、何がいいたいのか伝わってこなかった。2006.4
亡国のイージス
阪本順治監督、福井晴敏原作、真田広之、寺尾聰、佐藤浩市、中井貴一、勝地涼ほか出演☆訓練航海中のイージス艦が対日工作員らに乗っ取られた。先任伍長の仙石は、政府の特殊任務につく部下とともに、船を守るため奔走する。
評判どおり退屈な映画だった。副長の息子が書いた論文のことや、なぜ中井貴一が息子に近づいたのかも解せない。おそらく原作は面白いのだろうが、映画では人間心理がほとんど描かれていなかった。阪本監督、どうしちゃったの?
唯一の救いは勝地涼。凛とした好青年で、今後が楽しみな役者だ。2006.8 参考CINEMA:「顔」「KT」「この世の外へ」「ぼくんち」