気まぐれCINEMAレビュー
BackNumber 中南米編

中南米映画のワンポイントレビューをまとめました。
2007年から2009年までブジラルで見た日本未公開作品や、
各国の映画祭で出会ったコアな中南米映画のレビューもあります。

国別、原題のアルファベット順に並べてあります。
満足度は★で、がっかり度は×で評価しました。
ラテン映画のデータベースとしてご活用下さい。

BackNumber CINE LATINO (2007年〜
ブラジル
【A】【B】【C】【D】【E】【F】【G】【H】【I】【J】【K】【L】【M】【N】 
【O】【P】【Q】【R】【S】【T】【U】【V】【W】【X】【Y】【Z】
アルゼンチンメキシコその他の中南米映画

BackNumber (2007年〜
【過去の年間BEST3】
2007年〜
【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】 【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】  【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】  【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 
【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】  【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】  【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】  【ヤ】【ユ】【ヨ】 
【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】 【ワ】【タイトル不明】
1999〜2005年
【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】  【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】  【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】  【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 
【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】  【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】  【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】  【ヤ】【ユ】【ヨ】 
【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】  【ワ】【タイトル不明】

タイトル
監督・出演
☆解説&感想 鑑賞日時

【ブラジル】
【a -b - c - d - e】

AC,AO ENTRE AMIGOS (98年)
Beto Brant監督、Leonardo Villar、Ze Carlos Machado、Caca Amaral、Carlos Meceni出演
☆ミゲル、エロイ、パウロ、オズワルドの4人は、70年代、反政府運動で逮捕され、ある男に拷問を受けた過去を持っていた。25年後、ミゲルはかつての仲間を招集。自分たちを拷問し、身重の恋人を殺した男への報復を持ちかける。
軍事政権時代を生きた人にとって、その後の人生をどう生きるか選択するのは個人の自由だが、それぞれが別の形で過去を背負っていることに違いはない。過去の恨みを引きずったまま生きてきた男も、辛い過去を忘れて安穏と生きている者も、過去に味わった傷は同じ。
自分たちを拷問した男を見つけたときの4人4様の表情は秀逸だ。中南米の多くの国が抱える負の遺産。苦しみを味わった人間は数知れない。
報復したいという男の気持ちも、「終わったことだ」と逃げる男の気持ちもよくわかる。
救われない結末には思わずため息がでたが、いまわしい過去を繰り返さないための、監督のメッセージなのだろう。この映画の前年に「クアトロ・ディアス」が作られているが、ブラント監督の油がのりきった時代なのだろう。「Ultima Parada 174」よりもはるかに見ごたえのある作品だった。2008.11

O ANO EM QUE MEUS PAIS SAIRAM DE FERIAS (2006年・ブラジル)
Cao Hamburger監督、Michel Joelsas、Germano Haiut、Paulo Autran、Simone Spoladore、Eduardo Moreira出演
☆サッカーのワールドカップがメキシコで開催された1970年。
ベロオリゾンテに住むサッカー好きの少年マウロは 両親に連れられ車でサンパウロへ向かう。
両親は「Wカップのブラジルの初戦には戻る」とだけ言い残し、マウロを祖父の元へ置き去りにする。が、その祖父は急死し、マウロは一人取り残されてしまう。
約束の日が過ぎても両親は戻って来ず、マウロは、ユダヤ人のシウモや、アパートの人々に助けられながら、けなげに生きていく。
そんな中、激しいコミュニスト狩りが始まり、シウモも連行されてしまう。
そしていよいよ、ワールドカップの決勝戦が始まった。
軍事政権下にあり、自由を奪われてはいても、みんなサッカーを楽しむことだけは忘れない。
草サッカーに興じ、TVでは、セレソンを応援する。
敬虔なユダヤ教信者も、コミュニストも、黒人も白人も、サッカーの応援のときは、心を一つにすることができる。
そんな「ブラジルらしさ」がよく表現されたヒューマン・ストーリーだった。
コミュニストの両親が突然いなくなり、見知らぬ人たちとの生活を余儀なくされた少年が、一人、ベッドの上で、ゴールキーパーの練習をするシーンでは、ついホロリとさせられた。
健気に生きる子供、軍事政権、ユダヤ教、そしてサッカー、と、内容が盛だくさんで、少々ドラマチックに描きすぎている感もあるが、それもまあ、ブラジルらしさ、なのでしょう。(なんといってもグローボTV制作ですし)
なにはともあれ、マウロを演じた子役、Michel JoelsasがMaravilhoso! イタズラ好きで勝気なんだけど、親がいない寂しさもうまく表現していた。
「ケーロ」「マチュカ」も子供が主役だったが、南米映画の子役って、みんな上手。
ただかわいいだけではなく、複雑な社会環境を背負った役なのでかなり難しいと思うのだが、演技夥多にならず、自然に演じているのがすごい。
子供が主役の南米映画とえいば、日本では「セントラル・ステーション」が有名だが、掘り出し物、まだまだたくさんありそうです。2007.10

Apenas O Fim  (That’s It)(08年・ブラジル)
Matheus Souza監督、Erika Mader, Gregorio Duviver出演
☆彼との別れを決意した若い女性は、彼との最後のデートを楽しむことにする。
セリフがほとんど理解できないので、会話中心のラブ・ストーリーは拷問のようだったが、会場は常に笑いが絶えなかったので、しゃれたセリフが多かったのでしょう。観客賞も受賞し、監督の挨拶でも、ブラボー!の、声がかかってました。女の子はキュートで、男の子もインテリ風。でも、ちょっとままごとっぽい恋愛してる感じ。いまどきの10代の恋愛なんて、そんなものかもね。個人的にはドロドロ、ボロボロになってそれでも嫌いになれず、引きずって引きずって別れる男女の物語のほうが好み。2008.9 RIO映画祭08にて

AMARELO MANGA (2002年・ブラジル) 
Claudio Assis監督、Matheus Nachtergaele、Chico Diaz、Jonas Bloch、Leona Cavalli、Dira Paes出演
☆ホテルtexaの息子でゲイのドゥンガは、肉解体業のカニバルに好意を持っていたが、彼には妻と愛人がいて、相手にしてもらえない。
 一方、バー・アベニーダでは、若くてきれいな女主人に、酔った男たちが毎晩のように言い寄っていた。
 じっとりと汗がにじむ熱帯の田舎町。酒と女に群がる人々の悲喜こもごものをアンニュイに描いている。
ヒステリックなバーの女将、死体愛好家のホテルの客、愛に執着するゲイのトゥンガ、そして、清純そうな顔して一番危ない女キカ。一筋縄ではいかない住人たちのけだるい1日。ひたすら激しくねちっこく汗臭い。
そんななかで暮らす、いかれた人たちに、なんともいえない魅力を感じた。
舞台セットの上からバーの様子やホテルの中を映すという風変りなカメラ―ワークも秀逸。
肉屋のカニバルがギドク映画の常連チョ・ジェヒョンに風貌が似ている、ということもあるが、全体的な雰囲気、人間の激しさ、一途さの描き方がギドク風でかなり気に入った。
インディペンデント映画として、かなり質の高い作品である。2003年のハバナ映画祭等で作品賞を受賞したのも納得の出来。Claudio Assis監督、これからも追いかけます。2007.10

AINDA ORANGOTANGOS
Gustavo Spolidoro監督、Kayode Silva、Pinto、Karina Kazue出演
☆ポルトアレグレの電車の中で日本人の女が突然死。連れの男は女を残し、町中の市場をさまよい歩く。男から時計を貰った少年は、バスの中でレズビアンのカップルに遭遇。バスを降りた女が向かったアパートでは、泥酔した年の差カップルがばか騒ぎ…。
ブラジルの中都市ポルトアレグレを舞台にしたパンク・テイストのオムニバス映画。ミラノ映画祭で大賞受賞、ということで、ニュースで話題になった作品だ。
日本人旅行者が突然死。アパートの一室のTVには、「ウルトラ・セブン」が流れる、という設定が、日本人としては興味深かった。ブラジルでは、予想以上に日本のサブカルチャーが浸透しているようで、この監督も日本の映像文化から何がしかの影響を受けたのだろう。
登場人物の行動がそろいもそろって超過激で連動性がないため、スピードについて行くのが大変だったが、若い監督ならではのポップ感は楽しめた。
もう少し私に語学力があればなあ。セリフも面白そうだっただけに、残念でした。
タイトルは、「まだ、オランウータン」という意味(たぶん)。‘進化しきれていない’切れやすい人間たちの姿はオランウータン以下かも? 2008.9

Anjos do Sol (2006年)
Rudi Lagemann監督、Fernanda Carvalho、Antonio Calloni、Otavio Augusto出演
☆北部の貧しい家で暮らす12歳のマリアは、人減らしのために娼婦として売られ、ジャングルの奥地に軟禁される。友人と逃亡を図るが、失敗。友人は、見せしめになぶり殺されてしまう。
貧しい家から娼館に売られる少女のお話は、昭和初期が舞台の映画の定番ストーリーだが、これは現代のブラジルの実話。リオやサンパウロといった大都会がある一方、今でも、満足に食べることもできず、子供を売りに出さざるを得ない貧しい地域も存在するのだ。
少女たちが男たちの性の道具にされる話でありながら、生々しいシーンはほとんどない。それでも、少女たちの悲しみや苦しみが、リアルに表現されていたことに感心した。
誰一人、手を差し伸べる人がいないという現実のなか、逃亡を決意するマリア。飼殺しされるよりも、わずかな可能性に賭けた彼女の行動力には頭が下がる。だが、彼女の決断が、即、明るい未来に続くわけではない。現実のきびしさにため息がでた。2007.11

ANTO^NIA (2006年)
Tata Amaral監督、Negra Li, Cindy Mendes, Leilah Moreno, Jacqueline Simao出演
☆サンパウロのファベーラに住む4人娘はヒップホップのコーラス・グループを組み、スターを夢見る毎日を送っていた。金持ちのパーティや、バーで歌う仕事が増えはじめ、仕事が軌道に乗りつつあった矢先、仲間割れや妊娠で二人が脱退。さらに、夜道で絡んできた少年を突き飛ばしたバーバラが、傷害で捕まってしまう。
 音楽グループの成功物語は数多く見てきたが、この映画の面白さは、彼女たちのバックグラウンドがファベーラ(スラム街))ということ。生き揚々と歌う彼女たちのステージも素敵だが、一番印象に残ったのは、仕事の帰り、ファベーラの坂道を4人が靴を履き替えて帰る姿。
あの急な階段は、ステージ用のピンヒールではキツイよなあ。
仕事ではスポットライトを浴びていても、家に帰れば、お腹を空かした子供や、仕事のない彼氏が待っている。そんなリアルな日常がストレートに描かれていて好感が持てた。
トロントや、ベルリンの映画祭にも出品された作品らしい。あまり期待してなかったが、かなりグレード高いです。女性監督のAmaral。今後の作品も要チェック。2007.9
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BUDAPESTE
Walter Carvalho監督、シコ・ブアルキ原作、Leonardo Medeiros出演
☆ゴーストライターという仕事に行き詰まりを感じ思い悩んだ男は、リオから東欧の町ブダペストを訪れ、新しい人生を生き始める。
よくある中年男の自分探し映画。ブダストとリオの町の雰囲気がまったく違うので、旅行気分は楽しめたのだが、ドラマとしては舞台や時系列が煩雑すぎて、セリフがよく理解できない私には何がなんだか、とっ散らかってよくわからなかった。
結局、ゴーストライターとしての小説家の苦悩は、小説の中のお話だった、というおさまり方をしたようだが…。
この映画、あの超一流アーチスト、シコ・ブアルキの小説が原作なため、話題にはなっているが、映画の出来は…。一人の男の視点からしか描いていなくて、リオの妻とブダペストの女は、血の通った女なの?て感じ。こういう中年男の独りよがりな妄想映画は正直苦手です。一人でサバサバ生きてみろよ、っていいたいけど、でもきっと、こういう妄想に近い願望を頭に描いて生きている殿方は多いのでしょう。2009.6

O Bandido da Luz Vermelha (1968年・ブラジル)
Rogerio Sganzerla監督、Paulo Villaca、Helena Ignez出演
☆ブラジル全土を震撼させた連続強盗犯、通称「赤い灯りの強盗」の犯罪の数々を、ドキュメンタリータッチで、シニカルに描いた作品。全編モノクロ映像でスタイリッシュ。
「俺は誰なんだ」という独白のもと、次々と、せつな的に犯罪を繰り返していく男は、凶悪犯でありながら、ポップスターのようでもある。
60年代のサンパウロの様子もでてきたのだが、今よりも洒落ていて魅力的。そんなサンパウロの姿も新鮮だった。台詞がわかれば、もっと楽しめただろうなあ。ちょっと残念。2008.3

Bodas de Papel (2008年・ブラジル)
Andre Sturm監督、Helena Ranaldi, Dario Grandinetti, Walmor Chagas出演
☆水彩画家のニーナとアルゼンチン人のミゲルは、サンパウロ郊外の小さな村で偶然出会い、恋に落ちる。二人は古いホテルで一緒に暮らし始め、幸せなひと時を過ごす。ある日、仕事でサンパウロに行ったミゲルからの連絡が途絶え…。
大人の男女が小さな村で出会い、お互いに惹かれあい、愛し合い、そして一緒に暮らし始め、突然の別れが訪れる…。
とてもシンプルな出会いと別れの物語。ありきたりではあるのだが、主演の二人がとても魅力的。二人の住む部屋や流れる音楽も洒落ていて、さらに二人を囲む村の人々もキュートなので、心地よさを感じた。
 アルゼンチン俳優Dario Grandinettiが、アルモドバルの名作「トーク・トゥー・ハー」とはまた違った温もりのある男を好演していた。
 二枚目ではないのだが、包容力がある、とでもいおうか。並んで歩きたくなるタイプ。頼れる背中を持った男優です。
そして、相手役のHelena Ranaldiはスタイル抜群なので、たぶんモデル出身でしょう。美しいボディに、ついみとれてしまいました。2008.5

Bem-Vindo a Sa~o Paulo (2007年)
フィリップ・ノイス、ミカ・カウリスマキ、アモス・ギタイ、ツァイ・ミンリャン、吉田喜重ほか監督、ナレーション;カエターノ・ベローゾ
☆世界の映画監督が、サンパウロの町の様子を独自の視点で切り取ったオムニバス・ドキュメンタリー。
高く上に伸びた長細いビル、車、人だらけのメイン・ストリート、ゴミだらけの横丁、落書きだらけの壁…。
リオのような華やかさはないが、確実に人が暮らす息遣いが感じられる大都会。それがサンパウロ。監督たちがどんな切り取り方をするのか興味津々だったが、いずれの監督もオーソドックスに、素直に感じたままを表現していた。
フィリップ・ノイスもカウリスマキもアモス・ギダイも、サンパウロの人ではなく、町の様子(建物や道など)に焦点をあてていたが、唯一吉田監督だけは、日系人ウエイトレスに岡田茉莉子が話を聞くインタビューだった。やはり日本人にとっては、サンパウロと言えば日系人、という思いが強いのでしょう。
この映画を見て「サンパウロに行ってみたい」と思う人が、はたして何人いるのか。
外から見て魅力的に映るかどうかは疑問だが、まあ、それが真実だから仕方ないのかも。ここは観光都市ではないし。
カエターノ・ベローゾが(たぶん)インディア語で詩を朗読するシーンが一番印象に残った。
犯罪多いし、奇麗とは言い難いけど、なかなかよいところですよ、サンパウロ。2007.9

BICHO DE SETE CABEC,A (2001年・ブラジル)
Lais Bodanzky監督、Rodrigo Santoro、Othon Bastos、Cassia Kiss出演
☆友達と集まって酒やマリファナに興じ、時には壁に落書きをする青年ネトは、ある日、過干渉の父から、精神病院に入れられてしまう。病院内で安定剤を飲まされ、骨抜きにされたネトは、隙を見て病院を抜け出すが、捕まって電気ショックにかけられる。
面会に来た母親へ苦しみを訴え、一度は退院したネトだったが、病院で受けた治療の後遺症で、日常生活に支障をきたすように。そしてまた、病院へ…。
イケメン俳優ロドリゴが、精神病院内でボロボロにされ、涙を流し、ヨダレをたらし…。それだけでも一見の価値がある。ブラジル版「カッコーの巣の上で」ではあるのだが、Jニコルソンの「シャイニング」顔とは180度違い、やさしい顔のロドリゴが主演なので、痛めつけられる姿が痛々しく、見ていて辛いものがあった。
過干渉の父親を演じたOthon Bastosの演技も秀逸。ちょっと無茶をした10代の青年を、すぐ精神病院へ放り込む、という父親は、「デスパレート・ワイヴス」のブリーのよう。親の気持ちもわからなくはないが、こういう潔癖症の親が、家庭内暴力や、引きこもりの子どもを生むんだよなあ。
放任過ぎてもダメだし、過保護すぎてもダメ。子育てって難しい。
精神病院での出来事だけでなく、家族の問題にもしっかりと目を向けている細やかさが女性監督らしい。地味だが良質の社会派映画である。
ちなみに、「BICHO DE SETE CABEC,A」とは直訳すると「7つの動物」だが、「大きな困難」という熟語だそうだ。また一つ、勉強になりました。2008.5

ブラインドネス BLINDNESS
フェルナンド・メイレレス監督、ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロ、ガエル・ガルシア・ベルナル、ダニー・グローヴァー、木村佳乃、 伊勢谷友介出演
☆大都会の雑踏で、車を運転中の日本人男性が、突然、目の異変を訴えた。「何も見えない」と、取り乱す男は、なんとか家までたどり着き、日本人の妻に連れられて眼科医の元へ。
だが、原因は不明のままだ。まもなく男を診察した医者、同じ病院に居合わせた患者達などが、次々と視力を失っていく。
この謎の感染症に世界はパニック状態となり、患者達は監獄のような収容所へ送られる。
唯一、視力を失わない眼科医の妻は、収容所の世話に追われる。
やがて、銃を持ったバーテンが収容所を支配するようになり…。
原因不明の感染症に襲われた人間達の不安感と、劣悪な収容所での極限状態の生活を生々しく描いている。
時代も都市もはっきりと示されず、出てくる人々も多国籍。
だが、撮影の多くがサンパウロで行われ、見憶えがある場所ということで、なんだか他人事とは思えない現実味があった。
感染症患者の収容所は、管理者の誰もいない刑務所のようで、垂れ流し状態。汚物の匂いが画面を通して漂ってきそうな勢いである。
食物の配給が停止したあとは、銃を持った男が、人々の金品を奪い、女たちに売春を強要するようになる。このあたりの極限状態の様子は「漂流教室」(漫画)を思い出した。
さすがは名作「シティ・オブ・ゴッド」を生んだメイレレス監督だ。劣悪な環境、無法地帯の描き方が秀逸だ。
ただし、人々のキャラはいま一つ魅力に欠けた感あり。老語り手(ダニー・グローバー)や、極悪人(GGベルナル)にもっとスポットを当てる、とかすれば、もっと楽しめたかも。
日本人夫婦(伊勢谷・木村)も演技が不自然で浮き気味だったし…(私が日本語がわかってしまうので仕方ないが)。
パニック映画なのか人間ドラマなのか曖昧な感じで評価し難いが、それでも、映画館を出る直前「もし、街中の人々が失明して、無法地帯になっていたら?」などと想像して、ちょっとだけ緊張した。

大都市サンパウロは、映画で映し出されたように、灰色の高層ビルと道路だらけのコンクリート・ジャングルである。一方で、ラストシーンに使われた美しい景観も併せ持っている。
殺伐とした街サンパウロの一角にある緑豊かな高級住宅街を横目に、私は、引ったくりに注意しながら、徒歩で移動する日々を送っている。 2008.9 参考CINEMA:「シティ・オブ・ゴッド」「DOMESTICAS」「ナイロビの蜂」、脇役たち(マーク・ラファロ)日本版DVD有り
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A Casa de Alice (2007年・ブラジル)
Chico Teixeira監督、Carla Ribas、Berta Zemel出演
☆小さな美容室のマニキュアリスト、アリスは、3人の怠惰な息子たち、年老いた母、そしてタクシー運転手の夫と暮している。日々の暮らしに倦怠気味のアリスに追い打ちをかけるように、夫と近所の若い娘の関係が発覚。アリスは、気を紛らわすため、美容室の客と一夜を共にする。
中年女の疲れ切った日常を丁寧に切り取っている。
客にマニキュアをするときの手、バスに揺られているときの手、洗たくするときの手…。日常生活で使われている手の描写がとくに印象的。シワシワで美しい手ではないが、アリスの生活に欠かせない手が、彼女の歴史を物語っているようだった。
ブラジル映画らしくない、といったら語弊があるかもしれないが、代わり映えのしない日常を淡々と映しながら、少しずつ変わっていく人間の心情が繊細に描かれていて、ホン・サンスやジャ・ジャンクー監督作品にテイストが似ていた。
中年女のいらだちを繊細に演じた女優Carla Ribasの演技が秀逸。ブラジルにはまだまだ知らない名優が大勢いるようだ。2008.3

Casa de Areia (2005年)
Andrucha Waddington監督、Fernanda Montenegro,Fernanda Torres,Seu Jorge,Luiz Melodia出演
☆1910年、ブラジルの北東マラニョンへの移住を決めた夫とともに、身重のマリアとその母は、砂丘を旅する。過酷な生活環境に悲鳴をあげ、仲間は逃げ、夫も事故死。マリアと母は、砂丘からの脱出を試みるが失敗し、10年が経つ。
母を亡くし、10歳の娘と二人きりになったマリアは、土地の男マスウに助けられながらなんとか生きてきたが、ある日、日食の調査団と遭遇。町へ連れて行って欲しい、と頼む。
まっ白い砂丘の中に浮かぶマラニョンのラグーンは、今でこそ観光スポットだが「住む」となると話は別。「砂の女」の岸田今日子を見ているようで、興味深かった。
モンテネグロとトーレスという実の母娘が、60年もの間、砂丘に閉じ込められた女の人生を年齢によって交互に演じているのが面白い。相手役にはセウ・ジョルジ、その老後がルイス・メロジアというミュージシャン・リレーも洒落ている。こういう閉塞的な映画は嫌いではないのだが、彼女たちの日常生活(どうやって食物を入手し、生き延びたのか)が、あまり描かれていなかった。厳しい自然環境に閉じ込められる息苦しさは、嫌というほど伝わってきたが、終始それだけだったのが、少々残念だった。2007.11

CAZUZA - O TEMPO NA~O PARA (2004年・ブラジル)
Walter Carvalho監督、Daniel de Oliveira、Marieta Severo出演☆80年代に一世を風靡したロックスターCAZUZAの青春時代から、エイズで亡くなるまでの日々を綴ったヒューマン・ドラマ。
リッチな家で育ちながらも、繊細で反抗的な歌を歌い、夭折したロックスター、といえば、日本では尾崎豊だろうか。細く長く生きるか、太く短く生きるのか。価値観は人それぞれだが、いつの時代もどこの国でも、太く短く生きた人は伝説になりやすい、ということ。映画的には、技もひねりもなく面白みに欠けたが、ストレートなプロテスト・ソングを歌っていた歌手なようだし、伝記も直球勝負というとでよしとしましょう。個人的には、CAZUZAの才能を見出し、最後まで彼を支えたZECAに興味あり。2007.11

ディス・イズ・ボサノバ COISA MAIS LINDA: HISTORIAS E CASOS DA BOSSA NOVA
パウロ・チアゴ監督、カルロス・リラ、ホベルト・メネスカル、ジョアン・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビン出演
☆リオで生まれたボサノバの歴史を、当時を知るミュージシャンが語っていくドキュメンタリー。サンバやジャズとの関係が興味深かった。奥の深いブラジル音楽。まだま知らないこともたくさんあるので、いろいろ聞きかじりしていきたい。2008.8 日本版DVD有り

オイ・ビシクレッタ O CAMINHO DAS NUVENS (2003年)
ヴィセンテ・アモリン監督、ヴァグネル・マウラ、クラウジア・アブレウ、ラヴィ・ラモス・ラセルダ出演
☆貧しい家族が、職を求めて、自転車でリオまで向かうファミリー・ドラマ。月1000レアル稼げる職でないと納得できない理想主義者の父親。その頑なな態度は、息子でなくてもイライラさせられたが、反面、ぶれない男はかっこよくも見える。貧しくても、南米大陸の大きさを肌で感じて生きる一家は、ある意味幸せなのかもしれない。
人の人生は、モノや金では測れないものですしね。実話らしいが、この一家、今どこで何してるのでしょうか。2008.8 日本版DVD有り

シティ・オブ・メン CIDADE DOS HOMENS (2007年・ブラジル)
Paulo Morelli監督、Darlan Cunha, Douglas Silva出演
☆リオのファベーラ(スラム街)に住む若者たちの血生臭い抗争を描き、日本でも話題になった「シティ・オブ・ゴッド」。その続編としてテレビ・シリーズ化され、大ヒットした「cidade dos homens」の映画版を観賞した。
 リオの海が見渡せるファベーラで暮らすアセロラは、貧しいながらも幼な子や恋人に囲まれ、若者らしい日常を送っていた。
 そんな中、ファベーラでは、新たなギャングの抗争が勃発。アセロラの親友ラランジャの彼女は、裏切り者の家族として髪を剃られ、街を追われてしまう。
 一方、父の死の真相を聞かされ、仕事も首になったアセロラは、自暴自棄になり、ギャングに促されるまま、銃を手にする。
 まだ、10代の少年たちが、銃をおもちゃのように扱い、あっさりと撃たれて死んでいく。それが日常になってしまっている暮らしは、何度見せられても「ため息」が出てしまう。
 美しいリオのビーチでサッカーを楽しむ姿は、普通の若者となんら変わりはないし、ファベーラを下れば、そこは美しいリゾートが続いているのに…。
 リオの海が見渡せる丘の上にあるファベーラは、「シティ〜」シリーズや「オルフェ」など、映画やTVの舞台として何度も取り上げられ、いまや、巨大なキリスト像と同じぐらいに有名な場所の一つとなっているようだ。
 まだ、リオに足を踏み入れていないので、実際はどんな様子なのかはTVで見ることだけしかできないが、ファベーラでの警官とギャングの撃ち合いは、ニュースの恒例映像として、毎日、拝ませていただいている。
 つまり、ファベーラを舞台にしたギャング間の抗争、ギャング対警官の銃撃戦は、映画の中だけの作り話ではなく、今もすぐそこで実際に行われている、ということ。
 そういう場所に、今、暮らしている私は、日本に住んでいる人からみれば、とても危険な状態にある、と思われても、仕方ないのかもしれない。
 そうはいっても、まだ、実感はない。
 実際に、銃撃戦に遭遇したことはないし、悪い奴から、銃をつきつけられたことも、今はまだ、ない。
 警ら中の警官が、銃を手に持ちながら、怪しそうな連中を尋問しているのを見たときも、はじめはビビッたが、何度か遭遇するうちに「またやってる」と、慣れてきてしまった。
 それを現地の人に話したら、「尋問された人が逃げたり、銃を持っていたら、銃撃戦になるから、近づかないほうがいいよ」と、注意されてしまった。
 そうなのだった。あの警官の持っている銃は、TVや映画で見ているニセモノではなく、本物の実弾が入った銃なのだ。
 「怖さ知らず」とは、こういうことを言うのだろう。
 私のような平和ボケ日本人を、どこから銃弾が飛んでくるかわからない場所で暮らしているファベーラの人たちは、どんな思いで見ているのだろうか。
超金持ち、中流層、外国人、ファベーラの人々…。
町の雰囲気は東京と大差ないのだが、住んでいる人の中には、確実に階級差が見える。それが、この国の姿。
日本にいたときには、画面の向こう側の話、として傍観していた非現実の世界が、隣の町で、現実に起こっているのだ。
そんなことを思いながら、前よりも少しだけ緊張感を持って、映画館を後にした。2007.10 日本版DVD有り

Ca~o Sem Dono (2007年)
Beto Brant監督、Julio Andrade、Luiz Carlos V. Coelho出演
☆1日のほとんどをベッドの上で過ごしているような、失業中の男の日常を淡々と追ったドキュメンタリー・タッチの映画。
フランス映画っぽい男女の営みとピロー・トークが多くて、正直、退屈だったが、飼っている犬がかわいかったのでよしとしましょう。雰囲気はあったし、セリフがわかればけっこう面白いのかも?残念ながら理解できず。タイトルの意味は「主人のいない犬」。自堕落な男より、犬のほうが主人っぽかったから、このタイトルには納得。2007.9

Cidade Baixa (2005年)
Sergio Machado監督、ラザロ・ハモス、ワグネル・マウラ、Alice Braga出演
☆船上生活を送るデコとナルジーニョは、一人の女を船に乗せ、サルバドールへ向かう。闘鶏場で腹を刺され、瀕死の重傷を負ったナルジーニョをデコと女が必死で介抱し、3人の間に絆が生まれる。だが、次第に女の虜になったデコとナルジーニョの間に、確執が生まれる。
 二人の男と一人の女。青春ドラマの定番である微妙な男女の三角関係を、サルバドールの町を舞台にアンニュイに描いた作品。
 3人がそれぞれ個性的で魅力があり、なんてことはないドラマなのだが引きつけられた。
一見、一人の娼婦がデコとナルジーニョを弄んでいるようにも見えるが、そこに同性愛的な結びつきを感じた。舞台になったサルバドールのじっとりとした湿気も画面から伝わってきて、雰囲気があった。サンパウロでは感じられないけだるさがotimo。2007.9

Chega de Saudade (2007年)
Lais Bodanzky監督、Leonardo Villar、Tonia Carrero、Cassia Kiss出演
☆サンパウロの老舗ダンスホールに集うのは、様々な人生を重ねてきたであろう老年にさしかかった男女たち。足をくじいてヘンクツになった夫に不満だらけの妻、腐れ縁の男友達が若い娘に夢中になる姿をみて嫉妬を覚える中年女。そして、誰かに誘われたくてうずうずしているその友達等々。ダンスホールという舞台には、人々の様々な感情が渦巻き…。
一幕ものの舞台風人間交錯劇。ダンス、そして恋愛。ブラジル人が好む二つの要素を織り込んだ大人のドラマに仕上がっていた。人間、いくつになっても恋していたいし、ドキドキしたいし、溌剌と人生を謳歌したいよね。でも、体は若い頃のようにいうことをきかず、もどかしい…。自分よりは上の世代のお話だが、気持ちは伝わってきた。唯一の若い女性が、ダンスの上手な中年男に、ちょとだけ恋心を抱く気持ちもよーくわかるし…。
派手さはないが、ちょっと枯れかかったラテン系の人々の揺れる思いが上手に表現されていた。2008.6

スエリーの青空 O CEU de SUELY (2006年・ブラジル)
Karim Ainouz監督、Hermila Guedes、Joao Miguel、Maria Menezes出演
☆21歳のエルミーラは、サンパウロで出産後、一人、赤ん坊を連れて故郷イグアツに戻ってくる。故郷で恋人の到着を待ちわびるが、彼からは連絡がない。失恋の痛手を癒すかのように昔の恋人ジョアンとよりを戻すが、心の隙間は埋まらない。
やがて、夜な夜な遊び歩くうちに、スエリーと名乗って男に体を売るようになる。しかし、小さな村ではすぐに噂になり、祖母から激しく叱責される。
 貧しい村の女性が生活に困り、やむにやまれず体を売り始める苦労話、と想像していたが、生活に困ってというよりは、恋人に裏切られ、やけっぱちで売春に手を出す現代女性の絶望と再生の物語だった。
スエリーを演じたHermila Guedesの体当たり演技にはアッパレだが、やさしいだけの元彼を演じたジョアン・ミゲル、気丈な祖母、そして何かと力になってくれる姉(?)のマリアが、それぞれ存在感あり。家族や友人がみんないい人だからこそ、自分の不甲斐なさに苛立ち、自棄を起こしてしまう。その気持ち分からなくはないけれど…。スエリーの田舎は貧村ではないし、綺麗なんだから美容師でも目指せばやり直せるのに、なぜ売春なのかなあ。などと、納得いかない面が多々あり。
スエリーは、生きていくための前向きな売春ではなく、自分を辱めることで過去を清算しようとしているように見えた。
 ただ「これが私の選んだ道」という達観したエンディングは気に入った。そういう女の人生もあるでしょう。2008.5

尻に憑かれた男 O CHEIRO DO RALO (2007年・ブラジル)
Heitor Dhalia監督、Selton Mello、Silvia Lourenc,o、Lourenc,o Mutarelli出演
☆アンティーク品の買い取り(質屋)を商売にしている冷血男は、ある軽食屋に毎日通っては、女給のお尻に、見入っている。彼は女のお尻フェチなのだ。一方、仕事場では、詰まった排水溝に執着しているうちに、悪臭をかいで快感を覚えるようになっていた。
ある日、年老いた男が持ち込んだ目玉の小物に魅せられた男は、それを高く買い取る。そして、次々と古道具を持ち込む客たちに見せ始める。
オタク的な質屋の主人と、そこにやってくる人々のやり取りを、コミカルかつシニカルに描いている。それぞれのキャラが個性的かつ変態チックで面白い。ノリとしては、スパイク・ジョーンズ作品に近い。ちなみに、ネタバレになるが、エンディングは「ガープの世界」だ!と気づいたらなんだか嬉しくなった。
主役のメロは「ジョニー〜」で不健康に太っていたが、こちらでは、すっきりとした体型。二枚目で一見紳士そうだが、実はド変態という役どころを熱演していた。
顔だけ役者かと思ったら、なかなかの演技派だ。今後も要注目。
こういうヒネた笑いが詰まった作品は大好きなのだが、ちょっと長すぎて、途中で飽きがきた。 質屋の客を半分に減らせばもっと楽しめた気がする。この手のコメディは90分がベストかな。2008.2 日本版DVDあり

CINEMA,ASPIRINAS E URUBUS (2005年・ブラジル) 
Marcelo Gomes監督、Karim Ainouz脚本、Joao Miguel,Peter Ketnath出演
☆1940年代、戦争に突入したドイツを離れ、ブラジルに渡ったドイツ人のジョアンは、薬の宣伝映画を各地で上映して、アスピリンを売り歩く仕事をしながら生計をたてていた。途中、北部の田舎町で乗り込んできた青年Ranulphoを相棒に、旅を続けるジョアンだったが、まもなくブラジルが連合軍に加わり、ドイツと戦争状態に入ったとの知らせが届く。
埃だらけのブラジルの荒地を延々と旅する二人の男。一人は二枚目のドイツ人、相棒は冴えない田舎者。最初は、ジョアンについて回るだけだったRanulphoが、旅を続けるうちに対等な関係になり、自分が歩む道を見つけ出す。どう転んでも、いい男はドイツ人ジョアンなのだが、時間が経つにつれて徐々に田舎者Ranulphoが、魅力的に見えてくるから不思議。ジョアン・ミゲル、「estomago」でも怪演していたが、うまい役者だ。
ストーリーはよくある話で、ロードムービーの定番スタイルなのだが、男がドイツ人で、戦争が嫌で逃げてきた、という設定に工夫が見られる。
ロードムービーに、余計な説明台詞は不要。
延々と続く広い大地の映像を、ただ眺めているだけで、いろんな感情があふれ出てくる。演出や演技力ももちろん大事だが、自然の魅力、とでもいおうか。人の悩みや苦しみを吸い込むパワーが、大地にはあるのだろう。
とても魅力的な映画だったので、大画面で見る機会があれば、ぜひ再見してみたい。2008.5

Contra Todos (2004年)
Roberto Moreira監督、Leona Cavalli、Silvia Lourenco、Ailton Graca、Giulio Lopes出演
☆一見すると普通の家族に見えるテオドロ一家。だが、信心深いテオドロは殺し屋であり、若い妻は肉屋の青年と浮気中。テオドロの連れ子のソーニャは、ドラッグとセックスに溺れている。ある日、妻の愛人が殺された。妻は、夫から逃げるように家を出る。一方、娘は若い母がいなくなったのをいいことに、家で父の相棒を誘惑する。
嘘で固められた家族の崩壊をハードに描いたバイオレンス映画。「アメリカン・ビューティー」のブラジル版。最後には、友人がちゃっかりすべてを手に入れてしまう、というシニカルなエンディングは私好みではあるのだが、もう少しひねった心理描写が欲しかった。設定は面白いのだが「揃いも揃って、しょうがないねえ」程度にしか思えなかったのが残念。2009.2
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OS 12 TRABALHOS (2006年・ブラジル)
Ricardo Elias監督、Sidney Santiago、Flavio Bauraqui、Vera Mancini出演
☆友人ジョナスの紹介でバイク便をはじめたエラクレスは、無理難題をいいつける客たちの対応に追われる。一方、サンパウロのバイクの運転には危険が伴うことに仲間たちは不安を隠せずにいた。
客から、猫の配達やタクシー代わりを頼まれるなど、いいように使われるバイク便のリアルな日常が描かれていた。
サンパウロではつい先日、バイク便のデモが行われたばかり。派手な映画ではないが、ドキュメンタリータッチで、リアルな社会問題にも目をむけているところに好感がもてた。友人役のFlavio Bauraquiは、あちこちの映画&TVに顔を出している黒人俳優。華はないけどいぶし銀的な存在感がある役者である。主演を演じたSidney Santiagoは、「CIGNO DA CIDADE」で、暴行にあうゲイを熱演していた。荒削りだけれど、これからが楽しみな俳優である。2008.2

OS DESAFINADOS (08年)
Walter Lima Jr.監督、Rodrigo Santoro, Claudia Abreu, Selton Mello出演
☆60年代、リオでボサノバ・バンドを結成した4人の若者は、憧れのニューヨークへ演奏旅行に出かける。 友人で映画監督を夢見るディコは、彼らの生活や演奏の様子をカメラに収め、いつか成功する日を夢見ている。ピアノ弾きでバンドのリーダー的存在のホアキンは、ニューヨークで知り合ったブラジル人と恋におち、彼女をボーカルに据える。が、まもなく、リオに残してきたホアキンの彼女が、リオで子供を出産するとの知らせが入る。
夢見るミュージシャンを描いた青春映画は、数え切れないほどあるが、これは「ボサノバ」というのがキーポイント。ブラジルならではの音楽、リオの景色が心地いい、定番の音楽ものだ。
とりたてて特徴はないし、イケメンのリーダーが、二人の女の間で苦悩するのも、よくあるパターンではあるのだが、ロドリゴはやっぱりかっこいいし、ほかの出演者もそれぞれに個性があって素敵なので(スター集めたので当たり前か)、彼らの顔を見てるだけでも楽しめた。
ただ、せっかくブラジルが舞台の映画なのだから、もっとリオでの物語を深く描いてほしかったなあ。ニューヨークでの話がどう考えても長すぎ。アパート内の話なんて5分でもよいのに。ロドリゴが彼女と仲良くするシーンも「もういいよ」って突っ込み入れたくなった。
その分、後半のドラマが走りすぎてしまい、物足りない気分にさせられた。
ネタ&役者はそろっているのだから、構成さえよければ、ヒット作になっただろうに…。
ロドリゴ・サントロのファンには、おいしい映画ではあるけれど、ちょっと残念な出来でした。2009.2

ドゥルヴァル・レコード Durval Discos (02年)
アンナ・ムイラエール監督、アリー・フランサ、エチー・フレイザー出演
☆サンパウロで時代遅れのレコード店を経営するドゥルヴァルは、年老いた母親のために住み込みの家政婦を雇うが、まもなく彼女が姿を消し、部屋には見知らぬ少女キキが残されていた。ドルヴァルは警察に届けようとするが、母親はキキ可愛さに妨害する。
 サンパウロの下町の雰囲気を懐かしく思いながら鑑賞した。時代遅れのレコード店主が、口うるさい母親と、わがままな少女に翻弄されるドタバタ劇で、音楽の話題がほとんどなかったのは期待外れだったが、騒々しいブラジルのお婆ちゃんのキャラはケッサクでした。2009.10

DOMESTICAS (2001年)
フェルナンド・メイレレス、ナンド・オリバル監督、Claudia Missura、Graziela Moretto、Lena Roque出演
☆主役はサンパウロでメイドとして働く5人の女性たち。黒人の若いメイドは、失敗ばかりで年中、勤め先を首になり、友人のメイドは自分はモデルになれると信じている。方やファベーラに住む中年のメイドは、怠け者の夫との関係にうんざりして、お調子者の運転手の誘いに乗ってしまう。
そんなメイドたちが乗り合わせたバスに、拳銃を持った強盗二人組が乗り込んできた。だが、強盗の一人がベテラン・メイドの甥っ子だとわかり…。
メイドたちそれぞれのキャラが個性的。さらにメイドたちと絡む強盗未遂の若者二人のマヌケぶりも愛嬌がある。メイレレスが「cidade dos deus」の1年前に制作した映画だが、シーンのつなぎ方も絶妙で、技あり!という感じ。
あんまり面白いので、翌日もリプレイして見たのだが、2度見ても新鮮に感じた。それだけよくこなれている、ということだろう。
犯罪や貧困ばかりが話題になりがちなブラジル映画だが、いわゆるブルーカラーの人々の、のほほんとした日常もブラジルの真の姿。多くのブラジル人は真面目で親切でちょっとマヌケで、憎めない。そんなブラジル人の良い部分がうまく表現されたブラジルらしい映画です。2008.6.7

DOIS CORREGOS - Verdades Submersas no Tempo (1999年・ブラジル)
Carlos Reichenbach監督、Carlos Alberto Riccelli、Ingra Liberato出演
☆1960年代。湖のほとりの別荘で暮らす叔父のもとへ、都会から若い姪2人が訪れる。二人は、コミュニストの叔父が気になり…。一方、叔父とともに暮らす従姉テレーザは、恋人との間でトラブルを抱えていた。
過去のある叔父と3人の若い娘。微妙な4人の関係をアンニュイに描いたフランス・チックな映画。だけど、なんだか中途半端でやぼったい。本家のフランス映画にはかなわない、という感じ。正直、苦手な部類の映画だが、テレーザ役の女優は小悪魔的で色気あり。どこかで見た顔と思ったら、「Valsa Para Bruno Stein」で、義理の父を誘惑する嫁役のIngra Liberatoでした。若い時から小悪魔役がはまってる。苦手なタイプだが、男からみると魅力があるのでしょう。 2008.2
Dois Perdidos Numa Noite Suja (2002年・ブラジル)
Jose Joffily監督、Roberto Bomtempo、Debora Falabella出演
☆NYで清掃員として働くブラジル移民のトーニョは、男装した娼婦・パコを助けたことをきっかけに、一緒に暮らしはじめる。故郷の母に嘘だらけの手紙を書くトーニョに、パコは冷たくあたる。美人局に失敗し、留置所に入れられたトーニョは、アメリカを去ることを決意するが…。都会の底辺で暮らす移民の生活をリアルに描いている。パコを演じたDeboraは、小柄でキュートな顔してるんだけど、ワイルドに見せようとがんばっていた。でもやっぱり、情けない男トーニョを演じたRobertoの演技が秀逸。ほとんど二人芝居なので、よくも悪くも役者の演技力にかかってくるのだが、まったく飽きさせない。表情、風貌、すべてが自然。それでいてなぜか引きつけられる。Roberto Bomtempoはノベーラによく出ているようだが、今後も要チェックの演技派俳優だ。日本では残念ながら未公開 2008.1

未亡人ドナ・フロールの理想的再婚生活 Dona Flor e Seus Dois Maridos (1976年・ブラジル)
Bruno Barreto監督、Jorge Amado原作、Sonia Braga、Jose Wilker、Mauro Mendonca出演
☆バイーアに住むフロールは、女たらしの道楽男ヴァヂーニョと結婚。遊び歩いて家に寄り付かない夫へ不満を持ちながらも、楽しく暮らしていた。
ところが、カーニバルの日、その夫が急死した。フロールは、ヴァヂーニョと暮らした日々を思い出しながらも、夫と正反対の生真面目なドクターと再婚する。
几帳面で面白みのないドクターとの結婚生活は、それなりに安泰だったが、ある日、ヴァヂーニョの幽霊が現れ…。
元伴侶の幽霊が出現し、夫婦生活をかき乱す、というストーリーは、どこにでもあるコメディの定番だが、この映画の一番の魅力は、ブラジル人らしい元夫ヴァヂーニョの底抜けの明るさ。酒とギャンブルと女に目がない遊び人の気質のヴァヂーニョは、夫にしたら苦労が多いタイプではあるが、なんとも憎めない魅力がある。
フロールは、遊び人の前夫に懲りて、正反対の男と再婚するのだが、やはりそこはバイーア女。クソ真面目な男には満足できず、心のどこかでは、快楽を求めているのだ。
サリー・フィールド、ジェームズ・カーンの「キスミー・グッバイ」は、この映画のリメイクということを、見た後で知ったが、設定ばずい分と違う。
片やニューヨークのショウビズ界という、いわゆる洗練された大人の社会。
こちらは、強い日差しが照りつけるバイーアの、陽気でゆるーい社会である。
フロールは、前夫の幽霊の出現に戸惑っているような素振りも見せるが、サリー・フィールドよりも揺れてはいないし、今の夫に対する後ろめたさも感じられない。
その辺が、バイーアらしい。良くいえばおおらか、悪く言えば、適当、いい加減。
日本の映画やドラマなら、妻は、多少退屈でも、そこそこ平穏な暮らしを選ぶだろうが、バイーア女は快楽主義なので、そんな野暮なことはいわない。
このまま幸せに3人で暮らしたっていいじゃない、という訳だ。
全裸の幽霊ヴァヂーニョと、生真面目なドクターを両脇に、バイーアの石畳を歩きながら、遠ざかっていくエンディングは秀逸だ。
ブラジル東北部らしい照りつける太陽、怠惰な雰囲気、そしていい加減な気質が絶妙にミックスされた、おススメのブラジル映画です。
もう一言;
このエンディング、何かに似ている、と思ったらキム・ギドクの「うつせみ」でした。元さやに納まるのが、必ずしも幸せではないってことですね。
主演のソニア・ブラガは、現在、アメリカに拠点を移し、[sex and the city]や[CSI]にゲスト出演しています。秀作「蜘蛛女のキス」の蜘蛛女役も彼女だったそうで。2008.3

アントニオ・ダス・モルテス (1969年) O DRAGAO DA MALDADE CONTRA O SANTO GUERREIRO
グラウベル・ローシャ監督、マウリシオ・ド・ヴァーレ出演
☆☆40年前、カンヌで監督賞を受賞した伝説的映画「アントニオ・ダス・モルテス」がリバイバル上映されているので、恐る恐る見に行くことにした。果たして、40年前に作られたCINEMA NOVOの代表作を、ポルトガル語がほとんどわからない私に理解できるだろうか…。
平日の夜の映画館には、若いカップルと、インテリ風の男性。そして私の4人だけ…。
いやな予感…。拷問のような2時間になるかも…。
☆舞台はブラジルのノルデスチにある貧しい村。支配者に山賊退治を依頼された殺し屋アントニオは、村人の悲しい叫びを耳にし…。ストーリーは、説明不可能(というか不要)の観念的映画。
貧しい労働者たちの、叫びにも聞こえる歌と踊りが続くなか、殺し屋アントニオがひたすら苦悩する。
正直、よくわからない映画ではあるが、神がかった音楽が印象的で、何かに取り付かれている気分になった。異色の観念的ミュージカル、と言ってもいいかも。
村人の歌とは対照的に、支配者側の男女が宝石を弄びながら「Carinhoso」(優しさ、ぬくもり、というような意味)を歌うシーンは、皮肉たっぷりで興味深かった。
1969年といえば軍事政権の最中。ブラジルにとっては締め付けの多い時代に作られた映画なので、社会体制批判の思いも込められているのだろう。
支配者を成敗して下克上の世になっても、そいつらがまた暴利をむさぼる。平和はいったい、いつになったら訪れるのだろう…。
そんな台詞があったかどうかは、理解できなかったが、そんな思いが込められている映画、と感じた(あくまで予想)。
公開当時は、ゴダールも絶賛し、押井守も影響されたとかしないとか。この映画、日本のサイトでビデオが9000円もしてました。びっくりのプレミアです。
2008.6

黒い神と白い悪魔 DEUS E O DIABO NA TERRA DE SOL (1964年)
グラウベル・ローシャ監督、 ジェラルド・デル・レイ、オトン・バストス、イオナ・マガリャンエス出演
☆権力者を殺害した農夫はある神父のもとに身を寄せるが、乳飲み子をいけにえにされた妻が神父に襲いかかる。二人は、山賊カンガゼイロに加わり、富裕層を襲おう強盗となる。
ざっと説明するとこうなるのだが、こんな説明は無意味。
余計なセリフを排除し、虐げられた人々の苦しみの表情をひたすら追いかける難解で哲学的なアート映画。 カンガゼイロのリーダーが、チェ・ゲバラの容姿にそっくりだったのは偶然ではないはず。貧しいもののために立ち上がり、体制側がら派遣された殺し屋アントニオに殺される彼の姿とチェがだぶってみえた。音楽がMUITOBOM !! 2009.4

DESERTO FELIZ  (2007年)
Paulo Caldas監督、Peter Ketnath出演
☆北部の田舎町に住む14歳の少女ジェシカは、父親に性的虐待を受ける日々に嫌気がさし、レシフェへ家出する。娼館で暮らすようになったジェシカはドイツからきた観光客に恋心を抱く。
14歳の少女の理想と悲しい現実を淡々と描いた作品。野蛮な父親と無関心な母親の元から逃げ出したものの、売春婦として働くことしか術がない少女が、客の一人、ドイツからきた若者との幸せな日々を想像する。
主演を演じた少女は魅力的だし、ブラジルの田舎の土臭い風景、レシフェの美しい海岸、そしてドイツの雪景色、それぞれ美しく描かれていたのだが、フラッシュバックの使い方に少々難あり。想像シーンが現実なのかどうか、わざとあやふやに描いているのだろうが、少女と青年のドイツでの生活は誰がどうみても飛躍しすぎ。始めから少女の想像、と分からせたほうが見やすかった気がする。この映画にもジョアン・ミゲルが出演。どうってことない役だったが存在感あり。せっかくジョアン使ったんだから、もっとドラマに絡ませてほしかった。
07年グラマード映画祭で監督賞受賞とのことだが…。次回作も見てみたい、と思わせるのでよしとしましょう。2008.12

DEUS E BRASILEIRO (2003年・ブラジル)
Carlos Diegues監督、Antonio Fagundes、Wagner Moura、Paloma Duarte出演
☆ノルデスチの海辺の村で怠惰な生活を送るtauraは、ある日、神と名乗る男と出会い、神の代役を探す旅に同行することに。人間に失望し、仕事に疲れた神様と、いい加減男の珍道中。途中、自暴自棄になった若い娘も加わり、チラリと神様とのロマンスもあったりして、粋なコメディに仕上がっている。
とても神様には見えない強面役者アントニオのとぼけた感じがotimo! Wagnerのバカっぷりも堂に入っているし、ドラマ「luz do sol」の主演女優Palomaもドラマとは違った屈折した小娘役を好演していた。神様の休暇のお話でもあるし、肩の力を抜き、ソファに寝ころびながら見るのにもってこいのファンタジック・コメディ。ヤシの木と海しかない海の景色が最高にステキでした。2007.11

A DONA DA HISTORIA (2004年)
Daniel Filho監督、Marieta Severo、Debora Falabella、Antonio Fagundes、Rodrigo Santoro出演
☆50才を過ぎた主婦のカロリーナは、ある晩、スターとなったかつての友人の姿をTVで見て、懐かしい20代のころを思い出す。
ショービズ界に憧れていた当時のカロリーナは、学生運動家のルイスと知り合い、恋に落ち、結婚したのだが、そんな自分の30年間をむなしく感じ始め、夫と口論になってしまう。
 何不自由なく暮らしている主婦が、夫との結婚や自分の半生に疑問を持ち、「もし、あそこで○○していたら」と、過去の選択をあれこれ想像していく、よくあるパターンのヒューマン・コメディ。
 年配のカロリーナと若いころのカロリーナは違和感ないのだが、夫が違いすぎ。甘ーいマスクのホドリゴが強面のアントニオには、どう転んでもならないだろー!って、つっこみいれたくなった。 Antonio Fagundesはいい役者だとは思うが、少しは配役考えてほしいわ。その違和感が最後まで気になって、まったく話に入り込めず。残念。2007.10
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ESTOMAGO (2008年・ブラジル) ★★ 
Marcos Jorge監督、Joao Miguel、Fabiula Nascimento、Babu Santana出演
☆田舎からサンパウロにやってきた男ノナートは、腹をすかして場末の食堂で無銭飲食。店長から代金を払う代わりに店の鍋を洗って行くよう命じられる。
ひょんなことからその店で料理まで任されることになり、パステウの作り方を一から教わることに。
ノナートには天性の味覚が備わっていたことから、場末の食堂は大繁盛。
やがて、ノナートはイタリア料理店の店長に見出され、人気の料理人になっていく。
 一方、料理人への出世物語と並行して描かれるのは、刑務所にいる同じ男ノナート。
入所当時は、荒くれ者からいじめられ、部屋の隅で寝ていたノナートだったが、まもなく料理の腕を買われ、部屋のボスからベッドを与えられるようになる。

ださくて冴えない田舎者だが、味覚だけは天才的なノナート。彼は、パステウの作り方やチーズの種類を学びながら、徐々に料理人として頭角を現していく。ここまでは、よくある料理人の出世ドラマ。
でも、この映画は、ちょっとひねりがある。ノナートには秘密があり、何やら危険なにおいすら感じる。おいしい物に目がない娼婦イリアを幸運の女神と思い慕い続けるのだが、イリアにとっては、おいしい料理を作ってくれる都合のいい客でしかない。でも、純真なノナートにとって、彼女は最愛の人…。
刑務所内と、外。二つの場面が、絶妙なタイミングで構成されていて、クライマックスへといっきに突き進む。
高級料理を作っているわけではないのだが、料理と食材の映し方がウマい!ただ、玉ねぎとニンニクを切るシーンを見ただけで、むしょうに食欲をそそられた。ただし、刑務所での料理シーンでは、アリを入れたり、ウジが入っているなど、グロかったですが。この映画をみて食欲をなくすか、食欲がそそられるかは人によって違うだろうが、映画を面白いと感じた人は、おそらく美味しいものが食べたくなるはず。
ノナートの飄々とした風貌は笑いを誘い、デブの娼婦の体つきも愛嬌がある。そして、刑務所内の人間たちもそれぞれが個性的。
どこを切りとってもそれぞれにシニカルな笑いが詰まっていて、とても美味。
そして、主役を演じたJoao Miguelがマラビリョーゾ!
「Mutum」の暴力父親役もやっていたようだが、まるで別人だ。うまい役者をまたもや発見!
怯えた顔の裏に狂気を隠した危ない料理人を、リアルに演じていた。
そして娼婦役のFabiula Nascimentoと、刑務所のボスBabu Santana役も存在感十分。
この映画、あまり評判になってないようだが、かなり質が高いし、今年のブラジルの賞レースに、演技や脚本で絡んでくることが予想できる。
料理人の映画といえばグリナウェイの「コックと泥棒〜」や、「パペットの晩餐会」「赤い薔薇ソースの伝説」といった秀作があるが、この映画は、料理映画でもありブラック・コメディでもあり…。
「コック〜」を面白いと思えた人なら、きっと楽しめるはず。グロいと感じるか、美味と感じるか。
私には、大変、美味でした!2008.4
A ERVA DO RATO
Julio Bressane、Rosa Dias監督、Selton Mello、Alessandra Negrini出演
☆作家Machado de Assisの小説の映画化。ネズミに取りつかれた妻とその夫の奇妙な生活を描いたアート系作品。アンニュイな雰囲気の映像は興味深かったが、展開が演劇風で途中で飽きてしまった。最後まで見るのは正直苦痛だったが、終わってみれば、嫌いじゃない世界。セルトン・メロってどうしてこんなに変態役が似合ってしまうのだろう。素顔は地味なお兄さんなのに。きっとそこが彼の魅力なのでしょう。コメディからアート系、変態ものまでこなすセルトンには脱帽です。2009.7

Era Uma Vez... (2008年・ブラジル)
Breno Silveira監督、Thiago Martins、Vitoria Frate出演
☆イパネマ海岸でカショーホ・ケンチ(ホットドッグ)を売るデは、海沿いの高級アパートに住むニーナと恋仲になる。出所したばかりの兄からも祝福され、幸せな日々を送る二人だったが、まもなく、兄がファベーラの犯罪組織を仕切るようになり…。死と隣り合わせに暮らす青年と、金持ちだが孤独な娘。二人が出会い、恋に落ち、でも周囲は黙っちゃいず…。フジテレビの昼ドラのような、ありきたりの悲恋物語。銃を持った男たちと警察がウロウロしているファベーラから、夜中に最愛の彼女を一人で帰すなんて、ありえないでしょー、などなど、突込みどころ満載だが、安易な設定は、ブラジルのノベーラ(ドラマ)のパターンでもあるので仕方ないか。そうは言っても、主演のチアゴ君が、かっこよかったので、クライマックスではちょっと涙してしまいました。映画館で見る価値は…??ですが、半額デイだったので許しましょう。2008.8 このページのTopへ* homeへ

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A FESTA DA MENINA MORTA  (ブラジル・08年) 
Matheus Nachtergaele監督、Jackson Antunes、Daniel de Oliveira、Paulo Jose出演
☆アマゾンの山奥の村に住むサンチーニョは、村人の厄を落とす聖人として崇められていた。だが、一方で、エキセントリックな言動で家族を怒鳴り付け、父親と愛し合う日々を送っている。
フェスタの日がやってきた。村人たちは、青い服を着て祭りを祝うが、サンチーニョの前に、自殺した母親の亡霊が現れる。
アマゾンの村人たちのリアルな生活に、サンチーニョというリアルではない異端者を配置し、寓話調に仕上げた意欲作。牛や鳥の生生しい解体シーンなど、少々どぎつい場面もあったが、それもアマゾンの暮らしになくてはならないイベントの一つなのだろう。エキセントリックなゲイの男を演じたDaniel de OliveiraがGOOD。「CAZUZA」のときとはまた違った気の入った演技に引き込まれた。&強い日差しとじっとりと重い体感を感じさせる光の使い方がすばらしい。壁の隙間から入る自然光を使った家の中のシーン、青白い月明かりを生かした官能的なシーン等々、美しい映像に魅せられた。マテウスは監督デビュー作ということだが、貫禄すら感じさせる完成度の高さ。多彩なアーチストです。2008.10

Feliz Natal
Selton Mello監督、Leonardo Medeiros,Darlene Gloria,Paulo Guarnieri出演
☆中年男カイオは、クリスマスの日、家族の集まるパティーへ訪れる。かわいい甥っ子たち、陽気な男たちが集い、一見幸せそうにみえる家族だが、それぞれに問題を抱えていた…。
トラウマを抱えた男とその家族の物語。アンニュイなノリとクリスマスの華やかな飾りつけのアンバランスさが、個々の気持ちの不安感を表してる感じがいい。
ただ、ほとんど家族の家の中だけの話で終始しまっているので、彼らの抱えるトラウマもすべて、セリフで説明されるため、ポ語の苦手な私には、理解するのにかなり難しい映画だった。監督は、人気俳優でもあるのだが、演じてる役からは想像もつかないほど、重たい内容。
メロ一家は俳優一家として有名だが、彼の家族も同じような問題抱えてるの?、と余計な詮索をしてしまった。2008.11

GARAPA  (09年)
ジョゼ・パジーリャ監督
☆東北部で暮らす貧しい3家族の日常にスポットをあて、子供たちの悲惨な状況を訴えるドキュメンタリー。
草も生えないような厳しい自然環境の中、裸の子供をロバに乗せ、水たまりにドロ水を汲みに行く父親。
かわいくて無邪気な3人の娘を持ちながら、バーに入り浸り酒ばかり飲んでいる父親。
生まれたばかりの子供におっぱいをあげながら、涙する母親…。
子どもたちは、貧しくとも、ときおり無邪気でかわいい笑顔を見せるのだが、常に飢えた状態にある。
彼らの姿と、今、暮らしているサンパウロの生活があまりに違いすぎ、この家族は、本当に現代のこの発展したブラジルに存在しているのだろうか、と疑いたくなるほどだった。
でも、撮影が行われたセアラ州に、彼らは実在しているわけだし…。
なんともやりきれない映画だった。
延々と3家族の日常を写すだけなので、2時間は少々長く感じたが、それだけに監督のこだわりが伝わってきた。
作物ができそうな土地に移り、野菜作って自給自足すれば何とかなるんじゃないの?とか、
子供がかわいそうだから、里子にだせばいいのに、なんて余計な口出ししたくなったが、こういう問題は、どうやったら解決できるのか…。
親を教育することが先決なのかもしれません。
パジーリャ監督はエンタメ作品「Tropa de erite」で一躍、ブラジル映画界のトップ監督に踊りでたけど、もともとドキュメンタリーから出た人だし、社会問題に対して鋭い視点を持っているし、今後もきっといい作品を生み出してくれるでしょう。
試写のあとには監督も来場し、いろいろと話してくださいました(ほとんど理解できなかったですが)。バジーリャ監督の作品を作っているプロダクションはザゼン・プロダクション、という名前で、ロゴマークも坐禅を組んでいます。日本文化がこんなところにも使われていてちょっとうれしくなりました。2009.5

GAMBARE (2005年・ブラジル)
Jose Carlos Lage監督
☆サンパウロの日本人街リベルダージで暮らす人々の様子を追ったドキュメンタリー。長年、サンパウロで暮らしている老人へのインタビューが中心だったので、残念ながらセリフがほとんどわからず…。
監督との座談会もあったのだが、オタク的ではなくTVのディレクターっぽい小奇麗な監督だったのに驚き。客もオタクよりインテリ層が多かったし。
日本、そして日系人に興味のある人は、変わり者しかいないのかと思ったら、意外に普通なようです。日本人は会場に私一人。友人が、「日本人だよ」と紹介してくれたのですが、ちょっと照れくさかったです。2008.2

GAIJIN - OS CAMINHOS DA LIBERDADE (1980年・ブラジル)
Tizuka Yamasaki監督、塚本京子、河原崎次郎、Antonio Fagundes出演
☆日本人がブラジルへ移住を始めてから100年が過ぎようとしている。飛行機を使っても24時間もかかる遥か彼方の国ブラジル。世界が近くなった現代でさえ、ブラジルへ来ることは一大決心だし、年中帰れる距離でもない。時間もお金もかかることだし…。
そんな遠い国から、100年も昔、知り合いもいない、言葉もわからない地の果てへ、船で何日もかかってやってきた日本人がいたということは、それだけで「驚異」。
当時の日本とブラジルの距離感は、今の日本と、宇宙ステーションの距離に相当するのかもしれない。
たとえば、土地に根をはり、土地を守って生きていくのが一番と考え、生まれた場所で家族を増やし、財産を増やしていくタイプの人を農耕民族と呼ぶのなら、日本を離れブラジルに渡った日本人は騎馬民族、といえるかもしれない。
どちらの生き方を選ぶかは人それぞれ。失敗するか成功するか、それは誰にもわからない。
そんな移民たちのドラマを日系人女性監督ヤマザキ・チヅカが作った「GAIJIN」を先日、見ることができた。
残念ながらDVD化されていないので日本では見ることができないが、日本人俳優やブラジル人のスター俳優を使った質の高い作品だった。
北海道開拓者、ハワイ開拓者など、移民の苦労話を描いた映画やドラマは、飽きるほど見てきたが、この「GAIJIN」は、視点が日本人の苦労話だけに終わっていないところに好感が持てる。
日本人よりも前に入植したイタリア人や、農場で働く中間管理職のブラジル人の視点からも描かれ、文句も言わず働く日本人を礼賛するような描き方はしていない。
不幸にも病気になった人々、逃げかえる人々、反発して土地を追われる人々などなど、移民後、いろいろな形で、この地にとどまり、ブラジル人として生きてきた人々。それは日本人だけには限らない。そういう移民たちの歴史は、やはり忘れてはならないし、何らかの形で残していくことが大切なのだろう。
ただし、実際に今、ブラジルで生きている多くの若者は、自分の祖先の苦労話にはあまり興味がないように思える。昔よりも今、そしてこれからの人生のほうが大切。
ごもっともである。
それでも、知らないよりは知っていたほうがいいと思うし、知るべきだと思う。
友人の若いブラジル人は、ポルトガル人とインディオ(原住民)のハーフの母と、イタリア人とインディオ(原住民)のハーフの父の間に生まれたが、インディオの血を引いていることに誇りをもっているし、インディオの言葉や文化についてもよく勉強している。
自分のルーツを知り、誇りを持つ、ということは、限られた文化や社会に固執し、その中だけで生きていく、ということとイコールではない。外の社会や文化を受け入れながらも、心の根の部分で自分のルーツを感じること。それが誇り、というのではないか。
単民族国家・日本で生まれ育ったので、今まで、自分のルーツについて強く意識したことはなかったが、多民族の国で暮らしていると、自分が日本人であるということを、嫌でも意識せざるを得ない。他国の人は日本人をどう思っているのか、また、どう違うのか等々、興味は尽きない。
移民100周年の盛り上がりに便乗し、良さも悪さもひっくるめて「日本人」であることについて、改めて考えてみようと思う。2008.1

Gaijin2 Ama-me Como Sou (2005年)
Tizuka Yamasaki監督、タムリン・トミタ、Jorge Perugorria、Aya Ono出演
☆移民船でブラジルへ渡ってきたチトエは、夫の死後、叔父たちとともにパラナ州ロンドリーナのアサイへ移り住む。
まもなく第二次戦争が始まり、ブラジル人たちは、敵国民となった日本人を厳しく取り締まる。
さらに敗戦後には、日本人同士が殺しあう事件が勃発。チトエの娘婿も犠牲となってしまう。
 ブラジルに渡った日本人の戦中戦後、そして現代にいたるまでの波乱の歴史を、ドラマチックに描いた大河ドラマ。
ブラジルと日本の社会の変遷がわかりやすく描かれているので、日系移民史を知らない人にも理解しやすいだろう。
時代に翻弄されながらも、機転をきかせ生き延びてきたチトエの生きざまに、ほれぼれした。これぞ昭和の日本女!「ニッポン昆虫記」にも負けないたくましさである。
老後のチトエを演じたお婆ちゃんは、素人の日系人で、今もご健在とのことだが、その存在感には感心させられた。
子供や孫には苦労話や説教など一切しないのだが、いるだけで励みになるファミリーの核。
孫の家族が出稼ぎにいき、阪神大震災で生き別れになり…、といったドラマチックなエピソードは、余計な感じがしたが、そんなうそっぽさも、お婆ちゃんの自然な演技と存在感がかき消してくれた。
お婆ちゃんを演じたあやさんに、機会があったらぜひお会いしてみたい。2008.8
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A HORA DA ESTRELA (1985年・ブラジル)
Suzana Amaral監督、Marcelia Cartaxo、Jose Dumont、Tamara Taxman、Fernanda Montenegro出演
☆うぶな田舎娘がリオに出で、タイピストとして働きはじめる。はじめての地下鉄、はじめての化粧、そして、はじめての恋。さまざまな経験を経て、大人になっていく。
田舎娘の夢と希望を描いている前半はいい感じだったのだが、占い師が出てきたあたりから、なんだか話が不思議な方向に進んでしまい…。少々苦手なストーリー。田舎娘の末路に、なんの希望も感じられなかった。2007.11

O HOMEM QUE COPIAVA (2003年・ブラジル) 
Jorge Furtado監督、Lazaro Ramos、Leandra Leal、Luana Piovani、Pedro Cardoso出演
☆ポルトアレグレにある小さな店で、コピーオペレーターとして働くアンドレの唯一の楽しみは、4コマ漫画描きと、近所の女の子の部屋を双眼鏡で覗くこと。
下着ショップで働く彼女、シルビアと親しくなるためには金が必要、と思ったアンドレは、コピー機で50へアイスの偽札を作ることを思いつく。
 毎日毎日、コピーを取るだけの仕事にうんざりしている男の日常を面白おかしく描いたシニカル・コメディ。
 アンドレの描く4コマ漫画も面白いし、ラザロ・ハモスのすっとボケた顔も笑える。彼をとりまく連中、同じショップで働くイケイケねえちゃんと古道具屋のカルドーゾが、いまいちダサいところがまたいい。いわゆる冴えない連中が、ひょんなことから犯罪に手を染め、それがうまい具合に転がっていってしまう。
さらに、ストーカーしていたはずのアンドレが実は…、というオチもOtimo!
こういうちょっとひねったシニカル・コメディ、大好きです。
Furtado監督の作品は2本目だが、どちらも私好み。今後も追いかけたい監督の一人だ。 2007.9 参考CINEMA:「SANEAMENTO BASICO,O FILME」

O HOMEM DO ANO (2003年・ブラジル)
Jose Henrique Fonseca監督、Patricia Melo原作、Murilo Benicio、Claudia Abreu、NAtalia Lage、Jorge Doria出演
☆酒場で男から金髪に染めた髪を馬鹿にされたマイケルは、その晩、男の後をつけ、銃で殺害してしまう。男の友人の復讐や、警察を恐れるマイケルだったが、予想に反し、「よく虫けらを始末してくれた」とヒーロー扱いされてしまう。さらに、男の彼女だった若い女が部屋にいつくようになり…。
喧嘩や殺人が日常的に起こっているブラジルならではのスタイリッシュ・クライム・ストーリー。設定は嫌いじゃないのだが、今ひとつ印象に残らなかった。
殺された虫けらが、W・マウラだったり、男の友人がL・ハモスだったり、と、主演よりも脇役が目立ちすぎたせい?フィルム・ノアールなのか、ポップな映画なのか、どっちつかずのの感あり。原作は、ベストセラー小説「オ・マタドール」だそうです。原作読みたいけど、邦訳はないだろうなあ。2008.6

O INVASOR (2002年・ブラジル)
Beto Brant監督、Marco Ricca、Alexandre Borges、Paulo Miklos、Mariana Ximenes出演
☆イバンとジバは、共謀して仕事仲間の一人の殺害を殺し屋に依頼。しかし、殺し屋アンシオが職場に訪れ、二人の周りをうろつくようになる。犯罪の発覚を恐れるイバンは、自暴自棄になり…。悪党になり切れず、気持が揺れるイバン、罪の意識のないまま普通の生活を送るジバ、そして金持ち連中に嫌がらせをするアンシオ。悪党3人が三者三様。それぞれの個性も光っていた。映像と音楽もスタイリッシュで、イバンが精神的に追い詰められていく後半は見ごたえあり。
サンダンス映画祭のラテン映画部門で優秀賞受賞作。インディーズ系として評価の高いBrant監督らしい映画だった。 2007.9 参考CINEMA:「CA~O SEM DONO」

IRACEMA, Uma Transa Amazonica (1976年)
Jorge Bodanzky、Orlando Senna監督、Edna de Cassia, Paulo Cesar Pereio出演
☆ブラジルのベレンで男に体を売っていた15歳の娘イラセマは、サンパウロへ向かうトラック運転手チオに連れられ旅に出る。だが、道中、チオから捨てられ、運転手相手の娼婦となる。
70年代のブラジル東北地方が舞台のロードムービー。赤茶けた大地、埃だらけの道、ヒッピー、田舎娘…。ドキュメンタリー風に土地の風景と人々の様子を映しながら、イラセマという一人の娘の生き様を淡々と追っていく。
不安そうな表情で舟に乗って都会に出てきた少女の顔が、時を経るうちにすさんで行き、ずうずうしくなり、最後には、野良犬のようになっていく。
彼女の人生は、どんどん落ちていっているように見えるのだが、なぜか「哀れみ」のようなものは感じなかった。それは、何があっても動じないブラジルの広い大地が背景にあるからなのか。
荒地を這いつくばって生きるイラセマのたくましさに、崇高なものすら感じた。
再会したチオの「お前、変わったな」という台詞が安っぽく聞こえ、イラセマに変わって「それでも生き抜いてやる」と、吐き捨ててやりたくなった。
この映画を見て思い出したのは今村昌平の「にっぽん昆虫記」。
背景も生き方も違うのだが「女のたくましさ」に焦点を当てている点に共通するものを感じた。
イラセマの生き方は、バリバリの社会派の人が見たら「男社会の犠牲者」と見るのかもしれない。でも、歯を折られ、ボロ着をまとったイラセマの姿には、なにやら崇高なものさえ感じた。
イラセマは同じ性でも、自分とはまったく違った生き物である。
「メス」と呼んだら語弊があるかもしれないが、本能のままに生きる姿は美しい。
そう思えてしかたなかった。2007.12

JEAN CHARLES
Henrique Goldman監督、Selton Mello出演
☆ブラジルからロンドンへ移住したジーンは、移民労働者のための仕事斡旋を生業にし、労働者から何かと頼りにされている。だが、テロ事件が起こり、人々の移民に対する目は冷たくなる。そんな中、爆弾テロの容疑者として疑われたジーンが地下鉄内で射殺される、という痛ましい事件が起こる。
移民と法律。多くの大都会で問題になっている本音と建前。不法で働くのは犯罪ではあるが、実際にはイギリスでもアメリカでも、肉体労働に従事する者の多くが不法で働いている。この映画はそんな移民労働者の厳しい現実を追ったドラマである。
ロンドン警察にジーンが誤射されたという事件は、日本ではそれほど話題にもならなかったが、ブラジルでは、誰もが知っている痛ましい事件だったようだ。
ただ、この映画は射殺事件そのものよりも、ロンドンに暮らすブラジル人移民たちの日常に焦点を置いている。ロンドンの移民もの、といえば スティーヴン・フリアーズ監督の「堕天使のパスポート」がある。比較できるほどの完成度はないが、ドキュメンタリー風の作風には好感がもてた。
ただし、ジーンが殺されてからの話ははしょりすぎ。10年後の話なんて何の意味があるの?って感じ。最後の10分で白けてしまい、感情移入できなかった。
それでも、ジーンという気の毒な善人ブラジル人がいた、という事実を知れただけでもみる価値はあったかも。2009.6

JOGO SUBTERRANEO (2005年)
Roberto Gervitz監督、Felipe Camargo、Maria Luisa Mendonca、Julia Lemmertz出演
☆バーのピアノ弾きマルティンは、サンパウロの地下鉄に乗り、目に留まった女性の行動を推測するゲームに夢中になる。そんなストーカーじみたつきまといの最中で、いつも誰かに追われる謎の女、知的障害の娘を持つ刺青彫の女、そして盲目の女性と親しくなる。
毎日利用しているサンパウロの地下鉄が舞台なので、興味深く見られた。私自身、地下鉄の人間観察が好きなので(つきまといはしませんが)、マルティンの気持ちはわからなくもない。
見知らぬ人をみて、この人は今、何を考え、どこへ行こうとしているのか。想像ゲームをするのは自由ですからね。
ブラジルという国は、日本と違って気候も人種も多様なので、映画の種類も千差万別だ。都会が舞台の映画はNYやパリの香りがするし、南部の田舎が舞台の映画はヨーロッパの田園風景を思い出す。そして北部やアマゾンの大地は、他にはないブラジル特有の赤土の匂い。サンパウロに住んでいると、アマゾンや北部はまったくリアルでないほかの国、ほかの時代の話のようだ。ひとくくりにできないブラジルの文化、まだまだ掘り出し物がありそうです。2007.12

【k - l - m - n】

Linha de Passe (2008)
ウォルター・サレス、ダニエラ・トーマス監督、Sandra Corveloni、Joao Baldasserini、Vinicius de Oliveira、Jose Geraldo Rodrigues、Kaique Jesus Santos出演
☆身重の中年女Cleuzaは、メイドをしながら4人の子供を育てていたが、妊娠を理由に雇い主から暇を出されてしまう。
敬虔なクリスチャンの長男は、ガソリンスタンドで働く真面目な青年だったが、モトボーイ(バイク便)の弟は、仕事に嫌気がさし、犯罪に手を出してしまう。
サッカー選手になる夢を捨てきれない三男、そして、妙に大人びたバス好きの末っ子。
大都会の喧騒の中、家族5人は、苦しみ、もがきながら生きていく…。
サンパウロという大都会の片隅。日の当たらない場所で暮らす人々が主人公だ。
母には母の、息子たちには息子たちの悩みがあり、彼らの日常がオムニバスのように語られていく。
真面目すぎて彼女もできない長男と、遊び人だが仕事に不満ばかりの二男。この二人の微妙な関係は予定調和な気がしたが、一流のサッカー選手になって金持ちになりたい、と夢見ながらも、草サッカー・レベルの試合にしか出られない三男と、小生意気な末っ子の関係が微笑ましい。弟は、なかなか一流になれない兄ちゃんの苛立ちを察知し、鋭く突っ込みをいれ、兄ちゃんと喧嘩ばかりしている。末っ子ならではの観察眼が笑いを誘う。
一方、身重の母は、夫のいない寂しさを紛らすため、末っ子を束縛し、末っ子はそんな母に反抗を繰り返す。
この3人の距離感が面白い。明るく楽しい家族の団欒シーンはないのだが、親子であり友人であり、恋人であり、ときには敵になったりもする。母や子といった役割にとらわれない素直な関係が、心地よく伝わってきた。
カンヌ映画祭では母親役を演じたサンドラが女優賞を受賞したが、末っ子を演じた少年の演技はマラビリョーゾ!
クライマックスの末っ子の旅立ちシーンが、サンパウロの夜明けの風景と見事にマッチしていて、何とも言えないせつない気分にさせられた。
彼らの未来は輝かしい明るさはないだろうが、いつか夜明けはやってくるのだろう。小市民の人生なんてそんなものである。私も明日、頑張ろう。ちょっとだけだが勇気づけられた。
サッカー選手の三男を演じたVinicius de Oliveiraは、「セントラル・ステーション」のあの少年だそうです。面影はないけど、存在感あり。今後が楽しみである。
母、兄、弟。いろいろな視点から描いているので、もう1度見たらまた違った感想を抱くかも。
WサレスとDトーマスの名コンビの作品らしい丁寧な感情描写も気に入った。2008.9 参考CINEMA:「リオ・ミレニアム」「異境の果てに TERRA ESTRANGEIRA」「セントラル・ステーション」「ビハインド・ザ・サン」

「黒いオルフェ」を探して -ブラジル音楽をめぐる旅- Looking For Black Orpheus
マリセル・カミュ監督の名作「黒いオルフェ」で描かれた過去のファベーラと今のファベーラを比べ、数々の著名人がリオのファベーラと音楽について語ったドキュメンタリー。
ボサノバ&サンバが流れるなかリオの街が映し出され、それだけで楽しかった日々にタイムスリップ。何か楽しいイベントがあるわけでもないのに、そこにいるだけで解放感を味わえる稀有な街リオ。あの日に帰りたい…。Muito Saudade…。2010.1日本版DVD有り

ミステリー・オブ・サンバ〜眠れる音源を求めて O Misterio do Samba (08年)
カロリーナ・ジャボール、ルラ・ブアルキ・デ・オランダ監督
、マリーザ・モンチ、パウリーニョ・ダ・ヴィオラ出演☆マリーザ・モンチが歴史のあるサンバチーム、ポルテーラの功労者(ヴェーリャ・グアルダ)たちを訪ね、口伝えだけで受け継がれたサンバの名曲のルーツを探っていくドキュメンタリー。
サンバといえばカーニバルの曲、と考えがちだが、サンバはもともと労働者たちの音楽であり、彼らの生活をそのまま歌にしたものも多い。「もっと給料あげてよ」「明日の食べ物もないんだよ」などという直接的な歌詞もある。日本でいえば、キヨシロウのテイストに近いかもしれない。
昔のサンバの作曲家たちは、肉体労働に従事しながら、音楽を愛し続けていた。サンバには汗が似合うのは、カーニバルのダンス曲だからではなく、生活に密着した労働歌だからなのだ、と、この映画を見て確信した。
生きていくには辛いことも多いけど、汗かきながら働き、誰かを愛し、そして音楽を楽しんでいきましょう! いい意味で楽観的になることが、幸せになる秘訣かもしれません。
2009.10

MADAME SATA (2002年・ブラジル)
Karim Ainouz監督、Lazaro Ramos、Marcelia Cartaxo、Flavio Bauraqui出演
☆1932年、ショーパブの楽屋で世話係をしているジョアンは、きらびやかなステージを幕間から眺める毎日を送っていた。バーで、若い男と知り合ったジョアンは、彼に強く引かれるが、男の失礼な態度に切れ、家から追い出してしまう。
 ドラッグ・クイーンとして、サンバ界のスターとなったマダム・サタンが、世に認められる以前、ジョアンと呼ばれていた時代の物語。
ハモスの演技は見事ではあったが、少々ストーリー展開は退屈。黒人のゲイということで、激しく差別され、実力があっても世に出れないジョアンが、悶々とする日々を送り、暴力を繰り返す。
 そんなジョアンを仲間が励まして…。という友情物語だけで、終わってしまったのが残念だった。
ジョアンが、どうやってマダム・サタンになっていったのか知りたかったのだが、この映画の主旨は、あくまでジョアンの物語、なのでしょう。悪くはないけど、ちょっと期待はずれ、かな。2007.10

俺の名はジョニーじゃない MEU NOME NA~O E JOHNNY (2008年・ブラジル)
MAURO LIMA監督,Selton Mello,Cleo Pires,Cassia Kiss出演
☆☆現在、ブラジルで公開中の映画「MEU NOME NA~O E JOHNNY 俺の名はジョニーじゃない」は、実在の麻薬売人の半生をつづったベストセラー小説(ギリェルメ・フィウーザ著)の映画化だ。日本を発つ前、慌てて翻訳本を入手。予習もしっかりした後、映画版を鑑賞^^。
☆リオデジャネイロの高級住宅街で、何不自由なく育ってきた青年ジョアンは、上流階級の仲間たちと一緒にドラッグ・パーティーに興じるうち、次第にコカインの売人として名をあげるようになる。彼の商売相手は、リオのファベーラではなく、税関が押収したドラッグの横流し品や、高級街の有閑マダム。ヨーロッパからの密売ルートも確保したジョアンは、大量のコカインを大胆な手口で売りさばいていく。
連想ゲームでブラジルのリオ、ドラッグとヒントが出たら、多くの人は貧民街(ファベーラ)と答えるだろう。とくに映画「シティ・オブ・ゴッド」に衝撃を受けた人は、リオは海、サンバ、そして貧民街、というイメージが強いと思う。私自身、こちらに来るまではそうだった。
ブラジルに来て半年が過ぎ、さすがに犯罪やファベーラの国だけではないこともわかってきたが、リオにはまだ足を踏み入れていないので、どんな町だか体感していない。
ただ、貧民とは無縁のリッチな層も大勢いて、彼らは華やかに着飾り、おしゃれなカフェで談笑し、週末の夜は仲間たちとパテーィーに興じている、という想像はできる。
この映画では、そんな上流層の乱チキ騒ぎと、ドラッグ取引の様子がリアルに描かれている。
ドラッグを売り買いする連中は、見るからに悪そうな黒人ではなく、どこにでもいそうな小奇麗な一般人。
人の良さそうな高級アパートの住人の主婦、生真面目な税関職員などなど、一見、ドラッグとは無縁そうな人が、大胆にドラッグ取引をしているのが面白い。
そして、ドラッグの仕分けは、ファベーラではなく、高級アパートの一室である。
同じ町、同じ時代を描いた「シティ・オブ・ゴッド」では、銃を持った褐色の肌の少年たちが、朽ちた廃屋でドラッグの仕分けをしているシーンが出てきたが、こちらでは、何から何まで違っている。(前日の夜、テレビで「シティ・オブ・ゴッド」を見たばかりだったので、違いをリアルタイムで比較できて面白かった。)
ただし、扱っているのはどちらも同じ種類の“白い粉”。そしてどちらも実話というのが興味深い。
正直、映画のクオリティでは「シティ・オブ・ゴッド」に及ばないが、一人の男の栄光と転落の人生の描き方は、余計な説明もなく、いたってシンプル。ドラッグ取引、ドラッグパーティー、そして逮捕されてからの失意の日々をテンポよく描いていて、とても見やすい映画だった。
(ただし私の場合、ポ語がわからないので、原作読んでいなかったらよくわからなかったかもしれませんが)
主役のSelton Melloは、TVドラマの人気俳優だそうだが、いかにもドラッグ中毒っぽい不健康そうなだらしなさがリアル。おそらく体重増やしたと思うが、体当たり演技は好感が持てた。
ただし、あちこちに貼ってある軽いコメディ映画のようなポスターはNG。内容はまったく違い、かなりシニカルかつハードです。
2008.1

MEU TIO MATOU UM CARA (2005年・ブラジル)
Jorge Furtado監督、Darlan Cunha、Sophia Reis、Lazaro Ramos、Airton Graca(父親役)出演
☆15歳の少年ドゥカの叔父が殺人事件の容疑者に。監獄に入れられた叔父を救うため、ドゥカは同級生イサとともに、叔父の恋人の元を訪れる。
Jorge Furtado監督のコメディといえばポルトアレグレ。そして、主人公とそれをとりまく人々が、そろいもそろって肩の力がぬけているのが定番。
殺人事件が起こっても、偽札作りをしても、レイプがあっても、深刻さはなく、さらりとしている。
ブラジル映画らしいか、と聞かれれば、らしくない薄味テイストなのだが、舞台は温暖気候のポルトアレグレなのだから無理もない。
ドゥカは黒人の少年なのだが、眼鏡をかけ、コンピューターが得意で、きれいな車で送り迎えをしてもらえる中流家庭に育っていて、そして、親友は白人である。
でも、それは特別なことではなく、黒人でも裕福な人は山ほどいる。それが現実のブラジルなのだ。
Furtado監督作品は映画館でみるより、家のソファに寝転びながら、ダラダラしながら見るのがotimo!2008.3 参考CINEMA;「SANEAMENTO BASICO,O FILME」「コピー・オペレーター」

O MAGNATA (2007年・ブラジル)
Johnny Araujo監督、Paulo Vilhena、Rosannne Mulholland、MAria Luiza Mendonc,a出演
☆パンクバンドのボーカリスト、マグナタは、悪友たちと高級車を乗り回し、面白半分で車泥棒をするなど、刹那的に生きている。そんなある日、マグナタはバーで知り合ったNY帰りの若い女性と恋に落ちる。ストーリーは、何不自由のないお坊ちゃまが、悪乗りのし過ぎで犯罪に手を出し…、というよくある展開。MTV製作らしく、スケボーと、パンク・ミュージックのイメージ映像が満載で、ビデオ・クリップを見ているようだった。無軌道なマグナタを演じたPaulo Vilhenaがいい。悪乗りしながらも、寂しさを隠しきれない若者を熱演していた。&アル中の母を演じたMAria Luizaは存在感あり。ケイト・ブランシェットに似ています。2008.2

Maua - O Imperador e o Rei (1999年・ブラジル)
Sergio Rezende監督、Paulo Betti、Malu Mader、Othon Bastos出演
☆1800年代、父を亡くした少年イリネウは、叔父に連れられ、リオデジャネイロの金貸しの元で働きはじめる。だが、借金回収の仕事についた矢先、目の前で債務者が自殺を図る悲劇に見舞われる。
やがて、イリネウは、イギリス人の結社に所属。銀行だけでなく、鉄道会社を開く敏腕経営者となるが、変化を望まない皇帝ペドロ2世の取り巻きは、妨害をはじめる。
ブラジルの歴史について、勉強不足なので、マウアという存在を知らなかったが、大志を抱きながら妨害にあって消えていった、ということでは、坂本竜馬的な存在なのかもしれない。 あの時、彼に従っていれば…。歴史を振り返ると、必ず一人や二人、時代を先取りしすぎた英雄、がいるものである。皇帝にとっては、イギリスに傾倒していたことが、面白くなかったのでしょう。時代を動かすということは、一人の力ではどうにもならない。後押しする“大衆”の声と、そして、何より運とタイミングが必要なのかもしれません。参考CINEMA;「ズズ・エンジェル」

MUTUM (2006年・ブラジル)
Sandra Kogut監督、Thiago da Silva Mariz出演
☆10歳の少年チアゴは、暴力的な父におびえながら、ミナスの荒地で家族と暮らしていた。大好きな叔父が土地を離れ、悲しむチアゴに追い打ちをかけるように、弟フェリペに悲劇が襲う。
馬にまたがり、埃だらけの土地を耕し、牛の乳を搾るチアゴのけなげな姿は、抱きしめたいぐらいに愛くるしく、なんとかして貧しさから救ってあげたい、という気持ちにさせられた。
仲良し兄弟を演じた二人がとにかくキュート。クリクリカールの髪の毛と、クルリンと上がったまつ毛が最高にかわいくて、表情も豊か。
 悲しい話ではあるのだが、旅立つチアゴの背中を押してあげたくなった。2007.11

A MULHER INVISIVEL
Claudio Torres監督、Selton Mello、Maria Manoella、Luana Piovani、Fernanda Torres出演
☆妻に去られたショックから立ち直れず、妄想を書きなぐった男の前に、突然理想の女が現れる。男はたちまち恋に落ちるが、実はこの女は妄想が生み出した実在しない女だった…。
Sメロが3人の女に翻弄されるダメダメ男を熱演。ちょっと羽目外しすぎ、の感もあるが、普段のセルトンは地味でオーラがないのに、演技になると生き生きするのはさすが。
太ってしまい2枚目でもないんだけど、やっぱり味があります。
妊娠中のF・トーレスがセルトンに片思いをしている隣人の姉で出演。監督が夫なので特別出演ということでしょうが、どうでもいい役でちょっともったいない。
映画館で見るほどの価値はないが、ストーリーがシンプルなのでセリフが聞き取れなくても楽しめた。2009.6

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OS NORMAIS - O FILME(2003年・ブラジル)
Jose Alvarenga Jr.監督、Luiz Fernando Guimaraes、F・Torres、Marisa orth出演
☆同じ結婚式場で一緒になったカップルが絡み合うドタバタ・コメディ。ブラジルのコメディ映画は舞台テイストの作品が多い。大雑把な三谷ワールド、といった感じ。女優二人F・トーレスと「トマラダカ」にも出てるマリザがとにかくすごい。体当たり演技。F・トーレスやり過ぎ、って感じもしないでもないが、セリフわからなくても笑えたのでヨシとしましょう。2008.1

Noel - O Poeta da Vila(2007年)
Ricardo van Steen監督、Rafael Raposo, Camila Pitanga出演
☆100年代の初め、バイーアの裕福な白人として育ったノエルは、仲間とともにサンバのバンドを始め、次第に彼の才能は開花していく。もともと体の弱かったノエルは女や酒に溺れるうちに、肺を患う。
この映画を見るまで、サンバのルーツを作った男ノエル・ホーザの存在を知らなかった。(日本でいえば、浜口クラノスケ?とか中山シンペイ?に相当するのでしょうか)。
サンバといえば、黒人がカーニバルで踊るお祭り用の陽気な音楽、というイメージが強いのだが、元もとのサンバは、もっと悲しげで、人生のはかなさや、辛さを歌ったものも多いらしい。歌詞が理解できなかったのが、残念だったが、映画の中で流れていた曲をあらためてCDで聞いてみたくなった。ただ、映画の作りとしては、ただ、事実を断片的に追いかけているだけで芸がなかったのがなあ。演奏場面も盛りあがりそうになると、場面が変わってしまい、高揚感なし。興味のあるテーマなだけに、残念だった。2007.11

NARRADORES DE JAVE (2003年)
Eliane Caffe監督、Jose Dumont出演
☆バイーアの小さな村ジャベがダムの下に沈むと知った村人は、村のドキュメントを作ることを思いつく。村の嫌われ者アントニオは、人々から聞き書きを命じられるが、村人はみんなホラ話しかしない…。ダムの下に沈む村。というと、アジア的には、とても寂しく辛い話にありがちだが、さすがはブラジル。村人がどいつもこいつも脳天気で、困っているわりには、のんびりしていて、ホラ話しかしない。
おそらく風刺もたっぷりこめられてはいたのだろうが、残念ながら理解できず。セリフで語られていくから、英語字幕があっても、ついていけませーん、状態でした。これはひとえに私の語学力不足のせい。なので映画の評価は不可能。ただ、見やすい映画ではないことは確かです。2007.11

NAO,POR ACASO(偶然じゃない) (ブラジル・2007年)
Philippe Barcinski監督、R・サントロRodrigo Santoro、Leonardo Medeiros出演
☆道路の管制官エニオは、元妻の乗った車が交通事故にあう場面を目撃。その後、両親を一度に失った彼女の娘との交流を深めながら、傷ついた心を癒していく。
一方、ビリヤード・プレイヤーのペドロも、恋人を事故で亡くし、失意の日々を送っていた。
大切な人を交通事故で亡くした二人の男が、それぞれ違った形で、傷ついた心をいやすまでを丁寧に描いた人間ドラマ。
国は違えど、市井の人々の日常の暮らしに変わりはないし、大切な人を亡くしたら傷つくのは万国共通。だから、ポルトガル語は90%理解できなくても、彼らの気持ちは通じたし、ドラマにも感情移入できた。
日本では、ブラジルの普通のドラマをあまり見る機会がないので、すべてが新鮮。サンパウロの町の様子、人々の暮らし、コーヒーの飲み方、料理の仕方などなど、特別ではない何気ないシーンの一つ一つに見入ってしまった。
道路の管制官と、ビリヤード・プレーヤー。どちらも点と点を結びつける仕事という共通点があるので、最後に二人のドラマが交錯するのだろう、と期待して見ていたのだが、残念ながら平行線のままで終わってしまった(おそらく。セリフがわからないので、何かヒントがあったのかもしれませんが)。
でも、両者のドラマにそれぞれ味わいがあったので、ほぼ満足です。
ロドリゴ・サントロは、ヨレヨレのシャツを着た不精ヒゲ姿だったがそれでも、美しかったです。シャツを脱ぐ姿が超セクシーで、ロドリゴのファンへのサービス・カット満載です。2007.7
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【o - p - q - r】

OLHO DE BOI
Hermano Penna監督、 Gustavo Machado出演
☆馬小屋に雨宿りした男たちの物語。ローソクの明かりだけの、暗い映像に加え、セリフ中心の一幕物、さらには時代設定が(たぶん)一昔前、ということで、言葉が理解できない私には、拷問のような映画でした。ある男の復讐の物語、ということですが…。よくわからなかった。2008.12

O Outro Lado da Rua (2004年)
Marcos Bernstein監督、F・モンテネグロ、Raul Cortez出演
☆初老の女レジーナは、事件が起こりそうな場所に行き、警察に密告することを生きがいにしている。ある日、ある男が妻に薬を与える現場を、窓から目撃したレジーナは、即、警察に密告するが、警察からは、レジーナの思い違いだと指摘される。
納得のいかないレジーナは、男に接近する。
生きがいを見つけられない初老の女が、自ら危険を犯すことで快感を得ようとする。その気持ちがわかってしまうのは、私も孤独な女だからか…。モンテネグロは、さすが!の名演技。窓から双眼鏡で隣の窓を覗くとき、興奮を抑えようとして抑えきれない快感の表情は秀逸。ドラマとしてはありがちな展開だし、ひねりもないのだが、役者がうまいのでマル。2008.6

ONDE ANDARA DULCE VEIGA? (2007年・ブラジルほか)
Guilherme de Almeida Prado監督、Maite Proenca, Eriberto Leao, Carolina Dieckmann出演
☆舞台は80年代。ジャーナリストの男は、突然姿を消した銀幕スター兼歌手のDULCEについて取材をするうちに、彼女の数奇な人生の虜になっていく。
パンクからお色気たっぷりのムード・ボサノバまで、さまざまなジャンルの音楽を絡ませ、過去と今、そして想像の世界を行ったり来たりさせながら、DULCEの行方を追っていく異色のミュージカル。
かなりキッチュな映画ではあるが、音楽好きなブラジル人はけっこう楽しんでいた。
話の辻褄については考えず、単純に映像や音楽を楽しむにはいいかも。
ただ、少々長すぎて、テンポが途中で落ちてしまうのが気になった。こういうスラップスティック作品は、1時間半ぐらいでサクサクッとまとめたほうが、楽しいんだけどね。惜しい。2007.10 サンパウロ国際映画祭07にて

ODIQUE? (2004年)
Felipe Joffily監督、Alexandre Moretzsohn、Caua Reymond、Dudu Azevedo出演
☆3人の若者が、軽い気持ちで犯罪に手を染めるまでを、スピーディーに描いたインディ映画。 3人のキャラ&ルックスも魅力的だったし、悪くはないのだが…。 字幕なしのマシンガントークには、ついていけず。残念。 ドラマ「A Favorita」にも出ていたCaua Reymondの演技はちょっと青臭かったが、ルックスはMuito Bom! 演技に磨きをかければ、ポスト・ロドリゴ・サントロになれそう。2009.2

OURO NEGRO(ブラジル・06年)
Isa Albuquerque監督、Danton Mello、Maria Ribeiro、Odilon Wagner、Thiago Fragoso出演
☆サルバドールに石油が眠っていると信じた男は、その息子や甥に思いを託し、殺されてしまう。子供たちが育ち、やがて石油の採掘が本格的に始まるが、今度は石油をめぐってハイエナのような権力者たちが、群がってくる。
「ゼア・ゥィル・ビー・ブラッド」のブラジル版。ブラジルの人気俳優をそろえてはいるのだが、作りは2時間ドラマ風でやすっぽい。
ただ、ブラジルでは、どうこでどうやって油田開発が行われているのか、勉強にはなった。
大スポンサーがペトロブラスですから、間違ったことは書いていないでしょう。今でも新たな油田が見つかるブラジルがうらやましいです。2009.10 SP映画祭08にて

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PROIBIDO PROIBIR (2007年)
Jorge Duran監督、Caio Blat、Maria Flor、Alexandre Rodrigues出演
☆白人の医学生パウロは、黒人の友人レオンの彼女レティシアに惹かれるが、気持ちを打ち明けられない。ある日、病の重い入院患者から、息子に会いたいと乞われたパウロは、彼に会いに行くが、息子は警察から追われる身だった。
ほろ苦い三角関係に、ファベーラの現実をミックスしたブラジルらしい青春映画。
お決まりのパターンではあるのだが、主役の3人の若者がそれぞれ魅力的に描かれていた。「シティ・オブ・ゴッド」でブスカペを演じたAdriano de Jesusが、真面目でお人好しの黒人学生を好演。親友であり、恋のライバルでもあるパウロへの憧れと嫉妬心。激しさはないけど、痛いほど気持ちは伝わってきた。ライバルがイケメンの白人医学生じゃ、勝ち目ないよなあ。そういう話がメイン・テーマではないのだろうけど、やっぱり人種偏見を感じずにはいられなかった。2009.2

O PAI, O (2006年・ブラジル)
Monique Gardenberg監督、Lazaro Ramos、Dira Paes、Wagner Moura、Stenio Garcia、Luciana Souza出演☆カーニバル真近のサルバドールを舞台にしたコメディ映画。TVで人気の俳優たちが総出演し、コミカルな演技を披露している。会場は笑いの渦だったが、私は彼らのマシンガン・トークがまったく理解できず…。
なので、セリフを追わずに、音楽とサルバドールの町の風景を楽しむことに徹した。石畳、古い教会、裸足で走りまわる子供達、豊満ボディのおばちゃん達…。どれもサンパウロの風景とはまったく違う。同じ国で同じ言葉を話していても、文化はまったく違うのでしょう。なんたってブラジルは広いですし。サルバドールに飛んでいきたくなった。フライ・ミー・トゥー・ザ・サルバドール!。
エンディングがあまりにも唐突で、納得できなかったのだが、セリフがわかる友人は「伏線」あったよ、と言ってました。でも、雰囲気的にこの展開ならハッピーエンドがいいよなあ。2007.11

O PRIMEIRO DIA (邦題 リオ・ミレニアム、英題 Midnight) (1998年・ブラジル)
ウォルター・サレス、ダニエラ・トーマス監督、フェルナンダ・トーレス、ルイス・カルロス・ヴァスコンセロス、マテウス・ナシェテルゲレ、ネルソン・サルジェント出演
☆舞台は1999年の年末から2000年1月1日の朝。ファベーラに住む小悪党のシッコは、刑事の不正をネタに金をゆすりとり、家族の住む丘の上のファベーラへ戻ってくる。
方やファベーラ近くに建つ中流アパートに住んでいたマリアは、31日の朝、突然、恋人が姿を消し、はげしく取り乱す。
そして、30年の刑で服役中のジョアンは、爺と呼ばれる年老いた囚人の一人言に悩まされていた。
大晦日、その爺が突然倒れた。ジョアンは、爺の死の騒動の最中に脱獄。その脱獄を手引きした看守から、ある男を始末するよう命じれる。

今年のカンヌで女優賞に輝いた作品「LINHA DE PASSE」の監督コンビ、WサレスとDトーマスが1998年に撮った小品である。
未来が見えないファベーラの住人、服役中の囚人、そして恋人を突然失った女。
それぞれ別の場所で生きていた3人が、世紀末の夜から朝にかけて出会い、ほんの一瞬、愛を感じ、未来への希望を抱く。
お先真っ暗な脱獄囚ジョアンが、世紀をまたぐ瞬間にマリアの命を救い、リオの丘にそびえるキリスト像を横目に、
「新世紀は、人が殺されない世の中になるんだ!」
と、叫ぶシーンは、犯罪の巣窟であるファベーラと、世界に誇る景観が隣り合わせの街リオならではの名場面である。
新世紀を迎えても、世の中が変わらないことは誰もがわかっている。それでも、変わることを信じてみたい。
しかし、現実には、ユートピアなんて存在しない。21世紀も相変わらず、地球のどこかで殺し合いが続いている…。
このシーンには、そんな社会に対する嘆きが込められているのだろう。
決め台詞と映像の美しさは、さすがWサレス。期待どおりの質の高さ。
ただし、ストーリーは、ステレオタイプの感あり。とくにマリアのキャラはあまりにもありきたりだ。平凡で浅はかな中流女と、未来のない脱獄犯の一瞬の恋。死への距離感が違う二人を出会わせることで、ブラジル社会の階級差を表してはいるのだろうが、ありがちなシチュエーション。もう、一ひねりあればなあ。期待が大きかっただけに、正直、ちょっと物足りなかったが、監督のいろいろな思いがこめられていることは感じることができた。
わずか数分の出演だった老囚人の歌のシーンが印象に残ったので調べてみたら、彼は、ブラジルの大御所サンビスタ、ネルソン・サルジェントだそうです。
納得の存在感。本物は、わずか数分であろうが、しっかりと人を引き付けることができるのですね。まだ現役かどうか不明だが、機会があったら、ぜひ生の歌声をきいてみたい。Wサレス監督の音楽センスは、スコセッシ監督並にオッチモです!2008.7

Primo Basilio (2007年・ブラジル)
Daniel Filho監督、Debora Falabella、Fabio Assuncao、Gloria Pires出演
☆舞台は1950年代のサンパウロ。主婦のルイザは、夫がブラジリアへ長期出張中、いとこのバシリオと恋仲になり、情事にふけっていた。家政婦のジュリアナは二人の関係に探りをいれ、ルイザがバシリオに書いたラブレターを入手。まもなくバシリオがパリに旅立ち、傷心のルイザに追い打ちをかけるように、ジュリアナの執拗な嫌がらせが始まった。 夫への秘密を守るため、ルイザはジュリアナに代わって、家事に追われ、さらに、金の無心までされてしまう。
TVの2時間サスペンス「家政婦は見た!」のような粗筋。意地悪な家政婦ジュリアナが、金持ちの女主人の情事を探るあたりは、市原悦子がだぶって見えた。
秘密を握った家政婦が、いい気になって、女主人の服を着、澄まし顔で居間でTVを見ている姿が、憎らしいけど、ちょっとかわいくもあり。。。
女主人ルイザは破滅の道をたどっていくわけだが、奇麗で純粋で、ガラスの心を持ったルイザには、結局、最後まで同情できず。
後で知ったが、監督はTVドラマのプロデューサー、役者もドロドロ愛憎劇「パライゾ・トロピカル」に出ている俳優たちだった。だから2時間ドラマっぽかったのですね〜。2007.8

O Prisioneiro da Grade de Ferro (2004年・ブラジル)
Paulo Sacramento監督
☆サンパウロの北地区にあるカランジルにあった刑務所は、数年前に取り壊されたらしいが、消える前の刑務所内の様子を囚人へのインタビューを交えながら切り取ったドキュメンタリー。
バベンコ監督の意欲作「カランジル」とはまた違った現実が見れて興味深かった。
インタビューに応じた囚人は、いわゆる模範囚なのだろうが、アーチストや職人などもいて、これが囚人? と疑うぐらいに、生き生きと仕事をしているのが面白い。
一方で、マリファナ売買の生々しいシーンなどもあり…。
刑務所の中でありながら、そこは一つの集落になっていて、5階建てのアパートが9つもあり、商売や仕事が日常的にいとなまれている。
唯一つ、娑婆との大きな違いは、鉄格子と監視員。
すぐ近くには鉄道が走り、高級ショッピングセンターが見える。一般市民が暮らすすぐそばに、巨大な刑務所があったという事実が一番の驚きだった。
機会があったら、カランジル刑務所跡地にでも行ってみたいのだが…。2008.3

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QUERO^ (2007年・ブラジル)
Carlos Cortez監督、Maxwell Nascimento出演
☆親を知らない少年ケーロは、町で盗みを働き少年院へ送られる。院内では、同部屋の囚人たちからレイプされ、ますます心を閉ざしていく。
そして、横暴な看守の言動に切れたケーロは、看守を刺して、脱走。遠い町で素性を隠し、働きはじめたケーロは、少しずつ人間らしい感情を取り戻していくが…。
「シティ・オブ・ゴッド」や「ピショット」を見ていたので、特別に斬新さは感じなかったが、ケーロを演じた少年の表情は、とても印象に残った。
笑顔を知らないケーロが、少女に恋をした一瞬だけ、微笑むシーンがあるのだが、その笑顔にも、暗い未来が暗示されているように感じた。あの悲しい目をした子役、彼自身も、貧困層出身なのだろうか。そう思うぐらいケーロを演じたMaxwellの演技が光っていた。2007.9

QUASE DOIS IRMA~OS (2004年・ブラジル)
Lucia Murat監督、Caco Ciocler、Flavio Bauraqui出演
☆上流層のミゲルと貧民街で暮らすジョルジーニョ。子供のころから知り合いだった二人は、70年代に監獄で再会する。反体制運動家として投獄されたミゲルは、ドラッグ・デイーラーのジョルジーニョと奇妙な友情関係を築いていく。だが、貧民出身の囚人とエリート囚人との間で確執が生まれ、同時に二人の友情にも溝ができる。
 奇妙な縁で結ばれた二人の男の友情を、監獄を舞台に描いた作品。生まれ育ちが違っても、個人でなら友情は築ける。それが束になると、確執が生まれてしまう。
 悲しいかな、これはすべての争いに共通していること。だから集団は嫌いです。
 この映画の女性監督は、70年代に活動家として投獄されたこともあるらしい。そのせいか、ミゲルのセリフに政治的発言が多くて、途中、字幕の読解に追い付けなくなった。ちょっと難しかったです。2007.9

REDENTOR (2004年・ブラジル)
Claudio Torres監督、ペドロ・カルドーゾ、ミゲル・ファラベーラ、フェルナンダ・モンテネグロ・モンテネグロ、カミーラ・ピタンガ出演
☆新聞記者のセーリオは、悪徳不動産王の自殺の取材に行き、数年ぶりに幼馴染のオターヴィオと再会する。
一度は、オターヴィオにそそのかされて悪事に手を染めるが、逮捕後、良心に目覚め、被害者を救う救世主となって復活する。
悪徳不動産業者とその被害者たちの対立をシニカルに描いた意欲作。だましだまされ…の前半は、テンポよくすすんで見やすかったが、後半、セーリオが良心に目覚めてからは、いきなりSFチックになり、ついていけず。
悪徳不動産屋の被害者たちが、建設途中のアパートに不法滞在して、いろいろと騒動を巻き起こてしてくれるのか、と期待していたのが、軽くスルーされていたのが残念。ただし、皮肉なエンディングは私好み。善と悪は紙一重ということでしょう。
役者陣はブラジルのスター級をそろえていて超豪華。キャラクターがそれぞれ個性的だっただけに、ストーリーが後一歩の感あり。ちなみに共同脚本は女優のフェルナンダ・トーレスでした。2008.3


【s - t - u - v】

O SIGNO DA CIDAGE (2007年・ブラジル) 
Carlos Alberto Riccelli監督、Bruna Lombardi、Juca de Oliveira、Malvino Salvador出演
☆ラジオで孤独な人たちの人生相談を行うタロット占い師のテカは、リストカットを繰り返す少年チアゴの自殺に直面し、やり場のない孤独感に襲われ、隣人のジルに心の癒しをもとめる。
だが、ジルにはリディアという恋人がいた。
チアゴの遺品にホテルのカギを見つけたテカが部屋を訪れてみると、そこには血まみれの若い女の姿が…。
 一方、テカの仕事先のアルバイト、ビオも、誰にも言えない秘密を抱えていた…。
サンパウロに住む孤独な人々の悲喜こもごもを、オムニバス・タッチで描いた群像ドラマ。サンパウロという町はブラジル一孤独が似合う町だ。NYしかり、東京しかり。
隣に住む人の顔さえ知らない一人住まい。職場は生活の糧を得るためだけの存在で、人間関係も薄っぺら。そんな都会人特有の孤独感というのは、国が違っても大差はない。
それは、今、自分が一番、実感していることだけに、それぞれのキャラに感情移入できた。
アカデミー作品賞をとった「クラッシュ」に似たテイストではあるが、ここはサンパウロ。ロサンゼルスとはまた違った色がある。
死に直面した老人、人生に疲れ気味の中年、そして、人生に希望が見いだせない若者たち。
世代が違っても、人はそれぞれに悩みがあるし、誰かとつながっていたい、と思いながらも、うまくいかない人々も大勢いる。
そんな個々の人生も丁寧に描かれている。地味な映画ではあるが、後からじわじわと心に染みてくる感じ。どうしようもない寂しさに襲われたときに見返したい映画である。
主演&脚本のブルーナはさすがの存在感。
隣人役のマルヴィノも素敵だったし、若者たちを演じた役者陣も個性的だったが、死に直面したテカの父を演じたJuca de Oliveiraが素晴らしかった。最後に「女の裸を見たい」と介助師に頼むお茶目なところがかわいい。そして、オバちゃん体型の女体を見たときの笑顔。言葉にできない「ありがとう」が伝わってきて、込上げてくるものがあった。この映画の良し悪しを決定づけた最高のシーンです。
ドシャ降りの孤独な日曜日、時間ぎりぎりで映画館に駆け付けた甲斐があった。大満足の映画です。2008.2

SANEAMENTO BASICO,O FILME (ブラジル・2007年)
Jorge Furtado監督、Fernanda Torres, Wagner Moura, Camila Pitanga, Bruno Garcia, Janaina Kremer, Lazaro Ramos出演
☆舞台はブラジル南部の,のどかなイタリア移民の町。家具工場の長女マリーナは、村おこしのために映画を撮ることをを思いつき、妹とその彼氏、夫ジョアキンや、父親まで巻き込んで、自主映画作りをはじめるが…。
のどかな村、きれいな田園風景、出てくるのはラザロ・ラモス以外みんな白人。こんなブラジル映画をはじめて見たので、まずびっくり(というか、いかに先入観があったか、ということですが)。
日本で公開されるブラジル映画は、社会派か貧民街の黒人の話か、赤茶けた荒野が舞台のロードムービーしかないので、こういうヨーロッパ的な世界もブラジルにはあるということが、日本人の私にとっては新鮮だった。
まだ、サンパウロから外に出ていないので、肌で感じてはいないのだが、ブラジルは大国だけあって、場所によって人も雰囲気もまったく違うらしい。
南寄りの地域は欧米系の移民が多く暮らしているので、こういったイギリスやイタリア的ヒューマン・コメディが作られるのも当然と言えるだろう。
家族みんなが揃いも揃って大間抜け。でも、本人たちはとても真剣に、おもしろい映画を作ろうとしているので、見ているうちに、次第に彼らの熱意に感化され、映画作りにエールを送りたくなった。
セリフがほとんどわからなくても、なんとなく雰囲気で会話の面白さは伝わってくるし、決して下品にならない、アット・ホームな笑いの堪えない映画だった。
俳優陣は、超豪華なだけあって、みんな個性があって魅力的。表情もとても豊か。
ただ、やっぱりコメディはセリフが命なので、「日本の字幕つきでみたい!」と、心から思ってしまった。
三谷ワールド、あるいはヒュー・グラント主演のライト・コメディ、もしくは「イタリア的恋愛マニュアル」っぽい雰囲気のある、洒落たコメディ映画です。2007.8


SE NADA MAIS DER CERTO (Should Nothing Else Work Out) (08年・ブラジル) 
Jose Eduardo Belmonte監督、Caua Reymond, Caroline Abras, Joao Miguel, Luiza Mariane, Milhem Cortaz出演
☆ジャーナリストの男は、奔放な妻のおかげで借金まみれの日々を送っている。そんなとき、街で知り合った少年のような風貌の女が、彼とその妻に近づいてくる。
女は、孤独だった人生に突然わいた友情に、舞い上がり、この夫婦にまとわりつく。はじめは、うっとおしがっていた青年も、彼女の繊細な心に触れ、愛おしく思い始める。
そして、二人は、偶然乗り合わせたタクシー運転手らと手を組み、ヤクザ相手に詐欺を働く。
奔放な女と二人の男。よくある設定ではるのだが、単純な男女の三角関係映画ではない。
心地いいスピード感、モノクロ写真のようなカット割り、そして、超クールな映像。
ウォン・カーウァイの初期作品を彷彿とさせる格好よさで、3人のアナーキーな世界にたちまち引き込まれた。
犯罪に手をだしてからは、ガイ・リッチー作品のようでもあり…。
セリフはほとんど理解できなかったが、リズム感と映像美を十分楽しむことができた。
 脇役ではあるが、タクシー運転手を演じたJ・ミゲルが最高。いわゆるイケメンではないのだが、何とも言えない味がある。彼の存在があったからこそ、若い二人の演技も光って見えた気がする。MUito gostei !な作品でした。2008.9 RIO映画祭08にて

SIMONAL-Ninguem Sabe o Duro que Dei
Claudio Manoelほか監督
☆1960年代から70年代にかけて、ブラジルの音楽シーンで活躍した黒人歌手Wilson Simonal の波乱の人生を追ったドキュメンタリー映画。監督は、人気パロディ番組「Casseta e Planeta」でおなじみのClaudio Manoel。
映画の前半はブラジルの芸能界で人気を博したシモナルの生映像。屈託のない人懐こい笑顔で、ジャズやチャチャチャを歌う若いシモナルはとても魅力的。中でもサラ・ボーンとの共演シーンは圧巻。これはお宝映像です。
その明るさとは一転して、後半は、酒におぼれ、警察沙汰を起こして芸能界を干されたシリアス話に。シモナルを知る人の語りと新聞記事が続き、セリフが理解できない私には、ちょっと退屈だった。
若い時のシモナルとは別人のような晩年の映像は痛々しかった。息子二人がミュージシャンとして活躍してるのが救いかも。芸能界を干された頃は軍事政権時代だったので、いろいろ謎もあるようだが、詳細までは残念ながら理解できず。2009.6

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TERRA VERMELHA/ Birdwatchers (08年) ★★
Marco Bechis監督、 Eliane Juca da Silva、Taiane Arce、Alicelia Batista Cabreira、Chiara Caselli出演
☆舞台は現代のブラジル内陸部。あるインディオの一家は、インディオ特有の儀式や言い伝えを守りながらも、日雇いの肉体労働や観光客向けの見世物になることで、生計をたてていた。ある日、インディオの若い娘の首つり自殺死体が発見された。一家の主は、呪われた家を焼き払い、別の土地へ移り住むが、彼らが選んだ場所は大農園主の開拓地であった。まもなく、インディオに対する執拗な嫌がらせがはじまる。

舞台は、同じブラジルでありながら、サンパウロとはまったく別世界の内陸部。
映画の冒頭で、観光客たちがジャングルのインディオたちと対峙する場面があるのだが、それはただのアトラクションの一つにすぎない。
未開地に対して、ばく然とした憧れをいだき、ブラジルにいるうちに、インディオの集落を訪ねてみたいと考えていたところなので、なんだかとてもバツが悪い思いがして、苦笑してしまった。
観光用のジャングルなんてしょせんそんなもの。手を加えられているからこそ観光できるのであって、本当のジャングル生活をしたいのなら、冒険家にでもなるしかないのだろう。エコブームの今、多くの現代人が、昔ながらの暮らしをしているインディオの生活に興味を持ちがちだが、それは結局、ファッションの一つ。
映画の中で、地主の妻が白人たちに英語でジャングルにすむ鳥たちの説明をするシーンがそれがファッションであることを象徴している。
一方、見世物側のインディオたちは、コミュニティ内では現地語を話し、儀式は熱心に行い、伝統を重んじているようにはみえても、内心は、金も欲しいし、おいしいものも食べたいし、いい靴を履きたい、きれいな服も着たい、携帯も持ちたい、というのが本音なのだ。
インディオの若者たちの本音と、一人気をはくインディオの主の葛藤、そして、地主側との確執…。
それぞれ立場があり、誰が悪い、というわけではない。
映画「ミッション」の時代、白人たちに土地を浸食された時に、インディオたちの伝統ある暮らしが脅かされてしまったのだから、今さら、昔の暮らしに戻ろうとしても、それは無理というもの。
映画はあくまでフィクションであり、すべて事実ではないのだが、文明社会と伝統社会の狭間で犠牲になっているインディオの若者たちは確実にいるだろう。
小道具の真っ白なスニーカーと、携帯電話が、うまく使われていた。

好きでもないインディオの男に対しては激しく拒絶しながら、食糧や武器を得るためには白人の男に体を売る、たくましいインディオの女だけが唯一の救い。
あそこまでずうずうしくならないと、生き抜けないのも、悲しいけれど。

ブラジルという国はいろいろな側面があるので、これがすべてではないのだが、多民族国家のブラジルらしい映画であることは確かである。
コミュニティ間、世代間、文明間の摩擦に、鋭くメスをいれた快作で、賛否両論呼びそうな内容ではあるが、日本でもぜひ公開してほしい1本だ。
2008.10 

異境の果てに TERRA ESTRANGEIRA (1996年・ブラジル)★★
ウォルター・サレス、ダニエラ・トマス監督、Fernanda Torres、Fernando Alves Pinto、Alexandre Borges、Joao Lagarto出演
☆舞台は大不況化のサンパウロ。引きこもりがちの青年パコは、唯一の理解者である母の突然の死に動揺。自堕落な生活を送るうち、バーで出会った怪しげな男にある仕事を依頼される。
一方、ポルトガルのリスボンでは、破天荒なミュージシャン、ミゲルとの生活に疲れたアレックスが、親友の楽譜屋ペドロに助けを求める。
 ダイヤモンドの闇取引に手を出したミゲルは、まもなく遺体となって発見され、リスボンに立ち寄ったパコはその死を目撃する。
モノクロの映像、けだるい雰囲気、粋な音楽、小気味いいカット割り、小道具の洒落た使い方。そして、役者たちの魅力…。
すべてが洗練されていて、超クール!
上映開始から5分で、あっという間に映画の世界に引き込まれた。
この映画は、ブラジル映画界の出世頭W・サレス監督の初期の作品であるが、その完成度は「さすが!」の一言に尽きる。
才能にあふれている、というか、センスがいい、というか。
「死刑台のエレベーター」や「冒険者たち」などの、粋なフランス映画にテイストが似ていなくもないが、名作を単にコピーしただけではない、監督独自のオリジナリティもしっかりと感じることができた。
無気力で繊細な美青年パコと、気丈で奔放な年上の女アレックス。
孤独な二人は、お互いの寂しさを埋めるかのように、惹かれあう。
主演二人(Fernanda Torres、Fernando Alves Pinto)はもちろん魅力的だが、脇役も光っている。
とくに、二人を援助する楽譜屋の店長ペドロを演じたJoao Lagarto。わずかな出番ながら、しっかりと存在感を出している。
そのほか、破天荒なミュージシャン、ミゲルを演じたAlexandre Borgesの危ない魅力にもクラクラ…。さらに、チョイ役で、フランス人俳優チョッキー・カリョまで出てくるおまけもあり。
こんな作品が世に出ていないのが不思議。
日本でも「Wサレスのデビュー作!」とかなんとか言って、劇場公開してくれないでしょうか。
スクリーンで、日本語字幕つきで是非、見たい!!
DVDも買って帰りたいし、何度でも繰り返し見たい。
家宝にしたいぐらいの質の高さ!
Wサレスの才能に敬服しました。これ以上ハリウッドに染まらず、個性的な作品を撮り続けて欲しいものです。2008.2 参考CINEMA:「モーターサイクル・ダイアリーズ」 「ビハインド・ザ・サン」「セントラル・ステーション

Tropa de Elite (2007年)
Jose Padilha監督、Wagner Moura、Caio Junqueira、Andre Ramiro出演
☆エリート警察部隊のキャプテン、ナシメントは、毎日の激務で疲労困憊し、薬に頼らないと寝付けない日々を送っていた。
一方、警官として働きながら大学に通う黒人のアンドレは、リオの犯罪多発地帯のファベーラでボランティアをする女子学生と親しくなる。そのファベーラでは、毎夜のように、金持ち学生たちとのドラッグ取引や、悪徳警官との武器取引が行われていた。
ナシメントは、部隊の後継者を育てるため、アンドレたちを召集し、過酷な訓練が始まる。
ブラジルで大ヒットしたクライム・ストーリー。
エリート部隊と犯罪組織との激しいドンパチ・シーンや、過酷な訓練シーンばかりが話題になっていたので、よくある軍隊映画かな、と、あまり期待していなかった。
だが、組織の裏側にまで目を向け、問題提起映画としても見ごたえのある仕上がりになっていた。
W・マウラ演じるキャプテン・ナシメントのナレーションでストーリーが語られていくのだが、話の中心は、ナシメントよりも黒人学生アンドレ。
頭でっかちなエリート学生との付き合いに戸惑いを覚えながらも、一方で、警察官としての生活にも希望を見出せないアンドレの心の揺れがよく描かれていて、感情移入できた。
この映画はフィクションだけれど、現実には、リオのファベーラで同じようなことが起こっているのだと思うと、恐ろしくなった。
リオの町を見下ろせる丘の上での処刑シーンは、何度見てもいやなものだ。世界に名だたる観光都市と犯罪。隣合わせの現実が過去のものとして、語られるようになるのはいつのことなのか。2007.11

TAPETE VERMELHO (2005年・ブラジル)
Luis Alberto Pereira監督、Matheus Nachtergaele出演
☆山の中の一軒家でのんびりと暮す家族が、映画を見たことのない息子に映画を見せてやろうとサンパウロにやってくる。
お気に入りの俳優マテウスが能天気な父親を好演。能天気ファミリーがロバでハイウェイを歩く姿がほのぼのしていて微笑ましかった。
田舎もんが都会へいく話はコメディの定番ストーリーなので、新鮮さはないが、両親とはぐれた息子がストリート・キッズだちと飴を売り歩くエピソードはブラジルらしくて面白い。
まだ出会ったことはないけど、ジャングルの奥地やミナスの山奥には、こういう素朴な人たちが大勢いるのでしょう。一度でいいから出会ってみたいものです。2008.2

Trair e Cocar E So Comecar (2006年)
Moacyr Goes監督、Bianca Byington、Marcia Cabrita、Adriana Esteves出演
☆超リッチな家の家政婦オリンピアが、家の者たちに少しずつ嘘をついたことをきっかけに大騒動になるホーム・コメディ。舞台の映画化のようだが、ドラマっぽい作り。家で寝ながらみるのにはいいけどね。
TVのコメディ「ト・マラ・ダ・カ」でも家政婦演じているAdriana Esteves、名コメディエンヌです。2007.11

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シティ・オブ・マッド Ultima Parada 174
Bruno Barreto監督,Michel de Souza, Chris Vianna,Marcello Melo Junior,Gabriela Luiz出演
☆リオの隣町ニテロイのファベーラで暮らす少年は、食堂で働く母が殺され、叔父の家に引き取られる。喪失感から抜け出せない少年は、フェリーに乗ってリオへ。そこで、ホームレスの少年たちと一緒に暮らし始める。まもなく、彼らの住処が銃撃される事件が起こった。少年は、保護施設に助けを求める。
リオで実際に起こったホームレスの少年のバスハイジャック事件をもとにした衝撃作。主役のMichel de Souzaは熱演していたのだが、展開が少々ドラマチック過ぎ。
女性レポーターや、敬虔なクリスチャンの女性など出さず、もっと、少年たちの心理状態や、心の闇に踏み込んでほしかった。
いろいろな事件を絡めても、それが、少年の犯罪を引き起こす引き金にまでには、いたっていないのが、残念。
評判悪かったので、期待していなかたが、想像以上に、がっかりな内容。この映画より、ドキュメンタリーのほうを断然お勧めします。2008.11 参考CINEMA;「バス174」「AC,AO ENTRE AMIGOS」日本版DVD有り

VINICIUS DE MORAES
ミゲル・ファリアJr.監督
☆天才作詞家であり、アーチストのヴィニシウス・ヂ・モライスの手がけた歌と、彼の人となり、女性遍歴などを、ゆかりの人々が語っていくドキュメンタリー。
ブラジルの音楽界を今もリードし続けるミュージシャンたちの多くが、モライスと親交があり、影響を受けていることが驚きだった。
偉大なアーチストであり超リッチ・マンでありながら、バイーアを愛し、黒人の子ども達とセッションをする映像も残されていて、貧富の垣根のない人物だっことが伺える。日本語字幕がなかったので、細かいところは理解できなかったのが残念。字幕つきでもう一度見てみたい。2008.5

A VIA LACTEA (2007年・ブラジル) 
Lina Chamie監督、Marco Ricca、Alice Braga出演☆大学講師のエイトールは、サンパウロの街を運転しながら、若い恋人ジュリアとの出会いから別れまでを思い出す。サンパウロ名物の交通渋滞にはまり、ひっきりなしにやってくる窓ふきにイライラし、飛び出してきた犬を引き、そして、車強盗の被害にまで遭ってしまう。
サンパウロという街を舞台にした悪夢のような1日を、エイトールの独白と思い出を絡めて綴っていく。
サンパウロという大都会の切り取り方が絶妙だ。交通渋滞、パウリスタ通りの喧噪、排気ガスにまみれながら歩道で飲む人たち、交通事故、窓ふき、強盗…。場面展開にリズムがあり、見ていて小気味よい。
次第にエイトールの記憶が混乱してくるのがなぜか、も察しがつくように構成されている。
楽しい話ではないが、かなり気に入った。
監督は、NY大学で学んだ新進女性監督。スコセッシ監督の「アフター・アワーズ」にテイストが似ているのも納得である。
エイトールを演じたMarco Ricca(「O INVASOR」)、ジュリア役のAlice Braga(「CIDADE BAIXA」で魔性の娼婦を演じた女優)、ともに存在感がある。
小品だが、また見てみたい、と思わせる作品だ。2007.11

VINGANC,A (08年)
Paulo Pons監督、Erom Cordeiro、Barbara Borges出演
☆ブラジルの南部からリオにやってきた若い男ミゲルは、若くてリッチな女性カミーラに近づき恋人になる。そんなミゲルの行動を嗅ぎまわる男が部屋を訪れ…。
白い服を着た若い女性のレイプ後のシーンから始まり、ミゲルの悪夢に彼女の姿が重なっていく。最初はミゲルがレイプ犯?!と疑ったが、次第に彼の目的が明らかになり…。
苦悩するミゲルはいい感じだし、過去を持つ男と金持ちの兄妹の関係も興味深いのだが、ミゲルとカミーラのベッド・シーンが多すぎて、中だるみしてしまった。
復讐すべき男の妹をはじめは利用したつもりが、次第に情が移り…、という流れにしたかったのだろうが、ただ、いちゃつくシーンを見せられても、観客にはそれが「愛」とは伝わってこない。ストーリーはなかなか面白いのだが、描き方にもうひと工夫、欲しかった。 2009.4.27

【w - x - y - z】

A WALTZ FOR BRUNO STEIN (2007年・ブラジル)
Paulo Nascimento監督、Walmor Chagas, Ingra Liberato, Araci Esteves出演
☆農場主のブルーノは、一緒に暮らす息子の嫁に危うい感情を抱きながらも、それを押し殺して生きている。一方の嫁は、留守がちな夫への欲求不満を募らせていた。
老人を誘惑する女が、顔も性格ももっとも苦手なタイプだったので、まったく受け付けず。この映画は、男からの視点のみで描かれている気がした。ああいう女は、男にとっては小悪魔なんでしょう。ファム・ファタールものは、女から見ても魅力のある女じゃないと、見ていて胸クソ悪くなるだけ。好みもあるのでしょうが、苦手な映画。2007.10.19 サンパウロ国際映画祭07にて

Zuzu Angel (2006年・ブラジル)
セルジオ・ヘゼンヂ監督、Patricia Pillar、Daniel de Oliveira出演
☆70年代、ブラジルのモード界で活躍していたゼゼの息子が反体制運動に加わり行方知れずとなる。ゼゼは身を投げうって息子の行方を捜し、軍部に要注意人物として目をつけられてしまう。
「クアトロ・ディアス」でも描かれていたが、当時の軍部の圧力、拷問は目を覆いたくなる。アルゼンチン映画やチリ映画でも必ず取り上げられる負の遺産。辛いことだが、それが現実。
日本でも戦前は同じようなことがあったわけだし…。
リオに来ていたキッシンジャーをゼゼが訪ねるシーンは圧巻。かっこいい女だ! それだけに悲しい結末には胸が痛くなった。2007.9

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【メキシコ】

LA ZONA (2007年・メキシコ) ★★
Rodrigo Pla監督、Daniel Gimenez Cacho, Maribel Verdu, Carlos Bardem, Daniel Tovar, Alan Chavez出演
☆メキシコシティにある住宅街ZONAは、鉄柵と監視カメラによって徹底的に防備された高級住宅街だが、すぐ隣には、スラム街が広がっていた。
ある晩、ZONAの住人が殺される事件が発生した。停電で監視カメラが作動しなくなった隙に、スラム街の強盗3人組が押し入ったのだ。まもなく、強盗と思われる二人の死体が発見されるが、住人たちは、残りの一人を捕まえるため、街を封鎖し、警察をも敵に回して武装をはじめる。
ZONAに住む少年アレハンドロも、住人たちの犯人探しに加わり、武器を手にする。
そしてある日、物置に隠れていた強盗の一人、少年ミゲルを発見する。
恐怖心からくる過剰防衛反応、集団心理の恐ろしさといった、人間の負の部分をえぐり出す上質の社会派映画である。
高級住宅とスラムが隣合せに広がる街。
それは、メキシコシティだけではなく、ここサンパウロも同じである。
高級住宅街が強盗団に襲われる事件は、現実に頻繁に起こっているし、高級住宅街の住人が、強盗被害に嫌気がさして引っ越してしまう、という話も耳にする。
高級住宅街の住人たちが自分たちの身を守るために、武器を持って人間狩りを始める。
日本だったら現実味のないフィクションだが、中南米の国ならあり得ない話ではないのだ。
もし、自分が何度も銃を突き付けられ、強盗に襲われる体験をしたら、ZONAの住人たちのように、過剰防衛に走るかもしれない。なぜなら、人は、自分が一番大事だから。
この映画の中にも、恐怖のあまり守衛に向かって発砲し、誤って命を奪ってしまう老人が出て来るが、誰もが銃を持てる社会では、他人事、と一言で片づけられないリアルな問題なのだ。
映画の中のただ一つの救いは、ZONAに住む少年アレハンドロと強盗ミゲルのささやかな心の交流。
敵同士だった二人が、お互いの名前を聞き合う場面は、唯一、微笑ましかった。
でも、それも一時のものでしかないのだけれど…。
とてもシビアなテーマだし、見ていて辛い映画ではあるが、中南米の社会問題に鋭く切り込んだ力作である。
監督のRodrigo Plaはウルグアイ出身でメキシコの映画学校で学んだということ。長編デビュー作だそうだが、トロントやベネチアでの受賞も納得のクオリティである。
ミゲルを演じたAlan Chavezは同じメキシコ映画「USED PARTS」(下記)でも、お人好しの少年を好演していた。ポスト、GGベルナルになれるかも?!(どちらかというと脇役タイプですが)2007.10.30 サンパウロ国際映画祭07にて

DESIERTO ADENTRO (THE DESERT WITHIN)(08年・メキシコ)★★
Rodrigo Pla監督、Mario Zaragoza, Diego Catano, Memo Dorantes, Eileen Yanez, Luis Fernando Pena, Jimena Ayala出演
☆舞台は40年代のメキシコの村。軍に教会を破壊され、幼い息子を殺された農民エリアスは、家族を連れて、人の訪れることのない砂漠の中へ逃げ込み、一人、教会を建て始める。
さらに、妻の死の代償として授かった病弱な末息子アウレリアーノを部屋に閉じ込め、ほかの子供たちとも接触させず、絵を描くだけの生活を強要する。
時は過ぎ、子供たちも成長。長男は、町へ出たいと父に訴えるが、エリアスは聞く耳を持たない。まもなくその長男が、教会建設現場で転落死した。
エリアスは、出来上がった教会に一人籠り、懺悔する。
人が住むには過酷すぎる砂漠の真ん中に、家族を閉じ込め、息子を亡くした罪からの救いを求めて、教会建設に没頭する父エリアス。なんと身勝手な父親、と怒りを覚えながらも、彼の信心深さに、圧倒されてしまった。
何年もかかって、教会を作り続ける父の姿は、サグラダ・ファミリア建設に生涯をささげたガウディのよう。
「人は生まれながらにして罪人である」。
自分はクリスチャンではないのだが、この映画の父のような一徹な人間に出会うと、人が背負った罪と罰について、考えさせられずにはいられない。
信仰とは何ぞや? 人の罪とは? 罰とは?
一生かかっても答えは出せないであろう難解なテーマに挑んだ監督の意欲に敬服した。

監督は、哲学者キエルケゴールの人生や理論に触発されてこの作品を撮ったということだが、哲学や宗教色の強い難解なテーマを扱いながらも、描き方は現代風で、見やすく仕上がっている。
末っ子の抱くイメージをアニメーションで絵画に仕上げていく手法は、重くなりがちな映画に温もりをあたえていたし、干からびた砂漠の荒涼とした風景の切り取り方も秀逸だ。
また、雨が降って大喜びする子供たちの姿や、人間が木から吊るされた悪夢のような場面等など、印象に残るシーンが多々あった。
ひとつひとつのシーンが、丁寧につくられていて、テクニック的にも、非常に完成度が高い。
プラ監督は、昨年の映画祭で見た「LA ZONA」で大ファンになったのだが、この作品は、1作目とはまったく違ったテイストでありながら、より奥の深さを感じた。
引出の多い才能豊かな監督であることは間違いない。
次回作にも大いに期待ができる注目のイチオシ監督である。2008.10 SP映画祭にて

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マインド・シューター Sleep Dealer 
Alex Rivera監督、Luis Fernando Pena出演
☆舞台は近未来のメキシコ。水不足の世界に生きる田舎の青年は、テロリストと間違われた父がミサイルで爆撃されるという悲劇に遭遇。職を求めて都会に出た青年は、バーチャル・リアルの機械を使って建設する工場で働きはじめる。
SF映画は数多く作られ、高度なCGを使ったアクション等々、進化を続けているが、SF映画を発想がユニークかどうかを中心に判断する私にとって、最近のSF映画の傾向は正直つまらない。映像がいくら高度でアクションがかっこよくても、話がつまらないと飽きてしまうのだ。
その点でこのSF映画は及第点。荒削りでチープな映像ではあるのだが、水不足、誤爆、バーチャルリアルで重労働、という切り口がユニークなので見ていて飽きがこなかった。
原点に戻り、ユニークで奇抜な発想のSF映画をもっと見てみたいのだが…。こんなこと言ってること自体が時代遅れ、なのかもしれませんね。 2008.12 ハバナ映画祭にて 日本版DVD有り

太陽のかけら DEFICIT (2007年・メキシコ)
ガエル・ガルシア・ベルナル監督・主演、Luz Cipriota、Tenoch Huerta出演
☆著名な経済学者の長男とその妹は、親の居ぬ間に別荘で友人を集めて馬鹿騒ぎ。長男は、アルゼンチンから来たピュアな女の子に熱をあげ、庭師の若者と彼女が談笑している姿に嫉妬を覚える。
夜になり、若者たちは、酒とドラッグでハイになるが、妹が薬のやり過ぎて倒れ、騒ぎになってしまう。
金持ちのボンと庭師。立場も違うし抱える悩みは別ではあるが、女を好きになることに貧富の差は関係ない。自分とは住む世界が違うから、と恋を諦めてしまわない庭師クンに、私はかなり肩入れしたが、この映画の視点はあくまでフィフティ・フィフティ。どちらの立場にも立たず、若者特有の悩みをストレートに描いたホロ苦い青春グラフィティに仕上がっている。
ガエルの監督としてのデビュー作。少々青臭さい映画ではあるが、人気俳優の初監督作にありがちな気負いは感じなかった。
処女作らしい初々しさで、背伸びしてないところがいい。
主演・監督を兼務すると、つい主役を格好よく描きたがるものだが、ガエルの演じたボンボンはとことん情けないバカ息子。温室育ちにありがちなひ弱さ、軽さがよく表現されていて、こういう奴いるいる、って感じ。
友人たちのキャラクターが似たりよったりだったり、使用人の描き方が中途半端だったり、いろいろと気になるところはあるけれど、磨けば光る可能性を感じた。
でも、ガエルって実はそんなに若くない?イーストウッドになるのはちょっと無理かな。 2007.10.22 サンパウロ国際映画祭07にて 日本版DVD有り

ナイン・シガレッツ NICOTINA(2003年・メキシコ)
Hugo Rodriguez監督、ディエゴ・ルナ、ルーカス・クレスピ、Norman Sotolongo出演
☆隣人の女性の部屋に仕掛けたカメラを見ながら、一人楽しむハッカーのロロは、マフィアから依頼された銀行の暗証番号の入ったCDの代わりに、隣人のビデオを渡してしまい…。ちょっとした手違いから、次々に人々が犯罪をおかしていく、コメディ・タッチのクライム・コメディ。 隣人をストーカーする−ハッカーの手違いが、マフィア、喧嘩がたえない薬局の夫婦、そして床屋夫婦を巻き込み、次々に手違いが起こっていく。登場人物の絡ませ方、場面展開が絶妙。「ニコチーナ」というタイトルどおり、タバコという小道具の使い方もうまい!ハリウッドがリメイクに、即飛びつきそうな小気味いい犯罪コメディに仕上がっている。メキシコで大ヒットしたのも納得の出来。。ディエゴは、頼りないハッカー男を好演していたが、個人的には、若いマフィアを演じたLucas Crespiがお気に入り。映画にはまだ、ほとんどでていないようだが、今後に注目。監督はアルゼンチン出身のベテラン・プロデューサーとのこと。「ロック・ストック〜」に似ている気がしないでもないが、楽しめたので二重丸。 2008.8 日本版DVD有り

パンズ・ラビリンス EL LABERINTO DEL FAUNO (メキシコほか)
ギレルモ・デル・トロ監督、イバナ・バケロ、セルジ・ロペス出演
☆舞台は1944年フランコ政権下のスペイン。 少女オフェリアは、身重の母とともに、義理の父・ビダル将軍の待つ山奥へと向かう。 冷酷なビダルに怯え、空想の世界へ逃げ込むオフィリアは、山に住む妖精から、魔法の国の王女だ、と告げられる。 一方、山中では、テロリストたちが捕らえられ、ビダルから激しい拷問を受けていた。 ファンタジックな世界と、非情な現実が絶妙に交錯していて、大人も子供も満足できる快作だ。 オフィリアの悲しい瞳がいつまでも心に残る。 妖精たちはお世辞にもかわいい、とは言えないが、映画館のスクリーンで見たら、また印象が違うかも。 ギレルモ監督の次回作も楽しみだ。2008.8 日本版DVD有り

夜のバッファロー El Bufalo de la noche (2007年・メキシコほか)
Jorge Hernandez Aldana監督、Guillermo Arriaga脚本,ディエゴ・ルナ、Liz Gallardo、Gabriel Gonzalez出演
☆大学生のマヌエルは、親友グレゴリオが精神病院から退院したと知り、彼に会いに行くが、その直後グレゴリオは自殺。
マヌエルは、グレゴリオが残した箱の中からあるメモの束を見つける。
その謎の言葉の意味を知ろうと、恋人タニアやグレゴリオの妹から真相を聞き出そうとするが、謎はさらに深まり…。。
マヌエルは、心を病んだ親友グレゴリオの恋人タニアを奪い、何度も激しく愛し合う。だが、そのベッド・シーンは、とてもせつなく痛々しい。
淫靡とも違う、なんとも表現しにくいベッド・シーンの連続に、初めは少々戸惑ったが、タニアを愛撫するマヌエルの心はそこにはなく、いつも親友グレゴリオを思いながら彼女を抱いていたのだとしたら、あの苦悩の表情も納得がいく。
表面的には、親友の彼女を奪った男の悔恨の物語のように見えるが、心の奥に親友へのホモセクシャル的な感情が潜んでいたとすれば…。そう考えれば、この複雑に絡まったストーリーの謎も自然と解けてくる。
救いのない展開で、見ていてとても辛い映画ではあるが、心理描写は秀逸。また、ディエゴ・ルナの演技力も光っていた。
高校時代のマヌエルは、青春映画に出ている頃のディエゴそのままなのだが、現在のマヌエルは、まるで別人のよう(12KG減量したらしい)。
やるなあディエゴ君。個人的には、GGベルナルのルックスのほうが好みだが、才能ではディエゴが上かも。
わかりにくい展開と多くの人の期待を裏切る不可解なエンディングは、一般受けしないだろうが、そこがアリアガ脚本の真骨頂。
すべては彼の想像の中で起きたことなのか、それとも、恋人が仕組んだのか、はたまた死んだグレゴリオの置き土産なのか…。
サスペンス映画として見ると、答えが出ずにイライラするかもしれないので、未見の方には人間の隠しておきたい嫌な部分をえぐる心理ドラマ、として見ることをおススメします。あれこれ深読みしたい人、必見の異色のラテン映画です。 2008.7 日本版DVD有り

31KM KILOMETRO 31
リゴベルト・カスタニーダ監督、イリアナ・フォックス出演
☆双子の姉アガタが交通事故にあったハイウェイ31km地点は、霊によって支配された場所だった…。
ホラーは苦手ということもあるが、さほど恐ろしくもなく、奥深くもなく…。退屈なラテン・ホラーだった。2009.12 日本版DVD有り

ENEMIGOS INTIMOS (メキシコ・08年)
Fernando Sarinana監督、Demian Bichis, Veronica Merchant, Ximena Sarinana, Dolores Heredia出演
☆ガンに侵されたと知った若手社長は、激しく動揺。浮気をしていた妻、カメラマンの母、自称作家の弟らも、戸惑いを隠せない。 一方、大学生の女は、脳腫瘍に侵されたと知るが、最愛の彼氏に本当のことを告げられない。
自分が、もしくは家族がガンを宣告されたら…。彼らと同じように動揺するのは想像できる。 幸い、自分の身にはまだ降りかかってはいないのだが、世界中の多くの人が、ガン、という病に言いようのない不安感を抱いているのは確かである。病とどう向き合うかは、ひとそれぞれの選択なのだが、最後はすべてを受け入れ、幸せな気持ちで旅立ちたいものである。
TVドラマのようなわかりやすい作りだったので、言葉が分からなくても、十分理解できた。ありきたり、ではあったけど、よしとしよう。2008.10 SP映画祭にて

Los Bastardos (2008年・メキシコ)
Amat Escalante監督
☆アメリカで不法の日雇い労働者として働くメキシコ人のファウストとホセは、空腹をいやすため、ある家に侵入。あやまって、主婦を射殺してしまう。
不法労働者が過酷な労働に耐えきれず暴走するバイオレンス映画なのかと思ったら、意外や意外。つらい仕事ではあるが、飄々と生きてるその日暮らしの男たちが、偶然、事件に巻き込まれてしまう、ちょっと間抜けな物語だった。淡々とした日常の描き方は興味深かったのだが、なんとなく中途半端な感じで、話に入り込めず。2008.9 RIO映画祭08にて

深紅の愛 DEEP CRIMSON (96年)
アルトゥーロ・リプスタイン監督、ダニエル・ヒメネス・カチョ、レヒナ・オロスコ、マリサ・パレデス出演
☆子持ちの看護婦コラルは、恋人探しの雑誌で知り合った結婚詐欺師ニコラスと会い、恋をしてしまう。子どもを捨て、ニコラスの妹と偽って詐欺を手伝うコラル。だが、ニコラスがほかの女といちゃつく姿に激しく嫉妬し、女を毒殺してしまう。
デブで激情型のコラルと、ハゲていることに異常なコンプレックスを持つ結婚詐欺師。二人の小悪人がコンビを組んだことが悲劇を生む、実話に基づいたバイオレンス映画。
デブ女コラルの常軌を逸したしつこさと、彼女なしではいられなくなるニコラス。殺害を繰り返す二人の関係は、見ているだけで胸やけするほど濃ゆいのだが、目をそらせない、なんともいえない魅力を感じた。自分は冷静なタイプと思ってはいるのだが、孤独感からニコラスのような男にひっかかり、突っ走る脆さも持ち合わせているかもしれない。次々に殺されていく女たちの姿に自分を重ね合わせ、鳥肌がたった。力尽きた二人の最期の姿から、究極の愛の成就を感じた。2009.12 参考CINEMA:「夜の女王」日本版DVD有り

最も危険な愛し方 Solo Con Tu Pareja (メキシコ)
アルフォンソ・キュアロン監督、ダニエル・ヒメネス・カチョ出演
☆好色男トマスが女とベッドにいる最中、別の女がやってきた。トマスは、留守にしている友人宅に女を呼び、自宅と友人宅を窓を伝って行き来する。さらにトマスは窓から見かけた隣人に一目ぼれし…。好色男と女の仕返しに不治の病をからめたドタバタ・コメディ。B級ノリの万国共通予定調和コメディではあるのだが、主演のカチョはさすが!の上手さ。細部にも小さな笑いがちりばめられていて、その後のキュアロン監督大出世の片鱗も見えた。でも特に印象に残るシーンもなかったですけどね。参考CINEMA:「天国の口、終わりの楽園」日本版DVD有り

夜の女王 LA REINA DE LA NOCHE (93年・メキシコ)
アルトゥーロ・リプスタイン監督、パトリシア・レジェス・スピンドーラ出演
☆40年代、メキシコのキャバレー歌手ルチャ・レイエスの波乱の半生を描いた作品。何が起ろうが娘の味方であるステージママは存在感あり。メキシコでは美空ひばりのような存在なのかも。ステージと私生活の間で揺れる女。今はそういう時代じゃないので、ある意味新鮮だった。リプスタイン監督の長編第一作はガルシア・マルケス脚本の「Tiempo de morir」ということ。機会があれば、ぜひ見てみたい。2008.10 RIO映画祭08にて

Solo Dios sabe  (2006年)
Carlos Bolado監督、アリス・ブラガ、ディエゴ・ルナ出演
☆アメリカで暮らすブラジル人女性ドロレスは、メキシコ旅行中にパスポートを紛失。再発行のため、ダミアンという若い男の車に乗ってメキシコシティへ向かう。ドロレスは、アメリカに残した恋人のことを気にしながらも、ドロレスにひかれ、二人は急接近。だが、パスポートを盗んだのがダミアンだったと知ったドロレスは、ダミアンと喧嘩し、故郷サンパウロへ旅立つ。
若い男女が一つの車で旅をして急接近、は「恋人たちの予感」、ドロレスの妊娠発覚後の波乱万丈ストーリーは「愛と追憶の日々」、というように、どこかで見たことあるようなストーリー。二人の男女の恋物語を、ハリウッド的に、わかりやすく描いている。
アメリカからメキシコ、そしてブラジルでは、サルバドールとサンパウロというように、まるでアメリカ大陸紀行のように、舞台が変わり、ちょっと、とっちらかり気味でしたが、メキシコの砂漠の風景が素敵だったし、主演二人のうらやましいぐらいの若々しさが魅力的だったので、よしとしましょう。
ただ、妊娠発覚後の波乱は、いきなりの悲劇的展開に違和感あり。前半の軽いノリからいくと、妊娠・出産、ハッピーエンドがベストでしょう。2008.7
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バトル・イン・ヘブン Batalla en el Ciello (メキシコ)
カルロス・レイガダス監督、マルコス・ヘルナンデス出演
☆メキシコ・シティで暮らす労働者は、雇い主の娘が売春をしている娼館を訪れ、その娘を指名する。男には、誘拐した子供を死なせてしまった過去があり、その罪を娘に告白する。
 でっぷりと太り、色黒で汗臭そうな労働者と、色白で若い上流クラスの娼婦。真逆の容姿を持った二人がベッドで横たわる姿のアンバランスさが妙に印象に残った。
醜い中年男のワン・ショット、男が直立不動のまま振り返る動作などなど、絵的に美しいとはいえないシーンが多くて、正直、見ていて気持ちのいいものではないのだが、とても奇妙な世界に対して目をそらす気になれず、最後まで居眠りもせず、画面に見入ってしまった。
難解でいわゆる芸術的な映画だとは思うのだが、男やその妻のドラム缶体型や、妻のぶっきらぼうなもの言い、メガネや帽子が不恰好に飛んでいくシーンなど、随所に笑いが散りばめられていて、思わず一人でクスクス笑いしてしまった(ほかの観客はシーンと静まりかえっていましたが)。
若い娼婦に思いを寄せる不器用な男が主人公で、彼の贖罪がテーマになっているあたりは、キム・ギドク映画に通じるものアリ。決して好きな映画とはいえないが、嫌いじゃない世界です。2009.10 東京国際映画祭にて 参考CINEMA:「ハポン」「静かな光」

ハポン Japon(メキシコ)
カルロス・レイガダス監督、アレハンドロ・フェレティス出演
☆人生に絶望した都会の男は、山奥の村にたどり着く。ある老婆の家で世話になり始めた男は、少しずつ、生きる意欲を取り戻しはじめるが…。
単純に言えば中年男の再生物語ではあるのだが、その切り取り方がとても個性的。男が杖をつきながらゆっくり歩く姿、皺くちゃのお婆ちゃんが黙々と男の世話をする姿、労働者がだみ声で歌う姿、自慰行為、年老いた男女のセックスシーン等々、美しさとは程遠いシーンの連続なのだが、観客にとって優しくないシーンをつないでいきながら、最後に大きなドラマが待っている。その静と動のコントラストがお見事である。
山奥の砂利道のシーンはキアロスタミ映画を意識したと話していたが、きいて納得。テイストが似てるかも。
 一人暮らしの女の窮地を救おうとして失敗するあたりは、逆西部劇っぽくもあり…。とにかく、一言ではいえないほど、深読みすれば、いろんな要素が詰まっていそうな作品である。
 一見、常識人で素敵なルックスをお持ちのレイガダス監督だが、頭の中は、凡人には理解不能なアイデアであふれているのでしょう。
何度も言うが、決して好きなタイプの映画ではない。だけど気になって仕方のない監督の一人であることは間違いない。2009.10 東京国際映画祭にて 参考CINEMA:「バトル・イン・ヘブン」「静かな光」

静かな光 Luz Silenciosa (2007年・メキシコほか)
カルロス・レイガダス監督、Cornelio Wall、Elizabeth Fehr、Maria Pankratz出演
☆主役はロシア・メノナイト派のヨハン一家。彼らは、メキシコに住みながら、ロシア語(?らしき言葉)を話し、テレビも電話も持たず、現代とは思えない質素な暮らしを続けている。
一家の主ヨハンは家族思いで、宗派の規律をしっかると守っているものの、一方で、同じ宗派の女マリアンヌをも愛してしまう。
ロシア・メノナイト派というのは、アーミッシュのような暮らしをしている人々で、現代社会に迎合せず、古いしきたりを守り続けている超保守派。そんな彼らの静かな暮らしぶりを、ドキュメンタリーのように、ゆっくり、淡々と、超長まわしで、カメラは追い続ける。
メキシコ平原の夜明けのロング・ショットから始まり、平原にまっすぐ伸びた砂利道のワン・カット、そして、ヨハン一家の長ーいお祈り、一人家に残され孤独に座るヨハンのアップ…。
長回しの連続で、はじめはそのリズムについて行けず、正直戸惑った。
でも、その長回しに慣れてくると、今度は心地よくなり、長回しと、自分の集中力、どちらが先に切れるか、などなど、根競べなどして楽しんでしまった。
単に、メノナイト派の人々の暮らしぶりを長回しテクを使って紹介するだけなら、ドキュメンタリーのほうがリアルでいいのだろうが、この映画にはドラマがある。
後半30分に、いきなり大きな波乱があるのだ。
それまでの2時間弱が、あまりに静かで単調な世界だっただけに、その展開に、客席からは思わずどよめきが起こるほど。
しかもその波乱が、1回でなく2回も起こるのだ。
映画の始めと終わりで、こんなにも感じ方の違う映画も珍しい。でも、それが不思議と違和感はなく、うまい具合につながっているのである。
カメラの長回しといえば、タルコフスキーや相米監督らが有名だが、レイガダス監督も、名監督たちに引けをとらない長回しテクニシャン(?)と言えるだろう。
カンヌやベルリン映画祭での受賞も納得の秀作だ。
ただし、一般受けする映画ではない。前に座っていた若者は、ずーっと眠っていたし、私も、もし寝不足で見たら、寝息をたててしまっていたはず。
この独特のリズムを持った世界、はまると面白いが、まったく受け付けない人も多いだろう。
正直、静かな映画は苦手なほうなのだが、この映画には珍しくハマった。
カウリスマキ監督作品を、より淡々と個性的にした映画、とでも言ったらいいのか。
でも、ちょっとテイストは違うしなあ(即、撤回)。
とにもかくにも、カルロス・レイガダスという映画監督、只者でないことだけは確かである。次回作にも期待大!2008.5

Ano una(メキシコ・2007年)
Jonas Cuaron監督、Eireann Harper, Diego Catano出演
☆ NYに住む女学生が、夏の間メキシコシティの親戚の家へ行き、年下の従兄と交流を持つ。二人はそれぞれに好意を持っているのだが、お互いうまく伝えられない。そんな二人の気持ちを写真とモノクロームだけでつづったおもしろい構成の恋愛ドラマ。女学生のモノクロームは英語で、従兄の少年はスペイン語で語られるので、違いがはっきりしているのもいい。洒落た映画だった。2008.4.11 ブエノスアイレス映画祭にて

J.C. Chavez (2007年・メキシコ)
ディエゴ・ルナ監督
☆メキシコの人気ボクサー、チャベスの栄光と、復帰までの道のりを追ったドキュメンタリー。俳優ディエゴ・ルナが監督、ということであまり期待せずに見に行ったが、意外や意外、チャベスの人柄をよく捕らえ、復帰戦までの緊張感もしっかりと取材した骨太のドキュメンタリーに仕上がっていた。ディエゴ君はガエル君より、監督の才能あるかも。次回作にも期待大である。2008.4.9 ブエノスアイレス映画祭にて
COBRADOR (In God We Trust) (メキシコ・アルゼンチンほか・2006年)
PAUL LEDUC監督、ラザロ・ハモス、ピーター・フォンダ出演
☆NYで殺人を繰り返し、指名手配になった黒人の男は、逃亡先のメキシコシティで知り合った社会派カメラマンの女と一緒に、かつて働いていたブラジルの炭鉱へ向かう。
一方、人種差別主義者の白人男は、マイアミで黒人の女をひき殺すことに快感を覚えていた。
ブラジルでは誰もが知っている人気俳優のL・ハモスが、ほとんど言葉を発せず、顔だけで連続殺人犯を怪演。
鉱山での過酷な労働を強いられた過去を持つ男が、社会に対する怒りから、危険な男へと変貌しのだろうが、その心の変遷はほとんど語られない。
「同情無用、自分は社会悪だ、何が悪い」ってな感じで、アメリカ大陸をNY、メキシコ、ブラジル、そしてアルゼンチンへと南下していく。
人目を気にしながらヒッチハイクで逃亡したりしないし、あっというまに、異国へ飛んでいく。そのフットワークの軽さが小気味いい。変に重々しくならないハモスのおどけた雰囲気が、キャラクターにぴったりあっていた。
一方、P・フォンダ演じる黒人嫌いのブルジョワ男の行動は陰湿で不気味だ。
笑顔はいっさいなく、黒人女性を見つけては、無惨にひき殺すことを繰り返す。こちらも、過去や背景はいっさい語られない。ただ、彼は孤独なのだろう、ということだけが伺える程度だ。
映画全体の雰囲気はカラッカラに乾いている。サラサラでもサラリでもなく、カラッカラで、体に痛い感覚だ。
わずかに、過去を推測できるカットはあるのだが、それも、親切ではない。二人の殺人犯がどんな形でつながるのか、鉱山の老人はいったい誰?など、気になることはたくさんあるのだが、観客にわからせようとはしていない。「これだけで理解しろ」と、突き放している感じである。正直、見やすい映画ではないが、この不思議なリズム感&質感は、きらいじゃない。タランティーノのような奇抜さはないのだが、メジャー映画を目指さない独自性、アナーキーさが気にいった。
ルデュク監督のほかの作品もせひ見てみたい。2008.7

PARTES USADAS -USED PARTS- (2007年・メキシコ)
Aaron Fernandez監督、Eduardo Granados, Alan Chavez, Carlos Ceja出演
☆大都会メキシコ・シティで、洗車屋のバイトと、中古部品屋の叔父の手伝いをしながら、忙しく暮らす14歳の少年イバンは、大金を稼ぎたいという叔父のすすめで車の部品泥棒の手口を学ぶ。やがて、自分を置いてアメリカへ行こうとする叔父の裏切りに激怒したイバンは、裏社会を仕切る男と接触。男はイバンに拳銃を渡し、車泥棒を命ずる。
友人と無邪気に遊ぶ少年が、大人たちの汚れた手に染まっていくまでが、ストレートに描かれている。特に斬新さは感じなかったが、少年二人の演技はmuito bom!同じ時代、同じ国でも「COCHOCHI」の少年とはまったく違う世界である。
「COCHOCHI」が素朴なら、こちらは殺伐。欲と悪でギラギラしていて、活気はあるけど、むなしい世界。それでも、友人と無邪気にじゃれあう少年たちの姿は、「COCHOCHI」の少年と大差ない。子供らしい生活が理想ではあるけれど、そうは言っていられない現実があるしなあ…。一人旅立つ少年イバンの行く末を考えると、ため息が出てしまうが、いろいろ乗り越えて、裏ではない人生を送ってほしいよなあ、などと、フィクションにも関わらず今後の彼の人生について、あれこれ想像してしまった。2007.10.28 サンパウロ国際映画祭07にて

DOS ABRAZOS (2007年・メキシコ)   
Enrique Begne監督、Maya Zapata, Giovanni Florido, Jorge Zarate, Ximena Sarnana出演
☆病気の弟のいる12歳の少年が、スーパーのレジ係の女性に恋をした。勝気な彼女は少年に冷たくあたるが、彼女自身も孤独な人生を送っていた。
一方、タクシー運転手は、短気な客が突然発作で倒れ、慌てて病院へ運び込む。親族の代わりに客の高級マンションへ荷物を置きにいくと、そこに放蕩娘が現れる。
12歳の少年と年上の女、中年のタクシー運転手と若い娘。年も環境もまったく違う者同士が、ひょんなことから結びつき、共に過ごす時間を切り取った心温まる人間ドラマ。
都会で暮らす孤独な人間たちの生活は、メキシコシティだろうが東京だろうが、サンパウロだろうが、大差はない。人生はいろいろと大変で、思うようにならず、疲れることが多い。だから、誰かと少しだけ寄り添っていたいのだ。
私自身、日本を離れ、日々、忙しく暮らしてはいるのだけれど、心のどこかで、家族や友人を恋しく思っているのかもしれない。この2つの抱擁の物語に、なんだか妙に心が揺れ動き、自分の孤独感と重ね合わせてしまいました。「感情移入」という意味では、ここ半年で一番の作品。
今年のトライベッカ映画祭で賞をとったらしいが、納得の佳作だ。
12歳の少年を演じたGiovanni Floridoの表情がとてもいい。年増女の心をぐっと掴むキュートな少年。今後に大いに期待したい。2007.10.27 サンパウロ国際映画祭07にて

COCHOCHI (2007年・メキシコ)
Israel Cardenas監督
☆メキシコの山奥の村で暮らす少年は、お爺さんに頼まれて、遠い村まで薬を届けにいく。悪友の提案で、お爺さんから一頭の仔馬を狩り、仔馬に乗って出かけるが、途中で仔馬が行方をくらます。少年と悪友は、山の中、仔馬を探しまわるが…。
限りなくドキュメンタリーに近い、素朴な少年の小さな冒険物語。
おそらく実際に山奥の村で暮らす人々が演じているのだろう。セリフやストーリーよりも彼らの暮らしぶりが、一番興味深かった。
便利な暮らしとは無縁に、自分たちの生活を淡々と生きている人々は、ブラジルにも大勢いるのだろうけど、ここサンパウロにいる限り、まったく想像がつかない。
日本だと、田舎も都会も大差のない暮らしぶりなのだが、中南米は、同じ時代とは思えない暮らしをしているんだよなあ。
少々、まったりしすぎて退屈ではあったが、「洗練」とは無縁の世界もいいものですね。2007.10.25 サンパウロ国際映画祭07にて

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【アルゼンチン】
失われた肌 EL PASADO (2007年・アルゼンチンほか)
エクトール・バベンコ監督、ガエル・ガルシア・ベルナル、Analia Couceyro, Moro Anghileri出演
☆孤独を愛する翻訳家のリミニは、妻ソフィアとの結婚を解消し、道端で知り合ったモデルのベラと暮らし始める。しかし、リミニと元妻ソフィアがいるところを目撃したベラは、ショックで車の前に飛び込み、死んでしまう。その後、リミニは同僚カルメンと結婚。子供も授かるが、記憶障害に悩まされ、仕事ができなくなる。そんなある日、元妻ソフィアがリミニの前に現れた…。
リミニという男は、女によって人生を狂わせていくように見えるのだが、実は、誰も愛せない男なのかもしれない。つかみどころがなく、心ここにあらず。でも、そこが不思議な魅力でもある。
そんな正体不明な男を、GGベルナルが、けだるく演じていた。
全体的に退廃的ムードが漂い、ウォン・カーウァイ映画のトニー・レオン(もしくはレスリー・チャン)が演じる男たちを彷彿とさせた。
それだけに、女たちの存在が惜しい。リミニが関わる女たち、ソフィア、ベラ、カルメンともに、個性は違うのだが、いずれの女性も匂ってこない。つまりは雰囲気がない。コン・リーやマギー・チャンのような女の香りがしないのだ。
南米とアジアというお国の違いがあるので、比べるのは無理があるのかもしれないが、ガエルがいいだけに、とても残念。&時代を現代ではなく、過去にしたほうが、もう少しアンニュイな雰囲気が出てよかったのになあ、などと、大監督に注文だしたくなりました。2007.11.1 サンパウロ国際映画祭07にて 日本版DVD有り

CORAZON ILUMINADO (1996年・アルゼンチン,ブラジル)
エクトール・バベンコ監督,Miguel Angel Sola、Maria Luisa Mendonca、Walter Quiroz出演
☆病気の父親を見舞うためLAから帰国したフアンは、若い頃に出会った一人の女性アナを思い出す。
心の病を抱えるアナと心優しいフアンの幸せなひとときは長く続かず…。
「ベティ・ブルー」のベアトリスもよかったが、Maria Luisa Mendoncaの演技もすごい。奔放女と振り回される男のドラマは正直苦手だが、この映画に限っては、女の奔放さよりも苦しみがジンジン伝わってきた。バベンコ監督はゲイ?男よりも断然、女側の描き方がうまい監督だ。参考2008.1

LAS VIDAS POSIBLES (2007年・アルゼンチン)
Sandra Gugliotta監督、German Palacios, Ana Celentano, Natalia Oreiro出演
☆ブエノス・アイレスで暮らす女は、突然、失踪した自然学者の夫の行方を捜しに、パタゴニアへ向かう。そこには、夫そっくりの男が、別の女と暮らしていた。
男は別人なのか、記憶を失っているのか、それとも嘘をついているのか…。
妻が夫そっくりの男を監視し、心を高ぶらせ、恋に落ちていくまでの心理描写がとても繊細に描かれている。
女のしつこさ、不安、揺れる心、深い愛情などなど、ありったけの感情が集約されているのだが、決してうるさく感じない。パタゴニアの荒涼とした自然と、女の複雑な感情がコラボして、美しい世界を生み出していた。
とても悲しい物語ではあるのだが、すべて終わりではない、何か、夜明けの予感のようなものを感じる素敵な映画だった。ロカルノ映画祭で賞をとったのも納得の秀作である。2007.10.19 サンパウロ国際映画祭07にて

La Leonera (08年・アルゼンチン)
Pablo Trapero監督、Martina Gusman, Rodrigo Santoro, Elli Medeiros出演
☆大学生のジュリアが、殺人未遂容疑で逮捕された。ジュリアの家には、瀕死の男の姿があり、はげしく暴行された後があった。出来事を何も覚えていなかったジュリアだが、お腹には、彼の子供がいた。
刑務所内で出産したジュリアは、囚人仲間の手をかりながら、子供を育てていく。だが、面会にきた母は、子供を引き取りたい、と言い出した。
刑務所という劣悪な環境の中で、子供を育てる女囚たち。そのたくましい姿が印象的だった。お嬢さん育ちのジュリアは、荒っぽい囚人たちにもまれ、母に裏切られ、どんどん強くなっていく。そんな彼女に視点を集中し、ジュリアという女性を魅力的に描いていた。
たしかに、ジュリアの生きざまはカッコイイ。わがままだけど、筋が通っている。
監督は、そんな女の生きざまに惚れたのかもしれないが、女優が監督の妻、というせいもあるのか、ちょっと美化しすぎの感あり。
どちらかというと、孫可愛さに、刑務所から孫を連れ出してしまう母の気持のほうに感情移入してしまったので、ジュリアの激しさが鼻についた。
力作ではあると思うのだが…。女刑務所内の様子も、泉ピン子主演の2時間ドラマと大差なかったし…。、期待していただけに、がっかり感のほうが強かった。2008.9 RIO映画祭08にて

NASCIDO E CRIADO (2007年・アルゼンチン)
Pablo Trapero監督、Guillermo Pfening,Federico Esquero主演
☆ブエノスアイレスに住むサンチアゴは、妻と娘と幸せに暮らしていたが、交通事故を起こしたことで人生が一転。事故の後遺症に苦しむサンチアゴは、一人パタゴニアの寒村へ移り住む。
コンサバ男と人生に絶望した荒くれ男。180度違う役がらを好演したGuillermo Pfeningが、とにかく素晴らしくて、見入ってしまった。
コンサバ編も素敵だったが、事故の後遺症にもがき苦しむひげ面編はマラビリョーゾ!。女心をくすぐられ、妻を演じた女優に嫉妬するほど。
地の果てパタゴニアの寒々とした景色も素晴らしく、サンチアゴの心の闇と風景が見事にマッチしていた。
唯一、エンディングだけには少々納得いかず。まったく違う新しい人生のほうが、サンチアゴには合っている気がするのだが。主演のGuillermo、今後も追いかけます。2007.10.27 サンパウロ国際映画祭07にて

XXY (2007年・アルゼンチン)
Lucia Puenzo監督、Ricardo Darin, Valeria Bertucceli, German Palacios, Carolina Peleritti出演
☆アルゼンチンの小さな漁村で、隠れるように暮らしている一家のもとへ、ブエノスアイレスから客が訪れる。一人娘のアレックスは、16歳の少年イバロスと親密な関係になるが、そこで彼女の秘密が明らかになり…。
両性を持つ少女とその家族の苦悩を描いた意欲作。とても難しいテーマを扱っているが、奇をてらったところはなく、真摯に少女の苦しみに向き合っていた。
複雑なアレックスの心情を主演のRicardo Darinが熱演。ひれ伏したいぐらいに、素晴らしかったです。2007.10.24 サンパウロ国際映画祭07にて

Derecho de familia (2006年・アルゼンチン)
ダニエル・ブルマン監督、Daniel Hendler、Arturo Goetz出演
☆主人公は、やり手弁護士の父に強いコンプレックスを持つ大学教師のアリエル。
ピラテスにどっぷりはまっている彼女サンドラとの間に子供ができ、結婚したのはいいけれど、家では妻の尻にしかれる日々。夫になり、父になっても、なかなか大人になりきれない。
そんな彼のもとに、ある日、偉大なる父から連絡が入った。。。
ダメ男君と彼をとりまく家族のそこそこ幸せな人生を、コミカルなタッチで描いたライト・コメディ。
ユダヤ人ということで、何かとウディ・アレン映画と比較されやすいが、この作品は前作「僕と未来とブエノスアイレス」よりも、さらにアレン映画に近いテイスト。
そこそこ恵まれた人生を送りながらも、人並み以上に強いコンプレックスを抱き、独りよがりな悩みに翻弄されているあたりが、ウディ・アレンっぽい。
体も細身で、動きがコミカルなあたりも似ているし。強い信念を持って生きている妻と、気持ちがいつもフラフラしている夫の対比がユニークだし、立派な父に対する憧れとコンプレックスの入り混じった微妙な気持ちも、小道具を使って繊細に描かれていた。
前作よりも、かなりこなれた感じがして、監督の将来性を感じた。
これから、ヨーロッパの映画祭でも注目されるのではないでしょうか?
ただ、残念だったのは、私の語学力。主人公のモノローグが多くて、そこは、ほとんどまったくついていけず。
おそらくそれがこの映画の持ち味で、粋な表現がいっぱい詰まっていたのでしょうが。。。
会場では、クスクス笑いが起こっていましたが「わかんねいよー」と、少々悲しくなりました。2007.9 参考CINEMA:「僕と未来とブエノスアイレス」

瞳の奥の秘密 EL SECRETO DE SUS OJOS (09年・アルゼンチン)
ファン・ホセ・カンパネラ監督、リカルド・ダリン、ソレダー・ビリャミル、パブロ・ラゴ、ハビエル・ゴディノ、 ギリェルモ・フランセジャ出演
☆裁判所で働くエスポシトは、定年後、昔、担当した事件を基に小説を書き始める…。
1974年、美しい新妻の全裸死体が発見された。警察は、外国人労働者に暴行を加え犯人に仕立て上げるが、エスポシトは、殺された女性の写真に写る幼馴染の男を疑っていた。まもなく捜査は打ち切りとなるが、混んだ駅で毎日犯人を探す夫の姿に心を動かされ、エスポシトと同僚パブロは、真犯人捜しを再開する。
男が母に宛てた手紙の内容から、熱狂的なサッカー・ファンだとよんだエスポシトとパブロは、彼が出入りしそうなサッカー場に通い、男を発見。ついに逮捕して自供を引き出す。だが、時代は悪のはびこる軍事政権下だった…。
一つの殺人事件に深く関わっていく男と、70年代の軍事政権時代の闇を絡めたサスペンス。現代と過去が行ったり来たりする構成で、登場人物も多いため、最初は少々、分かりづらかったが、徐々に絡まった糸がほぐれていくと、ぐっと話に引き込まれた。
松本清張の小説にも匹敵する巧みな展開で、ハリウッドがリメイクするかも。
悪党役のハビエル・ゴディノはスペインの役者のようだが、危険な色気ムンムンで魅力的。
そして、酒飲みの同僚役ギリェルモ・フランセジャはウディ・アレン映画の常連のような味のある演技派。ディエゴ・ルナとGGベルナル共演のメキシコ映画「ルドandクルシ」(2010年2月公開)にも出演している。
おそらくこの映画、日本でいえば、オールスター・キャストの大作「ゼロの焦点」「八つ墓村」のような作品に匹敵するのだろう。
アルゼンチン映画は、詩的でアンニュイなアート作品や社会派ものばかり見てきたが、こういった正当派も悪くない。アカデミー外国語部門のアルゼンチン代表も納得の上質のサスペンス映画だ。2009.12

タンゴ・シンガー La Cantante de Tango (09年・アルゼンチン)
ディエゴ・マルティーネス・ヴィニャッティ監督、ユージニア・ラミレーズ・ミオリ出演
☆ブエノスアイレスの小さなバーで歌っていたタンゴ歌手は最愛の人に突然別れを告げられ激しく動揺する。未練を断ち切れず、歌うこともできなくなった女は、弟が住むフランスの田舎町へたどり着く。
女の愛憎ドラマが展開するブエノスアイレスはアンニュイな雰囲気をかもし出すの赤、癒しのために訪れたフランスの町は白というように、色や光を使って彼女の心の変遷を描いた秀作だ。レイガダス組の撮影監督だけあり、その映像テクには魅せられた。
ヒロインの映し方は、まるでモディリアニの肖像画のよう。監督と主演女優は間違いなく恋愛関係にあると分かった(妻だそうです)。
ドラマの展開や構成はちょっと煩雑で、最後の15分は余計な感もあったが、随所に見られた絵画のような静止画が印象的で、悲しい恋の歌も胸に迫ってきた。恋に破れた女の悲しみは、深くてしつこいものである。女心をしっかり捉えた大人の映画だ。2009.10 東京国際映画祭にて

オリンダのリストランテ HERENCIA (01年・アルゼンチン)
パウラ・エルナンデス監督、リタ・コルテセ、アドリアン・ウィツケ、マルティン・アジェミアン出演
☆ブエノスアイレスの下町でレストランを経営するイタリア移民のオリンダは、店を閉めようか迷っている。そんなある日、ドイツ人青年ペーターが現れ、彼女の周りをうろつくようになる。
小さなレストランの店主と取り巻く人々とのささやかな交流を描いた人間ドラマ。アルゼンチンであろうが日本であろうがヨーロッパであろうが、言葉が通じなかろうが、人と人は心でつながることができるのよね〜。大きなドラマもないシンプルな作品だが、温かいマテ茶を飲んだ後のような気分になりました。2009.12 日本版DVD有り

ある日、突然 TAN DE REPENTE
ディエゴ・レルマン監督、タチアナ・サフィル、カルラ・クレスポ出演
☆ブエノスアイレスで暮らすちょっと太めの冴えない女店員マルシアは、ある日、町ですれ違ったレズビアンの女マオとレーニンから言い寄られ、拉致される。田舎の親戚の家を訪ねた3人は、そこで暮らす大人たちとささやかな交流を持ち…。
若い女たちが、知らない世界に足を踏み入れ、少しだけ大人になっていく青春ストーリー。
ブエノスアイレスで暮らす若者の今の姿をスタイリッシュに描いている。国は違えど若者たちの閉塞感は一緒。かなりあぶない女たちではあるが、彼女たちの寂しさは伝わってくる。みんなどこかで誰かと繋がっていたいのだろうけど、それを相手にうまく伝えることって、簡単なようで難しいのよね。年代はだいぶ違うけど、不器用な彼女たちに共感を覚えた。2008.8 日本版DVD有り

娼婦と鯨 LA PUTA Y LA BALLENA (04年)
ルイス・プエンソ監督、アイタナ・サンチェス=ギヨン、レオナルド・スバラグリア、カローラ・レイナ出演
☆乳がんの手術で入院中の作家ヴィエラは、30年代の写真家が撮ったある娼婦の写真に惹かれる。同じ病院で隣に寝ていた老女が、写真に移っていた娼婦とある時期を共に暮らしたと知ったヴィエラは、娼婦の人生と自分の人生を重ねていく。
美しい大人の映画である。30年代、芸術家らに影響を与えたファム・ファタールの退廃的な雰囲気がいい。そして、彼らの世界に魅せられ、娼婦と自分の姿と重ねるヴィエラが、また魅力的だ。
アルゼンチンのアンニュイな雰囲気、タンゴの調べと、女の悲しい物語が見事にマッチした秀作だ。2008.8 日本版DVD有り

南から来た女 Lifting de Corazon (2005年・アルゼンチンほか )
エリセオ・スビエラ監督、ペップ・ムンネ、マリアナ・アンギレリ、マリア・バランコ出演
☆スペインの美容整形外科医アントニオは、学会先のブエノスアイレスで知り合った若い女性デリアに恋心を抱く。出張先で逢瀬を重ねる二人だったが、浮気は妻のしれるところとなり…。コミカルなタッチのかるーい不倫ドラマ。主演二人よりも、夫に浮気された妻に肩入れしてしまった。2008.8 日本版DVD有り

Quien dice que es facil?  (2007年・アルゼンチン)
Juan Taratuto監督、Diego Peretti,Carolina Pelleritti出演
☆几帳面で冴えない中年男アルドの部屋の隣に、カメラマンの女性アンドレアが越してきた。アンドレアは妊娠中だったが夫はいない。アルドは、自由奔放なアンドレアに振り回され…。不釣り合いな二人が近づき恋に落ち、困難を乗り越えながら家族となる定番のラブコメ。セリフがわかればもう少し楽しめたのだろうが、自由奔放な女が苦手ということもあり、正直退屈だった。南米らしさはとくに感じられず。2008.8

聖少女 LA NIN~A SANTA (2004年・アルゼンチン)
ルクレシア・マルテル監督、Mercedes Moran出演
☆中年医師に痴漢をされた女学生は、その男の後をつけ、家を訪ねる。一方、女学生の母もその中年医師と知り合い…。思春期の少女の性の目覚めを真面目な視点で描いた作品。生真面目なむっつりスケベ男、個人的にはまったく受け付けないのだが、客観的に見れば、女たちが惹かれるのもなんとなくわかる。羊の皮をかぶった狼を、女たちは心のどこかで待ち望んでいるのかもしれません。 女性監督ならではの、繊細な心理描写は秀逸。2008.8

LA VENTANA  (08年・アルゼンチン)
Carlos Sorin監督、Maria del Carmen Jimenez、Antonio Larreta出演
☆病床にある老人のささやかな夢をゆったりと描いた絵画のような作品。アルゼンチンの大平原の映像は美しかったのだが…。とにかくドラマがほとんどない。老人の夢、ということなので、黒沢監督の「夢」のような作品を期待したのだが、夢のシーンもほとんどなく、退屈でした。残念。2009.5

Cordero de Dios (2008年)
Lucia Cedron監督、Mercedes Moran、Jorge Marrale、Leonora Balcarce出演
☆ある富豪の老人が誘拐された。親戚が家に集まり誘拐犯人の指示に従うが…。時代は変わり70年代。美しい少女は、父と一緒に祖父の元を訪れる…。
少女の目を通して描かれた軍事政権の70年代と、祖父が誘拐された現代のフラッシュバックがとっちらかっていて、しばらく、同じ人々の話とは気付かず(言葉がわかる友人も同じことをいっていたので、私の語学力のなさが原因ではないようだ)。
70年代、父が殺された事件と富豪の祖父の誘拐が深くかかわっていた、という設定は面白いし、とても興味深いサスペンスなのだが、フラッシュバックの使い方があまりにもお粗末で…。残念な出来。ただ主役の少女は愛らしくてよかったです。若い女性監督が舞台挨拶していたが、もうちょっと技を磨けば光るかも。アルゼンチンの映画業界は女性上位なようですし。2008.12 ハバナ映画祭にて

LLUVIA  (2008年)
Paula Hernandez監督、Valeria Bertuccelli出演
☆ブエノスアイレスの雨の渋滞。車に生活用品を持ち込み、寝泊りを続ける女の車に、男が突然逃げ込んできた。女は男を何も言わずに匿うが…。傷ついた男と女が、ひょんなきっかけで知り合い、いっとき慰めあう定番のボーイ・ミーツ・ガール。どことなく日本のインディ映画っぽいので見やすかったが、展開が予定調和いすぎて途中で飽きてしまった。雨が降り続くのはブエノス・アイレスが舞台の映画にはよくあるが、それだけ雨が多いということ?など、男女の物語より天気が気になってしまった。

La Sangre Brota  (2008年)
Pablo Fendrik監督、Arturo Goetz出演
☆薬中の若者はある若い女性の後を付け回し、その父は、ある犯罪の金に手を出す。二人の男が、ブチ切れまくるバイオレンス映画?。何が言いたいんだか、さっぱりわからず。観客も途中退席続出。拷問のような1時間半でした。今回は、アルゼンチン映画が大外れでした。2008.12 ハバナ映画祭にて

El Nido Vacio (2008年・アルゼンチン)
Daniel Burman監督、Oscar Martinez, Cecilia Roth, Arturo Goetz出演
☆家族持ちの中年作家レオナルドは、妻や仲間たちと出かけたレストランで見かけた若い女性が、気になってしかたがない。その夜、家に戻ったレオナルドは、子供たちの散らかした居間のソファーに座りながら、新しい物語を書きはじめる…。
平凡な人生を送る中年作家の妄想を面白おかしく描いたコメディ。
アルゼンチンのウディ・アレンといわれるブルマン監督だが、この作品は本当にアレン映画のコピーのよう。アレンほど間抜けではないにしろ、主人公のウジウジ感がそっくり!
ブルマン作品は、ぜひ日本語字幕付きで見直してみたいのだが、日本ではなかなか日の目をみないのが残念。妻役のセシリア・ロスはいくつになっても魅力的。なんでこんな冴えない男に美人妻が?と、少々、違和感あり。2008.9 RIO映画祭08にて

POR SUS PROPIOS OJOS (08年・アルゼンチン)
Liliana Paolinell監督、Eva Bianco、Ana Carabajal出演
☆映画学校の女学生は、受刑者とその家族にスポットをあてたドキュメンタリー映画を撮影するため、仲間とともに刑務所を訪れる。 自分と息子を取材してほしいと、言ってきた女の家を訪ねてみるが、彼女は約束を忘れていて…。
好奇心旺盛なエリート女学生が、受刑者の息子と身勝手な母に振り回されながらも、彼らに傾倒していくまでをドキュメンタリー風に描いた作品。 初々しさは好感が持てたのだが、いま一つ心にひびいてこなかった。まだまだこなれていない感じ。
アルゼンチンは、映画祭に多くの女性監督作品を輩出していることは、注目に値する。エビータの時代から、女性がリーダーになることに抵抗のないお国柄なのでしょう。今の大統領も女性ですし。グラマード映画祭08で女優賞等受賞。2008.10 SP映画祭にて
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Familia rodante (2004年・アルゼンチン)
Pablo Trapero監督、Graciana Chironi、Nicolas Lopez、Liliana Capurro出演
☆遠くに住む親戚の結婚式に出席するため、84歳のお婆ちゃんを連れて、一家でトレーラーに乗って旅をするが、道中、トラブルの続出で…。お婆ちゃんのおとぼけキャラがケッサク。すぐに熱くなるお父ちゃんや、盛りのついた猫のように異性に興味しんしんの子供たちも個性的だ。道中で起こるトラブルをみんなで解決して、家族の結束が強まるのかと思いきや、そのまんまにして、スルーしてしまうのが、ラテンぽいというか。涙あり笑いありのドラマに仕立てず、ドキュメンタリー風に旅する家族を追っているのに好感がもてた。「リトル・ミス・サンシャイン」をよりリアルにした感じ、とでもいえばいいか。個人的には、もう少し「笑い」の部分が欲しかったのだか、アルゼンチンのだだっ広い風景が素敵だったのでよしとしましょう。2008.8

CRONICA DE UNA FUGA (2006年・アルゼンチン)
Adrian Caetano監督、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ、Pablo Echarri、Nazareno Casero、Lautaro Delgado出演
☆77年。テロリストの疑いをかけられた若者が、拉致・監禁され、数か月にわたって拷問を受ける。傷だらけになった若者たちは、ついに逃亡を決意する。実際に監禁された若者たちの実話が元になっているだけに、監禁中の拷問シーンはリアルで、見るに堪えないものがあった。体も心もボロボロになった若者たちが、意を決して逃亡するシーンは、見ごたえあり。軍や警察に怯えて生活をしなければならない状況。幸いまだ、経験したことはないが、多くの人々がそういう時代を経ているのだと思うと、それだけで厳粛な気持ちにさせられる。「自由の尊さ」というのは、失くした時に初めて気づくことなのかもしれない。監督はウルグアイ出身。主演は「モーターサイクル〜」でアルベルトを演じたロドリゴ・デ・ラ・セルナだが、同じ役者とは気付かなかった。いたぶられ、ボロボロにされる役なので、おそらくかなり減量したのだろう。4人の若者を演じた役者の体を張った演技に拍手。2008.8
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ザ・クラウド 雨降るブエノスアイレス LA NUBE (1998年)
フェルナンド・E・ソラナス監督、エドゥアルド・パブロフスキ出演
☆舞台は、長い間、雨が降り続いているブエノスアイレス。取り壊されようとしている古い劇場に愛着する脚本家を中心に、劇場を忘れTVの俳優となった男や、ブラジルに子供を残し働きに来た踊り子などの人生が交錯する。軍政の後に国の財政破綻を経験したアルゼンチンの閉塞感をユーモアというフィルターを通して描いた群像劇。
街ゆく人々や車が、後ろ向きに進む映像は、衰退するアルゼンチン社会を風刺しているのだろう。明るい要素は何一つないのだが、個性豊かな人々の泣き笑い人生に悲壮感はない。
古い劇場が鉄の球で取り壊されるシーンは圧巻。こんなクソみたいな世の中を受け入れ、生きていくしかない。そんな、いい意味での開き直り、かわりゆく自分の街の姿を受け入れる覚悟、が伝わってきた。ソラナス監督は、フランスに亡命していたからこそ、祖国を思う気持ちも人一倍強いだろう。ボロ雑巾になっても我が故郷。海外で暮らした経験はたった1年ではあるが、外で暮らしてはじめてわかる望郷の念。ひしひしと感じました。2008.7

Construccion de una ciudad (2007年・アルゼンチン)
Nestor Frenkel監督
☆ウルグアイ近くの小さな町にすむ人々の生活をインタビューしたほのぼのドキュメンタリー。田舎の人らしくのーんびりしたムード。老後はこういう何にもなさそうな気候のいいところで暮らすのもいいなー。ブエノスやパタゴニアとはまた違ったアルゼンチンの一面を見れて興味深かった。 2008.4.9 ブエノスアイレス映画祭にて

Los paranoicos (アルゼンチン・2008年)
Gabriel Medina監督、Miguel Dedovich、Daniel Hendler、Jazmin Stuart出演
☆着ぐるみのバイトをしながらシナリオライターをめざす青年ルシアーノは、スペインから帰ったばかりの旧友マヌエルと再会。仕事が順調なマヌエルにコンプレックスを感じる。そんなある日、マヌエルの彼女ソフィアが部屋に転がり込んできて…。何をやってもうまくいかない若者の生活をコミカルに描いた青春物語。アルゼンチン映画にありがちな、ちょっとシャイな青年が主役。恋にも仕事にも消極的な若者が、悶々とした日々を送りながら、少しずつ大人になっていく。日本のインディーズ映画のようで、とても見やすかった。ただ、新鮮味には欠けたかな。2008.4.12 ブエノスアイレス映画祭にて

Luego (2008年・アルゼンチン)
Carola Gliksberg監督
☆ある若い3組の男女の関係を簡単なセットと台詞だけで表現した舞台のような実験映画。ジム・ジャームッシュの初期作品を思い出した。
セットは、ベッドと椅子と壁が変わるだけ。役者陣も自前の衣装でおしゃべりするだけ。超低予算。でも、台詞はけっこう面白いし、ウジウジして繊細なアルゼンチンの若者のリアルな姿をうまく切り取っていた。2008.4.12 ブエノスアイレス映画祭にて

El sueno del perro(2007年・アルゼンチン)
Paulo Pecora監督
☆孤独な男が家族を失い山にこもり執筆を続けるうち、夢と現実が交錯し…。終始同じパターンで飽きてしまう。退出者続出。やっぱり誰でも退屈だよねえ。ということで、私も1時間でアウト。2008.4.11 ブエノスアイレス映画祭にて

El pais del diablo
インディオのルーツを追ったドキュメンタリー。セリフが分からず、体もだるくて頭にはいらず。2008.4.12 ブエノスアイレス映画祭にて
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【キューバ、エクアドル、ベネズエラ、コロンビア、ペルー、ボリビア、チリ、ウルグアイ】

カリブの白い薔薇 UNA ROSA DE FRANCIA (キューバ)
マヌエル・グティエレス・アラゴン監督、アレックス・ゴンサレス、ホルヘ・ペルゴリア、アナ・デ・アルマス出演
☆アメリカへの密入国斡旋を生業にする男は、スペインからやってきた若い男をなじみの娼館に連れていく。そこには、男が保護者代わりの16歳の少女が暮らしていた。少女と若い男は強く惹かれあうが…。
 ホルヘ・ペルゴリア主演のキューバ映画といことで見てみた。せっかくハバナが舞台なのに街の風景の描き方も、青い海もありきたり。ストーリーもお決まりで何一つ印象に残らなかった。DVDパッケージは、16歳の少女の艶めかしいヌードで、まるで洋物エロビデオみたい。中南米のB級映画=エロという売り方、いい加減やめてほしい。2009.11

永遠のハバナ Suite Habana (03年・キューバほか)
フェルナンド・ペレス監督
☆ハバナのある1日。母を亡くしたダウン症の少年とその父親、ピーナッツ売りの老女、一人アメリカへ出国する中年男、ミュージシャンを目指す労働者etc…。彼らの1日は、ただ黙々と過ぎていく…。
セリフを排し、映像と音楽だけで、ハバナ市民の悲しみとささやかな夢を追ったドキュメンタリー。町の様子、人間たちの表情、労働する姿のつなぎ方がとにかく素晴らしい。
朽ちた家々、汗まみれの労働者、うつむきがちな老人たち…。けっして明るい映画ではないのだが、東欧社会主義時代の映画と違い、ラテン気質の楽観性からか、絶望は描いてない。セリフはないし、出演者はみんな素人。それなのに映像に釘づけになってしまったということは、映像センスが抜群ということ。時折流れる哀愁漂うラテン音楽も絶妙だ。
 出会いや別れといったドラマが描かれなくても、人々の過去や苦悩、そしてささやかな希望が十分想像でき、心に染みてきた。キューバの未来は明るい、と、安易に言うことはできないが、夢を持ってもいいんだよね、と、思えるエンディングだったのが救われた。2009.9

チェ 39歳 別れの手紙 CHE: PART TWO GUERRILLA
スティーヴン・ソダーバーグ監督、ベニチオ・デル・トロ出演
☆1965年、キューバを離れ、ゲバラが最後に選んだのは独裁政権下にあったボリビア。ゲバラは変装し偽名を使ってボリビアに入り、山にこもるゲリラたちと行動を共にする。
戦いに疲れながらも信念を貫こうとする悲壮感漂うチェ・ゲバラ=デルトロの姿は、フィクションとは思えぬほどリアル。サンパウロの写真展で、連行される最後のチェの写真を、目にしたばかりだったので、チェ・ゲバラとデルトロがダブって見え、とても悲しい気持ちになりました。
森に立てこもり、飢えと戦いながら革命を目指すゲリラと、貧しい生活を強いられる地元民の心が一つにならなかったのが敗因なのかもしれません。
革命が成功するかどうかは、タイミングが大事。早すぎても遅すぎてもダメ。
チェ・ゲバラは、そういう意味では見極めができなかった男なのだが、その一途さ、愚かさ含めて、魅力を感じずにはいられない。負け戦と分かっていても見過ごせなかった。そんなチェ・ゲバラは、男の中の男です。2009.8 参考CINEMA:「チェ」「オーシャンズ11,12」「エリン・ブロコビッチ」「トラフィック」日本版DVD有り

チェ 28歳の革命(前半)CHE THE ARGENTINE
スティーヴン・ソダーバーグ監督、ベニチオ・デル・トロ、デミアン・ビチル、カタリーナ・サンディノ・モレノ、ロドリゴ・サントロ出演
☆キューバ解放のため、メキシコで出会ったカストロとともに、ゲリラ部隊に加わったエルネストは、キューバのジャングルを仲間たちと進んでいく…。チェ・ゲバラという人物はあまりにも有名だが、彼の歩んだ激動の人生の詳細まで知っている人は、それほど数多くはないだろう。
そんなチェをよく知らない人にとっては、この映画は親切、とは言えない。
ゲリラとしてジャングルを進む部隊の様子が延々とリアルに描かれ、途中に、チェの演説シーンを挟む、という構成。
ソダーバーグが好む手法ではあるのだが、チェの生きざまを知りたかった、という人には、ちょっととっつきにくい内容になっている。
ただし、ゲリラ戦で傷を負った仲間の手当に奔走するチェの姿は魅力的。ドキュメンタリー風に仕上げているので、デルトロが本物のチェとダブって見えた。
前半のエンディング、キューバの解放に成功したチェが、派手な車に乗る若者に、説教を垂れるシーンは秀逸。後半がはやく見たくなったが、お楽しみは、日本帰国後にとっておこう。2008.10 SP映画祭にて日本版DVD有り

EL CAYO DA MORTE (06年・キューバほか)
Wolney Oliveira監督、Isabel Santos,Laura Ramos, Claudio Jaborandy出演
☆舞台は58年、革命直前のキューバ。家族とともに、警察から逃れるようにハバナから田舎へやってきた青年ロドルフォは映画監督になる夢を持ち、ハリウッドの監督に手紙を出す。一方、地元で自主映画を作る青年たちと親しくなったロドルフは、「死の小島 EL CAYO DA MORTE」という映画を撮影。主演女優に恋をするが、彼女は資産家の息子と婚約していた。
大人たちが革命だ、戦争だ、と大騒ぎしている中でも、若者たちは恋をし、嫉妬し、そして自分の夢を追いかけている。映画青年の青臭さは微笑ましくもあり、青春時代っていいよなあ、などとしみじみしてしまった。ただし、出来はB級。2時間スペシャルドラマだったらよかったのでしょうが、映画館で見る価値は…。青年が惚れる主演女優が魔性の女アンジーに似ていて、憎たらしかった。こういうヘビ女に男は弱いのよねえ。2009.5

TITON,de la Habana a Guantanamera, 1928-1996 (08年・キューバ)
Mirtha Ibarra監督
☆トマス・グティエレス・アレア監督(愛称TITON)の妻が、彼の作品と人柄について追ったドキュメンタリー映画。昨年、ブラジルのラテン映画祭の監督特集で何本か見ていたので、作品に関する話は興味深かった。単純なコメディ映画と思っていた「Muerte de un Burocrata」にも、当時の社会に対する批判精神が込められていたということ。まだまだ浅いなあ私は、と反省させられた。
女優で監督のMirthaさんも来場。イギリスの名女優バネッサ・レッドグレーヴ(といえば「ジュリア」!)も紹介されていました。白いドレスをまとった気品のあるご婦人でした。
今まで見てきた娯楽映画の観客とは明らかに雰囲気の違う、キューバのインテリ層が大勢見に来ていた。インテリたちは、今まで(そして今も)いろいろ思想的弾圧も受けてきたのだろうなあ、などと考えて、少々感傷的になりました。2008.12 ハバナ映画祭にて

El Cuerno de la abundancia (08年・キューバ)
フアン・カルロス・タビオ監督、ホルヘ・ペルゴリア出演
☆ある人物から莫大な遺産が手に入ると聞きつけた小さな田舎の人々が、舞い上がり、先走って新しい家を買い、結婚したりするドタバタ・コメディ。主役は、「苺とチョコレート」のゲイを演じたホルヘ・ペルゴリアだったが、教えてもらうまで気づかず。すっかりオヤジになってました。
男が愛人に「情報をどこで仕入れた?」と聞くと、「インターネットよ」と答えるシーンがあったが、インターネットは、特定の人しか自由に閲覧できないようです。中国でもメールの検閲があるらしいので、キューバなら仕方ないのかも。
ただ、国民の不自由さをネタにしたシニカル・コメディを上映する寛大さには驚いた。
もちろん、大笑いしている観客にもアッパレです。
エンディング、すべてがはかない夢だとわかった後でも、車で海を渡ろうとする男と女。彼らの行く先にあるのはマイアミか、天国か?夢のような楽園なんてこの世にはないのだけれど、探しに行きたくなる気持ちもわかります。「アンダーグラウンド」のエンディングにテイストが似てました。
監督は「苺とチョコレート」の共同監督で、出演者もキューバのスター総出演、ということで、古くて大きい映画館PAYRETは、たくさんのキューバ人でにぎわっていた。
2008年のトロント映画祭で上映され、スペインでは一般公開された模様。2008.12 ハバナ映画祭にて

壊れた神々 LOS DIOS ROTOS (08年・キューバ)
Ernesto Daranas Serrano監督、Silvia Aguila, Carlos ever Fonseca出演
☆ある大学の女講師に近寄ったジゴロ風の男には、かつて愛した女がいた…。その女は宗教らしき教祖の情婦となり…。
ラテン映画らしい熱くて激しい男女の恋愛、スピード感のあるアクション、そしてハバナの青い海…。見所の多いエンタメ作品だ。主演の二人はスタイル抜群。 若き日のバンデラスを彷彿とさせる男優のセクシーさには思わずクラクラきた。ラブシーンの度に観客が大騒ぎするのが面白くて、もらい笑いしてしまった。2008.12 ハバナ映画祭にて

コマンダンテ COMANDANTE (03年 )
オリバー・ストーン監督
☆ストーン監督が、カストロ議長に直撃インタビューした3日間を追ったドキュメンタリー。私は共産主義者ではないのだが、カストロのようなカリスマ性を持った人間にはやはり魅力を感じる。この男は、人を引き付ける特殊な磁石でも持っているのだろうか。彼の政治思想、チェ・ゲバラのこと、そして私生活などなど、物怖じせずに突っ込めるストーン監督もさすが、である。何十年も通訳をしているという側近の女性にも、もっといろいろ聞いてほしかったのだが、それは、カストロが天に召されてからでも遅くはないでしょう。後世に残るカリスマ独裁者への興味は、しばらく尽きることはない。キューバを訪れる前に予習をと思ったが、残念ながらまったく参考にはならず。2008.8 日本版DVD有り

公園からの手紙 CARTAS DEL PARQUE (1988年・キューバ)
トマス・グティエレス・アレア監督、ガルシア・マルケス原作、ビクトル・ラプラーセ、イボンネ・ロペス、ミゲル・パネー出演
☆舞台は1913年のキューバ郊外の町。気球に魅せられた青年フアンのために、ラブレターの代筆を引き受けたペドロは、相手の女性マリアに一目ぼれしてしまう。 フアンとマリアのデートを影から覗き見するなど、行動がエスカレートし、自分の思いをフアンの手紙にしたためるが、彼女に思いを告げることができない。
やがて、季節が過ぎ、フアンが姿を消すが、パブロはフアンと偽って、手紙を送り続ける。
話はとてもシンプルで、キューバ版「シラノ・ド・ベルジュラック」といった感じ。
「コレラの時代の愛」はこの物語をベースに作られたのか、と思うぐらい、設定が似ていた。G・マルケスの書いた文通の内容がほとんど理解できず残念。日本語字幕付きで再度、見てみたい。ゴンサロ・ルバルカバの名があったので、音楽を期待したのだが、あまり印象に残らず。
アレア監督の作品は、社会派から、コメディ、恋愛まで多岐にわたっている。日本で言えば、黒澤明監督のようである。天才肌、というよりは、職人タイプの監督だといえるだろう。
1988年の映画で、それほど古くはないはずなのだが、保存が悪いのかフィルムの痛みがはげしく、また、字幕もなかったので少々みにくかったデス。2008.7

Muerte de un Burocrata (1966年・キューバ)
トマス・グティエレス・アレア監督
☆伯父の死亡証明書をもらうため、男が役所をたらいまわしにされるシニカル・コメディ。男にふりかかる災難は、かなりベタがだ、66年の作品とは思えないほど、スピード感があって楽しめた。
キューバ映画というと、革命、闘争、そして、虐げられた人々がテーマになる映画が多いが、この映画は堅苦しさはまったくない。志村けんのコメディのように、わかりやすい笑いが満載だった。アレア監督は社会派、というイメージが強かったが、まったく違う一面もあるようです。ただ、ギャクがあまりにもベタで、後半はちょっと飽きましたけどね。2008.7

低開発の記憶-メモリアス- MEMORIAS DEL SUBDESARROLLO (1968年・キューバ)
トマス・グティエレス・アレア監督、エドムンド・デスノエス原作、セルヒオ・コリエッリ、デイジー・グラナドス出演
☆舞台は革命直後のキューバ。ブルジョワ階級のセルヒオは、家族が亡命する中、一人ハバナに残って一人暮らしをはじめる。妻の残したドレスや下着を持ち出し、若い女を部屋に連れ込み…。一見気ままにみえるセルヒオの生活。
だが、かつての友人たちは次々と豪邸を後にし、街には銃を持った軍服姿の女性が目立つようになり…。世の中は確実に社会主義への道を歩んでいく。
キューバ革命に関する映画といえば、「苺とチョコレート」「夜になる前に」といった虐げられた人々を描いた作品や、チェ・ゲバラやカストロの半生を描いた作品が多いが、この「低開発の記憶」は、革命直後の1968年に制作され、キューバで暮らすブルジョワの視点から描いている点がとても新鮮に感じられた。
キューバの国と人々を「低開発」だと蔑み、ヨーロッパ的な価値観で生きるセルヒオ。
彼のような支配階級のおごりが、キューバを革命に走らせた元凶なのだろうが、そんなことには一言も触れず、あくまで傍観者のふりをしている。
健全な社会というのは、管理する者、従う者、反対する者、そして、世の中を斜めに見るセルヒオのような傍観者が存在できる社会をいうのではないだろうか。
キューバ社会を、映画というフィルターを通して見ただけではあるが、そんなことを考えながら、映画館を後にした。2008.6

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エル・カンタンテ EL CANTANTE 
レオン・イチャソ監督、ジェニファー・ロペス、マーク・アンソニー出演
☆プエルトリコからニューヨークへやってきたエクトルは、声の良さを買われ、ナイトクラブで歌い始める。やがて、サルサ・バンド、ファニア・オールスターズとして名声を得るが、ドラッグに溺れ…。
スターの栄光と挫折を描いたシンプルな伝記映画。歌の場面がもっとあれば楽しめたと思うのだが、薬中になったエクトルと気性のはげしい美人妻の夫婦の葛藤場面ばかりが目立ってしまい、音楽映画としては中途半端。ジェイローが夫と二人で製作・主演、ということで、二人のための二人よがり映画という感じ。ただ、エクトルという人物には興味津々。ドキュメンタリーがあったらぜひ見てみたい。監督はキューバ出身ということですが…。プエルトリコの子供時代も、もっと見たかったなあ。2009.7 日本版DVD有り

EL TINTE DE LA FAMA (2008年・ベネズエラ)
Alejandro Bellame Palacios監督、Elaiza Gil、Alberto Alifa出演
☆陽気で若い美人妻は、一攫千金を夢見る夫にそそのかされ、マリリン・モンローそっくり大賞、というバラエティ番組に出演する。 はじめは乗り気ではなかった妻だったが、次第にマリリンが乗り移ったように、心が乱れはじめる。
ベネズエラといえば、独裁政権化へ向かいつつある国。そんな国で作られたちょと風変わりな夫婦の物語。マリリンといえば、アメリカのセックス・シンボルなのだが、そんな彼女のそっくりさんコンテストと、反米を掲げるラテンの国ベネズエラが結びつかなくて、はじめは違和感があった。だが、妻の立場、夫の立場がそれぞれ丁寧に描かれていてドラマ的にはgood。ベネズエラといえば、バイオレンスや、チャベス大統領など、激しいイメージが強いが、こういう普通の人のささやかな生活を描いているのが新鮮だった。
主演の女優はマリリンなんて真似る必要ないほど美しいのだが、演技も熱が入っていた。コンテストのクライマックス、妻の暴走シーンはカッコ良かったです。2008.12 ハバナ映画祭にて

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コレラの時代の愛 El amor en los tiempos del colera
G・ガルシア・マルケス原作、マイク・ニューウエル監督、ハビエル・バルデム、Giovanna Mezzogiorno、 ジョン・レグイザモ、フェルナンダ・モンテネグロ出演
☆舞台は20世紀前半のコロンビア。76歳のフロレンティーノは、町の名士であるウルビーノ博士の死を知り、51年に渡って思い続けた女性フェルミーナへ会いに行く。
かつての恋人の突然の訪問に動揺したフェルミーナは、フロレンティーノを罵り追い返す。
二人が出会ったのは10代の頃。郵便配達員のフロレンティーノは、引っ越してきたばかりのフェルミーナという少女に一目で恋をし、二人は文通を始める。だが、フェルミーナの父親から激しく妨害され、フェルミーナはフロレンティーノの元から姿を消す。
そして数年後、成長したフェルミーナは、町に戻り、フロレンティーノと再会するが…。
原作は、マルケスの小説にしてはめずらしい、一見シンプルな恋愛物語である。
だが、じっとりとまとわりつくような湿気は随所に感じられるし、何よりフロレンティーノの心理描写が秀逸だ。
映画でフロレンティーノを演じたハビエル・バルデムはしつこい役が似合うし、原作のようにねっとり感が出せる俳優だと思う。それだけにかなり期待していたのだが…。
映画は、原作の中で起こった出来事を忠実に追いかけてはいるのだが、基本的な質感が違う。カリフォルニア、とまではいかないが、空気の湿り気が足りない。物語がサラサラー、と流れていってしまっている。
また、フロレンティーノの心の動きがほとんど描かれていないので、フェルミーナを思い続ける行為に説得力がない。だから、せっかく名優を揃えているのに、印象に残るシーンがほとんどない。
フロレンティーノと母の関係なんて、バルデムとモンテネグロ使ってるのだから、いくらでも面白く描けただろうに…。あー、もったいない。
さらに気になったのは、セリフがすべて英語、ということ。
せっかくラテン語圏の俳優をそろえたのだから、原作どおりスペイン語で作ればいいものを、なぜに英語?これは、ラテン系の人怒るよ。(案の定、ブラジルでの評判は☆ひとつです)
と、なんだか、文句ばかり言ってしまいましたが、川のシーンは幻想的で見ごたえあります。
ゆっくりと流れる大河は、まるでフロレンティーノとフェルミーナの人生のよう。
51年に渡る二人の恋の間には、いろいろな出来事があったが、大河は過去を一気に洗い流してくれる。
南米映画の魅力の一つである「自然のおおらかさ」のようなものは(少し)感じることができた。2007.12 日本版DVD有り

PERSONAL CHE (2007年・コロンビアほか)
Douglas Duarte, Adriana Marino監督
☆チェ・ゲバラを崇拝する世界各国の人々にマイクを向けた異色のドキュメンタリー。
1967年に、40歳の若さで非業の死を遂げたチェ・ゲバラ。死後40年経った今でも、チェは、ボリビアでは神の隣に祭られ、アメリカではハンサムな顔が金儲けとして利用され、さらにドイツではネオ・ナチのシンボルにまでなっている。
彼のルックスの良さ、生い立ち、革命の功績が、さまざまに形を変え、勝手に一人歩きしてしまっている様が面白かった。
「ゲバラはおいらのヒーローだよ」と言いながら、ゲバラがどこの人で何をした人かもよくわかっていないおじさんのインタビューはケッサク。でも、こういうことってありがち。
チェは、あの世で、今の自分の扱われ方をみて、何を思っているのでしょうか。
チェの亡骸のリアル映像は、かなりショッキングだったが、その風貌はとても美しく、キリストのようにも見えた。
坂本竜馬、松田優作、ケネディ、ダイアナ妃などなど、惜しまれて亡くなった人たちは、これからも形を変えながら、シンボルとして語り継がれていくのでしょう。人はなぜ、亡くなった人に理想を押し付けようとするのでしょうか。不思議です。2007.10.22 サンパウロ国際映画祭07にて

PERRO COME PERRO (08年・コロンビア)
Carlos Moreno監督、Marlon Moreno出演
☆ある男の家へヤクザの裏金を探しに行ったビクターたちは、男をいためつけすぎて殺してしまう。家探し中、ビクターは目的の金を見つけるが、誰にも告げずに金を持ち出す。その金をめぐってボスが動き出した。ビクターは逃げるに逃げられず、知らぬ振りで、金探しを手伝うのだが…。
容赦ない暴力、めまぐるしく変わる場面、軽快なスピード感、そしてすっとぼけた陽気なキャラの男たち。「タブロイド」「シガレット」などなど、中南米のバイオレンス映画特有の軽快なリズム感が、この映画でもしっかり受け継がれていた。
この悪ふざけのノリにかなり慣れてしまったので、先が読めてしまい、正直、新鮮味はなかったのだが、大ドンデン返しは「やっぱり、そうきたねー」ってな感じで十分楽しめた。
主役のビクターを演じた役者、二枚目じゃないけど、味があってよかったです。
相棒の荒くれ男が呪いにかかって妄想に取りつかれたり、アジトにかかってくる偏執狂からの電話に悩まされたり…、メインのストーリーに絡む小ワザが、ナイスでした。ただ、欲を言えば、もう少し犬を面白くからめてほしかったかな。グラマード映画祭で監督賞、主演男優賞受賞。2008.10 SP映画祭にて

Riverside (07年・コロンビア)
Harold Hernando Trompeterp Saray監督、Diego Trompetero出演
☆ニューヨークで缶を拾って生活する夫婦。夫はコロンビア人で、金をためて故郷へ帰る日を夢見ている。 だが、妻は、夫の缶集めに付き合いながらも、それが叶わぬ夢だと薄々気付いている。そんな二人のちょっと悲しい夫婦愛を描いている。
ラテンの人にとって、ニューヨークは憧れの都でもあるが、また、冷たい異国の大都市でもある。プライドばかり高くて頑固な男の不器用な生きざまはいじらしかった。けど、もう少しヨレヨレでやつれた風貌の男優が演じていれば、さらに哀愁が感じられただろうに…。あまりにも若くてがっちりした役者が演じていたので、少々リアルさに欠けていた。2008.12

コロンビアのオイディプス Edipo Alcalde (96年・コロンビアほか)
ホルヘ・アリ・トリアーナ監督、ガルシア・マルケス脚本、ホルヘ・ベルゴリア、アンヘラ・モリーナ出演
☆ゲリラとの対立が深まるある山あいの村で実力者の男が殺された。未亡人となった美しい妻は事件の真相を探る若き村長と恋に落ちる。やがて銃撃戦に出くわした際、村長が撃った弾が、実力者の遺体から発見される。
マルケスの脚本、キューバ、スペインの名優、そして撮影監督はアン・リーや、イニャリトゥ監督作品を手掛けるロドリゴ・プリエト。ということで、かなり期待していたのだが、ギリシャ悲劇を現代に置き換えたシンプルな映画に仕上がっていた。
印象に残ったのはアンヘラが演じた艶かしい未亡人。いつの時代も、どこの国でも魅力のあり過ぎる女に悲劇はつきものということでしょう。
コロンビアという国は、犯罪の巣窟、誘拐多発地帯、軍とゲリラの対立、と、恐ろしい社会というイメージばかりが先行する。が、実際に訪れたことのある人に聞くと、海のきれいな有名リゾートもあるし、女性はきれいだし、資源も豊富で、経済的にもそれほどひどい状態ではないそうだ。行ったことはないけど、とても興味がそそられる国である。なんたってマルケスのお膝元だし。南米の国々の情報って、日本では南米嫌いのUSAというフィルタを通して伝えられている気がしてならない。もっと南米の良さ、真の姿を日本人に知ってもらいたいと思う、今日この頃です。2009.9

透明になった子供たち LOS NINO INVISIBLES  (2001年・コロンビア)
Lisandro Duque Naranjo監督、G・G・マルケス脚本
☆肝試しが高じて、迷信を信じた3人の少年と、町の人々の姿を温かい視点で見つめた作品。マルケス脚本ものとしては珍しいヒューマンドラマでちょっと拍子ぬけ。正直、あまり印象に残らなかったのだが、こういう普通の作品も手掛けているのが意外。ほんとマルケスって幅がひろいマルチな才能を持ったお方なのだ、とあらためて感心させられた。2009.9

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悲しみのミルク La teta asustada (09・ペルー)
クラウディア・リョサ監督、Magaly Solier出演
☆ペルーの農村部で母と二人で暮らす若い娘ファウスタは、腹痛を訴え、病院に担ぎこまれる。叔父は、ファウスタの膣の中でジャガイモが育っていると知り驚く。ジャガイモの芽が出ているとゲリラが気味悪がってレイプしないという話をきいたというのだ。
まもなく母が亡くなり、ファウスタは埋葬する金を稼ぐため、音楽家の家でメイドとして働きはじめる。
ファウスタは、やさしい叔父、明るい従兄弟たち、ダンスや酒を楽しむ若者たちに囲まれて暮らしている。そこには、のどかな田舎の風景があり、人々が助け合って生きる姿は微笑ましい。一方で、病床にある母の悲鳴のような歌は、彼女が背負った悲惨な過去を物語っている。その歌を聞いて育ってきた娘は、青春を謳歌している若者たちのように人生を楽しめず引きこもっている。レイプされた過去を持つ女の母乳で育った子供にはそのトラウマが伝染する、と信じているのだ。
ペルーのゲリラ活動と聞いて思いだされるのは、日本大使館占拠事件。多くの日本人が長い間人質となったあの事件である。
当時のペルーについては、ほとんど情報が伝わってこなかったし、気にもしていなかったのだが、ゲリラによる女性レイプ事件は事実であろう。戦争で犠牲になるのはいつでも弱い立場の人間たちなのだ。
戦時中のレイプがトラウマとなった女性を描いた映画といえば「あなたになら言える秘密のこと」「サラエボの花」が思い出されるが、この映画も同じ路線である。
ただ、ヨーロッパとは違った村の風景や、アンデスならではの習慣が描かれているので、少し違った印象を持った。悲しみの癒し方や、台詞がストレートでなく、静かにゆっくり癒されていく感じ、とでもいおうか。
圧巻は、死にゆく母の歌、そしてそれを受け継いだ娘の歌である。
拭いきれない悲しみを含んだ乳を絞りだすかのような「哀歌」が、心にしみてきた。2009.11

MANCORA (2007年・ペルーほか)
Ricardo de Montreuil監督、Elsa Pataky, Jason Day, Enrique Murciano出演
☆父の自殺で傷ついたサンチアゴは、ビーチリゾート、マンコラへ行き、美しい義理の姉と一夜を共にする。だが、翌日、彼女の夫がやってきて…。美しく若い男女の出会いをラテンの音楽にのせて描いた青春ドラマ。日本でいえばアイドル映画並のレベルだが、二人が絵になるのでまあよいでしょう。ライバルとなった男二人が、幻覚作用のあるアマゾンの植物アヤワスカを飲むシーンが、妙にリアルで南米らしさを感じた。2008.10 SP映画祭にて

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ボリビア南方の地区にて Zona Sur (ボリビア)
フアン・カルロス・ヴァルディヴィア監督、ニノン・デル・カスティーヨ出演☆ラパスの南方地区にある豪邸では、母と3人の子供、そして長年一緒に暮らしている使用人ウィルソンがいる。彼らの生活は、一見、何の不自由もなさそうで、最新の家電や洋服、海外の化粧品などに囲まれ、子供たちは酒とセックスに興じる日々を送っていた。
 だが、実際には、食糧を買うのも付け。使用人には半年以上、給料を払えないぐらい生活は困窮している。それを知っているのは母とウィルソンだけ。ギャンブルで散在した息子を母が厳しく叱っても、子供たちには実情をまったく理解できない。その母親すら、金を工面するための手段を持ち合わせず、人に頼るという発想しかない。
 一方、幼い次男だけは、家族の姿を俯瞰し、いつも屋根に登って天使と会話をしていた。
 間もなく、豪邸を訪れた先住民族の女性が、家を買い取りたい、と申しでる。
 ボリビアと聞くと、髪を長く編みこみ、民族衣装をまとったアンデスの女性とコンドルぐらいしか思い浮かばないかもしれないが、もちろん、実際のボリビア社会はそれだけではない。長い間、支配階級であった白人たちが贅沢な生活をする一方で、先住民族が過酷な労働に耐えていたのである。
 今、ボリビア社会は、先住民族の大統領が生まれ、下克上の世の中に変わっているというニュースはブラジルにも度々流れてきていた。裕福だった日系人も、不当に土地を奪われているという。
 富のある者ばかりが私腹を肥やす社会は、いつかは、持たざるものの不満を生み、彼らが大きな力を生んで革命が起こる。これは社会の自然な流れではあるが、その変革期に居合わせた人々の戸惑いは計り知れない。
放蕩三昧の暮らしをしている映画の中の支配階級は、自分たちの未来にまったく危機感がない。
見ていて腹が立つぐらいだが、長い間それが当たり前であった彼らにとって、「危機感」という感覚が存在しないのかもしれない。
 豪邸の中の能天気な白人社会の中で唯一、ボリビア社会の流れを感じられるのが、使用人の言動である。
給料をもらえず不満が募ったウィルソンは、奥様のバスルームを内緒で使い、化粧品まで拝借している。また家政婦は、雇い主に向かって「掃除できないから、そこどいて」と、言ってのける。
もう昔とは違う。自分たちだって権利を主張することができるんだ、といった社会の流れが、彼らを強くしているのだ。
 そして、極めつけは成金の先住民族。彼女は、バッグに大量の原ナマを詰め、金に困った白人女の目の前に、これ見よがしにつきつける。
 なんとも品がないワン・シーンなのだが、ここにボリビアの今が凝縮されている。
社会の流れには逆らえない。支配階級の連中は、ムカつく奴らではあるのだが、今まであたりまえだった生活を失わざるを得ない彼らに、わずかながら同情してしまった。
支配階級の一個人が悪いわけではなく、彼らの暮らしを守ってきた社会に問題があったのだから…。まだまだ混沌としているボリビア。いつか訪れて、どう変わっているのかをこの目で確かめてみたい。2009.10 東京国際映画祭にて

パチャママの贈り物 PACHAMAMA(08年・ボリビア)
松下俊文監督
☆ボリビアの高地にあるウユニ塩湖で、塩の採掘を行い、行商に歩く人々を子供の視点から描いた感動の人間ドラマ。元松竹京都の助監督だった日本人監督が、NYにわたり、その後、ボリビアのウカマウの映画に刺激を受け、6年にわたって製作した入魂の1本。
ウユニ塩湖やポトシ鉱山で、過酷な労働に従事する人々の姿がドキュメンタリー風に描かれていて、子供たちの演技も自然で生きいきとしていた。
松下監督は、ボリビアの人々の生活に入り込んで、根気よく撮影したのだろう。丁寧な描き方に好感がもてた。
監督も来場していたが、「ちょっと長すぎでしょ」「眠くなったでしょ」などと、不安そうに言っていて、そんなに卑下しなくても…、と気の毒になってしまった。
たしかに、ちょっと長い、とは感じたが、異国の地で6年もかけてとったのだから、気持ちが入るのも無理ないし…。日本の人たちにもぜひ見てもらいたい1本。ボリビアの奥地で暮らす人々の生活ぶりは、見る価値あり。2008.10 SP映画祭にて

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マチュカ MACHUCA ★★ (2004年・チリ)
アンドレス・ウード監督、マティアス・ケール、アリエル・マテルナ、マヌエラ・マルテーリ出演
☆舞台は、社会主義政権下にあった1973年のサンチアゴ。
格差是正制度によって、富裕層が多く通う教会の学校に、貧民街で暮らす子供たちが入学してきた。揃いの制服や水着を買えない子供たちは、教室内で浮いた存在だったが、その中の一人マチュカは、いじめられっ子だったゴンザロと親しくなる。
二人は、お互いの家を行き来するようになるが、それぞれ、自分とまったく違った生活に驚きを隠せない。
ゴンザロとマチュカ、そしてマチュカの隣人シルバナの3人は、世の中の不穏な動きに戸惑いながらも、交流を深めていく。
一方、大人たちは、自分たちの生活を守りたい富裕層と、改革推進を望む労働者階級との間で対立が激化。
保守的なゴンザロの母がデモで遭遇したマチュカたちに罵声を浴びせたことをきっかけに、ゴンザロとマチュカたちとの間に微妙な溝が生まれてしまう。
そして、9月11日、軍がチリ政府を掌握。
まもなく激しい社会主義派狩りがはじまり、ゴンザロたちが通う教会の牧師も更迭されてしまう。
マチュカたちの身を案じたゴンザロは、自転車で貧民街へ向かうが…。
日本人にとって、チリという国はあまりにも遠すぎる。
ましてや1970年代に何が起こっていたのかなんて、ほとんど知られていないだろう。
「マチュカ」というタイトルと、子供の姿が写ったスチール写真を見ただけでは、子供たちの友情を描いたほのぼのとした人間ドラマ、と思うかもしれない。
もちろん、子供たちの心温まる交流も描いているし、「小さな恋のメロディ」のようなかわいい初恋物語も存在する。
ゴンザロの姉のパーティーで酒を飲んで酔っ払ったり、3人が無邪気に缶ミルクを舐めあったり…。貧乏とか金持ちとかは関係なく、普通の子供が経験する、ちょっと大人っぽい遊びを楽しむシーンは、とてもほのぼのしていて温かい。
ただ、その3人の子供の関係がとてもピュアなだけに、周りの環境である大人たちの対立や怒りの激しさが、際立って映ってくる。
富む者と貧しい者の格差は、ここサンパウロでも日常的に目にするし、南米の国々の長い歴史的事情もあるので、どうのこうの言うつもりはない。ただ、子供の生き生きした目が、絶望の目に変わる社会は、やはり見ていてとても辛い。
支配階級にどっぷりつかった母親の行動をだまって見つめるゴンザロ。
デモの中、戸惑いながらも旗を配るゴンザロ。
そして、衝撃の瞬間を凝視するゴンザロ。
いじめられっ子で、いつもビクビクおびえた表情だったゴンザロが、マチュカと友達になることで、生き生きとして子供らしい表情に変わり、そして、衝撃のシーンを目にしたあとは、一転して絶望の目と変わっていく…。
彼の表情の変遷に注目です。
もう一言;
アディダスの靴、コンデンスミルク、ぼっとんトイレなど、貧富の差を象徴する小道具の使い方もうまい。 テイストは違うが「天国の口、終わりの楽園」「蝶の舌」といったラテン映画を彷彿とさせるものあり。2007.9 日本版DVD有り

サンティアゴの光 LA BUENA VIDA (09年・チリ)
アンドレス・ウッド監督、ロベルト・ファリアス、アリネ・クッペンヘイム出演
☆舞台はチリのサンティアゴ。年齢も環境もまったく違う人々の生活が交錯する。
ささやかな人生を描いた群像ものは、嫌いではないのだが、残念ながら誰ひとり感情移入できず。南米独特の香りも感じられず。名作「マチュカ」の監督、ということで期待しすぎた感もあるのだが…。でも、ゴヤ賞では外国語映画賞とってるそうだし。私の感性が鈍ってしまったのかしら? 2009.9

トニー・マネロ (チリ・2008年)
パブロ・ラライン監督、アルフレッド・カストロ、パオラ・ラトゥス、エクトル・モラレス出演
☆舞台は1978年、ピノチェト軍事政権下のサンチアゴ。自称アーチストのラウルは映画『サタデーナイトフィーバー』の主人公、ジョン・トラボルタに傾倒し、毎日のように場末の映画館に通っている。一方で、日々の暮らしの苛立ちから、強盗殺人を繰り返し…。
トラボルタ狂の偏執症男ラウルが鏡に自分の姿を映しながら、踊るシーンは、「タクシードライバー」のトラヴィスそのもの。彼が人を殺し始めるのも共通点があるし、正直新鮮味には欠けた。ただし、この映画は自由を奪われた軍事政権下のチリが背景にあるわけで、そういう意味で、ラウルは当時の人々の絶望感を代弁しているのかもしれないし、自暴自棄になるのもわからなくはないわけで…。暗い画面とラウルの淀んだ瞳が印象に残った。2009.4.15

LOKAS (2008年・チリ)
Gonzalo Justiniano監督、Rodrigo Bastidas、Coco Legrand、Fabiola Campomanes出演
☆好奇心旺盛のペドロは父チャーリーと一緒に祖父マリオの家に居候するはめに。この祖父、実はホモセクシャルで、中年の彼氏と同居中。ペドロにとって、祖父と彼の行動ひとつひとつが面白くて…。
チリのコメディ映画というのは初めてだったが、ちょっとフランスのコメディ映画っぽく小洒落ていた。 爺ちゃんがホモになっちゃって孫はびっくり!というお話で、孫ペドロの素直な目から見た異端の描き方がgood!
ホモの父に嫌悪感を抱いていたチャーリーも、次第に自由な生き方に感化されていくのだが、中年男のロマンス話よりも、孫と爺ちゃんの話のほうが、断然面白い。ハリウッドがリメイクしそうな予感。
この映画、前評判が非常に高く、1度目の上映では30分前だというのに会場に入れず。2度目は1時間近く前に着いて待機して、ようやく見ることができた。
キューバといえば、「夜になる前に」「苺とチョコレート」で同性愛者が迫害を受けた過去が描かれていたが、今は解禁なの?!こんなにみんな大笑いしてるってことは、実際は隠れゲイが多いってこと?
キューバ人にこっそり聞いてみたかったのだが…。出来ず終い。チリ人って思っていたよりも、陽気な人たちなのかも。帰りの飛行機でもチリから来たファミリーが大騒ぎしてましたし。勝手なイメージを抱いていたけど、チリ人もやっぱり陽気なラテン民族なようです(当たり前だけど)。2008.12 ハバナ映画祭にて

El cielo (2007年・チリ)
Luis Torres Leiva監督
☆小さな島で暮らす孤独な人々の姿を追った人間ドラマ。寒々とした漁村。寝たきり老人。介護。すべてがどんよりと暗く、悲しくて、明るい日差しが見えない島。そんな所で暮らしていたら、人生に希望も見出せないよなあ。とても悲しいドラマで、見ていて辛くなりました。親しい人々との別れを経験し、気を張って生きてきた女性が、すべてを吐き出すように泣き崩れるシーンが印象に残った。2008.4.12 ブエノスアイレス映画祭にて

100人の子供たちが列車を待っている CIEN NINOS ESPERANDO UN TREN (1989・チリ)
イグナシオ・アグエロ監督
☆チリの貧しい村で暮らす子供たちに、週一回、映画の作り方を教える女教師の姿を追ったドキュメンタリー。
あんな楽しそうな授業、私も子供の時に受けてみたかったなあ、なんてしみじみ。チリの子供たちの純真な瞳が印象に残った。
政治的に抑圧された時代の作品で、子供たちのもっとも興味があるテーマが「デモ」だったのには驚いた。反体制映画とみなされ、チリでは上映されなかったようです。2010.1

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O BANHEIRO DO PAPA -THE POPE'S TOILET- (2007年・ウルグアイ)
Enrique Fernandez、Cesar Charlone監督、Cesar Trancoso, Virginia Mendez出演
☆舞台は1988年。ブラジルとの国境の村で暮らすベトは、パウロ2世がやってくる祭りの日に、ひと稼ぎしようと家の前に公共トイレを作ることを思いつく。建築費用を集めるため、ハードな裏仕事に手を出したことで、妻や娘から冷たくあしらわれるベト。そして、いよいよパウロ2世がやって来た…。
アイデアマンではあるが、実行に移すまでの計画性に難あり。という、憎めないお父ちゃんが、自分の発想にしがみ付き、奔走する姿を温かい視点で描いた人間ドラマ。
ブラジルとアルゼンチンという大国にはさまれた小国ウルグアイの人々の暮らしは裕福とはいえない。それでも、村人同士が助け合って大イベントの準備に夢中になる姿は微笑ましく、幸せそうにみえる。人の心の豊かさと、物の豊かさって比例しないものですね。
パウロ2世が、十字架を崇拝する国の人々にとってどんな存在なのかは、知識の上でしか理解できない。こればっかりはどうしようもない。だから、この映画の本当の面白さは、アジア人の私にはわからないのかも。そういう意味では、とても南米らしい映画でした。
映画館は終始、温かい笑いにつつまれていて、かなり評判よかったです。お父ちゃんと、周りの人々のやりとりが、コミカルで面白かったようだが、残念ながらセリフが理解できず…。2007.10.25 サンパウロ国際映画祭07にて

Acne (08年・ウルグアイほか)
Federico Veiroj監督、Alejandro Tocar, Yoel Bercovici, Julia Catala, Gustavo Melnik, Belen Pouchan出演
☆裕福なユダヤ人家庭で育った13歳の少年ラファエルは、商売女相手に初体験。だが、口にキスはダメ、と拒否されてしまう。金だけはあるが孤独なラファエルは、友達と悪さをして憂さ晴らしするが、肝心の初キスがなかなかできず…。
思春期の少年の性の目覚めを描いた青春ドラマ。小生意気なラファエル君はかわいいんだが、あまりにも金持ちなのが鼻についた。 エステに通ってニキビを治す少年なんて、にくったらしい奴。 でも、南米で暮らすユダヤ人の金持ち家庭はあまり身近ではないので、その生態をかい間見れただけでも価値があったかも。2008.9 RIO映画祭08にて

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