「気まぐれCINEMAレビュー」Back Number
  (2011年4月〜2012年3月)

2011年度の映画&ビデオをワンポイント診断。
大絶賛から辛口コメントまで、BOSSA独自の視点で切り込みます。 五十音順にタイトルが並んでいます。
データベースとしてご活用下さい。

◇過去の年間BEST3◇

◇中南米映画(2007年〜2010年)◇*日本未公開作品含む

Back Number 2007〜11年3月

Back Number2006年
【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】  【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】  【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 
【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】  【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】  【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】  【ヤ】【ユ】【ヨ】 
【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】  【ワ】【タイトル不明】
Back Number1999〜2005年
【ア】【イ】【ウ】【エ】【オ】  【カ】【キ】【ク】【ケ】【コ】  【サ】【シ】【ス】【セ】【ソ】  【タ】【チ】【ツ】【テ】【ト】 
【ナ】【ニ】【ヌ】【ネ】【ノ】  【ハ】【ヒ】【フ】【ヘ】【ホ】  【マ】【ミ】【ム】【メ】【モ】  【ヤ】【ユ】【ヨ】 
【ラ】【リ】【ル】【レ】【ロ】  【ワ】【タイトル不明】

中南米映画の最新レビューはこちら

タイトル
監督・出演
☆解説&感想 鑑賞日時

【2011年度 劇場公開・DVD作品の鑑賞レビュー】
モンガに散る MONGA ★2011年BEST CINEMA★
ニウ・チェンザー監督、イーサン・ルアン、マーク・チャオ、マー・ルーロン、リディアン・ヴォーン、クー・ジャーヤン出演
☆舞台は1986年、台北の下町モンガ。昔ながらの街並や風習が残るこの町で暮らし始めたモスキートは、転校早々、イジメにあっているところを4人のグループに助けられる。
モンガを仕切るヤクザ、ゲタ親分の息子ドラゴンと成績優秀な参謀モンクに見込まれたモスキートは、個性豊かで熱い友情で結ばれたこのグループにどっぷりつかっていく。
一方、裏社会では、抗争にも拳銃を使わないゲタ親分のやり方に対する不満分子が増えつつあった。ある日、ゲタ親分の指示で指を切られた男の息子が、ドラゴンの彼女を強姦。激怒した5人組は、息子をリンチに欠けるが、やり過ぎて殺してしまう…。
これぞ青春ヤクザ映画の王道!待ってました!!
80年代の熱さや人情、ちょっとダサいところも、また懐かしく、故郷に戻って大好きな温泉に肩までつかってるような幸せな気分に。
5人組の若者が、下町モンガを駆け回る…。
ゲームも携帯もまだ普及していなかった頃の若者が、あり余ったエネルギーをストレートにぶつける姿に、久々に惚れぼれしてしまった。
ストーリーは極々定番で安心して見られる展開。
父を知らないモスキートの父性への憧れ、優秀だが貧しいモンクのコンプレックスなど、若者が抱える悩みをさりげなく盛り込んでいるのもGOOD。
モンクのドラゴンに対する忠誠心が、友情を越えたものであることは、初めから見え隠れしていたのだが、気持ちの告白はするのどっちなの?と、気になって、最後の最後までドキドキ。かなり長い映画ではあるのだが、一瞬たりとも気が抜けなかった。
語り部でもあるモスキートがメインではあるのだが、もっとも繊細なモンクが超魅力的。ルックスも素晴らしくて、うっとり…。
後でプロフィールみたら、演じていたイーサン・ルアンは台湾の大スターということ。これからも追いかけていきたい逸材です。
そして、監督のニウ・チェンザー(モスキートの母の元愛人役)は、ホウ・シャオシェンの「フンクイの少年」の主役、というのもまた驚き。シャオシェンの初期作品に通じる世界でもあったので、妙に納得してしまった。
私の不動のお気に入り青春ヤクザ映画は、「欲望の翼」「チング」「パッチギ」だが、「モンガ」も堂々のトップ4入りです!

永遠の僕たち RESTLESS
ガス・ヴァン・サント監督、ヘンリー・ホッパー、ミア・ワシコウスカ、加瀬亮出演
☆喪服を着て赤の他人の葬儀を渡り歩いていたイーノックは、ある子供の葬式で余命わずかのアナベルと知り合う。両親を事故で亡くし、自らも臨死体験をしたイーノックは、日本の特攻隊員ヒロシの幽霊にだけ心を開いていたが…。
“死”をテーマにした悲しい物語ではあるのだが、若くてナイーブな二人の恋がおとぎ話風に描かれていて、心地よいぬくもりが感じられた。
生と死の間にいる二人の若者の苦悩を、国も生きた時代も違う日本兵の幽霊が見守っていく、という設定がユニーク。重くなりがちな死への旅立ちの物語も、加瀬亮演じる幽霊の存在が安らぎに変えてくれている。
生きることって辛いことが多いけど、でも、かけがえのない一瞬のために、人は生き続けているのかも。イーノックと心がつながったアナベルは、ある意味ハッピーだったよね…。などなど、生きること、死ぬことについて、様々な想いを巡らせながら、穏やかな気持ちで見ることができた。
靄がかかったような不思議な空気感や、若い演者のピュアな魅力。ガス・ヴァン・サント監督マジックは今作品でも健在で、毎度のことながら圧巻です。
ヒロシもアナベルも最高に素敵なキャラクターで、加瀬君の英語の発音も自然で、聞いていて安心感があった。
そしてそして、デニス・ホッパーの息子ヘンリーが超キュート。いつも寝癖がついてる髪の毛がかわいくて、思わず手を伸ばして撫でてあげたくなるほど。おばちゃんキラーですね〜。
強烈な個性派俳優だった父親とはタイプがまったく違うが、ヘンリー君という金の卵にも出会えて、久々に得した気分になりました。

マイウェイ 12,000キロの真実 MY WAY ★
カン・ジェギュ監督、チャン・ドンゴン、オダギリジョー、ファン・ビンビン出演
☆1928年、日本占領下の朝鮮。軍人の祖父を慕う日本人少年・辰雄は、使用人の息子ジュンシクと、足の速さで競いあいながら成長する。
一方、朝鮮人は不当な扱いを強いられる占領下社会に不満を募らせていた。ある日、辰雄の祖父が贈り物の爆弾で命を落とした。ジュンシクの父親は犯人と疑われ拷問を受ける。
数年後、高校生となった二人はマラソンのオリンピック選考会で再会するが、ジュンシクが優勝したにも関わらず、差別的な判定で失格となってしまう。
1939年、暴動に巻き込まれた後、強制的に日本兵としてノモンハンに駐留していたジュンシクの前に、大佐となった辰雄が現れる。

ノモンハンでは日本兵として、シベリア収容所では捕虜として、さらにロシア兵→ドイツ兵として闘うことを強いられた日本人&韓国人の数奇な運命をドラマチックに描いたスケールの大きな戦争スペクタクル映画である。
「子供の頃は親友だった二人が、大人社会に翻弄され…」といった(『マチュカ』『君のためなら千回でも』等々)友情ドラマは数多く見てきたが、この映画は予想に反し、幼少期に友情を育むシーンは皆無。最初から二人は敵対心むき出しで、常にライバル関係にある。
韓国映画ということもあって、日本兵の描き方もかなり厳しいので、序盤は、日本人にとってはちょっと痛い内容だ。(最低の日本兵を山本太郎が好演)。
辰雄とジュンシクは、常に意識し合いながらもお互い心を開かず、真っ向から対立する。「このまま、反目しあったままエンディング?」と、絶望的な気持ちになったぐらい。
一方で、それが逆にリアルにも感じられた。
だいたい、占領する側とされる側で、そう簡単に心を通わせられる訳はないのだ。
日本人はつい自分たちの過去の行いに目を背けたくなるものだが、戦時中、ガチガチの軍国教育を受けた日本人が、いかに非人間的だったかは、十分想像できる。
韓国人の目から描いたノモンハンやシベリアものを初めて見たので、より新鮮に感じることができた。
&激しい戦闘シーンは圧巻。さすがは『シュリ』のカン・ジェギュ監督です。
ノモンハン、シベリア、そしてノルマンディー。闘っている人種も場所も違うのだが、どこの戦場も同じに見えてくる。そこでは、心を失くした人間が、殺人マシンとなって殺し合うだけ。
また戦争シーンかよ…、と、うんざりしながらも、それこそが監督の狙いなのだ、と確信。この、戦争シーンの連続には、明確な反戦のメッセージが感じられた。
「仮面ライダー」以降、アクションとはほぼ無縁だったオダギリジョーだが、この映画ではアンチヒーローとして熱演。鬼の大佐役が恐ろしいぐらい様になっていて、思わず嫌いになるほど。さすが役者です!
対するドンゴンは、もちろんいつでもヒーロー。友情に厚くて信念を曲げない、ある意味非現実的なキャラなのだが、それもドンゴンだから許されてしまう。
ラテンにはまっている間にすっかり韓国映画に疎くなっていたのだが、ドンゴンのスター性や、スケールの大きなエンタメ超大作のクオリティは、いまだに衰えていないことがうれしかった。
残酷なシーンや人間の怖さ、弱さがむき出しになる作品で、見やすい映画ではないが、映画館でぜひ見ていただきたい1本です。2012.2

未来を生きる君たちへ HAEVNEN
スサンネ・ビア監督、ミカエル・パーシュブラント、トリーヌ・ディルホム出演
☆学校でイジメにあっていた少年エリアスは、母を亡くしたばかりの転校生クリスチャンに助けられる。一方、エリアスの父アントンはアフリカの難民キャンプで、凄惨な事件の被害者と向き合う日々を送っていた。
帰国中のアントンが、エリアスとクリスチャンを連れているとき、暴力的な男に言いがかりをつけられ殴られてしまう。クリスチャンは、友人の父を殴った男への仕返しを考えはじめる。
ひ弱な二人の少年と、正義感の強い医師が直面する「暴力」を、繊細なタッチで丁寧に描いた人間ドラマ。人が数人あつまれば、そこにいじめや派閥が生まれてしまう。北欧でもアフリカでも、日本でも、形は違ってもこの問題から逃れられないのだ。
虐げられたときにどう対応するか。何をするべきか。正解はわからないのだが、やられたのと同じ方法で仕返しをしても、暴力は繰り返される、ということだけは確か。
母のいない寂しさを過激な方法で紛らわせようとするクリスチャン、優しすぎて自己主張できないエリアス、そして日々凄惨な現場に立会いながら、目の前の患者を治すことしかできないジレンマを抱えたアントン。立場の違う3人の心理描写がお見事。
エンディングは少々ドラマチックすぎる感もあったが、アカデミー賞外国語部門受賞も納得の感動作だった。2011.12

愛する人 Mother & Child
ロドリゴ・ガルシア監督、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ製作、アネット・ベニング、ナオミ・ワッツ、ケリー・ワシントン出演
☆母の介護や仕事に追われるカレンは、14歳の時に身ごもった過去があり、出産後に手放した娘のことを忘れられずにいた。その娘エリザベスは、母の顔を知らずに育ち、愛とは無縁の暮らしをしていた。だが、突然の妊娠をきっかけに、まだ見ぬ母への思いを募らせていく。
一方、子供のできない黒人女性は、里子に出す側の心変わり等で何度か子供を断念していた。
自分の子供を手放した過去を背負いながら生きてきたカレンが、母の介護を終え、もう一度自分の過去に立ち戻り、人生を一歩踏み出していくまでの姿が丁寧に描かれている。
カレンを演じたアネット・ベニングは、派手さはないが上手い女優だ。ウォーレン・ビーティーの年貢を納めさせた女、という私生活ばかり目立っていた感があったが、今や貫禄さえ感じられる存在感。この映画はアネットの代表作と呼んでもいいだろう。
そしてそして、女性の心理を描くのには定評のあるロドリゴ・ガルシア監督。今まではどちらかというとドキュメンタリー風の語り重視の映画が多かったのだが、この映画では見事なストーリーテラーとしての才能も発揮している。偉大なる父ガルシア・マルケスの影響なのか、それとも血、なのか…。三者三様の女の人生がつながっていくまでの流れが自然で、けっして強引でないし、クライマックスへとむかうときの高揚感も心地よい。
はたして母娘の再会はかなうのか…(その後の展開は話したいけど話せない…)。その後の展開もまた素晴らしい。
幸せになることに“手遅れ”なんてことはない。いくつになっても幸せをつかむことができるんだ。そんなことをしみじみと考えさせられた。
今の人生に幸せを感じられない女性たちに、夢と希望を与えてくれる映画だった。2010.9 ラテンビート映画祭2010にて/2011.1劇場公開

ウッドストックがやってくる!TAKING WOODSTOCK
アン・リー監督、ディミトリ・マーティン、ダン・フォグラー、ヘンリー・グッドマン、ジョナサン・グロフ、ユージン・レヴィ、リーヴ・シュレイバー、イメルダ・スタウントン出演
☆1969年夏。田舎町ホワイトレイクでさびれたモーテルを営む母は、息子エリオットと共に銀行へ出向くが、借金の返済延期を断られてしまう。町の役員をやっているエリオットは、ロックの祭典ウッドストックの開催場所が見つからない、というニュースを知り、広大な土地のある我が町に誘致しようと思い付く。
時代を代表するロックの祭典ウッドストックの裏話、と聞いただけでワクワクして見始めたのだが、いい意味で期待を裏切ってくれた上質な青春&家族の物語に仕上がっていた。
真面目な青年エリオットは、母親の生きがいである実家のホテルを立て直すため、そしてさびれた田舎町を活性化させるため、ウッドストック誘致を思いつく。だが、保守的な町の人々はエリオットを冷たい目で見、金のことしか頭にない母親もいろいろと文句をつけてくる。そんなみんなのわがままに戸惑いながらもエリオットは世界中が注目するロックの祭典の波に飲まれていく…。
「ロックフェスをおらが町によんで町おこし!」といえば、故郷の茨城で10年続いている「ロックイン・ジャパン in ひたちなか」。ビーチそばの海浜公園で毎年行われているロックの祭典なのだが、ここは普段はだだっ広いだけのタイクツな公園。そばにある阿字ケ浦ビーチも、小さくてダサくて面白味にかける。
苗場や湘南といったお洒落なイメージがあるリゾートとは違い、いわゆる閑古鳥が鳴いている保守的な田舎町でロックフェスなんて、初めは地元民もさぞかし驚いたことだろう。ウッドストックのように、「なーんで、そんなおったまげたことやるんダッペー」という反対意見も当然あったはず。
渋谷陽一御大は、おそらくウッドストックを多分に意識して、この冴えないビーチを選んだのだろうが、それが功を奏し、見事にひたちなか市の町おこしに貢献して下さった(おかげで私も毎年地元でロックフェスを楽しんでおります)。
話はそれてしまったが、映画を見ながら我が故郷のロックフェスを思い出し、始まりはこんなだったのかなあ、なーんて想像してしみじみ…。
「ロックイン・ジャパン」はロックが偏見を持たれない現代の祭りだが、ウッドストックは、ロック=不良がやるもの、と思われていた時代の話である。回りの大人たちの反感は今とは比べられないほどだったに違いない。
この時代を扱った映画の定番といえば、ベトナム戦争か学生運動かヒッピー。でも、実際にはエリオットのように真面目でいけてない素朴な青年も大勢いただろうし、そういった若者たちは、周りの盛り上がりを内心うらやましく思いながらも、殻をやぶれずにいたのだろう。
この映画には、ステージ上のジャニスやジミヘンの姿はまったく出てこない。ウッドストックに集まった若者たちが薬を飲んでトリップしたり、泥だらけになったり、沼で裸で泳いだり…。そんな姿をエリオットの目を通して追っていく。
途中からすっかりエリオットに感情移入し、ウッドストックの開放的な雰囲気を謳歌する若者たちに乗せられ、自分もその場にいるようなトリップ気分に…。
古いタイプの両親との関係や、ゲイであることの悩みなど、エリオットはいろいろ抱える問題も多いのだが、このイベントをきっかけに、一歩を踏み出そうとする。
祭りの後、山のようなゴミをバックに、すがすがしそうなエリオットの姿は印象的で、彼の旅立ちに拍手を送りたくなった。
この映画は若者中心の映画ではあるのだが、両親の姿もしっかりと描かれている。
ロシア系ユダヤ人の母は、徹底した金の亡者。ホテルの客にもケチなことばかりいい、融資をしぶる銀行員の前で悪態をつく。一方、父親は生きがいをなくし、生きた屍状態。そんな二人がウッドストックをきっかけに少しだけ変わっていく(祭りが終われば、母親はまた業つくばりに戻るのでしょうが)。
母を演じたのは「ベラ・ドレイク」で怪演したイメルダ・スタウントンなのだが、これがまた上手い!イギリス版市原悦子の体当たり演技は必見です。
また、脇役としてデカイ女装の用心棒(リーヴ・シュレイバー)も登場するのだが、彼のちょっとした一言もピリリときいて、いいスパイスとなっている。「ガープの世界」でジョン・リスゴーが演じたオカマを彷彿とさせる存在感!(女装といえば、ミッツや松子が今、流行ってますが)
そしてそして、ウッドストックのプロデューサーを演じたジョナサン・グロフ(要チェックの新人!)もキラキラ光ってて美しかった〜。
久々に心が晴れ晴れする名作で、この映画を抱きしめて帰りたくなった。
ウッドストックを舞台にはしてはいるが、アン・リー監督の初期作品「推手」「恋人たちの食卓」路線のハートウォーミングな作品でした。2011.1

(ザ・)ファイター THE FIGHTER 
デヴィッド・O・ラッセル監督、マーク・ウォールバーグ、クリスチャン・ベイル、エイミー・アダムス、メリッサ・レオ出演
☆舞台は90年代のアメリカの田舎町。かつて、伝説のボクサー、シュガー・レイからダウンを奪ったことだけが自慢のディッキーは、ドラッグで身を持ち崩し、荒んだ生活を送っている。子だくさんの母は、ディッキーを弟ミッキーのコーチにつけ、金のために無謀な試合をセッティングする。
無軌道な兄と身勝手な母に翻弄され、危険な試合に挑んだミッキーは痛手を負ってしまう。
実在のボクサー、ミッキー・ウォードと、彼らをとりまく人々の人間模様を描いた感動のヒューマン・ストーリー、と、一般的には分類されているようだが、これはいわゆる単純なアメリカン・ドリームものではない。この映画に“感動”という表現は、似合わない。
ミッキーを取り巻く人間たちは、いずれも下品でダサくて安っぽい。
ジャンキーの最低アニキに、派手ではすっぱな母。怠け者揃いの姉たち…。
どいつもこいつもミッキー頼みで、自分たちはやりたい放題。
唯一まともなミッキーの彼女だって、場末のバーの女給で、大勢の男と浮名を流したいわゆるアバズレ。ミッキーの母親と激しくやり合うシーンを見て、
「この女も母親と似たりよったりじゃねーか。数年後には同じ穴のムジナだよっ」と、罵りたくなるほど(あまりにみんな下品なので、見ているこちら側まで、ついついお下品な言葉を使ってしまいました^^;)。
そんな規格外の田舎モノ一家が、感情をストレートにぶつけ合うシーンには、どんぴしゃ!のハード・ロックが流れてくる。
ストーンズ、ツェッペリン、エアロスミス、レッチリetc..。
ついつい身体が揺れ、口ずさんでしまうほど…。
映画館で、「一緒に吠えたい」と、思ったのは私だけ?
まるでハードロックの野外ライブにやって来たような感覚を覚えた。
スクリーンから漂う、汗と紫煙の臭い、そして独特の時代感は、ずい分昔に置き忘れてしまった懐かしさがある。
勝ち負けに対する涙や家族愛を描いた多くのファイター映画とはひと味もふた味も違った、パンクなノリ。ある意味、「ロッキー」よりも「シド&ナンシー」に近い感じだ。
余談だが、監督のデビッド・0・ラッセルがサンダンスで賞をとった初期作品「スパンキング・ザ・モンキー」は、かなりパンクな青春映画。音楽が印象に残っているのを思い出した。彼はかなりのハードロック・マニアなのでしょう。
そして忘れてならないのが、今年のアカデミー賞で、助演男優&女優賞を獲得したご両人の演技。
頬がこけ、臭ってきそうなほどヨレヨレの兄ディッキーを演じたクリスチャン・ベールの代わり様には、びっくり。端正な顔立ちの二枚目俳優が、あそこまで落ちぶれ感を出せるなんて、さすが!の一言に尽きる。
はすっぱで、いっちゃってる派手なババア(母親なんだけど、この表現しか思い浮かばず)役のメリッサ・レオも言うことなしの出来栄え。遅咲きだけど、ウマイ役者です。
もちろん、主演のマイキーもステキでしたよ!
感想がとっ散らかってしまったが、綺麗に小さくまとめてしまうのはもったいないぐらいに、荒削りだがエキサイトできる。
くれぐれもオシャレしていかないこと。ぴっちぴちのジーンズはいて、ビール缶片手にげっぷしながら見ると、よりこの映画の世界に入り込めますっ。2011.4

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【ア a】
蒼ざめた官能 Azul Oscuro Casi Negro
ダニエル・サンチェス・アレバロ監督、キム・グティエレス、マルタ・エトゥラ、アントニオ・デ・ラ・トレ、エクトル・コロメ、ラウール・アレバロ出演
☆痴呆の父の世話をしながら7年かけて大学を卒業したホルヘは、ブルーカラーの生活から抜け出すため、就職活動を始めるが、上手くいかない。 一方、服役中の兄アントニオは、刑務所内でリンチを受けている恋人から、妊婦病棟にうつるために妊娠したい、と持ちかけられるが、アントニオは子供が出来ない身体だった。ホルヘは兄から、自分の代わりに恋人を妊娠させてほしい、と持ちかけるが、ホルヘには長い間思い続けている女性がいた…。
痴呆の父の介護、無謀な頼みごとをする前科者の兄、恋人へのコンプレックス…。周りに振り回され、貧乏くじをひかされた繊細な青年の成長を描いた青春映画である。
とんでもないタイトルとパッケージ写真から、エロチックものに分類されているが、まったく違います。
マンションの管理人生活から、背広族にのし上がりたいのに、人の良さが邪魔をして、家族に振り回されてしまう青年をグティエレスが好演。ストーリー構成も巧みで、見ごたえがある人間ドラマに仕上がっていた。キャストは、アレバロ組なのか、『マルティナの住む街』と、ほとんど同じ顔ぶれ。
質の高い作品だとは思うのだが、主人公があまりにもウジウジしているのと、子供欲しさに周りを利用する女囚の行動に共感できず、少々イライラしてしまった。
ただ、父の秘密を目撃して戸惑う親友の物語は、ほほえましくて好印象。また、必要以上にコンプレックスを抱いている彼に向かって、恋人が「私だって1年契約の派遣。給料は最低ランク。それでも我慢して働いてるのよっ」と言い放つ台詞には共感できた。
一見、カッコよく働いているように見えるホワイトカラーだって、給料安いし、不安定なのは、スペインも日本も一緒です…。
スペインの映画事情には暗いのだが、アレバロ監督というのは、等身大の人々のリアルな台詞が上手い監督なのでしょう。次回作にも期待したい。2012.2

愛と宿命の泉 1,2
クロード・ベリ監督、イヴ・モンタン、ジェラール・ドパルデュー、ダニエル・オートゥイユ、エマニュエル・ベアール出演
☆舞台はプロヴァンス地方のある村。土地を巡って隣人と口論になった農夫セザールと甥ウゴランは、あやまって隣人を殺害。さらに、その土地を安く手に入れるために、泉を埋めてしまう。
まもなく、土地の権利を持つ都会人の一家が越してくる。
ウゴランは、叔父の言うままに、彼と友人になり、農業に関する様々な助言を与える。まもなく干ばつに襲われ、都会人の土地や家畜が全滅。ウゴランら、村人たちは、彼に手を貸そうとしない。
閉鎖的な村社会と、水を巡る攻防、そして人間たちの愛憎、復讐…。
大河ドラマのお手本のようなドラマチックかつよくこなれた骨太の映画で、パート1,2ともに見ごたえがあり、飽きることなく鑑賞できた。
役者たちも超豪華。ダニエルが、とんでもない不細工男に変身して、心身ともにみっともない男を熱演していた。若きエマニュエル・ベアールの美しさは、女性が見ても息を飲むほど。ウゴランが彼女の魅力におぼれていく様が痛々しく、思わず同情してしまった。
ベルトリッチの『1900年』や、コッポラの『ゴッドファーザー』など、昔は、贅沢なつくりの映画がたくさんあったよなあ。今は世界的に小粒な感あり。
映画の内容よりも、3Dなどの映像技術に重きを置き過ぎてる気がします。2011.11

アナとオットー LOS AMANTES DEL CIRCULO POLAR
フリオ・メデム監督、ナイワ・ニムリ、フェレ・マルティネス出演
☆子供の時に運命的な出会いをしたアナとオットーは、お互いの親が再婚して義理の兄妹となる。二人は密かに愛し合っていたが、オットーの母の孤独死をきっかけに、二人の関係にひびが入る。
運命なのか、偶然なのか…。二人の出会いとすれ違いの人生を、お互いの視点から追いかけたアート作品。どこかで見た設定、と思ったら、ドルマル監督の『ミスター・ノーバディ』に設定がそっくり。ドルマル監督は、この作品にヒントを得たのでしょうか?
ドラマチックな二人の人生を、悲劇ではなくポップアート調に描いていて好感がもてた。
アルモドバル作品ほどギトギトしてない軽いデザートのような作品。二人の関係性も可愛かったです。2011.12

明日、君がいない 2:37
ムラーリ・K・タルリ監督、テリーサ・パーマー、ジョエル・マッケンジー、クレメンティーヌ・メラー出演
☆優秀な兄マーカスを持ち、主婦になるのが夢と語る高校生のメロディ、権力と富を得ることだけが目標のガリ勉マーカス、プレイボーイで知られる学校の人気者ルーク…。一見、普通の高校生の内に秘めた悩みが、次第に明らかになり…。
一見ドキュメンタリー風の学園風景の中で、様々な問題が浮き彫りになり、ラストの悲劇へとつながっていく。ドラマ展開が絶妙で、子供たちの表情も素晴らしい。かなりシビアな内容ではあるのだが、絶望感は感じない。
ガス・ヴァンサント監督の「エレファント」に似ているのだが、子供たちそれぞれの内面を丁寧に描いていて好感が持てた。
友人の自殺に悩み苦しんだ監督が10代で製作した作品、とのこと。オーストラリアの新人監督の今後に期待大。2011.8

アイルトン・セナ 〜音速の彼方へ SENNA
アシフ・カパディア監督
☆90年代、F1界のスーパースターとして名をはせ、34歳という若さでレース中に死亡したアイルトン・セナの足跡を追ったドキュメンタリー。
当時、F1にほとんど興味のなかった私でさえ、セナの名前はもちろん知っていたし、亡くなったときのマスコミの騒ぎぶりも鮮明に覚えている。
日本はバブル末期で、みんなが華やかな世界に麻痺し、浮かれていた時代だった。
そんな中でのスーパースターの余りに衝撃的すぎる死…。
翌年の1995年。日本では、阪神淡路大震災、サリン事件、とショッキングな災害・事件が続き、山一証券の廃業を経て冬の時代へ突入していくのだが、セナの事故は、日本人にとっても、移りゆく時代の象徴的な出来事の一つだった気がしてならない。
このドキュメンタリーは、ブラジルでも日本でもない、異国の監督によって作られたものだが、日本GPの様子や日本の加熱気味の報道もたびたび画面に登場し、90年代のあの熱帯夜のような空気を思い出させてくれる。

セナとプロストの確執や、協会とのトラブルなど、ドロドロしたモータースポーツ界の裏話も盛り込まれ、苦悩するセナの姿は痛々しい。
一方で、ブラジルのアイドル、シューシャにキスされ、デレデレ顔のセナもまたキュートだ。
そして運命の日。
前日に同じコースで死亡事故があったにも関わらず、何の安全対策も取らずにレース続行。
そしてセナは、不運にも、クラッシュによって破損したマシンの一部が頭を直撃し、あっけなく命を落としてしまう。
「あのとき、ああしていれば…」という激しい後悔や怒りは、悲劇の後にはつきものだが、このレースに関しても、誰もが「なぜ?」と感じていただろう。
レース前、いつになく不安そうで、苛立っていたセナの姿は、今でも脳裏に焼きついて離れない。
セナの亡骸がたどった道は、今、アイルトン・セナ通り、と名づけられ、サンパウロの人々の生活に欠かせない道となっている。
セナの甥っ子でルックスがそっくりのブルーノもドライバーになった。
マサ、バリチェロ、ブラジルはF1ドライバーの宝庫ではあるのだが、誰も、セナを超えることはできないだろうなあ…。2011.6

アウトレイジ
北野武監督・出演、三浦友和、椎名桔平、加瀬亮、小日向文世、北村総一朗、塚本高史、板谷由夏、中野英雄、杉本哲太ほか出演
☆ヤクザの男が兄弟組が経営するキャッチバーに引っかかり、高額な飲食代を請求されたのをきっかけに、仲間同士の殺し合いがはじまる。仁義もクソもなくなったヤクザ社会を舞台に、ゲームのようにリストラ=殺し合いが行われる様を描いている。残忍さが話題ではあったが、韓国映画に比べればかわいいもの。それよりも、人の命の’軽さ’が印象に残った。どいつもこいつも悪人ばかり。さて、生き残るのは…。ほぼ予想通りで、個人的にはうれしい展開。北野映画は嫌いじゃないけど、それほど思い入れもないので、可もなく不可もなく、といった感じです。2011.3

悪魔を見た I SAW THE DEVIL
キム・ジウン監督、イ・ビョンホン、チェ・ミンシク、オ・サナ出演
☆国家情報員捜査官スヒョンの婚約者が、雪の夜、猟奇殺人鬼ギョンチョルに惨殺され、バラバラ死体となって発見される。スヒョンはギョンチョルの居場所を突き止めるが、殺さずに、GPSカプセルを飲ませて逃がしてしまう。スヒョンは、ギョンチョルを泳がせ、犯罪を犯そうとしているところへ乗り込んで、ギョンチョルを痛めつける。
猟奇ものは韓国映画の十八番だし、主演二人も演技派なので、かなり期待していたのだが…。犯人はもちろん、復讐鬼のスヒョンの人間性もまったく深みがなく、化け物どうしが痛めつけあうだけ。追いつ追われつのハラハラドキドキもなく、女たちがいたぶられるシーンばかりが目立ち不快感ばかりが残った。単なるサディズム&ホラー映画。どうせなら「マチェーテ」みたいにおバカな映画にしてほしかった。2時間半というのも長過ぎ。血しぶきものは平気なほうだが、この映画はまったく受け付けなかった。2011.3参考CINEMA:「甘い人生」「グッド・バッド・ウィアード」

アザーマン もう一人の男 The other man
リチャード・エア監督、リーアム・ニーソン、アントニオ・バンデラス、ローラ・リニー出演
☆靴デザイナーの妻を持つピーターは、妻の携帯に残された男からのメッセージを聞き、妻に恋人がいたと知る。イタリアでその男を見つけたピーターは、チェス仲間として近づく。なぜ妻が姿をけしたのかをあいまいにして、夫が妻の愛した男を探す、という展開は興味深く、じわじわと二人の男の内面が描かれている。何か深い裏があるのでは…と思わせながら、事実はごくシンプルで、少々拍子抜けした感もあったが、ニーソンとバンデラスがそれぞれ魅力的に描かれていたので良しとしましょう。地味な大人の映画でした。参考CINEMA:「あるスキャンダルの覚え書き」

アダルト♂スクール OLD SCHOOL
トッド・フィリップス監督、ルーク・ウィルソン、ウィル・フェレル、ヴィンス・ヴォーン、ジュリエット・ルイス出演
☆同棲中の恋人に裏切られた男、結婚直後にマリッジブルーになった男、家族と仕事に追われる男。3人は青春を取り戻そうと、社交クラブを結成する。アメリカらしいおバカなコメディ。くだらないけどそれぞれのキャラがしっかり描かれていて面白くみれた。ただ、アメリカで大ヒットする理由はわかりませんが。2011.3

アンストッパブル UNSTOPPABLE
トニー・スコット監督、デンゼル・ワシントン、クリス・パイン出演
☆ペンシルヴェニアの鉄道機関士フランクは、新米車掌ウィルと組んで大編成の貨物列車に乗り込む。その頃、別の駅で、無人列車が暴走。危険な燃料を大量に積んだその列車は、フランクが向かう先に迫っていた。
暴走機関車を止めるまでのハラハラドキドキをシンプルに堪能できるパニック映画。実話をもとにしているということ。原発事故の報道にかじりついた1か月の直後だっただけに、シンプルだけどリアルで面白く見れた。機関士の友情物語を排除してくれたほうが、実録っぽくてよかったんだけど、そこはハリウッド映画なので仕方ないか。深刻な事故が起こった時の裏舞台は、方法を巡って、様々な意見が飛び交うんだろうし、判断ミスも多々あるだろう。原発事故の直後もこんな感じだったんだろうなあ。いつもなら「面白かった」で済ませるパニック映画だが、311以降、笑って済まされないリアルな恐怖を感じた。2011.5

歩いても 歩いても
是枝裕和監督、樹木希林、原田芳雄、阿部寛、夏川結衣、YOU、高橋和也ほか出演
☆海辺の町で暮らす元町医者の老夫婦の元に、二男が嫁とその連れ子とともにやってくる。その日は、15年前に海の事故で亡くなった長男の命日だった。お調子者の姉家族とともに、当たり障りのない家族の会話が始まるが…。
一見すると普通のお盆の集まりに見えるのだが、母は若くして亡くなった長男が忘れられず、夫は医者としてのプライドが捨てきれない。二男は失業中であることを隠し、兄に対するコンプレックスを抱え、その嫁は、2度目の結婚ということに引け目を感じている。淡々とした家族の風景なのだが、一人ひとりの事情がさりげなく見え隠れするのが心地よい。ドラマチックな表現はないのだが、ジワジワと彼らの悲しみが染み出てくる感じが何とも上品。小津映画チックで、好感が持てた。退屈になりがちな設定なのだが、そのあたり、さすが是枝監督。腕がありますね。役者もそれぞれ適役で安心感のある映画でした。011.5

忌野清志郎 ナニワ・サリバン・ショー 〜感度サイコー!!!〜
鈴木剛監督、忌野清志郎、石田長生、仲井戸麗市ほか出演
☆「ナニワ・サリバン・ショー」は、大阪のラジオ番組をきっかけに、キヨシローとチャボ、そして音楽仲間たちが始めた、音楽の祭典である。2001年から2006年まで、3回にわたって開催されたこの夢の祭典から、ライブシーンを再編集して作られた映画版は、キヨシローLOVEの気持ちがこもった、手作り感いっぱいの愛ある作品に仕上がっていた。
奇抜な衣装を身にまとったキヨシのもとに集まったミュージシャンは、ロック、フォーク、ジャズ、そして演歌まで多種多様。若手からベテランまで、みんながキヨシローと楽しそうにコラボしている。
そんな姿をスクリーンで見ながら、キヨシローは幸せもんだ〜、としみじみ。
ファンだけでなく、ミュージシャン仲間や役者たちからも愛され、尊敬されていたことが彼らの表情から伝わってきた。
すっかりメジャーになった斉藤和義の、まだまだ初々しい姿に、時の流れを感じたり、あのクドカンがマジでめちゃめちゃ緊張している姿を見て、キヨシローはやっぱり偉大なんだ、と改めて知らされたり、乙女のように「カッコイー」とはしゃぐ矢野顕子女史と気持ちを共有できてうれしくなったり…。
コラボ演奏の一つ一つが味わい深く、なんだか夢の中にいるよう…。
もう、キヨシローがいなくなってしまったことなど忘れてしまうかのような至福のひととき…。
唯一無二、オンリーワンのアーチスト、キヨシローは永遠なり…。2011.12

100,000年後の安全 INTO ETERNITY
マイケル・マドセン監督
☆フィンランドに建設中の高レベル放射能廃棄物の貯蔵庫の安全性について疑問を投げかけたドキュメンタリー。
日本でも岐阜や北海道で地下に埋める研究を進めているのだが、北欧ではすでに貯蔵庫があり、10万年もの間、危険であることを伝え続けなければならない、という事実をはじめて知った。
10万年後なんて想像もできないし、そのころ、はたして地球や人間が今のままであることが可能なのだろうか、と思う反面、今を生きる人間の責任として、危険なものを子孫に受け継がなければならないことにも、疑問を感じた。
ただ、作ってしまった原発と、それを使っている事実はしっかりと受け止めなければならない。後処理を他国に依存し、危険を金で解決していることは以前から疑問に思っていただけに、日本でもこれを機会に廃棄物の処理について、もっと積極的に取り組むべきだと感じた。2011.5

インセプション INCEPTION
クリストファー・ノーラン監督、レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、マリオン・コティヤール、エレン・ペイジ、キリアン・マーフィ出演
☆コブは他人の夢の中に潜入して企業情報やアイデアを盗むスパイとして働いている。しかし、妻がなぞの死をとげ、容疑者として国際指名手配されていた。ある日、コブは、ターゲットの潜在意識にあるアイデアを植え付ける“インセプション”の仕事の依頼を受ける。仲間たちとある資産家の息子の夢へ潜入を開始する。
夢の中の夢、と2重にも3重にもなる夢への潜入、という発想が面白い。映像も迫力があり見応え十分。でも、なぜか入り込めず。おそらく、彼らが危険を犯してでも奪おうとしている目的に説得力がないためだろう。まるでゲームのようで途中から、飽きてしまった。今の若者にはこういったゲーム感覚のエンタメ作品が受けるのだろうなあ。気持ちは若いつもりだけど、嗜好はやっぱり中.年です。2011.3

ウィンターズ・ボーン WINTER'S BONE
デブラ・グラニック監督、ジェニファー・ローレンス、ジョン・ホークス、シェリル・リー出演
☆舞台はミズーリ州の寒村。幼い弟妹と心を病んだ母の世話に追われる17歳のリーは、保釈中の父が失踪した、との知らせを受ける。このままでは、担保にしていた家が没収され、家族は路頭に迷ってしまう…。リーは、父の行方を捜すために、古くからの因習にとらわれた闇社会の一族に近づいていく。
17歳の少女が、金のために、死んだと思われる父の遺体を探す、というなんとも悲しい物語。暴力的で怪しげな村の住人はどいつもこいつも曲者で、いったい何を隠そうとしているのかが明らかにされない。ただただ17歳の娘を心身ともにいたぶるのだ。見ていて辛くなるほどだったが、上を向き、必死で強く生きようとする娘のたくましい姿は一見の価値あり。ジェニファーの演技が素晴らしく、大物女優の貫録さえ漂わせていた。今後のジェニファーは要チェックだ。2011.12

美しい人 NINE LIVES
ロドリゴ・ガルシア監督、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトウ製作総指揮、キャシー・ベイカー、エイミー・ブレネマン、エルピディア・カリーロ、グレン・クローズ、ホリー・ハンター出演
☆女たちの9つの物語を切り取ったオムニバス。ロドリゴ監督の真骨頂、様々な立場の女心が丁寧に描かれていて好感が持てた。
ラテン系女囚、黒人の看護師は、印象に残ったのだが、女優陣が似たような背格好の金髪が多くて、少々混乱してしまった。2012.1

ウォール・ストリート WALL STREET: MONEY NEVER SLEEPS
オリヴァー・ストーン監督、マイケル・ダグラス、シャイア・ラブーフ、ジョシュ・ブローリン、 キャリー・マリガン、スーザン・サランドン、フランク・ランジェラ出演
☆投資会社のやり手金融マンのジェイコブは、元カリスマ投資家ゲッコーの娘ウィニーと同棲中。ある日、自分を育ててくれた上司が自殺し、会社は破綻してしまう。ウソの噂を流してつぶされたと知ったジェイコブは、敵であるブレトンの懐へ飛び込み、復讐の機会をうかがう。
一方、7年の服役を終えて出所したゲッコーは、本の出版や講演で生活していたが、昔の面影はなく、娘からも恨まれ、孤独に暮らしていた。
ゲッコーに近づいたジェイコブは、金融社会の裏事情を教えられる。
2008年の金融危機を背景に、元カリスマの復活と、若手の台頭を描いている。噂の流布によって会社が倒産し、それをきっかけに金融危機が起こるなんて、なんて危うい社会。まさにギャンブル。そんなギャンブルに今は世界の金融が翻弄されているのだろう。
2008年の金融危機も、オイルやコーヒーの高騰も、円高も、一部の投資家のマネーゲームによるものなのかもしれない。裏テクについては、正直よく理解できなかったが、ネットを使って噂が流布され、あっという間に会社や人を破産に追い込む、というのが、まさに”今”を表していて面白かった。ウィキリークや、フェイスブックなど、ネットの情報に踊らされている現代ってかなり危うい状況なのだ、と恐ろしくなった。
マネーゲームより、人と人とのつながりや家族が大事、ということを最後に男たちは学ぶ、というエンディングには、少々拍子抜け。ゲッコーには最後まで、孤独な権力者でいて欲しかったのだが…(「ゴッドファーザー」のように)。ストーン監督も年ですし、吠え続けるのがしんどくなったのかもしれませんね。
&音楽がデビッド・バーンとブライアン・イーノだったのにはびっくり。時折流れるデビッド・バーンの歌声が懐かしかったです。2011.2

(ザ・)ウォーカー THE BOOK OF ELI
アレン・ヒューズ&アルバート・ヒューズ監督、デンゼル・ワシントン、ゲイリー・オールドマン、ミラ・クニス、ジェニファー・ビールス、トム・ウェイツ出演
☆舞台は荒廃した未来の地球。無敵の男イーライは、ある本を携えて一人西に向かっている。悪人を従えるカーネギーは、その本によって世界を支配しようと企み、若い娘ソラーラに誘惑するよう命じる。
近未来の荒廃感は「マッドマックス」そっくりだったので、パクリ?と思ったけど、まったく違った内容だった。聖書の解釈によって人々がいがみ合い、結果的にオゾン層が破壊されて、多くの生きものが消えてしまった未来。その後、聖書は悪とみなされ、焼き尽くされてしまったが、イーライだけは、その本を持ち続け、神のお告げを守ろうとしている。
単なる近未来アクションではなく、今の社会へのアンチテーゼもしっかりと盛り込まれていて、見応えがあった。デンゼルの圧倒的な存在感と、すっかり悪人専門になったゲイリーの演技力も秀逸。映像やアクションも洗練されていて楽しめた。2011.5

英国王のスピーチ THE KING'S SPEECH
トム・フーパー監督、コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーター、ガイ・ピアース出演
☆英国王の次男ジョージ6世は、吃音のため、人前でのスピーチに恐怖心を抱いていた。様々な治療を試みるが効果がなく、コンプレックスを募らせる王子に、妻は、新聞広告で見つけたオーストラリア人の専門家ライオネルを紹介する。最初は彼の治療を拒否した王子だが、次第に心を開き、二人の間に友情が芽生える。そんなとき、父である国王が急死。兄が即位するが、まもなく離婚歴のある女性との愛を選んで、王の座を辞してしまう。
生真面目であがり症。そんな男がコンプレックスを克服して、立派な王となるまでを丁寧に描いている。派手さはないが良い映画。コリンの演技はもちろん、彼を支えた妻、治療士役もそれぞれ適役で、見ていて安心できる作品だった。但し個人的には感動秘話より、王位を捨てた兄の生きざまに興味を持ったので、彼の人生を描いた作品もぜひ見てみたい。アカデミー賞も渋い映画選んだよなあ。というのが正直な感想です。2011.4

エレジー ELEGY
イザベル・コイシェ監督、ベン・キングズレー、ペネロペ・クルス、パトリシア・クラークソン、デニス・ホッパー、ピーター・サースガード出演
☆著名な大学教授ケペシュは、30歳も年の違う学生コンスエラに魅せられる。親友のジョージは彼の熱中ぶりに釘をさし、長年割り切った関係を続けてきた恋人からも別れを告げられる。彼の想いがコンスエラにも届き、二人は甘い日々を続けるが…。
年の差カップルの濃密な愛の日々を綴った大人の恋物語。評判悪かったので期待していなかったが、しっとりとして雰囲気のある描き方には好感が持てた。自分が過渡期に差し掛かっているせいか、男側の老いに対するコンプレックスも理解出来たし、二人の関係を公にしたい女の気持ちもよくわかる。脇に徹したデニス・ホッパーの抑えた演技も存在感あり。これが遺作だったのかも。恋愛映画ではあるのだが、人生の幕の引き方について、考えさせられた。2011.4

オーケストラ!LE CONCERT
ラデュ・ミヘイレアニュ監督、アレクセイ・グシュコフ、メラニー・ロラン、フランソワ・ベルレアン出演
☆モスクワにある劇場で清掃員として働くアンドレイは、元ボリショイ楽団の有名指揮者。共産主義時代に不満分子として排斥されて以来、舞台に立つことはなかった。ある日、団長の部屋でパリ公演の出演依頼のファックスを見つけたアンドレイは、かつて排斥された仲間とともに偽楽団を再結成してパリへ向かう。
ソ連時代のユダヤ人排斥等、詳細を知らなかったが、世界には、才能があっても抑圧された人々が大勢いるのだ、という事実にあらためて驚かされた。当たり前のような「自由」について考えさせられるものあり。何よりも、ラストのチャイコフスキーの演奏は圧巻です。2011.3

狼たちの処刑台 HARRY BROWN
ダニエル・バーバー監督、マイケル・ケイン、エミリー・モーティマー出演
☆元軍人の老人は、妻を亡くし親友をチンピラに惨殺され、失意のどん底にいた。ある晩、暴漢に襲われた男は、とっさに相手を殺してしまう。それをきっかけに、親友を殺した町のチンピラ狩りを始める。孤独な老人の復讐劇を描いた作品。特別、面白さも斬新さもないが、名優マイケル・ケインの演技が光る一本。2011.4
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【カ ka】
神々と男たち DES HOMMES ET DES DIEUX
グザヴィエ・ボーヴォワ監督、ランベール・ウィルソン、マイケル・ロンズデール出演
☆1990年代のアルジェリア。フランス人の神父たちが静かに暮らす山の修道院に、テロリストのグループが現れ、薬を分けてほしい、と言ってくる。
まもなく内戦が激化し、フランス政府は修道士たちに、国外退去を命ずるが…。
この手の実話は、ドラマチックさに走りがちだが、帰るべきか残るべきかで苦悩する修道士たちの心の葛藤を繊細なタッチで描いていて好感が持てた。
神と共に生きることを決意した高齢の神父たちが、テロリストに屈することなく天寿を全うする決断をしたのは、十分納得できる。気高く死ぬ、というよりは、テロリストに怯えながら連れられていく、小さな後ろ姿がリアルだった。聖職者だって人間だもの、殺されるのは怖かっただろうに…。ベッドの下に隠れて助かってしまった老修道士の飄々としたキャラが唯一のなごみでした。2012.2

彼女が消えた浜辺 ABOUT ELLY
アスガー・ファルハディ監督、ゴルシフテ・ファラハニ、タラネ・アリシュスティ出演
☆カスピ海沿岸のリゾート地に家族旅行へやって来た一家は、保育園の保母エリと、ドイツから帰省中のアーマドのお見合いを画策。1泊で帰りたいというエリを無理やり引き止める。そんなとき、子供が海で溺れる事故が発生。子供は九死に一生を得たが、海岸にいたはずのエリが姿を消してしまう。家族は、帰りたがっていたエリが、勝手に帰ってしまったのか、海に助けに入って溺れたのか、分からずに戸惑う。
2009年のベルリン国際映画祭で監督賞に輝いた作品。イラン映画らしく、目的に向かって回り道ばかりしている人々の混乱ぶりをリアルに描いている。
脚本はよく出来ていると思うが、少々期待はずれ。エリの気持ちをそれぞれ推測しながらも、結局誰にも本心はわからない。人間の関係なんて所詮そんなもの。家族だってすべてを分かり合うのは無理なのだし…。後味の悪さが、この映画のテーマなのかもしれませんね。2011.4

ガールフレンド・エクスペリエンス THE GIRLFRIEND EXPERIENCE
スティーヴン・ソダーバーグ監督、サーシャ・グレイ出演
☆ニューヨークでストレスフルな生活を送る男たちを相手に身体を売る若い女の姿をドキュメンタリー風に描いた作品。セフレ感覚で男たちから金をもらうモデル風の若い女。女にとってコールガールは仕事というよりは趣味に近い。そこに痛々しさは感じられない。セックスシーンがほとんどないけど、娼婦の映画というのも面白い。正直、彼女の価値観には共感を覚えなかったのだが、常に平常心でいるようにみえても心にいいようのない孤独感を抱いているのだろう、ということは想像できた。2011.4

海角七号/君想う、国境の南 CAPE NO. 7
ウェイ・ダーション監督、ファン・イーチェン、田中千絵、中孝介出演
☆台北の田舎町でけがをした祖父の代わりに郵便配達をする青年アガは、郵便物の中から、日本統治時代のラブレターを見つける。一方、町では、町興しライブに出演する即席バンドが結成され、アガは作曲とボーカルを務める羽目になる。
徐々に現代の人間模様と過去の純愛が絡まるのかと思って期待したのだが、ほとんど町の人々の日常を描いているだけで、退屈だった。日本人女性役の女優も怒鳴ってばかりのワンパターン演技で見るに絶えず。台湾でヒットした映画らしいが、ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンとは比べ物にならないほど完成度の低いお子様向け映画でした。2011.3

キック・アス KICK-ASS
マシュー・ヴォーン監督、アーロン・ジョンソン、クリストファー・ミンツ=プラッセ 、ニコラス・ケイジ出演
☆冴えない高校生デイヴは、ネットで手に入れたヒーローグッズでコスプレし、キック・アスと名乗って街に出かける。当然、街のチンピラにボコボコにされ大怪我を負うが、ひょんなことからデイブの姿が動画サイトで話題になり、ヒーロー扱いされてしまう。一方、マフィアのボスへの復讐のため、幼い娘に武術を教えていた男は、キック・アスと遭遇し、彼の代わりに悪党をやっつける。
ヒーローに憧れる少年と、ヒーローの英才教育を受ける少女の活躍を面白おかしく描いた痛快コメディ。安っぽい作りなんだが、皮肉な笑いもたっっぷりでかなり楽しめた。とくに前半、まったく冴えないヒーローと、変人パパの英才教育ぶりは一見の価値あり。2011.4

キッズ・オールライト THE KIDS ARE ALL RIGHT
リサ・チョロデンコ監督、アネット・ベニング、ジュリアン・ムーア、ミア・ワシコウスカ、マーク・ラファロ出演
☆精子バンクを利用して二人の子供を授かったレズビアンのカップル、ニックとジュールスは、大人にさしかかっている娘ジョニと息子レイザーの行動に干渉して、煙たがられている。子どもたちは、自分たちの父親がレストランのオーナー、ポールと知って会いに行き、次第に打ち解けていく。子供たちの秘密を知ったニックとジュールスは、ポールを食事会に招き、質問攻めにする。
両親ともに女性、子供たちは精子バンク提供で生まれた子、という特殊な環境にありながら、そこには一般の中流家庭が抱える普通の悩みがある、という設定が今風で興味深い。
ニックは女だけど、医者という仕事を持ち、家族を支え、考え方もかなり封建的。ジュールスは、優柔不断でしっかりしてない自分にコンプレックスを持っている。優等生の長女は母の思いどおりに名門大学に合格したものの、奥手な自分を変えたいとも思っている。そして弟は、唯一の男であることに戸惑いを感じ始めている。
そこへ現れた、まったく違うタイプの遺伝子上の父親。父というよりよき兄のような気楽な関係に、子供たちは心地よさを覚え、どんどん近付いていくのだが、倦怠気味の母ジュールスまで、彼に魅かれてしまったことで、ややこしくなっていく。
普通そうで普通じゃない。でも特殊ではないし…。
この微妙な感じがアメリカでは受けたのだろう。
セリフもウィットが利いていて、飽きずに面白く見れたが、レズを中心にした家族というのが、日本ではかなり特殊なので、リアルには感じられなかった。
女っぽさが売りのアネットが、態度も口調も男っぽく化けていたことには驚き。遅咲きの女優だけど、上手い役者です。
マーク・ラファロがごひいきなので、どうしてもポールに肩入れしてしまい、ニックに少々敵意を抱いてしまった。結局、家族が丸く収まり、ポール一人、蚊帳の外…、というエンディングは気の毒過ぎる。続編作って、ポールにも幸せを運んであげて〜なんて思ってしまいました。まあ、監督も精子バンクで子供産んだらしいので、男がないがしろにされるのは仕方ないのかも。2011.5

キャタピラー
若松孝二監督、寺島しのぶ、大西信満、篠原勝之ほか出演
☆四肢をなくし、言葉も失った夫・久蔵が戦場から帰ってきた。村人は久蔵を“軍神様”と讃えたが、妻シゲ子は、食欲と性欲の塊となった夫の介護にうんざりしている。勲章を携えた久蔵をリアカーに乗せ、村人からチヤホヤされることで、気を紛らわし始めるが、それは、久蔵のプライドを傷つける。やがて久蔵は、炎につつまれた戦場で、女たちを犯し続けた過去に怯えるようになる。
肉欲と食欲だけの獣のような夫と、その相手をさせられる妻の関係性と心の変化を描いている。単調な日常の中で、寺島しのぶ演じる妻が徐々に変化していく様が恐ろしい。それは決してドラマチックな変貌ではないので、彼女の気持ちの流れには同性として感情移入できた。一方、夫にとっては勲章だけが唯一の拠り所。だが、見世物扱いされたところで、唯一のプライドも揺らいでしまう。もし、彼の過去に、戦場での強姦がなければ、夫にもかなり同情できたのだろうが、女たちをいたぶってきた過去の映像が重なるため、夫は、やっかいない獣、としか見えなかった。多くのポルノも手掛けている若松監督だが、この映画は女の映画だ、と確信。殿方には悪いけど、男って最低、と思ってしまった。それもこれも、すべては、戦争と時代のせいなのだけれど…。
「ジョニーは戦場へ行った」に設定は似ているのだが、肉欲だけの帰還兵という設定は「ガープの世界」でも描かれていたし、お国違えど、人間、究極の姿は同じなのでしょう。若松監督、次は何を出してくるのか、楽しみです。2011.6

狂気の行方 MY SON, MY SON, WHAT HAVE YE DONE
ヴェルナー・ヘルツォーク監督

ケイヴ・オブ・フォゴトゥン・ドリームス
ヴェルナー・ヘルツォーク監督


クロッシング BROOKLYN'S FINEST
アントワーン・フークア監督、リチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードル、ウェズリー・スナイプス出演
☆舞台はブルックリンの犯罪多発地区。定年退職を控えた警官は、血気盛んな新人に対し、彼のやる気をそぐことしかアドバイスができず、軽蔑される。
一方、身重の妻と3人の子供を養うため、新しい家の購入を計画しているサルは、金が工面できず、犯罪組織からの金の横取りを企てる。
潜入捜査官のタンゴは、潜入から足を洗いたいと上司に訴え出るが、最後の仕事として親友で出所したばかりのキャズへ偽の麻薬取引を仕掛けるよう命じられる。意欲をなくした老年警官、金に困った家族もちの刑事、そして黒人の潜入捜査官…。身を削りながら犯罪と日々対峙する、現場警官の苦悩を描いた作品。
人物描写が丁寧で、また、役者も主役級をそろえていたので、見ごたえはあった。だが、全体的にスピード感がなく、単調に感じた。エンタメに走らない本格派犯罪ものを目指したのなら、もう少し、警察内部や社会の矛盾・歪みなどに切り込まないと…。どっちつかず感が残念。イーサン・ホークもすっかり汚れ役が板についたよなあ。脇役の要になる素質は十分なので、期待しています。2011.6

黒く濁る村 MOSS
カン・ウソク監督、パク・ヘイル、チョン・ジェヨン、ユ・ジュンサン出演
☆新興宗教の教祖だった男は、30年前、ある村に移り住んだ。元刑事のヨンドクは、教祖の力を利用して村長にまで上りつめたが、教祖の死後、彼の息子だと名乗るヘグクの出現に動揺する。
はてなき欲を持つ人間が集まり、宗教の名のもとに、閉鎖的なコミュニティを形成していく仮定がなんとも不気味で、鳥肌がたつほど。救いようのない暗い物語ではあるのだが、悪党たちが間抜けな分、肩の力を抜いてみることができた。『トンマッコル』では主演だったチョン・ジェヨンが、老けメイクで極悪人を演じていたのには驚き。演技派だったのねえ。韓国のサスペンス映画は、えげつないものもかなり多いのだが、想像していたよりは見やすかったです。2011.12

ゴーストライター THE GHOST WRITER
ロマン・ポランスキー監督、ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン、キム・キャトラル、オリヴィア・ウィリアムズ、トム・ウィルキンソン出演
☆イギリスの元首相ラングの自叙伝のゴーストライターとして、アメリカの小さな島に派遣されたゴーストライターは、前任者が謎の死を遂げたことが気にかかっていた。
間もなくラングが、テロリストへの不当な拷問を指示していた、とのニュースがマスコミをにぎわし、ゴーストも非難の矢面に立たされる。
ポランスキーのサスペンス、と聞くと、つい「チャイナタウン」と比較してしまうのだが、まったく違うタイプの映画。
誰もがあやしく見えるのだが、どこか事務的で、ゲーム感覚。心の奥がほとんど見えてこない。テロリストの拷問やCIA疑惑など、政治的な要素も詰まっていて、謎解きするのは面白かったのだが…。主役がマクレガーってこともあり、なんだかウディ・アレンのサスペンスっぽいな、と思ったのは私だけ?「セックス&ザ・シティ」のサマンサが、地味なスーツ着て、できる秘書を演じているのだが、やっぱりちょっとエロくて軽い感じ。キャスティングから見ても、TVの2時間ドラマ風。それが狙いなのかもしれませんが。よくできた脚本ではあるのだが、家のDVDで見た方が楽しめたかも。2011.8

ゴールデンスランバー
中村義洋監督、堺雅人、竹内結子、吉岡秀隆、劇団ひとりほか出演
☆宅配ドライバーの青柳は、首相の凱旋パレードの日、大学時代のサークル仲間・森田に呼び出され、首相暗殺の犯人に仕立てられる。「とにかく生きろ」といい残して死んでいった森田の言うとおり、追ってから逃げ回るが、マスコミ報道は過熱。サークル仲間は警察から暴行を受けてしまう。ごくごくシンプルで安心して見られるエンタメ作品。エンディングも洒落ていたが、とくにワクワク感は得られず。ちょっぴり期待はずれ。2011.7

告白
中島哲也監督、松たか子、木村佳乃、岡田将生出演
☆ある中学校の女性教師は、一人娘の愛美がプールで死亡したのは事故ではなく殺人であり、このクラスの生徒が殺した、と告白。それをきっかけに、犯人と思われる危険な装置を作った優秀な生徒は級友からひどいいじめを受け、実行犯の生徒は、精神を病んで引きこもりになってしまう。
愛する娘を失った母の復讐を、SFXを絡めた独特の映像で、ポップに描き、大ヒットした作品。客観的に見ると、新しさを感じられる作品だとは思うが、復讐劇がゲームのように行われるのに違和感を覚え、誰にも感情移入できず。もはや、一般観客と同じ感覚で映画を見れなくなっている自分が、ちょっと悲しくもありました…。2011.4

午後の曳航
ルイス・ジョン・カリーノ監督、三島由紀夫原作、サラ・マイルズ、クリス・クリストファーソン、ジョナサン・カーン、マーゴ・カニンガム出演
☆イギリスの港町で暮らす少年は、友人たちと秘密クラブを作り、真夜中に家を抜け出しては危険な遊びに興じている。ある日、逞しい船乗りと知り合った少年は彼をヒーロー視するが、早熟な友人は、彼の憧れをことごとく否定。まもなく、船乗りと母親が愛し合う現場を覗き見るようになる。
思春期の少年たちの、危険な好奇心がエスカレートしていく様が不気味で、三島ワールドが見事に映像化されていた。秘密クラブと三島の盾の会がダブって見え、彼は初期小説の中ですでに、自分の行く末を予感していたのかも、などと勘繰ってしまった。
最近の映画のように表現はストレートではないのだが、それだけに、想像が膨らむ。少年の残虐性は、今に始まったことではないのだろう。派手な映画ではないが、見応えがありました。2011.4

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【サ Sa】
サラエボ,希望の街角 NA PUTU
ヤスミラ・ジュバニッチ監督、ズリンカ・ツヴィテシッチ、レオン・ルチェフ出演
☆紛争から10余年後のサラエボ。キャビン・アテンダントのルナは、管制官の恋人アマルと同棲中だ。子供が欲しいルナだったが、アマルは勤務中の飲酒が発覚して停職になってしまう。アマルは、戦友と再会し、彼の勧めでイスラム原理主義の人々が集う湖畔の村に向かう。
一見、普通に日常を送っているように見える若いカップルだが、彼らには暗い過去がある。しかしそれば特別なことではない。サラエボに暮らす人の多くが、何かしらの辛い過去を持っているのだから。そうはいっても心の傷の深さや感じ方は、千差万別である。
両親を殺され、家族の愛に飢えているルナ。
戦場で死を目の当たりにし、酒に逃げ、宗教に癒しを求めるアマル。
それぞれの方向性が微妙にずれ、すれ違ってしまうのが何ともさびしく、やり切れない。
地味な作品ではあるのだが、心理描写が丁寧で、好感が持てる。
イスラム信者といっても、狂信的な人から距離を置いている人まで様々。同じ神を信じていても、これだけすれ違ってしまうのか…。宗教の問題は奥が深いので、軽々しく発言もできないのだが、たとえ宗教感が違っても、人は人とつながれるはず。
ルナとアマルもきっといつかはわかりあえる。そんな未来を予感させる映画だった。2012.2

SR サイタマノラッパー
入江悠監督、駒木根隆介、みひろ出演
☆埼玉の田舎町でラッパーを夢見る男たちの冴えない毎日を描いた作品。話題になっていたので期待していたが、いたってフツーの予定調和な青春物語でした。ラップはかっこよかったけどね。2011.12

サウダーヂ
富田克也監督、鷹野毅、伊藤仁、田我流ほか出演
☆甲府の建設現場で働く精司は、元キャバ嬢で今はエステシャンの妻がありながらタイ人ホステスに入れあげている。昔タイに住んでいたという保坂は、薬に依存する日々。そしてHiphopに打ち込む猛は、仕事場やクラブで存在感を増しているブラジル人たちに敵意を募らせる。
地方都市で暮らす労働者たちの日常をドキュメンタリータッチで追ったリアルな作品。
タイトルから想像して、勝手にブラジル人目線の映画かと思っていたのだが、その逆で、移民に生活を脅かされる日本人労働者の悲哀を乾いた視点で描いている。
カポエラにはまっているラッパーの元カノが、レイブパーティーを熱く語るシーンを見て、どこかで聞いたことあるなあ、と思ったら、タカシロ信奉者がエレベーターの中で語っていた会話と同じだった。一種の新興宗教ですね。他人に迷惑かけなければいいけれど、偏った熱に危うさを感じた。あやしい地方議員の顔は、誰かに似てると思ったら、学者の宮台でした。どこまで目立ちたがりなんでしょ…。
いろんな面白さが詰まった力作ではあるのだが、ちょっと長すぎて、だるかったです。2012.2
サムウェア SOMEWHERE
ソフィア・コッポラ監督、スティーブン・ドーフ、エル・ファニング、クリス・ポンティアス、ベニチオ・デル・トロ出演
☆ハリウッド・スターのジョニー・マルコは、セレブご用達ホテル、シャトー・マーモントで暮らしている。愛車はフェラーリで、女にも不自由はしていないが、何か満たされない想いを感じている。ある日、別れた妻と暮らす11歳の娘クレオがやって来た。しばらくあずかってくれ、と一方的に言われ、ジョニーは戸惑うが、大人になりかけのシャイな娘との日々は、ジョニーの暮らしに潤いを与える。
セレブの暮らしの描き方が予定調和ではなく、味気なさや孤独感がじんわりと伝わってくる。子供のころからセレブだったソフィア監督ならではの自然な感じが好感が持てた。外側からみたら華やかそうに見えるが、実情はこんなものなのだろう。
人気俳優でありながら、普通の感覚を忘れていないジョニーを演じたスティーブン・ドーフの姿が自然でいい。
そして、娘を演じたエル・ファニングがまた素晴らしい。お父さんは好きだけど、なんだかちょっと恥ずかしいし、距離感も感じてしまう。やわらかな表情と、大げさではない自然な演技が素晴らしい。
いたって地味な映画ではあるのだが、ソフィア監督らしさ、そして監督の想いがにじみ出ている良作だった。2011.4

灼熱の魂 INCENDIES
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ルブナ・アザバル、メリッサ・デゾルモー=プーラン、マキシム・ゴーデット、レミー・ジラール出演
☆アラブ系カナダ人のナワル・マルワンは、双子の子供ジャンヌとシモンに、謎めいた手紙を残して息を引き取る。
そこには、ジャンヌには父親を、シモンには兄を探すよう記されていた。存在すら知らなかった二人は戸惑うが、ジャンヌは母の故郷へと旅立つ。
母の過酷な人生と、娘たちのルーツ探しを交互に描きつつ、驚愕の事実に突き進んでいくまでの展開が見事で、圧倒させられた。とくに、秘密が明かされるまでの伏線の張り方が絶妙で、社会派映画でありながらエンタメ性も兼ね備えている。
昨年のアカデミー外国語映画部門ノミネートも納得のよくこなれた作品だ。
愛する人を兄に殺され、お腹の子は生まれてすぐ孤児院に連れて行かれ、村を追われた後は、内戦に巻き込まれ、バスの焼き討ちに遭い…。ナワルの人生は、堪え難い悲惨な人生ではあるのだが、内戦を生き抜いた人々は、多かれ少なかれ、ナワルのような理不尽な悲劇に遭遇しているのかもしれない。
母の悲劇を知った子供たちが、どう乗り越えて行くのか、彼らの行く末も気になるスケールの大きなドラマだった。2012.1

人生、ここにあり! SI PUO FARE
ジュリオ・マンフレドニア監督、クラウディオ・ビシオ、アニタ・カプリオーリ出演
☆精神病患者を無期限に収容することを禁止する精神病院廃絶法が制定された直後の80年代、熱血漢のネッロは、ある病院で作られた元患者たちの組合に派遣される。組合とは名ばかりで薬漬けになった組合員たちを見かねたネッロは、彼らの執着する特性を利用して“床のモザイク貼り”事業を立ち上げる。
繊細すぎて人とずれてしまっている人々の姿は、外からみると滑稽だったりもするのだが、本人たちは真剣そのもの。その真面目さが功を奏し、見事なモザイク貼りが完成したときは、思わず感動。作り話なら、出来すぎ、と思うが、実話というのだから驚き。
日本にも、精神疾患者の労働施設はあるようだが、ボランティアに留まり、事業として成り立ってはいないようだ。現実はいろいろと難しいのだろうが、この映画のような成功が、各地で広がればいいですね。素直に、彼らの成功には拍手!です。2011.12

ジェイン・オースティン 秘められた恋 BECOMING JANE
ジュリアン・ジャロルド監督、アン・ハサウェイ、ジェームズ・マカヴォイ、ジュリー・ウォルターズ、ジェームズ・クロムウェル、マギー・スミス出演
☆貧しい牧師の娘ジェインは資産家の孫息子との縁談を持ちかけられるが、気が進まない。ある日、都会からやってきた法律家の卵の青年と激しく魅かれ合ったジェインは、彼との結婚を望むが、彼もまた叔父に逆らえない身分であった。シニカルな恋愛物語の古典「自負と偏見」は好きな小説の一つだったが、作家のことはほとんど知らなかったので興味深く見れた。多くの経験に基づいて小説を書く人もいれば、想像力で書く人もいるが、ジェインは後者。もし、彼女の恋が成就していたら、何世紀にもわたって読まれ続ける名作は書けなかったかもしれない。そんなことをしみじみ考えてしまった。アン・ハサウェイはぴったりはまってました。2011.3

17歳の肖像 AN EDUCATION
ロネ・シェルフィグ監督、キャリー・マリガン、ピーター・サースガード、アルフレッド・モリナ出演
☆舞台は1961年のロンドン郊外。ジェニーはオックスフォード大を目指して猛勉強中の優等生だが、裏では友人とタバコを吸ったり、フランスに憧れるませた女の子でもある。ある雨の日、たくみな話術で近づいてきた男性デイヴィッドと出会い、ジェニーは恋をしてしまう。デヴィッドから大人の遊びを教えられ、有頂天になったジェニーは、進学に疑問を持ち始める。
ちょっとませた女子高生の言動と、戸惑う大人の姿が丁寧に描かれている。60年代という保守的な社会で、退屈な人生から抜け出したい、と願う若者の気持ちは、世界共通のようだ。一方、ジェニーに近づくデイヴィッドは、お堅い親をも味方につけ、観客でさえ「この人いい人かも」と思わせてしまう人なつこいルックス。悪い男ほど魅力があるものなんだよなあ。などと、ジェニーと一緒になって、ちょっぴりデヴィッドに夢中になってしまった。苦い青春の思い出…。誰にでも1度や2度は経験のある失恋をテーマにした古典的な作品で、安心してみることができた。2011.3

13/ザメッティ 13 TZAMETI
ゲラ・バブルアニ監督、ギオルギ・バブルアニ、パスカル・ボンガール出演
☆青年セバスチャンは、仕事先の家主に届いた謎の招待状を手に入れ、森の奥の屋敷にむかう。そこは、13人のプレイヤーが、お互いにピストルを向けあい、生死をかけて運試しするロシアン・ルーレット会場だった。命をかけた運だめしものって、よくあるパターンなので、それほど驚きもなく…。わりとシンプルな映画だった。モノクロ映像がスタイリッシュでかっこよかったです。2011.2


ジョニー・マッド・ドッグ JOHNNY MAD DOG
ジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督、クリストフ・ミニー、デジー・ヴィクトリア・ヴァンディ出演
☆舞台は内戦中のアフリカ。賊軍とよばれる武器を持った少年たちは、町の人々を恐怖に陥れる。15歳のジョニー・マッド・ドッグや、天使の羽をつけた少年バタフライなど、みかけはまだまだ子供だが、悪魔のような顔で残酷な殺人を繰り返す。足を失った父と小さな弟をかかえた少女ラオコレは、弟と隠れているところでジョニーと遭遇する。
野獣とかした少年兵たちの行動を追ったバイオレンス映画。子供たちが次々に武器をもち、薬でぼろぼろになり、人間とは思えない残酷さで殺戮していくシーンは目を覆いたくなった。テイストは「シティ・オブ・ゴッド」に似ていて、かなりショッキング。一方、豚を背負った少年兵が豚を手放せなくなり「殺さないで」と泣いてしまうなど、子供らしい一面も描いている。
彼らが野獣になった背景をあえて描かず、少年たちの野蛮さだけに焦点を当てているので、最初は不快に思ったが、徐々に彼らの事情や、ちょっとした子供らしさが見えてきて同情心も生まれた。今の中東も、こんなふうに無政府状態になっているのだろうか、と恐ろしくなりました。2011.3

007/慰めの報酬 QUANTUM OF SOLACE
マーク・フォースター監督、ダニエル・クレイグ、オルガ・キュリレンコ、マチュー・アマルリック、ジュディ・デンチ出演
☆英国の商法部員ボンドは、ボリビアの水資源の独占をもくろむドミニク・グリーンと対決。007の22作目。水戦争を扱っている、とうたっていたので見てみたが、ボリビアだろうがハイチだろうがイタリアだろうが、場所は関係ないっていう感じの単純なアクション映画に仕上がっていた。演技派そろえてるのにもったいない気がしたが、007だから仕方ないのかな…。ハラハラドキドキ感もあまりなく退屈でした。011.8
世界最速のインディアン THE WORLD'S FASTEST INDIAN
ロジャー・ドナルドソン監督、アンソニー・ホプキンス、クリス・ローフォード、アーロン・マーフィ出演
☆初老の男バートは、古いバイクを改造してアメリカのレースに挑戦。老人と旧マシンのコンビを誰もが馬鹿にしたが、見事世界最速を樹立する。
速く走ることに命をかけた少年の心を持った老人をホプキンスが好演。インテリ役が多いけど、こういう肉体派もできるのはさすが名優。夢はいくつになっても持っていいのだ、とちょっとだけ元気になりました。2011.3

セラフィーヌの庭 SERAPHINE
マルタン・プロヴォスト監督、ヨランド・モロー セラフィーヌ、ウルリッヒ・トゥクール ウーデ出演
☆1912年、フランスの田舎町で暮らすセラフィーヌは、家政婦をしながら自然を題材にした絵を描く日々を送っていた。ある日、ドイツ人画商から才能を見いだされたセラフィーヌは彼の助言に従い、絵を描くことに情熱を注ぎはじめる。まもなくドイツとの戦争がはじまり、画商は身を隠し、月日が流れる。1927年、二人は再会を果たすが、極貧生活から解放されたセラフィーヌは、画商の支援をあてにし始める。
天才と変人は紙一重というが、セラフィーヌもまさに天才肌。変わり者だが純粋で自然と神と絵を愛するセラフィーヌは、人々から受け入れられなくても、自分の生き方を曲げない。そんな彼女が、はじめて自分を認めてくれた画商にだけ心を開く気持ち、よくわかる。人との距離間がうまくつかめないから、再会後は舞い上がって、家やドレスに金を使ってしまったのだろう。
天才画家を賛美するような伝記ものではなく、彼女の挫折や転落もしっかりと描かれていて、彼女の人間性に迫っていたのが好感が持てた。何よりも、主役を演じた女優の迫真の演技にブラボーです。2011.5

ソウル・キッチン SOUL KITCHEN
ファティ・アキン監督、アダム・ボウスドウコス、モーリッツ・ブライブトロイ、ビロル・ユーネル出演
☆ハンブルクの倉庫街で大衆食堂「ソウル・キッチン」を営むギリシャ移民のジノスは、富豪の娘の彼女が上海に行ってしまったことで意気消沈。
そんな中、服役中の兄が、仮出所するために自分を店で雇ってほしい、とやってくる。
さらに、ジノスの店の権利を狙う地上げ屋によって、税務署や衛生管理官が送り込まれ、おまけに腰を痛めたジノスは窮地に立たされる。
ドイツの中のトルコ移民を描き続けてきたアキン監督が、今回は実在する店とそのオーナーを主演に抜擢し、ギリシャ移民の日常をポップに描いている。
矢継ぎ早に降りかかる災難に、弱音を吐きながらも、乗り切っていくジノスの姿が面白おかしく描かれていて、仮出所中の兄や、偏屈な天才シェフなど、脇役の個性も超ユニーク。ノリがクストリッツア映画に似ていて十二分に楽しめた。
今までのアキン映画は、激しさと悲しさを兼ね備えるシリアスな作風だったが、これはテイストが随分違う。いい意味で期待を裏切られた感じ。
やっぱりこの監督とは相性が合う、と確信した。
今回の作品では、ドイツの移民社会を特別前面に押し出してはいないのだが、ギリシャ移民のジノスの彼女が金髪美女で富豪の白人女性だったり、整体師がトルコ系だったり、と、ハンブルクという町で暮らす人種の関係性も描かれていて、興味深い。
ジノスが作る料理は、油ギトギトのフライ類ばかりで、カロリー高そうだし、店も清潔とは言い難い。でも、そういうB級ジャンクフードってオイシイんだよなあ。空腹でこの映画をみていたら、まちがいなく帰りにジャンクフード食べに行っていただろう。
一方、彼女の家族と行った店は超お洒落な高級レストラン。こちらの料理は高級食材を使い、見た目も美しい。一度は食べてみたい食事でもある。
高級レストランで働いていたシェフがケンカして職をなくし、「ソウル・キッチン」の料理人になる、という設定もナイスで、このエピソードだけで、1本の映画が作れそう。
ジノスという一人の青年を中心に、高級とB級、白人と移民が、うまい具合に混ざり合っていく過程が見事に表現されていて、多様な人種が暮らすハンブルクという町に愛着を感じた。
そしてそして音楽もGOOD!
この映画、アキン監督作品ではあるが、脚本と主演、そして実際に「ソウル・キッチン」のオーナーでもあるジノス役のアダム・ボウスドウコスの映画と呼ぶのがふさわしいだろう。ちなみに彼はミュージシャンでもあるそうです。
&兄役を演じたモーリッツ・ブライブトロイが、「素粒子」のときとまったくタイプの違う単細胞男を演じていたのも面白かったです。
ぜひぜひ映画館で見て欲しい1本です!2011.1参考CINEMA:「愛より強く」「そして、私たちは愛に帰る」

ソーシャル・ネットワーク THE SOCIAL NETWORK
デヴィッド・フィンチャー監督、ケヴィン・スペイシー製作、ベン・メズリック原作、ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク、アーミー・ハマー出演
☆2003年の秋。ハーバード大学の学生マークは、ボストン大学の女子学生に振られた腹いせに、彼女の悪口をブログに実名で掲載。さらに、女子学生の顔写真を公開して人気投票する、という悪質なイタズラサイトを立ち上げる。
元カノや女子学生から総スカンを食らったマークだが、彼のプログラマーとしての才能に目をつけたボート部の上級生が、学生コミュニティサイトを作って欲しいと持ちかける。
ダサくて早口で口が悪くて人づきあいが下手で、マークはいわゆるイケてないくせに生意気で憎たらしいオタク男。でも、何かに集中すると天才的な才能を発揮する。
もてないオタクの習性はなぜこうも世界共通なんだろう?
そんな嫌な奴が作ったコミュニティサイトが、学生の間で瞬く間にヒットし、ハーバードだけでなく、各地の名門大学、そして世界中に広がっていく。
マークは、自分にサイトのアイデアを持ちかけたボート部の上級生や、出資してくれた無二の親友を裏切ったかのように描かれているのだが、まだまだ社会を知らない世間知らずの学生にとっては、何が非常識かなんてわかるわけないのだし、訴えることが陳腐だわ、と思ってしまったのは私だけ? 
ぶっちゃけ億万長者になったマークから金をむしり取ろうと、悪知恵の働く大人たちがよってたかって若者をけしかけたのが、ほんとのところなんじゃないの? と勘繰ってしまった。
若者たちの頭の回転が早すぎるせいか、台詞の半分は意味不明で、今時の若者社会にはついていけません…、と最初は傍観していたのだが、彼女に振られ、傷つけたことを謝りたいのに謝れないマーク青年の寂しさから生まれたのがフェイスブックだった、という結論には妙に共感を覚えた。
マークはただ、彼女とやりなおしたかっただけなのかも。男でも女でも、誰かを傷つけてしまい、関係を修復出来ずに後悔したことは、誰でもあるだろう。マークという天才の頭の中は理解できないけど、彼のピュアな心はしっかりと伝わってきた。
いい映画だとは思うが、フィンチャー監督の「ゾディアック」があまりに良かっただけに、それに比べるとインパクトが弱い感じ。
どうでもいいけど、フィンチャー監督作品は、見事にどれも女の描き方が雑。というか女の心理描写が皆無で、チャラチャラした女か、おろかな女しか出てこないのよねえ。彼は男尊女卑野郎なのでしょうか?気になります…。2011.2

ゾンビランド ZOMBIELAND
ルーベン・フライシャー監督、ジェシー・アイゼンバーグ、ウディ・ハレルソン、アビゲイル・ブレスリン、エマ・ストーン、ビル・マーレイ出演
☆謎のウィルスにより人間がゾンビ化して増殖中の世界で、オタク青年コロンバスは独自のルールを作ってなんとか生き延びていた。故郷にむかう途中、タフガイのタラハシーと出会い車に同乗。途中、美人のウィチタと12歳の妹リトルロックにまんまと騙され、車と武器を奪われてしまう。再び再会した4人は、リトルロックが夢に見るLAの遊園地“パシフィックランド”を目指す。
ゾンビ映画ということで、さぞ気持ちの悪いゾンビがたくさん出てくるのかと思ったら、ゾンビは二の次の人間くさ〜いシニカルコメディに仕上がっていた。
主演4人の個性的なキャラの描き方が秀逸で、演じる役者たちも素晴らしい。「リトル・ミス・サンシャイン」のおちびちゃんもすっかり綺麗になっちゃって…。でもさすがに表情は豊かでベテランの貫禄あり。そしてそしてオタク男をやらせたらピカ1の「ソーシャル・ネットワーク」のジェシー君がうまい!
どうってことないコメディではあるが、たんなるおバカ話にならないのは、4人がどうやって生きてきたのか、それぞれのドラマが見え隠れするからだろう。4人が逃げ込んだLAの豪邸でのビル・マーレイとの絡みは「ゴーストバスターズ」世代としては楽しかった〜。評判聞かなきゃ絶対手にしない作品なので、この作品を教えてくれたお気にいりのブロガーたちに大感謝です。2011.2
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(ザ・)タウン THE TOWN
ベン・アフレック監督・主演、ジョン・ハム、レベッカ・ホール、ジェレミー・レナー出演
☆ボストンのチャールズタウンに住む強盗のダグは、銀行の支店長クレアを監視するうちに惹かれてしまう。前科者で気象の激しい親友ジャムは、そんなダグの変化に気づくが…。家族も友人もみんな犯罪者、という特殊な世界で生きる男が、対極にいる女性に恋をして、生きなおす決意をするまでを、ドラマチックかつ真摯に描いている。
派手さはないが、一人ひとりのキャラもしっかりしているし、役者も上手で好印象。
恋人に正体を知られないか、のハラハラドキドキや、FBIとのドンパチシーンなど、エンタメの要素もたっぷりで、見ていて飽きがこなかった。
荒っぽい友人を演じた『ハートロッカー』のジェレミー・レナーの演技に拍手!2011.12

(ザ・)ダイバー
ジョージ・ティルマンJr監督、ロバート・デ・ニーロ、キューバ・グッディングJr、シャーリーズ・セロン、アーンジャニュー・エリス出演
☆第二次大戦後、黒人として初めて海軍のマイスター・ダイバーとなった男の半生をドラマチックに描いた作品。予定調和な成功物語ではあるのだが、鬼教官を演じたデ・ニーロの演技は圧巻。最近のデ・ニーロの手抜き演技には幻滅していたが、やっぱり演技派だわ。危ない海の中、高圧の中で作業するために、100キロ以上の防具をつけて潜る、というのを初めて知って興味深かった。日本でいえば「海猿」の男たちの物語なのだが、救出劇よりも人間ドラマに重点をおいていたのに好感が持てた。2011.4

卵 YUMURTA
セミフ・カプランオール監督、ネジャト・イスレーシュ出演
☆ユスフ三部作の1作目。都会で古本屋を営む詩人のユセフは、母の死の知らせを受け、故郷へ向かう。自分の過去や故郷での暮らしに、素直に向き合えないユセフの戸惑いは感じ取ることができたのだが、描き方があまりに淡々としすぎていて、ついていけず…。『蜂蜜』『ミルク』を見た後だったから、まだなんとなくルセフのキャラも理解できたのだが、いきなり『卵』から見たら、何が何だかさっぱり…、だったはず。監督の才能は認めるが、まだまだ青臭さ残る作品だった。2011.12

誰がため FLAMMEN & CITRONEN
オーレ・クリスチャン・マセン監督、トゥーレ・リントハート、マッツ・ミケルセン出演
☆舞台はナチスに進行されたデンマーク・コペンハーゲン。地下組織で抵抗活動の急先鋒として活動する23歳のフラメンと33歳のシトロンは、命じられるままに暗殺を繰り返す。フラメンは、バーで出会った妖艶な女性と親しくなるが、彼女も同じように地下組織と深いつながりを持っていた。。一方、妻と娘に去られたシトロンは、非情な殺人マシンに変貌していく。
地下組織の人間関係が複雑で、映像も暗く、正直見やすい映画ではないのだが、二人の暗殺者の心の揺れを丁寧に描いていて、感情移入できた。
いつでも犠牲者は弱者。人を信じられない戦時中でも、二人の友情だけは本物だったのが、救いだ。実話と知って、なお一層、彼らの壮絶な生きざまに興味を持った。ナチスものは散々見てきたのだが、かなりハイレベルな作品です。2011.8

超強台風 SUPER TYPHOON
フォン・シャオニン監督、ウー・ガン、ソン・シャオイン出演
☆巨大な台風上陸まで、市民を避難させるか戸惑う市長と、町の人々の様子を描いたパニック映画。30年前に作られたような安っぽさと、演技の臭さが目に付いた。震災前ならこの映画の陳腐さを笑い飛ばせたかもしれないが、大波に家や車が簡単に飲まれていくシーンは、実際の大津波のシーンとダブってしまい、笑えず…。2011.4

チャイナ・シンドローム THE CHINA SYNDROME
ジェームズ・ブリッジス監督、ジェーン・フォンダ、ジャック・レモン、マイケル・ダグラス出演
☆TVの人気女性キャスター、キンバリーは、カメラマンらと、原発の取材に行き、事故らしき現場を目撃。だが、電力会社は事故の事実をかたくなに否定する。一方、原発の技術主任ゴデルは、原発の重大な欠陥に気付き、同僚や上司に訴えるが、変人扱いされてしまう。ゴデルはキンバリーと接触し、証拠の品を渡そうとするが…。
福島原発事故前だったら、見ごたえのある社会派サスペンス、という感想だけで終わっていたかもしれないが、今は、そこに”リアルな”という形容詞が加わった。
原発事故後のニュース番組で繰り返された話題と、映画の中の事故現場で交わされる会話がダブり、鳥肌がたつほど…。
水位の計測がいかに重要なことか、炉心が解ける、とはどういうことなのか、ノンフィクションで体験してしまった今の日本人にとって、この映画で起こっていることは、他人事ではない、現実なのだ。
映画の中のジャック・レモンのように、原発の欠陥を事前に指摘していた人間だっているかもしれないし、電力会社や政府によって闇に葬られた人や事実もあるかもしれない。
この映画は1979年に製作され、数日後にスリーマイル島の事故が起こっている。
計測器がコンピュータ制御になろうが、原発の危険度に変わりはない。
30年以上前に作られた映画にも関わらず、原発の問題は、何一つ改善されていないことに愕然とさせられた。2011.12

ツーリスト THE TOURIST
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督、アンジェリーナ・ジョリー、ジョニー・デップ、ポール・ベタニー、ティモシー・ダルトン、スティーヴン・バーコフ出演
☆美女エリーズは、恋人からの指示でベネチア行きの列車に乗り、彼と背格好がよく似た男フランクの席に座る。妻を亡くした数学教師のフランクは、彼女の美しさに心を奪われるが、まもなく、警察と、ギャングの一味、両方から命を狙われる。
キャストは豪華だし、監督も、前作は名作だっただけに少々期待していたのですが…。なんてことはない単純なベネチア観光案内エンタメ映画でした。すっかり老けて華がなくなったティモシー・ダルトンにはびっくり。ポール・ベタニーは相変わらず、素敵でした。関連CINEMA:『善き人のためのソナタ』2012.1

ツリー・オブ・ライフ THE TREE OF LIFE
テレンス・マリック監督、ブラッド・ピット、ショーン・ペン、ジェシカ・チャステイン、ハンター・マクラケン出演
☆企業家として成功したジャックは、高層ビルにあるオフィスで、過去を振り返る…。1950年代半ば。閑静な住宅街で生まれ育ったジャックは、両親の愛情を受けながら育っていくが、物心がついた頃から高圧的な父の態度に違和感を覚えるようになる。
宇宙創世記の幻想的な映像、50年代ののどかな田舎の風景、そして高層ビルが立ち並ぶ現代のマンハッタン…。
地球で暮らす人間たちの営みと、壮大な自然の流れを対比させながら、圧倒的なスケールで描いた、マリック監督らしい叙事詩的作品に仕上がっている。
セリフはすべてが詩的。子供のセリフまで、ポエム、である。
日本語字幕だけで本質をつかむのは、正直難しい。
詩の朗読会や結婚式での祝いの詩など、日本よりも“詩”に馴染んでいるアメリカ人にとって、この映画に出てくるセリフは、心の奥に、じわりじりと染み込んでくるのかもしれないが、日本人には、“咀嚼”というひと手間が必要なので、映画という媒体では「どういう意味?」と考えている間に、物語が進行してしまう。
置いてきぼりを食らった感があり、付いていけない自分の力不足を感じたり…。
ブラピ狙いで見に来た観客は、大いに戸惑いを覚えただろうが「こんな映画もあるんだ」、と、初めての感覚を楽しんでいただければ幸いです。
マリック・ワールドを楽しむには、物語の展開やセリフの深い意味は考えず、美しい映像と、荘厳な音楽を体で感じることに徹すると、その素晴らしさが、なんとなく伝わってくるはず。凡人には凡人なりの楽しみ方がある、ということ。
長男ジャックを演じたハンター君の表情が素晴らしく、ブラピによく似た次男坊も超キュート。マリック監督は、子役の演技指導も一流なのですね〜。と、新発見。
前半、「ガイア・シンフォニー」のような映像が延々続いたときは、どこへ行こうとしているの???と、少々不安もよぎったが、後半は、しっかり家族の物語へと収まっていました。
「2001年宇宙の旅」っぽくもあり、浮遊感も楽しめます。
良くも悪くもマリック・ワールド全開の映画です。2011.8

デュー・デート DUE DATE
トッド・フィリップス監督、ロバート・ダウニー・Jr、ザック・ガリフィナーキス出演
☆妻の出産のため、LAへ向かう飛行機に乗ったピーターは、イーサンという怪しげな男のトラブルに巻き込まれ、二人で車でLAに向かうはめになる。
「ハングオーバー」の監督と、お騒がせ男役のザックが組んだコメディ。ダウニーJRがご贔屓なので見てみたが、あまりに単純すぎて…。映画館で観なくてよかったかも。2011.7

トラブル・イン・ハリウッド
バリー・レビンソン監督、ロバート・デニーロ、ロビン・ライト、ショーン・ペン出演
☆ハリウッドのプロデューサーは、新作の試写会で、ラストに犬が殺されるシーンを描き変えろ、と命じられ、監督に依頼。だが、内容にこだわる監督は反発する。一方、別の作品では、上から、ブルース・ウィルスにヒゲをそらせろ、と命じられ…。自己主張する監督や俳優と、居丈高なスポンサーに挟まれて、右往左往するプロデューサーの姿を皮肉たっぷりに描いている。出演者が豪華な内幕ものコメディで、それなりに面白くはあったのだが、「ショート・カッツ」のような辛辣さが今一つたりないので、ライトコメディ止まり。これじゃあ、ヒットはしませんわな。2011.6

友よその罪を葬れ UN BUEN HOMBRE
フアン・マルティネス・モレノ監督、トリスタン・ウヨア、ノエリア・ノート、ナタリー・ポーサ出演
☆法学部次期教授のヴィンセンテは、老教授フェルナンドが妻を殺す現場を目撃。動揺したフェルナンドは、犯罪の片棒をかついでしまう。苦悩するフェルナンドの心理描写は見ごたえあったが、サスペンスとしてはありきたり。2011.4

トゥルー・グリット TRUE GRIT
ジョエル&イーサン・コーエン監督、ヘイリー・スタインフェルド、ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、バリー・ペッパー出演
☆父親を殺された気丈な少女マティ・ロスは、父親の敵を討つため、初老の保安官ルースターに助けを求める。
少女と男たちが馬にまたがりかたき討ちに行く西部劇のリメイク。
なぜかまったく話についていけず、睡魔との闘いになってしまった。みんなの扮装が見事で、ブリッジス以外、誰が誰だかわからず。2012.2

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【ナ na】
夏の終止符 HOW I ENDED THIS SUMMER
アレクセイ・ポポグレブスキー監督、グリゴリー・ドブリキン、セルゲイ・ブスケバリス出演
☆北極の観測所に赴任した若き調査員バベルは、データ集めをさぼって、ゲーム遊びや散歩をしていたことで、先輩のセルゲイから叱責される。家族想いのセルゲイが、妻のためにマス釣りに出かけた直後、本部から、セルゲイの家族が事故に巻き込まれた、という知らせが入る。船の到着まで5日間。バベルは、荒っぽいセルゲイに怯え、家族の悲報を告げることができない。
北極の観測点で働く二人の男の関係を、荒々しい大地を舞台に描いた二人芝居。
広大で過酷な自然環境は、スクリーンで見るに値する美しさ。遠くに小さく見える明かりや、遠くから近付いてくる北極白クマなど、大画面でないと伝わらない臨場感である。
北極の“何もない世界”を見ながら、パタゴニアもこんな感じだったよなあ、としみじみ。美しいアルプスのような風景よりも、自然のとてつもない大きさを体感できる辺境が好きなので、まったく飽きずに見ることができた。
バベルは、超イケメンなんだけど、行動が小学生以下なので、時々イライラ。
セルゲイが本気で殺そうとしてるわけはないのに、怯えたように逃げ回り、最後には取り返しのつかない仕返しをしてしまう。
反省したってもう、遅いんじゃ…。
原発事故の後だけに、北極点になぜ、放射能を出す機器が存在するのかが気になって、消化不良に陥った。
北極に二人だけ、という設定と、妻子の悲報が伝わるまでは、面白く見れたのだが、後半の展開には、ちょっと付いていけず。なぜ?の多い映画だった。
主演の二人がベルリン国際映画祭で主演男優賞を受賞したのは、納得の熱演。撮影はシベリア辺りだったのでしょうか。
ロシアといえば、大御所の映画しか見たことがなかったのだが、30代もしっかりいい仕事してますね。今後に期待大である。2011.10 三大映画祭にて

ノルウェイの森 NORWEGIAN WOOD
トラン・アン・ユン監督、村上春樹原作、松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子、高良健吾ほか出演
☆高校時代の親友の自殺を引きずったまま上京した渡辺は、親友の恋人・直子と再会し。二人の気持ちが通じ合った直後、直子の心が壊れ始め、療養所に入院してしまう。一方、大学で知り合った快活な女性・緑も、渡辺にとっては気になる存在だった。
原作こんなだっけ?と思い出せないぐらい、ユン監督色の濃い映画に仕上がっていた。
アンニュイな雰囲気と染み出てくるエロティック。松山ケンイチってこんなに色っぽかったっけ??監督の腕、でしょう。ただ、若者たちがなんでこんなに性行為に拘るのかが解せず。自殺の理由って、もっと精神的なものではないの?? 原作のファンにこの映画をどう思うかリサーチしてみたくなった。2011.7

【ハ ha】
蜂蜜 BAL
セミフ・カプランオール監督、ボラ・アルタシュ、エルダル・ベシクチオール出演
☆トルコの山間部で養蜂業の父、茶摘み農婦の母と共に暮らすユスフは、学校の朗読の時間に、褒美をもらいたいと願いながらも、吃音に悩まされている。家では、父の養蜂を手伝いながら森で過ごすことに安らぎを覚えていた。ある日、遠い森に蜂を探しに出かけた父親が、行方知れずとなってしまう。
もの静かな深い森の風景と、独特のカメラワーク、そして子供の澄んだ瞳が印象に残る詩的な作品である。静止画や、ピントをぼかした映像など、見せ方もバラエティに富んでいて、ホウシャオシェン監督作品に通じるものがあった。
何よりも、子供の表情がすばらしく、見ているだけで癒されました。
ユスフ三部作の最終章ということで、3作の中ではもっとも洗練されていた。2010年のベルリン国際映画祭金熊賞も納得のアート作品です。2011.12

バーダー・マインホフ 理想の果てに THE BAADER MEINHOF COMPLEX
ウーリー・エデル監督、マルティナ・ゲデック、モーリッツ・ブライブトロイ、ヨハンナ・ヴォカレク出演
☆1967年、西ベルリンで起こった学生運動が激化し、死亡事件が起こる。女性ジャーナリストのマインホフは、警察を激しく糾弾し、バーダーを中心に活動している反政府組織に身を投じる。
当時の過激派たちの活動を追った映画は、世界各国で作られているが、この映画はそのドイツ版。アメリカ・日本の過激派ものは見飽きた感があるのだが、ドイツでも同じような動きがあったことは新鮮に感じた。ただし、過激派の末路は、何処も同じか…。
人は一度殺し合いを始めてしまうと、その行為に罪悪感すら感じなくなり、どんどん過激なほうへと突っ走り、単なる殺人者と化してしまうものなのだろう。
最初は誰もが純粋な使命感から始めてるのにね…。私はこの映画から、「殺し合いに正義なし」というメッセージをしっかり受け取ったのだが、それは多数派なのかは疑問です。この映画にも「素粒子」のモーリッツが主演。ドイツ映画になくては欠かせない俳優ですね。2011.6

ハーブ&ドロシー HERB and DOROTHY
佐々木芽生監督、ハーバート・ヴォーゲル、ドロシー・ヴォーゲル出演
☆30年間に渡り、現代美術のコレクターとして細々と生きてきた老夫婦にスポットをあてたドキュメンタリー。普段はかわいい夫婦なんだけど、アートの目利きとしてアーチストから一目置かれている、というのがすごい。お金目的ではなく、純粋にアートが好き、という姿勢がすばらしい。労働者階級のハーブは、郵便局の仕分けの仕事を何十年も続けていた。同僚とはアートの話は出来なかったらコレクターってことは内緒にしていたんだ、という台詞に妙に共感。自分も映画の話は会社ではしないようにしています。この夫婦をお手本に自分もずっと映画を愛していこうと思いました。2011.2

バーレスク BURLESQUE
スティーヴン・アンティン監督、シェール、クリスティーナ・アギレラ、カム・ジガンデイ、スタンリー・トゥッチ出演
☆アイオワからスターを夢見てLAにやってきたアリは、ショー・クラブ“バーレスク”を訪れ、女たちの華麗なダンスショーに心を奪われる。店のオーナーであるテスには冷たくされるが、ウェイトレスとして働き始め、代役として舞台に立ち始める。だが、ライバルのイジメで、音楽を消され、舞台上で立ち往生。アリはとっさに自慢のノドを披露する。
アギレラのことはMTVで見たことはあったが、化粧を落とすとあまりに普通の女の子でびっくり。さらに歌の迫力にも魅せられた。ダンスもかっこよかったし、見ていて飽きがこないミュージカルだった。シェールはたった2曲しか歌ってくれなかったのだが、バラードがあまりに素晴らしくて、自然と涙がこぼれていました…。シェールには、もっと歌ってほしいなあ。十分に楽しめたのだが、欲を言えば、もう一人、歌って踊れるメンズがいればなあ。物語の単純さは気にならなかったけど、もうひと押しあれば名作になったかも。残念。2011.3

拍手する時に去れ MURDER, TAKE ONE
チャン・ジン、チャン・ジニ監督、シン・ハギュン、チャ・スンウォン、イ・ジェヨン出演
☆ある女がホテルの部屋で殺された。やり手検事は、女の弟、不倫相手の娘、ホテルマンなどを尋問するが、曲者ぞろいで翻弄される。
風変わりな事件モノ。ブラック・コメディと呼ぶほど、笑える要素はなかったが、容疑者たちが個性的でソコソコ楽しめた。スンウォンの検事役も良かったが、我らがシン・ハギュンの存在感はやっぱり頭抜けていました。欲を言えばもう一ひねり欲しかったかな。2011.3

パッション THE MOTHER
ロジャー・ミッシェル監督、ダニエル・クレイグ、アン・リード出演
☆夫を亡くし、子供の家に居候をはじめた初老の女は、娘の不倫相手と一緒に過ごすうちに、一線を越してしまう。女として最後にもう一花咲かせたい、という気持ちはわからなくもないが、よりによって相手が娘の愛人、というので引いてしまった。いくつになっても女でいたい女度の高い人は苦手です。2011.4

ハングオーバー! THE HANGOVER
トッド・フィリップス監督、ブラッドリー・クーパー フィル出演、エド・ヘルムズ、ザック・ガリフィナーキス、ヘザー・グレアム、ジャスティン・バーサ出演
☆結婚式前、男だけでラスベガスにでかけた悪友4人。朝起きると、部屋は荒れ放題、鶏やトラや赤ん坊まで登場する。さらに結婚を控えたダグが行方不明に。3人の男たちは、まったく記憶にない昨晩の出来事をたどりながら、ダグを探し回る。
いわゆるオバカ映画ではあるのだが、彼らの行動にはそれぞれ納得できるし、脚本もよく出来ていて楽しめた。マイク・タイソン本人が出てきたのは驚きました。2011.3参考CINEMA:「アダルド・スクール」

ビューティフル BIUTIFUL
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、ハビエル・バルデム、マリセル・アルバレス出演
☆バルセロナの場末の町で暮らすウスバルは、不法移民への仕事の斡旋を生業にしながら、幼い子供を育てている。体の不調を感じ、病院へ行ったウスバルは、末期がんで余命2カ月の宣告を受ける。
突然の死の宣告を受けた男が、幼い子供の行く末や仕事仲間のことなど、多くの問題を抱えながら、最期の日を迎えるまでをリアルに描いている。
妻が戻ってきて子供たちを預けられるかと思ったら、発病して病院へ逆戻ししたり、中国人労働者やヤクザの兄から裏切られたり…。
人は、思い描いたように、奇麗に人生を終えることはできないのだ、という現実がヒシヒシと伝わってきて、いたたまれない気持ちになった。
家族に囲まれ、穏やかに生を全うする、なんていう最期を迎えられる人は一握りの幸福な人なのかもしれない。
ウスバルの人生を、悲惨に思う人も多いだろうが、彼の壮絶かつ動物的な生きざまは、生き物の本来の姿にも見える。植物でも動物でも、最期はボロボロに枯れて朽ちていくもの。それが自然の摂理…。
ボロボロでよれよれになった姿を見ていた子供たちは、父の生き方を恥じることはないだろうし、それでも生きていく、というたくましさを自然に身につけたのではないだろうか。
津波を体験した子供たちもしかり。自然の脅威を肌で感じると同時に、生き物の本能である“生”への強い執着心や、生き抜くたくましさを身に付けたに違いない。2011.7

ヴィットリオ広場のオーケストラ L' Orchestra di Piazza Vittorio
アゴスティーノ・フェッレンテ監督
☆ローマ旧市街のヴィットリオ広場で、劇場“チネマ・アポロ”で移民たちをメンバーにコンサートを開こうとする男の姿を追ったドキュメンタリー。可もなく不可もなく。2011.4

引き裂かれたイレブン オシムの涙
ユーゴスラビア分裂前後にサッカーのユーゴ代表となった選手たちと、最後のユーゴ代表監督イビチャ・オシム。彼らの証言と、当時の代表戦のニュース映像で、悲しい歴史を振り返っていく。
国の混乱により、純粋なスポーツであるサッカーが、政治に利用されてしまった悲劇を生々しく伝えた見ごたえのあるドキュメンタリーである。
クロアチア人とセルビア人の両親を持つミハイロビッチの戸惑い、ディナモ・ザグレブ対レッドスター・ベオグラードの試合で起こった暴動時に警官に足蹴りしたクロアチア人選手ボバン、そして、封鎖されたサラエボに家族を残したままユーゴの代表監督を続けることはできない、と心情を吐露したオシム監督…。
彼らの発言から、苦しい立場がひしひしと伝わってきて、何とも言えない無力感を覚えた。
無理やり、ユーゴスラビアという国を作ってしまったことが諸悪の根源なのか?
いやいや、歴史的には、もっと根深い複雑な感情もあるのだろう…。
考え出すときりがないのでこのへんでやめておきますが、いろいろ大変なものを背負いながらも、陽気なバルカンの人々に、今後も注目していきたい。

ブロークン・イングリッシュ BROKEN ENGLISH
ゾーイ・カサヴェテス監督、パーカー・ポージー、メルヴィル・プポー、ドレア・ド・マッテオ、ジーナ・ロランズ出演
☆ニューヨークのホテルウーマン、ノラは、知り合う男性にことごとく裏切られ、自信を失くしていた。ある日、パーティーでフランス人のジュリアンと出会ったノラは心ひかれながらも、今までの過ちを思いだし、大胆になれない。
わかっちゃいるけど、飲み過ぎてしまったり、友達の忠告も忘れてデート初日でベッドインしたり…。ノラの「やっちまった」過ちがリアルでかわいい。女30代の孤独感や、焦りが丁寧に描かれていて、好感が持てる作品だった。カサヴェテスの子供たち(ニック、ゾーイ)は二人とも監督になっているのだが、どちらも父親とは違ったアプローチで映画を作っているのは少々意外。まあ、時代も違うし父親とは歩んできた人生も違いますしね。母ジーナがいつもゲスト出演しているのも微笑ましいです。2012.1

ブラック・スワン BLACK SWAN
ダーレン・アロノフスキー監督、ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、バーバラ・ハーシー、ウィノナ・ライダー出演
☆バレリーナのニナは、『白鳥の湖』のプリマに選ばれたいと強く思いながらも、自信が持てずにいる。期待を寄せる母のプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、ストレスフルな日々を送っていた。
監督に「君の踊りは白鳥は完璧だが、黒鳥が踊れなければプリマには選べない」といわれ、一度は絶望するニナ。だが監督は、ニナの心の奥に潜む邪悪なものを感じ取り、プリマに抜擢する。その日からニナは、奔放な踊り子リリーの姿に怯えはじめる。
ガラスの心を持ったプリマドンナが、黒鳥を演じるため、男を誘惑する悪女になろうともがき苦しむうちに、心を病んでいく、いたってシンプルなストーリー。
ニナの血のにじむような努力、苦しみ、妄想、母との確執、ライバルへの嫉妬心を、小出しにしながら、大クライマックスへと駆け抜けていく展開は、さすが!の一言。今、一番油がのってる監督の真骨頂、という感じ。
誰にも心を開けない繊細なニナを演じたナタリーは、文句なしの存在感。見れば見るほど、オードリー・へプバーンに似ていて、見とれてしまった。
自分の果たせなかった夢を押しつける過干渉ママの形相が恐ろしいと思ったら、バーバラ・ハーシーが演じていたのですね。そして追い落とされた元プリマを演じていたのが、ウィノナ・ライダーというのも驚き。エンドロールを見るまで、まったく気付かず。
昔は華があったけど今は…、という元主役級をうまく配役しているのも気が利いている。
 人間の深層心理を独特のテクニックで見せていく職人監督アロノフスキー。次回作も楽しみだ。2011.5 参考CINEMA:「レクイエム・フォー・ドリーム」「レスラー」

フィリップ、きみを愛してる! I LOVE YOU PHILLIP MORRIS
グレン・フィカーラ監督、ジム・キャリー、ユアン・マクレガー、ロドリゴ・サントロ出演
☆警官のスティーヴンは、ゲイであることを隠し、妻子と幸せな結婚生活を送っていたが、ある日、自分に正直になることを決意し、ゲイの詐欺師として人生をやり直す。
生まれながらの騙しの天才スティーブンは、あっという間に富を築くが、やり過ぎて逮捕されてしまう。刑務所で出会ったゲイのフィリップ・モリスに入れあげたスティーブンは、出所後、彼との生活を支えるため、新たな詐欺を繰り返す。
刑務所での二人の出会いは「蜘蛛女のキス」を彷彿とさせたが、内容は軽ーい犯罪コメディ。ユアンのオネエ演技がかわいかったです。

ブンミおじさんの森 UNCLE BOONMEE WHO CAN RECALL HIS PAST LIVES
アピチャッポン・ウィーラセタクン監督、タナパット・サイサイマー出演
☆タイのジャングルの近くで、透析を受けながら暮らしているブンミは、妹たちとの食事中、亡くなった妻の亡霊と遭遇する。さらに、行方知れずになった息子が、サルの精霊となって現れ、家族の不思議な語らいが始まる。
死期のせまった男が、亡くなった家族と遭遇する、というファンタジックな設定はシンプルで、ある意味ジブリ映画風な設定ではあるのだが、その描き方がなんとも独特。幽霊なんだけど、ちっとも幽霊ぽくなかったり、息子は安っぽい猿のかぶりモノで登場するし、妹たちもそれほど驚かないし…。さらに、意味不明の王女様が現れたり、ブンミが死んだあとの妹と娘たちの様子も、なんじゃこれ?だし。変わってる映画、というのが率直な感想。自然光を使い、ほとんど真っ暗なブンミの世界と、ホテルやバーの毒々しいほど明るい人工的な光を対比させたかっただろうか? いろいろ考えるところはあるのだが…。もう少しシンプルな映画のほうが好み。アピチャッポンは台湾のツァイ・ミンリャン監督と、世界観が似てる気がした。2011.5

ポエトリー アグネスの詩(うた)POETRY
イ・チャンドン監督、ユン・ジョンヒ、イ・デヴィッド出演
☆66歳のミジャは、介護の仕事をしながら、娘に代わって孫を育てている。決して楽な暮らしではないのだが、お洒落に気を使い少女のように純粋な心を持っている女性だ。詩作に興味を持ったミジャは、教室に通い始め、詩の虜になる。そんなとき、孫とその友人たちが自殺した少女を暴行していたことが発覚。公けになるのを恐れた親たちは、金を出し合って示談に持ちこもうとする。
 繊細でやさしく美しい老女が、否応なしに孫の犯罪に巻き込まれていく様は、なんとも痛々しいのだが、一方で、彼女の浮世離れしたピュアさに癒されもする。
周りの人々のえげつなさは半端じゃないのだが、社会ってこんなものなんだろうなあ。
孫にも娘にも強く言えないミジャが、少女の写真を盗んで、食卓に置くシーンは秀逸。人一倍繊細なミジャは、少女の気持ちを孫にも想像してほしい、と願っての行動なのだろうが、孫は、ただギョッとするだけ。
もちろん孫だって、少なからず反省はしているのだろうが、そこは見せない。徹底してミジャの視点で描き続ける。そのへんがいかにもチャンドン監督らしい。
『オアシス』を見たときのような衝撃度はないのだが、心の芯にジワジワと染みてくる秀作です。参考CINEMA:「オアシス」「シークレット・サンシャイン」

ヴォイス・オブ・ヘドウィグ FOLLOW MY VOICE: WITH THE MUSIC OF HEDWIG
キャサリン・リントン監督、ジョン・キャメロン・ミッチェル、オノ・ヨーコ出演
☆自分の性について悩みをかかえ、ニューヨークのハーヴェイ・ミルク・ハイスクールにやってきた若者たちの姿を追ったドキュメンタリー。
若者たちの悩みの告白と平行して、著名な有名人たちが、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のトリビュートアルバム制作にかかわっていく様子も描かれている。
少々、分かりにくい構成で、どっちつかずの感もあるが、ヘドウィグの楽曲のファンなので、再び聴けただけでも満足。
「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」は、家法にしたい名作です。2011.12

ぼくのエリ 200歳の少女 LET THE RIGHT ONE IN
トーマス・アルフレッドソン監督、カーレ・ヘーデブラント、リーナ・レアンデション出演
☆友人から苛めに会っている少年は、ある晩、隣に住む風変わりな少女と親しくなる。一方、町では不気味な連続殺人が多発していた。ドラキュラ映画は多数あるが、少女が吸血鬼というのは珍しい。とても丁寧に作られていて、少年の寂しさや彼女への思いなど、心理描写も巧み。エンディングは衝撃だったが、いつまでも心に残る作品だった。2011.4

ぼくの瞳の光 LUCE DEI MIEI OCCHI
ジュゼッペ・ピッチョーニ監督、ルイジ・ロ・カーショ、サンドラ・チェッカレッリ出演
☆ローマの夜を走る運転手アントニオは、ある夜、道に飛び出してきた少女と出会い、以来、彼女とその母と触れ合うようになる。母子家庭で生活苦の二人を助けたいと思ったアントニオは、彼女たちを苦しめる男に近づく。
別の惑星からやってきたことを空想しながら運転手をしている、不思議キャラのアントニオは魅力的だとは思ったのだが、ドラマの展開が少々退屈で睡魔に勝てず。「タクシードライバー」のメルヘン版という設定は、面白いとは思うのだけど…。まったく入り込めず残念。2011.5

ホワイト・ライズ WICKER PARK
ポール・マクギガン監督、ジョシュ・ハートネット、ダイアン・クルーガー、ローズ・バーン アレックス出演
☆婚約中のマシューは、あるレストランでかつて愛したリサの後ろ姿を目撃する。お互いひかれあっているのに、不運が重なり別れてしまった男と女。 だが、その陰には友人の嫉妬にかられた妨害工作があった…。
美しい踊り子に一目ぼれした男が、彼女の友人に妨害される三角関係を描いている。 嫉妬する側の冴えない女に肩入れしながらも、いつの間にか惹かれあっている二人のハッピーエンドを望んでしまったのは、 二人がとってもお似合いだからかも。配役がナイスでした。 一番気の毒だったのは、嫉妬女に利用されたマシューの友人。彼みたいな間抜けクンにこそ、幸せになってほしいのですが。2011.4
【マ ma】
マイファミリー・ウェディング
リック・ファミュイワ監督、フォレスト・ウィテカー、アメリカ・フェレーラ、レジーナ・キング出演
☆コロンビア大学医学部卒の黒人医師は、同じ大学のメキシコ系学生と同棲をしている。彼がアフリカへ研修に行くことになり、結婚してついていくことを決意した彼女は、双方の親に挨拶にいくが、両親は、二人の結婚話に大反対する。
エリートではあるがマイノリティの若者と、自分たちのルーツにこだわる親たち。移民国家ならではの戸惑いをシンプルに描いている。ブラジルでも、日系人はやっぱり日系人と結婚させたいみたいだし…。自分のルーツや文化を踏襲したい、という思いは、移民にならないとなかなか理解できないのかも。2011.3

マルティナの住む街 PRIMOS
ダニエル・サンチェス・アレバロ監督、キム・グティエレス、ラウル・アレバロ、インマ・クエスタ出演
☆結婚式当日、花嫁に逃げられたディエゴは、いとこのフリアン、ミゲルとともに、青春時代に素敵な夏の思い出を作った懐かしの村を訪れる。失恋のショックを振り払うかのように、羽目をはずして遊びまわるディエゴは、10年前の彼女マルティナと再会し、急接近。繊細な心の持ち主ミゲルは、マルティナの幼い息子と意気投合する。一方、仕切り屋のフリアンは、旧友バチが、酒に溺れ落ちぶれている姿に心を痛め、彼の再起に一役買うことにする。
個性の違う従兄弟3人が、ひと夏を過ごした村に戻り、懐かしの人々と再会するという、シンプルなストーリー。セリフが巧みで、ついつい、にんまり。
強烈な作品が多いスペイン映画の中で、唯一、ほっと一息つける定番のライトコメディでした。2011.9 ラテンビート映画祭にて

マンモス 世界最大のSNSを創った男 MAMMOTH
ルーカス・ムーディソン監督、ガエル・ガルシア・ベルナル、ミシェル・ウィリアムズ出演
☆ゲームのソフト製作で富を築いた若きクリエイターは、家族を残し、契約のためタイへ。一方、外科医として忙しく働く妻は心身ともに疲れ果てている。
幼い一人娘は、フィリピン人のシッターになつき、母との時間よりも、タガログ語の勉強に夢中である。その頃、フィリピンではシッターの二人の息子が母を恋しがっていた…。
仕事に忙殺されながら都会で暮らす男女、孤独に耐えるその子供、その子供の世話をしながらも実の子供と暮らせない寂しさを抱えるベビーシッター。そして、フィリピンで母を思う子供たち…。
経済的には恵まれていて、やさしさも持ち合わせている人々なのだが、それぞれが生きるための生業に忙殺され、家族との関わりが希薄になっている。子供を養うために働いているのに、その子供たちはさびしい思いで押しつぶされそうになっているのだ。
みんな懸命に生きているのに、歯車がかみ合わず、すれ違いばかり…。
4者4様の孤独感が丁寧に描かれていて、彼らの寂しさや苦悩がひしひしと伝わってきた。
若いインテリ夫婦を演じたガエルとミシェルは、家族を愛しているのに、うまく伝えられないことにもがいている男女を好演。イニャリトゥ監督の「21グラム」にも通じる良質な心理ドラマに仕上がっていた。
派手さはないが、現代社会の家族の問題に真摯に切り込んだ秀作だ。
日本未公開でDVDのみの発売。タイトルと内容のミスマッチが気になった。
2011.5

ミルク SUT
セミフ・カプランオール監督、メリヒ・セルチュク出演
☆町はずれで母と暮らすユスフは、詩を書きながら、淡々と生きている。牛乳配達をしながら息子を育てた母は、町で知り合った駅員と度々会うようになるが、ユスフは母の変化に戸惑う。トルコの片田舎で暮らす母と息子の日常を淡々と描いたユスフ三部作の2作目。
感情表現が苦手で、詩の中にだけ気持ちをぶつけるルセフと、そんな不器用な息子を愛しながらも、女として再生したいと密かに願う母。二人の日常は穏やかだが、時折、心の奥の激しさも顔を出す。携帯電話を持った若者がいる一方で、ミルクを作って売り歩く中年女がいる。ITと昔ながらの風景が混在した社会を背景に、母と息子の関係をシンプルに描いているのが興味深かった。2011.12

ミックマック
ジャン=ピエール・ジュネ監督、ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエ出演
☆ビデオ・レンタルショップで働くバジルは、発砲事件に巻き込まれるが、奇跡的に一命を取り留める。頭の中に銃弾を残したまま退院したバジルは、ホームレスに助けられ、個性豊かな人々と共同生活を始める。ある日、自分を撃った銃を製造する会社に潜入したバジルは、社長への復讐を決意する。
ファンタジックだがユニークで皮肉たっぷり。仕掛けが満載の楽しい復讐エンタメ作品に仕上がっていた。2011.5

【ラ ra】
ラースと、その彼女 LARS AND THE REAL GIRL
クレイグ・ギレスピー監督、ライアン・ゴズリング、エミリー・モーティマー、パトリシア・クラークソン出演
☆アメリカの田舎町に住むラースは、その優しさからみんなに慕われていたのだが、まったく女性に興味を持たない変わり者でもあった。
ある日、隣に住む兄夫婦のもとへ、ラースがある女性を泊めて欲しい、と頼みにくる。
女っ気のない弟を心配していた二人は、ついにラースも、と喜ぶが、彼が連れてきたのは、等身大のリアルドール“ビアンカ”だった。
真剣に人形を愛してしまったラースもかわいいのだが、彼にあわせて人形を人間として扱う周囲の人々が、とってもユニーク。人形ビアンカの出現で、周囲もワクワクし、それまでの決まりきった日常の潤滑油になっていく、という設定が面白かった。
地味だけど、よくできた脚本。ラースが自ら、愛するビアンカの存在を消そうとするまでも、無理なく描かれていて、好感が持てた。2011.12

RED/レッド
ロベルト・シュヴェンケ監督、ブルース・ウィリス、モーガン・フリーマン、ジョン・マルコヴィッチ、ヘレン・ミレン、 メアリー=ルイーズ・パーカー、リチャード・ドレイファス出演
☆元CIAのフランクは、電話の声に惹かれた役所勤めのサラに会いに行くが、そこで武装集団に襲われる。曲者揃いの元CIAが、巨大組織と対決するブラックユーモアたっぷりのアクションコメディ。役者陣が超豪華で、黒幕にはすっかり爺さんになったドレイファスまで登場。このメンバー、よくそろえたよなあ。その割に、作品はごくごくノーマルだったけど。あまりかしこまらずに楽しめる映画でした。2012.12

レクイエム・フォー・ドリーム REQUIEM FOR A DREAM
ダーレン・アロノフスキー監督、エレン・バースティン、ジャレッド・レト、ジェニファー・コネリー出演
☆孤独な未亡人サラにとって、テレビは唯一の友達。だが、息子のハリーは、母のTVを奪って売りはらい、金のために麻薬密売に手を染めてしまう。
映画全体が中毒患者の目を通したような作りで、怖くなるぐらいの危うさが伝わってきた。予想以上に実験的映画。どんどん狂って行くエレン・バースティンの演技は圧巻です。「アリスの恋」以来の名演技、といえるかも。
かなりホラー・テイストなので、正直、好きなタイプの映画ではないのだが、アロノフスキー監督の才能が感じられる一本だった。2011.3 関連CINEMA:「レスラー」「ブラック・スワン」

レボリューショナリー・ロード REVOLUTIONARY ROAD
サム・メンデス監督、レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット、キャシー・ベイツ出演
☆舞台は1950年代の保守的な町。閑静な住宅街で暮らすフランクとエイプリルは、人も羨むすべてを兼ね備えた夫婦に見えたが、実情は、退屈な日常に希望を見いだせず、悶々とした日々を送っていた。エイプリルは、夫にすべてを捨ててパリへ行くことを提案。パリでは自分が働き、本当の生きがいを見つけてほしい、と話す。二人が移住の決意をした矢先、フランクに昇進の話が舞い込む。一方、エイプリルは妊娠が発覚し…。
保守的で豊かな時代に、何不自由なく暮らす若い夫婦が、精神的に満たされたいと願う気持ちはわからなくもない。応援してあげたい気持ちもある一方で、彼らの周りの人々のように「アメリカもパリも一緒だよ」と諭したくなる気持ちもある。自分が中年になってからブラジルに行った時も、保守的な人々は、私の安易な行動を「浅はか」「やけっぱち」などと、冷ややかに見ていたのだろうなあ、などと、つい自分の行動と照らし合わせてしまった。
エイプリルの悲劇の選択は時代を感じるが、物質の豊かさだけでは満たされないのが人生、というテーマは不変である。
彼らがパリに行けたとしても、思うような人生を歩めたとは思えないが、それでも、違う価値観を知ることはできただろうに…。さまざまな価値観を知ることは心の財産になるものです。派手な主演の割に地味な話だったが、感受性の強い妻を演じたケイトの演技は秀逸です。2011.4

【2011年 映画祭での鑑賞レビュー】
ブラック・ブレッド PA NEGRE
アグスティ・ビリャロンガ監督、フランセスク・コロメール、マリナ・コマス、ノラ・ナバス出演
☆舞台はスペイン内戦後のカタロニア。11歳の少年アンドレウは、森の中で崖下に転落した馬車を見つけ駆け寄るが、父親の遺体のそばに倒れていた息子は「ピトルリア」と、謎の言葉を残して息絶える。「ピトルリア」とは森の洞窟に住むと噂される幽霊の名前で、アンドレウはその存在を信じていた。警察は、事故は何者かに仕組まれた殺人と断定。アンドレウの父ファリオルに嫌疑がかかる。
誰も信じられない抑圧のフランコ政権下で起こった悲しい事件の裏側には、貧困、思想、病気、性癖等に対する陰湿なイジメや差別の物語が隠れていた…。
かなり複雑な本格派サスペンス。日本でいえば、横溝正史の「八つ墓村」や「悪魔の手鞠唄」の世界である。
白いパンを食べられるのは一部の裕福な人間だけ。「お前は黒いパンだよ」と、慈悲のかけらもなく言い捨てられるアンドレウは、信じきっていた大好きな両親の違う一面を見て、“白パンの世界”に徐々に目を向けはじめる。
悲しいことだが、無理もないよなあ。誰もアンドレウの選択を責めることはできない。
テーマがあまりにも暗いので、終始、眉間に皺がよった状態で見ていたのだが、見応えは十分。様々な社会的問題が盛り込まれているので、終映後は思わずため息が出た。
アンドレウを演じたフランセスク君の素顔は、ごくごく普通のいたずら好きな少年でほっとした。彼の迫真の演技にも注目です。2011.9 ラテンビート映画祭にて

THE LAST CIRCUS /BALADA TRISTE DE TROMPETA
アレックス・デ・ラ・イグレシア監督、カルロス・アレセス、アントニオ・デ・ラ・トーレ、カロリーナ・バング出演
☆ハビエルは、サーカスの人気者だった父親に憧れ道化師になったが、サーカス団では冴えないピエロ役に甘んじている。ある日、人気道化師のセルヒオが、妻ナタリアを殴る現場に居合わせ、傷を負った彼女を介抱。二人は次第に魅かれ合うようになる。だが、セルヒオの暴力と嫉妬は激しくなり…。
「悲しきトランペットのバラード」という原題と、コンプレックスの強いピエロが主役、という設定から想像し、哀愁漂うドラマだと思っていたら…。
見事に予想が覆されて、あらまーびっくり!
監督がブラックなコメディを得意とするイグレシアということなので、ある程度のひねりは予想していたのだが、想像を超えた衝撃度。
気のいいハビエルが、どんどんエスカレートしていき、狂気のピエロへと変貌する様が恐ろしくて、心臓バクバクのバイオレンス・ムービーだった。
タランティーノが絶賛し、ベネチアでは銀獅子賞受賞、というのも頷けるし、かなり挑戦的な大作であることは、間違いないだが、ラブスト―リーを期待した女性には、かなりキツイ2時間になったはず。
でも、見終わったあとで、冷静に思い出し、想像力を働かせると、ハビエルの父親に対する感情に憧れ意外な複雑なものが見てとれたり、監督のフランコ政権時代に対する批判精神も感じたり…。
スペインの暴力の歴史を、イグレシア独特の世界観で描いた、実は意外に深いテーマが隠されている作品だと思う。
正直、もう1回見るのは勇気がいるのだが、すごい作品であることは間違いなし!2011.9 ラテンビート映画祭にて

カルロス CARLOS
オリヴィエ・アサイヤス監督、エドガー・ラミレス、アレクサンダー・シェール、アーマッド・カーブル出演
☆ベネズエラ生まれのイリイッチ、通称カルロスは、過激派の急先鋒としてフランスで暗躍。仲間の裏切りでアジトに踏みこまれるが、刑事を殺して中東へ逃亡する。1975年にはウィーンのOPEC本部を襲撃し、サウジのヤマニ石油相らを人質にとって、アルジェリアへ向かう。だが、アルジェやリビアの協力を得られず、高額な身代金と引き換えに、人質を解放する。
70年代は、世界各国のテロリストがパレスチナに集まり、多くの事件を起こしていたのは知っていたが、カルロスの存在はこの映画を見て初めて知った。
160分という長い作品だが、テロリストの緊張感のある日常をリアルに描いていたので、飽きずに見れたし、余計な感情を排除し、冷静な視点だったのも好感が持てた。
とくにOPEC襲撃のシーンは圧巻。各国の高官を、西側と中立、同盟国に分けるシーンは興味深かった。サウジのヤマニ石油相のほか、エジプトのサダト、イラクのフセイン、リビアのカダフィなど、世界を今でも賑わし続けている名前が挙がり、当時の彼らの立ち位置も再確認。中東問題には疎いのだが、勉強になりました。
南米統一を夢見たチェ・ゲバラの言動に対し「南米の権力者の後ろにいるのは西側だ」という台詞には納得。「帝国主義の根絶」から始まったテロ活動も、結局は、西側の“札束”に屈したというのが、なんとも虚しい現実である。2011.10 ラテンビート映画祭にて

モンテビデオ Montevideo, Bog te video: Prica prva
ドラガン・ジェログリッチ監督、アレクサンダル・ティルナニッチ、ブラゴイェ・マリヤノビッチ、ニーナ・ヤンコビッチ出演
☆1930年、世界初のワールドカップがウルグアイのモンテビデオで開かれることになり、ユーゴスラビアにも招待状が届く。
だが、出場の資金を捻出できないユーゴ・サッカー協会は、窮地に立たされる。
一方、たび重なる戦争が終わり、人々が日常を取り戻しつつあったベオグラードの下町で、天才的技術を持つティルケが現れる。彼は、18歳でベオグラードのチームに合格し、すでにスター選手のモシャとコンビを組むことになる。
☆☆戦争と戦争のはざまにあり、唯一平和だった1930年代のベオグラードが舞台のノスタルジックな青春ストーリー。
サッカーを愛する人々と、Wカップ出場を目指す選手たちの姿をハートウォーミングに描いている。子供からお年寄りまで楽しめそうな軽快な内容なので、現地で大ヒットし、ドラマ化され、パート2も製作されている、というのもうなづける。
日本で言えば「三丁目の夕日」みたいなものでしょう。
もちろん、クストリッツア映画のような毒もないし、内容も浅いし、やたらと長いし、字幕スーパーも難ありだし…、突っ込みどころは多かったのだが、今、セルビアで暮らす人々の映画の嗜好がわかっただけでも、興味深い作品である。
子供が見たら、サッカーが上手でイケメンの選手たちに憧れるだろうし、若いカップルは、恋愛ドラマに興味を持つかもしれない。
また、年配の人たちは、ユーゴスラビア人であることより、セルビア人であることに拘っている映画の中の人々に、共感していたかもしれない。
バルカン半島で過去に起こった様々な紛争は、当事者にしか理解できないことが多々ある。
歴史書を読み、ニュースで見聞きするだけでは、人々の複雑な思いや本音を知ることはできない。
なぜクロアチア人が、ユーゴ代表になることを拒んだのか、
なぜ政治家は、「ユーゴ代表にクロアチア人を呼べたら金を出す」と言ったのか、
なぜ試合の後で、観客は、セルビアの歌を歌ったのか。
そして、この映画をクロアチアや、ボスニアの人たちはどんな思いで見ていたのだろうか…。
いろいろ知りたいことが出てきてしまったのだが、この映画は政治的な映画ではありません。民族問題はいろいろ複雑ではあるのだけれど、悲劇を乗り越え、明るく前向きに陽気に生きるのが、バルカンの人々のたくましさ、ということだけは、はっきりと理解できたし、そんな彼らに拍手を送りたくなった。2012.2 フットボール映画祭にて

トレンテ4 TORRENTE4 LETHAL CRISIS
サンティアゴ・セグーラ監督、サンティアゴ・セグーラ、キコ・リヴェラ、カニータ・ブラヴァ出演
☆ドジで怠け者で大酒飲みのトラブルメーカー、トレンテは、マドリッド警察を辞めてからも町中の厄介者。大ボケの相棒から裏切られ刑務所に送られてしまうが、ここでもトレンテは大暴れ!
おバカなトレンテが、お色気美女たちにメロメロになりながら、マドリッドの人々をトラブルに巻き込んでいく、抱腹絶倒のエンターテイメント。
『ボラット』のサーシャがリメイク、というのも納得の、お下劣きわまりない作品。画面から臭ってきそうな汚らしいトレンテが、スペインでは人気者っていうのも面白い。あの不潔感は、日本ではあり得ないヒーロー像だ。或る意味、スペインらしい作品ですけどね〜。2011.9 ラテンビート映画祭にて

リオ! ブルー 初めての空へ RIO
カルロス・サルダーニャ監督、ジェシー・アイゼンバーグ、アン・ハサウェイ、ロドリゴ・サントロ声の出演
☆リオデジャネイロで生まれたコンゴウインコのブルーは雛のときに捕えられ、アメリカへ売られてしまう。だが、搬送中に逃げ出し、心優しい少女リンダに助けられる。15年後、ブルーは本屋を営むリンダと一緒に、穏やかに暮らしていた。ある日、店に現れた鳥類研究家のブラジル人チュリオは、ブルーは貴重な品種の雄鳥だ、と告げる。リンダとブルーは、チュリオの研究所にいる雌鳥ジュエルに会うため、ブルーの故郷、リオデジャネイロを訪れる。
ハリウッドが作ったリオが舞台の映画ではあるのだが、リオ色は正直ほとんど感じられず。
ブラジル人ってもっとまったりしてるんだよねえ。カーニバルも楽しいけど、ユルユルだし。いろいろ詰め込み過ぎてるのがなんともアメリカらしい。
でも、映像はさすがに奇麗。ブルーの首元のフサフサ感は本物の羽のようで、触りたくなりました。2011.9 ラテンビート映画祭にて

人生は一度だけ Zindagi Na Milegi Dobara
ゾーヤー・アクタル監督、リティック・ローシャン、ファルハーン・アクタル、アバイ・デーオール出演
☆結婚を間近に控えたカビールは、親友のアルジュン、イムラーンとともに、独身最後のスペイン旅行に出かける。旅先でも仕事に追われるビジネスマンのアルジュンは、魅力的な女性レイラと出会い、自分の生き方に疑問を持ちはじめる。
一方、お調子者のイムラーンは、スペインにいる実の父への想いを募らせていた。
インドのリッチな若者たちのひと夏の思い出をシンプルに描いたエンタメ作品。スペインが舞台ではあるのだが、出演者は英語とヒンズー語が堪能な美しいインドの若者たちで、ラテン色はほとんど感じず。ボリウッド映画特有のハチャメチャ感を抑えたテレビドラマ風。新興国インドは、リッチな若者も増えているだろうし、日本で20年前に流行ったような青春ドラマが、今、受けているのは時代の流れなのだろう。少々拍子抜けした感はあるが、美男美女の踊りが見られたので、よしとしましょう。2011.10 ラテンビート映画祭にて


運命のつくり方 UN HOMME, UN VRAI
ジャン=マリ・ラリユー、アルノー・ラリユー監督、マチュー・アマルリック、エレーヌ・フィリエール、ピエール・ペレ、フィリップ・スネル、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ミシェル・ピコリ出演
☆売れない映画監督は、ある企業のプロモビデオ撮影でやり手の美女と出会い恋に落ちる。二人は結婚し子供も授かるが、男は相変わらず仕事に恵まれず、妻にこき使われる毎日を送っていた。旅先のスペインで妻が子供を置いて逃走。その10年後、アメリカに移住した妻はアルプスの山で、夫と再会する。冴えない男とモデルのような女凸凹カップルの出会いと別れ、そして再会をコミカルに描いた作品。唐突なオープニング、驚きの展開、エロシーンも散りばめながら、なんでこんなにタイプの違う二人が惹かれあるのだろう、と不可解になる、いい意味で観客を裏切る不思議なコメディだった。マチューがお世辞にもカッコよくない男を熱演。いろんな役ができる味のある役者です。2011.1 フィルムセンターのフランス映画特集にて

インタビュー L'INTERVIEW
グザヴィエ・ジャノリ監督、マチュー・アマルリック出演
☆新聞記者は、ハリウッドの伝説的女優へのインタビューを取り付け、入念な準備をして彼女の自宅へでかけるが、インターフォン越しでインタビューするはめに。さらに飼い犬にインタビューを邪魔され…。カンヌ国際映画祭短篇部門パルム・ドール受賞作。シンプルだけどウィットがきいた展開にうならされた。良き過去のハリウッドを彷彿とさせる洒落たモノクロ映像もBOM! カンヌのパルムドールも納得。2011.1 フィルムセンターのフランス映画特集にて

斧 LE COURERET
コスタ・ガブラス監督、ダルデンヌ兄弟製作、ジョゼ・ガルシア、カリン・ヴィアール出演
☆製紙会社のエリート社員ブリュノは50歳を過ぎて会社を解雇されて以来、再就職先が見つからず悶々としていた。書類審査でさえ通らないのは、自分よりいい経歴を持つ求職者がいるせい、と思いこんだブリュノは、求職者たち次々に殺しをはじめる。
最初に抱いた罪悪感からも解き放たれ、殺し方もエスカレートしていく。さらに、息子の盗みの証拠を見つけたブリュノは、証拠隠しをすることで家族からの歪んだ信頼まで勝ち取ってしまう。
普通のお父さんだった男が、プライドの高さから被害者意識がエスカレートし、危ない行動に走り出す。ブリュノのキャラ設定は「フォーリング・ダウン」のマイケル・ダグラスや「アメリカン・ビューティー」のケビン・スペイシーに似ているが、これは社会派ガブラス監督作品なので、一筋縄ではいかないだろう、と予想していたら案の定、悪運の強い男ブリュノはどんどん悪い男になり、成功まで手にしてしまう…。「こんなんでいいのかよー」と訴えたくなる、なんとも苦いエンディングだが、これは監督の問題作「ミュージック・ボックス」でも感じたこと。
小心者の小悪人がどんどん悪事を重ねるうちに本物の悪人として生き延びてしまう、というのは現実に起こり得ることなのかもしれない。
そうはいってもノリはかなりコミカル。主役のブリュノも有名コメディアンということで、表情がくるくる変わって飽きが来ない(監督の傑作「ミッシング」で主演したジャック・レモンによく似てます)。この映画が日本でDVDにもなっていない、ということが残念なよくできた犯罪映画だった。2011.1 フィルムセンターのフランス映画特集にて

デブたち Gordos
ダニエル・サンチェス・アレバロ監督、アントニオ・デ・ラ・トーレ、ロベルト・エンリケス、ベロニカ・サンチェス出演
☆奇妙な肥満解消セミナーに集まったのは、ダイエット食品のCMで人気のタレントや、恋人との関係で悩む女性、家族そろって肥満だが早死にが怖くなった会社社長など、さまざま。一方、セミナーの講師は、陰でデブたちをバカにしていたのだが、妊娠した妻との関係がぎくしゃくし始める。
肥満に思い悩む様々な境遇の人間たちをコミカルに描いた群像劇。自分が肥満じゃないせいとも思えないのだが、まったく感情移入できず。群像劇って、いろいろなドラマが見れて好きなのだが、構成がとっちらかっていて、誰にポイントを絞ればいいかわからなかった。
台詞は面白いし、ウディ・アレン風なんだが、やっぱり腕はアレンが上ですね。2012.3

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