CINEMAの監督たち
〜My Respect Directors〜

BOSSAが尊敬する監督を紹介します。
いずれも、個性あふれる作品を撮り続けている面々です。
グザヴィエ・ドラン
エミール・クストリッツア
テリー・ギリアム
スタンリー・キューブリック
マーティン・スコセッシ
ペドロ・アルモドバル
ヴェルナー・ヘルツォーク
スティーヴン・フリアーズ
キム・ギドク
ニール・ジョーダン

グザヴィエ・ドラン Xavier Dolan 

1989年カナダ生まれ。
初めて見たグザヴィエ・ドラン作品は『わたしはロランス』。
男から女になることを決めた男と、彼を愛する女の苦悩。
別れと再会を繰り返す二人の数年間を追いながら、二人の成長と絆を描いているのだが、キャラクター、存在感、俳優の演技が秀逸で、あっという間に心を奪われてしまった。
ドラン映画の魅力は、キャラや演技、ドラマ展開にプラスされた個性的な映像センスにある。カラフルでポップな幻想的映像や、雑誌から飛び出てきたような洒落たファッション、左右対称の構図、キャラクターたちの独白等々、随所に工夫が見られ、それらが巧みに挿入されているので、長いドラマでも飽きさせない。
イケメン俳優重視の女子でも、アート志向の強い美大生タイプでも、ロマンチックドラマを好むOLタイプでも楽しめる、様々な魅力が詰まっている。

主な作品:

マティアス&マキシム(20)監督・出演
ジョン・F・ドノヴァンの死と生(18) 監督
グザヴィエ・ドラン バウンド・トゥ・インポッシブル 出演
たかが世界の終わり(17)監督
神のゆらぎ(15)出演、エレファントソング(14) 出演
Mommy/マミー(2014) 監督
トム・アット・ザ・ファーム (2013) 監督・出演
私はロランス(2012) 監督
胸騒ぎの恋人(2010) 監督・出演
マイ・マザー(2009)監督・出演

主な受賞歴:
カンヌ国際映画祭2016:グランプリ受賞「たかが世界の終わり」
第70回ベネチア国際映画祭:国際批評家連盟賞受賞「トム・アット・ザ・ファーム」
第65回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門:最優秀女優賞受賞(スザンヌ・クレマン)「私はロランス」
第63回カンヌ国際映画祭ある視点部門:若者の視点賞受賞「胸騒ぎの恋人」
第62回カンヌ国際映画祭・監督週間部門:若者の視点賞受賞「マイ・マザー」

【CINEMAレビュー】

マティアス&マキシム MATTHIAS ET MAXIME
監督・主演:グザヴィエ・ドラン 出演:ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス/マティアスとマキシムは子供のころからの大親友。弁護士で彼女もいるマティアスに対して、マキシムはバーで働きながら、引きこもりがちか母親の面倒を見ている。
 ひょんなことから妹が作る短編映画でキスシーンを演じた二人は、これをきっかけに、友情以上の感情に気づいてしまう。だが、二人は思いを素直に受け入れられず、マキシムはオーストラリアへ旅立とうとする。
 強い友情で結ばれた二人が恋愛対象となってしまった時の戸惑い。胸がキュンキュンする初恋の気持ちが画面から伝わってきました。二人を取り巻く友人、家族も二人の気持ちに気付いているんだけど、踏み込まないで、ケンカしながらも優しく見守っている感がすごく素敵で…。続編が見たくなるような青春ドラマでした。ドラン映画らしい映像のフォーカスの拘りも随所に見られた。今回は、表情をあえてぼかすシーンや、逆光にしてシルエットを映すシーンが印象的だった。もう一度見てみたい一本です!2020.10

ジョン・F・ドノヴァンの死と生 THE DEATH AND LIFE OF JOHN F. DONOVAN
監督グザヴィエ・ドラン、出演キット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、ジェイコブ・トレンブレイ、スーザン・サランドン、キャシー・ベイツ/
2006年のニューヨークで俳優のジョン・F・ドノヴァンが29歳の若さで亡くなった。11歳の少年ルパートは、彼の大ファンで長い間、密かに文通をしていた。10年後、俳優兼作家となったルパートは取材で当時の自分について語り始める。
 ドラン監督の十八番とも言える息子と母の物語は、心理描写が秀逸で、少年と母、どちらにもしっかりと感情移入できた。一方、ドノバンの物語はちょっとステレオタイプ感があった。時代が交錯する展開も、わかりにくくて、もう少しシンプルだったらよかったのに。ただ、ドノヴァンを演じたキット・ハリントンのルックスが好みだったので、終始スクリーンにくぎ付け。急逝した彼のモデルはリバー・フェニックスなのは、わかっていたのだが、エンディングのバイクシーンや、「スタンド・バイ・ミー」には泣きそうになった。(ドラン監督は実際にはデカプリオのファンで、彼に手紙を書いたのだそうだ。)監督はリバーを原体験していないのに、リバーファンだった多くの女性の心をしっかりとワシづかみにした。ありがとう! 2020.3

グザヴィエ・ドラン バウンド・トゥ・インポッシブル XAVIER DOLAN: BOUND TO IMPOSSIBLE
監督:ブノワ・プショー、出演:グザヴィエ・ドラン、スザンヌ・クレマン、ヴァンサン・カッセル、ナタリー・バイ、アンヌ・ドルヴァル
 世界が注目する若き天才グザヴィエ・ドラン。彼本人が自身の映画作りへの思いやこだわり、名シーン誕生秘話をふんだんに語るほか、彼の映画に欠かせない女優スザンヌ・クレマンや、「たかが世界の終わり」に出演したヴァンサン・カッセル、またガス・ヴァン・サント監督など、ドラン作品に出演した名優や映画関係者たちがドランの魅力の秘密を語るドキュメンタリー。ドラン映画には熱いファンが多い。女優・戸田恵梨香はトーク番組でドラン愛を語っていたし、ドラン作品二本立てを見に行ったときには、某個性派女優が見に来ていた。そうなのです、ドラン映画には通が多いのです。一度見たら好きにならずにいられないのです! 今ドキュメンタリーではその“美しき若きドラン”が、自分の作品の裏話を饒舌に語っている。ドラン作品の特徴の一つ、背中からのショットは「花様年華」の影響を受けたと知って、なるほどーと思い出し、ドランは「タイタニック」が大好きで「Mommy/マミー」のカット割りは「タイタニック」を真似たという話に驚いたり…。若い監督なので影響を受けた作品も新しいことに、当たり前なんだが新鮮だった。
 裏話も多いのでドランの映画を再見しながら、このドキュメンタリーを見返すのも楽しそう。2017.11

たかが世界の終わり IT'S ONLY THE END OF THE WORLD
監督:グザヴィエ・ドラン、ギャスパー・ウリエル、ナタリー・バイ、ヴァンサン・カッセル、レア・セドゥ、マリアン・コテイヤール出演
☆人気劇作家作家ルイは12年ぶりに帰郷し、疎遠にしていた家族と久々に顔を合わせる。幼い頃に別れたきりの妹シュザンヌは兄との再会に胸躍らせるが、兄アントワーヌは毒づき、兄妹喧嘩が始まる。
家族の再会と、それぞれの心の探り合いと衝突をしつこくえぐり出す。戯曲が原作なので、会話劇なのは予想していたが、かなりしつこくて、もういいよ〜って言いたくなってしまった。ドランらしい人物のアップ&ワンショットの多様や、音楽の粋な使い方は健在で、セリフよりも映像の方に注目してみていた。
ルイが余命僅かなことを誰もまったく気づかないのか、それとも聞きたくないから避けているのか…。謎だらけ。原作者が38歳で亡くなっているらしく自伝的要素が強いのでしょう。死を前にした若い男の苦悩する姿は痛々しくも美しく、ウリエルが熱演していました。
いつものドラン作品のほうが好きではあるけど、まだまだ若い監督なので、これからいろいろ作風も変わっていくんだろうな。いい意味で楽しみです。2017.2

Mommy/マミー
グザヴィエ・ドラン監督、アンヌ・ドルヴァル、スザンヌ・クレマン、アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン出演
☆☆問題行動の多い17歳の青年スティーブが施設で放火騒ぎを起こした。青年は母親ダイアンに引き取られ、二人での生活を再スタートする。生活費を稼ぐために働きに出た母は、留守の間に、休職中の元教師カイラに息子の家庭教師を依頼する。
エキセントリックな母と感受性が異常に強い息子、そして言葉をうまく発せられなくなった元教師。三者三様のはみだし者が、思いっきり不器用に、三人なりの絆を築いていく人間愛を描いている。
母と息子の怒鳴り合いは、見ていて心が痛むこともあったが、感情のぶつけ合いはけっして悪いことじゃないんだ、と思わせてくれる清々しさがあった。
愛すべき三人を、何も言わずに、ぎゅっと抱きしめたくなったのは、私だけではないはず。
異端だっていいじゃない。ちょっとハタ迷惑だったりもするけど、それも含めて人間らしさってこと。
この映画を見て、眉間にしわを寄せてしまうような“常識人”(映画の中でいえば母に色目を使う弁護士タイプ)も社会には大勢いる。
彼らの反応はある意味正しい。
でも、人の心はそう単純じゃない。正しいか正しくないかだけでは測れないものだ。
母と息子、そして元教師、&この映画に感動できた自分の、これからの人生にエールを送りたくなりました。
今作でもっとも印象に残った映像は、停電中の真っ暗な闇の中に浮かび上がるスティーブとカイラの顔。表情をあえて見せない映像テクを絶妙に使い、見る側の想像力を掻き立ててくれる。
そしてもちろん音楽の使い方もGood!
正方形の画面も面白かったし、カラオケのシーンもよかったなあ…。
毎度のことですが、この感動をうまく言葉で表現できないもどかしさ…。
若き天才ドランのファンになってよかった、と心から思える作品でした!2015.4

わたしはロランス LAURENCE ANYWAYS 
グザヴィエ・ドラン監督、メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ出演
☆詩人ロランスは、30歳の誕生日に、同棲中の恋人フレッドにある秘密を打ち明ける。今日から自分は女として生きたい、と告白されたフレッドは激しく動揺。いったんはロランスの気持ちを受け止めるが、次第に二人の間に亀裂が生まれ…。
恋人から突然「女として生きる」と告白されたフレッドのショックに何よりも感情移入してしまい、それからは、つねにフレッドの視点から映画を見てしまった。
ロランスとフレッド、二人がくっついたり離れたりを10年にもわたって繰り返すだけの話なんだけど、それを3時間、飽きさせずに見せてしまう監督の力量にはあっぱれ。
何がすごいのか、表現するのが難しいのだが、映像の美しはもちろん、わざとぼかして見せたり、顔半分だけのショットだったり、と、一つ一つの映像が凝っているのも面白さのポイント。
音楽もしゃれているし、色づかいもお見事。監督の才能がこの映画にたっぷり詰め込まれていて、出し惜しみしていないところが素晴らしい。
フレッドとロランスは、結果的に離れて暮らしていくのだろうけど、二人が最期に思い出すのは、きっとお互いのことだと思いたい。
出会うべくして出会った運命の二人。
たとえ性的には相いれない相手でも、心はしっかりとつながっている。二人の絆の深さに、ただただ感動させられた。
ロランスとフレッドの再会のクライマックスで使われた、壁のブロックのシーンに、胸がキュンキュンしてしまい、年甲斐もなくときめいてしまいました。今思い出しても、溜息もの…。ドラン監督、素敵なラブストーリーをありがとう! 2014.5

胸騒ぎの恋人 Les amours imaginaires 
グザヴィエ・ドラン監督・脚本・主演、モニア・ショクリ、ニール・シュナイダー出演
☆同じ男性ニコラを好きになってしまったマリーとフランシス。そんな二人の気持ちを知ってか知らずか、ニコラは二人を旅行に誘う。
『わたしはロランス』を見て以来、ドラン監督の虜になったが、この作品も、期待を裏切らないクオリティの高さ。
天才ですね、確信しました。才能だけじゃなく、ドランのルックスにもメロメロ…。
正直、はるか昔に抱いていた20代の恋する気持ちを、思い出せるとは思っていなかった。
青春映画を見ても最近は「若いっていいね」と親目線で片付けていたのだが、ドラン映画は、どういうわけか、がっつり感情移入できてしまう。
永遠の片思いや、伝わらない恋心のうずき、モヤモヤした感情…。
そのときは、つらいんだけど、今思い返すと、悪くない。懐かしくてしかたない。
もう二度とごめん、と思っていたはずなのに、また片思いしたくなっている自分に気づかされた。
ドランは、性的マイノリティの恋の描き方だけでなく、恋愛ベタな女性の気持ちも、ものすごくよくわかっているのが素晴らしい。
ハッピーエンドではないけれど、すがすがしさが残るエンディングも圧巻。
不思議テイストの音楽や、背中越しのアングル、ポップなファッション等々、随所にセンスの良さが表れていて、シンプルな定番ストーリーなのに、新しさを感じた。2014.9 

神のゆらぎ MIRACULUM
ダニエル・グルー監督、ロバン・オベール、グザヴィエ・ドラン、アンヌ・ドルヴァル出演
☆エホバの証人の信者である看護師は、末期の白血病を患いながら輸血を拒否するフィアンセの頑なさに疑問を抱きはじめる。一方、ドラッグの運び屋は空港で兄と遭遇する。複数の人々の人生が、ある飛行機事故とつながるまでを描いた群像劇。暗くて辛いっだけの物語。ドランは素敵だったけど…。前売り買うほどの作品ではなかったかも。2016.8

エレファント・ソング ELEPHANT SONG 
シャルル・ビナメ監督、ブルース・グリーンウッド、グザヴィエ・ドラン、キャサリン・キーナー出演
☆精神病院で一人の医師が失踪した。患者マイケルから失踪の真実を聞きだすため、院長のグリーンは、自らマイケルに質問する。マイケルの元妻で看護師長のピーターソンは、作り話が得意な彼に注意するよう警告するが…。
じりじりするような心理ドラマ。人々を翻弄するマイケル役をグザヴィエ・ドランがさすがの存在感で熱演していました。なんという男ドラン!彼の誘導についのせられ、衝撃のラストは心が痛みました…。2015.12

トム・アット・ザ・ファーム TOM A LA FERME
グザヴィエ・ドラン監督・主演、ピエール=イヴ・カルディナル、エヴリーヌ・ブロシュ、リズ・ロワ出演
☆モントリオールの広告代理店で働くトムは、交通事故で亡くなった同僚で恋人ギョームの葬儀に参列するため、田舎にある彼の実家の農場を訪れる。そこには、ギョームの母アガットと兄のフランシスが2人で暮らしていた。フランシスは、トムと弟が恋人だったことを母に隠すよう脅し、トムに家に留まるよう強要する。
暴力的な兄と、軟禁された弟の恋人の心理サスペンスなのだが、閉鎖的かつ保守的な田舎の、なんともいえない緊張感がじりじり伝わってきて息苦しくなるほど。ドラン演じるトムが、フランシスの病的な暴力が性愛の裏返しであることに気づき出す過程も面白い。二人の関係の危うさが悲劇を起こすかと思いきや…。ラストがまたまた意外。何かを暗示するような微妙なエンディングは、正直モヤモヤ感も残ったが、余韻を楽しめました。
戯曲の映画化ということで、今までのドランの作品とはテイストが違っていたが、いい意味で期待を裏切ってくれました。2014.10

マイ・マザー I KILLED MY MOTHER
グザヴィエ・ドラン監督・出演、アンヌ・ドルヴァル、フランソワ・アルノー、スザンヌ・クレマン出演
☆17歳の青年は、口うるさい母との諍いがたえない。ボーイフレンドの家に入りびたり、女教師に救いを求めるが、母息子の関係は改善されず、ついに寄宿舎へ入れらてしまう。
まずドランの美しさに魅入ってしまった。こんな美少年が監督の才能もあるなんて、天は二物を与えるのですね。母と息子のやり取りがかなりリアル。おそらく自伝的要素が強いのでしょう。親子関係の難しさは国が違っても同じですよね。2014.5

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エミール・クストリッツァ Emir Kusturica 

1954/11/24 旧ユーゴスラビア・サラエヴォ生まれ
クストリッツアの映画を見るといつも疲れる。だがその疲れがやめられない。
それは、エネルギーを吸い取られる疲れではなく、エネルギーをガンガン与えてもらえる疲れだからだろう。
作品の多くは一見、馬鹿騒ぎしているだけに見えるし、上品とは言いがたい。
だが、作品のすべてに生命力があふれている。まるで映画そのものが生きているようだ。
川辺で暮らす盗人ジプシー、戦時下を生きる市井の民、アナーキスト…。
すべての人間が、時代の流れや苦しい社会状況などを蹴散らして生きているのである。
クストリッツアは、踏まれれば踏まれるほど強くたくましく再生する雑草人間をこよなく愛する映画監督、と言えるだろう。

クストリッツア監督のオフィシャルサイト

主な作品:
On the milky road(2016) 監督 モニカ・ベルッチ出演
世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ EL PEPE, UNA VIDA SUPREMA(2015) 監督
Words with Gods (2014) 監督 G・アリアガ製作のオムニバス映画
セブン・デイズ・イン・ハバナ 出演
フェアウェル 出演
Cool Water (お蔵入り?) 監督 パレスチナ人の兄弟が父親の死体を運ぶ珍道中を描く
Tweaker's Delight (お蔵入り?) 監督
MEXICO (お蔵入り?) 監督 メキシコの革命家パンチョの物語
マラドーナ (2008) 監督 アルゼンチンの英雄兼お騒がせ男のドキュメンタリー
ウエディングベルを鳴らせ(2007) 監督 
それでも生きる子供たちへ(2007) 監督(オムニバス)
ライフ・イズ・ミラクル(2005) 
SUPER 8 (2001) サントラはこちら
サン・ピエールの生命(いのち) (1999)  出演  
黒猫・白猫 (1998)  、アンダーグラウンド (1995) サントラはこちら
アリゾナ・ドリーム (1992)、ジプシーのとき (1989) 、パパは、出張中! (1985) 、ドリー・ベルを覚えているかい?(1981)

主な受賞歴:
ヴェネチア国際映画祭 :1998年 監督賞受賞「黒猫・白猫」
カンヌ国際映画祭: 1995年 パルムドール受賞「アンダーグラウンド」
ベルリン国際映画祭:1993年 銀熊賞受賞「アリゾナ・ドリーム」
カンヌ国際映画祭: 1989年 最優秀監督賞受賞「ジプシーのとき」
カンヌ国際映画祭: 1985年 パルムドール受賞「パパは出張中!」

【CINEMAレビュー】

世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ
原題:El Pepe, Una Vida Suprema
エミール・クストリッツア監督・聞き手、ホセ・ムヒカ、ルシア・トポランスキー出演
軍事政権下、ゲリラ集団トゥパマロスの一員として活動し、12年もの長い間、刑務所で生活をした後、大統領となったムヒカの半生を追ったドキュメンタリー。
 マテ茶を愛するムヒカと、葉巻をふかすクストリッツア監督が、言葉も発さずに座っている姿がとても印象的。両者とも、心の奥に熱いものがあるのに、それをあえて出さないシャイな感じが微笑ましかった。
 中盤は、ムヒカの映画、というよりは、妻や同志の語りも多く、トゥパマロスの映像もかなり入っているので、ウルグアイの政治史としてみることもできる。
 反ムヒカの市民とやり合うシーンもあるなど、ムヒカの好々爺としての表の顔の裏に隠されたゆるぎない信念も見ることができた。「他人の金で儲けるのが資本主義」「文化はよりよい社会を作る土台」「世界を変えるにはたくさんの学校が必要」「体制を壊すのは簡単、作るのは難しい」などなど、印象に残る発言が多数あり。妻のルシアが「彼には人にわかりやすく伝える能力がある」と言っていたが、良くも悪くも大統領に求められるのは「わかりやすさ」なのかもしれない。愛されキャラって得だよな、なんて思ってしまった。2020.05

ドリー・ベルを覚えているかい? DO YOU REMEMBER DOLLY BELL?
出演:スラヴコ・スティマチ | スロボダン・アリグル ディチ | ミラ・バニャッツ/サラエボで暮らす少年ディーノ。共産主義に傾倒する父は毎晩のように息子たちを食卓に座らせ会議のまねごとをしている。ある日、ディーノは町のチンピラから若い女「ドリー・ベル」をかくまってほしいと頼まれる。1981年製作のクストリッツア初期作品。たくさんの家畜、スラヴコ・スティマチ演じる純朴な青年、歌と踊り。数々の名作の原点となるテイストが盛り込まれている。初期作品なので、こなれていない感は否めないが、サラエボの庶民の生活感が画面から伝わってきて興味深かったのだが、笑いのツボが今一つよくわからず。それでもクストリッツア監督ウォッチャーとしては、この作品を見れたことに価値がある。2023.11

オン・ザ・ミルキー・ロード ON THE MILKY ROAD
監督: エミール・クストリッツァ
出演:モニカ・ベルッチ、エミール・クストリッツァ、プレドラグ・マノイロヴィッチ、 スロボダ・ミチャロヴィッチ
☆戦争中のとある国の戦場でミルクを売るコスタは、農家の娘ミレナに求婚される。ミレナはまもなく戦地から戻る兄の結婚式と同じ日に式を挙げたいと言い出す。兄の花嫁候補は難民キャンプで見つけたイタリア系の美女。コスタは彼女に引かれていく。戦場で生まれた中年の男女の恋と彼らを取り巻く人間たちの姿をコミカルに描きながら、戦争の惨さを滑稽かつ悲惨に描いている。同時期に『アンダーグラウウンド』完全版を見ていたせいか、作風が大人になった感あり。傑作『アンダーグラウンド』ではギャグも音楽も戦争もアピールが凄まじいくハイパーエネルギッシュ。この映画、若い頃に見たからノックダウンされずに受け止められたけど、もし中年の今、初めて見てたら疲れの方が先にきたかもしれない。その意味でミルキーロードはより洗練されていた。ギャグ、恋愛、風刺、そして感動のエンディングまでの構成力が抜群で、まったく飽きることなく笑い、泣き、そして感度することができた。ときに鳥の視点から描くという感性もすばらしい。血まみれのアヒルや地雷にやられまくる羊や撃たれるロバなど、弱者である動物たちの死をコミカルに描くことで、戦争の惨さがあぶりだされていた。他方、ミレナと兄ちゃんの丸こげ遺体には笑ってしまったけどね。死をも笑いに変えられるのもクストリッツア監督作ならでは。ラブストーリーだったんだ、と再認識させられるエンディングは今思い出してもじわっと涙腺が緩みます…。2017.9

マラドーナ MARADONA BY KUSTURICA
エミール・クストリッツァ監督、ディエゴ・マラドーナ出演
☆無類のサッカー好きで知られるクストリッツア監督が、アルゼンチンの英雄ディエゴ・マラドーナの真の姿に迫ったこの作品は、監督へのマラドーナへの思いがぎっしり詰まっている。過去の輝かしいドリブル&シュート・シーン、英米を厳しく批判し、カストロやチェ・ゲバラを礼讃する攻撃的なマラドーナ、コカイン中毒で醜く太ったマラドーナ、家族を悲しませたことを悔恨するマラドーナ…。
さまざまな顔を持つマラドーナの姿が、何度も何度も繰り返し映し出される。
英米中心の帝国主義をちゃかしたようなクストリッツアらしい皮肉たっぷりのユーモアも盛り込まれているので、マラドーナの過激発言もどこか劇画っぽく、笑いを誘う。
イギリスもアメリカも、FIFAのお偉いさんも、マラドーナにかかったらすべてがクソ野郎。庶民の味方、「反権力」こそがマラドーナ!
それは、アルゼンチン国民、いや世界中のマラドーナ・ファンが望む姿であり、彼は“マラドーナ”というアイコンを自分自身で作りあげ、それを演じているのだ。
一方、コカイン中毒でボロボロになったマラドーナもまた真の姿だ。「娘が成長している貴重な時間に、自分はラリっていた」と、過去の過ちを素直に認め、ドラッグにおぼれたことを延々と後悔する。そんな情けないけど素直なマラドーナをみると、ヤンチャ坊主の失敗をつい許す気になってしまう。すべてにつけてお騒がせ男。完璧からはほど遠いからこそ、人は彼を憎めない。そこが彼の魅力なのだ。
意外だったのは、彼の妻の発言である。あれだけのスターなので、何度も妻を変えているのかと思っていたら、意外や意外。最初の妻クラウディア(正式には元妻)が、今でもマラドーナの側にしっかりと寄り添っているのだ。彼女は、破天荒なマラドーナの最愛の信奉者であり、何があっても彼を見捨てない強さを持っている。
クストリッツアの問いに「苦難を乗り切ったのは自分」と言いきった彼女の発言は、いかにマラドーナと共に生きることが大変だったかを物語っている。
(タイガー・ウッズの妻も、クラウディアのようであったなら…。
金目当ての自称愛人どもも、この映画見ろーっ! 
そんな女たちを好むウッズにも責任はあるけど、選ばれし天才の私生活に、品行方正を望むこと自体が陳腐…)
などなど、この映画を見ている最中は、様々なことに考えが及び、脳みそフル回転の興奮状態に陥ったが、もっとも印象に残ったシーンは、ベオグラードの名門チーム、レッドスターの本拠地で、マラドーナとクストリッツア監督がパスをするシーン。
サッカー少年に戻って球蹴りを楽しむオッサン二人の無邪気さがたまらなくキュートで、やっぱりこの二人のファンは辞められないわ〜と再確認した。
この映画の直後、マラドーナが代表監督になり、来年はいよいよワールドカップ本戦。
何か、大きなことをやらかしてくれろうな予感でワクワクである。
マラドーナのその後を追った第2弾が作られると信じたい。
最後にもう一言:マラドーナを神と崇める「マラドーナ教」とその信者たちには爆笑。洗礼は神の手ゴーーーール!!先日のアンリの“疑惑の手”ゴールとは格が違います。2009.12

ウェディング・ベルを鳴らせ! ZAVET PROMISE ME THIS
エミール・クストリッツァ監督、ウロシュ・ミロヴァノヴィッチ、マリヤ・ペトロニイェヴィッチ出演
☆山あいの村で育った少年ツァーネは、イタズラ好きな祖父とともに、伸び伸びと田舎生活を謳歌していた。 ツァーネにも嫁さんを、と考えた祖父は、ツァーネに3つの約束をさせて町へ送り出す。はじめて町を訪れたツァーネは高校生のヤスナに一目ぼれ。だが、町の大物ヤクザもヤスナを狙っていた。
 能天気な祖父と少年の田舎暮らしは、まるでパラダイスのように明るくて、二人のイタズラ合戦も微笑ましい。テリー・ギリアム作品にも通じる奇天烈さだ。
祖父ちゃんはおそらくロシア系で、オリンピック中継のロシア国歌を感慨深げに聞いたりしているのだが、政治的な背景は、今回の作品ではほとんど出てこない。
好奇心旺盛な少年の目からみた大人の社会を思い切り茶化し、とことんコミカルに描いている。 そうはいってもクストリッツアなので、深読みしようと思えば出来ないことはない。 でも、そんなことは他の作品でやればいいこと。この映画では、単純で能天気な人間たちを笑い飛ばし、小さな仕掛けにクスクス笑いながら、クストリッツア・ワールドを楽しむのがベストだろう。
空飛ぶ人間(なんで飛んでいるのか意味不明)、存在感たっぷりの愛すべき動物たち(牛、猫、鶏などなど)、落とし穴に落ちたり、木に登ったり、戦車ぶっぱなしたり…。クストリッツアお決まりの笑いどころ満載なのだから。
個人的にはまったのは、靴屋の凸凹兄弟のキャラ。アホ丸出しの脇役なのだが、ツァーネが窮地に陥ると、どこからともなく現れる「月光仮面」のような存在なのだ(古い例え^^;)。
&もう一つうれしかったのは、テレビで流れる映画が「タクシー・ドライバー」だったこと。私のお気に入り監督の変遷は、スコセッシ→ギリアム→クストリッツアなのだが、みんなしっかりと繋がっているのです。好きになってよかったデス。
(ぼったくり気味の薄いプログラムには、今の映画界では「タクシー・ドライバー」や「レイジング・ブル」のようなアウトサイダー映画が排除されていることを嘆く一文あり)
12月公開の「マラドーナ」も待ち遠しいわ〜。
2009.10

それでも生きる子供たちへ LES ENFANTS INVISIBLES ★★
カティア・ルンド、スパイク・リー、エミール・クストリッツァ、メディ・カレフ、ステファノ・ヴィネルッソ、ジョン・ウー、ジョーダン・スコット、リドリー・スコット監督
☆「ブルー・ジプシー」:舞台はセルビアの少年院。出所を控えたジプシーの少年マルヤンは、仲間たちの髪を刈りながら床屋になる夢を語る。仲間たちの合唱に送られながら出所した少年は、迎えにきた父親からさっそく盗みを命じられる。
能天気で、転んでもタダでは起きない小悪党集団。そんな悪党に育てられたら、子供もたくましくならざるを得ない。主人公のマルヤンは、一見純真無垢な少年だが、少年院の常連で盗みの腕はプロ級。ケッサクのオチに「それでも生きろ! 子供たち」と、エールを送りたくなった。ユニセフ映画と言えどもクストリッツァ節のブラックな笑いは顕在です。
☆「アメリカのイエスの子」:HIVポジティブの少女ブランカは学校でイジメを受け、泣きながら帰宅。そこでは、薬中でHIVポジティブの両親が薬を打っている真っ最中だった…。
少女ブランカがモデル並みにオシャレでキュートなだけに、病気であることがよりいっそう痛々しい。学校での容赦ない苛めや、クラスメートの親の差別的発言など、直球でガンガン攻めてくるあたりはS・リー監督ならでは。わずか15分の短編とは思えないほど、いろいろな社会問題が詰め込まれている。ロージー・ペレスが、病気と薬でやつれた母親役を熱演しているのも見もの。
☆「ビルーとジョアン」:舞台はブラジルの貧民街。廃品回収をしながら暮らす兄と妹の微笑ましい兄弟愛を描いている。
ゴミの中から、自分だけの小さな宝物を見つけ喜ぶ妹の姿が愛くるしい。1日中、重いリヤカーを引きながらゴミを集めても、稼げる額はごくわずか。そんな世の中でも腐らず生きてる兄妹のたくましさにはホント頭が下がります。
ブラジルならではの躍動感あふれる映像と陽気な音楽も Muito Otimo!
監督はブラジル映画界期待の女性カティア・ルンド。
ほかに、裕福だが孤独な少女と孤児の少女が一つの人形でつながる「ソンソンとシャオマオ」(J・ウー監督)、泥棒を働いた少年が犬に追いかけられナポリの町を逃げ回る「チロ」(S・ヴィネルッソ監督)など。2007.5

ライフ・イズ・ミラクル LIFE IS A MIRACLE ★★ 2005 My Best3 CINEMA
エミール・クストリッツァ監督、スラヴコ・スティマチ、ナターシャ・ソラック、ヴク・コスティッチ、ヴェスナ・トリヴァリッチ出演
☆セルビアとの国境付近で暮らす鉄道技師ルカは、息子の召集、戦争勃発、妻の駆け落ち…といった突然の不幸に見舞われる。ある日、一人で暮らすルカのもとに、ムスリム人の看護師サバーハが預けられる。サバーハは捕虜となった息子を取り戻す切り札だったが、二人は惹かれあってしまう。
 戦争という悲劇に見舞われながらも、絶望せず、自分に忠実に生きているルカが、たくましくて素敵に見えてきた。やっぱり、男は顔じゃないね。
 クストリッツア作品の中では、毒っ気の少ないラブストーリーだった。少々物足りなさも感じたが、後半はルカとサバーハの一途な恋にホロリとさせられた。
 線路の上で動かなくなった自殺願望の強いロバが、事あるごとに村人を助ける、というエピソードがケッサク。一見お馬鹿なロバが、村の守り神だったのねー。ロバ君がもっとも心温まるキャラでした。2005.7.16

ウンザ・ウンザ −スーパー8−
エミール・クストリッツア監督
☆クストリッツア監督が、参加しているバンドのツアー裏を追いかけたドキュメンタリー。こんなマニアな映画が、満員御礼っていうのがうれしい。スラブミュージックファンはけっこういるんですねー。私は、監督の映画が好きだから見に行ったんだけど、やっぱり基本は「馬鹿騒ぎ」だったね。ユーゴの人々は、辛い悲劇も飲んで騒いで踊って乗り切ってきたのだろう。日本人にはないたくましさを感じた。  というか、この映画は、肩の力を抜いて酒飲みながら見たほうが楽しい。ついでに踊れちゃえばもっといいだろうな。2002.11

黒猫・白猫 ★★★
エミール・クストリッツア監督☆ 期待通りでした。今回は政治色をなくして、ジプシーの人々の喜劇的生活を葬式&結婚式をからめてたっぷり笑わせてくれました。車を食うブタとか、お尻で釘を打つ歌手、1mしかない妹、等など、その発想にはいつもながら驚かされます。やっぱり、監督はオリジナリティがないとね。でもって、ジプシーのおじいちゃんたちがみんな汚いの。けど、おかしいの。歌と踊りとおバカな奴等。もう、これぞ映画の真骨頂です。で、今、アービングの本を読んでるので、この2人の芸術家の共通姓を感じたのです。けっこう、シリアスな話(死とか奇形とか)を愛をもって笑いに変えてくれるんです、2人とも。私はこういう、偽善者ぶってない芸術が大好き。今、前向きに生きることに疲れちゃって、そんな堕落してる自分に少なからず罪悪感も感じているので、ジプシーの人たちのたくましく、かついいかげんなイキザマは私の気持ちを癒してくれるのでした。ブラボー!な映画でした。1999.8.23 

アンダーグラウンド UNDERGROUND ★★★★ My Best1 CINEMA ★★★★
エミール・クストリッツァ監督,ミキ・マノイロヴィッチ,ミリャナ・ヤコヴィッチ,ラザル・リストフスキー,スラヴコ・スティマツ出演

☆1941年から始まった旧ユーゴスラヴィアの戦いと動乱の歴史を、マルコとクロという対照的な二人の男を通して描いた奇想天外な寓話。第2次大戦中、ユーゴ王国はナチス・ドイツに侵略され、クロを誘ってパルチザンに参加したマルコは、地下室に弟やクロの妻などをかくまう。マルコは地下の連中に「戦争は続いている」と50年以上偽り続け、下界で一人、私腹を肥やしていく。
 ストーリーの斬新さとめまぐるしい展開がユーゴの戦争の歴史を痛烈に皮肉っている。こずるいマルコと愚直なカリズマ、クロの信頼と裏切りの関係も興味深い。
初めて見たときは、濃いキャラと奇想天外なストーリー展開に振り回されっぱなしで、ただただ圧倒された。
この作品は、ビデオで見るとちょっと濃すぎる映画なので、ぜひスクリーンで見て欲しい。
出てくる人間どもは9割以上ふざけた奴ら。だから、見ていて耐えられなくなる人もいるだろう。
カンヌで賛否両論に分かれたのもうなづける。私はもちろん大絶賛派である。
パンフレットには「ガルシア・マルケスの世界と共通するものがある」と書いてあったけど、高尚な作品という見方も出来るし、単に馬鹿な連中をみて楽しむこともできる。昔の筒井康隆ワールド、ジョン・アービングの世界にも近い奇天烈ワールド。一度試しにご鑑賞あれ。(1995)
【ピクシーの映画評】 「誇り ドラガン・ストイコビッチの奇跡」より抜粋
愚鈍ななまでに祖国に忠実であろうとするクロが「俺はセルビア人でもクロアチア人でもない。俺は俺だ。上官は誰かだと?上官は祖国だ」と叫ぶシーンでは涙がとまらなかった。


(セカンド・レビュー)
☆舞台は、ナチスに侵略された1941年のユーゴ王国。盗人仲間のクロを誘ってパルチザンに参加したマルコは、爆撃から逃れるため、動物を愛する弟や、身重のクロの妻らを地下室に誘導する。
一方、女優ナタリアの奪い合いで、ナチの将校から目の敵にされていたクロは、逮捕され厳しい拷問を受ける。瀕死のクロは、マルコによって地下室に匿われるが、以後、マルコは、地下室の時計の針を遅らせ、“戦争は続いている”と偽って、20年もの間、彼らを地下室に閉じ込める。
クロの愛人ナタリアを寝取ったマルコは、チトーの参謀の座を得、一人私腹を肥やしていく。

ナチ支配から、チトーの独裁を経て、ボスニア紛争まで、バルカン半島の激動の歴史を、マルコとクロという二人の男を軸に、壮大なスケールで描いた、奇想天外な物語である。
圧倒的な表現力で、観客を歴史の渦に巻き込み、皮肉たっぷりの独特のユーモアで心ゆくまで楽しませてくれる。
15年前に見たときは、策士マルコのずる賢さに、怒りさえ覚えたのだが、今回は、彼のクロに対するコンプレックスも感じとることができ、マルコに同情を覚えたほど。
力あるものになびく悪女ナタリアも、首絞めてやりたいほど嫌な女ではあるのだが、最終的には、罪悪感から逃れられずに自滅していく姿が不憫に思えた。
見る側も時がたつと変化するもの。
そこで新たな発見ができる作品こそが、歴史に残る名作と言えるのかもしれない。

この物語の悪者は、弱いものを都合のいいように振り回す、国家権力そのもの。
テーマは反戦、反権力ではあるものの、そこはクストリッツアなので、バリバリ硬派な社会派作品ではもちろんない。
個性豊かな登場人物は、ハチャメチャだけど、憎めないし、いたるところに笑いが散りばめられているのだ。
たとえば、この映画の英雄クロのプロフィールをかいつまんで紹介すると…
豪放磊落で、風貌はフィデル・カストロ風?
身重の妻のほかに、女優の愛人あり。
元電気職人で、ときどき盗人。パルチザンに参加し共産党員になる。
ナチから電気ショックの拷問を受けるが、感電免疫があって?見事生還。
目をパッチリ開いたまま眠る習慣あり。
地下で育った息子とともに、20年ぶりに地上へ。
浦島状態のクロは、憎きナチの将校を見つけ、復讐を果たす(実はそっくりな俳優)。
姿を消した最愛の息子を探し、再び戦場へ…。

というように、キャラも遍歴も超こってりの濃ーい人物。
クロだけでなく、他の脇役すべてに愛きょうがあり、どこか抜けているんだけど、みんなが真剣そのものなので親しみがわく。

その他、爆撃を受け騒然となる動物たちの様子や、時代の目撃者となるチンパンジーの表情など、お見事!の演技指導(?)である。
さらに、軽快なバルカン音楽の使い方、笑いを誘う小ネタ等々、本筋とは違った細部にも、様々な仕掛けが施されているので、何度見ても楽しむことができるのだ。
スケールの大きさと、細部へのこだわり、両方を併せ持ったクロサワ映画に匹敵する大作『アンダーグラウンド』。ぜひスクリーンでご覧あれ!2011.9

アリゾナ・ドリーム ARIZONA DREAM
エミール・クストリッツァ監督 ジョニー・デップ,ジェリー・ルイス,フェイ・ダナウェイ, リリ・テイラー, ヴィンセント・ギャロ出演

☆アクセル(J・デップ)は、叔父(J・ルイス)の結婚式のためにアリゾナを訪れ、そこで、夫を射殺した過去を持つ未亡人(F・ダナウェイ)、その娘グリース(リリ・テイラー)、映画狂の青年(V・ギャロ)らと奇妙な共同生活を始める。
非常に後ろ向きで現実逃避した作品ではあるのだが、人間、前向きに生きるだけがすべてじゃないと思わせてくれる憂いがあった。キャラはみんなどこか変で社会に馴染めない人ばかり。
とくに娘のグリースには感情移入できた。 愛情に縁がなくカメしか愛せなかった女が、母親の恋人だったアクセルの愛を得る。しかし、幸せを目前に自ら悲劇的な結末を選ぶ。グリースは、愛を感じたまま夢の世界へ旅立ちたかったのではないか。幸せは長くは続かないことを知っていたから…。
 フェイ・ダナウェイ扮するエキセントリックな母、キャデラックをとおして古き良きアメリカにしがみ付く叔父、そしてそんな一風かわった人たちを愛する心やさしいアクセル。すべてが、悲しみを背負いながら、それでも不器用に生きているさまが美しかった。(1992)

ジプシーのとき TIME OF THE GYPSIES
エミール・クストリッツァ監督, ダボール・ドゥイモビッチ,ボラ・トドロビッチ出演

☆ただただ圧倒された。見る人によっては、癖が強すぎて耐えられないかもしれない。
クストリッツアの作品の中では、一番アクの強い作品である。
ジプシーの世界に常識は通用しない。みんな生きるためにはなんでもやる。そのくせ人々はみんな熱くて陽気で奇天烈。盗みあり、裏切りありのひどい世界なんだけど、そんな奴らに振り回さながらも陽気に生きてく人々の生きざまがすごい。
ヌクヌクぬるま湯につかって生きてる日本人と対極にあるのがジプシーかも、と思った。それだけ強烈なジプシーにあっぱれ!(1989)

パパは、出張中! WHEN FATHER WAS AWAY ON BUSINESS
エミール・クストリッツァ監督,モレノ・デバルトリ,ミキ・マノイロヴィッチ,ミリャナ・カラノビッチ出演

☆舞台はスターリン主義の色濃い50年代初頭ユーゴスラビア。社会では密告が見境なく行われ、人々は疑心暗鬼に陥っている。そして、少年マリックの父親もその犠牲となってしまう。
収容所に収監された父を、母は“出張中”と少年に告げごまかすのだが…。
不倫相手のささいな一言で逮捕された男とその家族の物語。夢遊病の子供の目から見た父と家族の姿が、そのままユーゴの政治社会を反映している。子供たちの親は聖人ではないけれど、逮捕されるほど悪くもない普通の人間。ラストの少年マリックの悲しげな笑みは、その後のユーゴ社会を愁いているような悲しげな微笑みだった。(1985)

 【旧ユーゴスラビアの近代史】
1942年〜 ナチス・ドイツがユーゴスラビアを占領・分割。
チトー*を中心としたパルチザンがナチに抵抗。(パルチザン戦争)
1946年〜 チトーを大統領に独立の社会主義国家「ユーゴスラビア」が誕生。 のちにスターリン率いるソ連への従属を拒み対立する。
他の東欧諸国と違い、独自の共産主義国家を目指して西欧諸国と密接な関係を持ち続ける。
1980年〜 チトーが88歳で死去。のちに経済不況がユーゴ内の南北格差を生み、民族対立が激化。不穏な情勢のなか、セルビアにミロシェヴィチが登場。セルビア人の民族感情に訴えることで支持を獲得する。
1991年〜

東ヨーロッパ諸国の共産政権崩壊に影響され、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナが次々と独立を宣言。これに対しミロシェビッチ率いるセルビア側が抵抗し、内戦勃発。さらにNATOが介入し、戦火が広がる。

2000年〜 ミロシェビッチ政権崩壊。
2003年2月 ユーゴスラビア連邦を改編して新国家連合セルビア・モンテネグロ共和国が発足。.4月にセルビア共和国のジンジッチ首相が暗殺されるなど、政情不安は続く。
2006年6月  セルビア・モンテネグロがセルビア共和国とモンテネグロ共和国にそれぞれ独立分離。モンテネグロの独立は約88年ぶり。
2008年2月  コソボが独立を宣言するがセルビアは認めず。

*チトー:人民解放軍「パルチザン」のリーダー。クロアチア農民出身。第一次大戦でオーストリア・ハンガリー軍の兵として東部戦線で捕虜となり、共産主義と出会う。本名はヨシップ・ブロズ。

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テリー・ギリアム Terry Gilliam 
1940/11/22 アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス 生まれ
テリー・ギリアムはいつも妥協しない。豪華セット、ストーリー、ギャグ、風刺…。随所にこだわりが感じられる。だから製作費がかさむ。プロデューサーともめる。そして、オクラ入りする。
「エイリアン」も「スパイダーマン」も「バットマン」も絶対に作らない。
ちょっと妥協すれば簡単だろうに、それをしない。そんな不器用さが私は好きだ。

主な作品:
テリー・ギリアムのドンキホーテ(2018)
ゼロの未来(2014) 
Dr.パルナサスの鏡 (2009) 正真正銘ヒース・レジャーの遺作
ローズ・イン・タイドランド(2006)、ブラザーズ・グリム(2005)、ロスト・イン・ラ・マンチャ (2001)  
ラスベガスをやっつけろ (1998) 、12モンキーズ (1995) 、フィッシャー・キング (1991)
バロン (1989) 、未来世紀ブラジル (1985) 、バンデットQ (1981)
モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン (1979) 、ジャバーウォッキー (1978)
モンティ・パイソン・アンド・ナウ (1975) 、モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル (1975)

主な受賞歴:
ヴェネチア国際映画祭 :1991年 銀獅子賞受賞 「フィッシャー・キング」
アカデミー賞 :1985年 脚本賞ノミネート「未来世紀ブラジル」
LA批評家協会賞 :1985年 監督賞、脚本賞受賞「未来世紀ブラジル」

【CINEMAレビュー】

テリー・ギリアムのドン・キホーテ THE MAN WHO KILLED DON QUIXOTE
監督:テリー・ギリアム/出演:アダム・ドライヴァー | ジョナサン・プライス/
CM監督トビーはスペインの田舎で学生時代に監督した映画「ドン・キホーテを殺した男」を目にする。撮影に行き詰っていたとビーは、かつてのロケ地まで出向き、ドン・キホーテを演じた靴職人の老人と再会する。自主映画でドン・キホーテを演じた老人が役のままに生き続け、その監督だった男と再会して、町中を混乱の渦に巻き込んでいくドタバタ感が、まさにテリー・ギリアム節で、オールドファンとしては笑いが止まらず。この映画が出来上がるまでの顛末も見聞きしていただけに邦題はテリーも含む「3人のドン・キホーテ」がよかったな。
 「未来世紀ブラジル」や「12モンキーズ」のような衝撃はなかったものの、年老いてなおイマジネーションに溢れ、風刺のきいた映画を作り続けているテリー・ギリアムには素直に拍手喝さいを送ります。2020.2

ゼロの未来 THE ZERO THEOREM
テリー・ギリアム監督、クリストフ・ヴァルツ、デヴィッド・シューリス、メラニー・ティエリー出演

☆近未来。初老の天才プログラマー、コーエンは、大事な電話を待ち続けるため、在宅勤務を直訴。家に教会に引きこもり、新たな任務である“ゼロの定理”の解明を始める。だが、ネット上風俗サイトで出会った風俗嬢に夢中になり…。
懐かしの名作「未来世紀ブラジル」と世界観が同じだったので期待したが、ギリアムらしいおバカな笑いの部分がほとんどなく、意外とシリアス。初老のエンジニアの悲哀や夢でしか出会えない幸せ等々、「ブラジル」の続編っぽくもあるんだけど、なぜか世界に入り込めなかった。面白い作品だとは思うんだけど…。もう一度見たら、違う感想が持てるかも? 2015.5

Dr.パルナサスの鏡 THE IMAGINARIUM OF DOCTOR PARNASSUS
テリー・ギリアム監督、ヒース・レジャー、クリストファー・プラマー、トム・ウェイツ、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレル、リリー・コール出演
☆永遠の命を悪魔から授かったパルナサス博士は、娘と共に、鏡の向こうに別世界がある、という見世物小屋を営んでいる。ある日、首をつるされていた訳あり男トニーの命を、娘が助けたことをきっかけに、トニーも一座に加わることに。
一方、パルナサスの前に現れた悪魔は、娘が16歳の誕生日に娘を差し出せ、と脅す。
というストーリーは一応あるのだが、そんなことより面白いのが、鏡の向こうのイマジネーションの世界。
酔っぱらいは、居酒屋を想像し、初老の婦人はイケメン男とのロマンスを想像する。個人個人の欲望が体験できる世界で、人々は高揚感を味わう。
そこへ、博士の娘や、トニーが入り込み、なんとも奇天烈なイマジネーションの世界が繰り広げられるのだ。
アニメーションと実写を融合させた映像テクニックは、テリー・ギリアムの真骨頂。
彼の映像ワールドは存分に楽しむことができた。
ヒース・レジャーが鏡に入ると、ジョニーになったり、コリンなったりするのも、何でもありの想像世界なので違和感ないし、演技もそれぞれに素晴らしかった。
でも、何か物足りなさが残ったのはなぜだろう。
個人的に、テリー・ギリアム映画の醍醐味は、彼にしか作れない独特の映像美と、シニカルな視点、そして子供でも楽しめるおバカな笑いがミックスされているところにある、と思っているのだが、この作品は「シニカルさ」と「おバカさ」がほとんど見られなかった。
イマジネーションの世界は、ドラッグでラリってる世界、もしくは死後の世界のようにも見える。
永遠の命をもらったはずのパルナサス博士の人生が苦悩に満ちていることは、人生の皮肉、ともとることができる。
それぞれのシーンごとに、様々な意図が込められているのかもしれない。
だた、それを、映画を見ている間に考えられず、あの独特の世界に没頭することができなかった。
あと2,3度見てみたら、1回見ただけでは気付かなかった面白さを発見できるかもしれないけど…。楽しめなかったのは、自分の想像力が鈍くなってしまったせいかも、なんてちょっぴり悲しくなりました。2010.1

ローズ・イン・タイドランド TIDELAND
テリー・ギリアム監督、ジョデル・フェルランド、ジェフ・ブリッジス、ジェニファー・ティリー、ジャネット・マクティア、ブレンダン・フレッチャー出演
☆ジャンキーの両親を世話する10歳のジェライザ=ローズは大の空想好き。毎日、首から上だけのバービー人形を指にはめ、おしゃべりを楽しんでいる。
 ある日、母親がオーバー・ドーズでショック死。ローズは父に連れられて、父親の実家へ向かう。雑草の生い茂った荒地に寂しげに建つ廃屋で、父と一緒に暮らし始めたローズだが、まもなく、父親も昇天してしまう。
 ミッチ・カリンの小説「タイドランド」を先に読んでいたせいか、ストーリーにはさほど面白みを感じなかったのだが、ローズを演じたジョデルちゃんの演技には驚かされっぱなしだった。
 汚れたバービー人形の頭でお人形さんごっこをするローズは、子供らしくて無邪気なんだけど、両親にヤクを注射するときの手さばきは、看護婦並みに手馴れていて、表情も大人びている。
 そのアンバランスなところも魅力的で、ローズの一挙手一投足に終始釘付けだった。
 テリー監督は、ロリコンだったの?!、と、疑うほど、ローラ一色の映画。
 見る前は、「ラスベガスをやっつけろ」のノリで、イマジネーションの生き物がいろいろ飛び出てくるのだろう、と予想していたのだが、ほぼすべて、ローズの演技と語りで表現されていた。あの演技があれば、細工は不要、と思ったのかもしれない。
 ただ、ローズは無茶苦茶かわいかったのだが、隣の魔女が出てくるあたりから、少々、飽きてしまった。知的障害(?)の青年とローズの交流はありがちなパターンだし、あまり見たくない絵柄でもあったので、ローズ一人で突っ走ってほしかった。
 それと、ギリアム監督ファンとしては、やっぱり監督独自のイマジネーションの世界も、もっと見たかった、というのが正直なところだ。
 さすがのギリアム監督も、オジサンですから、孫娘みたいなジョデルちゃんの色気&無邪気な演技にメロメロになってしまったのでしょうか。
 同じ美少女映画なら、「初恋の来た道」のチャンツィイーよりも、私は断然、毒のあるジョエルが好き(比べるのもどうかと思いますが^^;)。
 ジェライザ=ローズは、このまま普通の女の子にならずに、ずっとイマジネーションの中で生き続けて欲しい。「ローズの世界」パート2も、ぜひ作ってもらいたいなあ。

ブラザーズ・グリム THE BROTHERS GRIMM
テリー・ギリアム監督,マット・デイモン,ヒース・レジャー,モニカ・ベルッチ,ジョナサン・プライス出演
☆舞台は19世紀、フランスに占領されたドイツ。兄ウィルと弟ジェイコブのグリム兄弟は、魔物退治を偽装して賞金を手にする詐欺師である。イカサマがばれ将軍に捕まった二人は、ある村で起きている少女連続失踪事件の捜査を命じられる。
「赤頭巾ちゃん」や「眠れる森の美女」など、童話のエピソードをちりばめたファンタジック・ムービー。呪われた森の様子や魔女がすごくよくできていて楽しめた。こういう映画はやっぱり大画面で見るにかぎる。
ヒース・レジャーが、想像力はあるけど頼りない弟役を上手に演じてた。ただのハンサム男じゃなかったのね。要注目!
 ただねえ、ギリアム監督ファンとしては、正直モノ足りなかったんだよねえ。これじゃあディズニー映画じゃん。よくできた作品なんだけど子供向け。 もっと毒っ気のある作品を期待してたのは私だけではないはず。まあ、こういう映画も作れるんだよ、ってことでよしとするか。次(「タイドランド」?いつ出来るんだろ?)に期待!

ロスト・イン・ラ・マンチャ  LOST IN LA MANCHA
キース・フルトン監督、テリー・ギリアム、ジョニー・デップ、ジャン・ロシュフォール、ヴァネッサ・パラディ、ベルナール・ブーイ、ルネ・クライトマン、トニー・グリゾーニ、ニコラ・ペコリーニ出演&ジェフ・ブリッジス:ナレーション 
☆「ドン・キホーテ」の映画化を長年温めてきたテリー・ギリアムが、ついにクランクインまでこぎつけた。しかし、難問続出、不運が次々と襲い、お蔵入りしてしまう。
スタッフが集まり、セットが出来上がり、キャストが決まって子供のようにはしゃぐテリー・ギリアムがかわいかった。とても60歳には見えない。お蔵入りしても、きっとまたギリアム監督は「ドン・キホーテ」作ってくれるだろう。時間かかってもいいから監督が納得のいく作品をいちファンとして待ち続けたい。2003.6.14

ラスベガスをやっつけろ 
テリー・ギリアム監督、ジョニー・デップ、ベニチオ・デル・トロ出演
 ☆60年代の終焉を前にしたラスベガスで、ジャーナリストがただ暴走しまくる。もう、こんなん映画にしていいの?ってぐらい狂ってる。ラリってる人間の幻覚、狂った様を芸術性をまったく排して、あくまでえげつなく描いてるの。
奇想天外というテリー・ギリアム節は見当たらないけど、でも、アニメつかったり、特殊メイクつかったりはして映像はさすがおもしろかった。ホテルで暴れるシーンはジョニーの私生活を見ているようだったけど、ジョニーよりもベニチオの演技に脱帽。あんなに醜く太って、部屋で暴れまくるシーンは圧巻。
90年代をしめくくる映画としてはよかった。自分の孤独で目茶苦茶な90年代のラストに相応しかったと思います。1999.12.31

12モンキーズ TWELVE MONKEYS
テリー・ギリアム監督、ブルース・ウィリス、マデリーン・ストー、ブラッド・ピット、クリストファー・プラマー、デヴィッド・モース出演

☆クリス・マルケルの短編映画「ラ・ジュテ」を基に描いた異色の近未来SF。
1996年に発生した謎のウィルスにより、全人類の99%が死滅。そして2035年、地下に逃げた人間たちはその原因を探るため“12モンキーズ”という謎の言葉だけを頼りに、一人の囚人(B・ウィルス)を過去へと送り出す。
ギリアム監督らしい悪夢ワールドは健在。が、今回はハードにマジメに撮り過ぎてて、少々笑いが足りない感じ。評価の高かったブラピの演技がちっとも笑えないんだよねえ。
ありゃあ、ミス・キャストだと感じたのは私だけ?
“12モンキーズ”が実は動物園解放ゲリラ集団だったっていうオチが私好み。
この作品は1回目見たときより、2回目、3回目のほうがおもしろく感じた。それだけ奥が深いということだろう。細菌による世界滅亡っていうのが、炭素菌、SARS騒動でまんざらフィクションでないかも、と思わせるリアルさがあるし、未来を予測した映画だと感じた。(1995)

フィッシャー・キング THE FISHER KING
テリー・ギリアム監督、ロビン・ウィリアムズ、ジェフ・ブリッジス、マーセデス・ルール、アマンダ・プラマー、キャシー・ナジミー出演

☆過激なトークで人気のDJルーカス(J・ブリッジス)は、放送中の不用意な言動がもとで忌まわしい事件が起こったことをきっかけに奈落の底へ転落する。また、元大学教授ヘンリー(R・ウィリアムズ)は、3年前の悲劇的事件によって、過去を捨てホームレスとなっていた。共に深い痛手を負った二人の男がひょんなことから出会い、奇妙な友情で結ばれる。
男と男の友情がテーマなんだけど、ストーリーよりもキャラがケッサク。ギャグはモンティ・パイソンを判りやすくした万人共通の面白さがあるんだけど、随所にマニア向けの笑いもちりばめている。
小道具にも趣向を凝らしていて、ルーカスのビデオ屋に貼ってあるポスターは「未来世紀ブラジル」だったり、ヘンリーの住んでる基地は「ブラジル」を彷彿とさせるパイプ管だらけの部屋だったり、街にはいつも紙くずが舞っていて、悪夢に登場するのはおそろしい騎士だったり…。
心温まるハッピー・エンディングは、ギリアム・ファンとしては少々物足りなかったけど、まあ、こんなハッピー・エンドもたまにはいいでしょー。
ヘンリーの愛唱歌「I like New York in June. How About You?」を歌いたくなった。(1991)

バロン THE ADVENTURES OF BARON MUNCHAUSEN
テリー・ギリアム監督、ジョン・ネヴィル、サラ・ポーリー、エリック・アイドル、オリヴァー・リード、ジョナサン・プライス、スティング、ロビン・ウィリアムズ、 ユマ・サーマン出演

 『ほら男爵の冒険』をギリアム風にアレンジしたコミカル・ファンタジー。
ギリアム、E・アイドルといった“モンティ・パイソン”シリーズの面々が、シュールなギャグを連発しすぎて、かなり通向けの作品になってしまったのがちょっと残念。
月への冒険や、巨大な貝殻の中から出て来たユマ・サーマン扮する美しい姫との幻想的なロマンスなど見どころいっぱいだったのだが、あんまり印象に残ってない。(1989)

未来世紀ブラジル BRAZIL ★★★★ My Best2 CINEMA ★★★★
テリー・ギリアム監督、ジョナサン・プライス、キム・グライスト、ロバート・デ・ニーロ、イアン・ホルム、キャサリン・ヘルモンド、マイケル・パリン、ボブ・ホスキンズ出演

☆国民がコンピュータによって管理された近未来。お役人が叩き落としたハエが書類にはりつき、善良な靴職人バトルがテロリストのタトル(デ・ニーロ)と間違われて逮捕されてしまう。
バトルの部屋の下に住む謎の女ジル(K・グライスト)はダクトのために役所に掛け合うが、腐りきった役所はジルの申し入れを反故にする。
一方、親のコネで役人になったマザコン男サム(J・プライス)は、夢でみた女性とジルが瓜二つだったことから、一目ぼれしてしまう。
おろかな役人が牛耳る管理社会を痛切に皮肉りながらも、決して説教くさくないのがいい。
爆弾テロが起きた横でも平気で食事をする市民や、整形マニアの金持ちバアサン、おバカな配管工など、ふざけた人々を登場させてしっかり笑わせてくれる。
夢と現実が錯綜するストーリーは、1回見ただけではわかりにくい感はあるが、そこがギリアム監督の特徴といえるだろう。絶対に、大画面で2回上は見て欲しいオススメの1本である。(1985)

バンデットQ TIME BANDITS
テリー・ギリアム監督・製作、ジョージ・ハリソン、デニス・オブライエン製作総指揮、クレイグ・ワーノック、ラルフ・リチャードソン、イアン・ホルム、マイケル・パリン、ショーン・コネリー出演

☆孤独な少年が、部屋を訪れた6人の小人に導かれて旅に出かける。シャーウッドの森からタイタニック号まで舞台は目まぐるしく変わり、人物も王様から巨大な海坊主、悪魔、神様まで登場する。ファンタジー色が強い作品ではあるが、台詞の端々にモンティ・パイソン風なアイロニー・ギャグが見え隠れしている。(1981)

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スタンリー・キューブリック Stanley Kubrick 
1928/07/26 アメリカ・ニューヨーク市ブロンクス生まれ
1999/03/07 没
キューブリックは自分の作品で何が一番好きだったのだろう。
聞いてみたかったような聞かなくてよかったような…。
BOSSAのような“へたれ”ファンが発言するのもおこがましいのだが、毎度毎度、毛色の違う映画を完成度の高い一級品に仕上げてしまうキューブリックは、天才というよりは、超一流の職人だったといえるだろう。

主な作品:
アイズ ワイド シャット (1999)  監督/製作/脚本 サントラはこちら
フルメタル・ジャケット (1987)  監督/製作/脚本
シャイニング (1980)  監督/製作/脚本
バリー・リンドン (1975)  監督/製作/脚本
時計じかけのオレンジ (1971) 監督/製作/脚本
2001年宇宙の旅 (1968)  監督/製作/脚本
博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか (1964)
監督/脚本
ロリータ (1961)  監督
スパルタカス (1960)  監督
突撃 (1957)  監督/脚本
現金に体を張れ (1956)  監督/脚本
非情の罠 (1955)  監督/脚本/撮影/編集/録音

【CINEMAレビュー】
アイズ・ワイド・シャット ★★★★★ 1999 My Best1 CINEMA
S・キューブリック監督、T・クルーズ、N・キッドマン、S・ポラック主演
☆ いきなり魅せられた。怪しげな映像美。すごいよ。やっぱり天才だった。 うまく感想を述べられないほど映画に引き込まれた。これはビデオで見ちゃいけない映画だと思いました。 ストーリーは、単純。ある夫婦の性欲と悪夢。なんだけど、怪しさが並じゃない。悪女顔キッドマンの浮気を疑ううちに、つまんないハンサム、クルーズがほんの浮気心で仮装乱交パーティーに参加。それが悪夢となり……。「アフター・アワーズ」のエロチック版という感じ。けど、映像、音楽、雰囲気すべてにこだわりがあって、芸術ってこういうことをいうんだ、と実感した。
人々の動きも台詞もみんなものすごくゆったりしてる。そのテンポが心地よくて、自分が普段閉じ込めているエロスをくすぐられたよ。この気持ち、他人には言えない。そういう映画を作ってしまうキューブリックは偉大。遺作として残りうる傑作だと思いました。1999.9.22  

アイズ ワイド シャット EYES WIDE SHUT
15年ぶり2度目の鑑賞でしたが、やっぱりこの映画面白い。ニコールのスローなセリフ回しが、ミステリアスな妻の内面を浮き彫りにしていて、夫を乱交パーティーに導いたのはこの妻だったのでは?と疑いたくなりました。
いきなりニコールのバックのオールヌードから始まったのもショッキング。妄想に取りつかれ危ない世界へ足を踏み入れようとする夫の不甲斐なさと、一目ぼれした男との情事を妄想した話を夫に語る、妻のメス的エロスの対比が絶妙。何度みても発見があります。
ホテルのおねえキャラのフロント役が「グッド・ワイフ」のアラン・カミングだったのも面白い。チョイ役だったけど、しっかり6番手ぐらいに名前が挙がってたので、当時からブロードウェイでは有名だったのかも。貸衣装屋のオヤジ役もよく見る顔。テレビシリーズ常連のラデ・シェルベッジアだそうです。2015.6


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ペドロ・アルモドバル PEDRO ALMODOVAR

1951/9/25 スペイン・ラ・マンチャ生まれ
 アルモドバル作品には、いつもストーカーが登場する。
誰かを愛し、執拗に追いかけまわすストーカーは、現実に遭遇したらやっかいな存在かもしれない。
だが、アルモドバル作品の中の“ストーカー”は究極の愛のかたちとして描かれる。
はじめは気味悪く感じていた観客も、いつのまにか主人公たちのいちずさ、純粋さにはまっていく。
 アルモドバルは、異端の世界に観客を引き込むパワーとハートを持った稀有な監督といえるだろう。
 
主な作品:
パラレル・マザーズ(2022)、ペイン・アンド・グローリー(2019)、
ジュリエッタ(16)、アイム・ソー・エキサイテッド! (2013)
Mina (2012 ?) イタリアの国民的歌手の波乱の人生をマリサ・パレデスが演じる。
私が生きる、肌(2011)
抱擁のかけら(2009)、ボルベール (2006)
バッド・エデュケーション (2004)、トーク・トゥ・ハー (2002) ★オススメ★ 
オール・アバウト・マイ・マザー (1998)、 ライブ・フレッシュ(1997)、私の秘密の花(1995)
キカ(1993) 、ハイヒール(1991)、アタメ(1989)
神経衰弱ぎりぎりの女たち(1987) ★オススメ★
欲望の法則(1987) 、マタドール<闘牛士>・炎のレクイエム(1986)
バチ当たり修道院の最期(1983)、グロリアの憂鬱

主な受賞歴:
アカデミー賞 : 2002年 監督賞、脚本賞「トーク・トゥ・ハー」
カンヌ国際映画祭:1999年 パルムドール 「オール・アバウト・マイ・マザー」
ヴェネチア国際映画祭 :1988年 脚本賞 「神経衰弱ぎりぎりの女たち」

【CINEMAレビュー】

パラレル・マザーズ MADRES PARALELAS  ★★
監督:ペドロ・アルモドバル 出演:ペネロペ・クルス | ミレナ・スミット | イスラエル・エレハルデ/写真家のジャニスは考古学者のアルトゥロに、スペイン内戦で亡くなった親族の遺骨発掘について相談。やがて彼の子を妊娠したジャニスは、シングルマザーとなることを決意する。病院で17歳の妊婦アナと出会い二人は同じ日に出産。その後ジャニスは娘の肌の色をアルトゥロから指摘され、密かにDNA検査をする。
 部屋のアート感や色使い、出演者はアルモドバルならではなのだが、ストーリー展開が意外にシリアスで、最後はパトリシオ・グスマンの作品のようになり、へえ〜でした。アルモドバル監督も、内戦のことを描くようになったのですね。赤ちゃんの取り違え、二人のシングルマザーの関係、母と娘の確執など、女性の生き方に焦点を当てながら、社会問題にも切り込んだ意欲作。2022.11

ペイン・アンド・グローリー DOLOR Y GLORIA ★★
監督:ペドロ・アルモドバル、出演:アントニオ・バンデラス | アシエル・エチェアンディア | レオナルド・スバラーリャ
/世界的映画監督のサルバドールは肉体的な痛みに苦しめられスランプに陥っていた。ある日、昔の作品が再上映されることになり、仲違いしていた同作の主演俳優と再会する。
 アルモドバル自身を投影した映画監督役をバンデラスが演じて、バンデラスがモデルともとれる過去作品の主演俳優と再会する…。実生活とフィクションが複雑に絡み合っている感じがアルモドバル作品のファンとしては興味深い。サルバドールの部屋のお洒落な家具や絵画、サルバドールの衣装は監督の私物、と私生活もさらけ出しているので、監督の人生をのぞき見している気分になる。スバラーリャが演じたかつての恋人はアルゼンチン人だったのかな?、少年時代の性の目覚めとなった彼は実在するのか?などなど、つい勘繰りたくなってしまったが、そんなことよりも、映画が醸し出す熟成された完成度に恐れ入った。昔のようなスピード感や奇天烈さはないが、70歳になった今だからこそ描ける貫禄を感じた。もう一度、スクリーンで見たい逸品。2020.6

ジュリエッタ JULIETA
ペドロ・アルモドバル監督、エマ・スアレス、アドリアーナ・ウガルテ、ダニエル・グラオ、インマ・クエスタ、ダリオ・グランディネッティ出演
☆マドリードで暮らすフリエタは、街角で生き別れた娘の友人と再会。“あなたの娘を見かけた”と告げられ激しく動揺する。フリエタは、若いころ列車内で知り合った漁師と恋に落ち娘を出産。しかし海の事故で夫を亡くしたことで運命を狂わせていた…。
フリエタの熱情を真っ赤なセーターや車に投影させ、女の波乱の人生を紡いでいくアルモドバルらしい作品。ではあったのだが、過去作品のようなコミカルさやスピード感がなく少々退屈に感じてしまった。「オールアバウト・マイマザー」「トーク・トゥ・ハー」がピークだったよなあ。ある種の変態映画でありながら哀感がにじみ出ていたあの頃の作品に郷愁さえ覚えます。2016.11

アイム・ソー・エキサイテッド! LOS AMANTES PASAJEROS
ペドロ・アルモドバル監督、カルロス・アレセス、ハビエル・カマラ、ラウル・アレバロ、ロラ・ドゥエニャス、セシリア・ロス、ブランカ・スアレス出演
スペインからメキシコへ向かう飛行機で機体トラブルが発生した。このままでは大惨事になりかねない。機内がパニックに陥らないよう、客室乗務員らはあれこれと策を練るのだが…。
ペドロ・アルモドバル監督、アントニオ・デ・ラ・トレ、ハビエル・カマラ、カルロス・アレセス、ラウール・アレバロ、ホセ・マリア・ヤスピク、ロラ・ドゥエニャス、セシリア・ロス出演☆乗客も乗務員もすべて曲者。セシリア演じるミセス・クレーマーが凄味がきいていて面白かったです。乗務員がほぼみんなゲイっていうのが、リアル?なのでしょうか。終始下ネタで、後半は飽きてしまった。アルモドバルがかなり手を抜いて楽しく作った感ありあり。ま、たまにはいいですか。2014.2

私が生きる、肌 THE SKIN I LIVE IN  /LA PIEL QUE HABITO
ペドロ・アルモドバル監督、アントニオ・バンデラス、エレナ・アナヤ、マリサ・パレデス出演
☆形成外科医のロベルトは、妻ベラの大やけどや、娘の自殺など、次々と不幸な出来事に遭遇。一方で、新種の皮膚の開発に没頭し、ある人間を実験台にすることを思いつく。
なんとも奇想天外な物語で、終始圧倒されっぱなし。かなりシリアスで暴力的な話ではあるのだが、ところどころに、アルモドバルらしいコミカルさも見てとれた。
とくに、大馬鹿野郎で単細胞のタイガーのキャラは傑作。
きっかけは悲しみや恨みだったロベルトの実験が、次第にエスカレートしていき、自分の想像物に異常な執着を抱くようになる。彼の気持ちの変化は、理解出来たのだが、一方の想像物の本心はなかなか明かされない。彼女は脳みそまでもサイボーグにされてしまったの??そのあたりの謎解きも面白い。
2度3度みれば、また別の面白さも発見できそうな画期的な作品。『ボルベール』がわりと普通の作品で、ちょっとがっかりしていただけに、この摩訶不思議なアルモドバル・ワールドには、久々にドキドキさせられて楽しめた。公開されたらまた見に行きたい作品です!2011年ラテンビート映画祭にて 2011.9

抱擁のかけら LOS ABRAZOS ROTOS
ペドロ・アルモドバル監督、ペネロペ・クルス、ルイス・オマール、ブランカ・ポルティージョ、 ホセ・ルイス・ゴメス出演
☆映画監督のマテオは、数年前に視力を失い、エージェントの女性とその息子に助けられながら隠遁生活を送っていた。ある日、富豪エルネストの死亡記事を見て、マテオは過去を思い出す。
1994年。マテオは、若い女優志望の女性レナと出会い、二人は恋に落ちる。だが、レナの愛人であるエルネストは、息子を差し向け、レナを監視させる。
視力を失い、自堕落に生きるマテオが、封印していた辛い過去を掘り起こし、再生の一歩を踏み出すまでを描いている。スペインの明るい日差しとカラフルでポップな色遣いは、これぞアルモドバル作品!なのだが、全体のトーンはややおとなし目。
今作も前作の「ボルベール」も、ペネロペ・クルスを輝かせるための作品、という意図がはっきり見て取れ、それはそれで納得の出来ではある。
ただ、昔の奇天烈ワールドが好きだったファンとしては、少々、物足りなさも感じてしまう。さすが巨匠なだけありドラマ展開は巧みである。監督とレナの心の交流、嫉妬する富豪ジジイとオタク息子の歪んだ心、秘密を抱えたエージェントの女性の戸惑い等々、人物の心理描写も素晴らしい。よくできた作品であることには間違いない。ただし、こういったいわゆる優等生的な非の打ちどころのない作品を、ファンはアルモドバル監督に望んでいるのだろうか。
昔からのいちファンとしては、これならほかの監督でも撮れるじゃん、というのが率直な感想である。
監督自身が年を重ねるのと同時に、ファンも多くの映画を見、目が肥えてきているので、斬新さを要求するのは無理があるのかもしれない。それでもファンとしては、いつまでもアルモドバル監督には尖がっていて欲しいし、「美」だけでなく「毒々しさ」も期待してしまうのだ。ペネロペもいいけど、やっぱりアルモドバルといえばゲイ映画!次回こそ、期待したい。2010.2

ボルベール VOLVER
ペドロ・アルモドバル監督、ペネロペ・クルス、カルメン・マウラ、ロラ・ドゥエニャス出演
☆ライムンダと姉のソーレは、老いてボケ気味の叔母の家を訪れた際、人の気配を感じ、不思議な感覚を覚える。
家に戻ったライムンダは、失業中の夫を叱責。翌日、15歳の娘パウラが夫から乱暴されそうになった際、夫を刺し殺したことを知らされる。ライムンダは、夫の死体をレストランの冷凍庫に隠し、平静を装おう。
一方、姉ソーレは、叔母の葬儀からの帰りに、思わぬ珍客に驚かされる。
母の死の秘密、娘の出生の秘密、父と母、娘の関係などなど、女たちの背負わされた現実を彩り豊かに歌い上げる女性讃歌だ。
アルモドバル監督の描く女たちは、いつ見てもたくましい。男たちから受けた仕打ちにじっとこらえて耐えるのではなく、気持ちいいぐらいに、ズバッと反撃する。
(もちろん、現実には殺してはいけませんが^^;)
やむにやまれぬ殺人を、お涙ちょうだいのサスペンス・ドラマには仕立てずに、さっぱりと、そして、色彩鮮やかに描き出す。
でも、それは、決して軽い表現ではない。
彼女たちの情念はとても深くて、たっぷりの愛にあふれている。
母と娘、親子3代にわたる因果関係が明らかになるにつれて、サバサバと、すっとぼけていたように見えていた彼女たちに同情し、同志のような気分にさせられるから不思議である。
この映画、ライムンダ役のペネロペがずい分とクローズアップされていたが、個人的には幽霊(?)母と姉ソーレのすっとぼけコンビが一番気にいった。
今回は、アルモドバルらしいコミカルさと斬新さ、スピード感が、あまり感じられず。毎度、傑作を生むのは難しいのでしょうが、「神経衰弱ぎりぎりの女たち」、もしくは「オール・アバウト〜」と比べると期待外れ。ペネロペをフューチャーしすぎたせい? 2007.6

バッド・エデュケーション LA MALA EDUCACION
ペドロ・アルモドバル監督、ガエル・ガルシア・ベルナル、フェレ・マルティネス、ハヴィエル・カマラ出演
☆映画監督エンリケと幼少時代の初恋の人イグナシオを巡る人間ドラマ。禁断の愛と殺人事件を織り交ぜたサスペンスタッチの映画だった。
幼少期の二人の純粋な愛情が美しかっただけに、大人になってからのすさみ方や、神父の俗っぽさが、とても汚らわしくみえた。過去の傷を引きずり落ちぶれたイグナシオの犠牲の上に、エンリケの成功はあるのだろう。半自伝映画ということで、アルモドバル監督の過去への悔恨、罪の意識など、さまざまな思いが伝わってきた。
ただ、思い入れが強すぎたせいか、エピソードをてんこ盛りしすぎ。「トーク・トゥー・ハー」と比べたら雲泥の出来で、ちょっと期待はずれだった。ガエルが演じた若手俳優も底が浅そうなキャラだったし。でも、唯一エンリケを演じたフェレ・マルティネスには惹かれた。これから要注目!  余談だけど、ガエルが演じた俳優のモデルはっひょっとしてバンデラス!?一躍スターになったけど、今は落ち目っていうのが共通するんだけど^^;。いやらしい詮索しちゃいました。2005.7.9

トーク・トゥ・ハー  ★★★ 2003 My Best1 CINEMA
ペドロ・アルモドバル監督/脚本,ハヴィエル・カマラ,ダリオ・グランディネッティ,レオノール・ワトリング,ロサリオ・フローレス出演
☆恋とは無縁の孤独な男ベニグノが、部屋の窓から眺めるだけだった憧れのバレリーナの看護士となる。
植物状態のバレリーナに、ベニグノは異常ともいえる献身的な介護をする。
 同じ病院で偶然出会った旅行ライターと、友情を深めたベニグノだが、バレリーナへの愛が強くなり、ある事件を起こしてしまう。
 ストーリーを説明すると、変体男のストーカーもの、と思われるかもしれないが、そんな下世話な次元では語れない究極の愛と孤独の物語だった。
献身的に憧れのバレリーナを介護するベニグノの姿と、ときおり挿入される現代芸術(ドイツの舞踏家ピナ・バウシャとブラジルのミュージシャン、カエターノ・ヴェローゾ)。
一見、別物のように見えるのだが、ベニグノの孤独な心情を芸術が後押しして、見事にコラボレイトしている。
 ラストで、ベニグノの思いを知らずに蘇ったバレリーナの純粋な笑顔を見て、久々に涙がこみ上げてきた。
もういっぺん見たい。そう思わせる深い映画だった。2003.9.27 

オール・アバウト・マイ・マザー
ペドロ・アルモドバル監督
☆元娼婦の女が愛する息子を亡くし、息子の父親を捜しにバルセロナへ旅に出る。そこには、男女の友人、昔の夫との子を身ごもった修道女、レズの女優など、女の悲しい人生を背負った人間がいた。という、波瀾万丈の女たちの人生を、テンポよく描いた作品。相変わらず、ホモ、レズ、ゲイ、のオンパレードだけど、今回はかなり真面目な作品になっていて、見応えがあった。みんないろいろつらいことあるけど、たくましく生きてるんだ、と思ったら、元気がわいてきた。主役の女優は倍賞美津子みたいで格好よくて、修道女はすごーくキュート。スペインの女たちは格好いい、と思った。2000.5.4

ライブ・フレッシュ
ペドロ・アルモドバル監督、ルース・レンデル原作、出演☆娼婦から生まれた若者ビクトルが事件に巻き込まれ、犯人にされて6年も投獄されてしまう。自分を逮捕した刑事とその妻たちの人間模様を描いた、アルモドバルにしては、正攻法の映画だった。さすが、見応えあったよ。ビクトルに惚れてしまう中年女の気持ちがわかる。半身不随になった男はビクトルに対してただならぬ感情をもっているように描かれていて、やっぱりアルドモバル、ホモセクシャルな感情は、はずさないね。2001.3.4

私の秘密の花 LA FLOR DE MI SECRETO(1995年)
ペドロ・アルモドヴァル監督、マリサ・バレデス、ロッシ・デ・パルマ、イマノール・アリアス、ホアキン・コルテス出演
☆人気ロマンス作家のレオは、素性を隠して生活している。ある日、軍人の夫が帰ってきた。レオは激しく愛をぶつけるが夫に拒絶されてしまう。気難しい女流作家とそれを取り巻く人々の物語。真っ赤なトレンチコートの似合うマリサ・バレデスが超クール。心の離れた夫にすがる姿もまた美しい。お喋りなおばあちゃんや、口うるさい妹、元ダンサーのメイドなど、個性的な脇役もパンチがきいている。
アルモドバル作品の割には小粒ではあるが、情念、個性、そして歌とダンスがしっかり盛り込まれ、アルモドバルらしさを感じた映画だった。メイドの息子の若きダンサー役はホアキン・コルテス。豪華だわあ。2010.3

アタメ
ペドロ・アルモドバル監督/脚本,ヴィクトリア・アブリル,アントニオ・バンデラス,ロレス・レオン,フランシスコ・ラバル,フリエタ・セラーノ出演
☆ストーカー男と監禁された女の奇妙な愛情物語。バンデラスのギラギラした魅力が満載。

神経衰弱ぎりぎりの女たち
ペドロ・アルモドバル監督/脚本、カルメン・マウラ、フェルナンド・ギリェン、アントニオ・バンデラス、フリエタ・セラーノ、ロシー・デ・パルマ出演
☆恋に翻弄される女たちが、激しいバトルを繰り広げる。気持ちがよくなるぐらいやりたい放題で爽快な映画だった。

欲望の法則 La Ley del deseo
ペドロ・アルモドバル監督/脚本,ユウセビオ・ポンセラ,カルメン・マウラ,アントニオ・バンデラス出演
☆男たちの愛のトライアングルは女の私には新鮮だった。これがアルモドバルの原点とも言えるだろう。

グロリアの憂鬱  QUE HE HECHO YO PARA MERCER ESTO!!
ペドロ・アルモドバル監督、カルメン・マウラ、アンヘル・デ・アンドレス・ロペス、ミゲル・アルヘン、ファン・マルティネス、ヴェロニカ・フォルケ出演
☆主婦のグロリアは、ドイツからきたタクシー運転手の夫とその母、息子2人で集合住宅に住んでいる。一見、普通の家族なのだが、内情は複雑。長男は薬の売人、弟はロリコンオヤジの相手に興じる。隣の娼婦のもとには、変態男が次々にやって来るわ…。
 初期作品ということで、アルモドバル作品のわりには毒々しさはなかったが、娼婦が相手する変態オヤジのキャラには片鱗がみられた。一番まともにみえたグロリアが、究極の秘密を抱えて生きていくという、その後を予感させる終わり方がGOOD。2006.1.26

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マーティン・スコセッシ Martin Scorsese 

1942/11/17 ニューヨーク市クィーンズ生まれ
スコセッシが描き続けた退廃的で危険な香りの漂うニューヨークに憧れていた。
 ニューヨークが安全な観光都市になったのと時を同じくして、スコセッシの映画もハリウッド寄りになってしまった気がする。  それでも偉大な監督であることに変わりはない。ブルースのルーツをたどった映画をプロデュースするなど、音楽センスの良さも健在だ。

主な受賞歴:
アカデミー賞 : 2007年 監督賞、作品賞「ディパーテッド」
ヴェネチア国際映画祭 :1990年 監督賞 「グッド・フェローズ」
カンヌ国際映画祭: 1986年 監督賞 「アフター・アワーズ」
カンヌ国際映画祭:1976年 パルムドール「タクシー・ドライバー」

【スコセッシ映画トップ10】
No.1:タクシー・ドライバー(1976)
この映画を見たときの衝撃は忘れられない。
テーマ曲、デニーロの狂気、ニューヨークの42ストリート…。
やっぱりスコセッシ監督といえば、これしかない。
No.2:沈黙(2016)
日本人の隠れキリシタンに光を当ててくれたことに敬意を表します。
No.3: アフター・アワーズ(1985)
地味だけど超オススメ。チーチ&チョンも出てる。
No.3:ラスト・ワルツ(1978)
ライブ映画見て泣いたのは、後にも先にもこの作品だけ。ザ・バンドの解散コンサートだけにとどまらず、70年代ロックの終焉を感じさせる映画だった。
No.4:アリスの恋(1974)
女の自立を描いた秀作。
No.5:ミーン・ストリート(1973)
若き日のデニーロ&カイテルが拝める。
No.6:グッドフェローズ(1990)
明るい映画ではないんだけど、テンポがよくて楽しめた。
No.7:レイジング・ブル(1980)
じっとりとした暑苦しさがジワジワ伝わってくるモノクロ作品。
No.8:キング・オブ・コメディ(1983)
No.9:カジノ(1995)
No.10:ニューヨーク・ニューヨーク(1977)

ほか ウルフ・オブ・ウォールストリート(14)、ヒューゴの不思議な発明(2012)、 シャッター・アイランド(2010)、SHINE A LIGHT(2008)、ディパーテッド(2007)、 ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド
ボブ・ディラン:ノー・ディレクション・ホーム(2005) 
ソウル・オブ・マン」「ゴッドファーザー&サン」等製作(2002)
アビエイター(2005)、ギャング・オブ・ニューヨーク(2001) 、 救命士(1999)、 クンドゥン(1997)
エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事(1993) 、 ケープ・フィアー(1991)、 ニューヨーク・ストーリー(1989) 、最後の誘惑(1988) 、 ハスラー2(1986)、 明日に処刑を…(1972) 

【CINEMAレビュー】

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン KILLERS OF THE FLOWER MOON ★
監督:マーティン・スコセッシ 出演:レオナルド・ディカプリオ | ロバート・デ・ニーロ | リリー・グラッドストーン、ジェシー・プレモンス/地元の有力者ヘイルを頼ってオクラホマへと移り住んだアーネストは、強制移住させられた土地で石油が出たことで莫大な財産を手にしたオセージ族の女性モリーと結婚。間もなくモリーの姉妹が次々と謎の死を遂げる…。20年代のオクラホマがいかに差別的な地域だったかが、じわじわと伝わってきた。先住民族にとって不利な法律に関しては、映画だけだとわからないので、原作を読んでおいて正解。先住民に取り入っているふりをしながら、財産目当てに殺人を依頼しる大悪党役のデニーロが貫禄の存在感だった。音楽監督ロビー・ロバートソンの遺作となった作品だったので、とくに音楽に注力して見ていた。荒涼とした風景と不穏な社会を見事に音で表現していた。ロビー自身が先住民の血を引いているということもあり、感慨深いものあり。2023.11

アイリッシュマン THE IRISHMAN ★
監督:マーティン・スコセッシ 出演:ロバート・デニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ/
1950年代のフィラデルフィア。トラック運転手シーランはイタリア系マフィアのラッセルと知り合い、殺人を含む裏稼業を始める。まもなく全米トラック運転手組合長ジミー・ホッファと懇意になるが…。
 実話の映画化なのだが、キャストが小躍りしたくなる豪華さで見ているだけで興奮した。この長い尺で、こんな重鎮たちのがっぷり組み合った演技を見れるなんて幸せ。親友だったはずのホッファを守り切れず、自ら命を奪ったシーランの老後のほほえみの奥になんとも言い難い悲しみが隠れていて、ロバート・デニーロの演技に久々にうならされました。ありがとう!2019.12

沈黙 -サイレンス- SILENCE 
監督:マーティン・スコセッシ、撮影:ロドリゴ・プリエト、出演:アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライヴァー、浅野忠信、窪塚洋介、塚本晋也、イッセー尾形、リーアム・ニーソン
☆17世紀の日本。ポルトガル人宣教師フェレイラが、キリシタン弾圧の拷問に屈して棄教したとの知らせを聞いた弟子のロドリゴとガルペは、真相を確かめるべく日本へと向かう。マカオで出会った日本人キチジローの手引きで長崎の隠れキリシタンの村に潜入した二人は、日本人信者が様々な拷問により、命を落としていく悲劇を目の当たりにする。
江戸初期のキリスト教弾圧は歴史で学んだし、原作も読んではいたのだが、実際に映像となって様々な拷問が再現されると、見るに耐え難いものがある。とくに茂吉の拷問シーンは辛すぎてトラウマになりそうだった。
この映画は日本の小説が原作ではあるのだが、監督は熱心なカトリック信者の欧米人であり、長い間この企画を温めてきた巨匠。しっかりスコセッシの視点が反映されていて、とくに宣教師の心理描写が秀逸だ。
人を救うためのキリスト教布教が、人々を苦しめ死に追いやっている。信仰のために命を投げ出すのは正しい道なのか…。ロドリゴは日本人の拷問を見せられるたびに苦悶する。
一方、何度も踏絵を受け入れ命拾いしてきたキチジローは、裏切っては戻ってきて、ロドリゴに懺悔する。一見、ずる賢い男にも見えるのだが、キチジローは誰もが内に持っている人間の弱さそのものでもある。マリア像や十字架は、所詮人が作った偶像に過ぎない。唾を吐こうが踏みつけようが、心の中の信仰心は不変、とでも考えているのかもしれないが、それが真の信者と言えるのか…。それでは死んでいった多くの信者たちが浮かばれないのではないか。
 映画を見ている間ずっと、ロドリゴとキチジロー、そして死にゆく信者たち、誰の立場にも立てず、自分自身にも悶々としてしまい、終始息苦しかった。
 宗教弾圧は、300年以上たった今でも行われ、キリスト教とイスラムがいがみ合い、イスラムの自爆テロは激化するばかりだ。「命を投げ出すことが信仰」という考えには賛成出来かねるのだが、厳しく弾圧されたら熱心な信者の多くは自爆を選ぶだろう。
神は何を望むのか?神はなぜ答えをくれないのか?
宗教とは人を救うものではなく、苦しめるものなのか?
無宗教である自分には到底答えは出せない。それほど重いテーマである。
スコセッシ監督が長い間、映画化を熱望し、ついに完成したことは、長年監督の作品を追いかけてきた自分として、何よりもうれしい。
そして、日本人の隠れキリシタンにもしっかりと光を当ててくれたことに感謝の気持ちで一杯である。2017.2


ヒューゴの不思議な発明 HUGO
マーティン・スコセッシ監督、エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、ベン・キングズレー、ジュード・ロウ、クリストファー・リー、サシャ・バロン・コーエン出演
☆舞台は1930年代のパリ。駅の屋根裏で時計の整備をしながら暮らすヒューゴは、父が遺した機械人形を修理するため、小さなおもちゃ屋から部品を盗もうとして、店主ジョルジュに捕まってしまう。ジョルジュは、ヒューゴが持っていた機械人形の修理ノートを見て驚愕する。
子供向けファンタジーとは縁のなかったスコセッシ監督が、なぜ今頃3Dの冒険ファンタジー??
切れ味するどいバイオレンス映画の巨匠も老齢になると、丸くなってしまうの??
往年のスコセッシ映画ファンとしては、少々納得できなかったのだが、開けてびっくり!いい意味で期待を裏切られ、不覚にも涙…。
夢を見ることさえ忘れてしまった大人たちの心に、小さな灯りをともしてくれる、大人のためのノスタルジックな物語に仕上がっていた。
ジョルジュ・メリエス、といえば、映画史を少しでもかじったことのある人であれば、誰でも知っている名前だが、映画の世界で一世を風靡したメリエスが、晩年は、駅のおもちゃ屋になっていた(事実らしい)には驚いた。
メリエスの世界が3Dで復活したことに、この映画の歴史的価値を感じた。
スコセッシ監督の映画愛を感じられてうれしくなりました。

ヒューゴをしつこく追い回す義足の警備員を演じたサーシャに拍手!嫌味だけどコミカルな悪役を嬉々として演じていた。まさに適役。2011.3

シャッター アイランド SHUTTER ISLAND
マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ、マーク・ラファロ、ベン・キングズレー、ミシェル・ウィリアムズ出演
☆1954年、精神障害の凶悪犯を収容する島で、一人の女囚が姿を消した。連邦保安官のテディと相棒のチャックは、船で島へと渡る。
2人は職員らに聞き込みを開始するが、テディの本当の目的は、妻を焼き殺した放火犯レディスへの復讐だった。
現実と妄想の狭間で苦悩する一人の男を描いた心理ホラー。
スコセッシ監督とディカプリオのコンビには、多くを期待していなかったのだが、ほぼ予想通りの出来だった。期待してしまった「アビエイター」に比べたら、面白く見れたかな。
マーク・ラファロ、ミシェル、ベン・キングスレー、とせっかく脇に演技派そろえているのだから、もう少しゾクゾク鳥肌が立つような恐怖感を期待したかったのだが…。
これはディカプリオのための作品ということでしょう。
お気に入りのマーク・ラファロの演技も、まったく光っていなくて残念だった。
&「結末は決して言わないで」と謳っている割に、衝撃度は低い。
ロボトミー手術の実験台にされて頭が混乱していた、というエンディングのほうが、私的には好み。でも、そうなると「カッコーの巣の上で」や「未来世紀ブラジル」と比較して、また見劣りしてしまうし…。
スコセッシ監督には、ぜひ原点に戻って欲しいのですが…。晴れてディカプリオとお別れした後の作品に、少しだけ期待したい。
音楽のクレジットには、「バンド」のロビー・ロバートソンの名前が!その割に、音楽も印象に残りませんでした。2010.4

ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド GEORGE HARRISON: LIVING IN THE MATERIAL WORLD
マーティン・スコセッシ監督、ジョージ・ハリスン、アストリット・キルヒャー、ダーニ・ハリスン、エリック・クラプトン、エリック・アイドル出演
☆ジョージ・ハリスンの生涯に巨匠マーティン・スコセッシが迫った音楽ドキュメンタリー。
ビートルズ時代以外にも、インドとの関係、クラプトンとの友情、妻とクラプトンとの3角関係、そしてモンティ・パイソンとの交流など、盛りだくさんの内容で、まった長さを感じず。
特別ハリソンのファンではないけれど、職人、というイメージは間違っていなかった気がした。インド音楽&宗教への傾倒は一過性のものではなく、最後まで彼の拠り所だったのだろう。
インタビューの布陣が超ビップばかりで感激!まあ、スコセッシ監督ですしね〜。見応え十分、大満足の一本です。2013.2

シャイン・ア・ライト Shine a light
マーチン・スコセッシ監督
☆ローリング・ストーンズのライブの模様と若かりし頃のインタビュー映像を映したドキュメンタリー。とことん明るく元気なストーンズを、監督自身が楽しんでいて、見ているこちらも楽しくなりました。
スコセッシ監督が撮影の合間にとった息抜き映画っぽくもあるけれど、肩の力の抜き加減がいい感じ。もう少し若い頃のストーンズも見たかったのが、今でも現役ですし、楽しかったのでヨシとしましょう。2008.4

ディパーテッド THE DEPARTED
マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、ジャック・ニコルソン、マーク・ウォールバーグ、マーティン・シーン出演
☆ボストンの警察学校を卒業したサリバンは、ブルー・カラー出身という理由からマフィアの潜入捜査を命じられ、マフィアのボス、コステロに近づく。
一方、コステロから警察に送り込まれたマフィアのスパイ・コスティガンは、マフィア摘発のための特別捜査班に配属になる。
互いに、周りの目を盗みながら情報を流し合い、敵を欺くコスティガンとサリバン。緊張を解くことのできない二人は、同じ精神科の女医に引かれていく。
もし、「インファナル・アフェア」を見ずに「ディパーテッド」を見たら、「なかなか、おもしろい!アカデミー賞ノミネートも納得かな」と、思ったはず。
だから、多くのアメリカ人がこの映画を高評価するのも当然だ。
けど、「インファナル・アフェア」を3、4回見ているフリークから言わせれば、「かなり忠実にリメークはしてるけど、やっぱりオリジナルにはかなわない」。
スコセッシ監督を尊敬しているので、かなりヒイキ目で見ても、それでもやっぱり「トニーとアンディの方がよかった」と、思わずにいられなかった。
もちろん、犯罪映画としてはそつなく作られているとは思う。さすがはスコセッシ。でも、スコセッシが作ったからこそ、“スコセッシらしさ”やプラスαをつい望んでしまう。
たとえば「タクシー・ドライバー」のような怪しげな雰囲気を演出する、とか、
「グッドフェローズ」のような軽快感を出す、とか…。
せっかくスコセッシが監督したのだから、もっとアレンジしちゃってもよかったのではないでしょうか。
いっそ、オリジナルと比較できないぐらい別モノにしてくれたほうが、さっぱりした気分でこの映画に望めた気がする。
(以下、ネタバレあり)
オリジナルと比べると、ジャック・ニコルソンのキャラが極悪人でFBIの情報提供者になっていたり、レオとマットが同じ女を愛してしまうなど、細かな設定は違いが見られた。
でも、物語の重要な鍵を握るシーンはそのまま。
上司がビルから落とされるシーンも、二人が対峙する屋上のシーンも、ラストのエレベーターのシーンも同じ。なので、その都度つい比較して見てしまった。
レオの後ろにトニーを見て、マットの背後にアンディが、さらに、マーティン・シーンの後ろにはアンソニー・ウォンと、ついでに「ホワイト・ハウス」のバートレット大統領まで、チラついてしまったのだ。
そんな中、唯一のオリジナル・キャラは、マイキー演じるマーティン・シーンの側近と、衝撃のエンディング。エンディングだけは、さすがにアメリカ的というか、喪に服する間もないあっさり感が、いい意味でオリジナリティを感じた。
そして、マーティン・シーンの死後、突然消えたマイキーは、ラストに出てくるまでいったいどこで何をしていたのか?
(彼は「インファナル〜3」で黎明が演じたヨン刑事っていう説もあるが)
彼は果たして警官だったのか、それともマフィアのスパイだったのか?
そんなこんなが、いまだに気になってしょうがない。
勝手に予想しちゃいますが、この「ディパーテッド」は、オリジナルになるであろうパート2(主演はもちろんマイキー)を作るためのプロローグだったのでは?
「インファナル〜」からヒントを得たスコセッシは、別のキャラを使って、新しいノワール映画をすでに構想中なんじゃな〜い?
あくまでも希望的観測に過ぎませんが、今度こそ(3度目or4度目の正直?)スコセッシ流の斬新なマフィア映画を!
期待を込めて、パート2製作を強く望みます。2007.1

ラスト・ワルツ THE LAST WALTZ
マーティン・スコセッシ監督、ザ・バンド(ロビー・リバートソン(g)、リック・ダンゴ(b)、レヴォン・ヘルム(d)、リチャード・マニュエル(p)ガース・ハドソン(org))
☆「ラスト・ワルツ」は、1976年11月25日、サンフランシスコのウィンターランドで行われた「ザ・バンド」の解散コンサートの模様を追った音楽ドキュメンタリーである。
 実際は6時間に及んだという公演をM・スコセッシ監督自身が編集。メンバーのインタビューとコンサートの模様を絶妙に交え、音楽ドキュメンタリーにありがちな冗長さを排除し、ドラマのような高揚感を味わえるドキュメンタリーの傑作だ。
 60年代から70年代にかけて、音楽シーンを席巻したビッグ・アーチストが集結し、ハイ・クオリティなバック・バンド「ザ・バンド」を従え音楽をつないでいく。
ロニー・ホーキンス、ニール・ヤング、ニール・ダイアモンド、ジョニ・ミッチェル、ポール・バターフィールド、マディ・ウォーターズ、エリック・クラプトン、ヴァン・モリソン、ステープルズ、リンゴ・スター、ロン・ウッド…
そしてボブ・ディラン。
 彼らの姿を拝めるだけでも、貴重なお宝映像なんだけど、スコセッシ監督は、それを単なる音楽ドキュメンタリーにとどめていない。
 もっとも熱いあの時代を生きた、ミュージシャンとファンたちへ「祭りの終焉」を告げるメッセージが、熱ーーーくこめられているのだ。
「これで終わりだけど終わりじゃない。始まりでもあるのだ」
ロビー・ロバートソンの一言一言にずしりと重みがある。
 バンドやってる若者には、絶対見て欲しい1本だ。
以前見たときは、ロビー・ロバートソンに夢中だったので、彼しか目に入らなかったのだが、今回はレヴォン・ヘルムを追っかけて見てみた。
よーく見ると、Good Looking!
彼のがなるような歌い方にも、あらためてしびれました。
ロビー・ロバートソンは、ソルトレイク・オリンピックの開会式で歌ってる姿を見ましたが、ピアノのリチャード・マニュエルと、ベースのリック・ダンコはすでに他界しているんですよね。時の流れを感じ、ちょっと感傷的になりました。。。2006.4

ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム NO DIRECTION HOME: BOB DYLAN
マーティン・スコセッシ監督、ボブ・ディラン、ジョーン・バエズ、アレン・ギンズバーグ出演
☆傑作「ラスト・ワルツ」の監督であるスコセッシが、今度はボブ・ディランのドキュメンタリーを作った、と聞いて、矢も盾もたまらず、東京へ飛んでいった。
3時間半という長丁場のボブ・ディラン漬けに絶えられるだろうか、などと心配しながら。。。
はっきり言って、私はディランのファンじゃない。
「ライク・ア・ローリング・ストーン」「ミスター・タンブリンマン」「風に吹かれて」「天国への扉」の4曲ぐらいしか口ずさめない。
でも、音楽史に一石を投じたボブ・ディランは、やはり知る価値のあるミュージシャンだ。
 ミネソタの田舎モノが都会に出、恋人や時代の波に感化されて歌を作り始める。
 彼の詩はたちまち若者の心を捉え、ジョーン・バエズとともに、フォークの神様として祭りあげられていく。
 でも、彼の中には、カリスマであることに違和感があり、そして、時代の変化とともに、フォーク・ギターをロック・ギターに持ちかえることになる。
 ファンからは、「魂を売った」とブーイングを受け、ディランの歌を聞いたことのない記者から政治的な質問ばかりされ…。それでも彼は変わることを止めなかった。
 全共闘世代には怒られるかもしれないが、その頃に青春を送っていない私は、初期のディランより後期のロック・テイストのディランのほうが好みだ。
「バンドと一緒のディランなんて」と罵るファンの興奮を見て、一人のアーチストにそこまで入れあげる気持ちがまったく理解できなかった。
 そんなファンに対して、装うことなく、ディランはあくまで自分に正直に接していた。
その姿がとても印象的だった。
 彼の若い頃の映像を見て発見したのだが、あの人気は、ルックスの良さも多分に関係していた気がする。今の時代ならアイドルとしてチヤホヤされそうな美形である。
そんなかわいい青年が、反抗的な詩を書き、しゃがれた声で歌うというギャップも魅力の一つだったのだろう。
プロテスト・ソングに固執せず、今でも自分に正直に歌い続けるディラン。
彼の歌をあらためて、聴きなおしてみたいと思った。

ジョニー・キャッシュと一緒に歌う映像あり。
カントリー歌手なので、テンガロンハットが似合うヤンキー兄ちゃんかと思ったら、Jディーンなみのセクシー顔でびっくり。
(「ウォーク・ザ・ライン」のホアキン・フェニックスとはまったく似てませんが)2006.1.27

アビエイター  
マーチン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ブランシェット、アラン・アルダ、アレック・ボールドウィン出演
☆アカデミー賞に関する前言、撤回します。やっぱり映画見る前にいい加減に予想なんてするもんじゃありません。お恥ずかしい…。
 「つまらない」という話は聞いていたけど、たぶん通向けなんだろう、と予想していた。けど、予想以上に一部の人向け(当時を知っている業界人向け?)。正直、見ていて苦痛だった。
 ハワードの生い立ちや映画製作の話を省いてハワードの飛行機にかける姿を中心に描いたのは納得できる。でも、飛行機作りの話やライバル社とのせめぎ合い等が冗長すぎ。「グッドフェローズ」のようなスピード感を出して、せめて2時間ぐらいに収めてくれたらよかったのにー。スコセッシ監督の作品とはとても思えない。もう、がっかり…。
 ただ、キャサリン・ヘップバーンとの恋愛話と、狂ってからのハワードと公聴会のシーンはさすがに見ごたえがあった。
 もう1度、見ればこの映画のよさがわかるのかもしれないけど、今は、はやく忘れたい1本です。2005.3.26

ギャング・オブ・ニューヨーク ★★
マーチン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ、ダニエル・デイ・ルイス、キャメロン・ディアス、リーアム・ニーソン出演☆舞台は1800年代のニューヨーク。歴史的には南北戦争とリンカーンの時代。
ニューヨークでは、貧しいアイルランド人が大勢、移民してきていた。
アイリッシュのデッド・ラビッツ対ネイティブズの諍いによって、アイリッシュの牧師(ニーソン)が命を落とす。
その息子(ディカプリオ)が成長してNYに戻ってくると、そこは父を殺したブッチャー(デイ・ルイス)が牛耳る町と化していた。
父の仲間だった男たちは、みなブッチャーの手下に成り下がり、その息子も次第にブッチャーに傾倒していく。
男対男の対立の構図は、日本のヤクザ映画のよう。
衣装、セットともに豪華で、力の入った作品であることは伝わってきた。
だが、スコセッシ監督の今までの映画とは違い、個人よりも集団にスポットを当てた作品のため、スコセッシ・ファンとしては、ちょっと物足りなさも感じた。
なんか、マイケル・マン監督の作品みたいで、あんまり個性が感じられなかった。
もちろん、いい作品ではあるし、見応えはあるんだけど。
それから、途中から、無理やりエンディングを作り直したっていうのが伝わってきたのも残念。
まあ、テロとかあってしかたなかったのだとは思うが、血で血を洗う復讐劇から、突然、選挙運動はじめたと思ったら、その候補者が殺されて、今度は、国の軍隊まで介入してきて…という流れが??でついていけなかった。
もっと、この辺の流れをじっくり描いてくれれば、また、話は違ったんだろうけどなあ。
ディレクターズカット版が出てくることをぜひ期待したい。2003.1.31

救命士
マーティン・スコセッシ監督、ニコラス・ケイジ、パトリシア・アークエット出演
☆タクシードライバーのコンビが、90年代NYを舞台にしたほんと「タクシードライバー」焼き直し作品。時代が違うので、曲も映像もポップさをプラスしてあるんだけど、それが、あんまりピンとこなかったな。ただ、亡霊と仕事に悩まされる主役の顔がよかった。パトリスはもうちょっとミステリアスな役にすればよかったのに。と、期待してただけに、いろいろ注文つけたくなります。眠かったので寝てしまったけど、もう1度、見直してみたい作品。2000.4.8 

クンドゥン
マーティ・スコセッシ監督、テンジン・トゥタブ・ツァロン出演
☆ダライ・ラマの半生を真摯に描いている。ちょっとラスト・エンペラーとダブった。アジア人が英語しゃべってるのってやっぱり違和感ある。しぐさとかもアメリカンっぽいとこあるし。でも、仕方ないでしょう。これはアメリカ映画なんだから。でも、さすがスコセッシ。白人は一人も出さないし、チベットの自然をベースに真摯に描いていた。でも、西洋人のチベット好きは、なぜだろ?神秘の国、東洋はすでにチベットにしか存在しないということなのだろうか。昔は日本だったのにね。2000.6.26

アフター・アワーズ (1985年 アメリカ 97分) 
 ☆ニューヨークに住むポールは、行きずりの女性の部屋を訪ねる途中、暴走タクシーに乗り合わせ、持ち金を風で吹き飛ばす。やっと部屋にたどり着くと、今度は彼女の奇妙な言動に振り回され、さらには自殺騒動にまで巻き込まれてしまう。
 冴えない男が、次々と不運に見舞われ、真夜中のニューヨークを縦横無尽に奔走する。なかなか我が家にたどり着けず、ヘトヘトになる男の姿は滑稽ではあるが、単純に笑い飛ばせない苦さがある。
 絶妙のタイミングで降りかかる災難、次から次へと現れる変人たち。悪夢にうなされているかのような不可思議な世界は、大都会で暮らす人々の孤絶感を投影しているかのようで興味深いものがある。

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ヴェルナー・ヘルツォーク Werner Herzog
1942/09/05 ミュンヘン生まれ
奇才、と呼ばれるのにもっともふさわしい監督である。
キンスキーと組んでいた頃の初期作品では、妥協を許さないこだわりが、物議を醸し、時には観客をも突き放す。 ドキュメンタリーを中心にした後期作品では、1点に集中した作風でぶれることがない。
一方で、とくに面白味もない映画に役者として出演したり、ハリウッド俳優が主演のエンタメ作品を撮ったり…。 とにかくよくわからない、つかめない監督なのである。
ヘルツォークの作品のファンであるとは、お世辞にも公言できないのだが、彼が新作を撮った、と聞くと、気になって見逃せない。ファンではないけど、中毒患者になっている。

主な作品:
Salt and Fire マイケル・シャノン、ヴェロニカ・フェレス、ガエル・ガルシア・ベルナル出演 ボリビアのウユニ塩湖で撮影中!
アラビアの女王(2017)、世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶(2010) 、 狂気の行方(2009)、
バッド・ルーテナント(2009)、 戦場からの脱出(2006)、グリズリーマン (2005)、
The Wild Blue Yonder(2005)、神に選ばれし無敵の男(2001)
キンスキー、我が最愛の敵(1999)、問いかける焦土 (1992)、彼方へ (1991)、コブラ・ヴェルデ (1988)
緑のアリが夢見るところ (1984)、フィツカラルド(1982)、 ノスフェラトゥ(1978)、ヴォイツェク (1978)
シュトロツェクの不思議な旅 (1977)、ガラスの心 (1976)、ラ・スフリュール、起こらざる天災の記録 (1976)
跳躍の孤独と恍惚 (1974)、カスパー・ハウザーの謎(1974)、 アギーレ/神の怒り (1972)、闇と沈黙の国 (1971) 小人の饗宴(1970)、蜃気楼 (1968)、生の証明 (1967)

アラビアの女王 QUEEN OF THE DESERT
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク、ニコール・キッドマン、ジェームズ・フランコ、ダミアン・ルイス、ロバート・パティンソン出演
☆19世紀後半の英国。名家に生まれたガートルード・ベルは、社交界に嫌気が差しテヘラン駐在公使である叔父の元で暮らし始める。アラビアの砂漠に魅了されたベルは、書記官ヘンリーと恋に落ちる。
砂漠の中の美女、という映像見たさに見に行ったので、美しく凛としたニコールと砂漠が見れただけで満足。ヘンリーとのロマンスは女心をくすぐられたが、この映画の本分はあくまで後半。美貌でアラブの首長たちを虜にしながらも、決してこびない姿勢が気高く美しかったです。イラクとヨルダンはファイサル兄弟が作ったことも知らないので、勉強になりました。ヘルツオーク色はあまり感じられなかったが、砂漠の映像に、センスを感じました。2017.2


世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶 Cave of Forgotten Dreams
ヴェルナー・ヘルツォーク監督
☆1994年にフランスのショーヴェ洞窟で発見された3万2千年前の壁画の撮影許可を得た監督は、美しい洞窟に描かれた石器時代の壁画の謎に迫っていく。
ヘルツォークが3D映画?ときいて、最初はピンとこなかったのだが、鍾乳洞の様子や、うねった壁に描かれた躍動感あふれる壁画の立体感は3Dならではのリアルさで、十二分に楽しめた。物語性はない純粋なドキュメンタリーなのだが、壁画を描いた3万年前の人間たちの様子やバッファーローであふれた草原など、自由気ままに想像を巡らせるのも面白い。過去のヘルツォーク作品のような奇抜さはないが、壁画に対するこだわりは伝わってきた。(監督は、ほぼ、無償でこの映画に臨んだということ)。
最後に出てくる気味の悪いワニだけ、ヘルツォークらしかったが、ほかは極々シンプルな上質の自然ドキュメンタリーでした。2011.10 東京国際映画祭にて

狂気の行方 MY SON, MY SON, WHAT HAVE YE DONE (2009)
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、デヴィッド・リンチ製作総指揮、マイケル・シャノン、ウィレム・デフォー、クロエ・セヴィニー出演
☆サンディエゴの住宅地で、殺人事件が発生。殺された女の息子で容疑者のブラッドは、人質をとって家に立てこもる。
まもなく彼の婚約者や、芝居仲間が駆けつけ、彼のそれまでの行動が徐々に明らかになる…。
ドイツの鬼才ヘルツォークと、米国の鬼才リンチがタッグを組んだ作品が、人知れずDVDになっていたとは、なんてもお寒い日本の映画界…。
でも、この不可思議な世界観は、公開しても今の日本では受け入れてもらえないだろうなあ…。
心を病んだ末に母を惨殺した青年が、人質をとってたてこもる、という、いたってシンプルな物語なのだが、それをヘルツォークとリンチが料理すると、謎だらけの不気味な映画になってしまうから、あら不思議〜。
病んだ男の心の闇が、延々と描かれるので、見ているこちらまで、ちょっとノーマルではいられなくなった。
リンチ&ヘルツォークの初期作品ほど強烈ではないので、正直、退屈でもあるのだが、しっかりと鬼才の個性はにじみ出ている。
ブラッドのイメージの産物と思われる小人やダチョウが訳もなく走ったり、庭にピンクフラミンゴがいたり…。
どこまでが実話なのかは、はっきりしないが、最後のオチはズッコケます。
鬼才たちには、興業成績なんて関係のない世界で、好きなように映画を撮っていただきましょう。たとえ酷評されようが、私はついて参ります。2012.2

神に選ばれし無敵の男 INVINCIBLE UNBESIEGBAR
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、ティム・ロス、ヨウコ・アホラ、アンナ・ゴウラリ出演
☆ドイツの鬼才ヘルツォーク監督の作品をはじめて鑑賞。真実の物語ってことだけど、もし、あの怪力男の話を誰かが信じていたら、ホロコーストは起こらなかったのかも…などとしみじみ考えてしまった。主演の怪力男とピアニスト役の女性は演技未経験らしいけど、見事に演じていた。2004.11.5 

キンスキー、我が最愛の敵 MEIN LIEBSTER FEIND - KLAUS KINSKI
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、クラウス・キンスキー、クラウディア・カルディナーレ出演
☆怪優クラウス・キンスキーの人となりを、盟友ヘルツォーク監督が追っていくドキュメンタリー。撮影時、制御不能に陥ったキンスキーの生の姿が見れただけでも大満足。常識的な人間からかけ離れた世界を描き続けるヘルツォーク監督自身も、一般的ではないのだろうが、少なくとも、この映画の中の監督はまともに見えた。それだけキンスキーの個性が際立っているというこでしょう。
「フィツカラルド」の撮影時、先住民族の頭首が、荒れ狂うキンスキーをみて、監督に「殺してやろうか」と持ちかけた、というエピソードにはまいりました。
お近づきにはなりたくないけど、無視できない怪優。今はそういう人がいなくなってしまい寂しい感もある。2007.5

バッド・ルーテナント THE BAD LIEUTENANT: PORT OF CALL NEW ORLEANS
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、ニコラス・ケイジ、エヴァ・メンデス、ヴァル・キルマー出演
☆舞台はハリケーン直撃後のニューオーリンズ。水につかった刑務所で逃げ遅れた囚人に、汚い言葉を浴びせる二人の刑事テレンスとフランキーは、見るからに悪徳刑事である。だが、テレンスは突然、スーツを脱ぎ捨て、囚人を助け出す。
このことがきっかけで警部補(ルーテナント)に昇格するが、テレンスは改心したわけではない。セネガルからの不法移民家族惨殺事件の捜査の最中も、ドラッグをギャングからせしめ、愛人と一緒にラリっている始末。まもなく事件の主犯と見られる男に行きつくが、テレンスは、ドラッグ欲しさに主犯の男に協力し始める。
「テレンスは善人か、それとも悪人か?」そう問われたら明らかに彼は悪人だ、と答えたい。悪党を上回る罪悪感の欠如、世の中を小バカにした振る舞い等々、かなりたちが悪い。刑務所に数年ぶち込まれたぐらいでは公正させるのは無理なほど根が深い。でも、その悪っぷりが逆に大きな魅力でもある。
映画は、いきなり洪水の泥水の中をヘビが泳ぐシーンで始まる。
これがいったい何を意味するのか分からなかったが、見終わってしばらくたってから「あの蛇はテレンスの分身だったのだ」と思い返す。
そんな蛇のような男テレンスを演じたニコラス・ケイジは、ものの見事にぴったりとはまっていた。
もともと爬虫類系の顔してるし、「ワイルド・アット・ハート」では蛇柄のジャケット着ていたし、「リービング・ラスベガス」ではアル中を熱演していたし…。これは適役だな、と、見る前から想像はしていたが、期待通り、さすが!の演技で大満足である。 幻覚で登場するイグアナやワニ。その爬虫類の肌感がリアルに画面から伝わってきて鳥肌が立った。
正直、ヘルツォーク作品の割にはノーマルな作品で、衝撃度には欠けたが、ニコラス久々の怪演と、ジメジメとしたニューオリンズの雰囲気&幻覚ワールドを楽しめたのでマル。ニコラスにはこれをきっかけに演技派に戻ってほしいけど…。借金地獄に陥ってるらしいから、作品選んでる場合じゃありませんね^^;2010.2

ワイルド・ブルー・ヨンダー The Wild Blue Yonder
ヴェルナー・ヘルツォーク監督
☆アンドロメダからやってきたというエイリアンは、ゴーストタウンと化した地球の街角で、人間の宇宙への挑戦と挫折について語り始める。
 期待と不安が入り混じった複雑な気持ちで見始めたが、不安が的中。見事にさっぱりわけわからん映画だった。私の乏しい想像力では、理解するのが無理なので、宇宙の映像と音楽だけを楽しむことにした。ヘルツォーク・ワールド全開、といったところか。あの独特な音楽センスには毎度のことだが脱帽。「サクリファイス」「2001年宇宙の旅」がお好きな人にはオススメかも。2006.7

戦場からの脱出 RESCUE DAWN
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、クリスチャン・ベイル、スティーブ・ザーン、ジェレミー・デイビス出演
☆舞台は1965 年のベトナム。アメリカ空軍に所属するドイツ移民のデングラーが乗った爆撃機が墜落した。デングラーは、一人、ベトコンの影に怯えながら、ジャングルの中をさまよう。途中、アメリカ軍のヘリにSOSを送るが、ヘリは無情に去ってしまう。
ジャングルを熟知しているベトコンから逃げ切れるはずもなく、デングラーまもなく捕えられる。
激しい拷問に耐え、山奥の捕虜収容所に入れられたデングラーは、2年以上捕虜生活を送る仲間たちをけしかけ、逃亡計画を錬る。
なぜ今頃ベトナムもの? と不思議に思ったが、1997年にヘルツォークが作ったドキュメンタリー映画「Little Dieter Needs To Fly」が元になっているらしい。
ということは10年分の思いがこめられている入魂の作品ということになる。
ベトナム、捕虜、拷問、サバイバル等々、とっくの昔に流行ったテーマだし、正直、見飽きた感もある。はじめはテレンス・マリックの「シン・レッド・ライン」みたいと思ったが、映画が進むにつれて、随所にヘルツォークらしさを見てとることができた。
舞台はベトナムになっているが、TVドラマ「LOST」のように、孤島に置き換えることもできる。
ベトナム戦争なので、もちろん相手はベトコンだが、そこに感情はない。
捕虜を取って拷問したり、見張ったりするロボットのような存在である。
一緒に投獄される捕虜仲間も、それぞれ個性はあるが背景はわからないし、デングラー自身についてもほとんど素性は明かされない。
よくある戦争もののように、家族や恋人を思って涙したり、手紙を書いたりはしないのだ。
2枚目でお坊ちゃん風のデングラーが、ジャングルをさまよい、過酷な捕虜生活を送るうちに、どんどん狂気染みてくる。それもジワジワと…。
ウジ虫食べたり、ヒルが体中に張り付いたり、気持ち悪いシーンの連続だが、映像がすべてリアル。
とくに、優しい顔して生きた蛇にかみつくシーンは圧巻。人間、いざとなったら何でも食うのだ。
(ホントに噛みついているとしか思えなかった。ヘルツォークならやらせそうですが。なんたって、大船をアンデス山越えさせた監督ですから)
個人的には、捕虜仲間の一人、気の弱い詩人風の男(スティーブ・ザーン)のキャラが好きで注目していたのだが、デングラーは、彼を補助しながら、あくまでも生き延びる道を選ぶ。サバイバルに情けは無用、ということだ。
動物的とは対極にある優男クリスチャン・ベイルのワイルドなお姿、想像つかないかもしれないが、かなりいい感じだった。ハンサムだがどこか危ない感じがするし、「地獄の黙示録」のマイケル・シーンにも匹敵する当たり役だ。
ただし、冒頭とラストの15分は、なんじゃこれ? です。
「愛と青春の旅立ち」のパクリ?と、笑ってしまったが、何分ヘルツォークですから、よくある戦争映画への皮肉が入っていると考えれば、それもまたヨシ。
少々、肩透かしの感もあったが、もう1度見たら新たな発見ができそう。まだまだ奥が深そうな映画です。
日本ではドイツ映画祭あたりでかかればいいのだけど…。DVDだと面白さ半減なので、映画館で観ることをおススメします。2007.12 SPにて 

フィツカラルド Fitzcarraldo(セカンド・レビュー)
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、クラウス・キンスキー クラウディア・カルディナーレ出演

物語は、極々シンプル。
ヨーロッパからやってきた夢想家のフィツカラルドは、アマゾン流域の大都市マナウスにあるオペラ劇場と同じような劇場を、奥地の町に建てる、という夢を抱く。さらに、資金を作るため、アマゾン川の支流からゴムを切り出して船で運ぶことを思いついたフィツカラルドは、仲間を募り、アマゾンの奥地へと向かう。
大河アマゾンのゆったりとした流れと、川を上っていく古びた蒸気船。そして、その船から流れるオペラに導かれて突如姿を現わした先住民族。
この3つの要素がドキュメンタリーのように映し出され、フィツカラルドのもう一つの無謀な計画、船の山越えにつながっていく。
オペラ歌手カルーソーの美声と、アマゾン川を遡る船…。この映像をスクリーンで拝めただけで、もう大満足。
アマゾン川と同調した、ゆっくりとした時間の流れのなんと贅沢なことか!
先住民族が“神”の声と思い込むのも納得の、映画史に残る名シーンである。
(『地獄の黙示録』では、メコン川を上っていく船にロックンロールが流れていたよなあ。こちらもまた名シーン!)
そしてそして、クライマックスの船の山越え。今なら特撮でいくらでも何とかしてしまうのだろうけど、ホントに人力だけで山越えさせてしまった、というから驚きである。(ちなみに、先住民族も本物。この映画出演をきっかけに現代社会に毒されてしまった、という皮肉なドキュメンタリーもありました)
当時のヘルツォーク監督は、まさに劇中のフィツカラルドそのものだったのだろう。
ヘルツォークの映画作りに対する異常なまでの拘りが、画面からヒシヒシと伝わってくる鳥肌がたつほどの入魂作です!2011.10 ヘルツォーク特集にて 

フィツカラルド FITZCARRALDO (ファースト・レビュー)
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、クラウス・キンスキー、クラウディア・カルディナーレ出演
☆アマゾン川の奥地にオペラハウスを建てたいという夢をもつフィツカラルドが、先住民の支配するアマゾン上流へ挑む。
 巨大なアマゾン川と蒸気船。流れる音楽はオペラ。それだけの映像なのだが見入ってしまった。
圧巻は船を山越えさせるシーン。フィツカラルドの熱い思いと先住民の知恵とパワーがひとつになって、ありえないことをやってのけてしまう奇跡に感動した。
 フィツカラルドは監督そのものなんだろう。撮影は過酷ですさまじかったんだろうなあ。あらためて、ヘルツォーク監督は只者じゃない、と感心させられた。
 「地獄の黙示録」と比較しても甲乙つけがたい傑作だ。大スクリーンでもう一回見てみたい。2005.5.29 

ノスフェラトゥ NOSFERATU: PHANTOM DER NACHT
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、イザベル・アジャーニ、クラウス・キンスキー、ブルーノ・ガンツ出演
☆ドラキュラ映画の傑作、と言われていたので見てみた。そこらへんの化け物映画とは違って、悲しみを秘めたドラキュラの姿が痛々しかった。白塗りのキンスキーより、アジャーニの人形顔のほうが恐ろしく感じたのは私だけ? ブルーノ・ガンツの髪がふさふさしていて、はじめ、誰だかわからなかった。

カスパー・ハウザーの謎 EVERY MAN FOR HIMSELF AND GOD AGAINST ALL
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、ブルーノ・S、ワルター・ラーデンガスト出演
☆19世紀初頭、地下室に閉じ込められて育った男、カスパー・ハウザーが、言葉を覚え、人とコミュニケーションがとれるようになりながらも、あっけない最期を遂げるまでを独特の切り口で描いた作品。
やっぱりヘルツォークは難しい。よくわからない。だけど、なぜか見たくなる。カスパーの正体は最後までわからなかったが、ひょっとして宇宙人?
ヘルツォークの映画に出てくる人って、いずれも超越している人ばかりだ。「ワイルド・ブルー・ヨンダー」も宇宙人の話だったし。実はヘルツォーク監督が宇宙人で、映画という媒体を使ってメッセージを送っているのかも。音楽の使い方はこの映画でも冴えてました。2006.12

小人の饗宴 AUCH ZWERGE HABEN KLEIN ANGEFANGEN
ヴェルナー・ヘルツォーク監督、ヘルムート・ドーリンク出演
☆小人の暮らす施設で、館長を縛り上げた小人たちがバカ騒ぎする様を描いている。
見ていて気持ちが荒んでくる映画ではあるのだが、なぜ小人たちがケダモノのようになってしまったのか、を考えさせられた。人間というのは、抑圧から解き放たれた直後というのは、常軌を逸した行動にでるものなのだろう。ヘルツォークの70年代の映画。らしい映画ではあるのだが、あの延々と続く独特な笑い方に正直、頭が痛くなりました。2010.2

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スティーヴン・フリアーズ Stephen Frears 
1941/06/20 イギリス生まれ
フリアーズ監督は、BBCテレビのディレクター出身らしく、ドラマの盛り上げ方が巧みな技巧派だ。特に、日の当たらないマイノリティや、差別されがちな人々の生活を描くのがずば抜けて上手い。
派手な演出や奇抜な発想は、何本か見ているうちに飽きてくるが、 フリアーズ監督の作品は、毎度、違った色を持つので、飽きがこない。 しっかりと練り上げた企画、そつのない演出、ドラマ作りのお手本のような作品を地道に世に出している。まさに職人!
「12人の怒れる男」等の作品で有名な巨匠シドニー・ルメットの後継者と勝手に呼ばせていただきます。

主な作品:

マダム・フローレンス
あなたを抱きしめる日まで(2013) ベネチア国際映画祭脚本賞受賞作、Gグローブ賞2014ノミネート
噂のギャンブラー
タマラ・ドゥル TAMARA DREWE(2010) ジェマ・アータートン出演 若い女性の再生物語。2010年カンヌ出品作
わたしの可愛い人―シェリ(2010)
クイーン (2006) 、ヘンダーソン夫人の贈り物(2006)、堕天使のパスポート(2002)
ハイ・フィデリティ(2000) サントラはこちら
がんばれ、リアム(2000) 、ハイロー・カントリー(1998)、ジキル&ハイド(1996)
スナッパー(1993)、靴をなくした天使(1992)、グリフターズ/詐欺師たち(1990)
危険な関係(1988) 、プリック・アップ(1987)  ★オススメ★
マイ・ビューティフル・ランドレット(1985)

主な受賞歴:
アカデミー賞 :1990年 監督賞ノミネート「グリフターズ/詐欺師たち」
ベルリン国際映画祭 :1999年 監督賞「ハイロー・カントリー」
カンヌ映画祭 :1987年 作品賞ノミネート「プリック・アップ」

【CINEMAレビュー】

英国スキャンダル 〜セックスと陰謀のソープ事件 A VERY ENGLISH SCANDAL
監督:スティーヴン・フリアーズ、出演:ヒュー・グラント | ベン・ウィショー | アレックス・ジェニングス/60年代に著名な議員が過去に愛人関係にあった若い男性を殺害しようとした事件を描いている。殺人依頼は言語道断なのだが、同性愛がタブーであった当時の社会状況も考えると、隠そうとしたのは仕方がない気もした。それよりも、権力側と世間体に負けずに愛人関係をカミングアウトした若い男性にブラボー。2020.9

マダム・フローレンス! 夢見るふたり FLORENCE FOSTER JENKINS
監督:スティーヴン・フリアーズ/出演:メリル・ストリープ | ヒュー・グラント | サイモン・ヘルバーグ
/1944年ニューヨーク。社交界の大物マダム・フローレンスはソプラノ歌手になるというかつての夢を再び取り戻すが、彼女の音程の悪さに本人は気づかない。伴奏者として雇われたピアニストのコズメは彼女の歌声に呆然とするが…。
 笑われても楽しければいいじゃない、っていうことなのでしょうが…。金持ちの道楽、にしか見えず。2020.5

英国スキャンダル 〜セックスと陰謀のソープ事件 A VERY ENGLISH SCANDAL
監督:スティーヴン・フリアーズ、出演:ヒュー・グラント | ベン・ウィショー | アレックス・ジェニングス/60年代に著名な議員が過去に愛人関係にあった若い男性を殺害しようとした事件を描いている。殺人依頼は言語道断なのだが、同性愛がタブーであった当時の社会状況も考えると、隠そうとしたのは仕方がない気もした。それよりも、権力側と世間体に負けずに愛人関係をカミングアウトした若い男性にブラボー。2020.9

あなたを抱きしめる日まで PHILOMENA
スティーヴン・フリアーズ監督、ジュディ・デンチ、スティーヴ・クーガン出演
☆アイルランドの修道院で子供を産み、3歳になる子供と生き別れてしまった老女フィロミナ。50年経っても息子を忘れらない彼女は、元エリート政治記者マーティンとともに、息子探しの旅にでる。生き別れた息子はエリート弁護士になっていた、というだけではお涙頂戴のありがちドラマで終わるのだが、息子が隠してた事実や、修道院のシスターたちの非道な行いまでの展開がインパクトがあり思わず涙。さすがフリアーズ監督、実話の脚色ではありますが、巧みなドラマ展開にうなりました。インテリ役のイメージが強いジュディだが、メロドラマ好きのお人よし老婆の役も上手い。安心して見れる秀作です。2015.4

噂のギャンブラー LAY THE FAVORITE
スティーヴン・フリアーズ監督、ブルース・ウィリス、レベッカ・ホール、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ出演
☆実在の女性プロ・ギャンブラーの自伝を映画化、とのことだが、正直、面白みにかけた。フリーアズ監督、ということで期待しすぎたせいもあるかも。この手のだましだまされタイプは、スピード感が命のような気がします。
キュラソー島がタックスヘイブンというのをはじめてしりました。ジョーンズやバレンティンの故郷ですが、オランダはこの島を利用して稼いでいるのでしょうね。2013.10

わたしの可愛い人―シェリ CHERI
スティーヴン・フリアーズ監督・ナレーション、コレット原作、ミシェル・ファイファー、ルパート・フレンド、キャシー・ベイツ出演
☆舞台は1906年のパリ。高級娼婦ココットのレアは、元同業者マダム・プルーの息子フレッド(シェリ)を紹介され、恋愛の教育係として付き合いはじめる。やがて、二人は本気で愛し合うようになり、6年が過ぎる。だが、シェリは10代の娘と結婚。傷心のレアはパリを離れるが…。
綺麗だけど老いは隠せないミシェル・ファイファーの存在感は突出していたが、ドラマ展開が退屈で、睡魔との闘いだった。フリアーズ監督作のファンだけにがっかり…。2010.11

クィーン THE QUEEN
スティーヴン・フリアーズ監督、ヘレン・ミレン、マイケル・シーン、ジェームズ・クロムウェル、シルヴィア・シムズ出演
☆1997年8月31日、イギリスの元皇太子妃ダイアナが事故死した。イギリスを始め全世界がこの悲劇に心を痛める中、エリザベス女王は、沈黙を続ける。殺気立ったマスコミ&英国民と英国王室という“立場”の板ばさみとなったエリザベス女王は、苦悩し続ける。
世界的スター、ダイアナ元皇太子妃の死去。10年も経っているので「そんなこともあったよなあ」という程度にしか思い出せないのだが、たしかにあのニュースは驚きであった。遠い日本でもかなりの騒ぎだったのだから、イギリスでは、異常な興奮度だったことは想像できる。
そんななか、半旗も揚げず、ロンドンにも戻らず、平静を装おうイギリス王室。
離婚している元妃はすでに王室の一員ではないし、新恋人・アラブの大富豪と一緒にいるときに死んでるのだし、イギリス王室がしゃしゃり出るべきじゃない。
冷静に考えれば、エリザベス女王がコメントを出さなかったのは、当然と言える。
ただ、世界中が殺気立ってる中、元王室の大看板・ダイアナ死去を無視してもよいものなのか…。
決して取り乱さないし、一見、冷静ではあるのだが、女王の心の中は、嵐が吹き荒れていたに違いない。そんな女王の苦悩をヘレン・ミレンが“顔”で見事に演じていた。
女王の服装や家の様子、しきたり等々、イギリス王室の人々の生活が垣間見れたのも面白い。日本では絶対に作れない映画だ。イギリス人にとっての王室と、日本人にとっての皇室は、まったく違うものだと納得。
若造だったブレア首相が、毅然とした女王の振る舞いに尊敬を抱くようになるまでを、もう少し詳細に描いて欲しかった気もするが、現職の首相だし、人間性にまで踏み込むと主観も入ってウソが出てくるだろうから、このぐらいに留めておいて正解かも。
現在の王室が舞台、という難しい映画にトライしたフリアーズ監督には脱帽です。2007.4

ヘンダーソン夫人の贈り物 MRS. HENDERSON PRESENTS
スティーヴン・フリアーズ監督、ジュディ・デンチ、ボブ・ホスキンス、ウィル・ヤング、クリストファー・ゲスト、セルマ・バーロウ出演
☆舞台は1937年、第二次大戦直前のロンドン。富豪の未亡人ヘンダーソン夫人は、ウィンドミル劇場を買い取り、口の悪いユダヤ人ヴァンダムを支配人に雇う。ヴァンダムとヘンダーソン夫人はケンカを繰り返しながらも名コンビぶりを発揮し、劇場の再建に成功。さらに夫人は、女性の裸をステージで見せることを提案する。実話を基にしたミュージカル・コメディ。
茶目っ気たっぷりのヘンダーソン夫人のキャラが最高にかわいかった。一見、ワガママで世間知らずの富豪夫人のようだが、行動力があって情も深い。おせっかいが仇となることもあるけれど、そこには彼女なりの悲しい歴史があるのだ。
正直、目新しさは感じなかったが、役者がみんな上手い。
主演の二人は言わずもがな、脇役がすばらしい!とくに夫人の友人を演じたセルマ・バーロウのオトボケ感はケッサクだった。お初にお目にかかったけど、イギリスでは有名なベテラン女優らしい。
&ナンセンス・コメディ界の雄クリストファー・ゲスト(JLカーチスの夫)が、真面目な貴族を飄々と演じていたのが新鮮だった。2007.2

堕天使のパスポート DIRTY PRETTY THINGS
スティーヴン・フリアーズ監督、キウェテル・イジョフォー、オドレイ・トトゥ、セルジ・ロペス、ソフィー・オコネドー出演
☆ロンドンで暮らすナイジェリア人オクウェは、昼はタクシー運転手、夜はホテルの夜勤をしている。実は不法滞在者で、母国では医者をやっていたというエリートである。一方、彼と同居するホテル清掃員シェナイは、働くことを禁じられているトルコ移民。身を潜めながら生きている二人だったが、オクウェはある日、ホテルのトイレで人間の心臓を見つけてしまう。
 不法滞在者という弱者と闇の臓器売買を絡めた上質のサスペンス映画。正義と自由、どちらを選ぶか迫られる二人のつらい心情がよく描けていた。泣かせどころも、ハラハラドキドキも、ちょっと間抜けなエピソードも、しっかり入っていて、飽きさせない作りになっていた。さすがフリアーズ監督!ドラマ作りの業師シドニー・ルメットの後継者と勝手に呼ばせていただきます。2005.4.24

ハイ・フィデリティ
スティーブン・フリアーズ監督、ジョン・キューザック、ジャック・ブラック、ティム・ロビンス出演
☆音楽オタクでモラトリアム人間の中古レコード店長が同棲相手の弁護士との別れをきっかけに自分の恋の遍歴を見つめ直す。
ジョン・キューザックとかマシュー・モディンは、お坊ちゃん顔だからモラトリアム男がぴったりはまる。音楽オタクの店員2人のキャラがいい。とくにデブのダサイ兄ちゃん(ジャック・ブラック)がgood!でラストの落ちも圧巻。熱々のラブストーリーではないんだけど、肩の力が抜けた現実的なストーリー展開は好感がもてたし、自分もオタク人間なので、音楽オタクの会話は楽しめた。でも、フリアーズ監督&キューザック主演は、なつかしの「グリフターズ」がやっぱりNo.1かな。(「ハイ・フィデリティ」は、テープのハイ・ファイのことらしい。) 2003.3.9 

がんばれ、リアム
スティーブン・フリアーズ監督、イアン・ハート出演
☆舞台は第2次世界大戦前あたりのリバプール。
安い賃金で貧しいイングランド人から仕事を奪うアイルランド移民と豊かなユダヤ人の多い町で、仕事がなく途方にくれながらもプライドを捨てられないイングランド人夫婦が、極貧生活を送っている。
家族構成は、敬虔かカソリックの妻と、寄付ばかりさせる教会に反発する夫、ユダヤ人の家でメイドをする娘テレサ、共産主義の集会に参加する長男、そしてうまくしゃべれない末っ子リアム。
人種問題や宗教の対立など、かなり思いテーマを扱ってはいるんだが、やっぱりこれは家族のドラマ。悲惨なラストは、つらかったけど、それだけに後々まで心に残る映画になりそうだ。見る前は、貧しくも元気にかわいく生きる少年「リアム」を想像してたので、吃音で表情も暗い少年が出てきたときには正直びっくりした。
でも見ているうちに、ほんとにタイトルどおりに「がんばれ、リアム」と叫んでいた。やっぱり、フーリアーズは味のある映画をとるね。あらためて、感心した。2003.4.18 

ハイロー・カントリー
スティーブン・フリアーズ監督、マーティン・スコセッシ製作総指揮、ウディ・ハレルソン、パトリシア・アークェット出演☆ 第二次大戦後。アメリカ・西部でカーボーイとして生きる男の友情を描いた作品。 西部の乾いた荒涼とした自然の描写がよかった。全体が土埃色で、人間の小ささを感じさせた。これは、男2人の友情とファムファタールの3角関係のドラマなんだけど、それよりも自然と動物が光っていた気がする。やっぱりフリアーズ、とスコセッシが組んだだけあって、憂いのある映画だと思った。小説よりも好きだな。2000.6.10 

グリフターズ/詐欺師たち
ジョン・キューザック、アンジェリカ・ヒューストン、アネット・ベニング出演
☆原作はジム・トンプソン。アンジェリカ・ヒューストンの詐欺師姿、様になってました。

危険な関係
グレン・クローズ、ジョン・マルコヴィッチ、ミシェル・ファイファー、スウージー・カーツ、キアヌ・リーヴス出演
☆原作はラクロの同名小説。Gクローズ、J・マルコビッチ、M・ファイファーの淫らな三角関係が秀逸です。

プリック・アップ
ゲイリー・オールドマン、アルフレッド・モリナ、ヴァネッサ・レッドグレーヴ出演
☆60年代に活躍した劇作家で同性愛者のジョー・オートンと、その恋人ケネスの悲劇的な愛の映画。ロンドンの著名な演劇学校に入学したジョーは、年上でインテリのケネスから多くのことを学び成長する。恋人かつ同志という強い絆で結ばれていた二人だが、ジョーが劇作家として注目を浴びるにつれて立場が逆転し、ケネスの愛情は妬みへと変わっていく。 師弟愛から恋愛、そして憎悪へと突き進む二人の関係や、同性愛者としての苦悩など、繊細な心理描写が秀逸。
ビートルズが一世を風靡していた活気あるロンドンの様子や、ハード・ゲイ・スタイルなど、当時のファッションや音楽も楽しめるアート作品だ。
 G・オールドマンが一番輝いていた頃の映画ともいえるだろう。公衆便所でやりまくるシーンはかなりエグイが、それだけにリアル。
 イギリスでは2005年12月からゲイ同士の結婚が認められたが、この映画では、ゲイが逮捕されるシーンが出てくる。当時のゲイ・カップルは、今の時代をどんな思いで見つめているんだろう。

マイ・ビューティフル・ランドレット
ダニエル・デイ=ルイス、ゴードン・ウォーネック出演
D・D・ルイスを世に出した出世作

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キム・ギドク
1960年・韓国生まれ
異端と呼ばれ、国内で孤立しながらも精力的に映画をとり続ける孤高の監督。
独特の宗教観、禁欲世界…。観客を虜にする力がみなぎる作品に対して、トレードマークのキャップの下の顔は、意外にも愛嬌のある好人物だ。
激しさと静寂。二つの顔を持つ監督が、これからどこへ行こうとしているのか、気になってしかたない。

主な受賞歴:
ヴェネチア国際映画祭:2004年 監督賞 「うつせみ」
ベルリン国際映画祭:2004年 銀熊賞(監督賞) 「サマリア」
カンヌ国際映画祭:2011年ある視点部門グランプリ「アリラン」
ベネチア国際映画祭:2012年金獅子賞「ピエタ」

主な作品:STOP、The NET 網に囚われた男(17)、殺されたミンジュ(16)メビウス(14)、嘆きのピエタ(2012)
アリラン (2012)、悲夢 (2008)、ブレス (2007)、絶対の愛 (2006) 、 (2005)、サマリア (2004)
うつせみ (2004) ★オススメ★
春夏秋冬そして春 (2003) ★オススメ★
悪い男 (2001) 、受取人不明 (2001)、コースト・ガード (2001)
魚と寝る女 (2000) 、リアル・フィクション (2000)、悪い女 (1998)
ワイルド・アニマル (1997) 、鰐〜ワニ〜 (1996)

【CINEMAレビュー】

STOP
監督:キム・ギドク、出演:中江翼、堀夏子
☆福島第一原発近くに住んでいた若い夫婦は東京への移住を決意。まもなく身ごもっていた妻の元に政府の秘密の役人が現れ堕胎を強く迫る。韓国人であるギドク監督の視点から描いた原発被害に対する恐怖心。細かい部分が外国人目線なのは気にはなったが、目に見えない放射能への恐怖心は万国共通だ。怖がりすぎ、とは思うのだが、自分自身が原発関係の仕事をしていた経験もあるため、体調不良になると心のどこかで放射能の影響が頭をよぎる。人より多く放射能を浴びてしまったかもしれず以前には戻れない。諦めるしかないのだが、もし身ごもっていたら迷うだろうなあ…。この映画が日本で大きく取り上げられないことが、表現・報道の自由のなさを証明している。窮屈な日本に住んでいると徐々に慣らされてしまうのだが、いったん外に出てみると、日本がガラパゴスであることに気づかされる。2017.5

The NET 網に囚われた男 THE NET
監督:キム・ギドク、出演:リュ・スンボム、イ・ウォングン、キム・ヨンミン、イ・ウヌ
☆北朝鮮と韓国の国境付近で暮らすナム・チョルは、漁に出た際、網が絡まりエンジンが故障。漂流先は韓国領内だった。韓国警察に拘束され、スパイ容疑で執拗な取り調べを受ける。ナムは家族の元へ帰りたいと言い続け、スパイ容疑を否定する。
 ギドク監督にしては珍しい正攻法の社会派ドラマ。つい拷問シーンや両国警察の理不尽さに目がいきがちだが「貧しさ=不幸」という価値観にノーを突きつける映画だと感じた。
 米国中西部でトランプがあれだけ支持されるのは、裕福になった移民が目に見え、それに対する嫉妬心が生まれ、自分が不幸なのは移民のせい、という自己中心的な理論によって、移民排斥の気運が高まっていると感じる。隣に住んでる自分と肌の色が違う人や宗教の違う人が、潤っているのが目に見えれば、比較してしまうのは無理もないこと。逆に北朝鮮のように、鎖国をして遮断してしまえば、ナムのように「幸せ」は感じられるのだろう。ただ、それは真の幸せなのだろうか。
 「貧しさ=不幸」ではない一方で、人には知る権利もある。外の世界を知りたいと思う人が抑圧された社会は悪だ。ナムは「韓国のことを知りたくない」といって目を閉じるが、それは「知ったら北に戻ったときに痛い目にあう」という恐れから出た行動だった。もちろん、知りたくない人が「耳を塞ぐ権利」も存在はするのだが、好奇心は人のサガであり、一度知ってしまったら、それはパンドラの箱になり、二度と閉じることはできない。
 映画「ミッション」は、南米の先住民への布教が結果的に先住民を滅ぼしてしまう悲劇を描いていたが、ナムに起こった不幸もそれと通じるものがあると感じた。
 毎度毎度、過激な描写で観客を驚かせてきたギドク監督だが、この映画ではストレートに、政治に翻弄された男の姿を描いた。いつものノリを期待した観客は戸惑ったかもしれないが、ギドクはいい意味で観客を裏切ってくれた。ギドクワールドの新世界にも期待したい。2017.2

殺されたミンジュ ONE ON ONE
キム・ギドク監督、マ・ドンソク、キム・ヨンミン出演☆5月9日の夜。ソウル市内で一人の女子高生が惨殺されるが事件は闇に葬り去られ1年が過ぎる。まもなく事件に関わった7人の男たちが次々に拉致され、拷問によって自白を強要される。必殺仕事人の現代バージョン。ただし被害者遺族に依頼されたわけではなく、社会の底辺で暮らす人間たちの憂さ晴らしも兼ねているところに、ギドクらしさがある。かなりエンタメ色が強いので、少々拍子抜けもしたのだが、人殺しをした加害者が被害者になり、さらにまた加害者になり、という暴力の連鎖のむなしさに監督の意図が見て取れた。ギドク監督、新境地開拓か?! 2016.1


メビウス MOEBIUS 
キム・ギドク監督、チョ・ジェヒョン、ソ・ヨンジュ、イ・ウヌ出演
☆豪邸で暮らす女は、夫の浮気に逆上し、夫の性器を切り取ろうとして失敗。男として目覚めてきたばかりの息子の性器に刃を向ける。性器を失い苦悩する息子と、罪悪感にさいなまれる父親。二人の男の葛藤をセリフなしで描いた衝撃作。
ギドクらしい衝撃的なテーマ。”安倍定”妻の迫力もすごいが、快感を覚えるために石で身体を痛めつける父と息子も痛くて痛くて…。なんだか、その必死さが可笑しくて、笑ってしまった。セリフなしなのに、しっかりと伝えている3人の演技と監督の演出力にアッパレです。これだから、キドク映画はやめられないのよねえ。2014.12

嘆きのピエタ PIETA
キム・ギドク監督、チョ・ミンス、イ・ジョンジン出演
☆孤独なイ・ガンドは、債務者を障害者にして保険金で借金を返済させる悪徳取り立て屋をしている。ある日、ガンドは母だと名乗るミソンという女に付きまとわれる。身体を張ってガンドにつくすミソンに、次第に心を開きはじめるのだが…。
暗い映像と容赦ない暴力の連続で、陰鬱な気持ちにさせられる前半。ミソンと出会ってからのガンドの表情の変化が印象的な中盤。そして、ミソンの正体が明かされる劇的展開の後半。起承転結がこれほど明確な作品は、ギドクには珍しい気がする。
良く言えばエンタメ色が濃い作品。それでも、映像はしっかりギドクカラ―なので、ギドク作品フリークでも十二分に満足できる。
テーマはずばり、暴力と母性。主役の二人以外に、債権者の家族の母性もしっかりと描いている。母の愛のすさまじさに、鳥肌がたちました。2013.7

アリラン
キム・ギドク監督
☆衝撃的な作品を次々と送りだしてきていたギドク監督が、突然、姿を消し3年もの間、山にこもって世捨て人のような暮らしを始める。
彼は、自問自答しながら、スランプに陥ったいきさつや、心の奥に溜めていた思いを吐き出していく。
キャップに人懐っこい笑顔がトレードマークのギドク監督。釜山映画祭に行った時に、のんびり歩いている彼を何度か見かけたことがあったが、有名監督の割には、とても自然な感じで好印象を持っていた。
見かけに反して、作品はつねに刺激的で、新作の話を聞くたびに、次はどうくるかな、とワクワクしたものだ。そんな彼の名前が聞かれなくなったのは、2009年ごろからだろうか。ブラジルでオダギリジョー主演の『悲夢』を見てからのご無沙汰だった。
ギドク監督が、山奥で世捨て人のような暮らしをしていた、ということにまず驚き、『悲夢』の撮影で事故があったことも初めて知った。その事故をきっかけに、映画を作るのが怖くなり、脚本が書けなくなった、と語っていたが、アーチストというのは多かれ少なかれ、スランプに陥ることはあるものだろう。なんら特別なことではないのだが、彼は山ごもりし、その様子を自ら撮影する、という行動に出たのである。
酒を飲み号泣するシーンなど、感動というよりはちょっと笑っちゃったのだが、編集しているギドク監督自身も笑っていたので、この反応は間違っていなかったのでしょう。
ギドク監督は究極のナルシストであることは間違いないのだが、一方で、自分の弱さや青臭さを俯瞰できる強さも持ち合わせている。山ごもり中、精神的にはかなり危うい状態だったとは思うのだが、それを作品に仕上げてしまったことに、アーチスト魂を感じた。
監督が絞り出すように歌っていた『アリラン』のメロディがいつまでも心に残った。カンヌ国際映画祭2011ある視点部門グランプリ受賞 2012.4

悲夢 SAD DREAM
キム・ギドク監督、オダギリジョー、イ・ナヨン出演
☆彫刻家のジンは、ある晩、別れた恋人を追いかけている最中に交通事故を起こす夢を見る。気になって事故現場に向かうと、事故を起こしたのは若い女性ランで、彼女はまったく事故のことを覚えていなかった。
ジンが夢を見ると、ランがその夢を実行してしまうと知った二人は、なんとか寝ないように協力しあうがうまくいかず…。
恋人を忘れられない男と早く忘れたい女が、同じ夢を共有する、という発想がまず興味深い。現実的ではないけれど、深層心理の世界ではひょっとしたらあり得るのかも。そう思わせるリアルさがあった。女は男をはやく忘れたい、と言ってはいるのだが、おそらく深層心理では忘れたくても忘れられない存在なのだろう。もしくは彼の夢を実行しているうちに、気持ちが乗り移ってしまったのかもしれない。ラストの凄惨な事件は、十分に予想がついたし、彼女の単独行動と思えなくもない。いろんな意味で深読みができるサイコ・ドラマだった。ジョーも素敵だったし、一人だけ日本語でも違和感なく見れたのだが、ギドクらしい毒というか、ひねりがもう一つ足りなかった気がする。
展開が素直すぎる、とでもいいましょうか。
ギドク監督の他の作品と比べると少々見劣りするが、オダギリジョー主演作の中では代表作となりうる出来。次回作にも期待大です。2009.10

ブレス BREATH
キム・ギドク監督、チャン・チェン、パク・チア、ハ・ジョンウ出演
☆恋人を殺して服役中の死刑囚チャンは、何度も自殺未遂を繰り返し、世間を賑わせていた。そのニュースを見た彫刻家の人妻ヨンは、チャンの昔の恋人と偽ってチャンに会いに行く。
もの言わぬ死刑囚と、裕福だが孤独な人妻。何のつながりもない二人が、監視付きの刑務所の面会室で逢瀬を重ねる。
花の壁紙と陽気な音楽、そしてちょっと音痴な歌を恥ずかしそうに死刑囚に披露する人妻の姿は、滑稽ではあるが、なんとも言い難い寂しさがある。その姿にチャンは夢中になり、一時、死ぬことを忘れるのだが…。
一切言葉を発しない死刑囚をチャン・チェンが好演。難しい役どころを目力で演じきっていた。今後のギドク作品の常連になりそう。
この映画のメインは、死刑囚と人妻の異常な恋ではあるが、個人的には、浮気をしている作曲家の夫に妙に感情移入してしまった。
俗物の夫は妻の暴走を知り動揺。妻と死刑囚、異常な二人の密な関係を、一度は激しく拒絶するのだが、最後には妻の寂しさを受け止め、男に会いに行くことを許してしまう。
その夫の優しさ(もしくは弱さ)が、人間らしくていい。激しい二人の異常愛よりも、娘と二人で雪だるまを作る夫の姿が、一番印象に残った。
今までのギドク作品とはテイストの違うエンディングには、少々違和感を覚えたが、異端の道を突き進まないギドクも悪くないかも。 2008.4

絶対の愛 TIME
キム・ギドク監督、ソン・ヒョナ、ハ・ジョンウ、パク・チヨン出演
☆セヒとジウは、付き合い始めて2年のカップル。セヒは、彼がいつか自分に飽きてしまうのではないかと、気が気でない。デート中、ジウがほかの女に色目をつかった、と怒り出したセヒは、自分の顔を変えればジウを繋ぎとめられると思い込み、整形手術をしてジウの前から姿を消す。数ヵ月後、セヒを忘れられないジウが二人で行った思い出の公園に行くと、大きなマスクとサングラスをした謎の女と出会う。
(以下、ネタバレあり)
好きな男を飽きさせないために別の女になろうとする女心…。
その一途さ、わからなくもないけれど、客観的に見ると、セヒの姿はとても痛々しい。
(昔、向田邦子の短編にも、同じような話があったが、あれは目を二重にしただけだった。こちらは整形手術の本場、韓国ですから、大胆に総とっかえ手術)
セヒの行動は、一見、ジウを愛するが故のようだが、本質はまったく逆で、相手の気持ちを無視した自己愛そのもの。かなり、うっとうしい女とも言えるだろう。
整形が成功し、新しい顔で彼に近づくと、今度は、昔の女、つまりは昔の自分をいつまでも忘れられない男に苛立ち、さらには昔の自分に嫉妬することになる。
この展開、十分に予想できたし、ギドク作品にしては何のひねりもなかったので、ちょっとがっかり。喫茶店のシーンも、公園のシーンもしつこいぐらいにワンパターンだし…。
それと、整形手術のリアルな映像がグロい。「これでもやりますか?」と、説教されている気分になり、あまり好感が持てなかった。
ところが、前半のワンパターンとはうって変わり、女の整形が暴露され、男が女の元を去ってからの展開はぐっと謎めいてくる。現実か幻覚かはっきりしない曖昧な映像と、愛に飢えた女が狂っていく様は、ギドク監督作品らしい“危うさ”が感じられ、引き込まれるものがあった。
家族だろうが恋人だろうが、相手のすべてを知ることは不可能だし、人は人を100%信じることはできない。
「信じようと努力する」ことで、人と人は、かろうじてつながっているだけなのかもしれない。
蜃気楼のような男との永遠のつながりを見つけた「うつせみ」の主人公とは逆に、この映画の二人は、目の前の愛を信じることが出来ずに破滅していく。
二人の存在を消しゴムで消してしまったかのような、観客を突き放したエンディングは圧巻。
「絶対の愛」というよりも、「絶望の愛」のほうがしっくりきそうな、壮絶な愛の物語です。2007.3

うつせみ 3-IRON ★★
キム・ギドク監督、イ・スンヨン、ジェヒ出演
☆若い男テソクは、家々の扉にチラシを貼り付け、剥がされていない家を見つけては、忍び込む生活を続けている。そんなある日、テソクは、忍び込んだ豪邸で、夫に暴力を振られ、目を腫らした妻ソナと遭遇する。ソナはテソクに手を引かれるままに家を出、二人で空き家へ忍び込む暮らしを始める。
 なんなのだろう。この心地よさは。
言葉などなくても通じあえるソナとテソク。男女の関係を超越した二人の結びつきがとても美しく、神々しくて、心が洗われるような感覚を覚えた。
 金と腕力で強引に女を所有しようとするソナの夫に比べて、テソクはなんて純粋なのだろう。彼はひょっとしたら、ソナが作り上げた空想の人物なのでは?
夫に支配され、かごの鳥のような生活を送るソナの心の叫びが、テソクという一人の理想像を生んだのではないか。
 現実だか空想だかわからない曖昧さが、キム・ギドク監督作品の特徴でもあるのだが、この映画でも、その個性が発揮されている。
 テソクは勝手に人の家に忍び込み、冷蔵庫を開け、水を飲み、風呂に入ってベッドで眠る。常識的にはとんでもない不届き者である。でも、彼は何も盗まないし、壊れた体重計を直してもくれる。家の中にある不穏な空気を感じ取り、狂った何かを直すことで、人々に安らぎをもたらしているのだ。そんなテソクは現代の座敷童子のようでもある。
 ソナのように、今の生活から抜け出したくても、できない女性は大勢いるだろう。そんな孤独な女たちは、心の空虚を埋めてくれる誰かを求めて、永遠にかなうことのないテソクのような理想像を追い続けているのかもしれない。
主演女優イ・スンヨンは、ヨン様が出ていたテレビドラマ「初恋」で、「お兄ちゃーんっ」て、叫んでばかりいた女優。「うつせみ」では顔も演技も別人のように色っぽくてびっくり。これも演出のなせる技か。勝手にギドク・マジックと呼ばせていただきます。2006.9 

受取人不明 ADDRESS UNKNOWN
キム・ギドク監督・脚本、ヤン・ドングン、パン・ミンジョン、キム・ヨンミン、チョ・ジェヒョン出演
☆舞台は70年代の米軍基地のある田舎町。米軍兵だった恋人へ手紙を出し続ける中年女と混血の息子、片目を怪我したまま治す費用のない女子高生、その彼女を思う青年。彼らの平穏とはいえない日常を淡々と描いた青春映画。
 キム・ギドクにしては、起承転結のはっきりしたわかりやすい作品だった。男にすがることしかできない母親と、犬を殺して売りさばく母の恋人。二人の間で自分の生き方を模索する息子をヤン・ドングンが好演していた。
 残忍な犬殺しをする男は、おそらく戦場で多くの人間を殺してきたんだろう。一人やったらあとは何人やっても同じ。犬だろうが人間だろうが、生きるためなら殺傷はいとわない。犬の撲殺シーンは、顔をしかめずにいられなかったけど、豚とか牛を食べてるわけだし、それが犬だからといって非難するのはおかしな話だ。残忍な男ではあるけれど、彼は殺すことで生き抜いてきたわけだし、そのたくましさは誰にも負けない魅力があった。
 だから、混血の息子が最後に選んだ“落とし前”は、気持ちわかるけどちょっと辛すぎた。
 ギドク監督って、ほんと破滅型人間が好きだよなあ。でもそういうはみだし人間を描いた作品をこよなく愛してしまう私も、かなり破滅型なのかも。2006.3.15 

悪い男 BAD GUY
キム・ギドク監督、チョ・ジェヒョン,ソ・ウォン出演
☆ヤクザのハンギは、街で見かけた女子大生ソナの唇をいきなり奪う。さらにハンギは、女子大生を自分の売春宿で働かせ、監視しはじめる。
 愛することに不器用な男の姿は、アルモドバル映画の主人公を彷彿とさせる。ヤクザ男は魅力的だったんだけど、相手の女優が正直あんまりかわいくなかったのが残念。セリフがほとんどないあたりが、北野映画に近いといわれるんだろうけど、正直、あまり共通点は感じなかった。2005.2.13 

春夏秋冬そして春 SPRING, SUMMER, FALL, WINTER... AND SPRING ★★
キム・ギドク監督・出演、オ・ヨンス、キム・ジョンホ、ソ・ジェギョン、キム・ヨンミン出演
☆山奥の沼の中にあるお堂で暮らす仙人のような和尚と子供の人生を、季節ごとにわけて淡々と描いた作品。
 春に子供の悪戯心が芽生え、夏には青年が肉欲におぼれ、秋には肉欲の果てに罪をおかした青年が戻ってきてお経を彫る。そして、冬になり、中年となった男のもとに、また赤ん坊がやってくる。
 台詞がほとんどないんだけど、自然の美しさと、季節ごとのエピソードにグイグイ引き込まれた。
中でも「秋」が一番気に入った。猫の尻尾を筆にして床板にお経を書き続ける和尚と、そのお経を一心不乱にナイフで彫り続ける青年の姿に崇高なものを感じ、自分の抱えている煩悩が一瞬、洗われるような錯覚を覚えた。
キム監督の演技(冬の中年男役)、初めてみたが、鍛えた身体にびっくり。キム・ギドク独特のオリジナリティを感じた。彼が評価されてる理由がわかった気がした。2005.9.11 

サマリア SAMARIA
キム・ギドク監督、クァク・チミン、ソ・ミンジョン(ハン・ヨルム)、イ・オル出演
☆女子高生チェヨンとヨジンは、二人で客をとり、ヨジンは交渉役、チェヨンは男たちに身体を売る行為を繰り返す。ある日、現場を警察に踏み込まれたチェヨンは、ヨジンの目の前で窓から飛び降り死んでしまう。
 チェヨンが寝てきた男たちに金を返すことで、チェヨンの身を清めたい、と考えたヨジンは、男たちを呼びつける。だが、その現場を偶然、刑事の父親が目撃してしまう。
 援助交際はよくある話なんだけど、ヨジンや父親の行動一つ一つを見逃してはいけない気がして、終始、緊張しながら見いってしまった。
 いつも笑顔のチェヨンっていう少女はホントに実在していたのだろうか。彼女はヨジンが作り上げた別の人格だったのではないか。
 そして、刑事の父と娘との関係。おかずを食べさせてあげるシーン、娘の寝顔を見つめるシーンに、近親相姦の匂いを感じた。父親が娘の身体を買おうとした男たちを許せなかったのは、子供に対する愛情というよりは、嫉妬もあったのではないか。
 深読みのし過ぎかもしれないけど、見る側の想像を掻き立てる作品であることには間違いない。
 「春夏秋冬〜」でも描かれていた人間の「罪」と「清め」が、「サマリア」でも描かれていた。現代的な設定の中に、宗教的な要素を盛り込んだギドク作品を見ることは、私にとって、自分自身を悔い改める「お清め」にもなっている気がしてならない。2006.9 

弓 THE BOW
キム・ギドク監督、チョン・ソンファン、ハン・ヨルム、ソ・ジソク出演
☆舟の上で暮らす老人は、子供の頃から大事に育ててきた少女が17歳になり、結婚できる日を心待ちにしている。しかし少女は、釣りにやってきた若い青年に恋心を抱く。
純真な心を持った少年のような老人が、小悪魔的な魅力のある少女を愛する。彼の気持ちもわかるが、やっぱり少し抵抗を感じた。手垢のついていない少女を自分だけのものにすることは、男たちの永遠の夢なのかも知れないが、少女だって生身の人間。自由な世界があることも知らない彼女の気持ちをを考えたら、胸が痛くなる。新潟の少女監禁事件を思い出したりもした。
結婚という制度に拘り、日々、禁欲してきた老人。それが少女へのせめてもの懺悔の気持ちだったのか。彼が最後に選んだ道には、それまでの嫌悪感を払拭させる潔さを感じた。少女役ハン・ヨルムの小悪魔視線には男じゃなくてもクラクラきた。でも、ああいう子って20歳過ぎるとタダの女になってしまうものなんだよねえ。殿方の夢をぶち壊すようで悪いですが。2007.5 

リアル・フィクション REAL FICTION 
キム・ギドク監督、チュ・ジンモ、キム・ジナ出演
☆言葉を発しない公園の似顔絵かきは、今までの人生で自分を蔑んできた人々への復讐に取りつかれ、次々と命を奪っていく。
ギドク監督らしい映像美は好感がもてたが、連続殺人が延々続いていくだけの単純なストーリーなので、途中で飽きてしまった。もう少し違う展開を期待したのだが…。ただ、主演のチュ・ジンモは魅力十分。金城武のデビュー当時を彷彿とさせる存在感である。今後に期待大。2009.7

鰐〜ワニ〜
キム・ギドク監督、チョ・ジェヒョン、ウ・ユンギョン出演
☆漢江の橋の下で暮らす男ヨンペは、ある日、自殺を図った女を助け、手込めににする。ヨンペと一緒に暮らしていた老人と少年は、彼女を逃がすが、人生に絶望した女は戻ってきてしまう。
ギドク監督のデビュー作。映像もストーリーも多少、荒っぽい感はあるが“青”と“水”にこだわった作りに監督らしさが見えた。チョ・ジェヒョンが演じるキャラは、毎度おなじみのロクデナシではあるのだが、なぜか憎めない可笑しさがある。家を持たない男が、海の中に自分だけの部屋を作る。そんな発想の斬新さがギドク監督の魅力の一つ。
ヤクザやホモの警官など、本筋からずれた人物をゴチャゴチャ出しすぎていて、とっちらかってる感じもしたが、そんなこんなもラストシーンの美しさがすべて帳消しにしてくれていた。2007.5 

ワイルド・アニマル WILD ANIMALS
キム・ギドク監督、チョ・ジェヒョン、チャン・ドンジク、ドニ・ラヴァン、リシャール・ボーランジェ出演
☆パリで画家修業中の韓国人男は、なぞの同胞と知り合い、あるギャング組織に巻き込まれていく。
ギドクの初期作品。荒削りではあるが、印象的なシーンも多々あり。パリという観光都市の裏通り&裏社会に外国人監督がスポットを当てた、ということで斬新さを感じた。2013.1

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ニール・ジョーダン Neil Jordan
1950/02/25 アイルランド生まれ
ジョーダン監督は多才である。
故郷アイルランドを舞台に、政治色の強い社会派作品を作ったかと思えば、トム・クルーズとブラピ、2大スターを主演にドラキュラ映画を手がけたりもする。 アイリッシュ作品が評価されがちだが、ハリウッド作品にも味がある。
本物の職人は、どんな仕事でも手を抜かない、ということだろう。
彼の作品に流れる音楽も毎回、楽しみの一つである。

主な作品:
Ondine コリン・ファレル主演 網にかかった女を人魚だと信じる漁師の物語
ブレイブ・ワン(2007)
プルートで朝食を (2005) ★オススメ★
ダブリン上等! (2003) 製作
ギャンブル・プレイ (2002)
ことの終わり (1999)
ブッチャー・ボーイ (1998)
IN DREAMS/殺意の森 (1998)
マイケル・コリンズ (1996)
インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア (1994) トムとブラピがホモの吸血鬼に!
クライング・ゲーム (1992) 美しすぎる男の悲しい物語。
スターダスト (1990)
俺たちは天使じゃない (1989) デニーロとショーン・ペンが夢の競演!ジョーダン監督らしからぬコメディ・タッチの作品。
プランケット城への招待状 (1988)
モナリザ (1986) ★オススメ★ ジョーダン・ワールドを確立した話題作。同性愛もの第1弾。
狼の血族 (1984) 、殺人天使 (1982)

【CINEMAレビュー】
ブレイブ ワン THE BRAVE ONE
ニール・ジョーダン監督、ジョディ・フォスター、テレンス・ハワード、ナヴィーン・アンドリュース出演
☆ラジオのDJエリカは、恋人と公園を散歩中、3人組の男に襲われ、恋人は亡くす。エリカは命を取り留めたものの、トラウマを抱え、恐怖心から抜け出すことができない。身を守るため不法に銃を入手したエリカは、コンビニ強盗を射殺。この事件をきっかけに、夜の街を徘徊し始める。
激しい暴力のトラウマから抜け出せず、恐怖心のあまり過剰防衛に走る女の心理。
幸い体験したことはないのだが、小さな嫌がらせにあった直後、夜の一人歩きに不安を覚えたことを思い出し、とても辛い気持になった。
すれ違う人がすべて悪人に思え、常にビクビクしながら生きなければならないとしたら、自分だって、エリカのように銃を持ちたくなるかもしれない。
トラウマを抱えた女の恐怖心、過剰防衛心理の描き方がリアルである。さすがニール・ジョーダン監督。
そして主演は戦う女ジョディ・フォスター!
エリカという役に「タクシー・ドライバー」のトラヴィスの姿を重ねて見たのは、私だけではないはず。
ベトナム戦争のトラウマを抱えたトラヴィスは、不眠に陥り、真夜中の悪人退治を始めたが、このエリカも同じである。暴漢に襲われた恐怖心、不眠、悪人への嫌悪感、歪んだ正義感などなど、共通項はたくさんある。もっともっと、エリカの心理を掘り下げ、過激な方向へ向かえば、「タクシー・ドライバー」のトラヴィスのような怪物キャラに近づけたかもしれない。
惜しいよなあ。
ハリウッド製なので、仕方がないのかもしれないが、物語の後半に出てくる刑事とエリカの関係は、お決まりのパターンで、がっかりだった。2008.8

プルートで朝食を BREAKFAST ON PLUTO
ニール・ジョーダン監督、キリアン・マーフィ、リーアム・ニーソン、ルース・ネッガ、ローレンス・キンラン、スティーヴン・レイ出演
☆赤ん坊のとき、教会に置き去りにされたパトリックは空想好きで風変わりな女の子(ホントは男の子)。かわいいものだけを愛するキトゥンは、ある日、ロックバンドのリーダーに頼まれ、IRAの武器の隠し場所で寝泊りするようになる。まもなくIRAのテロ活動により、親友を亡くしたキトゥンは、故郷アイルランドに別れを告げ、母がいると噂で聞いたロンドンへ向かう。
かわいいキトゥンを、「麦の穂〜」のギリアンが演じていた、というのは皮肉なのか…。あちらは真面目を絵に描いたようなIRAの戦士なのに、こちらはシリアスが大嫌いなオカマちゃん。別人のようなキリアンの演技力に脱帽。
一見、軽いノリのポップな物語ではあるのだが、IRAの活動に否応なしに翻弄されていくキトゥンの半生は見ごたえがある。「シリアスは大嫌い」という言葉に隠されたキトゥンの痛みが、画面からヒシヒシと伝わってきた。おかしさの中に悲しみや皮肉がこめられたこの手の作品、私好みです。ジョーダン監督はほんとゲイ映画を撮るのがうまい!
&時代を映した音楽&ファッションもGOODです。2007.5

イン・ドリームス/殺意の森 IN DREAMS
ニール・ジョーダン監督、アネット・ベニング、エイダン・クイン、ロバート・ダウニーJr.、スティーヴン・レイ出演
☆不思議な能力を持つ主婦クレアは、ある日、少女誘拐事件を予知するかのような悪夢に悩まされる。だが、警察は彼女の夢を信用しない。まもなく娘が行方知れずになり、湖から娘の死体が発見される。
クレアの見る悪夢の映像と、現実の静けさのギャップ。悪夢に取り付かれたクレアを演じたアネットの迫真の演技…。エンタテイメント性を保ちながらも、安っぽくならない上品さ。さすがはジョーダン監督。絶妙!のひとことに尽きる。「インタビュー・ウィズ・バンパイア」や「モナリザ」と同じように“赤”という色の使い方が印象的。&アネット・ベニングの狂気の演技にも脱帽。ベイティと結婚したときは、売名行為!と腹立ったけど、どんどん味が出てくるうまい役者だ。ホラー映画は苦手分野だが、この映画には大満足。2007.5

ブッチャー・ボーイ THE BUTCHER BOY
ニール・ジョーダン監督、イーモン・オーウェンズ、スティーヴン・レイ、フィオナ・ショウ出演
☆アイルランドの田舎町に住む少年が母の自殺やアル中の父の死に遭遇し、孤独感からイタズラを繰り返す。唯一の友からも見限られた少年は、家族を馬鹿にしたインテリ主婦に恨みを抱き、ついに悲惨な事件を起こしてしまう。
 差別用語とか残虐なシーンが多いからか、「サカキバラ事件」を彷彿とさせる内容だったからか知らないけど、日本で未公開っていうのは納得いかない。
 過激な内容ではあるけど、悲惨な事件を起こすまでの少年の心の動きが丁寧に描けていた。好きな人や信じていたことに次々と裏切られていった少年が生き続けるためには、誰かに責任を転嫁するしかなかったのだろう。内容はシビアだけど、少年のイタズラはちゃめっけたっぷり。不謹慎かもしれないけどコメディとしても楽しめた。
小説「タイドランド」(ギリアム監督が映画製作中)や「時計じかけのオレンジ」にも通じる独特の世界観、けっこう好きです。2005.6.26

ギャンブル・プレイ THE GOOD THIEF
ニール・ジョーダン監督,ニック・ノルティ,チェッキー・カリョ,エミール・クストリッツァ,ナッサ・クヒアニチェ, レイフ・ファインズ出演
☆フィルム・ノワール「賭博師ボブ」のリメイク。南フランスのリゾート地を舞台に、落ちぶれた元泥棒の男が、高級カジノの有名絵画コレクションを盗むという大きなヤマに挑む。
南フランスというと綺麗な海、お洒落なカフェをイメージしていたが、舞台はもっぱら下品なネオンと汚い酒場。ヤクにおぼれるニック・ノルティの姿が現実味があった。
ドラマ的にはB級ノリだが、音楽がよかった。(たぶんU2のボノ)
敬愛するクストリッツァ監督が強盗団の一味として出演していた。ほんのお遊び気分なんだろうが、はやく新作撮って欲しいな。2004.2.1

マイケル・コリンズ
ニール・ジョーダン監督、リーアム・ニーソン、エイダン・クイン、ジュリア・ロバーツ、アラン・リックマン、ステイーブン・レイ、イアン・ハート出演
☆1918年頃、アイルランドがイギリスと闘っていた、という事実をよく知らなかったのでとても勉強になった。マイケル・コリンズは手荒な暗殺を繰り返すことで、イギリスからの独立を遂げるのだが、北アイルランドだけはイギリスに取られてしまう。現在も続いている北アイルランド問題やIRAの事情がよくわかった。
ジョーダン監督にしては、わかりやすくてとてもシンプルな作り。
戦うアイリッシュの姿は「ギャング・オブ・ニューヨーク」ともダブって見応えがあった。2003.5.10  

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